もしも長編を期待してくださった方がいらっしゃいましたら、申し訳ないことをしたと思います。
「それでは、行ってきます」
「うむ」
ヒスイ地方、コトブキムラの南にある『はじまりの浜』。時空の裂け目から落ちてきたショウがラベン博士に拾われた、ショウにとっての始まりの場所。その場所に設けられた桟橋に一隻の小舟が停められており、桟橋にはショウとテルが並んで立っている。特にテルの腕にはやや大きめの木箱が大事そうに抱えられていた。
本日、朝。いよいよ【二つ名】や【極み】、さらには新たに【特殊個体】と分類付けされたなポケモン達の新天地を探す旅の始まりの日である。ヒスイ地方に置いては、未来のシンオウ地方にいらぬ火種を残す恐れがあるというショウの提案の下、未来人であるショウすら認知していない未知の地方へ彼らを放すことが決定された。今日がその出発日である。
「道中、気をつけてね」
「まぁ、おめえらなら心配はいらねぇだろうがよ」
「カイさん、セキさん。私たちが不在の間、ジンオウガ達のことをよろしくお願いします」
「……でも、よかったの?船旅なら、ラギアステラに牽引してもらったほうが……野生のポケモンだって寄ってこないだろうし」
「カイさんの言いたいこともわかるけど、おれたちだってポケモントレーナーだよ!いつまでもモンスターのみんなにおんぶに抱っこはカッコ悪いからね」
今回の旅、ジンオウガをはじめとするモンスター達はお留守番である。彼らの威を借り続けるわけにもいかないので、置いていくことにしたのだ。ヤダヤダと駄々を捏ねたゼルレウスをフルボッコにして引きずっていくラ・ロの姿を記憶の片隅に追いやりつつ、ショウとテルは船に乗り込んだ。
「エンペルト!」
「ペーッ!」
ショウが投げたボールから飛び出したのはエンペルト。流石に子供の人力では限界があるので、ポケモンに牽引してもらうことにしたのだ。エンペルトに牽引用の縄を固定してもらい、出発の準備が整った。
「それじゃあ、みんな!行ってきます!!」
大勢に見送られ、二人きりの旅が始まった。
とりわけ急ぐような旅でもないので、持ち込んだ保存食が尽きることだけは避けるように、途中の島々に立ち寄ってはきのみを集めたり狩りなどをして保存食を増やしながら長い長い航海の旅を続ける。波に揺られながら、テルはふと己の背後にある木箱に目をやる。
今回、新天地探索のために連れ出した特殊なポケモンたち。彼らをヒスイ、ひいては未来におけるシンオウ地方に残すことができない理由……その理由はさまざまである。
一つは、強すぎるから。一見するとシンプルであるが、しかし最も肝要な部分でもある。
彼らのような特殊な力を持たポケモンが未来にまでその存在が残り続ければ、強力な力に惹かれた者たちが彼らの力を求めて争いを始めてしまうかもしれない。人というものは、強力な力に惹かれがちである。それは、ショウが母から聞かされてきた他地方で暗躍する悪の組織の存在から証明されている。純粋なポケモンマフィアであるロケット団は微妙なラインだったそうだが、未来のギンガ団やホウエン・イッシュ・カロス辺りは伝説のポケモン(あるいはそれ相当の力を持つポケモン)の力を利用しようとして、現実に被害をもたらしている。アローラとガラルも似たようなことをしていたが、それは個人が起こしたことらしい。
ともかく、そんな理由で彼らの遺伝子をヒスイに残すことも憚られた。では、ジンオウガ達にように一代限りで血を絶やせばいいのではないかと思うが、流石にそこまで頭が回らなかった。というか、比較対象にジンオウガ達モンスターを挙げたのが悪い。完全に強さのラインが麻痺しきっていた。
もう一つは、ウォロだ。
あの野郎はあろう事か特殊なポケモン達だけでなくジンオウガ達モンスターの情報抹消に真っ向から猛反対しまくった挙句、彼らの情報を個人で残せる範囲でメモをしたためるとそれを持ってヒスイから脱兎のごとく逃げ出した。出発の三日前のことである。ショウ達ギンガ団は現在もウォロを猛追し続けており、初日の襲撃でメモにある程度のダメージは与えられたものの、あのウォロのことなので修復していることだろう。
なので、せめてもの悪あがきとして未来の誰かが特殊ポケモンやジンオウガ達の存在を嗅ぎつけたとしても発見できないようにモンスター達は血を絶やし、ポケモン達をヒスイ地方外へと運び出すことにしたのだ。これで「過去にはそんなポケモンがいた」程度の認識にとどまると信じたい。
最後の一つ、これはショウがアルセウスとジンオウガから聞いた話だ。
どうやらミラボレアスが干渉した時空の裂け目がかなり悪さをしたらしく、平行世界にまで干渉し始めたらしい。完全な異世界であるポケモンの世界とモンスターの世界の切り離しはできたものの、平行世界は完全に癒着してしまったらしく元に戻せなくなったらしい。
本来ならありえない話なのだが、なぜこんなことが起こってしまったのか……それは《平行世界が未来》で、《この世界が過去》だから起こってしまったらしい。とある平行世界では一人のマサラ人が中心となる物語が展開されるのだが、それが《ヒスイから見れば時間軸・歴史的に未来の話》なのだ。さらにその平行世界ではヒスイ時代の話があまり深掘りされていないのもあって、情報がひどく曖昧なままなのも原因の一つらしい。そのため、時空の裂け目を介して『特殊なポケモン・モンスターが存在していた』という歴史・過去が定着してしまったのだ。
モンスター達の[起源]となるテクスチャは《モンスターハンター》。この世界の[起源]とは大きく異なるので時間とともに自然消滅する可能性はあるが、ポケモン達は姿や性質は異なれど《ポケットモンスター》という[起源]のテクスチャが存在するため、自然消滅は期待できない……だからこそ、平行世界でも観測されていない場所……上位世界風に言えば、『オリジナル地方』へとポケモンを逃がす必要があったのだ。
モンスター達の存在は時間経過で自然消滅、と述べたが、それはあくまで誰にも深掘りされなかった場合の話だ。もしも未来で広く周知されれば、その限りではないらしい……未来人たちの聡明な判断に期待したい。
ちなみにテルは上二つは理解できたが最後の一つは最後まで理解できなかった。無理に把握しようとして頭から火が出て真っ赤になり、オクタンのようになってぶっ倒れたまである。
「……こいつらみんな、誰も悪くないのにな」
「先輩?」
「なんか、おれたちの都合で追い出しちゃったみたいで、負い目を感じるんだ……」
箱を開けて、手に取ったモンスターボールを弄る。握った感触で、それが自分の相棒であることを理解して、テルは少し泣きそうになった。
「ごめんな、ライチュウ……ごめんな、ジュナイパー……みんな……」
「先輩……」
ショウも、たまらず目を伏せてしまう。各地を転々と調査して回り、その過程で手に入れてきポケモン達。自分たちのために強大で凶暴なモンスターに立ち向かい、たくさん傷ついたポケモン達。一度は手元を離れながらも、自ら鍛え上げて再び手持ちに帰ってきてくれたポケモン達。
大事なパートナーだ。大事な仲間たちだ。……だが、未来のふるさとには残しておくことはできない存在だ。
「(みんな納得してくれたとはいえ、やりきれないね……)」
この話をしたとき、ポケモン達は一匹たりとて異を唱えなかった。彼らも理解していたのだ……自分たちが、普通とは違うのだということを。ありえない成長・変化をしているのだと。だからこそ、受け入れた。それが、自分たちが生まれ育ったヒスイに必要なことだと理解したから。
「……少し、急ぎますか」
「……ん……」
軽く縄を引き、今日の牽引役のギャラドスに加速を促す。船は速度を上げつつ大海原を駆けていく。
平行世界との癒着は、何もあちら側にばかり影響を与えるわけではない。
「……ここは?」
「地図にはなんて?」
「えっと……オレンジ諸島?聞いたことないなぁ……」
アルセウスフォンが示した地図に表示された名前を見て、首をひねるショウと頭を掻くテルの二人。たまたま立ち寄った島にて地図を開くと、上部に見慣れた地形が見えたことで現在地を軽く調べたところ、全く知らない名前が出てきたのだ。
「……もしかして、ここは平行世界の……」
「え、なんて?」
「私が記憶する限り、オレンジ諸島なんて名前は聞いたことありません。お母さんからの話や、このアルセウスフォンで見た情報にもなかった……つまり、平行世界への影響は、なにも向こうばっかりに起きているわけじゃないってことです」
「……つまり、ここは平行世界にしか存在しないはずの……!?」
「そのとおり」
オレンジ諸島。カントー地方南部に存在する熱帯の島々。本来なら、平行世界のマサラ人の物語にしか出てこない場所だが、平行世界との癒着によってこちらの世界にまで出現してしまったらしい。やはり、この世界の物語が《過去》を舞台にしていることの影響がかなり大きいようだ。
「……けど、これだけ近い距離で島が乱立しているなら、しばらくは補給に困ることはなさそうですね」
「……ショウ」
「はい?」
「クッソ暑い」
「……あぁ、ヒスイは北部に位置しますからね、そりゃ暑いですよね……」
調査の過程で火吹き島を頻繁に出入りしていたショウはへっちゃらだが、テルはそうでもないらしい。テルでこうなのだから、カイ辺りが来た日には暑さで干からびてしまいそうだ。
「熱中症と脱水症状と……とにかく、気をつけていきましょう。このあたりはカントー圏内ですから、牽引もカントーのポケモンにしたほうがいいですね……」
「お、おう……」
こうして二人はオレンジ諸島を見て回りながら航海を続けた。テンガン山もかくやとばかりの高い雪山や、むしポケモンが異様に多い島、七つの島が連なるように並んでいる島と実にバラエティに富んでいた。
中には驚きを隠せない島もあった。大潮の引き潮時になると小島と地続きになる島で雨宿りにその小島に入った際に、クリスタルのイワークと遭遇したのだ。イワークが餌とする岩や土をはじめとする地層が影響しているのではないかと調査団の血がうねりを上げる中、イワークそのものは捕獲せず見て感じたことなどをざっくりと脳内メモに刻むだけで済ませた。
さらに立ち寄った別の島では、ポケモンすべてがピンク色という目が痛くなるような光景が広がっていた。島に成るきのみの色素沈着が影響しているだけで、色違いでも何でもないとわかったときは肩の力が抜けたものだ。……そうなると、色違いがピンク色のポケモンはなんなのだろうか。ショウは思わず自身のミミロップに聞いてみようとして、全力でテルに止められた。
オレンジ諸島の端も端、最果てと呼んでも差し支えない島を横切った際には、ひときわ大きなフリーザーに出くわしたこともあった。そのときはダイケンキがボールから飛び出し、一言二言ほど言葉を交わすとそのままフリーザーは去っていった。
ショウがミミロップの波導を介して聞いてみたところ、ダイケンキ達の強力な気配を感じたフリーザーは「カチコミか!?」と思い込んで飛び出してきたらしい。無事に誤解が解けたようで何よりである。それから人間が住んでいる島があるそうなので立ち寄った二人だが、原住民から「島の神々が刺激されてるんだけどなんかしらん?(意訳)」と聞かれ、知らぬ振りに全神経を使う羽目になった。
あと、島の巫女に意図せず鼻の下が伸びたテルはショウから
そうして――
「ここは……ショウ?」
「……アルセウスフォンにも名前が載っていない島……ここですね」
「おぉ!ついに到着したんだな!あっ、第一島人発見!すいませーん!」
「……んぁ?なんだあんたら、見ない格好だな……」
「不躾に申し訳ありません。この島……いえ、この地方の名前を伺いたいのですが」
「あぁ、ここ?……こんな人の寄り付かねぇ島によぉ来たな。いや、人住んでるけど。えっと、名前だっけ?ここは――」
「……お別れ、だね」
「ルシ」
「……ありがとう、ダイケンキ。私、あなたが最初のパートナーで、本当に良かった。あなたとだから、ここまでやってこれた。だから、だから……」
「ルシャ」スッ……
「……ッ!ダイケンキッ!!」ガシッ!
「…………」
「…………」グスッ ヒッグ エグッ
「…………」
「……ありがとう、ダイケンキ。少し落ち着いた」
「ル」
「……それじゃあ、ダイケンキ……元気でね!」
「……!ルッシャア!!」
「……そう、そんなことが……」
「うん」
「オレンジ諸島……お母さんも知ってるわ。あの島もこの世界に来たのね」
「やっぱり……みんなは最初から知ってるって風だったから、てっきりお母さんもそうなのかと……」
「ふふっ。それはきっと私の[起源]のテクスチャが違うからね」
「なんで違うの?生まれも育ちもシンオウなのに」
「確かに私の体は生まれも育ちもこの世界だけど、魂だけは違う。魂……すなわち、私の[起源]のテクスチャは、ずっと《前世》のままだからね。だから、平行世界の癒着によるすり合わせの影響を受けなかったんだわ。そして、それはショウも同じ。私の[起源]のテクスチャがショウにもわずかに影響したことで、こうして未来に戻ってきてもあの島々の存在に違和感を覚えた」
「なるほど……世界って複雑だね」
「そうね……ところで、ショウ?」
「なぁに?」
「素敵な彼氏くんは?」
「それが……また緊張でアガっちゃって……」
「あらあら~♪」
困りますお客様!これ以上ウォロに石を投げないでください!!
流石に痛いのは作者としても看過しかねます!!
なのでせめて痛くないようにこちらで用意したこやし玉でご容赦ください!!
痛いのはもう本当に堪忍ならんので!!
で!!!!