「どうして言われたこともできないんだよ!!」
センタースクエア全体に響くような怒号。どこかで聞いたようなその声に、全員がそちらの方へ顔を出した。ちょうど階下で、一人の男子生徒に詰め寄る者がいた。見目は多少変わっているが、全員が知っている人物だった。
「やっぱりスグリだ、すっごいニアミス……」
「スグリ!?」
「なんか雰囲気変わったな」
「(いや、知ってたけど)」
「シーッ!静かに!」
騒ぎ始める男どもを黙らせ、ブロックに身を潜めるように促す。全員がそれに従い、しばらく様子を見ることにした。
「試合用のポケモン、5匹は育ててって俺言ったよな?」
「ご、ごめん。今月は家の用事で忙しくて……」
「だったら、それならそうと事前にそう言ってくれよ。報連相もロクにできないわけ?おかげさまで俺、すっごい困ってるんだけど」
「ほ、本当にごめん!次は気をつけるから!」
「……次なんてない、お前は人の信用を裏切ったんだ。試合は別の人に頼む。お前には失望した。もう期待はしない」
「ス、スグリくん……」
「俺の友達が言ってたよ。『最初から気持ちで負けているような奴なんかに、勝利と栄光という未来を掴めるわけがねぇ』って。やるんなら本気でやってもらわなきゃ困るんだよ。できないならできないでそれは構わないけど、ちゃんとそうした意思表示もしてもらわなきゃ、こっちには伝わらないんだよ。
そういう意味では、お前なんて最初からやる気なんてなかったって言われたってしょうがないんだよ。誠意の欠片も感じられない……お前みたいな中途半端な奴の迷惑なんて、心底困るんだ。正直、庇いきれない」
そう言い残して立ち去ろうとするスグリ。男子生徒は必死にスグリに謝罪しているが、聞く耳はないとばかりに歩いていこうとする。
「スグリーッ!!」
だが、この場にはこの男がいた。身を隠していたブロックの上に立ち、大声を張り上げる男……そう、ホムラである。
「ホムラ……!?」
「とうっ!!」
ブロックからジャンプし、華麗に宙返りを披露しながらのスーパーヒーロー着地。思わず見とれてしまう程の完璧な所作である。
「……痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
「わわっ!ホ、ホムラ大丈夫!?」
ただし膝に悪い。普通に膝を痛めて蹲るホムラに、先程までの雰囲気なんぞ彼方に消し飛んだスグリが慌てて駆け寄った。なんとも締まらない男である。
「よ、よぉスグリ……げ、元気にしてたか……!」
「いや、そんなことよりホムラの方が心配なんだけど……」
「だ、大丈夫だ……たかが膝を強打しただけだ……」
「いや、十分アウトでしょ」
結局、痛みが引くまで安静にしてから、ようやくホムラは立ち上がりスグリと向き合った。
「いや、マジで久しぶりだな。元気してたか?」
「うん……!ホムラは……さっきまでは死にそうだったな」
「アレ、マジで痛いからな。なんというか……すげぇイメチェンしたな」
「か、形から入ろうかなって思って……変わるにしても、まずは見た目から変えていかないと、と」
「思い切り良すぎワロタ」
「や、やっぱし変……?」
「変じゃないさ。どんな時でもスグリはスグリ、だろ?」
「うん!」
と、ここで思わずホムラに抱きつくスグリ。ホムラも熱い抱擁を交わしつつ再会を喜んだ。……と、ここでスグリが先程の男子生徒のことを思い出したのか、一瞬で無表情に変わるとそちらを睨めつけた。
「なに?まだいたの?もうお前に用はないよ、さっさと帰って家の用事済ませれば?」
「うぅ……」
「……おい、君。ちょっとこま、彼のこと借りるよ。悪いね」
「あ、いや、その……し、失礼しますっ!」
ホムラの言葉でようやく決心がついたのか、男子生徒は早足にその場を去っていった。ホムラが視線に気付いてそちらを見ると、スグリが不満げに頬を膨らませていた。
「……ホムラ、やっぱ優しいな」
「そうか?そうだとして、反面お前は他人に厳しくなったな」
「自分にも厳しいよ。そうしてるつもり。……ところで、どうしてホムラがブルベリに?」
「交換留学ってやつだ。……続きは向こうで話すか。ここだと人目につく」
「うん、そうする」
ホムラはスグリを連れ立ってセンタースクエアを出て行った。……出る直前、ホムラは後方へ視線を送り、それからハンドサインをしていった。そうして二人がセンタースクエアを出て行ったのを見送ってから、残ったコウキ達はフィールドの中央に移動した。
「……ふぅー。行ったみたいだな、あいつら」
「スグリのやつ、随分と変わってたな。想像以上だ」
「……驚いたでしょ。スグ、見た目も性格もちょっと……変わっちゃって。林間学校終わってからかな、あれからなんか……」
「良くも悪くもってやつか?」
「うん……」
ゴウタの言葉を肯定し、俯くゼイユ。ゴウタも掛ける言葉を探していた、その時だ。
「なーんか、胸クソ悪いもん見ちまったなぁ」
「ゲッ」
「あん?」
横合いから声がかかり、その声を聞いたゼイユが露骨に嫌そうな顔をした。全員が振り返った先には、白髪に薄紫色のメッシュが入った特徴的な髪型をした少年が歩いて来ていた。
「おやおや?ゼイユに……見たことねえ顔ぶれ。……もしかすっと、そちらさん方が?例のワケありさん」
「チッ!めんどいのに見つかっちゃった」
「おいおい、紹介ぐらいしてくれよ」
「そんなダリィやつか?」
「処す?処す?」
「やめぃ、お前ら」
「それで?ゼイユ、彼はどちらさん?」
ボールを構えて物騒なことを言い出すボケ組をリュウセイが制し、その間にケンスケがゼイユに尋ねる。
「……これ、カキツバタ。いけすかない男。いちおう、ブルーベリー学園で一番強い……強かったやつ」
「ご紹介どうもー」
「こっちは一番大きいのがゴウタ、眼鏡がリュウセイ、チャラそうなのがコウキ、制服じゃないのがケンスケ。あと一人いるんだけど、いないから紹介は省くわね。交換留学で来てて、あたしの友達の……」
「スグリとも!友達なんだろぃ?アンタら」
「そうだぜ。……まぁ、一番の仲良しさんはスグリとすぐにどっか行ったけど」
「ほーん、やっぱそうかい!そいつはいいなあ!」
「(わざとらしい物言いだ、警戒しておこう)」
ケンスケの説明に納得の様子を見せるカキツバタ。ちなみにコウキは「チャラそう」と紹介されたことにショックを受けて打ちひしがれていた。それと、リュウセイはリュウセイでカキツバタに対して距離を置こうとしている。
「そいじゃ皆!オイラたちの部室に案内するぜぃ」
「は?なんでよ!」
いきなり部室への案内を買って出られたが、即座にゼイユが反応した。実際、脈絡がなさすぎてゴウタ達も疑問に感じていたほどだ。
「アンタら、まだ部活入ってないだろ?どっか部活入っときゃ学園も過ごしやすくなるし、おもしろそうなのは大歓迎!……ツバつけとかないとねぃ、ついてきな」
「ねえ、ちょっと!」
言うだけ言って、カキツバタはさっさと歩き出した。ゼイユがなにか言い出そうとしても、カキツバタは特に反応するつもりはないらしい。
「人振り回すやつ、ムカつく~!」
「もうこうなったらついていくしかないだろ」
「だな」
プリプリ怒りを露にするゼイユをなだめながら、一行はカキツバタの後を追ったのであった。
ようやく到着したリーグ部の部室。ゼイユはホムラと行動を共にするスグリが部室に来るのではないかと心配するが、カキツバタ曰く「しばらく部室にゃ来ねえ」とのことだ。
「改めまして、ここがリーグ部の部室だ!リーグ部を代表して歓迎するぜぃ」
「……リーグと聞くと、ポケモンリーグが思い浮かぶが、何か関係があるのか?」
「へへん、よくぞ聞いてくれましたリュウセイ!」
リュウセイの問いに対し、カキツバタは嬉しそうに反応を示した。やはり自分たちの部活道に興味を持ってもらえるのは、部員として喜ばしいことなのだろう。
そこから語られたのは、ブルベリーグという制度だ。ブルーベリー学園にはブルベリーグという、生徒間でのポケモンの強さを決めるランク制度がある。ランク上位を狙うために部員同士でポケモンを鍛え、勝ち負けを通して切磋琢磨する部活動……それがリーグ部だ。
カキツバタは「今はちょいと風向きが変わっている」という。その言葉で一同の脳裏をよぎったのは、さきほど見たスグリの姿だ。スグリがきっかけで、何かが変化したということだろう。
ブルベリーグも「リーグ」の名を冠する通り、ランク一位のチャンピオンと、二位~五位までの四天王がおり、カキツバタ、そしてドームでゼイユと話していた「おもしれー女」も四天王の一人らしい。
ゼイユもリーグ部所属だが、あまり顔を出すことはないようだ。しかもランク外らしい。
「あたしは学外活動で忙しくてリーグ戦やってないだけですー。強さ的には四天王なんて余裕で飛びこえてんだから」
「「「「え?」」」」
「……文句あるわけ?」
「「「「いえ、なにも」」」」
直前にノーガードじわれ戦法で全タテされた者のセリフとは思えず、つい聞き返してしまった。案の定、ゼイユに睨まれてしまい、即座に目を逸らす。
楽しそうな部活だ。ゴウタらへの好感触を感じ取ったのか、カキツバタは仮入部終了宣言をする。カキツバタ的には、ゴウタ達とはすでに仮仲間らしく、部室の自由な出入りと置いてあるものの使用許可までもらったのだ。
「あ、ちょっと待った。こっちにゃもう一人ツレがいるんだ、今からそいつを……」
「おじゃましまーす」
「お、噂をすれば影がさすってか」
コウキがホムラのことをカキツバタに教えようとしたところ、ちょうどホムラがリーグ部にやってきた。都合がいい、とコウキはホムラを手招きし、カキツバタの前に出した。
「ほい、こいつが最後の一人だ」
「おっ、そうか。オイラはカキツバタ、よろしくな」
「あんたがカキツバタか。俺はホムラだ、よろしく」
「ホムラ……?へぇ、それじゃあアンタがスグリの言ってた……」
「ん?俺のことを知ってるのか?」
「そりゃあもう。……耳にタコができるくらいにはな」
その時、カキツバタの表情に僅かに影が差したのを、リュウセイは見逃さなかった。
「おうおう、遠くイッシュ地方にまで俺の話が広まってんのか。……ん?誰が広めてんだ?」
「スグリだよ。一番の親友で、すっげぇ強いって自慢してまわってたぜ」
「ははは!そりゃあ、友達冥利に尽きるってもんだな」
「……だねぃ」
「……(カキツバタ……ホムラを見る目に仄暗いものを感じる。用心しとくか)」
そのスグリとさっきまで会っていたホムラからすれば照れくさいものだが、カキツバタはどこか不穏な気配をまとっている。それを感じ取ったリュウセイもまた、警戒心を一段階引き上げた。
その後も部室に置いてあるパソコンのこと、ブルーベリーレクリエーション(通称:ブルレク)で稼いだBPを投じて他の部活動を支援したり、お菓子食べ放題(カキツバタの食べ残し)と、様々な説明をしてもらった。
「いっぱい説明したら、腹減っちまった。オイラちょっくら食堂行ってくっから、正式に入部してえって腹ァくくったら、食堂デートしながら話そうぜぃ」
「デッ!?」
「んじゃなー」
終始マイペースに話を進めるカキツバタは、そのまま食堂へと向かってしまった。相変わらず掴みどころのない物言いに、ゼイユは最後までイライラしていた。
「もうー!あいつ!本当!何なのよ!!しかもデートとか……は?デートって何!?」
「ん?ゼイユってデートしたことない?あるいは知らない?」
「いや、意味は知ってるから!デ、デートの10や100、余裕でしてきたわ!!」
「(見栄張ったな)」
「(はいダウト~)」
「(嘘乙)」
もはや完全に勢いだけで喋ってることがバレバレであり、デートの回数なんてあからさまに嘘臭い。コウキとホムラとケンスケは内心でツッコミ、リュウセイは沈黙している。声に出さないのはせめてものの紳士心からだ。
「そ、そういうゴウタは知ってんの!?」
「知ってるよ。なんならデートもしたことあるし」
「えっ……」
どうせお前もやってないんだろうのつもりで聞いてみたら、まさかのデート経験者だったゴウタ。思わぬ返答に顔面蒼白になるゼイユだが、ゴウタはまるで気づかない。
「俺はそんなつもりじゃなかったんだけど……彼女が頻りに強調するんで、そういうことにしてたんだよ。まぁ、デートかデートじゃないかで言えば、傍から見たらデートだったんだろうな」
「……う、うそ……うそよ、そんな……」
「え、嘘じゃないが……ど、どうした?顔色悪いぞ……?」
「うぅ……うぅぅぅぅ……」
「え、え!?ゼイユ!?な、なんで泣いて……」
「うるさいうるさいうるさい……!」
急に目に涙を浮かべて震えるゼイユに、ゴウタはどうしたものかとてんやわんや。すると、ここで手に顎を当てて何か考えていたホムラが手をポン、と叩いた。
「ゴウタ、さっきの話って姪っ子ちゃんのことだよな?」
「え?あぁ、そうだが?」
「……え?は?姪……?」
「そうそう、ゴウタは二十歳以上年の離れた兄貴がいてな。その人、稼ぎもいいし甲斐性もあるから馬鹿みたいに嫁さんをたくさん娶って子供作ってんだよ。それで、さっき言ったのはゴウタと同い年で誕生日が少し後の姪っ子ちゃん。身内同士の買い出しだからデートじゃねえって、ゴウタがさんざん愚痴ってたのを思い出したぜ」
「あれ、この話ってホムラにしてたっけか?」
「俺も聞いたぞ」
「おっ、ケンスケもか。あっれー?話したのを俺が覚えていないんだが?」
おっかしーなー?なんて言いながらうんうん唸るゴウタ。記憶を探ることに夢中になっていたゴウタは、目の前で羞恥と憤怒で顔を真っ赤にするゼイユの存在に気がつかなかった。
「姪っ子なら姪っ子と……先にそう言いなさいよーッ!!」
「ぶべらっ!?」
ゼイユの張り手が顔面に直撃し、見事なトリプルアクセルを披露しながらゴウタはぶっ倒れた。
「……ごめん。やっぱここ、落ち着かない。ちょっとどっか場所変えるわよ」
「そうか、じゃあ俺らの中の誰かの部屋にしないか?どこにする?」
「………………ゴウタの部屋」
「(だいぶ悩んだな)オッケー、移動しよう。……オラッ、ゴウタ!いつまでも寝てんじゃねえ!」ヽ(#゚Д゚)ノ┌┛☆ゲシゲシ
「うげっ、ぐえっ。な、なんだ?」
その後、一行はゴウタの部屋へと移動する。部屋についてからは、ゼイユとゴウタはベッドに腰掛け、コウキはテーブル前の椅子に、ケンスケはベッドの脇にある椅子に座り、リュウセイは壁にもたれている。
ブルーベリー学園生はほとんどが寮生活を送っているらしく、その関係で寮の部屋はかなり充実しているようだ。アカデミーではオレンジクラスとグレープクラスに分かれており、寮の部屋の内容もクラスごとに異なる仕様だ。
「青いなぁ」
「まぁ、赤くはないよな」
「ブルーベリーだもん、そりゃ青いわよ。ゴウタ、今度あたしの部屋にも来ていいわよ」
「まじで?それじゃ、その時はよろしくな」
「おーい、ゼイユ。俺らは?」
「ゴウタ同伴なら特別に許してあげる」
「扱いの差よ……」
「それよりもゼイユ。わざわざ人目のつかないこの部屋に呼んだってことは、話したいこととかあったんじゃないのか?」
「そうだった!」
呼び出した以上は用があるんだろう?とリュウセイに促され、ゼイユは本来の目的を思い出した。
「アンタたちに話しとかなきゃいけないの!カキツバタとか……スグのこととか」
「じゃあ早速スグリについて教えてもらおうか。俺たちが知る限り、他人に対してああもきつく当たるのは少し想像がつかない。何があった?」
彼らは今一番気になっているスグリについて尋ねた。
彼らは一応この脳内シミュレーションを創造した祖龍から原作の大まかなストーリーや各キャラクターのパーソナルデータを聞いてはいるが、その中でもスグリに関しては「原作ほど荒れることはないだろう」と楽観視していた節があった。それだけに、スグリが原作と遜色ない荒れっぷりを披露したことに、少なからず戸惑っていたのだ。
「スグはね……さっき見たとおり。最近……怖いの。キタカミから戻ってきてから人が変わっちゃったみたい。毎日寝る間も惜しんでポケモン鍛えて勝負して……あの子、すっごく強くなったの。学園で一番強かったカキツバタを倒しちゃったし、今はリーグ部部長とブルベリーグのチャンピオンやってる。いそがしいんだろうねー、あたしとはあんまり話してくれなくなっちゃった!……ま!ただの反抗期だと思うけど!」
どうやら学園に戻ってからのスグリはバトルに対して超ストイックになっているようだ。片時も努力を怠らない姿勢は褒めてしかるべきだが、それはそれとして他者にあたりがきついのはどうにかしたほうがいいだろう。
最後は笑って「反抗期だ」なんて言ったゼイユだが、ゴウタがそっと頭を撫でるとその笑顔もすぐに崩れた。
「……心配だよな。変化すること、それ自体は悪いことじゃないが、それも方向性による問題だ。何かあったのだとしたら、ちゃんと話して欲しいよな、わかるよ。俺も甥っ子の些細な変化に気付けたが、本人が何も言わないからどうしたものかと悩んだもんだ。
こういう時はむしろ一歩引いちゃダメだぜ、ゼイユ。全力でぶつかっていけ!見捨てず、目を逸らさず、過去のスグリを追うんじゃなく今のスグリとしっかり向き合わなくちゃな。大丈夫、俺たちも一緒だ。な、ゼイユ?」
「……うん。ありがとう、ゴウタ……」
「どういたしまして」
「(甥っ子……それってたしか、十七番目だっけ?)」
「(小学校上がりたての子だったな)」
「(父親イジリによるイジメだっけか。あれって結局ゴウタが本人に黙ってボイレコ仕込んで証拠を掴んで、絶対音感持ちの十二番目の奥さん協力のもと犯人を特定し、そのまま一緒に学校へカチコミかけた話だよな?)」
「(ゴウタの兄貴は経済界のヤベー奴だからなぁ、影響力がハンパじゃないんよ)」
ゴウタがゼイユを慰める中、リュウセイとケンスケは過去に起こった事件についてヒソヒソと話している。ゴウタの前世は兄弟も同然の甥っ子姪っ子が沢山いた。その中の誰か一人に異常が起きればすぐに察することができるほど、ゴウタは彼らを可愛がっていた。その家族愛の対象は現在はスター団メンバーに向けられている。
「さっきまで一緒にいたホムラなら、すぐにわかったんじゃないかしら」
「あぁ、実にわかりやすかったぜ」
センタースクエアでスグリと一緒に行動をしたホムラは、その後スグリの部屋へと案内されたそうだ。スグリの部屋は質素倹約とした見た目だった。……壁中に貼り付けられた、バトル関係のメモ用紙を除けば。
メモの内容は対人関係に関する心理学、ポケモンの個体ごとに想定される戦術パターン、天気パを使用するうえでの立ち回りや選出順など、まさしく「戦闘狂」と呼べるほどのありさまであった。
そして、これら全てがホムラ達をリスペクトした上での行動だというのだ。
「いやー、すごかったぜスグリのやつ!まさにポケモンバトルに一生を捧げたって言っても過言じゃない本気度だったぜ。それに、俺に対してはいつもどおりというか、いつもより人懐こくなってたように見えたが……俺とそれ以外とで、だいぶ落差がすごかったな」
「センタースクエアでのやりとりを見るに、ホムラに対してはそれこそガーディもかくやとばかりだったが、それ以外の人物には一転して冷淡だったな……」
「ゼイユ、そこら辺のことは姉のお前から見てどう思う?」
「……確かに、スグリはホムラ達のバトルを研究してたと思う。あたしにも、キタカミで戦ったゴウタの手持ちとか戦術とか、しつこく聞いてきたくらいだし……」
しかも、スグリはそれだけで止まることはなく、勝負の後は常にディスカッションやデブリーフィングといった振り返りを要求しているらしい。どういう意図で技を選んだのか、発動タイミングは適切だったか、どんなバトル展開を想定していたかなど……とにかく振り返り、反省し、学び直し、検討し、再び実践する。ひたすらそれを繰り返す日々。
ここまで暴走しているとなると人心が離れていきそうなものだが、そこは事前に出来るか否かを本人確認した上で行っており、無理矢理や強要といった強引な手段は控えているらしいし、できないことを非難することもしない。そのため、今のスグリは「キツイけど相応の配慮をしてくれる」として一定の支持者がいるそうだ。
「なるほど……そりゃあ、変わったと言われてもしょうがないな」
「スグリね、少し変わっちゃったけど、あんたたちは……」
「驚くほど変わってないだろ?」
「むしろより鬼畜になってるわ」
「おいさっきのバトルのこと根に持ってんのか?」
「さてね~?……とにかく、あんたたちだけは前みたいに友達でいてあげて!」
「お前……あぁ、わかってる。もちろんさ」
「……ありがと!」
ゴウタが代表で返事をすると、ゼイユは再び笑顔に戻った。それから話はカキツバタについてになる。
「カキツバタ!あいつは信用しちゃダメよ!やる気なさそうに見えて裏で何考えてるかわかんない!本当にムカつくすっとこどっこいなの!授業もろくに出ないから3回も留年してるし!とにかくあいつには気ぃ許したらダメ!絶対よ!」
「ゼイユにそこまで言わせるとは、大したやつだなカキツバタ」
「いや、ゼイユの言葉も一理ある。……あいつ、どうもホムラに思う所があるようだ」
「でしょ!?」
「それだけじゃない。センタースクエアでゼイユと話していたあの女子生徒もだ」
「え、ネリネが?……全然そんな風には見えなかったけど」
「無表情だろうがのらりくらりしていようが、滲み出る心象までは誤魔化しきれん。特に俺はその手の敵意を常日頃から浴びせられてたからな、手に取るようにわかるんだ」
前世で天才兄妹と持て囃され、同世代から嫉妬と逆恨みの目を向けられていたリュウセイは、カキツバタとネリネからホムラに対する敵意に似た気配を感じ取ったのだという。カキツバタはともかくネリネまでそのように考えていたことが信じられないのか、ゼイユが目を丸くしていた。
「まぁ、完全な敵意というか……有り体に言えば『気に入らない』って感じか。敵愾心というほど強いものではないから、安心するといい」
「……ねぇ、ホムラ。あんた一体なにをしたわけ?」
「いや、何もしとらんが!?」
「とにかく、現時点では憶測の域を出ない。ホムラは念頭に置いておけ」
「お、おう……」
身に覚えのないことで敵意を向けられたホムラは困惑しきりだ。とにかく今はリュウセイのアドバイスに従い、不用意に距離を詰めないことに決めた。
「このあとカキツバタと食堂でー……会うんでしょ?」
「デートな、デート」
「わざわざ言うな!」
「あでっ!?いきなり殴るなよ!?」
「まったく……リュウセイの言う通りカキツバタが敵意を持ってるならついてってあげたいけど、今日中にレポートまとめないとヤバいのよね……」
「何やってんだお前、宿題残ってるならそっち優先しろよ」
「そ、それは!……だって、せっかくゴウタと会えたのに……ゴニョゴニョ……」
「どした?急に声が小さく……ははーん?さてはサボりか?悪い奴め」
「誰がサボりよ!!」
「いででで!?すんませんサボりは言い過ぎましたぁ!!」
いちいち一言が多いゴウタは度々ゼイユから制裁を食らっていた。そんな様子を遠い目で見守りながら、無性にブラックコーヒーが飲みたいコウキ達であった。
「リーグ部、あんたたちが入ってくれたら嬉しいけど……ふざけたこと言われたら噛み付いてやりなさい!」
「おう、頚動脈をぶっこ抜いてやるぜ」
「殺意高すぎィ!!」
物騒なことを言いながらも五人は部屋の前でゼイユと別れ、その足で食堂へと向かった。食堂に入ると向かって左側にカキツバタが座っており、目が合うと手を振ってくれた。
「よう、みんな。立ち話もなんだし座りなよ」
「おk」
カキツバタの両隣をリュウセイとホムラ、向かい側にコウキ、ゴウタ、ケンスケの順に座った。忠告した矢先にホムラがカキツバタの隣に座っているが、これはカキツバタが一番に席を誘導した相手がホムラだからだ。是非に隣へ、と言われれば断る理由がない以上座らざるを得ない。そこでリュウセイが間を挟んで座ることでもしもの時に備えているのだ。
余談だが、カキツバタのオススメは学園食堂で、柔らかいが故にさほど噛まずに食べられるのが利点らしい。
「ホムラ……いや、ホムラだけじゃない。アンタら全員、ポケモン強いだろ?」
「ふむ……さて、どうだろうな?世間は広いからな、俺らより強い奴はごまんといるだろ」
「またまた、とぼけちゃって!オイラにはわかる。その強さならブルベリーグのテッペン目指せるぜ」
「へぇ~」
「ふぅ~ん」
コウキもゴウタも生返事を返すだけで、ケンスケもなんと返そうか言葉を探っている。リュウセイは謙遜しているようでその実、拒絶の意思だ。ホムラは沈黙している。
「「「「「(こんな狭い世界で頂点獲ってもな)」」」」」
なんなら前世では世界レベルの人数相手にポケモンバトルを繰り広げていた五人だ。たかだか一学園の頂点に立つ程度のことではなんの感慨も浮かばない。この世界で言えば、全地方のポケモントレーナーと戦う……いわゆるポケモンWCSくらいの大規模大会でなければ『頂点』と言いたくはないのである。
決してブルベリーグを否定しているわけではない。ホムラ達が見据える『頂点』が、余りにも高すぎるだけなのだ。
「交換留学で来てるやつが学園で一番になったら、すげーおもしれえだろ?だから、皆にはブルベリーグに参加して欲しいのよ」
「だが、俺たちは外部の人間だぞ?そんな都合よく話が通るとは思えんが」
「大丈夫大丈夫、ツバっさんはブルベリーグのNo.2だぜ?うまいことまとめといてやるよ」
「(裏があるな、どう考えても)」
「(こんなやっすい煽てで話に乗っかると思われてんのは心外)」
ケンスケが教師として確認をすると、カキツバタは問題ないの一点張りだ。リュウセイとコウキはゼイユの言葉通りにカキツバタから胡散臭さを感じており、ホムラとゴウタもわかりにくものの胡乱げな様子だ。
「おっ、おいでなすった」
と、その時だ。カキツバタが食堂の入口に目線を向けたので、ホムラ達もそちらを見やる。そこにはちょうど四人の生徒が入ってきたところで、全員がカキツバタに目を向けている。
「(スグリ……)」
「(タロもいるな)」
「(ブルベリーグチャンピオンから四天王まで、雁首揃えて来やがったな)」
集まったメンバーを事前情報から改めて整理する。
ブルベリーグ四天王にしてランク五位、アカマツ。
ブルベリーグ四天王にしてランク四位、ネリネ。
ブルベリーグ四天王にしてランク三位、タロ。
ブルベリーグ四天王にしてランク二位、カキツバタ。
そしてブルベリーグチャンピオン、ランク一位……スグリ。
ここに、ブルベリーグトップ5が集結したのであった。
「カキツバタ……話って何?」
スグリが問う。その雰囲気はセンタースクエアで見せた冷淡無情のソレ。
「何もなにもさ、ここ食堂よ?一緒にメシでもどうよ、って誘っただけなんだがねぃ」
「……くだらない。そんなヒマあるなら、少しでもポケモン強くしたら?だから俺なんかに負けるんだよ。カキツバタ、お前は強いんだぞ?もっと真剣に取り組めば、あの時俺が勝てる可能性はもっと低かったかもしれないのに」
「やっべ、墓穴掘っちまった。こうなったチャンピオン様はなかなか小言が止まらないんだよねぃ」
「聞いてんの?」
「聞いてる聞いてる。まるで小姑みたいだよな、ホムラ」
「いや、控え目に言ってもお前の方に全面的に問題があるようにしか思えんが」
「うっそだろおい」
「え、ホムラ!?」
ここでようやく存在に気づいたのか、スグリがホムラに反応した。それから、ドタバタ駆け足で移動すると、後ろからホムラをあすなろ抱きした。
「いるならいるって言って」
「なはは、なんならここには俺以外のみんなもいるぞ」
「え?……あっ、リュウセイ!」
「今頃か……ちょっと淋しいぞ、スグリ」
「ご、ごめんって……コウキも、ゴウタも、ケンスケ先生も久しぶりだなぁ」
「おう、スグリ!強くなったんだってなぁ、お前とのバトルも楽しみだぜ!」
「機会があれば、一戦交えようぜ」
「本当に変わったよなぁ」
「へへ……みんなはちっとも変わってないべ」
久々に旧交を温め合う、いわゆるキタガミ組。ただ、突然のスグリの豹変にブルベリーグ四天王組は置いてけぼりをくっていた。
「わぁ……あのスグリくんがこんなに笑うなんて……」
「スグリの笑顔……久々に認識(なのに、なぜこのような複雑な心境に……)」
「いいねいいね!まるでフランベのような気分だ!」
「…………(やっぱりホムラか……コイツが……)」
それぞれ思うところがあるようだが、それはさておきカキツバタが話を戻す。
「オイラ達すっかり仲良しこよしでさぁ、ホムラ達にブルベリーグ参加してくれ~って誘ってたのよ!」
「おお!いいね、それ!燃えるじゃん!!」
「なっ……!?」
「他校の生徒のブルベリーグ参加……前例にありません」
「そ、そうだよ!たしかにホムラくんはすごかったけど、さすがに……」
「なんだよ、さみしいこと言いやがって!うちの授業受けて、うちの寮に部屋もあんだ!こりゃもう同じ学園の仲間だろ!?それに、うちは生徒の自主性が重んじられてる。……決を取ろうぜ」
どうやら四天王の間では賛否両論のようだ。校則や伝統という面で反対の意を示すのはタロとネリネ、反対に賛成したのは言いだしっぺのカキツバタとアカマツだ。こうなると、最終判断はスグリに委ねられることになる。
「はは、なんか悪いなみんな。俺らは別に参加できなくても……いてててて。ちょ、スグリ?締まってる締まってる」
ホムラはやんわりと場を和ませつつ断ろうかと考えていたところ、急にスグリが腕の力を強くしてきた。何事か、とホムラが振り返ると……なぜか目のハイライトが消えたスグリが真顔でホムラを見つめていた。
「ホムラ……勝負したべ、俺以外のヤツと……この学園で最初にホムラとバトルするの、俺だと思ってた……」
「(怖っ)」
「タロ……なんでホムラとバトルした?俺が、俺があれだけ勝ちたいって、そう言ってたのに、ホムラに、俺が、なのにお前……!!」
「えっ……あ、その……」
「だぁーっ!やめろスグリ!落ち着けぇ!バトルは俺が勝ったから!そもそもタロも俺も全然本気じゃなかったし!ただの交流試合だから!!」
徐々に凄みが増していき、その様相がタロを怯えさせるようになると咄嗟にホムラが間に入った。ただ、「ホムラが勝った」と聞いた直後、一瞬で目のハイライトも復活し凄みも消え、嬉しそうに笑うのであった。
「……へへへ、やっぱりそっかぁ。そりゃそうだ、ホムラは俺よりも強いべ。だから、俺より弱い奴なんかにホムラが負けるわけねぇんだ。ごめん、ホムラ、タロ。俺、うっかりしてた」
「あ、あはは……」
「(えっ、なに?なんで俺こんなプレッシャーかけられてんの?嘘だろスグリ……)」
スグリの中のホムラ像がどうなってるのか、聞くのがかえって怖すぎる。内心で震えながらも決して表には出さないようにホムラは必死に努めた。
「それじゃあ……って、聞くまでもねぇかもしれねえけど、ブルベリーグチャンピオンスグリさまはどうお考えで?」
「賛成。ホムラならきっと勝ち上がれるよ。俺、ホムラやリュウセイ達のバトルでいっぱい勉強したんだ。早くホムラとバトルしたい……だから……勝ち上がってな?」
「アッハイ」
スグリは賛成……これにより賛成3反対2となり、ホムラ達のブルベリーグ参戦が決定となった。なお、ケンスケは教員なので当然だが不参加だ。なのでブルベリーグに挑むのはホムラ、ゴウタ、コウキ、リュウセイの四人となる。
「よーし、ホムラが参加するなら、ポケモンを見直さないとだ……!」
やる気満々、喜色満面といった様子で食堂を去るスグリ。
「カキツバタ!そういうのよくないと思います!」
暗に「ホムラ達を出しにして賛成を取るな」と言い含め、早足に出ていくタロ。
「ホムラ……」
小さく、しかしはっきりとホムラの名を口にしつつ立ち去るネリネ。
「……?」
そして何も知らないアカマツ。
「悪いな、みんな。なんか流れでブルベリーグに参加してもらうってなっちまった」
「よく言うぜ!お前、参加させてやるぜ~って目が訴えてたぜ?」
「目は口ほどに物を言う、ってやつだな」
「ははは!こりゃ一本取られちまったねぃ。まぁでも、物は考えようさ!スグリとバトルするチャンス!?本人も熱望してたみたいだしな……なぁ、ホムラ?」
「まぁ、あそこまで期待されてちゃ、答えないほうが悪いよな。仕方ねぇ、ブルベリーグに参加するかぁ」
「そうと決まれば、正式にエントリーしなくちゃな。エントランスの受付に行こうぜぃ」
「あ、俺は念の為にシアノ校長へ確認を取ってくるわ。こういうときの教職だぜ?」
「おっ、そりゃありがてぇ。頼んだぜ、ケンスケせんせ」
ここでケンスケは別行動となり、シアノを探すべく校長室へ向かう。ホムラ達はエントランスへ向かい、受付に来ていた。
「へっへっへ、来たな!ここでエントリーすんだ」
「あのー、ブルベリーグに参加できるって聞いたんすけどー?」
促されるままにエントリーを進めようとするが、受付からは「留学中で正式なブルーベリー学園の生徒ではない」ことに疑念を抱かれてしまう。カキツバタもフォローするが、信憑性にかけるとして微妙な雰囲気だ。「やはり日頃の行いが……」とホムラ達の中での評価が僅かに下がった。
ケンスケを待てばその問題も解決するだろうが、それよりも先に声が掛かった。
「カキツバタの言うとおりだよ。ホムラ達のブルベリーグエントリーは、俺が認めた」
「おーい、シアノ校長から許可をもぎ取ってきたぜー」
スグリがカキツバタの発言をフォローするのと同時に、ケンスケが戻ってきた。どうやらシアノ校長もホムラ達のブルベリーグ参加を認めたらしい。
「チャンピオン!それに、シアノ校長がおっしゃるなら!少々お待ち下さいね」
「助け船たぁ、意外だな。……いや、そうでもないかな?」
「……コソコソと裏で糸引いてるみたいだけど、皆と……ホムラと戦えるのは俺にとっても望むところなんだよ」
「へっへっへ、そいつはよかった」
ニッコニコ笑顔のカキツバタだが、スグリはカキツバタなど眼中にないと言わんばかりに目を合わせようともしない。
「ホムラ、皆……必ず勝ち上がってきて。俺、みんなと戦うの本当に楽しみなんだ。全員でも、一人でも……早く戦いたい。でも、大丈夫だよね。皆、俺よりもずっと強いから、負けること無いだろうけど……でも、心配だな。あっ、俺もちゃんと強くなったべな。おかげで今やブルベリーグのチャンピオンだ」
えへん、と胸を張るスグリ。それからすぐに、真剣な表情に変わる。
「ブルベリーグの四天王は、俺ほどじゃないけどそれなりには強いよ。……まぁ、俺やねーちゃんを全タテするくらい強いみんななら、むしろ余裕かも……?大したことなかったらごめんな。カキツバタだってこんなんだけど、一応ブルーベリーじゃ二番目に強いから、期待はずれにはさせないはずだから。……カキツバタ」
「なんだい、チャンピオン」
ようやくカキツバタの方を見るスグリ……だが、その表情は一転して厳しいものに変わっていた。
「ホムラ達はみんな強いよ。……みんなの期待を裏切るようなバトルしたら、許さない」
「…………」
「俺の時みたいに、がっかりさせないようにしろ。全身全霊で、命懸けで戦え。死に物狂いで勝利を奪い取れ。可能性を指先ひとつ掠めることを許すな。最後までトレーナーとしての意地を貫き通せ。敗北を妥協する自分は捩じ伏せろ。立ちはだかる敵は全て薙ぎ倒せ。
四天王だとかそんなん関係ない……一人のトレーナーとして、心から満足できるバトルをしろ」
「……それは、チャンピオンとしての命令かい?」
「いや……ホムラ達の友達としての、お願いだ」
「スグ……」
ゼイユやカキツバタが、スグリの口から出た「友達」と「お願い」というワードに感心する中、先程から期待という名のプレッシャーをかけられまくりのホムラ達は冷や汗ダラダラ、心臓バックバクだったりする。この温度差どうにかならんのか、風邪引くぞ。
「それじゃ、みんな……けっぱれ!」
最後に満面の笑みでエールを送ると、そのまま歩いて行ってしまった。そんなスグリを見送ってから、ようやくゼイユは口を開いた。
「ごめん、みんな!スグ、ずっとあんな感じなの。最近、またよく笑うようになったかと思ったら……」
「チャンピオンさまはとっても友達思いでやんすからねぃ」
「カキツバタ!アンタ、みんなをブルベリーグにまきこんだでしょ!」
「いやいや、これ本人の意思よ?なぁ、ホムラ!?」
「そうだぜ、ゼイユ。(成り行きな上に断りにくい圧をかけられたけど最終決定は自分で下したので)本人の意思だぜ」
「……なんだろう、言葉の裏にめちゃくちゃ複雑な心境を感じるわ」
「気のせいっすよ」
そういうことにしておく。
「……なーんか怪しいけど……やるからにはがんばんなさい。あたしも応援してる。スグのこと……お願いね」
それだけ言い残して、ゼイユも立ち去る。ちょうどエントリーが完了したようで、受付から声をかけられた。どうやらホムラ達はブルベリーグに挑戦できるようだ。
さらに、本来なら一般生徒との勝負を勝ち上がる必要があるのだが、四天王のアカマツとカキツバタに加えてシアノからの推薦もあり、ランク上位……即ち、四天王にいきなり挑める状態からのスタートとのことだ。スマホロトムにも、四天王が拠点としている各スクエアの場所を登録してもらった。四天王の使用タイプも、祖龍からの事前情報に誤りはない。
ただ、一つだけ課題がある。それは四天王に挑戦するためにはブルレクで手に入るBPが必要とのことだ。……まぁ、四人もいればBP稼ぎは造作もなかろう。
四天王を全員倒せば、晴れてチャンピオン戦である。順番は任意とのことなので、せっかくだから下から勝ち上がっていくことにした。
「四天王と戦う前にゃあ、ちょっとしたお遊びもあっから、乞うご期待だぜぃ?さて、チャンピオンたってのお願いっつーことで……つまらねぇ勝負にならねーように、オイラも頑張らせてもらおうかねぃ。そいじゃドームで待ってるぜ、キョーダイ!」
カキツバタもドームの方へ移動し、残るは五人だけ。そこでようやく、ホムラ達が肩をグッと落とした。
「はぁ~……っべーよ、おいどーすんの?」
「俺らは化物かなんかかと思われてんのか……?」
「言われてみれば……心なしか、他の生徒からの視線に畏怖の念が込められているような」
「え、俺らってスグリのせいで『パルデアのヤベー奴ら』って思われてんの?」
「ま!ヤベーのはお前ら生徒であって、教師の俺は無関係だがな」
「いや、ヤベー奴らの引率を任されてるって十分ヤベーやつ認定されると思うんだが」
「うそやん……」
がっくりうなだれるケンスケだが、気にしすぎるのもよくはない。五人は改めてドームの方へ移動することを決めた。
「のんびりBP稼ぎつつ……」
「ポーラスクエアのチャレンジ用にポケモン確保!」
「図鑑は概ね、HOMEから送ってきて完成してるからな」
「じゃあ……他にやることといったら……」
「「「「とりあえず現地トレーナーを残らず狩るか」」」」
「ほどほどにしろよ~お前ら」
なお、その場で会話を聞いていたブルベリ生徒全員が顔面蒼白で身震いしながらこう思った。
ドーム内のみんな逃げて超逃げて、パルデアアカデミーのヤベー奴らやっぱ怖ぇ
第二話でした。
二日目は三・四話になると思います。一応下書きの文字数を見て、余りにも多いようなら区切りますので、その都度一話ずつ話が増えます。