クロノとの決戦を制し、勝利することができた私。けれど、その直後にミラボレアスがヒスイ地方に降臨し、天上に逆さに映りこんだシュレイド城が見えるという異常現象が起こった!
クロノとのバトルで傷ついている上に、圧倒的戦力不足で一時撤退を余儀なくされた私たち……。光輝叔父さんも疲れた体に鞭打って、私達を山頂ベースまで運んでくれた。流石に無理をさせすぎたので、今はボールの中で休んでもらっている。
改めて、テンガン山へ目を向ける。逆さのシュレイド城を中心にまるで空間が歪んでいるかのように空がぐにゃぐにゃになっている……ディアルガが暴走した時の比じゃない、不気味な異常さが見て取れる。
「あれ……状況が悪くなるとどうなるんですか……?」
「勘だけど、シュレイド城の全貌が見えてくるほどやばくなると考えていいよ。ミラボレアスはシュレイド城に留まらず、シュレイド地方全体でヒスイ地方を押し潰そうとしてくる……いや、ミラボレアスがシュレイド地方ごとこの世界に完全降臨すれば、この世界の全ての生き物の死は確定すると思っていい。それぐらい、あいつはやばい。
黒い龍……何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる龍。人類種の天敵……それが、ミラボレアスよ」
「…………」
静香さんの声が、震えている。握られた拳にも、その震えが伝わっているかのようだ。あの静香さんにここまで言わせるとは……。
「ショウ、ゼルレウスを回復させ次第、すぐにコトブキムラへ向かおう。可及的速やかに、対策を練らなければならない。時はないと考えるべきだろう」
「……ですね」
アカイさんに言われるまま、私達はゼルレウスに乗りコトブキムラに帰還する。ムラに着いて早々、私たちはギンガ団本部前で空を……いや、テンガン山を見ていた団長達に合流した。
「ショウ!」
「先輩!」
「ショウ!これは……一体、何が起こっているのだ!?」
「団長、説明します……」
私は事の仔細をみんなに話した。クロノとのバトル、ミラボレアスの降臨とその目的。遥か天上に見える廃墟……シュレイド城のこと。
「マジかよ……他所の世界の地域をまるまる引っ張って来るとか、とんでもねえ化物じゃねぇかよ……!」
「シュレイド城と、その周辺一帯に相当するシュレイド地方を使ってヒスイ地方を上書きする……ヒスイ地方が跡形もなく無くなってしまう……!」
「ぐぬぬぬ……ディアルガとパルキアの問題でさえ厄介であったというのに、この上さらにそれを超えるほどの事態が起きるとは……!!」
セキさん、カイさん、デンボク団長がそれぞれミラボレアスの所業を信じられない・ありえないといった風に聞いていた。シマボシ隊長やラベン博士は完全に絶句しており、言葉が出てこない様子だ。
「ミラボレアス……!」
「くそっ……やはりあの時、俺が逃がしさえしなければ……!!」
「泣き言は後だ、ニールくん。今は如何にミラボレアスを討伐するかを考えるんだ」
「…………」
ネネさんは表情を険しくし、ニールさんは悔いている様子。シュラークさんは冷静に事態を見据え、対抗策を練るよう促している。……ヒューイさんが無言なのは逆に怖い。
「……いや、今は黒龍の力に畏怖している場合ではない。全員、ひとまずギンガ団本部に集まり、作戦会議を開く。セキ、カイ両名は各団にいるモンスター使役特許保持者に集合を掛けよ!」
「「あぁ!/わかった!」」
「ムベ!聞いていたな?お前も来るのだ!」
「相分かった」
いち早く行動を起こしたのはデンボク団長だった。まずセキさんとカイさんにそれぞれモンスター使役特許保持者……つまり、ワサビちゃんとガラナさんを呼んでくるように頼み、自身もムベさんを呼びつけて本部へ踵を返していく。おぉ、驚きでちょっと反応が遅れちゃったじゃないか。
ギンガ団本部に、ワサビちゃんとガラナさんも集まり、ハンターも含めた『対黒龍対策会議』が緊急で開かれた。
「さて、まずはミラボレアスと交戦経験のあるハンター殿から意見を聞きたい」
「……それは――」
「勝てんぜ」
ニールさんが口を開いた直後、それを遮るようにヒューイさんが声を張った。
「ヒュ、ヒューイ殿!なにを!?」
「だから、勝てんと言ったのだよ、俺は。まぁ、正確には『上手く立ち回らないと勝てんぜ』と言いたいのだが、立ち回りや仕合運びを抜きに考えても、厳しいと言わざるを得ん」
「……その心は」
「おう、全部言わんとわからんか?ミラボレアスとケリをつける、あの戦場が全てを物語ってるだろうが」
……どういう意味だろう?私も先輩も首を傾げるが、静香さんが苦々し気な顔で、重く口を開いた。
「……兵器が足りない。ヒューイさんだって、己の腕一本でミラボレアスを倒したわけじゃない。狩場となるシュレイド城に残された兵器も上手く使いこなして、自分に有利になるように立ち回りを心がけていた」
「それだけじゃない。あそこはただ空間が広いだけの平野も同然で、隠れられる場所も何もない見晴らし100%の空間。……シュレイド城を覆い尽くすほどの"劫火"を放たれれば、逃げ場がない。ポケモンの技には"まもる"って技があるけど、あの時は五頭以上のモンスターが重ねがけをしてもアルバトリオンのエスカトンジャッジメントを防ぎきれなかった。そして、ミラボレアスの"劫火"はエスカトンジャッジメントの威力を優に超える……つまり……」
静香さんに続いて、ニールさんもそう言った。圧倒的な兵器不足と、障害物の無さ……それが、ミラボレアスと戦う上で致命的だというのだ。ヒューイさんが小さく頷いていることから、正解らしい。
「……そういうわけなんだわ、団長殿。そして、モンスターボールが流通しているこのヒスイ地方じゃ、ポケモンを直接傷つけるような兵器類は存在しない……まして、源龍亜目の攻撃を凌げるような防衛手段もない。
こう言っちゃアレだが、この世界には自分たちよりも巨大な存在に対する対抗手段が乏しすぎる。今からあれこれこさえても、それこそ付け焼刃もいいところだ。モンスターを使役しているとはいえ源龍亜目とそれ以外の種族など、空から大砲をぶっぱなす飛行船に弓矢でちょっかいかけるようなもんだ。生物としての格が違いすぎる」
「……やはり、伝説の狩人といえど黒龍討伐は一筋縄ではいきませんか」
「俺ぁ、無敵の人じゃないんだぜネネちゃんよぉ?あれこれ準備して、様々な可能性を考慮して策を弄し、現地の兵器とか必死こいてやりくりして、やぁっとぶちのめせたんだぜ?
だから、文字通り何もない祖龍との戦いは、本当に死を予感したよ。まぁ、結果的に引き分けたが」
あ、あのヒューイさんでさえ事前準備を念に念を押して、石橋を叩きに叩きまくって備えをして、即席のアドリブも多分に交えながらミラボレアスを倒したのか。……ん?それじゃあ、現地に兵器類がなかったミラルーツとの戦いはどう乗り切ったんだ!?
「トレーナーの安全も考慮すりゃ、ミラボレアスとの戦いは決して楽なもんにゃならねぇ。なんかの拍子でミラボレアスがトレーナーを直接狙ってこねぇとも限らねえんだ。ハンターをトレーナーの護衛にするのも手だが、かといってハンターという戦力を出し惜しんで勝てるわけもねぇ。
詰み一歩手前、ってとこだ。さて、どうやって勝つかな……」
「……ヒューイ殿でも、流石にすぐさま実行できる策が思いつかないか……」
「おぉ、せめて予兆でもありゃ、まだ事前準備に取り組むくらいは出来たんだが……なんかせ、急な出来事だったもんでな」
考えること、やるべきこと、そのために必要なもの……何もかもが足りなさすぎる。完全に後手に回ってしまった……これは、ミラボレアスが一枚上手だったという他ない。かつて一度、ミラボレアスに勝利したヒューイさんですら、現状で出来ることが少なすぎると嘆くほどだ。
「せめて、俺らが使ってたようなバリスタや大砲がありゃマシなんだが……」
「ミラボレアスがいるあの空間は、ポケモンの技に対応できるように地形が変化することはあれど、龍宮砦跡のように兵器が埋没しているというわけではなさそうです。望みは薄いかと……」
「なおさらキッツイな。特に何が一番キツイかって、あれだ……
その言葉に、ハンターのみんなは大きく目を見開いた。静香さんとニールさんは歯を食いしばり、シュラークさんも腕を組んで黙り込んでしまった。
ネネさんも俯いてて……いや待て、あれは静香さんの歯軋りに耳をすませてないか?体が若干だが静香さん側に寄ってってる。
「撃龍槍……って言ったら、あれか。でっけぇティガレックスをぶちのめすのに使った……」
「そうだぜ、セキ。古龍やそれに匹敵する古龍級生物を狩猟する場合、モンスターに対する迎撃用兵器の中でもトップクラスの威力を誇る代物。まさに最終兵器と呼べるに相応しいものだ。例外はあれど、人類存亡の危機に陥れるような危険なモンスター相手には、この手の兵器がよく使われるもんだ。
だが、今回ミラボレアスと戦うあの戦場には、撃龍槍も含めたあらゆる兵器が存在しない。ドンドルマやシュレイド地方にある超ド級大砲『巨龍砲』もだ。ないないづくしの中で、技巧種となり文字通り千を超える手練手管を弄してくるミラボレアスと対峙する……ここにいる連中じゃなけりゃ、どいつもこいつもが尻尾巻いて逃げ出す状況だぜ?」
勝つのは難しい、勝率は低い、勝算はほぼない……そう言いながらも、ヒューイさんから戦意が薄れる様子はない。むしろ、話せば話すほどますます意気軒昂といった様子で、感情が高ぶっているのが傍目でもわかる。
「俺ぁ、いろんな状況、あらゆる条件下で多くのモンスターを狩猟してきた。理不尽な条件をつけられたこともあった。埒外な報酬金をちらつかされたこともあった。無論、俺だって受けたいクエスト、受けたくないクエストってのはある。だけどな……ミラボレアス、奴を殺れっていう話なら、タダでも喜んでやるぜ」
ヒューイさんが振り返り、静香さん達ハンターに拳を突き出す。
「どうだ、お前ら。我ら人類は滅亡の危機に立たされた。ミラボレアスは須らく世界を隈なく、例外なく滅ぼす。撤退は不可能。状況は最高。乗るか、反るか」
「わざわざ言わせたいんですか?乗りますよ、当然」
まず最初に、静香さんがヒューイさんの拳に己の拳を当てた。
「自分で蒔いた種だ、自分で狩らせてもらう」
続けて、ニールさんが。
「そのために、俺達はここにいる」
「姉さまが行くならばどこまでも。たとえ地獄でも世界の果てでも」
シュラークが、ネネさんが、拳を突き出し合わせていく。……すごい、ハンターのみんなはこんな状況でも全く絶望していない。それどころか、より一層闘志を激しく燃やしている。
「よし……デンボク団長殿、我らハンターは既に覚悟完了済みだ。そちらはいかがかな?」
ヒューイさんは、今度は私たちに覚悟を聞いてきた。そんなの、聞かれるまでもない!
「……元より、覚悟は決まっている」
「うむ。我らの新天地を守るために」
「たりめぇだ!」
「相手が誰であろうと、戦い抜くのみ!」
上からデンボク団長、ムベさん、セキさん、カイさんだ。
「ヒスイはみんなの場所だもん!」
「守り抜きましょう、何が何でも」
ワサビちゃん、ガラナさん……!
「アルセウスが創造せしこの世界を滅ぼそうなど、ワタクシが許しませんよ」
ウォロ……相変わらずだな!
「ショウ」
「先輩……」
「大丈夫だ、ショウ。今度は、みんながいる。おれだっている……必ず勝とう!!」
「……はい!!」
テル先輩……そうだ、あの時、初めてミラボレアスと出会った時はアルセウスが一緒だったとはいえ、実質私一人だった……けど、今は違う。こんなにも沢山の頼れる仲間がいるんだ……みんなと一緒なら、必ずやれるはずだ!
「……ヒューイさん、私達も全員、同じ気持ちです。私達も戦います。必ずミラボレアスに勝ちましょう!」
「……へへっ、そうこなくっちゃな!さぁ、団長殿!やることは多いぞ、早速行動に移そうじゃないか!」
「うむ」
そうして、対ミラボレアス戦を想定した様々なパターンでのシミュレーション、ヒスイ地方から住民を逃がすか否かの相談、ヒスイ地方の資材で可能な限りの兵器製造、モンスターとトレーナーの組み合わせ等等……やることがすっごく多い!
「皆、ここにいたか」
「アカイさん!?」
「おぅ、アカイ。シロんとこに行ってたんだろ。あいつ、なんつってた?」
と、ここで途中から姿が見えなくなっていたアカイさんが部屋に入ってきた。しかもヒューイさんが言うには、シロちゃんに会いに行ってたとか……いや、いつの間に。それに、シロちゃんもどこに行っちゃったんだろう……?
「シロが言うには、一ヶ月の猶予があるらしい。その間に、出来ることをやっておくぞ」
「一ヶ月、一ヶ月か……まぁ、無いよかマシか。よっし!んじゃあ、その期間でバリスタを製造するぞ。この際、大砲とか贅沢は言わねぇ」
「組み立て式バリスタか……まぁ、それくらいならこちら側でもなんとかなるか。ようは、二連装の巨大な弩だからな」
「そいじゃ団長殿、建築隊には俺から話を通しておこう。なに、案ずるな。設計図は俺の頭の中にあるし、書き出したものは全てを終え次第、逐次破棄するからよ」
「(まだ何も言っておらんのだが……)相分かった、そのようにしてくれ」
言うだけ言って、ヒューイさんはさっさと部屋から出て行ってしまった。うーん、行動が早い……いや、それだけもう時間がないってことだろうな。一ヶ月って、長いようで短いし。
「あの、アカイさん。シロちゃんは……」
「シロは祖龍とコンタクトを取っている。さしもの祖龍も、異世界を巻き込んだ半身の蛮行を見過ごすわけがないだろう、と」
「なるほど……」
「あ、それならアカイさんが仕えてる紅龍……ミラバルカンは?」
先輩の質問は目からウロコだった。そうだ、アカイさんだって仕えてるミラボレアス……紅龍ミラバルカンがいるじゃないか!そう思っていたけど、アカイさんは困ったように笑みを浮かべ、肩をすくめていた。
「紅龍はアテにできん。すまないな」
「えっ!?な、なんで……」
「本当にすまない。……『我が身を傷つけ追い詰めたあんちくしょうに誰が手など貸すものか!死ねっ!!あんのクソ野郎今すぐ死ねぇ!!』とにべもなく突っぱねられてしまってな」
「……ちなみにあんちくしょうって……」
「ヒューイだ」
「ヒューイさんェ……」
えぇ……そんな過去の遺恨なんて気にしてる場合じゃないだろうに……。
「まぁそれもあるんだが、一番は半身にして上位種たる祖龍があの男を囲ってるからなんだが。その影響は巫女であるシロにまで及んでいる。おかげで彼女まで……ハァ……」
「(あぁ、アカイさんがヒューイさんのことを嫌いなのって、そういうことだったのか)」
そりゃあ、親戚から預かった大事な娘が年の離れた(?)成人男性に恋焦がれてるなんてことになれば、預かった責任がある以上、無視できないもんね。
……そのわりには、夜になるとしょっちゅう会ってるみたいだし、うるさかったりするんだよねあの二人……なにやってるんですか、アカイさん。
「そういうわけで、紅龍の支援は期待できない」
「まぁ、ないものねだりは出来ませんね」
「それじゃあ、アルバトリオンの時とは違って、シロちゃんは一緒には戦えないってことか……」
「あぁ。そういうわけなんで、ショウ。黒龍と戦う時は、私にゼルレウスとラ・ロを預けてくれ」
「わかりました。先輩にはライゼクスを預けます。お願いしますね」
「あぁ、わかった!」
あとは、時間との勝負か……。この短い期間で、どれだけのことができるか……いや、とにかくやるしかない!!
行動開始から二週間が経過した……。
「……ふーむ。組み立て式バリスタは三基がロールアウト、狩猟に必要なアイテムも数は少ないが量産は出来た。トレーナーとモンスターの連携も申し分ない……しかし」
ギンガ団の本部でそう言葉にしながらゆっくりと歩いて回るヒューイさん……。
「やはり撃龍槍及び巨龍砲がないのは痛い、痛すぎる。かといってこちらの世界の資材だけでは、あれだけの兵器を生産するには一ヶ月では足りない。加えて……」
ちらり、と目を向ける。その先にいるのは、私とガラナさん。
「……ラギアクルスに、進化の兆しが見られなかったのはマズイ。メガシンカするにはメガストーンが必要なんだが今日まで見つけられなかった上に、ショウが見せてくれたきずなへんげという現象も起こらなかった……」
「……っ、申し訳ありません。わたくしの不徳の致すところです!」
「いえ、ガラナさんは悪くありませんよ!メガシンカもそうですけど、これまでがむしろ都合良く事が起こりすぎたんです。今更理不尽なことが起こったって、驚きませんよ。それに、たとえメガシンカもきずなへんげもなくったって、ラギアクルスは戦う気マンマンですし」
この二週間、ガラナさんとラギアクルス……否、流静さんは鍛錬に励んでいたけど、メガストーンは見つからないしきずなへんげの兆しも無いしで、流静さんはともかくガラナさんは島キングの時以上に精神的に追い詰められているようだ。今だって、酷く焦燥した様子で頭を下げてしまっている……これはマズイな。
流静さん曰く、ガラナさんときずなへんげが出来ない要因には『ガラナさんの心情』が深く関わっているらしい。ガラナさんは自身が担当していた島キングを助けてもらった上に、今はこうして共に戦うことをゆるしてもらっていると考えている……つまり、流静さんとガラナさんのメンタルが対等ではないのだ。
きずなへんげは、『思いを一つにしなければならない』という絶対条件がある。そういう意味で言えば無意識下で流静さんを上に、自身を下に見ているガラナさんでは現状「不可能」なのだそうだ。そのことを内緒でアカイさんに相談したとき、すごく不思議そうな顔をされてしまった。
『可能性がある者なら、もう一人いるだろう。あのラギアクルスは、水橋流静だぞ?』
アカイさんが言う、もう一人のきずなへんげの素養の持ち主……それは、私と光輝叔父さんと同じ、『血縁の家族』という条件を満たしている――。
「……?ショウ、どうしたの?」
「静香さん……いえ、なんでもないです。大丈夫です」
「そう?なにか相談があるなら、いつでも言ってね」
「はい、ありがとうございます」
静香さんも一時は盲信というか、執着じみた恋愛感情を実の兄である流静さんに抱いていたそう(ベリオロス……剣介さんから聞いた)。けど、光輝叔父さんや焔さんが言うには、「最近は憑き物が落ちたような顔をしている」らしい。そう、それこそまるで、流静さんが生前の頃は抱いていた執着心が薄れているかのような……。
あと、剣介さんは「ヤンデレって言うんだぜ」と教えてくれた。……ヤンデレ?
「仕方ない。出来ないからといって戦力から外すつもりはないぜ。ショウと共に戦ってきた以上、能力で劣る原種だろうがアテにさせてもらう」
「……承知しています」
むむむ……でも、静香さんがハンターとして前線で戦う以上、流静さんへの技の指示と並行しての戦闘はいくらなんでも酷が過ぎるというもの。やはりここは、ガラナさんに任せるしかないだろう……こればっかりはガラナさん自身が気付いて、改善しないといけない問題だから。
「よし。……狩猟時間も考慮して、こっからはなるべく巻きで行くぞ!」
バリスタ製造工程も急ピッチに入るようだ。私達も本部を出て、それぞれ為すべきことをするために行動する。……それもあるけど。
「うーん……」
「ショウ、どうしたんだ?」
「あ、先輩」
私が考え事をしていると、テル先輩が来てくれた。せっかくだから、相談しよう。
「いえね、ミラボレアスを撃退して平和を取り戻したら、ダイケンキ達を連れ出さなきゃいけないなって」
「え?どういうこと?」
「ほら、ヒューイさん達の世界……モンスターの影響を受けたポケモンって、強すぎるじゃないですか。だから、人の目の届かない遠い遠い場所に連れて行って、ひっそりと暮らしていけるようにしないと……。彼らの血を引いたポケモン達が、同じように成長しないとは限らないし」
「なるほど……未来で悪い奴らに利用されないように、情報を残さないってわけだな。確かにそれには賛成だ。興味本位で探られるのも、なんか嫌だしな。……すると、一旦はヒスイ地方を出て、どこか別の大陸を探すってことか」
「はい。……一応、私は未来から来ているので、私が知りうる地方は遠慮したいところですね。それ以外の地方で、けれど人の往来が容易ではない場所……」
「まぁ、その時が来たらのんびり探そう。ミラボレアスさえ倒せば、時間はたっぷりあるんだからさ!」
「そうですね!」
うん、やることはいっぱいだ。ミラボレアスに勝って、世界を平和にして、ダイケンキ達のための新天地を探して……未来を想像すると、ワクワクしてくる!明日を求める希望の心、人類の可能性……それを、ミラボレアスに見せてやるんだ!!
ミラボレアスの計画達成まで、残り三日。組み立て式バリスタは計六基が完成し、メガシンカもラギアクルス以外は滞りなく可能とすることができた。バリスタは天冠の山麓の山頂ベースまでをゼルレウス達飛行可能な飛竜種に運搬してもらい、そこからは人力で運ぶ事になる。ギンガ・コンゴウ・シンジュの各団から「我こそは」と名乗り出た者達が、決戦場までの運搬・組立を買って出てくれた。
天上に映るシュレイド城の景色はあの日よりもだいぶ大きく、そして近くに感じられる。ここまで近づいているなんてとんでもないことだ……そして、計画が成ればシュレイド地方に上書きされてヒスイ地方が消滅する……そんなこと、絶対にさせるもんか!
「……さぁて」
先頭を歩いていたヒューイさんが振り返る。今回、彼の格好はギンガ団調査隊の隊服ではなく、私が拾った当時の鎧……クシャルダオラの素材で作った『クシャナシリーズ』……を、最新加工技術を駆使して作成した『クシャナXシリーズ』に身を包んでいる。どうやら発見当時のクシャナシリーズは最新鋭の真逆である最古豪と呼んでも間違いないほどに旧い加工技術で作られたものらしく、防具をアップデートしないままこちらの世界に来るまで狩りを続けていたらしい。シロちゃんを介して行っていたネネさんの定時報告を受けたあちらの世界の人達が「伝説の狩人にそんな襤褸は着せられない!」と無理矢理シロちゃんに押し付けて送りつけてきたらしい。
……それを知った静香さんやネネさんが、まるで宇宙を見るような顔で呆然となっていたのはちょっと新鮮だった。
「組み立て式バリスタ六基、バリスタの弾もそれなりの数は用意できたし、バリスタ用拘束弾もギリ三つまで出来た。……いやー、難儀したぜ。まさかこの世界の人間、物理的に生物を傷つける兵器類にここまで嫌悪感があったとは……世界の平和を守るためとはいえ、酷なことをさせちまったよ」
「必要経費です。プライドやポリシーのために世界を犠牲にはできませんから」
「厳しいねぇ、シズカは。けどまぁ、お前さんが建築隊のケツを蹴っ飛ばしてくれたおかげで、こうして間に合ったんだがね」
「憎まれ役は慣れたもので」
「姉さまぁ……」
そう、世界を滅ぼすものが相手とはいえ、生き物を直接的に傷つける兵器を作ることに、建築隊の反応はかなり悪かった。ただ、ここで静香さんが……
『命が惜しくない人は、そこら辺でイモモチでも貪ってりゃいい。自殺志願者にまで無理強いをさせるつもりはないから』
と、盛大に煽り散らした結果「やってやろうじゃねぇかよぉぉぉ!?」と建築隊一同、総激怒。ブチギレた勢いで組み立て式バリスタ及びバリスタの弾製作に励んだのだった。
「シズカの煽り能力、また一段とキレが増してたな……」
「ヒスイがダメになるかどうかなんだ、やってみる価値があると気づいてくれたんだろう。……と、思いたい」
「シュラーク殿……」
シュラークさん……でも、静香さんも割と本気で軽蔑してたような目をしてましたよ?まるで、そう、養豚場のポカブを見るような目を……。
っと、そうこうしている内に決戦場に着いたみたい。ミラボレアスは……いない、か。
「……よし、ミラボレアスは離席中だな。ゴシャの居ぬ間に洗濯、だ。バリスタを組み立てよう!」
「扇形に展開しろ!なるべく広く間隔をあけつつ、各所にバリスタを組み立て次第、バリスタ弾及び徹甲榴弾を装填!ただし、二基にはバリスタ用拘束弾を装填できるよう、可能な限り弾倉を空けておくように!」
シュラークさんの指示で、ギンガ・コンゴウ・シンジュの連合団が行動を起こす。ハンターのみんなもアイテムや武具に不備がないかを確認し、私達トレーナーも相棒となるモンスターが格納されたボールを手に取る。
「ショウ。作戦の要は、お前さんとジンオウガのきずなへんげにある。だが、あれはジンオウガと様々な感覚を共有すると聞いた。ミラボレアスは強い……だから、使いどころを見誤るなよ」
「初手ぶっぱなんて子供みたいなことはしませんよ。……大丈夫です。チャンスはしっかり見極めます」
「……来ます!!」
静香さんが見上げながら、そう叫んだ。シュレイド城の向こう……小さな黒点が見える。それが徐々に、徐々に近づいてきて……。
「グルルルル!!」
「……ミラ、ボレアス……!」
かつて私に呪いをかけ、そして今や世界を一つ滅ぼそうとしている破滅の黒龍、ミラボレアス……それが、私達の前に姿を現した!!
ミラボレアスは余裕を見せつけるように羽ばたきを繰り返しつつゆっくりと降下し、そして今、戦場に降り立った……!
「ミラボレアス……ここで、決着をつける!」
「ミラボレアスッ!!シュレイド城から始まり、異世界にまで続いたお前との因縁、ここで終わらせる!!」
「まったく……アタシ達の問題を余所様にまで持ち込んで……ホント、心底迷惑極まりない邪龍ですこと!」
「こういうのはガラじゃないんだが……世界の平和のためだ、この世界からご退場願おうか!」
静香さんのガンランスが、ニールさんの大剣が、ネネさんのライトボウガンが、シュラークさんのスラッシュアックスが、ミラボレアスに向けられる。その中でも、一際オーラが強い者……ヒューイさんが前に出て、背中に背負った太刀を抜いた。
「おう、ミラボレアス。若造がイキり散らすなよ。俺にはわかるぜ……お前さん、随分と若い個体だな?」
「……ッ!!」
「俺ぁかれこれ、ミラボレアスと呼ばれる古龍と三度戦っている。一度目はシュレイド城で黒いのと。二度目は火山地帯で紅いのと。そして、三度目……塔の秘境で、白いのと。
どいつもこいつも強かった、何度も己の死を予感した。そして、それら全部を乗り越えて、俺はミラボレアスにただの一度も敗北しなかった。そんな俺から、お前さんに一言言わせてもらう。
若いの、お前……弱いだろ?それもフィジカルが、じゃねぇ……メンタルが、だ!!」
「ギシャアアアアアアアアアンッ!!」
「逆ギレか?だが、事実だ!一度目の黒いのも!二度目の紅いのも!!三度目の白いのもっ!!俺は、俺が使えるあらゆる手段を使って戦った!そして、あいつらもそんな俺を相手に真っ向から立ちはだかってきた!!
三度、ミラボレアスを乗り越えた俺にはわかる!お前さんには、俺がかつてあいつらから感じた『
「(あの野郎……俺との死闘でそんなことを考えてたのか。フッ、なるほど道理で……祖龍が心底惚れ込むわけだ)」
ヒューイさんの宣言を受けたミラボレアスは、まるで怯んだかのように半歩後ろ足を引いている。こ、これが最強のハンター、
「ミラボレアス!ヒスイ地方は、あなたの好き勝手にはさせない!ここは私達の世界だ!!」
私がジンオウガを繰り出したのを合図に、みんながモンスターを繰り出していく。ジンオウガ、ゼルレウス、ラ・ロ、ラギアクルス以外のモンスター達が、一斉にメガシンカしていく!
「これで終わりにする……勝負だ!ミラボレアスッ!!」
「ギシャアアアアアアッ!!!」
ミラボレアスが 現れた!! ▼