ポケットモンスターHUNTER アルセウス   作:箱厨

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番外編第一段、はーじまーるよー!
というわけで、以前から言ってました脳内シミュレーションの番外編です。


番外編
ポケモンSV脳内シミュレーション 後日談その1


エリアゼロ、キタカミの里、ブルーベリー学園……三つの舞台で壮絶な冒険を繰り広げてきたパルデアアカデミーの生徒達。全てを終えた彼らは故郷であるパルデア地方に戻り、思い思いの余生を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~コウキの場合~

 

パルデアアカデミー・オレンジクラス所属の少年、コウキ。彼は現在、ピケタウン付近の高台の上でテーブルを広げ、ピクニックの準備をしていた。遠くから風を切る音が聞こえ、いじっていたスマホロトムをしまう。

 

「来たか」

 

見上げた先からは、ミライドンが飛んできていた。その背中に、一人の女性を乗せて。着地するミライドン。それと同時に女性はミライドンから飛び降り、一目散にコウキの下へ駆けていく。

 

「ダ~イブッ!」

 

「おっと」

 

身長差はコウキの方が上。年齢は女性の方が上だが、こうして近くで見ると年齢差まで逆転して見えそうだ。女性は顔を上げると、それはもう嬉しそうな笑みを浮かべている。コウキも釣られて微笑んだ。

 

「久しぶり、ジャモ姉」

 

「ひっさしぶりだね!コウくん!!」

 

そのお相手は何を隠そう。今をときめくインフルエンサー、『ドンナモンジャTV』を配信しているエレクトリカルストリーマー、ナンジャモその人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

サンドウィッチを食べながら、二人は誰の邪魔も入らない場所で食事を取る。ナンジャモはサンドウィッチを食べながらも、ずっと嬉しそうな表情でコウキを見つめている。その視線に気がついたコウキが、食べる手を止めてナンジャモに目を向けた。

 

「どしたん、ジャモ姉?」

 

「んーん。こうして大好きなコウくんとのんびりオフを過ごせる日を無事に迎えられて、嬉しいなーって思ってただけだよ?」

 

「ジャモ姉は忙しいからね。有名人冥利に尽きるんじゃない?もしくは嬉しい悲鳴」

 

「えー?それはコウくんと一緒にいられる日がちゃんとあるからだよ。忙しさに目まぐるしくなってコウくんとの距離が離れるくらいなら辞めるし」

 

「いや、そこは最後までやり通してもろて」

 

「にしし。冗談だよ、冗談!」

 

「やれやれ……」

 

それにしても、随分と距離の近い二人である。座る位置は隣同士で、コウキが食べているサンドウィッチにはナンジャモの顔がプリントされた旗のピックが使われている。

 

「ジャモ姉はさらに人気が伸びるな。最近じゃ、ブルーベリー学園に特別講師として呼ばれたりしてるんだろ?」

 

「そう、それだよ!」

 

「はい?」

 

「君に会えると思って講師の話を受けたのに、ボクが行った時にはもう既にパルデアに帰ってきてたとか聞いてないんだけど!?」

 

どうやら行き違いがあったらしい。不満をあらわにするナンジャモを落ち着かせるように、コウキは弁明を始めた。

 

「あ~……ほら、前に言ったじゃん。ツレが怪我したって。その件で、ちょいと帰りの便が早くなったんだよ。悪かったって。だからこうしてジャモ姉のオフの日に合わせて俺も予定を空けたし……家族水入らずの時間を過ごしてるじゃんか」

 

「……ふ、ふ~ん?コウくんもボクに会えなくて寂しかった?」

 

「もちろん、寂しかったよ」

 

「……ふふん。姉想いな従弟を持ててボクってば果報者だなぁ~」

 

「こっちのセリフな」

 

どうやらコウキとナンジャモは親戚同士の間柄のようだ。会えて嬉しいと言うコウキに気分良くするナンジャモだが、コウキは内心では複雑である。原作キャラクターと身内になれたのは望外の喜びだが、それが前世とよく似た関係となると微妙な気分になった。

光輝は前世を17という若さで早死し、そのせいで従姉である光梨が心を壊し、クズ男に尊厳まで破壊された上にクズ男を巻き込んで自殺してしまった。そのことが尾を引いており、精神的には一歩引いた立ち位置に収まろうとする悪癖が生まれた。心の距離が近すぎて、いざ自分の身に何かあった時に相手側に起こりうる影響の大きさを考え恐れるようになったのだ。

肝心のナンジャモは「そんなの関係ねえ!」とばかりにグイグイと距離を詰めてくるのだが。

 

「ほら、これがキタカミの里とブルーベリー学園でゲットした向こうの電気タイプだよ。むしタイプのクワガノンとデンチュラ。あくタイプのモルペコ、みずタイプのランターン。単タイプのエレキブルにゼブライカ、プラスルとマイナン。あと、リージョンフォームでゴローニャとか」

 

「おー!これがパルデアにはいないでんきタイプ達ぃ!個性豊かでいいね!」

 

「今度、電気袋をテーマにした手持ちにしてみようかなと思ってるんだ。ピカチュウとかパモとか、あの辺だよ。別の言い方をするなら電気鼠とか、エレキュートとかか?」

 

「電気袋……だと……!?なんだよぉ、コウくんはボクを殺す気か?コウくんのかっこよさとポケモンの可愛さでボクの情緒につのドリルをぶち込もうっていうのか!?」

 

「なんでさ……」

 

呆れながらもポケモンたちをボールから出し、再びナンジャモの方へと振り返るコウキ。ジムリーダーをやっているナンジャモはすぐに理解する。どのポケモンも、際限なく鍛え上げられていることが。

 

「一応、手持ちの構成は考えてるんだけど、でんきタイプのエキスパートであるジャモ姉にも相談しようかなと思って」

 

「えぇ~?でもでも、技構成も育成法もボクよりずっと優秀なコウくんに『素人質問で恐縮ですが……(キリッ)』ってやるのはちょ~っと気が引けるかなぁ……」

 

「ジャモ姉、弟を虐めて楽しいか?」

 

「嘘嘘、嘘だよ~!でも、謙遜しないでっていうのはホント~!」

 

「……続き、話すよ」

 

そうしてナンジャモとの相談で選出したメンバーはアローラライチュウ、エモンガ、デデンネ、トゲデマル、モルペコ、パーモットとなった。偶然にも複合タイプのパーティとなったが、技範囲の狭さをある程度フォローするためのやむを得ない選出だ。

 

「よし……サンキュー、ジャモ姉。いっちょこれでツレとバトルしてくるわ」

 

「ふっふっふ……。コウくん編集・ナンジャモ監修の最強でんきパーティーが完成してしまったわけだ……さぁ、行くのだコウくん!誰が一番凄くて強いでんき使いかってのを教えてやれぇい!」

 

「んな大袈裟な……けど、ちょっと頑張ってくるよ。そろそろ時間だし、お開きにしようか」

 

「ん、もうそんな時間かぁ……コウくん」

 

「はいはい」

 

苦笑いを浮かべつつ膝を折って姿勢を低くするコウキ。そんなコウキの頭を抱きかかえ、ナンジャモは静かに目を閉じる。

 

「……スー、ハー……」

 

「おいこら、弟吸いはなしっつっただろうが」

 

「いいじゃん!ちょっとだけ、ちょっとだけだから!!」

 

「とかなんとか言いながらさっきよりも鼻息荒いぞ!離れろ!?」

 

無理やり引き剥がして大急ぎで距離を取るコウキ。「あぁ~……」と絶望から膝をつくナンジャモだが、コウキの冷めたような視線を感じ取るとすぐさま立ち直った。

 

「ふ、ふんっ!まぁ?最強最高なおねぃさんであるこのナンジャモは?その程度の辛辣さはなんのダメージにもならないけどね!あー、でもまったくの無傷ってわけじゃないしなー、キズモノになっちゃったから責任もって結婚とかしてくれないと治りそうにないなー。……チラッ」

 

「(致命傷やんけ……)あのな、ジャモ姉……俺、ジャモ姉のこと――」

 

ロトロトロト。コウキの言葉を遮るように、着信音が響き渡る。動きが止まる両者。そんな中、真面目なスマホロトム君は良かれと思ってテレビ電話での通話をオンにした。

 

「……あー、もしもし」

 

《しもしも?コウちゃん、今大丈夫?》

 

「大丈夫、電話に出られる程度には暇だよ。リップさん」

 

《んもー、違うでしょ?リップのことは、何て呼ぶんだっけ?》

 

「……間違えました。……ぉ、お義姉(ねえ)ちゃん」

 

《よろしい♪》

 

上機嫌な様子を見せる電話相手は、ベイクタウンでエスパータイプのジムリーダーを勤める女性で、『超マジック・マキアージュ』のキャッチコピーを持つリップだ。そしてコウキが呼んだように、リップとコウキは義理の姉弟である。それも、母親同士による同性婚の再婚、という聞く人が聞けば空気が重くなるような事情だ。

そんな事情などお構いなしに、リップはコウキが幼少の頃から猫可愛がりしていた。当然だが、リップの幼馴染でパルデアアカデミーにて教鞭を執るキハダもまた、コウキを自分の弟のように可愛がっていた。

 

「いや、真面目にそろそろ『お義姉ちゃん』呼びは勘弁して欲しいんだけど……」

 

《どうして?リップは最近、コウちゃんに会える日々が少なくなっていって、ストレスでお肌も荒れちゃうわ……》

 

「俺は保湿機かっつーの」

 

《ファミリーセラピーよ?ずいぶん前に知り合いから教えてもらってね、その子は小さい甥っ子くんで癒されてたわ。……羨ましくなっちゃって》

 

「……それで最近、隙あらば電話してくるようになったんかい……」

 

呆れたようにため息をつくコウキだが、嫌悪の色はない。その態度は、世話の焼ける人の面倒を見ている人のソレだ。

 

《リップにもコウちゃんがいるから、リップはコウちゃんに癒される、コウちゃんはリップに甘えられる……win-winでチョベリグって思ったわけ》

 

「お生憎様、俺もすっかり姉離れが進んじまってさ。もう甘えられる歳でもねぇのよ」

 

《だったら、従姉離れも進まなくっちゃね。……そこにいるんでしょう?ジャモちゃん》

 

「え、なんでわかっ――ヒエッ」

 

コウキが振り返った先……目と鼻の先の距離に目のハイライトと表情が消え、ついでにコイルの髪飾りが白目を剥いたナンジャモが立っていた。怖い。

 

《なんだか随分とコウちゃんを独り占めしてくれちゃってるわよね?まぁ二人はいとこ同士だからたまに会うくらいはあたり前田のクラッカーなんだろうけど、ちょっち度が過ぎてないかしら?知ってる?『ナンジャモに男ができた』って、リスナーの皆して噂してたわよ?たとえ相手がいとこであろうと、コウちゃんは年齢以外の結婚条件を満たしている男の子……迂闊な行動は控えるべきではなくて?》

 

「……それはリップ氏も同じでしょ?最近はしょっちゅうコウくんとのツーショット写真をSNSに上げてるけど、ツバつけてるつもり?仮にもカリスマ的メイクアップアーティストが、弟とはいえ血の繋がりのない男に熱を上げてるとか割と叩かれてるよ?コウくんが年齢以外の結婚条件を満たしているっていうのはモロにブーメランだからね?自覚あるの?」

 

《あらあら、嫉妬かしら?コウちゃんから一歩引かれているからって、僻みは美容に悪いわよ?》

 

「そっちこそこれみよがしな写真の投稿って何?コウくんに会えるボクに対して僻んでるのはそっちでしょ」

 

《…………》

 

「…………」

 

《……はぁ?》/「……はぁ?」

 

電話越しにガンを飛ばし合うように煽り始めてしまった。実はこの二人の言い争いは今に始まったことではない。具体的にはあまりにもリップが猫可愛がりするばかりに辟易したコウキが実家を出奔して、実母の姉である伯母の子がナンジャモであると知ったのを機にその伝手を頼ってそちら側に身を置いたのをリップが知ったその日からだ。まぁ、ようはかなり長い付き合いの上でのやりとりなのだ。

なお、その渦中に居るコウキは先程からずっと胃を抑えたまま黙り込んでいた。他のメンバーにはなんとか隠し通してきたが、そろそろバレるかも知れないと思うと真面目に胃薬が欲しくなった。

 

「(おかしい……こういうのって本来はホムラの役割では?なぜ俺まで女性関係で胃痛に悩まなきゃならねぇんだ……)」

 

血の繋がらない義理の姉、血を分けた従姉でさえこれなのだから、コウキは内心で「前世の従姉も同じだったのでは……?」と疑心暗鬼に陥っている。こんな時、思い浮かべるのはいつだって一人だ。

 

「(キー姉に会いてぇ……)」

 

もはやコウキの心のオアシスも同然なキハダ。幼少期はよく一緒に体を動かしたり、複雑な家庭事情も気にせずフランクに接してくれるキハダの存在がありがたかった。……そして、リップVSナンジャモの戦争が起こる度に現実逃避のためにキハダのことを思い浮かべることも、もはやルーティンになりつつあった。

 

「(……つーか、会いに行くか。よし、行こう)ジャモ姉、そろそろ配信の準備するんじゃなかったのか?今戻らないと、準備が滞るぞ」

 

「むっ……」

 

「リッ――お、お義姉ちゃんも。さっきから電話先で呼んでる声が聞こえてるよ。撮影の合間に電話をくれるのは嬉しいけど、仕事を疎かにするお義姉ちゃんじゃないと俺は思ってるよ」

 

《むぅ……》

 

コウキに言いくるめられ、黙り込む二人。それからしばらくして、先にリップが"降参"とばかりに手を挙げた。

 

《……仕方ないわね。コウちゃんの前ではかっこいいお義姉ちゃんでいなくっちゃ》

 

「……ボクも、リスナーのみんなもコウくんもどっちも大事だし」

 

「(なんとかなったかぁ……)」

 

《それはそれとして今からキハダちゃんに会いにいくのはナンセンスね》

 

「だね。この流れでそれはちょーっと看過できないかな」

 

「なんでバレ――あっ……」

 

やっちまったと顔を青くするコウキ。ジト目で睨むリップとナンジャモ。状況は詰みであった。

 

《……まぁ、いいわ。コウちゃんにはリップ達のことで気疲れさせちゃってるし》

 

「本当は……ほんっとーは嫌だけど!……会いに行ってもいいよ」

 

「いや、自覚あるんならそのケンカ今すぐやめてもろて」

 

《「これだけは譲れないんだ!/これだけは譲れないのよ!」》

 

「勘弁してくれぇ……!」

 

またもや胃を抑えるコウキ。彼の苦難はまだまだ終わりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ゴウタの場合~

 

アカデミーの教室の一角で、複数人の生徒が集まっていた。彼らはスター団のボス達であり、あく組・ピーニャ、ほのお組・メロコ、どく組・シュウメイ、フェアリー組・オルティガ、かくとう組・ビワ、マジボス・ボタンの六人。

そして、『スター団の死兆星』または『凶星』と呼ばれ、マジボスが敗れた際の最終兵器として所属していたゴウタが集まっている。

 

「ふむ……」

 

ペラリ、と手に持つ冊子をめくりながら、ゴウタは小さく唸る。その様子を緊張した面持ちで見守っているのはメロコ、シュウメイ、オルティガの三人だ。やがてゴウタが冊子を読み終えると、それを脇に置く。ちょうど冊子は三冊……三人分すべてを読み込んだようだ。

 

「……ん。三人とも、よく頑張ったな。この点数が維持できれば、追試回避は間違いなしだ」

 

「やったぜ!」

 

「ふぅ……ほんと、心臓に悪い……」

 

「一件落着、でござるな」

 

ホッ、と息をつく三人。すっかり安心しきりの三人を微笑ましげに見つめながら、ゴウタは続いてすぐそばに立つボタン達の方へ振り返った。

 

「ボタン、ピーニャ、ビワ。俺が不在の間、メロコ達の面倒を見てくれてありがとな」

 

「ん。これくらい、全然問題なし」

 

「ほかならないアニキの頼みだからね!」

 

「うん!お兄ちゃんが作ってくれたドリル、解説がすごい分かりやすいってみんなから大好評だったよ!」

 

「そうかそうか。そりゃあ、夜なべして作った甲斐があったってもんだ。改めてありがとな」

 

ゴウタは立ち上がると、一番近い場所に居たビワの頭をそっと撫でた。プロレスラー志望とだけあって女性としてはかなりの高身長を誇るビワだが、ゴウタはそんなビワよりも頭半分以上は背が高くガタイがいい。いつもつるんでいるほかの四人と並ぶと、その大きさはより顕著だ。

 

「あ……!えへへ……♪」

 

「あっ!ビワ姉、ずるい!!アニキ!オレ、アニキが作ってくれたドリルを誰よりも早く終わらせられたんだぜ!」

 

「はぁ!?嘘つけメロコ!おまえ、結局ほとんど空欄だらけで最終的にはシュウメイとどっこいだったろ!その点、オレはぜーんぶ埋めた上で最速だったからな!すごいだろ、兄さん!」

 

「ふっ……しかして、オルティガ殿は回答ミスが多数見つかり幾度もやり直しをさせられていたでござる。だが我、シュウメイに隙はない……ミスも少なく、なにより空欄埋めに追われるメロコ殿と回答修正に躍起だったオルティガ殿とは異なり、スムーズにドリルを終わせられたでござる」

 

「「うるせー!その分お前は一番遅かっただろうが!!」」

 

「むぅ……!スピードに関してはみんな五十歩百歩でござろう!」

 

なにやら言い争いが始まってしまったが、その様子は「憧れの兄に頑張りを褒めて欲しい弟妹達」という風にしかゴウタには見えなかったため、ひたすら微笑ましいだけだ。

 

「はいはい。問題をちゃんと解くことも、なるべく早く解答を終わらせるのも、どっちも大事だからな。間違いなく解けるならそれに越したことはないし、わからないところだけ飛ばして最後に回すのもありだ。やり方なんて人それぞれ。メロコやオルティガのように速さを大事にするのもいいし、シュウメイのように一問一問じっくり解くのも、どっちも正しいよ。

まぁ、それも大事だが個人的には三人が最後までやり遂げてくれたことの方が、俺は嬉しいかな。ドリルを作った身として、これ以上の喜びはない。よく頑張ったな、三人とも」

 

「……へへっ!」

 

「ま、まあこれくらいはね!」

 

「役得役得……」

 

三人の頭を順番に撫でていき、それぞれの頑張りをしっかりと評価する。メロコ達もすっかり得意気であり、照れくさそうに頬を赤らめニヤニヤと口角が釣り上がるのを抑えられない。

ここでゴウタは、褒められて喜ぶ弟妹分達にさらなる追い打ちを仕掛ける。

 

「それじゃ、頑張ったご褒美に三人には俺特製のデザートだ!パティスリームクロジでカエデさんに弟子入りして、ようやっと太鼓判をもらった第一作品!食べてくれ!

 

「パティスリームクロジ!?」

 

「誠にござるか!」

 

「兄さんって、ホンットなんでもできるよな!」

 

ゴウタが用意したのは、セルクルタウンに店舗を構えるジムリーダー・カエデが経営するスイーツ店でゴウタ自ら作った特性デザートである。思わぬ褒美に三人は勢いよく飛びつき、デザートを分け合っていく。

 

「あ……いいなぁ」

 

「アニキの料理の腕前は知ってたけど、お菓子作りまでできるようになったらもう無敵じゃね?」

 

「(ゴウ兄を雇えたら、毎日三食がゴウ兄の手料理……イイ……)」

 

「ほい、こっちは監督組へのお礼のデザートな。面倒見てくれてありがとうな」

 

「「「やったぁ!」」」

 

一時は羨むボタンたち指導組だがそこはゴウタ。抜け目なく、彼らへのご褒美も用意していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室内でデザートを堪能し、勉強会はお開きとなった。それぞれのチームのアジトへの帰路につく中、アカデミーの長い階段の前でちょうど見知った顔に出会った。

 

「おっ、ゴウタ」

 

「よう、コウキ……って、お前大丈夫か?なんか顔色悪いぞ……」

 

「は、はは……まぁ、プレッシャー的な意味で言えば、さっきまで晒されていたからな……胃が……」

 

「お、おぅ」

 

その相手とは、いつもの五人組のひとりであるコウキだ。その隣には体育教師のキハダ先生が立っている。どうやら二人で話し込んでいたようだ。コウキは今にも死にそうな顔になっていたが、ゴウタの両腕にひっつくメロコとボタンの二人を見て、わずかばかりに顔色が戻った。

 

「相変わらず頼られてんねぇ、スター団の兄貴分」

 

「まぁな」

 

「……お前、たしか兄貴のツレの」

 

「おっ、話を聞いてたのか?会うのは……初めてか。コウキだ、よろしく」

 

簡単に挨拶だけ済ませる。双方、互いのことはそれぞれ共通の知人(ゴウタとボタン)から聞き及んでいるからか、自己紹介も恙無く終えたところでキハダから声がかかった。

 

「ゴウタ模範生!ちょうど帰るところか?」

 

「はい、キハダ先生。彼らの勉強もいい感じに進んでますんで、今度のテストは期待してくれていいですよ。平均点80越えは堅いっす」

 

「おぉ、そうか!それは楽しみだな!!」

 

イイ笑顔で宣うゴウタに「おい何言ってんだお前」という目線を向けるメロコ、オルティガ、シュウメイの三人。唐突なハードル上げに文句の一つも言おうとしたが、期待に満ちた目を向けるキハダがいる手前、何も言えないようだ。そんな三人の非難の視線に気づいたボタン達は思わず吹き出していた。

 

「んで、コウキは何やってんだ?わざわざアカデミーに寄る理由なんてあったか?」

 

「いやぁ……ちょっと、胃薬が欲しくなって……」

 

「何があったんだよお前……」

 

呆れたように肩をすくめるゴウタだが、コウキは乾いた笑みを浮かべるだけで仔細を語らない。これ以上の追求はないと判断したのか、コウキはキハダに向き直った。

 

「んじゃ、キー姉。俺はもう帰るよ」

 

「あぁ、また二人に振り回されたらいつでも言うんだぞ。わたしはいつでも待ってるからな!」

 

「ははは……なるべくそうならないようにするよ……」

 

ミライドンをボールから出し、その背に乗って飛んでいくコウキ。その後ろ姿は心なしかくたびれているように見えた。

 

「……身内にな、過保護な者がいるんだ」

 

「コウキェ……」

 

簡単なキハダの説明にある程度の察しがついたのか、ゴウタは同情的な目でコウキを見送った。

 

「ゴウタ模範生、君も健全な人間関係を築くんだぞ」

 

「大丈夫っすよ。ホムラじゃあるまいし、俺は女性関係とは無縁なんで!」

 

爽やかな笑顔で言い切るゴウタ……彼の周囲に居る三人の少女のものすごい(要約)視線には気づいていないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ホムラの場合~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソが…あのクソ女…

 

友達だ仲間だの吠えてた人が…

 

こないだストーカー監視…チラッと見えた買い出し…あれ…本当に友達の距離感なの…

 

あなた相当ガチ恋してるでしょ…いつから腕組みだの恋人繋ぎだのするようになったのよ…

 

あなたは本当にいい人だった

 

どんな時でも相手を尊重して…誰よりもバトルを楽しめる人で…

 

私もあなたみたいな人と友達になれたらいいな…とか思ってたっけ…

 

ねぇネモ

 

今あなたがどれだけ幸せな顔してるのか容易に想像つくし、本当に幼馴染枠泥棒猫だよ

 

多分…人類史上こんなにも意図的に友情と愛情を履き違えた人はいないわ

 

消さなきゃ…ネモはこの世にいちゃいけない人だ

 

一体何を考えていたのよ?本当に気持ち悪いわ

 

鈍感ニブチン唐変木の彼が「友達との友情」を感じているその横であなたが隠れてメス顔してたのを思い出すだけで…キレそうだわ

 

このでけぇメスグルトンが

 

私が今から誰が真の幼馴染兼恋人兼妻か教えてやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、今に至るってわけ」

 

「その流れで俺を襲うのは違くない!?」

 

「うるさいっ!いいからアンタは私の袋を種で満たしなさい!」

 

「ぼかしてるはずのに全然誤魔化せてないのはなんで!?」

 

「隠す気がないからね!」

 

「なるほどぉ!!」

 

ひと組の少年少女がアカデミーの個室のベッドで取っ組み合いをしている。どちらもパルデアアカデミーオレンジクラスに所属する生徒で、少年はホムラ、少女はアオイという名だ。

ポケモンSV脳内シミュレーションにおける『ゼロの秘宝後編・藍の円盤』のストーリーが終わったところで、最後の転生仲間であるアオイがこのシミュレーションに参戦した。合流したその日の晩から夜のレスリング(意味深)されそうになったものの、ホムラの体調を考慮(全力の説得)し、なんとか夜をヤリ過ごす……もとい、やり過ごすことができた。

しかし、その後からのアオイからの猛烈なアプローチは留まることはなかった。シミュ内での肉体年齢こそは原作主人公の『アオイ』と同じだが、精神年齢はホムラが死亡した高校時代のまま止まり、そのうえツンデレが祟って恋心を盛大にこじらせているアオイのアプローチといえば、それはそれは年齢詐欺上等の色気溢れるものばかり。おまけに周囲に見せつけるのでホムラの精神はゴリゴリと削られていった(だからこそせめて一線だけは越えまいと奮闘している)。

 

「むぅ……今日もダメか」

 

「はぁ、はぁ……(な、なんとか守りきったぞ……)」

 

アオイをベッド……というより、自身の上から蹴落として一線を超えることだけは避けることが出来たホムラ。自分もベッドから降りると乱れた衣服を整えて外出の用意を始めた。

 

「どこ行くの?」

 

「今日はタロがパルデアに来る日だって、前から言ってただろ……出迎えだよ、出迎え」

 

「…………」(-ε-) ブーブー

 

「そんな顔してもダメだからな」

 

颯爽と制服を着こなし、ホムラは寮の部屋を出た。少ししてからアオイも出てきて、二人並んで歩いていく。目指すはハッコウシティのハッコウ港だ。ゲーム内ではロード画面に飛行機が映るので空路だと思われがちだが、パルデア地方にはイッシュ地方のような空港が描写されているわけではない(作者もめっちゃ探した)。

そこに疑問を抱いたホムラ達だが、早い話がマリナードタウンかハッコウシティにある港から海路を通じて養生の空港に行き、そこから空路を経由してイッシュの空港へと移動していた、というからくりだ。なので、パルデアに来る際は必然、船での移動になる。なので、港があるハッコウシティへ行く必要があったのだ。

アカデミーの廊下を歩く最中、すれ違う生徒達がヒソヒソと話しているのが見える。ホムラは聞こえていないのか興味がないのか、特に気にする様子はない。一方、アオイはその些細な話し声にすら聞き耳をそばだたせる。

 

「見て、ホムラくんよ」ヒソヒソ「かっこいいなぁ」ヒソヒソ「今日こそお近づきに……」ヒソヒソ「アオイさん、羨ましい……」ヒソヒソ「夜のバトル(意味深)凄いって噂……」ヒソヒソ「リュウ×ホム……ゴウ×ホム……」ヒソヒソ「ホムラくんが受けなわけないじゃないいい加減にして」ヒソヒソ

 

このアカデミーには老若男女問わず、様々な年齢の学生が在籍している。とりわけ、同年齢の生徒たちは顔立ちも人当たりも良いホムラ達に夢中になっていた(ケンスケだけはさらに年齢が下だったが)。ポケモンバトルも強く、強くなるコツも教えてくれる。勉強もできるし成績上位は当たり前。しかし嫌味っぽくもなければ高圧的でもない、ごく普通のお人好しな人格者。人気が出ないはずがない。あっという間に女生徒の間の人気者となった。

 

「(忌々しい)」

 

当然、アオイはそれがちっとも面白くない。特に自身と運命の赤い糸(ミシン糸)で結ばれたホムラが他の女から色目を使われるのはもっと面白くない。特に、ネモという女は気に入らない。ホムラが感じている友情を利用して、自身の中の愛情を育てるなどという卑劣な行為は万死に値する(被害妄想)。いつかは排除しなければならないが、それよりもまずは目の前の脅威を取り除くことが最優先だった。

 

「久しぶりだな、タロ」

 

「うん、ホムラくんも久しぶり。……腕、もう大丈夫?」

 

「おう!今ならロケットパンチだって飛ばせそうだぜ!」

 

「ふふっ♪もう、ホムラくんったら」

 

ハッコウシティの港から降り立ったふたりの少女、その内の一人。明らかにホムラに対して好意を抱いていることが目に見えてわかる新たな脅威だ。アオイは警戒心を一段階引き上げた。

 

「ゼイユ、空飛ぶタクシーは呼んどいたぜ。宿はテーブルシティでとってあるから」

 

「ありがと、ホムラ。それじゃ、タロ。一旦解散ね」

 

「はい!ゼイユさんも!」

 

女二人のうち、片割れは空飛ぶタクシーで一足先にテーブルシティへ。残った少女はすぐにアオイに気がついた。

 

「……ホムラくん、こっちの人は?」

 

「あぁ、俺の幼馴染で、アオイって言うんだ。アオイ、こっちはタロ。ブルーベリー学園でいろいろと世話になった子だ」

 

「はじめまして、タロです!」

 

人の良い笑顔で手を差し延べるタロ。その手を一瞬だけ虚無の目で見てから、アオイも手を握り返した。

 

「はじめましてタロさん!アオイって言います!あの、うちのホムラがなにか粗相をしていないでしょうか……?」

 

「え、全然!ホムラくんにはバトルのアドバイスとか悩みの相談とか、色々とお世話になっちゃったくらいですから!」

 

「あっ、そうだったんですね。ホムラってどこか人の機微に疎いところがありますから、迷惑をかけてるんじゃないかって心配だったんですけど……ホムラ、ちょっとは成長したんじゃな~い?」

 

「おっ、そうだな(怖い……)」

 

人懐こい笑みを見せ、タロの手を両手で包むように握るアオイ。その可愛らしくも幼さも垣間見える仕草に、タロからも好感触なようだ。一方、隣に立つホムラの目は死んでいたが。

その後、タロを連れ立ってボウルタウンを経由してテーブルシティに到着した。早速パルデアのアカデミーを見てもらおうという計画だ。現在、彼らはアカデミー内の廊下を移動中だ。

 

「お……?よう、ゴウタ!(ゼイユはもう来てるぜ、今はテーブルシティのホテル)」

 

「あん……?あぁ、ホムラか(りょ。後で迎えに行くわ)」

 

「あ、レホール先生。ちっすちっす」

 

「ホムラ……両手に花とは、ますます王の気質を感じさせる奴だな、貴様は」

 

ゴウタと話をしていたのは、歴史学のレホール先生だ。レホールは腕を組むとさも自然にゴウタにしなだれかかり、ゴウタもしれっと立ち位置をずらしてその体を支える。

 

「花?……いや、この二人は別にくさタイプ使いってわけじゃないすけど……?」

 

「……クックック!やはり貴様も面白い、その歴史を暴いてやりたいくらいだ」

 

「レホール先生、あんまりからかいがすぎると……」

 

「おっと、安心したまえ……ワタシが最も興味深く惹かれているのは、君だけだよ……」

 

「アッハイ」

 

思わず遠い目になるゴウタに、ホムラは同情的な目を向ける。

シミュレーションのバグで原作開始前からスタートしたゴウタは、世間から「四災」と呼ばれている準伝説を先んじて捕獲しているのだが原作ゲームとは違いレホールとの会話を一切介さずこなした上、バトル学でうっかり繰り出してしまった。そのことがレホールに伝わってしまい、目をつけられてしまったのだ。

レホールですら知らないことが多い四災に関して異様に詳しい(ソースは祖龍)ゴウタ個人にも強く興味を抱き、現在は四災関連の課題を出される始末である。

 

「ゴウタ、その手の箱はなんだ?」

 

「ん?あぁ、これか。これからスター団のみんなの勉強会に合流するんだよ。勉強を頑張ってるやつにも勉強を教えてるやつにも、それぞれご褒美を用意しなきゃなって」

 

「んで、レホール先生に捕まったと」

 

「捕まった言うな。……あの、先生。俺マジで行かなきゃなんでそろそろどいてもろて……」

 

「……フン、もう少し堪能したいところだが、仕方がない。ただし、彼らが平均点を取れなかった場合はワタシも同じものを要求する」

 

「うげぇ……りょ、了解です」

 

「フッ……」

 

ようやくゴウタを背もたれにするのをやめたレホールはカツカツと足音を立てて去っていった。ホッと一安心、と肩を落としたゴウタは改めてホムラに礼を述べた。

 

「サンキュ、ホムラ。んじゃ、俺は行くわ。アオイ、タロ、またな」

 

「おーう」

 

「うん」

 

「はい、ゴウタくん」

 

ゴウタと別れた一行はそのままグラウンドに到着した。

 

「ほい、ここがグラウンド。流石にテラリウムドームには劣るが、バトルフィールドも完備されたこのアカデミーの中心地みたいな場所だ」

 

「ふわぁ……ホムラくんたちも、ここでバトルして強くなったんだね!」

 

「え?」

 

「いやぁ、それがねタロさん。ホムラってば他に友達がいるんだけど、その人達とバトルをするとフィールド飛び出してグラウンド中を戦場にしちゃうからって理由でアカデミー内でのバトルを禁止されてるの」

 

「えっ!?……それって、コウキくんとかゴウタくんとか?」

 

「そうそう!他には……そう、前なんかコウキのポリゴンZのはかいこうせんをホムラのオリーヴァがミラーコートで反射したんだけど、その時に壁に穴があいちゃってさ」

 

「え……え?」

 

正確には「ノーマルテラス玉適応力ポリゴンZ(わるだくみガン積み)」のはかいこうせんを、ホムラのオリーヴァ(タスキ持ち)がミラーコートで技を跳ね返したのである。これがゲームならポリゴンZの戦闘不能で済むのだが、ここはシミュレーションという名の擬似現実。ポリゴンZを飲み込んだはかいこうせんはアカデミーの壁の一部を余裕でぶち抜き、コウキとホムラは校長から直々に叱られた。

なお容疑者二名は「最大火力に挑戦したかった」などと供述していたらしい。

 

「いやー、あれは正直やりすぎたと思ってる。マジ反省してます」

 

「加減しなさいよねー」

 

「火力は男のロマンだ!バトルはパワーだぜ!!」

 

「どの口が言うのよ、普段は頭脳プレーのくせに」

 

「それはそれ、これはこれ!」

 

軽快なやりとりは、まるで夫婦漫才。そんな様相を見せる二人に、若干の居心地の悪さと胸の痛みを覚えるタロだが……。

 

「ホムラァーーーー!!!」

 

突然、グラウンド中に響くデカい声。ホムラの顔は青くなり、アオイが目を鋭くする。

 

「ホムラ!アカデミーにいたんだ!いるならいるって言ってくれたらいいのに!」

 

「お、おうネモ。お前、またバトルしてたのか?」

 

「うん!」

 

声の主の正体は、パルデアポケモンリーグのチャンピオンランクにして「ポケモン界のヒソカ」で一躍有名なネモだ。ホムラと会えたのがよっぽど嬉しかったのか、ネモはすかさず飛びつき抱きつきほっぺすりすり。ホムラはまるで諦めを感じさせるような目でされるがままであった。

 

「前にホムラに教えてもらった縛りプレイっての、すっごくハマっちゃった!」

 

「ほー。それで?今は何縛り?」

 

「未進化むしポケ縛り!」

 

「……それで勝ててるって、やっぱネモはヤバ……じゃない、すごいな」

 

「ふっふーん!もっと褒めていいよ?」

 

「すごいぞつよいぞかっこいー!」

 

「えへへへへ♪」

 

頭を撫でられご満悦のネモ。アルセウスも裸足で逃げ出しそうな絶対零度の目を向けるアオイ。目の前の状況と隣の殺気で情緒が狂いかけているタロ。無心のままネモを褒め殺しにするホムラ。

うーん、カオス。

 

「……あれ、誰かいた」

 

しかもネモが素かわざとかそんなことを言うもんだからアオイの冷めた目は氷点下を記録した。ホムラは今すぐ死にたくなった。

 

「……ネモ、ホムラから離れなさい。ホムラ、言いづらいなら私からちゃんと言ってあげるからね?」

 

「えー?でもアオイはさっきまでホムラと一緒だったんでしょ?ならちょっとくらいいいじゃーん」

 

「は?ちょっとも何もないでしょうが、あなたが無遠慮にホムラとベタベタベタベタくっついてるのが、ホムラは困ってるって言ってるの。その点、私はきちんと許可取りができる女……」

 

「でも許可なんてもらえたことないじゃん」

 

「……ッ!ッ!!」

 

まるで竜虎相搏つ……敵意をむきだしに向かい合うボルトロス(霊獣)とランドロス(霊獣)の如く。さしずめ、間に挟まれたホムラはトルネロスで蚊帳の外にされてしまったタロがラブトロスだろうか。やったね、ホムラ!霊獣トルネロスは四神最速だよ!*1(ただし逃げられるとは限らない)

 

「や、やめんかーっ!」

 

だがしかし、ホムラも黙ってやられるばかりではない。まして、今は海外から来たタロの案内という役目を果たしている最中なのだ。痴話喧嘩如きで黙らされるわけには行かない。

 

「お前ら!今はタロを案内している最中なんだよ!お客さんほっぽって喧嘩すな!」

 

「あ、あの!お取り込み中なら、わたしとホムラくんだけで行きますので!」

 

「そうだぞ!俺とタロの二人で……二人で?」

 

タロの言葉を受けたことで、元々タロの案内は自分一人でする予定だったことを思い出したホムラ。そもそもアオイはついてきただけ(ついて来いとも言ってない)、グラウンドでネモと出くわしたのも偶然だ。

 

「(そうだ、これこそ千載一遇のチャンスじゃないか!?)そこまで言い合うくらいなら、もういっそポケモンバトルで決めちまえよ。勝ち負けで白黒つけりゃ、文句ないだろ!」

 

「それには賛成だけどその間にホムラがいなくならない保証はないよね?」

 

「むしろこのタイミングで提案したってことはそういうことなの?」

 

「いえなんでもございませんでした」

 

おお、ホムラよ。言い負かされるとは情けない。

 

「ふ、二人共!二人がホムラくんをどう思ってるのかはわからないけど……肝心のホムラくんの意思というか、心を無視するようなことはしちゃダメなんじゃないかな!そういうの、良くないと思います!」

 

「……っ!タロさん……」

 

「…………」

 

ホムラは情けなく散ったが、タロは負けじと二人の間に割って入った。その上、タロの言い分にも一理あると判断したのか、アオイもネモも言葉を止めて俯いてしまった。

 

「……あー、その……とりあえずさ、俺はせっかく遊びに来てくれた友達にパルデアの良さを知って欲しいんだよ。だからさ、今日のところはそっとしておいてくれると助かる」

 

「……うん、わかった。ごめんね、ホムラ」

 

「こっちこそすまんな、ネモ。あとで埋め合わせを……おっ、そうだ!ネモ、タロはブルーベリー学園で四天王に選ばれるほど強いんだぜ!案内が終わったら、みんなで総当り戦やろうぜ」

 

「えっ、四天王!?ってことは、強いんだ!やるやる!絶対やる!!」

 

なんとか話題を変えてポケモン勝負の話になると、タロの強さに興味を持ったネロはすっかり元気になった。だが、ここにはあと一人、納得させなければならない人物がいる。

 

「……アオイ」

 

「むー」

 

「言っとくけど、お前は勝手についてきてただけだろうが」

 

「むーむー!」

 

「文句言ったってダメなもんはダメ(現実世界でちゃんと相手してやるから)」

 

「(……!!なら、許す)……わかった」

 

色々と生贄を捧げる羽目になりそうだがなんとかアオイにも納得してもらえたところで、ここで二人とは別れてホムラとタロはアカデミーを出た。

 

「さーて、いよいよ観光案内開始だな。どこから行きたい?」

 

「あ、それじゃあ……マリナードタウン、かな?」

 

「おっ、そういえばホドモエシティも港町だったな。やっぱり同じ目的の町とくれば、気になるか?」

 

「あっ、うんっ!(ホムラくん、気づいてくれた……嬉しい♡)」

 

「そういうことなら、いいもんあるぜ……出ろ、コライドン!」

 

「あぎゃす!」

 

ホムラはモンスターボールからコライドンを出すとその背に乗り、タロに向けて手を伸ばした。

 

「ほら、タロ!」

 

「うん!」

 

タロを後ろに乗せ、その手が自身のお腹の前でしっかりと組まれたのを確認してから、ホムラはコライドンを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ホムラくんとアオイさん、幼馴染なんだ……だから、あんなに気安くて、距離が近いんだ)」

 

「(……いいなぁ。羨ましい……ホムラくんがあんなにも自然体でいられるなんて、きっと強い絆で結ばれてるんだ)」

 

「(わたしもいつか、ああなりたい……ううん、なるんだ!絶対!)」

 

 

 

 

「(……タロ……手、組む力強くない?うーん、少し飛ばし過ぎか?安全運転を心がけてるんだけどなぁ)」

 

 

 

 

*1
S121




こんな感じでお送りします。今回はメンバー同士の絡みがありましたが、多少時間軸が前後することもございますのでご了承いただければと!
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