エリアゼロ、キタカミの里、ブルーベリー学園……三つの舞台で壮絶な冒険を繰り広げてきたパルデアアカデミーの生徒達。全てを終えた彼らは故郷であるパルデア地方に戻り、思い思いの余生を過ごしていた。
~リュウセイの場合~
「アオキさん、また挑戦者に突破されたそうですね。ジムリーダーと四天王と、本業の忙しさもあって勝負に手抜かりが出る可能性もわかりますが、流石に全タテはないですよ、全タテは。四天王としての活動も残りわずかなんですから、最後まで気を引き締めてくださいよ」
「……はい」
「……そう露骨に嫌そうな顔しないで。四天王引き継ぎの件は了承したじゃないですか。何がそんなに気がかりなんです?」
「一つ肩の荷が下りたと安堵するべきか、子供に余計な責任を負わせてしまったと後悔すべきか、悩んでいました」
「え、しょうもな」
「……辛辣ですね、リュウセイさんは」
ある時はアオキとともに雑談に興じ。
「んー……今月の挑戦者は0、しかもどの人も一次試験でドボン、か」
「バトルの素質はあんねんやろけどなぁ」
「まぁ、人間性も含めてのポケモントレーナーですからね。次回に期待、ということで」
「そういえばリュウセイ、アオキさんの引継ぎで四天王になるんやって?新入りが早々に三番手ってのもプレッシャーやろうけど、しっかりキバリや」
「えぇ、アオキさんに代わってひこう使いの四天王をやらせてもらいますよ。ただ、少しだけ悩み事が……」
「どないしたん?チリちゃんになんでも聞いたってな、力になるから」
「いや、大した悩みじゃないですよ……鳥で縛るか、鳥以外で縛るか、どっちにしようかなって」
「……いや、普通に勝負せぇ、普通に」
ある時はチリと使用ポケモンについて話し。
「リュウセイおにーちゃん、クッキーがやけましたの!おひとついかが?」
「おっ、いただこうかな。……んー、甘い」
「お、おさとうがおおかったでしょうか?」
「たしかに甘いかな、とは思った。でも……ケンスケはあれで結構な甘党だからな、あいつにはきっとちょうどいいよ」
「ほんとー!?ケンスケさま、ポピーのクッキーをよろこんでもらえるでしょうか……」
「もちろんさぁ。ポピーの気持ちがこもってるんだ、喜ばないはずがない」
「そ……そうですのね!これで『ケンスケさまのおよめさまけーかく』のせいこうに、いっぽちかづきましたの!」
「…………。……うん、がんばれ」
ある時はポピーのお菓子作りに協力し。
「んー……」
「おや、リュウセイくん。なにか、悩み事ですか?」
「ハッサク先生。いえ……あいつら、俺の見てないところで変な暴走を起こしてないか心配で……」
「ふむ、"あいつら"というと……コウキくんたちですかな?彼らはみな、優秀なポケモントレーナーですからね、なにも心配はいらないと思いますよ」
「いや、心配しかないですよ。常識と理性を引き換えに倫理観をどこかに置いていった連中ですよ?最大火力への探求と称してアカデミーに穴を開けた件、忘れたとは言わせませんよ」
「……う、うーん……」
ある時はハッサクと問題児について相談したりする。
その苦労人の名は、リュウセイ!
「……ふぅ、本日の業務も終了っと」
「お疲れ様でした、チャンピオン・リュウセイ」
「おっ……つかれさまです、オモダカさん」
仕事を終えて席を立ったリュウセイに声をかけたのはパルデアのポケモンリーグを取り仕切るトップチャンピオンである女性、オモダカだ。つい軽い口調で返しそうになったリュウセイだったが、相手が誰なのかを即座に察して口調を改める。そんなリュウセイの様子がおかしかったのか、オモダカは小さく吹き出した。
「ちょい?笑うのはひどくないですか?」
「ふふっ、すみません。あなた方五人の中でも特に礼節を弁え優れた能力を持つあなたでも、気の抜ける瞬間というものがあるのだと思い、つい」
「……はぁ。あのですね、オモダカさん?そりゃあ、俺だって肩の力を抜きますよ、人間ですもん。あ、ポピーのアカデミー編入の目処が立ちましたよ。来月からだそうです。クラベル校長には割と無茶させた気がしなくもないんですが、なんでかウッキウキで了承してくれて……なんでですかね?」
「さぁ?」
笑って誤魔化すオモダカだが、本当のところはリュウセイたち五人組の入学以降、各地で活躍しながらアカデミーのことを喧伝して回る五人の活動によってアカデミーへの受験生が増えているからである。
本人たちの自認もなければ自覚もないがアカデミー外からは【万能の天才・リュウセイ】、【教職の若きホープ・ケンスケ】、【問題児達の更生者・ゴウタ】、【伝説ポケモンの繰り手・コウキ&ホムラ】とかなり名前が広がっているのである。コウキとホムラが聞けば「コラミラは(設定上なだけで実際は)伝説ポケモンじゃない」と言いそうだが、知らないので文句も意見もないのである。
「それよりも、チャンピオン・リュウセイ」
「はい?」
「私に何か、言うことがあるんじゃないですか?」
「……はい?」
ふわっ、と髪を手で撫でるオモダカに対し、リュウセイは目が点になる。しばらくそうして固まっていると、微笑みを浮かべていたオモダカが次第に頬を膨らませ始めた。
「むー……」
「……あー、その……髪、本当に切ったんですね。似合ってますよ」
「ふふふ、そうですか♪」
「(눈_눈)」
以前、リュウセイが「オモダカさんは髪切ったほうが可愛いと思う」とチリに話しているのを又聞きしたポピーが悪意なくオモダカに告げた結果、ブルーベリー学園でのひと悶着を終えてから本当に切ったのである。それもわざわざリュウセイに見せるために彼の終業に間に合わせるために爆速で仕事を終えてから、仕事終わりまで気配を消して待ち伏せしていたのだ。
言って欲しかった言葉がもらえてご満悦のオモダカ。露骨な表情を見せまいとしてか、リュウセイに背中を向ける。リュウセイはなんとも微妙な表情を浮かべているが、ひとまず帰宅を優先して身支度を整える。
「時にチャンピオン・リュウセイ。このあと、予定などは空いていますか?」
「ん?えーっと、何かありましたか?」
「いえ、このあと他地方のポケモンリーグ関係者との会談を兼ねた食事会があるので、あなたにもぜひ来ていただきたいと思いまして」
「それ入社半年の新入社員を誘うような話じゃないですよね!?」
「あなたの実績を考えれば妥当かと思いますが?」
「過分極まりなし!」
そうですかね、なんて首をかしげるオモダカだが、リュウセイは気が気でない気分だ。生前から人の視線にさらされることが多かったリュウセイは、視線から他人の感情を感じ取れるくらいに機敏になっている。今のオモダカからは、なんというか『我が子の自慢話がしたくてたまらない親バカ』の気配が感じ取れていた。
連れて行かれた日には、画面の向こうでよく見た顔の人物たちに自分に関する自慢話を延々と垂れ流されかねない。なぜネームドキャラ相手に羞恥プレイを敢行されなければならないのか、これがわからない。
と、ここでリュウセイのスマホロトムが通知を鳴らす。どうやら電話のようで、リュウセイは一言断りを入れてから電話に出た。
「もしもし」
《もしもし、兄さん?》
「おぉ、シズカ。お前もこっちに来られたか」
《うん、彼女の厚意でね》
どうやら電話の相手はリュウセイの妹のシズカだったようだ。二言三言、言葉を交わしてからリュウセイは通話を終えた。
「今のはどちら様で?」
「妹です、名前はシズカ。俺に負けず劣らずの天才ですよ。自慢じゃないですが、近所では『三人寄れば文殊の知恵、水橋兄妹は二人で十分』なんて言われるくらい、賢い子です」
「ほほぅ」
リュウセイに匹敵する天才、と言われたことでオモダカのスカウト魂が唸りを上げる。リュウセイがアカデミーを最速卒業してポケモンリーグに入社してからというものの、リーグの仕事の効率がかなり良くなっている。具体的にはリュウセイがアオキとの交代で四天王を勤めることでアオキのモチベーションが良くなったり、ポピーが学業に専念しても大丈夫なようにケンスケをこき使ったり、最低人数でも回せるように簡単なシステム化に成功したりと、本当によくなっている。
そうしてリーグ職員として大活躍中のリュウセイの、妹である。興味を持つなという方が無理からぬ話であった。
「妹がちょうどパルデアに来たみたいでして、迎えに行こうかって話だったんですよ。なので、会談への同行は勘弁していただきたく……」
「そうですか……いつ出発します?私も同行します」
「オモダカ院……じゃなくて、なんで着いてこようとしてるんですか!会談はどうするんです!」
「キャンセルしますが?」
「仕事しろやトップ!!」
思わず大声を上げるリュウセイだが、「チャンピオン・リュウセイのタメ口……いいですね……」なんて謎の余韻に浸っているオモダカに聞こえているのかはわからない。なんだか胃が痛くなってきたような気がしてきたリュウセイだった……。
~ケンスケの場合~
「ケンスケ先生~、さようならー」
「さようなら、ケンスケ先生!」
「ほい、さいなら。気をつけて帰れよ~」
パルデアアカデミーから元気な声が響き渡る。齢一桁の幼い年齢層の生徒たちである。パルデアのアカデミーは実に幅広い年齢層の人達を生徒として受け入れている。現実世界に例えれば小学校低学年相当の子供たちだって受け入れているのだ。そして、そんな幼気な少年少女たちの人気を一身に受けている若き先生がここにいる。
ロリコン?ショタコン?両刀上等!変態教師・ケンスケである!!
「誰が変態だコラァッ!?あと、俺はロリコンでもショタコンでもねぇ!なんでシミュレーターでもこんな扱いなんだ!!」
なんか叫んでいるが、この場にはケンスケ一人だけなので虚しく響くばかりである。どっと疲れたように肩を落としたケンスケは一路、職員室へ向かった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
ケンスケが職員室へ戻り、席に着くと隣に座る数学教師のタイムが挨拶を返してくれた。軽く会釈して仕事を始めると、反対隣に座る学校保健師のミモザがしなだれかかってきた。
「お疲れ、ケンスケ~。毎日毎日、小さい子達の相手してて大変だね」
「っと、ミモザさん。いえ、俺も好きでやってることですから(不名誉な称号はともかくな……!)」
軽い調子で雑談をするふたりだが、意外な共通点がある。それが、教員資格である。ケンスケは一般教養に加えて美術の、ミモザは養護教諭の資格を取るために二人で度々勉強会を開いており、その関係で友人関係となったのだ。
前世が御曹司だっただけに、やる気スイッチがONになれば英才教育の経験も手伝って大体のことはそつなくこなせるケンスケと、自分よりも年下でさらに夢に向かって自分と同じ教育関係の勉強を頑張る姿に強く影響を受けたミモザ。お互いに資格を取ることができたときは、思わず抱き合って喜び合ったほどだ。近々「保健の授業の枠が取れる」という話になっており、いつもなら保健室に在中しているミモザもこうして職員室で待機するようになったのだ。
ちなみに、美術の副担当を勤めるケンスケは1-Aの副担任も兼業している。
「ケンスケなら、いいお父さんになれるかもよ?」
「ははっ。もしそうなったら、反面教師になることだけは避けたいですね」
「先生だけに?」
「はい、先生だけに!」
ニッ、と笑ってみせるケンスケだが、ロリコンショタコンの称号がついてまわるなら親だって勘弁したいと内心では考えている。もはや呪いも同然なその称号から逃れられるなら、なんでもする覚悟もある。
いい機会だ。そう考えたケンスケは思い切って相談してみることにした。いつものメンツが相手だと「諦めろ」だの「受け入れろ」だの、後ろ向きな意見しか貰えなかったので、前向きなアドバイスが欲しいと思っていたところだった。
「……ただですね、俺って子供は好きなのは好きなんですが……」
「ん?なんか問題でもあるの?」
「ツレ周りからはやれロリコンだショタコンだとしょっちゅうイジラレましてね……子供好きが祟ってこんな称号を与えられるんじゃ、ちょっとやりきれないなぁって……」
「ふぅん……あ、それなら彼女でも作ればいいじゃん!」
「いや、簡単に言いますけどね……俺、ぜ~んぜんモテないんっすよ。まぁ、今しばらくは独り身でいろっていう神様からのお告げですかね」
「……ふーん……」
ノートパソコンを広げてタイピングをするケンスケを横目に、ミモザは髪をイジイジ何かを考える。
「(モテない……って、マジで言ってるの?顔良し、器量良し、頭も冴えてポケモン強くて、仕事にも人付き合いにも真摯で真面目。これでモテないって本気で思ってるのかなー、このニブチンは)」
思い返すのは、ケンスケと友人だという三人の男子生徒が入学してから数ヶ月のこと。気が付くとそこかしこで彼らの名前を出しては話題にする生徒が増えていた。特に女子生徒は黄色い声を上げる者が多い。コウキ、ホムラ、リュウセイ、ゴウタ、そしてケンスケ。いつのまにかアカデミーの中心人物と言っても過言ではない人気者となった五人だ。
たしかにケンスケの人気は年下を中心に低年齢で固まっているが、決して同年齢以上からの人気がないわけではない。年齢層のアンケートを取ると半数以上が年下になるだけで、ちゃんと同世代からもモテている。ただ、奥手な同世代よりも行動力が高い年下層の方がアプローチの頻度は高いので、ケンスケ自身も全く気がついていない。
「ふむ……この子はバトル学の成績が怪しいな。でも生物学の成績はいいし……ブリーダーとかの道も検討しとこうかな。こっちの子は歴史、歴史かぁ……でもポケモン絡みの成績がいいし、化石ポケモンを引き合いに出せば……。言語学……あとでセイジ先生に相談だな。そしてみんなさも当然のように美術の成績がパーフェクト。……なんでぇ?」
「(うわっ、顔、良っ。ケンスケの目って結構切れ長な感じなんだよね。それでいて威圧感はなくて、細められるとなんか色っぽい感じする。え、これでこの子、あたしより年下なの?ウッソだろ、オイ)」
「……あのー、ミモザさん?」
「ん、なーに?」
「えーっと……あんま見つめられると、流石に照れるっす」
「ん"っ!!(好き)」
「え、ちょ!?どうしたんすかミモザさん!?」
困ったように笑顔を浮かべ、それでいて照れくさそうに顔を赤らめ頬を掻く。次の瞬間、ミモザは胸を押さえてその場にうずくまった。
「(ダメヤバい今のヤバい四倍抜群+急所入っちゃってるなにコイツなんで自分の顔の良さわかってないの?むしろこっちが意味わからないんだけど顔面凶器ってこういうことなの?メロメロと一撃必殺の合体攻撃って殺意高すぎない?)」
「えーと、ミモザさん?」
「だ、だいじょーぶ、大丈夫。ちょっと思いもよらないダメージを受けちゃっただけだから」
「あ、そっすか(やっぱ『照れる』とか男のセリフじゃないよなぁ……普通にキモいよなぁ……)」
胸を押さえてデスクに突っ伏すミモザだが、その口から飛び出した言葉を受け止めたケンスケも変な捉え方をしてダメージを負って突っ伏した。両者共倒れ状態になり、変に注目を集めている中、職員室に扉が勢いよく開かれた。
「しつれーします!」
扉の先にいたのはパルデア四天王の一人にして、来月から1-Aへの編入が決まっているポピーであった。バスケットを手に持つポピーは職員室の中をキョロキョロ。それからケンスケの姿を見つけると、満面の笑顔でそちらに駆けていった。
「ケンスケさま!」
「あ……?お、おぉポピー。職員室の中は走っちゃいかんぞ?」
「あ、ごめんなさい……その、おかしをやいてきましたの!ケンスケさまはあまいものがおすきだとうかがいましたので!」
「おー、確かに俺は甘党だが誰から……いや、いっか。ありがとうな、ポピー」ナデナデ
「えへへへへー♪」
頭を撫でられご満悦のポピーに、ほっこりする職員室。しかし、一人だけなんだか難しい顔をする人がいた。
「(むー……)」
複雑な表情を浮かべるミモザ。傍から見れば歳の離れた兄妹のようなやりとりで微笑ましいのだが、なんといってもケンスケである。年下人気が爆発的に高い実情を知っている身としては、ただの微笑ましい光景として捉えることができない。
「(まぁ、四天王といってもまだ9歳っしょ。ケンスケもロリコン扱いはマジで嫌がってたし、こっちから押してけばいけるはず……!)」
心の中で大事な大事なグッとガッツポーズ。しかし、この時……ミモザは知らなかったのだ。
前世にロリコン疑惑で非モテな中高生活を送った結果、奥手を超えて卑屈になったケンスケの恋愛観を。
9年後に婚姻適齢年齢を迎えたポピーによる猛烈なアピールが始まることを。
そしてなにより。
ケンスケ一点狙いにしたせいで、キハダにすら先を越されて半ば生き遅れてしまうことを。
ミモザは、まだ、知らない。
ちょっと間を空けすぎた気がしますが、「不定期更新」ってこんなもんですよね。……ですよね?