黒龍ミラボレアスとの激しい死闘……制したのは、私たちだった。撃龍槍を回収し、私たちは一路コトブキムラを目指す。村の正門では、ヒスイに住まうすべての人達が集まっていた。もしもに備えて、ヒスイ地方から避難できるように集合をかけていたのだ。
みんなが注目する中、アカイさんからマスターボールを受け取ったデンボク団長がボールを高く掲げて叫んだ。
「……皆、聞けぃっ!今ここに、ヒスイ地方を脅かさんとする邪龍は封印された!!我々が人類が、この世を滅ぼさんとする悪意を打ち払ったのだ!!刮目せよ!ここにあるは先の黒龍封印において誰よりも最前線で戦ってきた我らの英雄達!!
皆、宴を開こう!!シンワ祭りよりも、一層盛大に!世界を救った彼らを称え、今日を生きる喜びを分かち合おう!!」
――わああああああああああああっ!!
デンボク団長の言葉が終わると、誰もが喜びを顕にした。後で聞いたが、時空の裂け目に映ったシュレイド城はコトブキムラからもはっきりと見えていたし、なんなら戦ってる様子も爆発や技の余波(特にミラボレアスの劫火)などが余裕で見えていたらしい。だから、ムラで待機していたみんなは「マジでヤバイ事が起こってる!\(^o^)/オワタ」とこの世の終わりを嘆いていたそう。
だが、それも時空の裂け目が消えて空がすっかり元に戻り、さらに私たちが凱旋したことで無事に解決したのだと悟ったのだ。それでも、デンボク団長の言葉を聞くまでは感情を爆発させないで待てたのは普通にすごい。
それからは、シンワ祭りにも負けない祝勝会が始まった。今回、勝利に貢献してくれたハンターの皆さんも一緒になって楽しんでもらえて良かった。ニールさんやシュラークさんが音頭に合わせて踊っていたり、ヒューイさんは相変わらずシロちゃんとイチャイチャラブラブしてたり……。それにしても静香さん、お酒弱いんですね。酒の席に誘われたり、ネネさんにしれっと飲まされそうになってるのを全力で抵抗していた。
当然、モンスターやポケモン達も労いの対象だ。普段よりもたくさんの人が彼らと触れ合ったりする中で、出された食事に舌鼓を打っている。それと、ヒューイさんに捕まったのか野盗三姉妹も祝勝会に参加してたのが印象的だった。流石にシロちゃんとイチャイチャしてたのはドン引きしてたけど、それでもヒューイさんと一緒にお酒を嗜むくらいには楽しんでいるようでなによりだ。祝勝会が終わったら、また野盗生活に戻るのか……。
「ショウ」
「静香さん!楽しんでますか?」
「ふふっ、一番の功労者にそれを聞かれるなんてね。うん、楽しんでるよ」
私はというと、座っているジンオウガの揃えられた前足の間に座ってこの祝勝会を楽しんでいた。そんな私の下へ来たのは、静香さん、ニールさん、ネネさんの三人だ。
「……長いようで、あっという間だったな。ショウ達が俺達の世界に来て、逆に俺達がショウ達の世界に来て……けど、異世界渡航はこれっきりにしたいところだな。なるほど、ゲラルトが愚痴っていたのもよくわかる……」
ニールさんが頭を掻きながら、苦笑いを浮かべている。ゲラルト?知り合いなのだろうか。
「……別れが惜しいな、本当に。ここは……この世界は、すごくのどかだ。俺達の世界と比べると、殺伐さという一点でも全然違う。すべてのポケモンが弱肉強食に無理に従うことなく、きのみを食べて暮らせるというのも不思議なものだ」
「その点については同意しますわ。ハンターとして武装している自分たちの方がどこか過剰戦力な気がするくらいには、ポケモンという生き物は人間により近い立ち位置にいる生き物なのだと」
「……結局、断りきれなかったのもあって、ここで捕獲したポケモンを連れ帰ることになっちゃったね」
「良いのではないですか?姉様だって、既にキャラバンでメタモンを飼っているじゃありませんの。今更ですわ」
「それはそうなんだけど」
静香さん達がヒスイ地方でゲットしたポケモンは思いのほか彼らに懐いてしまい、ポケモン側が別れを全力で拒んだために連れて帰ることになったらしい。メタモンという前例がある以上、受け入れてはもらえるはずだ。
「ところで、ショウ。以前、相談されたことなんだけど」
「はい」
「ハンターズギルド及び龍歴院は受け入れオーケーだって。出発前に彼らのボールを預からせてもらうね」
「お願いします、静香さん」
私は以前から、静香さんにある相談を持ちかけていた。それは、ヒスイ地方に流れ着いたモンスターたちのことだ。
ジンオウガ、グラビモス、ラギアステラ、ゼルレウス、ベリオロス、ラ・ロの六頭はヒスイに骨を埋めることで一代限りとし、その血を絶やすことを決意した。だから、私が頼んだのはこの六頭以外のモンスター達を静香さん達ハンターの世界に連れ帰って欲しいことだ。静香さんは祝勝会の準備中にシロちゃん協力のもと、私の提案をギルド側に提出。無事に許可が得られたとのこと。
ただ、最初に挙げた六頭がヒスイで血を絶やす事に龍歴院が難色を示し、ゴネまくって遅延行為を働くという事態が起きたらしい……まぁ、わからないでもない。龍歴院が難色を示した理由……というより、モンスターはジンオウガ、ラギアステラ、そしてゼルレウスとラ・ロだ。ゼルレウスとラ・ロは【二つ名】を経由しつつ強力個体へと進化したその成長過程が、ラギアステラは全くの別種且つ未知のモンスターへの進化が、ジンオウガは主に【きずなへんげ】関連での成長過程が、それはもう知りたくて知りたくて……といった具合だ。結局、大長老の鶴の一声で事態は収まったものの……。
「(焔さんには悪いことをしたな……)」
「(仕方ないよ、ショウ。いわゆる、コラテラルダメージってやつだから……)」
その鶴の一声というのが、「以前から求愛行動著しいライゼクスにゼルレウスの子を孕ませればいい」というものだから、私も静香さんも死にそうになった。それから二人で全力の土下座をかましてゼルレウスとラ・ロから許可を頂き、無事ライゼクスにゼルレウスの子を孕ませることに成功した。
……ゼルレウス、想像以上に搾り取られて死にかけてたな……。
「(でも、これでよかったんだ……。ライゼクスは好いたオスの子を産める、その代わり焔さんと葵さんは子供を作れずとも一生を添い遂げられる……うん、いいこと尽くしだ!)」
「(焔さんの負担だけがでかすぎる事を除けば……)」
「(それは言わない約束だよ、ショウ……)」
はぁ……と二人揃ってため息をつく。祝勝会の喧騒もあって、ニールさんとネネさんに聞こえていないのが幸いだ。
「あぁ、姉様に相談していた例の件ですか……その節は我が龍歴院が大変ご迷惑をばおかけしまして……お恥ずかしい限りですわ」
「向こうからの報告では時空の裂け目が消えると同時に、それまで連続的に発生していた技巧種の出現がピタリと止んだって話だ。それでも、技巧種が全部いなくなったわけじゃない……少しずつ技巧種を減らしていって、元の生態を取り戻そうと頑張ってるようだ。ヒスイに流れ着いたモンスター達も、技巧種研究の一助になってくれる……そうすれば、より技巧種との狩猟の役に立ってくれるだろう」
「……問題は、技巧種化した古龍種の狩猟が未だにままならない、という点ですわね」
ネネさんが顎に手を当てて悩ましげに唸っている。静香さんが聞いた話では、技巧種と化した古龍種は本当に手がつけられないらしく、ハンター四人での狩猟成功例は未だゼロとのこと。
「我々を助けてくれたクシャルダオラにオオナズチ、そしてシロの移動の手助けをしていたキリンを除き、他の古龍種は技巧種化した後も変わらず普段通りの生活・生態を維持している。だが、個体によっては「そこにいるだけで」人類に被害をもたらす個体もいるし、他の技巧種モンスターを討ち滅ぼそうと暴れたことで結果的に被害が広がったり……そんな古龍種を討伐しようとあれこれ試みたそうだが……」
「流石に強すぎオワタ……ってところか」
「先に挙げたクシャルダオラ達の手を借りても、追い返すだけでせいぜい……完全に仕留めることは難しいそうだ。そこへ来て、ショウの提案だ。ギルド側としても、人慣れしていて狩猟の手助けに期待ができる技巧種モンスターの合流は渡りに船だったんだろう」
ニールさんがそうまとめたところで、お酒をグイっと煽る。私達の問題はある程度は解決したけど、ハンター達の世界はまだまだ問題が山積みのようだ……。
「ショウが気にすることはないよ。ヒスイでの問題は解決した……だから、今度は私達の番。必ず、すべての技巧種を狩猟してみせる。ハンターの、名に賭けて」
「あぁ……!また姉様の伝説に新たな一節が加えられますのね!」
「だな。ミラボレアスを倒し、二つの世界を股にかけた大事件を解決した……そのうちシズカが
「えっ!?いや、あの、私これ以上目立つのは嫌なんだけど……」
「「もう遅いよ/もう遅いですわよ」」
「そんなぁ……」
ガックリと肩を落とす静香さんに、笑い声を上げるニールさんとネネさん。それから、静香さんもつられるように笑い始めた。……うん、これが私達が勝ち取った未来なんだと思うと、物凄く感慨深いものがある。
「ここにいたのか」
「アカイさん」
続いてこっちに来たのはアカイさんだ。すぐ後ろにはシロちゃんを肩車しているヒューイさんの姿が。
「ショウ、改めて礼を言おう。ミラボレアスの捕獲、よく決断してくれた。祖龍に事の仔細を伝えたところ、ひどく安堵されたよ」
「そうだったんですか」
「私からもお礼を言わせて、ショウ。ミラボレアスの入ったボールは、向こうの世界で厳重に封印を施すわ。まぁ、仮に出てこられたとしても、戦闘の傷が癒えていないうちは何もできないだろうし、本人ももう何のやる気も起きないでしょうから」
シロちゃんはいそいそとヒューイさんの肩から降りると、私に頭を下げてきた。慌てて頭を上げてもらったけど、シロちゃんはどこまでも清々しげだ。
「貴女は本当に凄い人だった、ショウ。少なくとも、ハンターという理外の人をよく知る祖龍も紅龍も、たいそう驚いていたわよ?ハンターほど抜きん出た身体能力も精神力もない子供の身空で、あの黒龍を退けるばかりか捕獲してしまうんだもの」
「祖龍が……ミラルーツが、そう言ってたの?」
「そりゃあ、大したもんだ。誇っていいぜ、ショウ!お前さんは、この世界で言うところのアルセウスのような存在に認められたんだ。自慢になるぜ」
ヒューイさんが快活に笑いながらそう言ってくれた。そうだね……ミラルーツは一度だけ見たきりだけれど、アルセウスと同格か、それ以上に強い格を持つドラゴンだった。オリジナルのアルセウスと相対すると確かに緊張感はあるけど、ミラルーツはそれ以上に「恐れ多い」という感情を抱く相手だった。そんな存在に認められたとなると、望外な喜びが湧いてくる。
「シロちゃん、ミラルーツに"こちらこそありがとうございます"って伝えてくれる?」
「うんっ、もちろんだよ!」
「アカイさん、このあとの流れは?」
「この祝勝会が終わった後、翌日からシロは祖龍とコンタクトを取る。まぁ、すぐに連絡が付くだろう。こちらも帰還前の準備も必要だから、一日二日は猶予がある。その間にやるべきことを終えて、すぐに帰還だ。
まずは我々の世界で受け入れ予定のモンスターをボールに収めつつ、持ち帰り処分する兵器類の設計図の漏らしがないようにまとめること。技巧種に関連する資料や情報もこちらで引き受ける。また、技巧種対策のためにラベン博士にまとめていただいたポケモンに関する情報など……ふぅ、やるべきことは多いぞ」
意外とやることが多かった。けど、アカイさんやハンターの皆さんならきっと難なくこなすんだろうな……。
「ミラルーツもアルセウスに協力を要請して、私達の世界とショウ達の世界の間に生じた道を完全に断ち切ることにしてるの」
「……!それって……」
「うん。……それが成れば最後、二度と二つの世界が交わることはない。流石にあの時と同じ事が起こるとその可能性もゼロじゃなくなるけど……時空の裂け目と古龍の誕生なんていう二大事件がピンポイントで重なることもそうそうないでしょう」
「…………」
「…………」
……そう、だね。時空の裂け目を開いた元凶であるギラティナはこちらに屈服済みで、冥灯龍ゼノ・ジーヴァの誕生だって頻繁な周期で起こるものでもないらしいし。だから、偶発的な自然発生の事故で再び二つの世界がつながる可能性は、それこそ天文学的確率になるらしい。
「……つまり、自然発生で世界が繋がることは二度とない、と」
「そうなるね」
「まぁ、しょうがないわな。生物として何もかもが違いすぎるんだよ、ポケモンとモンスターは。どこにシナジーがあったかはわからんが、結果的に双方ともに互いの特徴を受け入れつつ成長できたのが奇跡みたいなもんだ。どっかでバグってもおかしくないんだ、むしろ幸運だったというべきだわ」
「……気に入らんが、私もコイツと同意見だ。交わらないのならそれに越したことはない……忘れがちだが、ポケモンに【二つ名】や【極み】といった個体が生まれたり、モンスターがポケモンの技を覚えて技巧種となったこと自体も異常事態なのだ。その問題の根本となっている二つの世界の交わり……これを完全に絶つことも、事態収束のための最善手の一つだ」
「会えなくなるのは寂しいなぁ……ヒスイには俺らの世界に負けず劣らず、いい女がたくさんいた!」
「もーっ!もーっ!!」
「こらこら、シロ。落ち着いてくれ頼むからいやマジで」
ヒューイさんェ……でも、ヒューイさんの言う事も、アカイさんの言う事もどちらも正しい。こういう事後処理は、ちゃんとやっておかないと後の火種になりかねない。異常事態と取るか、奇跡と取るかは人ぞれぞれ……けど、放置して良い問題でもないので、しっかりとケジメをつけとかないとだ。……ここまで、ここまで来たんだよね。本当に長かったなぁ……。
お母さん、私、頑張ったよ。だから……今、貴女に会いたい。
祝勝会の活気も少しずつ冷静さを取り戻しつつある。宴もたけなわ、と言ったところか。
「そろそろお開きかな、デンボクよ」
「うむ」
あ、団長達が動き出した。そろそろ祝勝会も終わりそうだ……っと、その時だ。一瞬、昼と錯覚するほどの大きな光が発生したかと思うと、ゆっくりとコトブキムラに降りてくる。あれは……。
「アルセウス」
「お久しぶりですね、ショウ」
「うん」
「なんと……アルセウス様!?」
「まさか、本物……!」
「すごい!これがシンオウ様……アルセウス様!」
なんと、アルセウスがこんなところにまで現れた。しかもあの巨体だ、ミラボレアス戦で私達を助けてくれたオリジナルのアルセウスだ。周囲はあっという間に大騒ぎ。しかもアルセウスに導かれるようにジンオウガ達居残り組も集まってきた。アルセウスは一頭一頭に目を向けると、小さく頷いた。
「……ジンオウガ、グラビモス、ラギアステラ、ゼルレウス、ベリオロス。まずは感謝を。私の呼び声に応え、彼の黒龍を打ち払う手助けをしてくれたこと、本当にありがとうございました。そして、ラ・ロ。彼女の導きによってこの世界へ来てくれた貴女にも、惜しみない謝意を」
その言葉を受けたムラにいる人達に驚愕が走る中、ジンオウガが代表して頷いた。それから、今度は私の方を見るアルセウス。
「……ショウ」
「うん」
「貴女には、随分と過酷な運命を背負わせてしまいました。貴女がヒスイを照らし導く希望になってくれればと、ただその一心でした。今にして思えば、私は彼女に対して顔向けできないようなことをしてしまいましたね……本当に、すみませんでした。そして、ありがとうございます」
「うん」
「私が貴女を選んだのは、決して偶然でもなければいい加減でもありません。ある種の、確信があったのです。……といっても、貴女にはなんのことやらさっぱりですね。ですから、今こそお話します。私が貴女を選んだ、その真実を」
そう言うと、アルセウスの体から光が発せられて……一瞬目を覆った、その直後には景色が変わっていた。ここは……。
「やりのはしら……?」
「そうです。今、この景色を見ているのは貴女と私だけ……さぁ、もうじき彼女がやってきます」
アルセウスに促されて、視線を前に戻す。やりのはしらの入口に、一人の少女がやってきた。私そっくりの、あの子は……。
「お母さん……?」
そうだ、お母さんだ。お母さんが冒険をしていた、十歳の頃。お母さんはバッグからてんかいのふえを取り出すと、それを吹き始めた……って、えぇ!?
「てんかいのふえ!?ど、どうして!」
「おそらく、ギラティナが起こした事件が原因でしょう。一度歪んだ時空は、長い時間をかけて再生します。ただ、完全に直りきるまでには小規模ながら事故のようなことが起きるもの。ヒスイ地方で完成したてんかいのふえが、未来へ転移してしまった可能性が濃厚です」
「うわぁ……」
やっぱウォロはギルティだね。
さて、てんかいのふえを吹いたお母さんが光の階段を上って行き、アルセウスと対面した。
「アルセウスだ」
「えぇ、私ですね」
「……え?あれ、オリジナル?あなたなの?」
「はい」
「はいじゃないが」
「いえ、あの、弁解させてください。あの時、私は自分が創造した世界の外から魂が流れ着いたことを察知していて、あの場所からその魂の様子を見守っていたのです。そうしたら急に本人が目の前に現れるものですから、あれこれ考えているうちに立ち去る機会を逸してしまいまして……」
めっちゃ早口じゃん。あ、話し合いしてる。
『こんにちは』
『……えぇ、こんにちは』
いやいや、お母さん?さも当たり前のように挨拶しないで?これでアルセウスが喋れなかったらどうするの?
『初めましてですね、外なる者よ。我が名はアルセウス、この世界の創造主です』
『初めまして、アルセウス。私はヒカリ。前世では稲妻光梨と名乗っていた者よ。貴女の言うとおり私はこの世界とは違う世界で生き、死後にこの世界へ流れてきた』
『……恐ろしく素直に認めるのですね』
『嘘をつくメリットがないからね~』
あ、ほにゃっ、って音がつきそうな笑顔……相変わらずだなぁ、お母さん。
『なんと呼べば?』
『前世の名前でいいよ~。今世の名前はまだ十年しか生きてないからね』
『いいでしょう、外なる者・ミツリ。貴女はここへ何をしに来たのですか?』
『もちろん、あなたをボールに収めるため』
『ほぅ……』
『でも、勘違いしないで欲しいな。それはあなたを従えるためじゃないの』
『どういうことです?』
いや、本当にどういうことなの?
「懐かしい……あの取引を持ち込まれたときは、さしもの私も度肝を抜かれてしまいました」
「そんなヤバい話してたの……!?」
「ふふっ、まぁ彼女らしい提案でしたよ」
アルセウスは笑顔でそう言うけど……一体どんな提案を……?
『従えない、と言いながら捕らえるとは……矛盾していませんか?』
『最近のボールってすっごく便利なんだよ~?一度捕獲されたポケモンはボールを破壊されたり逃がされたりしない限りトレーナーIDが自動的に登録されて、他人に盗られないよう防犯機能が付いているんだ』
『それで?』
『私はこの世界でパルキアを捕まえた。……けど、捕まえた後で怖くなったの。伝説のポケモンという一個人には過ぎたる力、果たして保有しておくべきなのかって』
『…………』
『これはゲームじゃない、現実なの。……だから、私はパルキアを逃がした。あんな小さなボールに収めておくより、この世界の空間を変わらず調停してくれた方がよっぽど有意義だからね。パルキアにはパルキアの役割がある……それを、全うして欲しかった』
『まぁ……』
お母さん……すごい覚悟だ。なんだか、ディアルガもパルキアも放牧場に放りっぱなしの自分がものすごく恥ずかしくなってきた。
『傲慢かもしれない、不遜かもしれない……けど、それでも私が望むのは、あなたの保護。誰かのボールに入っちゃえば、別のトレーナーがあなたを探し当てても捕まえることはできない。大事なのは、誰かに捕獲されているという事実。どうか、お願いします』
そう言って頭を下げると同時に、お母さんは手に持ったモンスターボールを差し出した。そうか、伝説のポケモンの力……捕獲したとなれば、それを振るいたくなるというもの。
彼らには彼らの役割がある。使命がある。それを一身上の都合で連れ回したり、ましてやバトルの場に引きずり出すなど言語道断だ。お母さんはそれをわかっていて、誰かの手に渡る前に手付きにしておこうというんだ。
『……なるほど、あの子が言ったとおりですね』
『え、それはどういう……?』
『この時代に生きる者によって力を暴走させられた時、小さな人間が助けてくれた、解放してくれた……あの子はそう言ってましたよ』
『まさか、パルキアが……?』
『わざわざ私に会いに来て、そのことを嬉しそうに話してくれました。一度は捕獲されたけれど、自由にしてくれたとも。あの子のあんなに嬉しそうな顔、久しぶりに見ました。
私は貴女を信じましょう、ミツリ。どうか、私をボールに収めてください』
『……はいっ!!』
そうして、アルセウスはお母さんのボールの中に入り、そしてすぐに出てきた。お母さんはアルセウスが入っていたボールを首飾りにすると、それをアルセウスの首にかけていた。
『これでよしっ、と!えへへ、似合ってるよ~アルセウス!』
『ありがとうございます。これが、ファッションというものなのでしょうか。なんだか気分が高揚します』
『うん!』
強風に煽られるように、景色が掻き消えていく。やがて、私とアルセウスが最初に話をしていた時と同じ空間になった。
「……そっか。貴女は、お母さんのポケモンだったんだね」
「ええ」
頷くアルセウスの首には、それまで見えなかった首飾りがされている。十年以上は優に経過しているであろう、ややくたびれたモンスターボールの首飾り。
「だから、私に可能性を見出したんだね。外の世界からやってきた魂を持つ、お母さんの娘である私に」
「はい。そして、それは間違いではなかった。貴女は艱難辛苦を乗り越えてこの世界と、あちらの世界を守ってくれました。ヒスイを導く、光になってくれました」
私とアルセウスの間に、上から光が降りてきた。アルセウスは「餞別です」と言った。
「彼女から頼まれました。貴女に選択肢を与えて欲しいと」
「これは……!」
光の正体は、オリジンボール……!?私はミラボレアス戦後からずっとポーチに入れっぱなしにしていたオリジンボールを取り出した。中に入っているポケモンを繰り出せば、そこにはディアルガがいた。それじゃ、このもう一つのオリジンボールは……私は思い切って、もう一つのオリジンボールを投げた!
「ぱるぱるぅ!」
「パ、パルキア……!?そんな、どうして……」
「ショウ……貴女は、本当に素敵な母親を持ちましたね。前世で心に傷を負いながらも再び与えられた人生を懸命に生き、最後には愛する人と結ばれた。私は、彼女ほど強い女性を知りません。彼女がこの判断を下したのも、きっと貴女を想ってのことでしょう」
「お母さん……!!」
わかる、理屈とか原理とかさっぱりわからないけどわかる!このオリジンボールは、パルキアは、お母さんのポケモンだ!!オリジンボールに入っているディアルガとパルキアが揃った……つまり!!
「私……シンオウに、未来に帰れるんだ!!」
「これこれ、その判断は尚早ですよ。変に判断が早いのも親子ですね、貴女達は」
「あっ……そ、そうだった」
うっかりしてた……私が未来に帰るということは、テル先輩やみんなと一生の別れになる……それは、それは……!
「……この空間も、時期に閉じます。そうすれば、また皆さんとのお話に戻らないとなりませんね」
「う、うん」
「では、戻ります」
景色が、変わっていく。気づけばコトブキムラで、景色が変わる直前の状態になっていた。
「ショウ、どうした?」
「先輩……いえ、なんでもないです」
先輩が真っ先に心配してくれた……けど、私は……。
「……さて、私は役目を終えました。後のことは、この時代を生きる人々に託します。あなた達に、光ある未来を……祈っています」
それだけを言い残すと、アルセウスは走り出した。天を昇るように走って行き、やがてその姿は星となって見えなくなった。
「……いやはや、流石はアルセウス様だぜ。存在感がディアルガ様の比じゃねえや」
「ディアルガ様とパルキア様を創造せしアルセウス様……うん、確かにすごかった……本当に」
「ううむ……あれこそが、アルセウス……この世界を創り給うたポケモンか……」
「(……見向きもされない、か。ここまで来るといっそ諦めが……つくわけがありませんねぇ!!いずれ必ずワタクシを見てもらいますからね!)」
各団の団長達は、アルセウスとの思わぬ対面に感慨深い様子だった。他の人たちも軒並み似た反応だ。……一人、全然違う反応の奴がいるけど。
……と、ここで私はポーチが重さを増していることに気がつき、中を開く。二つあるオリジンボール……そっか、選べってことなんだね、お母さん。
「え、オリジンボールが二つ!?」
「ど、どうなってるんですか?」
「……アルセウスが、道を示してくれたんです。私に、後悔のない選択をするように、と」
「アルセウスが……」
バカ正直にお母さんが~、というわけにもいかないので、アルセウスがやったことにして誤魔化す。私は二つのボールを見つめながら、思考に耽る。
選択の時が来た。
過去に残るか――
未来に帰るか――
ショウの選択は……。
ショウが選ぶ未来は……。