リオレウス戦はフェーズごとに分かれています。
phase1は、襲い来るリオレウスの猛攻を避けながら迎月の戦場へ向かいます。
この時、発見状態になっているためアルセウスフォンによるワープは使えません。また、アヤシシやオオニューラで崖を登ろうとすると強制的に地面に落とされます。
道中、オヤブンハガネールとのバトルに突入するとイベント。
オヤブンハガネールがリオレウスによって倒される代わりに、リオレウスの襲撃が一時的に止みます。
先へ進み、ヒスイニューラの出現地点に着くとイベント。
リオレウスが再び飛来し、攻撃が始まります。先にある橋の手前まで来ると再びイベントが発生し、リオレウスが一時撤退します。
ゴロゴロ山地に入るとイベント。
ゴロゴロ山地から列石峠にかけて、リオレウスがゴローンを投擲してきます。一定回数の攻撃をやり過ごすか、列石峠を抜けるとリオレウスが撤退。
余談ですが、ここのゴローンは捕獲可能です。図鑑タスクが埋まっていない人は、ぜひ捕獲していきましょう。
phase2は、迎月の戦場前でのリオレウスとの前哨戦です。
このバトルは特殊なルールが設定されており、
1.リオレウスのHPを半分以下にする
2.手持ちポケモンが半数ひんしになる
3.リオレウスとプレイヤーがそれぞれ三回行動する
のいずれかを達するとイベントが発生し、戦闘が強制終了します。
その後、イベントで「火竜の天鱗」を入手したら、カミナギ寺院跡へ向かいましょう。
phase3は、カミナギ寺院跡でのリオレウスとの決戦です。
こちらもクリア条件が二通りあり、
1.リオレウスを倒す
2.リオレウスを捕獲する
の、いずれかを達するとクリアとなります。
1.はHPを削りきるとイベントが発生し、捕獲となります。
なお、他のボールを使いたい場合は2.の条件でクリアしてください。
倒してしまうと強制的にモンスターボールでの捕獲になりますので、注意してください。
……攻略サイト風にまとめるとこんな感じかな?ゲームだとこんなふうになると思います。
新たな仲間にラギアクルスが加わり、私を探し回っていたというウォロさんと合流した……かと思ったら、ジンオウガが私を連れて爆速でウォロさんから逃げ出してしまったので、そのまま合流とはならなかった。
今はエイパム山のかなり高い所にいる。ジンオウガがそこまで走ってしまったので、自然とここにたどり着いてしまった。
一先ず、その場で一夜を明かして朝……改めてジンオウガをボールから出した。
「ジンオウガ……」
「クゥン……」
ジンオウガには、どこか思うところがあったようだ。
いきなり人の話を遮った上にいきなり逃げ出してしまった時は、「なぜ?」と思ったものだけど……ジンオウガが、今の私の状態を理解している上での行動なら、むしろお礼を言わないといけない。
「……私がまだ、人を信じきれないことを、分かってたの?」
「ワン」
「……そっか。ありがとう、ジンオウガ」
「ガウ!」
「正直な話……あの時、ウォロさんの話は半信半疑だったんだ。いや、少し怪しいかなってくらいかも」
「ワゥン……」
私はまだ、人を信じきれていない。ガラナさんの話を聞いて、確かに私のことを信じてくれる人はいるんだということは理解できた。
けど……私を信じてくれる人たち以上に、私を疑う人たちの方が多すぎる。ひょっとしたら、あの人も……なんて、そんな疑心暗鬼が私の心を苛んでいる。
それがとてつもなく苦しくて……だから、ガラナさんの言葉は嬉しかったし、同時に辛かった。
「そうだ……」
今なら、みんなを出しても問題ないかな。
「みんな、出てきて!」
ダイケンキ、ライチュウ、ミミロップ、ゴウカザル、ロズレイド、ガブリアス……私の手持ちたちを全員ボールから出す。そして……
「グラビモス!ラギアクルス!」
まだ手持ちたちと顔合わせをしていなかった二匹を出す。グラビモスはのんびりとあくびをしていて、ラギアクルスは出てくると同時に首を傾げて……すぐにジンオウガに首を噛まれた。
「ジンオウガ!めっ!!」
「……クゥ」
「フンッ」
「ガルルル!!」
「ジンオウガ!」
「ヴァー……」
もしかして、昨日のバトルのことを根に持ってるのかな……。なんだか、ジンオウガがラギアクルスに恨めしそうな目を向けている、気がする。
ジンオウガ、グラビモス、ラギアクルスの三匹が互いに顔を突き合わせてはじっとしている。何やってるんだろう……顔馴染み同士による、独自のコミュニケーション?
……っと、いけない。今から手持ちのみんなにグラビモスとラギアクルスを紹介するんだった。
「みんな、紹介するね。新しい仲間のグラビモスとラギアクルスだよ」
「ヴァー」
「グルラ」
……よかった、手持ちのみんなも受け入れてくれたみたい。……ジンオウガで耐性がついたのかな。
今から下山して餌を獲ろうにも、ジンオウガたちは動く気配がない。イチョウの浜辺の方を見ているから、ひょっとしてウォロさんを警戒している……?……ジンオウガだけじゃなく、グラビモスとラギアクルスにも警戒されているの……?ウォロさん、あなたは一体……?
仕方がないので、手元にあるきのみで食事を済ませることにする。……何気にジンオウガたちがきのみを食べるところを見るのは初めてなので、口に合うかはわからないけど……ほとんどすべての種類のきのみを食べていた。好き嫌いがないのかな……またひとつ、彼らについて知ることができた。
一先ず、食事を終えた私は次の目的地について、ジンオウガに尋ねる前に自分なりに考えてみる。次の目的地……おそらく、天冠の山麓か純白の凍土のどちらかだろう。距離的に近いから、天冠の山麓かな?
「ジンオウガ。次の目的地は天冠の山麓?」
「……!!」コクコク
「わかった。それじゃあ、出発しよう!」
手持ちのみんなと、グラビモスとラギアクルスをボールに戻して、ジンオウガの背中に乗り込む。私がしっかり乗ったのを確認してから、ジンオウガは走り出した。
天冠の山麓……たしか、以前セキさんから何か言われていたような……なんだっけ?
ジンオウガの背に揺られること五日間。たどり着いた場所は天冠の山麓にある離れ湧水という場所だ。
一度、ジンオウガから降りて辺りを見回す。その時、切り立った崖の上をジンオウガが見つめていることに気が付いた。その先は崖登り崖……そして、そのさらに先には……。
「カミナギ寺院跡……」
そうだ、思い出した。セキさんが言っていたこと……カミナギ寺院跡に危険なドラゴンポケモンが住み着いたから、近づくなという警告だった。けれど、ジンオウガがそっちの方を見ているということは……いるんだ、ポケモンが。ジンオウガと近しい存在のポケモンが。
「……行こっか、ジンオウガ」
「ガウ」
「――ショウっ!!」
ジンオウガが移動を開始しようとした、まさにその時だ。聴き慣れた声が耳を打つ……それと同時に、私の体は震えが止まらない。
振り返るのが怖い。思考が停止して、上手く呼吸ができない。震え続ける私に、そっと頬を寄せてくれたのは……。
「ジンオウガ……」
「ガウ」
そうだ、私にはジンオウガがいる。それに、この声の主はムラを去る瞬間まで私のことをずっと心配し続けてくれた人だ。だから、私は……恐怖を振り切って、背後へと振り返った。
「……テル、先輩……それに、ラベン博士も……」
「ショウ……ッ!」
「ショウくん!無事だったんですね……って、なんですかそちらのポケモンは!?」
振り返った先にいたのは、テル先輩とラベン博士だけじゃなかった。
「ショウさん、お久しぶりですね」
「あ、あのドラゴンと似た気配のポケモン……!」
「落ち着けツバキ」
ノボリさん、ツバキさん、そしてセキさん……みんなが揃っているなんて珍しいな。何かあったのかな……。
「別地方にライボルトというポケモンがいますが、もしやリージョンフォーム……?」
「多分だけど違います」
「見たこともないポケモン……!そんな怪しいポケモンの近くにいたら危ないよ!?」
「……っ。へぇ……彼よりも怪しくて危ない人間がここにいるわけですけど、それについてはどうなんですか?」
「そ、それは……」
「落ち着け、テル。ショウもだ、無駄に煽るんじゃない」
「セキさん……」
「……すいません。うちのジンオウガを侮辱された気がしたので、つい」
ラベン博士は純粋にジンオウガが気になるようだけど、テル先輩の発言は看過できなかった。
ジンオウガは私を助けてくれたポケモンだ……彼を馬鹿にする奴は絶対に許さない。
「ジンオウガ……それが、そのポケモンの名前なのか?」
「そうですよ、先輩。そして、路頭に迷った私を助けてくれたポケモンでもあります」
「そうだったのか……ごめん、ショウ。ジンオウガ……だっけ、君もごめん」
「ガウ」
「……ジンオウガが許すなら、私も構いません……」
ジンオウガが気にした様子がないことから、きっと先輩を許したんだろう。だから、私も先輩を許すことにした。それよりも気になるんだけど……。
「博士たちはどうしてここに?それに、キャプテン二人にセキさん勢揃いで……」
「ショウ。あんたが初めてここに来たとき、オレが伝えた警告を覚えているか?」
「……カミナギ寺院跡に住み着いたっていう、ドラゴンポケモンのことですか?」
「そうだ。……最近になって、そいつが活発に活動を始めたとツバキから連絡を受けてな。
そのドラゴンポケモンは、当時まだ荒ぶっていたマルマインをほとんど一方的に叩きのめすほどに強力なポケモンだ」
「不意打ちとはいえ、このツバキの目を掻い潜りマルマインを一時的に戦闘不能にしてみせたんだ。とてつもなく恐ろしいポケモンだ、とだけ言わせてもらうよ」
「そのポケモンについては、こちらシンジュ団の方でも伺っております。その容姿、腕が退化したリザードンの如き姿、と言うべきでしょうか」
キングを鎮めに行った時には聞かされなかった話が、次々と目の前で飛び交っている。
カミナギ寺院跡に住み着いていたドラゴンポケモンが、天冠の山麓の空を頻繁に飛び回るようになったんだとか。それによって野生ポケモンたちが戦々恐々といった様子でピリピリし始めてしまい、普段よりもずっと神経質になっているそうな。個体によってはより凶暴化している、という話もある。
あと、ノボリさんが言ってた「リザードン」だけど、ラベン博士に曰く「カントーに住むほのおタイプのポケモン」とのことで、ドラゴンタイプではないらしい。
「こうも頻繁に空を飛び回られちまったら、野生ポケモンだけじゃなくて人間のほうだって神経質になっちまう。いつ襲われるかと、怯えている者たちもいる……そこで」
「……ギンガ団を、頼ったわけですか」
「……そうなるな」
私がいなくなったあとの、ギンガ団……正直、興味なんて欠片もないけれど、テル先輩がどれだけ成長したのかはちょっと気になる。自惚れでなければ、私の次に捕獲が上手いのはテル先輩だと思ってるから。
「セキさんの仰るとおり、件のポケモンの調査のためにボクとテルくんは派遣されました」
「めちゃくちゃ大きいドラゴンポケモン……とは、聞いているんだ。けど、天冠の山麓に住むポケモンやほかの人たちのためにも……おれは、絶対にそのポケモンを捕獲してみせるよ」
「……止めたほうが、いいかもしれませんよ」
「……っ!どうして?」
どうして、と聞かれても……一言では説明しきれない。なんて説明しようか……とにかく、思いつく限りに説明するしかない。
「まず、大きいです。私が従えているこちら、ジンオウガですが……およそ20m弱は体長があります。つい五日前まで群青の海岸にいましたが、そこでは30m級のドラゴンポケモンが海を泳いでいましたよ。紅蓮の湿地にだって、25mは優に超える岩のドラゴンポケモンがいました。
……今、全て私の手持ちに加わっています」
「ほ、ほかにもそんなポケモンがいたのですか!?」
「見せるつもりはありませんけれど。
……私は、彼らとともにバトルをしたこともあります。普通のポケモンでは、まともに戦ってもまず絶対に勝ち目はありません。それほどまでに、全体的なポテンシャルは彼らの方が上回っています。
野生ポケモンでさえ、彼らがただ移動するだけで逃げ出します。……きっと、本能的に恐れているのかもしれません。私も手持ちのポケモンたちを鍛えてはいますが……正直、バトルで勝てるかと言われれば、断言はできません。
もしも、そのドラゴンポケモンと戦うというのであれば……ジンオウガのような、同格のポケモンが必要になるかと思います。そして、そんなポケモンを連れているのは、私一人……ですので、例のポケモンは私に任せてもらいたいと思います」
「ショウくん……」
任せて、とは言ったものの……本音で言えば「手を出すな」と、「首を突っ込むな」と声を大にして言いたい。
おそらく……いや、十中八九、そのドラゴンポケモンはジンオウガたちと深い関わりのあるポケモンだ。なら、他の人たちには絶対に捕獲されたくない。そのために、ジンオウガはここまで私を連れてきたんだ。やることは変わらない……ドラゴンポケモンに私のことを認めてもらって、力を貸してもらうんだ!
「だから――」
「グオオオオオォォォォォォォォォォッ!!」
その時だった。天を裂くような、甲高い咆哮が天冠の山麓に響き渡った。
「こ、この声……あいつだ!あいつが来たんだ!!」
「落ち着け、ツバキ!……くそっ、よりにもよってこのタイミングとは……!」
「声は天より聞こえた……皆様、頭上にご注意ください!」
ノボリさんの言葉に反応して上を見上げれば、はるか上空から何かがこちらに向かって飛来してきていた。徐々に近づくにつれて、それが大翼を広げた巨大なドラゴンポケモンだということがわかった。
全身を覆う物々しい紅蓮の外殻。
巨大な刃のような刺を側面に持つ尻尾。
燃え盛る炎のような模様が浮かぶ皮膜を携えた雄大な両翼。
人間なら容易く握りつぶせてしまえそうな足の爪。
口元から燻る灼熱の炎。
「グゥル……」
ひと目でドラゴンだとわかるポケモンが、上空から急降下して目の前へと姿を現した。ドラゴンは地上へと着地すると、小さく唸り声を上げた。
「これが、カミナギ寺院跡のドラゴンポケモン……!」
「こいつだよ、ショウ!洞窟キングを一方的に攻撃してきたポケモン!なんて恐ろしい造形……まるでバケモノだ!!」
「…………」
バケモノ、とツバキさんが呼んだことに、一瞬だけ過剰に反応しそうになった。あのドラゴンポケモンを見た時から、彼がジンオウガと関わり深いポケモンだということは魂で理解した。
そんな彼をバケモノ呼ばわりする……遠まわしにジンオウガたちをバケモノ呼ばわりされた気がして、腹立たしくて仕方が無かった。
「人が管轄する地域で、次々とポケモンを襲う蛮行……キャプテンとして、見過ごすわけには行かないね!スカタンク!!」
「……っ!バカ、止せツバキ!!」
「止めないでくれアニキ!マルマインの時の借りだって返せていない……今が千載一遇のチャンスなんだ!」
そうこうしている間に、ツバキさんが相棒のスカタンクを嗾けていた。セキさんがツバキさんを止めるも、ツバキさんは既に止まる気配はない。
……!ドラゴンの口元にエネルギーが……!!
「やれ、スカタンク!ヘドロば――」
「グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッ!!」
今まさに、ツバキさんがスカタンクの指示を出そうとした、その時だった。それよりもずっと早く、ドラゴンが放ったはかいこうせんが一瞬でスカタンクを包み込み、そのまま壁へと叩きつけたのだ。しかも、叩きつけられた壁も一秒と持たずに一瞬で崩壊してしまった。
「……フッ」
ドラゴンはそのままはかいこうせんを上空へ薙ぎ払うように首を振ると、まるでこちらを小馬鹿にするかのように口角を釣り上げた。
「あ……あぁ……!す、スカタンクー!?」
「言わんこっちゃない……!」
ツバキさんが慌ててスカタンクの方へ駆け寄るも、こちらは誰一人としてその様子を気にかける余裕はなかった。
このドラゴン……今まで会ってきたジンオウガたちとは全然違う!なんの躊躇もなく、はかいこうせんを撃ってきた……!!
「グオォォォラアアッ!」
ドラゴンが吠えると同時に、アンノーンが姿を現した。テル先輩とラベン博士が驚いている。そうだった、二人は放牧場にいる私のアンノーンたちを見たことがあるんだった。一応、二人にはわざわざ放牧場から飛んできているのだということを説明したところで、アンノーンたちが整列を終えていた。
「『リオレウス』……」
「リオレウス……?それが、このポケモンの名前なんですか?」
「そうです、博士。……なぜか、アンノーンたちが知ってるんですが、それについては私も知りませんのであしからず」
「ギギャオォォン!!」
リオレウスが再び吠えると、さらに数を増やしたアンノーンたちが大急ぎで整列を始めた。
……あ、何匹か慌てすぎてぶつかってる。ちょっと可愛い。
YUKIARU MONOYO
WAGA GOUKAWO KUGURINUKE
SENJO NITE UROKOWO TENISHI
WAGA MOTOHE MAIRE
「『勇気ある者よ』……『我が業火を潜り抜け』……『戦場にて鱗を手にし』……『我が下へ参れ』……」
「……試そう、ってのか。オレたち人間を」
アンノーンが散らばっていくのと同時に、リオレウスも飛び上がった。そのままどこかへと飛んでいってしまい、姿が見えなくなってしまった。
立ち去る様子を見送ってから、セキさんがこちらへと振り返った。
「……さて。なぜわざわざ別のポケモンを使ってまでこちらに意思を伝えたのかは不明だが……あのポケモン――リオレウスだったか――の言う『我が下』ってのは、間違いなくカミナギ寺院跡のことだろう。奴はあの場所を住処にしているからな」
「それについてはボクも保証する。何度か奴の後を追い、あの場所で休んでいるところを見ているからね」
「ツバキ、スカタンクは?」
「かろうじて、ってところだよ。今は回復させて、休ませているよ」
「そうか……」
ツバキさんも戻ってきた。どうやらスカタンクは無事だったらしい。……間違いなく消し炭になったと思ったんだけど、思いのほか気の回るポケモンなんだね、リオレウス。
ツバキさんが戻ってきたタイミングで、顎に手を当てて考えていたノボリさんが口を開いた。
「『勇気ある者』……この場合、我々のいずれかなのか、あるいは特定の個人を指しているのかは現段階ではわかりかねますね」
「……これはオレの考えだが、オレはショウのことを指していると考える。リオレウスも心なしか、ショウの方を見ていたような気がするしな……」
「ショウくんを!?ポケモンがただの個人を強く意識することがあるのでしょうか?」
ラベン博士の疑問も尤もだ。今日、出会ったばかりの野生ポケモンが人間に興味を持つならまだしも、それが一個人に向けられているとなると特異すぎるというもの。けれど、セキさんは確信に満ちた表情で続けた。
「考えてもみな、学者先生。オレはさっきのジンオウガの他にもう一匹、ショウに懐いている巨大ポケモンを知っている……ショウの言ってた25m級の岩ポケモンのことだ。
深紅沼に棲み着き、寄ってくる人間を無視するか片っ端から追い返すような暴れん坊が、ショウにだけは心を開いた。ショウには人間だけじゃなく、ポケモンを惹きつけるような何かがあるんだろうよ。
紅蓮の湿地、群青の海岸……そしてここ、天冠の山麓。それぞれに棲んでいる正体不明の巨大ポケモン……元々いたのか、それともいきなり現れたのかは、わからねえけどな」
「……それは、たしかに。あれだけの体格のポケモンが、我々人間の目を欺き今の今でどこに隠れていたのやら……疑問が尽きませんね」
……あれ?ラギアクルスのこと、ひょっとしてガラナさん……伝えていない?いや、それを言うならススキさんも、か。セキさんはラギアクルスのことをたった今知ったような反応だし、きっと二人はラギアクルスのことをそれぞれの団に黙っていたのかもしれない。ガラナさんはもとより、ススキさんはガラナさんの意を汲んだのだろう。
「……とりあえず、私は行きますね。行こう、ジンオウガ」
「ガオウッ」
「……っ!待って!!」
ジンオウガの背中に乗り込んで、いざカミナギ寺院跡へ……と、向かおうとしたところでテル先輩に呼び止められた。私はもうジンオウガの背中に乗ってしまったので、ジンオウガが体ごと振り返った。
「頼む、ショウ!おれも一緒に連れて行ってくれ!!」
「……危険ですよ、先輩。お願いですから、ここで待っててください」
「いいや、待たない!……これ以上、ショウばっかりに背負わせたくないんだ!!
だから、頼む……おれも連れて行ってくれ!!」
真摯な思いを告げられた上に頭を下げられて、私の心は大きく揺れていた。
正直、本当に危険だろうから先輩にはここに残って欲しい。けれど、私のことを真剣に想って同道を願い出る先輩の思いを無下にするのは気が引ける。どうすれば……。
私が迷いに迷っていると、ジンオウガが動き出した。
「……え、ちょ、ちょっと……?」
「ガウ」
「うわぁ!?」
テル先輩の下まで歩み寄ると、群青の海岸で私にしたように、服を口に咥えて持ち上げるとそのまま宙へ放り投げて私のすぐ後ろへと乗せたのだ。放られた時はすごく驚いていた様子だったけど、乗り込んでからは冷静になったようで……あ、顔がすごく嬉しそうになってる。
「あ……うわぁ、うわぁ……!す、凄い!おれ、ポケモンに乗ってる……!!」
「……あの、先輩。そろそろ出発しますよ」
「……っと、そうだった。おれはいつでも大丈夫だぞ!」
「わかりました。……ジンオウガ、お願い!」
「ウオオォォォンッ!!」
ジンオウガが雄叫びを上げると、力強く大地を蹴り上げ走り出した。……全力疾走で。
「うわあああぁぁぁあぁあぁああぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」
「先輩黙って!舌を噛みますよ!!」
「……っ!!」
ジンオウガが全力で走るなんて珍しい。……いや、きっとリオレウスを警戒しているんだ。道中で襲ってこないとも限らない……だから、ジンオウガはなるべく速くカミナギ寺院跡に着くために全力なんだ。
カミナギ山道に入ってしばらく……空高くから、あの咆哮が聞こえてきた。
「グオオオオオォォォォォォォォォォッ!!」
空から飛来してきたリオレウスが滞空すると、口からひのこなんて比じゃないほどの巨大な火球を次々と放ってきた!
「先輩、しっかり捕まってください!……ジンオウガ!!」
「ガオウッ!」
「わ、わかった!!」
ジンオウガは右へ左へと、左右にステップを踏みながらリオレウスの攻撃を躱す。対するリオレウスも、知恵を使ってくる。わざとタイミングをずらして、ジンオウガのステップを乱してくるのだ。
天を舞う業火が大地に降り注ぎ、地を這う稲妻は必死にその火炎から逃げる。このままだとジリ貧だ……なんとか、なんとかしないと……!!
「ガネールッ!!」
「……っ、ハガネール!」
なんとか前に進んでいたところで、オヤブンハガネールが立ち塞いできた。空からリオレウス、地上はハガネール……オヤブンハガネールの大きさはジンオウガの半分ほどとはいえ、ここで道を塞がれるのは痛すぎる!!
「……!ショウ、リオレウスが!!」
「えっ……!?」
テル先輩の声に釣られて前を見ると、空にいたリオレウスが地上に降りてきていて、ハガネールと睨み合っていた。
「グラオオォォォォォォォォォォォォッ!!」
長く睨み合っていた両者だが……決着は一瞬だった。
リオレウスが、先ほど放ったはかいこうせんを遥かに超える熱量と威力を持ったかえんほうしゃ――いや、あれはもはや爆炎だ――をハガネールめがけて放ったのだ。
「ガアアアアアアアアアッ!?」
炎に押し込まれ、ハガネールは壁に叩きつけられた……にも関わらず、リオレウスは攻撃を止めない。それどころか、より火力を底上げしてハガネールに炎を放ち続けたのだ。
リオレウスの口から放たれた灼熱はハガネールを包み込み、ついにはその姿が見えなくなるほどの炎がカミナギ山道に広がっている。
「や、やりすぎだ……!」
「……っ」
オーバーキル……なんて言葉が陳腐に思える程の過剰威力。もはやハガネールの生存は絶望的だろう。
リオレウスが、放射をやめた。後に残ったのは……かつて、ハガネールだった何かが、骨すら残さずドロドロに溶解した跡だった。それどころか周囲の地形すら、その熱量で熔けてしまっていた。
「「!?」」
私も先輩も、おそらくは顔面蒼白になっていることだろう。普通、ほのおポケモンが全力で炎を吐いたとしても、溶岩もかくやというほどに熔かすほどの威力が出せるだろうか?仮に出来たとしても、リオレウスのように一瞬でそれほどの火力が出るのだろうか。
違いすぎる……他のほのおポケモンとなんて、比較することすら烏滸がましい。それほどにリオレウスの炎が規格外過ぎるのだ。
「ガウッ!」
「っ。ジンオウガ……」
突然、ジンオウガの肩が跳ねたかと思うと、彼はこっちを見ていた。どこか厳しさを含んだその目は「しっかりしろ!」とこちらを鼓舞しているようだった。先輩もジンオウガの激励で我に返ったらしい。ジンオウガの背中を撫でていた。
「グウゥ……」
ハガネールを熔かしたあと、リオレウスは一瞬だけこちらを見るが、すぐに飛び去ってしまった。私と先輩は同時に息を吐き、ジンオウガも僅かに体の力を抜いた。
「……なん、て、やつだ……。ハガネールを、たった一撃で……」
「……これが、彼らの力です。今、私たちが乗っているジンオウガも、その気になればこれくらいはできると思いますよ」
「!?」
あ、生気が戻った先輩の顔がまた青く……ジンオウガがなんとなく恨めしそうな目を向けてきている。……ごめんね、せっかく励ましてくれたのに。
「急いでても襲って来るなら、襲ってきた時に備えたほうがいいかも……慎重に行こう、ジンオウガ」
「ガオウッ!」
私の指示を受けたジンオウガは最初ほどの全力疾走ではないものの、襲われてもすぐに回避が取れるように軽くスキップをするような足取りで走り出した。
……後ろに乗っているテル先輩が、ちょっと心配。ポケモン同士、弱肉強食の関係である以上は殺し殺されというのは自然界だからよくあること。けれど……少なくとも、それを間近で見る機会なんてそうそうにない。ましてリオレウスのアレは暴力で一方的に捩じ伏せているのと何ら変わらない。
人間とポケモンだけじゃない。ポケモン同士にだって、残酷な世界が存在する。
「テル先輩、大丈夫ですか?」
「えっ……あ、あぁ。大丈夫だ、問題ない」
「…………」
「…………」
か、会話が続かない……。どうしよう、流石にあんな場面を見たあとで話題転換は無理がありすぎる気もするし……。
「……すごいよな、ショウは」
「えっ……?」
思わず振り返った。見れば、先輩はどことなく寂しげな笑みを浮かべている。
ジンオウガが、走るペースを落とした。
「おれさ、自分がすごく情けないなって思ってるんだ。おれのほうが先輩で、男で、もっとしっかりしなきゃなって思っててもさ……キングのことも、あのリオレウスのことも、全部ショウに任せっきりになってる。
挙句の果てにはこの空の異変のことで団長がショウを疑ったばっかりに、追放なんてされちまって……。あの時、さ……おれ、何度も考えたんだ。『ショウの言葉を無視してでも、ついて行くべきだったんじゃないか?』って……」
「先輩……」
「何もかもを後輩のショウに背負わせて、先輩のおれはマイペースに図鑑作り……こんなの、全然カッコつかねぇよ……。だからおれ、図鑑作りもポケモン捕獲も、バトルの腕だってめちゃくちゃ鍛えまくったんだ。いつかまたショウに会えた時に、少しはかっこいい先輩にならなきゃなって。
けど、こうして生きて、またショウに出会えた……それだけで、おれはもうすっごく嬉しかった。先輩としてのメンツがどうのこうのってさっき言ったけど……本当は、もう一度ショウに会いたかっただけなんだ。
だから、これだけは言わせて欲しいんだ……ショウ、生きててくれてありがとう」
「……!!」
本当に嬉しそうに笑う先輩の顔を見て、私の心の中は感情が「だいばくはつ」を起こしていた。思わず先輩から顔を逸らして正面に向き直る。今の私は、多分、顔が真っ赤だ。あと、少しだけ……泣きそうになってる、と、思う。
「……し、も」
「え?」
「……私、も。もう一度だけ、先輩と、博士と、シマボシ隊長に、会いたいって……思って、ました」
「ショウ……!」
今度は、さっきとは違う――良い意味で、と言えばいいのか――気まずさがお互いの間に流れていく。またしても会話の糸口を見失ってしまった私たちだったが……その気まずさをまるごと叩き潰さんとばかりに、咆哮が響き渡った。
「グオオオオオォォォォォォォォォォッ!!」
「……ッ!!」
「この声……あいつか!」
再び空を見上げれば、リオレウスが姿を現した。もうすぐカミナギ山道を抜けられるというのに……!
リオレウスは上体を大きく反らすと、その口に溜め込んだ豪火球を次々と放ってきた!
「来るぞっ!」
「避けて、ジンオウガ!!」
「ガオウッ!!」
迫り来る火球を次々と回避するジンオウガ。……けれど、おかしい。火球が地面に突き刺さったまま残っている……?
「ショウっ!離れたほうがいい!!嫌な予感がする!!」
「……っ!ジンオウガ!!」
「ガウッ!」
テル先輩の言葉を頼りにジンオウガに指示を飛ばし、火球の着弾地点から大急ぎで離れる。その直後……。
地面に着弾していた火球が、時間差で次々と爆発し始めた!!リオレウスはこれが狙いだったんだ!爆発しないからと油断したところを時間差で……とんでもない技だ。
時間差で爆発するなら、爆発する前に駆け抜けるしかない!そんな私の意思が伝わったのか、ジンオウガもまた走るペースを一気に上げた。そうして橋の手前までたどり着いたところで、唐突に火球の雨が止んだ。空を見れば、絶え間なく火球を放ち続けていたはずのリオレウスが、若干だが息が上がったように荒い呼吸を繰り返していた。そして、そのままリオレウスは再びどこかへ飛び去ってしまった。
「また、どこかへ飛んでいったな……」
「……私たちも少しだけ、休憩しましょう。とくにジンオウガはずっと走り続けているし……」
「ガウガウ」
「だーめ。カミナギ山道をずっと走ってきたんだから、休憩しよう?」
「クゥン……」
ジンオウガは先へ先へと急かすけど、休める時にはしっかり休まないと。それに……襲撃のタイミングからして、おそらくリオレウスは私たちを上空から見張っている。私たちの接近に合わせて、襲ってきているんだ。
そうでなければ、今こうして動かないタイミングを狙ってくるはずだから。
「ジンオウガ、素直に休もう。こうなったら、ショウはてこでも動かないぞ」
「む……心外ですよ、先輩。まるで私が頑固者みたいじゃないですか」
「いや、実際すごく頑固なところあるだろ」
「ガウ」コクコク
「ほら、ジンオウガも『ある』って」
「えー?」
うぅん、そんなこと……ない、と思うんだけどなぁ……。
数分程度の休憩を挟み、私たちは橋を渡ってカミナギ山道を抜けた。迎月の戦場に行くには、この先のゴロゴロ山地と列石峠を抜けなければならないんだけど……リオレウスがどんな手を使ってくるのかはわからない。ジンオウガの疲れ具合も心配だし……抜けられるうちに抜けてしまわないと。
ゴロゴロ山地に入って少しして、私はすぐに違和感を覚えた。
「……おかしい」
「……あぁ、たしかにおかしい。このあたりに生息しているゴローンが、一匹も見つからないなんて」
「リオレウスを恐れて隠れているなら、まだいいけど……気配が少しもないのは、少し気になる……」
「グオオオオオォォォォォォォォォォッ!!」
咆哮が聞こえ、そちらの方へと目を向ける。列石峠の崖上に、リオレウスがいた。どうしてあんなところに……?と思っていると、徐にリオレウスが空へ飛び上がった。
「何をする気だ……?」
「……!先輩、あれを!リオレウスの足に!!」
「え?……え、あぁ!?」
先輩も気がついたみたい……そう、リオレウスの足に、ゴローンが捕まっていることに!
ある程度の高さまで飛ぶと、リオレウスは体を大きく揺らして勢いよくゴローンを投げつけてきた……って、ちょっと!?
「えぇ!?」
「そんなのありかよ!?」
「ウオォンッ!!」
ジンオウガはすぐさま回避に移る。投げ飛ばされたゴローンは軒並み弱っている……もしかして、このあたりに生息しているゴローンが、リオレウスが投げ飛ばすための砲丸として捕まってしまったってこと!?
そうこうしている間に、リオレウスは次々とゴローンを放り投げてくる。火球の攻撃に比べればだいぶ緩やかな攻めだけど、ポケモンを直接武器として投げてくるなんて、とんでもない発想力だ……。
こちらは難なく突破できた。ただ……リオレウスに投げられたゴローンたちが気になる。あんな雑な扱われ方、いろんなポケモンをこのヒスイ地方で見てきたけど初めてだ。
「グルル?」
「ジンオウガ……ごめん、ちょっとゴローンたちを見てきてもいい?」
「ガウ!」
「ありがとう……それじゃあ、その間はジンオウガはボールで休んでて」
「ワン」
ジンオウガをボールに戻して、テル先輩の方へと振り向く。
「すみません、先輩。ちょっとゴローンたちを見てきます」
「おれも行くよ。正直、あんなことがあった後で無視はできないしな」
「ありがとうございます」
来た道を戻り、回復道具を使ってゴローンたちを回復させていく。ゴローンたちはお礼を言うように何度も頭を下げると、そのまま転がって行った。全員を回復させたあとで、再び迎月の戦場へ戻ってきた。
「たしか、迎月の戦場に鱗があるんだっけ?」
「そうですね……早く取って、それからカミナギ寺院跡に行きましょう」
私たちが迎月の戦場の入口に近づいた、その時だった。
「無様だねぇ、小娘」
「……っ!!」
背後から声がかかり、先輩とともに素早く振り返る。そこにいたのは……
「常盤木と呼ばれる松のようにいつまでも若く美しい、長女のオマツ」
「枯れるどころか次々と新芽を咲かせ繁栄を体現する次女、オタケ」
「寒い冬に春の訪れを知らせる可憐にして気高さの象徴、三女のオウメ」
「「「あたくしたち野盗三姉妹 その名もショウチクバイ!」」」
そこにいたのは、野盗三姉妹のオマツ、オタケ、オウメの三人だった。ズイの遺跡の時といい、ガーディの時といい、どうして間の悪いタイミングで邪魔をしてくるんだ。
「野盗三姉妹……!」
「無様って……どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だよ」
私があの人たちの言葉の意味を問えば、オマツが一歩前に出て答えた。
「聞いたよ、あなた。あれだけ他人さまのためにとあくせく東奔西走し、馬車馬の如く働いてきたというのにねえ……その末路が、コレとはね」
「……っ」
その言葉に、思わず唇を噛み締める。事実、デンボク団長はムラのためとはいえ私を追放した。誰よりもムラのために貢献してきたはずの、私を……。
「前にうちが言ったこと、覚えてるだろ?結局のところ、あんたがギンガ団に必要とされていたのは上っ面程度のもんで、信頼なんて欠片もなかったってことだね!」
「そんなこと……っ!」
「だったら、なんでそいつは追放された?ギンガ団として事態の調査を任されるでもなく、容疑者としてこの広い大地にほっぽり出しておいて、否定もくそもないだろう」
「ぐっ……」
オタケが言っていた言葉は覚えている。私がギンガ団に必要とされているのか?というものだ。信用がなかったんだと嗤うオタケの言葉を先輩が否定しようとするも、すかさずオウメの言葉に黙らされてしまった。
「挙句の果てに、あんな見たこともない巨大なドラゴンに追っかけ回されて……ほんと、不憫だこと」
「…………」
「……ねえ、あなた。よかったらあたくしたちと来ない?」
「えっ……?」
オマツの言葉に、俯きかけていた顔を上げた。私が、彼女たちと……?
「……ギンガ団に恨み辛みのあるあたくしたちだけど、そのギンガ団から追放されたあなたは、いわばあたくしたちと同類……同じはみ出し者ってわけ。あんなせせこましい集団から自発的に抜けたあたくしたちとは違って、あなたはその集団から追い出された。
憎いでしょう?許せないでしょう?組織とはひとえにそんなもの……大のために小を容易く切り捨てられる、非情な連中さね」
「むしろ気になるんだよね。そんな目に遭っておきながら、なんで仕返しの一つもしないわけ?うちなら絶対にやり返すね。ましてや、あんたは荒ぶるキングやクイーンを大人しくさせてきたわけでしょ?
人に頼まれたことをやっておいて、恩を仇で返すような連中だよ?復讐にムラの一つや二つ焼いたって、誰も文句を言う資格なんてないよ」
「きさまは義理人情を重んじる主義なのだろうが、その義理人情を先に裏切ったのは奴らの方だ。本当にきさまが疑わしいというのなら、身の潔白が証明されるまで拘束するなりなんなりする方がよほど現実的だ。
それを、よりにもよって追放とはな。きさまだって、とっくに気が付いているんだろう?ギンガ団の望みが……他ならぬ、きさまの死であることを。きさまが死んで空が晴れれば万々歳、そうでなかったとしても他の手段を模索すればいい……どう転んでも、ギンガ団が損をしない。……汚い連中だ」
「…………」
私は、何も言い返せない。先輩も言い返そうとはするが、言葉が見つからないのか口を開いては閉じる、を繰り返すだけ。
それもそうだ……私は実際にギンガ団を追放されていて、隣にいる先輩は現役のギンガ団だ。何を言っても、ただただ空虚で説得力の欠片のない、見苦しい言い訳にしかならない。
わかっている。デンボク団長の考えなんて、追放されたその日に察したし、理解している。それを仕方ないと割り切ることも、普通なら絶対にできないだろうってことも。ひょっとすると、私が復讐のためにコトブキムラを焼く、なんて可能性もあったかもしれない。
「ふざけるな……!ショウは絶対に、お前たちの仲間なんかにはならない!!」
「さぁて、どうかしら?たとえあたくしたちと同じ道を進まずとも、復讐を選ぶだけの動機はいくらでもあるけれど」
「つーかさ、ギンガ団のあんたに言われたくないんだけど?あんたの親分がそいつ追放したんでしょうが」
「人の心など、いくらでも変わるものだ。……あたいらのようにね」
「……私は」
けれど。けれども、私はそうしない。
そうしないだけの理由が、私の腰に付けられたモンスターボールにある。
「あなたたちの言うとおり、ムラのみんなやデンボク団長が憎いと思ったことは、ある。それは否定しない」
「ほら、やっぱり」
「けど……憎しみだけじゃない。恨みも辛みもあるけれど、決してそれだけじゃない。この世界に落ちてきた私を拾ってくれたのはギンガ団で、私に生活の場を与えてくれたのもギンガ団です。
そして……たとえ、ムラや組織の人たちが私を疑っても……隣に立ってくれる彼のように、私のことを信じてくれる人だって、います!」
「ショウ……!」
「……ふん!なにさ、そんなのは所詮、ほんのひと握りの人間だけだろうに!」
「それでも、構いません。……いえ、むしろ今の私にはその『ほんのひと握り』の人間だけで十分です。
私を信じてくれる人が居る限り、私の心は決して折れない!!」
そして、それは人間だけじゃない。ポケモンたちだって同じことだ。
ダイケンキ、ゴウカザル、ライチュウ、ミミロップ、ロズレイド、ガブリアス……。
そして……ジンオウガ、グラビモス、ラギアクルス……。
みんながいてくれる限り、私は何度でも立ち上がれる。私の心の支えは、決して一つだけじゃないんだから!
「……フッ、いい顔つきになったじゃないさ」
「姉上?」
「いえ、なにも。……最後にもう一度聞きましょう。あたくしたちと来る気は?」
「ないっ!!」
「……そう。ならば……力ずくでも黙らせてやろうかしらね!」
三姉妹が同時にボールを構え、それに合わせて私とテル先輩もボールを構えた……その時だ。
「グオオオオオォォォォォォォォォォッ!!」
また、あの咆哮が聞こえてきた。よりにもよってこのタイミングで……!
「……!?な、なに?このバカでかい鳴き声は……?」
「……まさか」
「……!姉上、あそこ!」
オウメが指した方向……迎月の戦場の入口の上に目を向けると、リオレウスがそこにいた。リオレウスは私たちを三姉妹の間に降り立つと、一度こちらの方を見て……すぐに三姉妹の方へと目を向けた。
「……ちっ!このクソデカドラゴン、なんでこっちを見てるのよ!さっきまであっちを襲ってたでしょ!?」
「……遠目から見ても大きいとは思っていたけど、これほどの大きさとはねぇ……」
「姉上、ヤバイです……少なくとも、想像の云十倍は……!」
「だね……ここは逃げるよ!」
三姉妹が逃げ出そうと走り出した、その直後だ。
「グルォアッ!!」
なんと、リオレウスが口から火球を放ち、三姉妹の行く手を遮ってしまったからだ。どういう原理なのか、地面に着弾し爆破した火球の残り火が、いつまでも地面に残ったまま消えないでいる。
「くっ……逃がすつもりはないってことかい!」
「ね、ねえさん、どうしよう……!」
「どうもこうもない……戦って、隙を作るよ!」
三人が一斉にボールを投げた。
「ゆけ、ドクロッグ!」
「行って、ユキノオー!」
「サイドン!」
「……フ……」
ドクロッグ、ユキノオー、サイドンの三匹が一斉に飛び出した。リオレウスはそんな三匹に一匹ずつ目を向けると、「笑わせるな」とばかりに鼻を鳴らした。
「余裕をかまして……ドクロッグ、どくづき!!」
「ユキノオー、れいとうパンチ!!」
「サイドン、10まんばりきだよ!!」
三姉妹のポケモンが同時に襲いかかり……鋼の力を纏ったリオレウスの尾が、全てを薙ぎ払った!三匹は背後の岩に叩きつけられて……ダメだ、一撃でやられている……!
「ドクロッグ!!」
「ユ、ユキノオー!?」
「……まさか、一撃とはね。大したもんだ、見た目通りのバケモノってわけ……」
「グルルルル……」
「……けどね!」
……?リオレウスの背後、足元が変……?
そう思っていたら、ゲンガーが地面から勢いよく飛び出した!オマツの二匹目のポケモン、いつの間に……!
「どうやら頭の中身は、単細胞だったみたいだね。ゲンガー、シャドーボール!!」
「ゲンゲン!ゲーン……!」
ゲンガーが、シャドーボールを放つべく影の力を収束している。リオレウスはわずかに後方へ首を動かし、ゲンガーの姿を視界に収めた。
「……!あれは避けられない!」
「(でも、リオレウスなら)」
ゴローンを投げるという発想でこちらを襲ってきたリオレウスが、バカ正直にあの攻撃を受けるとは思えない。なにか、考えがあるのでは……?
「ギャオオオォォォンッ!!」
リオレウスが大きく咆吼し、半歩足を引くと――
宙返りをした。
「え?」
「なっ?」
「「「は?」」」
突然の奇行に、誰もが二の句を告げなくなる。そして、宙返りによって大きく尻尾が振られて……。
「ガッ!?」
そのまま、後方上空にいたゲンガーを大地に叩き落とした。
「ゲンガーっ!?」
かなりの勢いで地面へと叩きつけられたゲンガー。リオレウスは難なく着地すると後ろを振り返り、ゲンガーを口に咥えるとそのまま三姉妹の方へと放り投げた。力なく転がるゲンガーに、三姉妹は完全に絶句しているようだった。
「待てよ……そんなのありかよ……!?」
先輩も、突然のリオレウスの宙返りによる反撃に驚いている。……かくいう私も、驚きのあまりに言葉を失ってしまった。
「グルルルルル……」
リオレウスの口から、炎が漏れ出ている。……ハガネールを熔かした、あの炎だ!
「や、やだ……死にたくない!死にたくないよぉ!?」
「あ、姉上……!姉者……!」
「……ここまで、か……」
どうする?どうする?どうすればいい?
あの三姉妹によって実際に被害を受けた人たちだっている。三人がいなくなることで、困っている人の中には助かる人もいるのでは?
けど……そうまでして、あの三人を排除する必要があるの?今後も妨害をしてこないとも限らないし、人様に迷惑をかけない保証もない。
……私は……。
「ショ、ショウ……」
先輩もまた、どうすればと悩んでいる。……いや、違う。先輩の、先輩の目は、助けることを前提にした「どうすれば」だ。私は……私は、どうしたいの?
とうとう、リオレウスの口からは溢れんばかりの炎が滾っている。これ以上押さえ込めないほどにまで、力を溜めているようだった。三人の悲惨な末路を想像して、思わず私は目を閉じた。
――脳裏に、ジンオウガの笑みがよぎった――
「ショウ!!」
気づけば私は走りだしていた。リオレウスが炎を吐き出すのとほぼ同時に腰につけたボールのうちの一つを引っつかむと、これ以上ないほどの全身全霊全力全開で投げつけた!
「グラビモスーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ギシャアオォォォォォォォォォォォォッ!!」
私の呼びかけに応じて、ボールからグラビモスが飛び出した。グラビモスはリオレウスの豪火を真正面から受け止めてみせた!
以前、ジンオウガの特殊なタイプ相性の一件から、私はグラビモスとラギアクルスが得意としているタイプ、苦手としているタイプを一つ一つ調べ上げたのだ。
その結果……グラビモスには、ほのお技が一切通じないことを知った!!
「……え?」
「……生き、てる……?」
「……っ、このポケモンは……?」
三姉妹は、呆然とした様子で炎を受け止めるグラビモスを見ている。このままだと、まだ危ない……!
「グラビモス!すてみタックルッ!!」
「ヴゥ"ゥ"ゥ"……ヴォォォアアアァァァァッ!!」
「ギャオォッ!?」
グラビモスはリオレウスに炎を浴びせられながらも、猛然とその豪火を突っ切って行き、リオレウスにすてみタックルをぶちかました!グラビモスほどの超重量級ポケモンの全身を使った攻撃だ……想定以上のダメージが見込めるはず!
グラビモスに突き飛ばされたリオレウスは、切り立った崖に突っ込んだ。土煙と瓦礫で、一瞬だけリオレウスの姿を見失うが……リオレウスはゆっくりとした動作で姿を現した。……いや、若干だが足元がふらついている!!
「グラビモス、ギガインパクト!!」
「ヴヴヴ、ギシャアアアオォォォォッ!!」
すかさず指示を出して、グラビモスに追撃をさせる。しかし、そこで我に返ったリオレウスが空を飛んだことで躱されてしまった。グラビモスが崖に突っ込むが、それによって崖は完全崩壊してしまった。
ふらつきながらも空を飛び、リオレウスはカミナギ寺院跡へと飛んでいく。けれど、崖から抜け出したグラビモスが、何やら様子がおかしい……?
「グラビモス……?」
「ヴヴヴヴヴヴヴヴ……」
グラビモスの様子が変だ!喉元からまるで熱されたように赤くなっている……何をする気――
「ヴルアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
グラビモスの口から、極太の熱線が放たれた。リオレウスには回避されてしまったが、グラビモスが放った熱線は崖上に積もった雪を解かし、雲を突き抜けて……光線の先端が見えなくなるほどに遥か遠くへと伸びていった。
「……えー……」
まるで、かえんほうしゃをさらに高密度に圧縮させたかのような一撃だった。
さしずめ「ごうかえんほうしゃ」といったところかな。
攻撃を外したグラビモスは悔しそうに地団駄を踏んでいるけど……それだけで軽い地震が起こっているのでそろそろ止めてほしい。
「ありがとう、グラビモス。……リオレウスのやり方に、怒ってくれてるんだよね」
「ヴァー!」
「うん、その気持ちだけでも嬉しいよ。……ありがとう、ゆっくり休んでね」
「ヴァヴァ」
私はグラビモスをボールに戻し、三姉妹の様子を見る。……座り込んではいるようだけれど、テル先輩の声掛けに応じている様子からしてきっと大丈夫だろう。
「大丈夫ですか?」
「……あなた、本当に奇天烈なポケモンを従えているのね。あのドラゴンと同格のポケモンが、他にもいたなんて……」
まぁ、普通は驚くよね。……正直、私もあのグラビモスのビームには腰が抜けるかと思った。
「どうして、あたくしたちを助けたんだい?あなたには見捨てるという選択もあったと思うけれど」
「……どうして、ですか。たしかに、皆さんの日頃の行いを思えば、あそこで見殺しにするのは簡単だったかもしれません。
けど……もしもそうしてしまえば、きっと私は元に戻れなくなると思ったんです。……まだ、心のどこかで人間を信じたいと思っている、私に」
「…………」
私の言葉を聞いたオマツは小さく息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。オタケとオウメの二人も、それに続いて立ち上がる。
「……今回の件、いずれ必ず返す。覚えておきなさいな」
「はい」
「行くよ、二人共」
「「は、はい!」」
三姉妹の姿が見えなくなるまで見送ったあと、改めてカミナギ寺院跡へと目を向ける。……あの時、リオレウスは一体何を考えていたんだろう。火を吐く直前、彼は私の方を見ていた。まるで、私がどう動くのかを、試そうとしていたかのように……。
「……ショウ」
「行きましょう、先輩」
「……あぁ!」
……答えはきっと、リオレウスが持っているはず。必ず問い詰めてみせる……だから、そこで待っててね。
迎月の戦場で真紅に輝く綺麗な鱗を拾い、再びジンオウガを繰り出してその背に乗り込み、私たちは走り出した。次はいよいよ……リオレウスとの決戦だ。
やっべ、自分文字数とかなんも数えとらんかった。ニア20000文字で短編とかよくほざくわ、こりゃ……。
と、いうことで……めちゃくちゃ長くなったので前後に切ります。プロットなしで書くからこうなるんやで……みなさんも書きものをする時はしっかりと予定を立ててから書きましょう。
リオレウス襲撃時、みなさんはきっとあのBGMが聞こえてきたことでしょう……。