決 着 完 了。
ついに戦いは終わりを迎えた。スグリの最後の一匹が倒れ、ホムラが勝利したのだ。疲れきったのか座り込んだスグリに近づき、ホムラは手を差し出した。
「強くなったなぁー、スグリ!!テッカバトンとかどこで習ったんだ、説明書でも読んだのか?」
「ホムラだって、相変わらず強いよ……。おれ、すっごく頑張ったんだけどなぁ……何がダメだったんだろ……」
「そりゃあ、お前……シンプルな話だろ。たった一つのシンプルな答えだ」
スグリの手を引いて立ち上がらせつつ、周囲に目を向ける。釣られて周りを見るスグリに、ホムラは答えを送った。
「人は一人じゃ生きてけねぇように、一人でたどり着ける強さにも限度がある。俺には切磋琢磨できる仲間が居る。お前はどうだ?」
「……おれ……おれは……おれは、一人だ……」
「今は、な。……どうだい!スグリは全力で戦ったぞ!全身全霊、己の全てをかけて戦った!意地にかけて、誇りにかけて!なにより!!ブルベリーグのチャンピオンとして!!全てに殉ずる覚悟でこの勝負に臨んだんだ!!
素晴らしい、感動した、俺は素直に賞賛する。何度でも贈ろう、この言葉を。……スグリ、本当に……強くなったな。友達として、俺はお前を誇りに思う!!文句ある奴は今すぐ前にでろ!!俺の友達を嗤う奴も、侮辱する奴も、全員残らずぶっ飛ばしてやる!!」
「ホムラ……!」
周りで観戦していたすべてのブルーベリー生に伝えるように声を張り上げるホムラ。その言葉に、スグリを内心で邪険に思っていた生徒たちも言葉を詰まらせる。
「……スグリよう」
ここでカキツバタが動く。後ろの方ではタロが引き留めようとしたのか、手を伸ばしているのが見えた。
「オマエに勝てなかったオイラが言うのもなんだけどよ……前みたいに楽しくやろうや。勝ちにこだわれんのはすげえいいことだ、誰だって勝ちてえは勝ちてえ。でもよ……こだわりすぎて自分の首しめんのは、違うだろ。まして、他人の幻影追っかけて、それを別の誰かにおっかぶせるのはよぅ。……見てるこっちが苦しいぜ」
「カキツバタ……わかってた、わかってたんだ、そんなこと。みんな、楽しんでポケモンバトルをしてるってことくらいは。
おれは……みんなが、ホムラ達が羨ましい。ポケモン強くて、どこへでも行けて、誰とでもなかよくできて……俺がずっと好きだったオーガポンにも認められて……ねーちゃんだって最初イジワルしてたくせに、すぐみんなのこと好きだし……俺には……何もないよ。
だから、ホムラ達のバトルを見たとき……衝撃だった。強いのに、自分だけじゃなくて戦ってる相手まで楽しませてくれるバトル……あんなふうに戦えたなら、どれだけ良かっただろうって……。楽しんでいるのは自分たちのはずなのにおれも楽しいって思えて、でもホムラ達の笑顔は『楽しませてもらってる』笑顔なんだ。それが、なんだか、おかしくって……すごく綺麗だったから、憧れた」
「…………」
「でも、みんなのようにはいかなかった……勝てる喜びや楽しさをもっとたくさんの人と分かち合いたかったけど、ダメだった。ホムラ達のバトルを広めてみようと頑張ったけど……ははっ、結果はご覧のとおりだべ。……おれ、間違ってたのかな……」
「……ったく、答えを急ぎすぎなんだよ。一つ一つ、ゆっくり解決していきゃいいじゃねえか。安心しろ、お前はまだ俺たちほど急ぎすぎもしてなければ、仲間達に絶望もしちゃいない。見てみろ、周りをよ」
「え?」
スグリがもう一度周囲を見渡してみる。その時だ、スグリの耳に、観戦者の言葉が届いた。
「すごかったよ!」「お、俺にも勝つ方法を教えてくれ!」「チャンピオンの笑うところ、初めて見た!」「楽しくバトルをやろうよ!みんなで!」
「こ、これって……」
それは、ホムラとスグリのバトルを賞賛する声。声。声。二人のバトルの熱に当てられ、見ているだけの彼らもバトルを楽しんでいたのだ。
「……こういうバトル、やりたかったんだろ?もう出来てるじゃねえか」
「あ……う、うぅ……ごめん、ホムラ……ごめん、みんな……!うえぇぇぇん……!!」
「わっ、泣くな泣くな!大丈夫、大丈夫だからな!」
「あのー……ちょっとー、よろし……くはなさそうかな?」
「おっ、タロ。それにみんなも」
話が一区切りついたと思ったのか、タロが話しかけてきた。その後にはアカマツとネリネも続いてくる。
「ええと……まずはホムラくん、チャンピオンおめでとう!普通ならお祝いしたいんだけど……今の……この状況はわたしたちには複雑で、ちょっと整理しないとなの……」
「整理ぃ?」
「だってそうでしょう!」
カキツバタが「なんのこっちゃ」と聞き返せば、タロはぷんすこ感情を顕にしてカキツバタに噛み付いた。
「ホムラくんがチャンピオンになったらリーグ部の部長ってことで、留学生なのに異例だけど今後の方針はどうするの、とか!?あれとかこれとか、とかとかいろいろ!!」
「お、おう……」
「まぁ、そうなるな」
「それに、スグリくんがチャンピオンから四天王に降りてくるなら、ランク的にはアカマツくんが都落ちだし」
「えっ、オレ、そうなの!?ヤバいじゃん!」
異例に異例が重なったことで、なにやら複雑な事情が雁字搦めになっているようだ。なおもタロは続けて言う。
「スグリくんがどうしたいか、ちゃんと気持ちを聞いておかないと……」
「……ごめん、そのことはちょっとだけ待って欲しい。おれなりにちゃんと考えて、答えを出すから」
「スグリ……」
「し・か・も!他にチャンピオンへの挑戦権を残しているコウキさん達はどうするんですか。下手するとアカマツくんだけでなく、私たち全員都落ちですよ!ブルベリーグのチャンピオンから四天王まで、全員留学生とか前代未聞です!」
「あちゃ~、そこまでは考えが及ばなかったわ」
「えぇ!?タロ先輩達まで!?めっちゃヤバいじゃん!」
ある意味、ブルベリーグの死活問題だ。ブルベリーグが留学生にまるまる乗っ取られるという悪夢のような事態を前に、さしものカキツバタも焦りと申し訳無さを感じているようだ。
「放送室より、生徒のお呼び出しです。リーグ部チャンピオン、スグリさん。四天王トップ、カキツバタさん。3年2組、ゼイユさん。交換留学中のホムラさん、コウキさん、リュウセイさん、ゴウタさん。引率のケンスケ先生。
ブライア先生とお客さまがお待ちです。1-4の教室まで、至急いらしてください」
その時、校内放送が流され、ホムラ達が呼び出された。あまりの間の悪さに、全員がしかめっ面だ。
「もう、なんだってこんなときに……」
「ちっ、空気の読めねぇ大人どもが」
「……今は真面目に勘弁して欲しいんだけどねぃ。ブライア先生案件なら、すっぽかすと後が面倒だ」
「すっぽかすと面倒なら、すっぽかさなきゃいいんだろ?」
「そりゃそうだが……何する気なんだ、ケンスケせんせ?」
「いや、なに。生徒の自主性を重んじてもらうため、ちょっとおw手w伝wいwをwねw」
ひとまず四天王を含めた全員で、1-4のクラスへ移動する。
「どもっすー」
「皆、よく来てく――」
「チワーッス、ブライア先生!突然だがこれからするであろうそっちの話はしばらく待ってもらえんかね!!」
「……え、ケンスケ先生?」
カキツバタが声をかけ、ブライアが振り返ると同時にケンスケが最前列に出て声を張り上げた。突然の奇行にブライアもそうだが、全員が驚いていた。
「ほんの数分前にチャンピオン戦が終わったばかりでね!我が校のホムラがスグリに勝利したわけだが、そもそも留学生が一学園の部活動の部長で、さらにリーグ部のランク変動等に伴う諸々の問題を先に検討したいんだが!
身も蓋もない言い方をすると、そっちも急ぎかもしれんがこっちものっぴきならない事態でゴタゴタしてるのでさくっと身内の問題を解決しておきたいってわけ!!」
「……あ、あぁ、なるほど……。確かに留学生が部長を務めるとなると、だいぶややこしくなりそうだね。わかった、本日君たちに素敵なゲストが来てくださっているんだが、入れ違いで校内見学に向かわれてしまってね……戻ってくるまでの間でいいのなら、そちらの問題を先に解決しておいたほうがいいだろう」
「ありあとあす!それじゃ、サクッと決めるぜ!まずはチャンピオン戦を控えているコウキ達!もうめんどくせえから全員辞退でいいな!?」
「おk」
「ええで」
「まぁ、事情が事情だしな」
「はい決まり!次、スグリ!だいぶ巻きで頼む事になるが、今決められそうか?」
「……うん、大丈夫。おれ、ランキングを降りる。それから、日を見て学園も休学しようと思ってる」
「……!スグリ、オメエ……」
スグリから飛び出した『休学』の言葉に、カキツバタは驚きを顕にした。彼の後ろにいる四天王たちにも、そしてゼイユにも動揺が見て取れた。
「一度ここを離れて、実家で自省しようかなって思う。もう一度自分を見つめ直して……それで、またいつかここに戻ってきたい」
「スグ……」
「……そういうことなら、仕方ないですね。ブルベリーグのランク変動を、一時的にストップしましょう」
「おっ、そいじゃあついでに留学生がチャンピオンになれるルールも追加しようぜぃ」
「……それなら、おれが変えちゃった規則も戻していいよ」
「いや、スグリが変えた規則だって、あながち間違いじゃねえモンもある。ちょいと厳しいモンは見直しで、通していいと思えるモンは通しでいいだろ」
「……カキツバタ……最初からそれくらいすればいいのに……ねえ、ゼイユさん」
「ほんとそれ……」
トントン拍子で話が進み、スグリやリーグ部内の問題も丸く収まりそうである。なお、話についていけてないアカマツには「ランク変動を一旦止めたからまだ四天王でいられる」点だけを強調して伝えておいた。
「……とりあえず、これで一旦はオッケーかな。ブライア先生、もう大丈夫ですよ」
「おや、そうなのかい?それでは、さっそく私の方から話をしよう」
「はーい、呼び出されてないメンツは解散解散!」
呼び出し組以外はここで解散となり、残ったメンバーは席に着く。全員が着席(ケンスケはブライアの隣に立っている)したところで、ブライアは語り始めた。
「それでは、単刀直入に話そう。君たちには私と……エリアゼロと呼ばれる秘境をともに探索してほしいんだ!」
「ブライア先生、エリアゼロは自殺スポットちゃいますよ」
「知らぬが仏って言うけどぶっちゃけ神も仏もあったもんじゃねえ」
「なんだろう、研究のために命をおざなりにするのやめてもらっていいですか?」
「死にてぇの?」
「仮にも生徒を預かる身として言わせてもらうが、行きたがる奴もそうだが行かせる側も大概にせぇよ、マジで」
「……パ、パルデア組は辛辣だね……」
ブライアからの話とは、以前からブライアが行きたがっていたエリアゼロの探索へ同行して欲しいというものだ。だが、ご覧の通りパルデア組からの反応は芳しくない。
それもその筈。タイムマシンこそ止めはしたものの、すでに解き放たれたパラドックスポケモン同士による未来VS古来の縄張り争いは未だに続いているのだ。教職に就いたことに加え、エリアゼロへの訪問経験のあるケンスケがポケモンリーグから『エリアゼロ監視員』を任命され、その任が未だ解かれていないことからもその真実のほどが伺える。
ただ、当然のごとく外部への漏洩は厳禁の機密情報だ。ケンスケも一般の野生ポケモンと同種のポケモンを放し飼い同然にエリアゼロに放ち潜入させ、彼らに仕込んだカメラ映像から監視を怠らぬ徹底ぶり。そんな本気モードのケンスケからの報告を受けてなおブライアのエリアゼロ行きを許可したのだとしたら、ケンスケからすれば「見込みが甘すぎる」としか言いようがなかった。
「(冗談じゃねえ……オモダカは何考えてんだ!嫌だぜ、ピクニック感覚で出かけた帰りがお通夜とか)」
内心でそう愚痴りながらも、ケンスケは一応ブライアの話に耳を傾ける。
テラス現象の調査、及び結晶の採取を主目的としつつも、欲を言えばエリアゼロで眠っているとされる伝説のポケモン、『テラパゴス』を発見したいとブライアは語る。
「(あ、最新のアニポケ見たか?)」
「(見た見た、リコ可愛かったな。あとメスガキピカチュウは腹抱えて笑ったわ)」
テラパゴスで思い出したのか、脳内掲示板でコソコソ話をしながら続きに耳を傾ける。パルデア組の反応の悪さから面倒事の気配を感じ取ったのか、スグリもゼイユも顔を顰めているしカキツバタはそもそも真面目に聞いているのか怪しい。やる気ねぇなコイツら。
その時、教室の扉が開かれ誰かが入ってきた。
「ずいぶん楽しそうなお話ですね」
「オモダカさん!先に始めていましたよ」
「お待たせしてすみません」
入ってきたのはパルデアポケモンリーグのトップチャンピオンのオモダカと、リーグ職員にして四天王の一人であるチリだ。
「オモダカさん、チリネキ!おっすおっす」
「おや?チャンピオンホムラ?それに……チャンピオンコウキに、チャンピオンリュウセイ。ゴウタ模範生にケンスケ先生まで、このような場所でお会いできるとは……」
「あれ?オモダカさん、俺らの事情なんも聞いてないんですか?」
「いえ、たった今把握しました……なるほど、ご留学中なのですね」
一瞬で状況を察し、正解を導き出すオモダカ。相変わらずな様子にコウキ達は苦笑いだ。
「ホムラは今やブルベリーグチャンピオンなんですぜ。コウキ達も、四天王全員ぶっ飛ばしちまいやしたし」
「やはり類い稀な才能……素晴らしいことです」
「過分な評価ですよ。俺たち全員、自分がやりたいバトルをしただけなんで」
「ふふっ、謙虚ですねチャンピオンリュウセイ。貴方方がいてくださるのならなおさら……ブライアさん、説明させていただいても?」
「ぜひ、お願いします」
ブライアからの許可を得て、自己紹介をしたオモダカは話し始める。
十数年前、ポケモンリーグはエリアゼロの研究を支援していた。研究が終わった今では大穴の管理をしており、不思議と危険に満ちた当エリアへの基本的な立ち入りや調査を制限していた。
だが、状況が変化する事件が起きた。そう、ロースト砂漠で起こったパラドックスポケモン同士の戦いだ。古代のパラドックスポケモン、イダイナキバ。未来のパラドックスポケモン、テツノワダチ。両者による激しい戦闘によって、ロースト砂漠の生態系が滅茶苦茶になりかける事態に陥った。この時はコウキとペパーが尽力し、『漁夫の利狙って喧嘩両成敗作戦』でイダイナキバとテツノワダチ双方が疲弊した瞬間を狙って奇襲を仕掛け、かろうじて戦闘不能にすることができたのだ。
この時の反省を踏まえて、ポケモンリーグはエリアゼロの迅速な再調査の必要性を感じていた。だが、リーグから捻出できた人材はエリアゼロへの探訪経験があり、リーグ四天王にしてパルデアアカデミーの職員であるハッサクの直弟子にして美術副担任のケンスケのみ。そのケンスケも当初は自ら足繁く通っていたが、現在では自身のポケモンにカメラを携えて野生ポケモンに紛れ込ませるという手段しか取れていない。……これには年齢や世代の近しさから、若者をはじめとして幼い学生らから一定以上の人気が出てしまい、彼らからケンスケの授業出席を求める声が上がったからだ。シミュレーターでもロリ/ショタコンは健在である。
そこで白羽の矢が立ったのが、この度エリアゼロへの調査申請をしていたブライアだ。
「ブルーベリー学園はポケモン育成に長けた実力者が多い。そこに、チャンピオンコウキをはじめとするチャンピオンランクの生徒らが加わるのであれば、安心して再調査をお願いできます」
「……オモダカさん。それは、俺からの報告書をよく読んで、会議を通して吟味した上での判断……と考えてもよろしいので?」
「無論です。ケンスケ先生も同行するのでしょう?この中で誰よりもエリアゼロの現状を把握する貴方がいるならば、
「(……なるほど、『やらかすとすればブルベリ側だろうから、そっちに目を向けてろ』ってわけか……マジで食えねぇ女)えぇ、そうですね。了解しました。上申、失礼しました」
「いいえ、貴方の意見も生徒を慮ってのことでしょう。教職に就く者の使命、心得ていますよ」
「(うわっ……今の言葉、ブライア先生に流し目しつつ言うことか?暗に『オメェも教師なんだからそれくらい分かってんだろうなあ?おおん?』って言ってんのヤベェ)」
なにやらオモダカもオモダカなりに思うことがあるのだろう。白羽の矢も、「立った」と言うより「立てざるを得なかった」感がひしひしと伝わって来る。
「もちろんこれは任意だが、来てくれると本当に心強いよ!皆で一緒にエリアゼロへと調査に行こうじゃないか!」
「「「「(死人が出たらまずいんで)行きます」」」」
「さすがはチャンピオン。ゴウタ模範生も、よろしくお願いしますね」
当然、コウキ達は怪我人、最悪の場合死人が出ることを懸念して同行を決める。マジでシャレにならんからね。
「ええっと、あたしは……行くこと決定だと思うんで」
「いつも通り、私をフォローしてくれると助かるよ」
「悪いけどオイラはパスで。決まったこととかまとめなきゃなんねぇし、残ってやんねえとな」
「……とか言って、めんどいだけでしょあんた」
「へっへっへ、バレたか」
ゼイユは元々ブライアの付き添いで学外活動に勤しんでいるので、必然的についていく流れだろう。カキツバタは……まぁ、ご覧のとおりである。すると残るはスグリのみ。
「スグリ、お前はどうする?」
「……えっと、みんなが行くなら、おれも行ってみたい。今は少しでも、たくさんのことを経験しておきたいから」
「それでは決まりだね!カキツバタくんは残念だが、私、コウキくん、ホムラくん、ゴウタくん、ゼイユくん、スグリくん、以上6名で調査します」
「ありがたい申し出、感謝いたします。我々パルデアリーグから、エリアゼロ調査専門担当のケンスケ先生をお付けします。ぜひとも素晴らしい成果を持ち帰ってくださいね」
「おまかせください、オモダカさん。ケンスケ先生も先導の方、よろしくお願いしますね」
ケンスケは無表情(不満色)のまま恭しく礼をする。思うところはあるものの、上司からの指示とくれば是非もなし、といったところだろう。
「待ちに待ったエリアゼロ調査が実現しようとしている……!各自、準備が出来次第エントランスロビーブリッジ前に集合だ!」
その言葉を皮切りに解散となり、ブルベリ組は各々移動をした。ゼイユがどこかゴウタと移動したがっていたが、ゴウタもトップチャンピオンを無視することはできないのでゼイユには先に行ってもらった。
「お久しぶりです、チャンピオンコウキ」
「まいど!チリちゃんもおるで」
「お久しぶりです、オモダカさん。チリ姐さん」
「まさか自分らと会えるとは思ってもみんかったわ!」
「それはこちらのセリフですよ」
一応コウキ達もテラパゴス関連に関する予習はしているが、それはあくまでテラパゴス戦に備えてのもの。おおまかなストーリーまでは未修状態なのだ。
「パルデアを離れてもパルデアチャンピオンとして、その才を発揮されているようですね」
「まぁ、チャンピオンとしてのメンツもありますので。泥を塗るような真似はしてませんよ」
「ふふ……さすがはチャンピオンリュウセイ。それでこそ、私が一番に見込んだ逸材です」
「(わかったから、そのねっとりとした視線やめてくれよ……)」
まるで獲物を見るような粘っこい視線を向けてくるオモダカに、リュウセイは内心で酷くげんなりとしている。聡明な知識に文句なしの実力者とくれば、早々にオモダカから目をつけられてしまったのだ。
「せやなあ、逸材逸材……いや逸材言うて!自分ら大穴ん中、許可もとらんと入ったやろ!それに関してはちゃんと怒らしてもらうで!」
「いや、ちゃうんすよ姐さん。これには深い事情が……それに俺ら、チャンピオンなんで!」
「うんうん、せやな……って!チャンピオンなのでやあらへんわ、コウキ!あかんもんはあかーん!」
「なんでやちゃんと説明しましたやん!」
「細々とした事情は全部ケンスケから聞いとる!けどそれはそれ、これはこれや!」
「ぴえん……」
まぁ確かに事情が事情ならやむを得ないが、チリの言う通りそれはそれ、である。しかも当時のケンスケはハッサクの直弟子ではあったが教職にはまだ就いてなかったし、リーグ関係者ですらなかった。事後承諾もいいところである。
結局、オモダカに宥められたので表面上は渋々といった様子でチリも大目に見てくれると言ってくれた。本当は心底心配だったらしい。
「さて、チャンピオンコウキ、チャンピオンホムラ、チャンピオンリュウセイ。この度はポケモンリーグ公認でエリアゼロに向かっていただきます。以前、最深部で起きたとされるタイムマシンの件については一部の者しか知りませんが、エリアゼロの危険性を踏まえて、ブライアさんには多少ぼやかしてお伝えしていますよ」
「へぇ」
「まぁ、妥当な判断だ」
「あの好奇心の塊人間、知ったら知ったで突撃しそうだからなぁ……」
「ゴウタ模範生は、チャンピオンである彼ら三名が認める実力者と聞き及んでおります。そこで、特別に同行を許しました。……もし時間に余裕があれば、ぜひポケモンリーグにも挑んでみてくださいね」
「アッハイ(美人の笑顔でマジ怖えぇ)」
「そして……ケンスケ先生。先程のことも踏まえて、貴方にはブライアさんに目を光らせていただきたい。貴方が懸念していたように、エリアゼロの最新部にある研究所は研究施設であると同時にオーリム博士、そしてフトゥー博士の墓所でもあります。好奇心の赴くまま、不当に荒らすようであれば……トップチャンピオンの名において、リーグ職員ケンスケに制裁の執行を許可します」
「自由裁量ってわけですか……わかりました。ケンスケ、命令を受諾します」
概ね伝えておきたいことを伝え終わったところで、チリがブライアに渡す物があったことを思い出した。オモダカも思わぬ再会でうっかり失念していたらしい。
そうして、一番信頼を置けるとしてリュウセイに預けられたのは、青いディスクだった。このディスクは昔、エリアゼロ研究者から出資者に送られたディスクで、調査部に調べてもらったところ、当然だがわざマシンではない。ないが、単なる記録媒体でもないそうだ。今日に至るまで、未だ使用方法は見当もつかないそうだが、エリアゼロ関連であるのは間違いない。ほんのついでで良いので、ディスクについても調べて欲しいそうだ。
「……エリアゼロはいまだ解明されていないことも多い。一度最深部まで行かれたとはいえ、パラドックスポケモン同士による抗争は絶えず続いています。優秀なトレーナーとして、貴方方がブルーベリー学園の皆さんを導いてくださいね」
「……ホンマはチリちゃんもついてったりたいけど、仕事やねん。コウキ、皆、無理せんときばりやぁ」
「それでは、失礼致します。……おっと、そうでした」
帰る直前、踵を返したオモダカはぐいっ、とリュウセイに顔を近づける。突然のことに慄いていると、そっと囁かれた。
「今度、貴方の勧めに従って髪を切ってみようかなと思っています。オススメの理髪店があれば、ぜひ教えてくださいね?」
「ヒュッ……ハイ、ワカリマシタ」
「フフッ」
「……あ、せやケンスケせんせー。今度ポピーに連絡とったり、あの子寂しがっとったで」
「え"っ……あ、いえ!了解しました、出発前に一報入れときます」
「よろしゅうなー」
「では、改めて……失礼しますね」
そうして、オモダカとチリは教室を後にした。それから彼らも移動を始めるのだが……その間、他三人から突き刺さるような視線を浴びて居心地悪そうにするリュウセイとケンスケであった。
エントランスロビーブリッジ前で集合し、早速一行は移動を始めた。まず、ゼロゲートにあるワープ装置で第1観測ユニットへ移動する。初めてエリアゼロを訪れるブルベリ組に、エリアゼロを見てもらうためだ。
観測ユニットから外へ出ると、ブライアは早速柵から身を乗り出さんばかりにエリアゼロを見渡している。ゼイユもスグリも言葉が出ないようだ。
「え、えっと……ホムラは、前に来たことあるんよな?」
「あぁ、コウキらとは別の友達とな。……そうだ、後でネモにも会いに行くか。林間学校が始まってからこっち、なかなか会う機会なかったしなぁ」
「……冷静に考えたら、今回の一件でペパーをハブにするのは判断ミスか?」
「ボタンがいるとはいえ、みんな俺手製の勉強ドリル、ちゃんと終わらせてるかね」
「どうせならハルトにも同行して欲しかったな……戦力は大いに越したことはない」
「……みんな、友達多いんだな」
「そうかな?」
「ゴウタ、ボタンって誰」
「あぁ、ボタンは俺が可愛がってる後輩の女の子で……いたたた!いてっ、いてぇって!!何すんだお前!?」
「フンッ!」
友達の話をしただけなのに拗ねてしまったゼイユに、訳が分からず頭に「?」を浮かべるゴウタ。その直後、ボールからコライドンとミライドンが姿を現し、久々の第二の故郷の空気に喜びを顕にした。ブライアもコライドンとミライドンに興味津々だが、今回の調査で確かめたいのはエリアゼロの最深部の更に奥なのだという。
ただ、冒険家ヘザーは最深部からさらに下へ落ちたことがあるらしいのだが、そこへの道筋も行き方もまったくおぼえていないそうだ。はーつっかえ。
「ヘザーを信じるなら、きっとエリアゼロのさらに下に知られざる空間があるはず……。取り急ぎは最深部……ゼロラボとやらに向かおう。ケンスケ先生、先導を頼んだよ」
「了解しました。ひとまず、最短経路でいきましょうか」
第1観測ユニットのワープ装置に再び乗り込み、一気に第4観測ユニットまでワープする。荒らされた様子のユニット内部に驚くスグリ達だが、そんな彼らの様子などまるで気にも留めず、ホムラ達は先へ先へと移動する。
「えー、ここからはガチの危険地帯です。パラドックスと呼ばれるポケモンたちが常に縄張り争いを繰り広げていますのでどうぞ――」
話している途中だが、ケンスケの頭上をムーンフォースが素通りしていった。さらに反対方向からはエアスラッシュが飛んできた。ギガドレインをれいとうビームが打ち消し、ギガインパクトとヘビーボンバーがぶつかり合う爆音すら聞こえてきた。
「――命が惜しけりゃ、引き返しな。悪いことは言わんから。いや、マジで」
振り返った先では、古代のパラドックスポケモンと未来のパラドックスポケモンによる壮絶な争いが繰り広げられていた。互いが互いを「本気でぶっ殺してやる」とばかりに、殺意の高い攻撃が飛び交っている。
「いいや、ここまで来て引き返すわけには行かないな。ケンスケ先生、そしてホムラくん。君たちパルデア組に、露払いをお願いしたい!」
「まぁ、そのためにここにいるわけですしね」
「やったるかー」
コウキはミライドンを、ホムラはコライドンを繰り出し、リュウセイ、ゴウタ、ケンスケもそれぞれヒスイダイケンキ、ヒスイバクフーン、ヒスイジュナイパーを繰り出した。それからは凄まじい快進撃である。ノンストップで駆け回り、ほとんど無傷でゼロラボ前までたどり着いた。
「なにここ、すっごい!てらす池みたい!」
「おそらくゼロラボかな?オモダカさんが教えてくれた外観の様子と一致している」
「ここが最深部?」
「ある意味そうで、ある意味違う。かつてエリアゼロ観測隊が到達した最深部はここ。そしてゼロラボ内の下の階には用途不明の謎の部屋があるとのこと」
「(謎の部屋……タイムマシンのことだな)」
「だが、私が行きたいのはそれよりももっと下なんだ……」
吐き出された言葉に込められた万感の思い……その思いに隠された危うさに、ホムラ達は幸先を不安に感じるのであった。
「……ケンスケ」
「ちょい待て。……よしよし、よく来たルドルフ」
「キラフロル?お前のポケモンか、ケンスケ」
「おう」
よく見るとゼロラボの扉は閉じられている。ケンスケは近くを漂っていたキラフロルを手招きすると、その体に取り付けられた小型カメラを外して映像の内容を確認した。映像では扉は開いていたものの、ある日閉じられる様子が映されていた。長期間認証されなかったため、入口が再度ロックされてしまったようだ。
「どういうこと?動かないの?」
「そうみたいだ」
「以前は開いたのだよね。なにか条件が違うのだろうか?」
「初めてここに来たときは……協力者の手もあって、入るのは容易だったんだが」
「ついでに言えば、以前までは俺が通いつめていたからな。その時はまだロックも解除されていたんだが……俺が授業に引っ張りだこになってからはそれも難しくなってしまった。どうやら俺が訪れていない期間が長すぎたせいで、再度ロックされてしまったようだ」
「なるほど」
と、その時だ。ゲートのコントロールパネルが、「青のディスクの反応を検知した」と反応を示した。青のディスクを挿入すると、アクセス権が拡大されるらしい。これによって、もう一度ゲートのロックが解除されそうだ。
「青のディスクって、リュウセイがオモダカさんから預かったものだよな」
「あれか……よし、とりあえずいれてみるか」
リュウセイが青のディスクをセットすると、エレベーターの行き先が『ゼロの大空洞』に変更され、ゼロラボの入口が開かれた。
「開いた」
「入るわよ!」
「待て」
勢い勇んで入ろうとするが、それよりも早くケンスケが動く。入口を塞ぐように立ちはだかると、そのまま仁王立ちになる。
「ちょっと、ケンスケ……先生。なんで邪魔すんのよ」
「……最初に言っておく。これは警告である。繰り返す、これは警告である。これより先はパルデア地方ポケモン研究の第一人者にして、エリアゼロ調査研究の権威であるオーリム博士及びフトゥー博士の研究所である。……彼らは研究のさなか、不慮の事故により志半ばで果ててしまった。つまり、この先の研究所は彼らの墓所でもある。あの場にある物、その全てが遺品も同然。遺族からも『あの場にある物はそのままにしてほしい』と言伝をもらっている。
あそこに何があって、どんなことをしていて、どんな人がいたのか……それらをメモなりなんなりで記憶するのは一向に構わない。だが、万が一にも不用意に物色したり、墓荒らし紛いのことをしようものなら……俺はリーグから与えられた自由裁量の権限の下、問答無用でぶちのめす。具体的に言うと、その生身に一撃必殺技をぶち込んでやるから覚えとけよ」
本気で凄み、殺意でもって脅しつけるケンスケの姿は、普段からホムラ達に振り回されっぱなしの少し情けない同年齢教師という印象を吹っ飛ばした。同時にゼイユとスグリの二人は、エリアゼロに来てから妙にホムラ達の機嫌が悪そうな、苛立たし気な雰囲気を纏っている理由に察しがついた。
「(そっか……ここで研究してた博士って、みんなにとっても大事な人なんだ)」
「(友達に博士さんの遺族がおったんかな……それなら、みんなの気が立ってるのも納得だべ)」
いわば、友人の親の墓所に事情を知らない他人が土足で踏み込んでいるようなものだ。友達思いのホムラ達なら、遺族である友人を思ってストレスを抱えるのも無理はないだろうと二人は考えた。
「……ああ、もちろん。気をつけるとも。何かあれば、ケンスケ先生に確認を取ればいいかな?」
「ええ。俺に確認を取った上で、俺が吟味しそちらへ手渡しましょう」
こうしてケンスケからの注意喚起をしっかり聞いてから、一行はゼロラボ内へと入った。ケンスケの先導に従い、早速ゼロラボ内を見て回るブルベリ組。
余談だが、ケンスケの
「あの奥にあるのがエレベーターだ。……コンソールの機械音声が言うには、あのエレベーターの先が用途不明の部屋からゼロの大空洞って場所に変わってるそうだが……」
「行ってみるしかないだろう」
エレベーターに乗り込み、下へと移動する一行。エレベーターの扉が開いた先は、ホムラ達も知らない空間だった。
そこは、ゼロの大空洞。伝説のポケモン、ゼロの秘宝テラパゴスが眠る場所。ここでホムラ達を待ち受けるテラパゴスとは、一体どんなポケモンなのか……それは真実、神のみぞ知る。