ポケットモンスターHUNTER アルセウス   作:箱厨

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タロ戦、始まります。


年末年始特別編!ポケモンSV脳内シミュレーター 藍の円盤 第五話

「グランブル!エルフーン!」

 

「エンニュート!ブロロローム!」

 

タロが繰り出したグランブルとエルフーン、ホムラが繰り出したエンニュートとブロロロームが対面する。

 

「(むむ、ほのお・どくのエンニュートにはがね・どくのブロロロームですか。ホムラさん達は用意周到とのことなので、フェアリーが苦手なポケモンを全部予習しておいて良かった。……でも、ホムラさんのことだから、ただ弱点を突きに来たわけじゃなさそう)」

 

タイプ相性だけで言えば、タロが圧倒的に不利な盤面だ。だが、そこはフェアリー大好きっ子のタロ。はがねやどく、フェアリーを受けられるほのおなどの対策は万全だ。

場に出たグランブルが唸り声を上げている。特性いかくによって、相手のポケモンの攻撃力を一段階下げることで物理耐性を実質上げるという寸法だ。

 

「ふふん、グランブルのいかくで攻撃力ダウンです!」

 

「うん、戻ってこいブロロローム」

 

「ふぇ?」

 

「いけ、ハッサム!」

 

いかくを受けた直後、ブロロロームがホムラのボールに戻っていき、そのままハッサムに入れ替わる。

 

「さあ、戦闘開始だ」

 

「え、なんで……」

 

「ブロロロームにだっしゅつパックを持たせていたのさ。フェアリータイプのポケモンは全世界津々浦々網羅してるんでね。特にグランブルはチャレンジのクイズに出てきたくらいだ、使わないはずがないと信じてたからな」

 

「で、でも勝負はこれから始まりますから!グランブル、ハッサムにほのおのパンチ!エルフーンはひかりのかべ!」

 

「エンニュート、ヘドロウェーブ!」

 

エルフーンが最速で行動し、ひかりのかべを張った。その後グランブルがハッサムにほのおのパンチで殴りかかるも、ハッサムの前に出たエンニュートが放ったヘドロウェーブに飲み込まれた。エルフーンも同様に飲み込まれるも、きあいのタスキを持たせていたためにかろうじて生き残った。

 

「な、なんて威力……でも、エルフーンはなんとか――」

 

「あ、やっぱタスキ持ってたのかラッキー!ハッサム、エルフーンにかわらわり!」

 

「えっ!?」

 

ヘドロウェーブを突っ切ってきたハッサムがかわらわりを繰り出し、ひかりのかべごと体力僅かなエルフーンにトドメを刺す。タロは慌ててグランブルとエルフーンをボールに戻し、次に繰り出すポケモンを選び始める。

 

「エルフーンといえばいたずらごころ、いたずらごころといえば変化技。エルフーンの役割はサポートメインだし、壁張るか種撒くか風吹かすか身代わり置くかぐらいだろ?やどみがまもの害悪型じゃなくてよかった」

 

「(よ、読まれてる~!?)」

 

ホムラの言う通り、タロはエルフーンにひかりのかべとおいかぜを使わせるつもりでいたし、そのための特性いたずらごころだった。だが、エルフーンの運用法はホムラも把握済みだし、なにより『やどみがまも』とかいう『害悪型』まで知っている。エルフーンが出てきた時点で考えうる全ての型を想起し、隣に立つグランブルを見てある程度の技の絞込みを終え、即行動に移したのだ。

 

「(わ、わたしのエルフーンの役割バレちゃってる!?グランブルのいかくもだっしゅつパックで入れ替わっちゃったから意味なくなっちゃったし、エルフーンのひかりのかべもいたずらごころが仇になっちゃった……。なるほど、スグリくんの言うとおりだ……ホムラさん、すごく強い!!)」

 

相手のポケモンを見るだけで戦術を見破り、自分が繰り出したポケモンを見返し戦術を破る算段を立てる。バトル重視を謳うブルーベリー学園以上にバトルに精通した知識、先見の明、勝利のための入念な準備。絶対に勝利を逃さないとばかりに、ホムラはタロを攻め立てる。

 

「でも、私だって負けませんから!アシレーヌ!ヤドラン!」

 

タロが繰り出したのはエンニュート対策のアシレーヌ、同じくエンニュートに強くかえんほうしゃではがね対策もばっちりのガラルヤドランだ。

 

「お~クイックドロウのガラルヤドランか。あれ、面倒くさいんだよなぁ」

 

「ふっふっふ、ではその面倒くささで、存分に苦しめてあげますよ!アシレーヌ、ハイパーボイス!ヤドランはハッサムにかえんほうしゃ!!」

 

特性クイックドロウは、いわゆる特性版せんせいのツメ。たまにだが先手を取ることができ、運が悪いと常に先手を取られ続けることなんてザラにある。

 

「アシレーヌはうるおいボイスか!だが、判断が甘い!」

 

しかしそこはホムラ。エンニュートには持ち物きゅうこんを持たせているため、アシレーヌのみずタイプとなったハイパーボイスを受けたことで特攻が一段階強化された。さらにホムラはテラスタルオーブを構えると、迷わずそれをハッサムに投げた。結晶に包まれたハッサムは、あくテラスへとテラスタルしたのであった。

 

「あくタイプへのテラスタル!?」

 

「フェアリー使いのタロ相手にゃ悪手に見えるか?だがな、この場ではこれが最適解だ」

 

しっかり鍛え上げられたポケモン達は弱点を突かれながらも攻撃を耐え抜いた。特にハッサムはテラスタルによってタイプが変わり、それによってかえんほうしゃをものともしていない。

 

「よっしゃ、反撃だぜ!!ハッサム、ヤドランにはたきおとす!エンニュートはアシレーヌにヘドロばくだんだ!」

 

「アシレーヌ、ムーンフォース!ヤドランはシェルアームズで迎撃を!」

 

フィールドを縦横無尽に駆け回り、ヘドロばくだんとムーンフォースの撃ち合いを演じるエンニュートとアシレーヌ。ヤドランは再びクイックドロウが発動し、ハッサムが接近するよりも早くシェルアームズで攻撃した。まともに攻撃を受けたハッサムだが、そのままの勢いでシェルアームズを突破して一気にヤドランへ肉薄し、あくテラスで強化されたはたきおとすが炸裂した。

 

「ヤドラン!」

 

持ち物にオボンのみを持っていたヤドランに対してはたきおとすは威力が倍になる。あくテラスによるブーストも相まって、ヤドランは一撃で倒されてしまった。

 

「戻って、ヤドラン。マホイップ、お願い!」

 

タロの五番手はマホイップ。特殊アタッカー、物理耐久、ダブルサポートなど役割の範囲が広いポケモンだ。作者の剣盾旅パポケでもある。

 

「(ハッサムの残り体力も残り少ないはず……ここは確実に一匹倒しておきたいかも。とんぼがえりで逃げられそうな気もするけど、プレッシャーは与えられるかな)」

 

「(ダブルでマホイップとくれば、確実にデコレーションの技があるな。耐久寄りならとける……は、ないとしてもじこさいせいくらいは積んでそうだ。んー……じゃああいつに任せるか)」

 

「マホイップ、デコレーション!アシレーヌ、ハイパーボイス!」

 

「ハッサム、とんぼがえり!エンニュートはヘドロウェーブで身を守れ!」

 

「(攻撃技を防御に転用する!?しかもハッサムは予想通りに逃げてった!)」

 

「替われ、デカヌチャン!」

 

とんぼがえりで控えに戻ったハッサムに代わり、飛び出したのはデカヌチャン。はがねタイプであるため、エンニュートのヘドロウェーブによる巻き添えは効かない。さらに飛び出したデカヌチャンは異様に力がみなぎっているようだ。その勢いでエンニュートの前に出ると、迫り来るハイパーボイスをハンマーのひと振りで消し飛ばしてしまった。

 

「ものまねハーブ搭載型デカヌチャンだ、そっちのアシレーヌのバフをパクらせてもらったぜ」

 

「なんてこと……!」

 

「デカヌチャン!ハンマーでエンニュートを空高く打ち上げろ!」

 

デカヌチャンがハンマーを構え、その上にエンニュートが飛び乗ると同時に全力で振り上げ、空高く打ち上げた。

 

「……っ!アシレーヌ、エンニュートにハイパーボイス!マホイップはデカヌチャンにみわくのボイス!」

 

「それは困るなぁ!デカヌチャン、アシレーヌにさきおくりだ!」

 

「そ、そんな技まで!?」

 

「さぁエンニュート!アシレーヌにヘドロばくだんだ!」

 

さきおくりは、技を受けたポケモンの行動順を強制的に一番最後にする技だ。これにより、アシレーヌはほかの三匹全員が行動を終えるまで動けなくなる。まずデカヌチャンがアシレーヌにさきおくりを決め、次にマホイップのみわくのボイスがデカヌチャンに命中する。そしてエンニュートのヘドロばくだんがアシレーヌに降り注ぎ、戦闘不能へと追いやった。

 

「アシレーヌ……!」

 

「最後の一匹……多分だがドリュウズか?最初のバトルでも使ってたよな」

 

「ご名答です、ホムラさん!ドリュウズ!!」

 

アシレーヌが倒れ、残るはマホイップと切り札であるドリュウズのみ。それでも、タロの目に諦念の色はない。むしろこれからだとばかりに、滾りに燃えていた。

 

「(熱い……体が、心が燃えているみたい!ホムラさんはずっとこんな風に戦ってきたのかな……。勝ちたいって、負けたくないって想い……そしてなにより、バトルを楽しみたいって想いがポケモン達を通して伝わって来る!わたしもなんだかドキドキしてきちゃった……今、彼とのバトルがすごく楽しい!)」

 

追い詰められても焦りはない……それどころか、ピンチすら楽しいと感じている。四天王として勝たなければならない立場に居るにも関わらず、そんなことすら忘れてしまうくらいにバトルが楽しい。あらゆる柵から解き放たれ、タロの心は自由になっていた。

 

「行くよ、ドリュウズ!テラスタルハートに注目!もーっとかわいくなーれー!」

 

そして、タロは楽しい心そのままにドリュウズをフェアリーテラスへとテラスタルさせる。タロの想いと通じ合っているのか、ドリュウズも好戦的な笑みを浮かべている。

 

「勝負はまだこれからですよ、ホムラくん!」

 

「おう!行くぜ、タロ!!エンニュート、ヘドロウェーブ!デカヌチャンはつるぎのまいだ!」

 

「ドリュウズ、エンニュートに10まんばりき!マホイップはデコレーション!」

 

マホイップのデコレーションによってドリュウズの攻撃・特攻が上昇し、その勢いでエンニュートのヘドロウェーブを力技で突破し叩き伏せた。タロはすかさず指示を飛ばす。

 

「戦闘不能か!戻れ、エンニュート!行け、ブロロローム!」

 

「マホイップ、デカヌチャンにみわくのボイス!」

 

エンニュートを戻し、次に繰り出したのはブロロロームだ。その間につるぎのまいを終えたデカヌチャンに、マホイップのみわくのボイスが命中する。みわくのボイスは能力が上がった直後の相手を混乱させる効果を持っているが……。

 

「……!混乱しない!!」

 

「悪いな、俺のデカヌチャンはマイペースなんだ!デカハンマー!!」

 

ホムラのデカヌチャンはいかく対策で特性をマイペースにしていた。本来の目的とは少々ずれたが、思わぬところで功を奏した瞬間であった。攻撃力が四段階上昇したデカハンマーの威力は凄まじく、一撃でマホイップを倒した。

 

「マホイップが!」

 

「これで強化はできねえな!」

 

「でも、わたしのドリュウズは強くて可愛くて最強なんだから!ドリュウズ、10まんばりき!」

 

「ブロロローム、でんじふゆうだ!デカヌチャン、乗れ!!」

 

デカヌチャンはハンマーを空高く放り投げると、ドリュウズの10まんばりきを避けてでんじふゆうで空を移動するブロロロームに乗り込んだ。そのまま大きく旋回しつつ、再びドリュウズに突撃する。

 

「ホイールスピン!!」

 

「ひきつけて……10まんばりき!」

 

ホイールスピンと10まんばりきが激突し、爆発が起こる。煙が晴れた先ではブロロロームが戦闘不能になり、ドリュウズはかろうじて立っていた。ドリュウズが無事であることに安堵するタロ……だが、直後にあることに気づいて目を見開いた。

 

「デカヌチャンがいない!?」

 

「上から来るぞ、気をつけろ!」

 

「え!?」

 

「デカヌチャン、デカハンマー!!」

 

デカハンマーは一度使用すると再使用にインターバルを要求する技。ブロロロームに乗り込み避難し、技がぶつかる直前に跳躍して落ちてくるハンマーをキャッチしている間に、インターバルは既に終了している。

高高度からの、全力の振り下ろし。気がついたときには既に眼前に迫っており、ドリュウズは避けることもできず直撃した。これによりドリュウズは戦闘不能、決着がついた。

 

「くやしい……けど、かわいい」

 

「対戦ありがとうございました!」

 

バトルが終了し、お互いにポケモンをボールに戻す。すると、タロがすぐにホムラの下へ駆け寄ってきた。

 

「ホムラくんホムラくん!わたしたちのポケモン、戦ってたの見ましたー!?もう本っ当、かわいかったですよね!!」

 

「あぁ、かわいかった。ばっちり決まってたよな!」

 

「うふふっ!ですよねえ!後ろから見てるとあの子たち、お尻がとってもキュートで……」

 

「だよなぁ。背筋伸ばして体張って、一生懸命に闘ってくれる姿、サイコーだ!」

 

「ホムラくんのポケモンたちも、とってもとーってもかわいかったです。……なんだかわたし達、とことんまで気が合いそうですね」

 

「みたいだな。タロと友達になれて、俺すっごく嬉しいよ!」

 

「わたしもです!」

 

そう言ってからタロは少しばかり俯き沈黙した。その様子が気がかりになったのか、ホムラはタロの顔を覗き込む。

 

「どうしたんだ、タロ?」

 

「あっ……いえ、その……」

 

「言い淀むなんて珍しいな。なにがそんなに気になるんだ?」

 

「……スグリくんのことで、少し」

 

言いながら、タロはチラリとホムラを見やる。

 

「ホムラくん……後で少し、話せませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後。コウキ達の四天王戦を終えたあと、ホムラはタロに呼び出されてスクエア裏にある浜辺に来ていた。先に待っているタロと合流したあと、砂浜に腰を下ろした。

 

「急にごめんなさい、ホムラくん」

 

「いいよいいよ。それで、スグリのことだっけ?」

 

「うん」

 

スグリが頻りに口に出していた人物、ホムラ。エントランスで初めて出会った時もそうだが、普段の様子からしてあのスグリが豹変するほどの影響を与えるような人物だとは思えなかった。だが、二度のバトルを経て、タロが胸に抱くその認識も変わりつつある。

スグリから話を聞いたときは、どこか怖い人物だと感じた。あの大人しく優しいスグリが自他ともに厳しくなり、バトルにはシビアでそれ以外ではいつも特定人物の話ばかりする。まるでそれ以外に興味など欠片もないようなスグリの様子に、カキツバタとネリネが『スグリを変えた元凶』としてホムラを煙たがっていた。だから、エントランスでホムラを見たとき、本当にびっくりしたのをタロはよく覚えている。自身の想像とは真逆の人物像だったのもそうだが、特に驚いたのはバトル中の所作だ。

だって、あまりにも楽しそうだったのだ。相手のポケモンを容赦なく蹴散らし、遠慮なく叩きのめし、勝利に近づくのではなく自ら手繰り寄せるようなバトルタクティクス。それなのに、本人には悪意も何もない。ただ、心の底からポケモンバトルを楽しみたがっているのだ。ポケモンバトルが、大好きなのだ。

可愛いもの好きが高じて四天王になった、タロと同じように。ただ大好きなものに情熱を注いでいるのだ。そして……スグリは、その熱意に焼かれてしまったのだ。飛び火した、と言ってもいい。

 

「スグリかぁー……あいつはなんていうか、ちょっと方向性は変だけど成長したよな。キタカミでアイツと戦ったことあるし、なんならバトル以外でも交流してたし。違いは如実に、って感じだ」

 

「……スグリくんは、きっとホムラくんのおかげで変われたんですよ。それがいいことなのか悪いことなのか、ちょっとわからないけれど……」

 

「ふむ……スグリのことはわかった。それじゃ、次はタロの番だな」

 

「え?」

 

「言いたいことがある、って顔してる」

 

頬にのの字を描きながらホムラはニッ、と笑う。呆気にとられながらも、次の瞬間には吹き出し、タロは口を開いた。

 

「あはは……!ホムラくんって、なんでもお見通しだったりするんですか?……実はわたしも、ちょっとした悩みがありまして。といっても、もう昔のことなので今となっては些細なことなんですが……ぜひ、ホムラくんには聞いて欲しくて」

 

「聞くよ」

 

「ありがとうございます。……わたし、可愛いものが大好きなんです。でも、ブルーベリーに入学したての頃はあまりそのことを理解してもらえなくて、苦しい時期があったんです。わたしが可愛いって思ったものが、他の人にはそうと受け取ってもらえなかったり……」

 

「グランブルか」

 

「わかっちゃいます?」

 

「タロの手持ちはもう記憶してるからな」

 

グランブルは強面に反して臆病かつ繊細で、その外見と内面のギャップが女性に人気である。そうと知らなければ顔の厳つい犬ポケモンということもあって、グランブルが生息しない地方出身の一部の者からは敬遠されることもあったそうだ。人の第一印象は見た目からとは言うが、それはポケモンの例外ではないらしい。

他には、ドリュウズ。ドリュウズは大半の者が「かっこいい」と言うだろうし、ホムラ達も可愛いかかっこいいかで言えば断然「かっこいい」と言う。そういった価値観の相違に悩んでいた時期もあったのだと、タロは言う。

 

「いいじゃんか、タロが好きで極めてるんだろ?好きこそ物の上手なれって言葉があるように、タロは今のままでも十分オッケーだぜ?ブルベリーグ四天王になれるくらいだから、その道は間違っちゃないよ」

 

「……うん。ありがとうございます、ホムラくん」

 

「あー、でも俺にもそういう時期あったなー。ガキの時分にゃ、『お前とバトルするの息苦しいよ』って言われたことあったし」

 

「えっ!?」

 

それは、余りにも意外すぎる話だった。楽しそうにバトルをするホムラにつられるように、タロ自身もポケモンバトルを楽しむようになっていた。消極的だったスグリがバトルに本腰を入れるようになるほどの影響力を与えるほどのホムラが、避けられていたなど。

 

「齢一桁の頃の俺なんてプライドの塊みたいなもんでさ、負けるのは死ぬほど嫌だし何が何でも勝ちたいしやるんなら本気でやりたいしで、クソみてぇなガキだったんだ。そうやって何事も全身全霊全力全開って感じで頑張りまくってたら……なんか、ダチがいないなった。

今にして思えば、あいつらはただバトルを楽しみたいだけだったんだよな。勝つだの負けるだの、そこまでガチ勢になるほどの熱意はなかったんだ。だから、俺という焔に焼かれる前に離れた。賢明な判断だ、人は元来より火を恐れるものだからな」

 

「そんな……」

 

「だからだよ。コウキ達と出会えて、本気で話し合えて、本気でバトル出来る奴に出会えた時、俺は運命だと思ったね。『一生分の運を使い果たしたぞ』ってあの時本気で思った。あいつらと本気でバトルして、本気で話し合って……充実してるって自覚できた。念願叶ってリア充だ」

 

共感できる同士がおらず孤立した幼少期、それが今ではマブダチ四人に幼馴染一人と周囲に恵まれている。ホムラはこれ以上ない幸福だと、本気で感じていた。

 

「だから、タロが思う可愛いも、その守備範囲の広さもわかってくれる人はいるよ。タロを認めてくれる人だっているんだ、胸張っていいと思うぜ。……あ、できればそのわかってくれる人に俺も入れてくれると嬉しいな!」

 

「……ふふっ。ホムラくんはもう、十分すぎるくらい入ってますよ」

 

「マジで?ラッキー!」

 

「(むしろお礼を言いたいくらいだもん……)」

 

タロは静かに目を閉じて、ホムラの言葉を噛み締める。一方、ふと何かを思い出したホムラはタロの耳元にそっと顔を寄せた。

 

「……悪い。今の話、誰にも言ってないんだ。だから、ふたりだけ秘密ってことでひとつ頼めないか?」

 

「ひゃっ」

 

少し意識を外していたところへ来ての不意打ち。全くの無意識下での囁き攻撃に、タロは小さく声を上げた。慌てて振り返れば、いたずらっぽく笑うホムラが。

 

「ふ、二人だけ……?」

 

「そう、俺とタロだけの。小せぇ頃の悩みなんて、そうそう言えるもんじゃないしな。でも、不思議とタロには言ってもいいかなって思えたんだ」

 

「ふぇ……」

 

「俺……タロと友達になれて、良かった。ありがとう」

 

「////」

 

学園内でアイドル的な扱いを受けたり、日頃から周囲より「可愛い」と評価されたりと、タロ自身は下心で言い寄る無粋な男子を追い払ったりあしらったりする術は自然と身についた。だが、ホムラのように下心0%純心100%でグイグイくる男子との接し方などとんと知らぬ。まるで寒い冬空の下で自ら温めに走って寄ってくる焚き火のようだ。

 

「方向性は違うかもしれないけどさ、同じ好きなものに全力になれる者同士だ。末永いお付き合いの程、よろしく頼むぜ」

 

「すっ!?(す、末永いお付き合い……って、それって!?)」

 

「よーし、俺とタロは今日からマブダチだー!!」

 

「……へっ?」

 

「え?」

 

思わずホムラの言葉の意図を勘ぐった直後の、このホムラの発言である。お前まじでいいかげんにしろよ。

 

「……あれ?もしかしてマブダチだと思ってたの俺だけ……?」

 

「えっ!?あ、ううん!!全然そんなことないよ!わ、わたしも!わたしも思ってたから!!」

 

「おっ?なんだよー、聞き返されたからてっきり俺の勘違いかと思ったじゃねーかよ。いやー、安心した!!」

 

「そ、そっかぁ……(こっちはさっきからドキドキしっぱなしなのに……)」

 

「あ、メルアド交換しようぜ。友達の印だ」

 

「うん」

 

お近づきの印のアドレス交換も終えて、ホムラはよしっ、と立ち上がった。

 

「さて、そろそろ次のスクエアにでも行くかね」

 

「次はカキツバタだっけ……頑張ってね、ホムラくん」

 

「任せろ!……と、言いたいところだが、もう結構な時間だな」

 

「あ……」

 

全員がタロとの勝負を終えた頃には日が沈みかけており、こうしてタロの話を聞いたあとの今ではすっかり夜である。時間帯的にも夕食時で、ちょうどいい時間である。

 

「さすがに四人ぞろぞろ連れ立って、一人ずつ挑んだらこうなるか」

 

「すっかり日が沈んじゃったね」

 

「まぁ、何も今日中である必要はなかろうさ。カキツバタにはまた明日挑むことにするよ」

 

「うん。ホムラくん、頑張ってね。できればカキツバタにも一言言ってもらえたらありがたいかな」

 

「いやー、何をするにしてもまずはバトルしなくちゃな!」

 

ホムラとタロは揃ってスクエアの入口に向かう。コウキ達を待たせるのも悪いので、なるべく早足で。入口に到着すると、カキツバタがちょうどいた。

 

「おーす、未来のチャンピオン。揃いも揃って、もう四天王倒したのが三人目たあ、すげえ飛び越えて怖えよ!」

 

「これで少しはパルデアの面目も守れたかね」

 

「パルデア、スゲエな。お前らみたいなのがウジャウジャいるのか?」

 

「いや、あそこまでぶっ壊れてんのはあいつらくらいだぞ」

 

「おめぇもだろうが、ケンスケ」

 

「教師に"おめぇ"言うな」

 

「……にしても、ふーん?」

 

「なんだよ、カキツバタ」

 

突然、カキツバタがホムラとタロを交互に見やると、意味ありげに口角を吊り上げた。なんのことかさっぱり分からず、ホムラもタロも首を傾げた。

 

「いーや?随分と仲良くなったみたいだな、タロ。……手、繋がってんぞ」

 

「「え?」」

 

言われてみれば、ホムラもタロもお互いに片手が何かに塞がれているような、と思いつつ視線を下ろすと……がっつり手を繋いでいた。

 

「わあぁぁ!?」

 

「うわっ、と。悪い、タロ」

 

「あ、ううん!全然、全然!!」

 

「おーおー、お熱いねお二人さん!もしかして付き合い始めたのか?」

 

「カ、カキツバタッ!!そ、そういうの!よくないとっ!思いっ!ますっ!!」

 

カキツバタの指摘にゼンリョクポーズのような勢いで×を作るタロ。顔は真っ赤だし態度もしどろもどろだしで、カキツバタはもうただただ笑うだけだ。

 

「そんな露骨にしてると、かえって分かりやすぜぃ?」

 

「うううううう!!」

 

「それで?肝心のホムラはどうなんだい?」

 

「あぁ、たしかにタロとは付き合い始めたぜ」

 

「おぉ!!」

 

「ホ、ホムラくんんんん!?」

 

「何をそんな慌ててんだよタロ?別に友達付き合いの一つ二つ、初めてじゃないだろ?」

 

「「…………」」

 

その時、コーストスクエア中の空気がぜったいれいどのように凍りついた。カキツバタは「こいつマジかよ」と言わんばかりの顔で、タロはホムラの言葉をゆっくりと理解して早とちりしたことへの羞恥の顔で、コウキ達は「またコイツ何かやっちゃいましたな」と呆れ顔で。

 

「……ん?なんだこの空気」

 

「……えーっと……?オイラの聞き間違いか……?友達?」

 

「そう、友達。見ろ、タロとアドレス交換したぞ。これでタロとも縁ができた」

 

「……付き合っては?」

 

「ねぇよ。俺なんてバトル以外なんの取り柄もないぞ。タロのようなしっかりもので周りのこともよく見てくれて、ちゃらんぽらんなお前にも声掛けてくれるしあんぽんたんな俺とだって友達になってくれるこんないい女に俺を押し付けるとか頭ラリってんのか?」

 

「(いや、頭おかしいのお前じゃね?)」

 

だいたいなー、と謎の高説を垂れるホムラ。それが嘘偽りない本心からの言葉であることを理解してしまったがゆえに理解を拒みたい気持ちに駆られるカキツバタ……そんな彼の肩に、そっと手が置かれた。

振り返った先には、悟り顔のコウキ達の姿があった。そして、彼らは一斉に首を振った。

 

――すまない、ホムラがクソ鈍感野郎ですまない。

 

――おk、把握した。

 

一瞬で交わされたアイコンタクト、それですべてを察したカキツバタであった。

 

「あー、すまん。オイラの勘違いだった」

 

「そう言ってんだろうが。まったく、お前も案外そそっかしいやつだな、カキツバタ」

 

「(やっべ、今のホムラぶん殴りてぇって思った)」

 

「(抑えるんだ、カキツバタ。殴りたいのは俺たちもだから)」

 

「そうだ、カキツバタ。もうこんな時間だし、お前への挑戦は明日に回すわ。構わんか?」

 

「あ……?あぁ、そうだな。オイラもちょうど腹が減ってきたところだ。さすがに四人全員で一人ずつは時間がかかるねぃ」

 

「すまんな。けど、その代わりに明日で全てを決めてやるさ」

 

「おっ、言うねぇ」

 

なんとか話題をリーグ戦の話に戻せたところで、ホムラは改めてカキツバタに宣戦布告をする。カキツバタも乗り気だ。

 

「……まぁ、その前に」

 

「腹ごしらえ、そんで今日の対戦内容について会議だな」

 

「よし、それじゃ……おーい、タロ?戻ってこーい」

 

話がまとまったところで、早速移動を開始する。途中、トリップしていたタロを呼び戻してから一同は校内へ足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

リーグ部の部室でアカマツ飯を堪能する一行。今度はゼイユも同席している。前回ハブられたのを気にしているのか、ネチネチとゴウタの脇腹を突っついていた。

そんな時、コウキがおもむろに口を開いた。

 

「それにしても……こうして見ると、みんなちゃんとバトルが上手いんだなぁって思うよ」

 

「どういう意味?」

 

コウキの言葉にアカマツが首を傾げる。コウキは人差し指を立てるとまずはアカマツを指し、そのままネリネの方へ。さらにネリネからタロ、タロからカキツバタへと順に指をさした。

 

「考えてみな?アカマツのほのおはネリネのはがねに強く、ネリネのはがねはタロのフェアリーに強い。そしてタロのフェアリーはカキツバタのドラゴンに強い。なのに実際の順位は上からカキツバタ、タロ、ネリネ、アカマツだ。表面上のタイプ相性なら順位が逆転しそうなものだが、自分が苦手なタイプの相手に上の順位を取れるってのは本当にすごいと思うぜ」

 

「あー……考えたことなかったなぁ。オレ、ネリネ先輩には勝てないし」

 

「ネリネもタロに対する勝率は芳しくないです」

 

「わたしもカキツバタにはまったく勝てないんですよねぇ」

 

「これでも実力のほどは自信があってねぃ。苦手なタイプってだけで負けてちゃ、ブルベリーグでトップなんて張れないさ」

 

「みんな、自分が扱うポケモンの得手不得手をわかってるからな」

 

タイプ相性だけで容易に変動する順位なら、今頃四天王のランクは逆転しているかもしれない。しかし、苦手なタイプの使い手を相手に上位に立てるということは、トレーナーの戦い方が上手いということだ。

 

「いや、オレ、ホムラ達みんなを相手にほとんど何もできなかったんだけど」

 

「ネリネの策も、悉くを潰されました。完敗です」

 

「わたしもやりたいこと全部見破られたし、もうお手上げ状態でした」

 

「……改めてヤベェな、パルデア。とんでもなく強いじゃんかよ」

 

「アタシ達だってほとんど手も足も出なかったのよ?」

 

「オレなんてキタカミでコータス一匹に全タテされたことあるし」

 

「……ん?対策すれば勝てるのは普通では?」

 

「「「「「「絶対に違う」」」」」」

 

少なくともこの世界で対策の対策の対策まで念入りに仕込むのはお前らくらいだ。

 

「……みんな、ちゃんとブルベリーグは楽しめてる?」

 

「お?おぉおぉ、もちろんだ。楽しくバトルさせてもらってるぜ」

 

「次のカキツバタも、その次のスグリとのバトルも楽しみだ」

 

「みんな強いよ、いやほんと」

 

勝負の結果はともかく、手持ちの構成だけ見れば強かったのは確かだ。けっして嘘でも誇張でもなければフォローでもない。本心でそう思っている。

 

「……そうか。みんなが順調に勝ち進んでるのは嬉しいけど……なんだか順調すぎる気がして、もしかしたらホムラ達にとってアカマツ達が弱すぎたのかなってきになっちゃって……」

 

「スグリ……結果だけ見れば、俺たち全員が危なげなくリーグを勝ち進んでいる。でもそれは、誰かが弱いとかそういうことじゃないぜ。上には上があるって言うように、アカマツもネリネもタロも強かったが、俺達は更に強かったってだけだ。そうじゃなきゃ、ブルベリーグのランク上位をキープし続けるなんてできないぜ?」

 

「……ホムラがそう言うなら、そういうことにする」

 

「いや、そういうことにするとかじゃねえんだわ」

 

スグリの矯正は前途多難である。その後も和気藹々(?)と食事を囲み、夕食を済ませた一行。その後もお喋りに興じたりバトルの対策に精を出すなど、思い思いに過ごしている。

 

「サーナイト!マリルリ!ニンフィア!ドームにはいないかわいいポケモンさんにも会いたいなぁ」

 

「はは、卒業後にでもパルデアに来てくれよ。よければ案内するからさ」

 

「卒業……あ、あの、ホムラくん。ホムラくんは卒業後の進路とか考えてる……?」

 

「ん?……そうだなー、パルデアで定職に就くのもいいけど、できればいろんなところを旅したいよな」

 

「そっ、それなら!イッシュ地方とかはどうかな!?」

 

「おっ、イッシュ地方かぁ!イッシュといえばタロが持ってるドリュウズだよな。じめん使いのヤーコンさんの相棒、俺好きなんだよな」

 

「!!じ、じゃあそのときはイッシュに来てね!わたし、案内するから!」

 

「マジで?サンキュー」

 

「(ホムラくんならパパに会わせても大丈夫だよね)」(((〃`ω´)

 

「(あれ、なんか忘れてるような気が……なんだっけ?)」

 

何やら流れでイッシュ地方を冒険することになったが、ホムラは大事なことを忘れているようだ。タロの父親説だとか、背後霊のように事態を見守っている幼馴染のこととか。

その日はそのまま解散となった。明日はいよいよカキツバタ、そしてスグリ……どのような戦いになるかは予想がつかないため、ホムラ達はカキツバタの試合映像や聞いて回った情報を元に作戦を練り始める。

戦いに、終わりが見えてきた。

 

 

 

 




結局四天王相手にほぼ一人に一話使うという……藍の円盤のボリューム、ちょっと舐めてました。
会話はボタン連打、バトルも全体攻撃でサクッとクリアしたせいで体感でめちゃくちゃ短く感じたせいですね……。

番外編の内容、どっちから見たい?

  • SV本編ストーリー(アオイ不在)
  • 藍の円盤後日談(アオイ在り)
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