夜のキッサキ神殿はとにかく寒い。ただでさえ寒い純白の凍土に石造りの建物だ……その寒さたるや、一般の冬の比ではない。とてもではないが、寝られるような場所じゃあないだろう……けれど、今回ばかりは例外だ。
まず、布団がある。キッサキ神殿で寝るワサビちゃんに、という名目でカイさんが持ってきてくれたのだ。二人分の布団を一人分に偽装していたあたり、妙に徹底している。
そしてなにより……最強の暖房の存在が一番大きい。言うまでもなくグラビモスだ。
以前にも話したと思うけど、グラビモスは熱を体内に溜め込む習性がある。その関係でグラビモスの体温は常に高く、触れるだけに及ばずそばにいるだけでとても暖かいのだ。ふたり分の布団を並べて敷いたあと、グラビモスをボールから出す。ちょうど寝ようとしていたのか、出てきたグラビモスは大あくびをしていた。
「グラビモス、火炎ガスを超最低出力で噴出したりできる?」
「ヴァ!?」
「……やっぱり難しいかな」
「ヴラアァッ!!」
最初は面食らった様子のグラビモスだけど、「無理そうならそばにいるだけでいいよ」と言おうとしたところで「できらぁ!!」とばかりに自信満々に吠えた。そして……グラビモスの腹部から、そよ風程度の暖かい空気が流れてきた。
「ありがとう。……できれば、起きるまでそのままでお願い」
「ヴァー」
結構無理を言ってる自覚はあるけれど、グラビモスはのんびり返事をするとそのまま寝転がった。ガスを出したまま寝るなんて、随分と器用な……けど、おかげでこっちは大助かりだ。
「それじゃあ寝よっか、ワサビちゃん」
「うん」
二人で揃って布団に入る。……ワサビちゃんは、ベリオロスが入ったボールを手に持ったまま布団の中に。そういえば……。
「ところで、どうしてベリオロスだけをボールに?ドサイドンたちとはやっぱり多少は扱いが違うの?」
「……もしあたしがショウさんに勝ったら、ドサイドンたちもボールに入れるつもりだったよ。それから、各地を回って千里眼で見た内容を話して回るつもりだった。……その時が来たら、みんなで逃げるために」
「え、逃げる……?立ち向かうとか、対策をするとかじゃなくて……?」
「……ああ言ってくれたセキさんの手前、言い出せなかったんだけど……正直、アレを前にして勝てる気なんて全然しなかったよ。むしろ挑んだところで簡単に返り討ちにされて、あっさり殺されちゃうと思う。だから、ヒスイ地方を捨ててでもみんなで逃げたほうがいいって思ったの。……説得できるとも、思ってなかったんだけどね」
「……それじゃあ、逃げる時にポケモンたちを運び出すためにボールを?」
「うん。ボールに入れてしまえば、船とか乗り物に乗るのはあたしたち人間だけで済むし……というか、ボールに入れないと船が沈んじゃう子達もいるから……」
「あー……」
ワサビちゃんの相棒だと、ドサイドンとかエレキブルとかブーバーン、あとルカリオとかかな……特にドサイドン。確かにそういうことなら、モンスターボールは便利な道具、というわけだ。
……それにしても、「逃げる」か……。今の私には充分当てはまる言葉だな……。私の当面の目標は元の世界に帰ること……最悪の場合、この状況を放置してでも帰ろうとするかも知れない。同じ「逃げ」を選択したワサビちゃんとは、まるで意味合いが違う……私のソレは文字通りの意味での「逃げ」だからだ。ワサビちゃんのような、意味のある行動なんかじゃない……。
「……それにしても、ワサビちゃんの千里眼ってすごいね。ワサビちゃんのご両親にも視えていたのかな?」
「んー……わかんない、お父さんもお母さんもそんな話は一度もしなかったから……普通の人だったんじゃないかな?ショウさんは?」
「え?」
「ショウさんのお父さんとお母さんはどんな人?ショウさんって、ポケモン戦わせるの上手でしょ?親の人に教えてもらったのかなって」
……そういえば、久しく両親について考えてなかったな……お父さん、お母さん……。
「お父さんは……普通だよ。のんびりしているところもあるけど意外としっかり者でね、ポケモン勝負も強かったよ」
「そうなんだ」
「うん。最初のポケモンで能力を高めたり場を整えたりしてから交代して、次のポケモンに状況を繋ぐ戦い方……ハマるとめちゃめちゃ強かったなぁ……」
お父さんはなんていうか、好々爺もかくやとばかりにニコニコしてる優しい人なんだけど……バトルになると初手ポケモンで積み技連発してバトンタッチしたり、天気を変えたりステロやどくびし撒いた後、技で強制交代させてきたり……思わず叫びたくなるような戦術ばかりで本当に強かった……天冠の山麓では、そんなお父さんを思い出す機会が多かったな。
みがまもギロチンポイヒグライオン……うっ、頭が……!
「へぇ~……それじゃあ、お母さんはどんな人だったの?」
「BATTLE & DESTROY」
「なんて?」
「ポケモン勝負がとにかく好きな人だったなぁって」
「そうなんだ」
危なかった……危うく私自身が感じた本音が漏れるところだった。
お母さんのバトルセンスはずば抜けているを通り越してもはや別次元だ。「相手の技選択見てから技選択余裕でした」なんてザラだし、なんならこっちの思考を読んだかのようにポケモン交代で受け出ししたり技を打ってきたり、身代わりして守って積んで毒撒いて身代わりして守って積んで毒撒いて威張って電磁波して身代わりしてイカサマして威張って電磁波して身代わりしてイカサマして胞子撒いて身代わりしてポイヒ回復して胞子撒いて身代わりしてポイヒ回復して、おうじゃのしるしでてんめぐエアスラBANBANBAN……もはや「何と戦っているのかわからない」ような、奇妙な感覚を覚えたほどだ。……当時のチャンピオン、こんな挑戦者と戦っててどんな気分だったんだろうか……。
「ショウさんのご両親、やっぱり強いんだ……ショウさんがあんなにも強いんだから、当然だよね」
「流石に人に嫌われるほどの強さはいらないなぁ」
「え」
「なんでもないよ」
「でもさっき――」
「なんでもないよ……いいね?」
「アッハイ」
ダメだ、お母さんのことを思い出すと凄惨なバトルフィールドが一番に出てきてしまう。倒れ伏す挑戦者のポケモン……一匹も倒されていないお母さんのポケモン……しかもお母さんはバトルに関しては純粋だから、悪意なくダメ出しするし、そのせいで挑戦者泣かせるし……いや、うん、変わってるなぁとは思ってたんだけど、改めて考えてもお母さんって変人だ。ポケモン系サヴァン症候群、みたいな。
でも、そんなお母さんに初めて土をつけたのがお父さんで、だから二人はバトルを通じて交流を深めて交際して結婚して……お母さんの幼馴染のせっかちなおじさん、ごめんなさい。「バトルが二人の馴れ初め」って言葉を疑ってすみませんでした。今ならわかる、おじさんが二人の関係を「なんだってんだよー!」って愚痴ってた気持ちが。
「……会いたいなぁ、二人に」
「……時空の裂け目を通ったら、ショウさんが住んでた世界に帰れるのかな?」
「わからない……けど、それを確かめるためにも、私は時空の裂け目を目指さなきゃならないの。帰れるなら、それで良し。ダメだったら……」
「ダメだったら?」
「……わから、ない。どうすればいいんだろう……どこにも居場所がない私は、どこで生きたらいいんだろう……」
「ショウさん……」
「……なんてね。今は全然大丈夫……だって、ジンオウガたちやダイケンキたちがいるんだもの。彼らがそばにいてくれるなら、私はどこでだって生きられる。決して野垂れ死になんてしないよ」
「ヴァッヴァヴーラ」
「ありがとう、グラビモス」
グラビモスだって「そりゃそうだ」と言いたげにウンウンと頷いている。グラビモスやゴウカザルがいれば寒冷地だってへっちゃらだし、暑いところでもダイケンキやベリオロスがいてくれれば問題ない。……なんだ、私ってポケモンさえいればどんなところでも生きられそうだ。
どっかの番組で「ポケモンと無人島生活」なんてやってたけど、ポケモンがいるからむしろ余計に快適になって生放送中に企画倒れになったコーナーがあったなぁ……「冷気も炎も電撃も、拳一つでなんでもござれ!かくとうポケモン万能説」……あれは面白かった、無人島0円生活とは一体……。
「ポケモンってすごい(小並感)」
「すごいといえば……ベリオロスたちの勝負、かっこよかったね」
「うん、それはそう」
「ヴヴヴ……」
あ、グラビモスがちょっと不機嫌に……まぁ、グラビモスは見た目も相まってどうしても素早さが低いだろうから、まともに立ち回れる相手が限られちゃうんだよなぁ……。リオレウスの時のような、不意打ちとして繰り出して先手を打てたら話は別だけど。
「大丈夫だよ、グラビモス。いつかきっと、あなたの力が必要になるときが来るから。その時まで、我慢してて?」
「ヴァ!」
「ふふふ……素直でイイ子だね、グラビモス。ベリオロスもね、ちょっと意地悪なところもあるけど、根は素直でイイ子なんだよ」
「そうなの?」
「うん。結構前に、背中に乗りたくて忍び寄ったりしたんだけど全部逃げられちゃって……悔しかったから千里眼で未来を見たら、泣き落ししたら乗せてくれるって出たから、泣いてみたんだけど、本当に乗せてくれたの」
「えぇ……。でも、泣いてたらちゃんと乗せてくれるあたり、やっぱりいいポケモンだねベリオロス」
「でしょ!」
……こうして見ると、なんだかリオレウスだけが悪者みたいに感じてちょっと嫌だな……。キングを不意打ちしたり、私たちに襲いかかってきたり、野盗三姉妹を手に掛けようとしたり……でも、おかげで私は人を信じたい私自身を再認識できたし、改めてジンオウガたちのような存在がどれだけ恐ろしく危険な存在なのかを知ることができた。そういう意味では、リオレウスのあの襲撃はむしろありがたいことだ。
ならば、私は改めて己に課せられた責任を自覚するべきだ。あれほどに恐ろしく強力且つ巨大なポケモンを既に四匹集めていて、この上さらにもう一匹加わるのだ。彼らの力をしっかりと御すること、そしてその使い方を誤らないこと……責任は重大だが、私は不思議と間違える気はしなかった。いや、絶対に間違えないという自信がある。
あの雨の日に、ジンオウガに助けてもらった時から、ずっと。
「……ジンオウガもね、とびっきり優しいんだよ。ムラを追放されて、行く当てがなくて雨の日に泣いてた私を、助けてくれたんだ。巣に連れ帰って、雨宿りさせてくれた。ご飯だって獲ってきてくれて、ヒスイ地方に来たばかりの頃の私の思いや願いも思い出させてくれたし、私が寝てから起きるまでずっと寝ずの番までしてくれた……感謝してもしきれないよ、本当に」
あの出会いがなければ、今の私はいなかった……いや、最悪の場合、どこかで野垂れ死にしていたかもしれない。ウォロさんは私を探していたようだったけど……もしかしたら、たまたまウォロさんよりも先にジンオウガに出会えただけかもしれない。だけど、でも……不思議と、確信してるんだ……
「……ワサビちゃん?」
「スゥー……スゥー……」
「寝ちゃったか」
大事そうにボールを抱いたまま、ワサビちゃんは静かに眠っている。……ワサビちゃんのベリオロスへの思いは、並々ならぬものだった。きっと、私がジンオウガたちに抱いている思いと同じか、それ以上に。
「ヴァ」
「ん、私ももう寝るよ。グラビモスもお休み」
「ヴ」
私も目を閉じて、眠る態勢に入る。こうして目を閉じると、ジンオウガたちとの出会いが鮮明に思い出せる。決して色褪せることのない、確かな思い出の一つとして……。
「確認!」
「一名が負傷!壁が破壊されています!」
「撃龍槍は使えるか!?」
「動作確認をします!今しばらく時を!!」
「調査団の本隊、到着しました!」
「うむ……二人の力あってこそ、時を稼げた。
彼らが希望を繋いだのだ……死なせてはならん!
猶予はわずかだ!急げ!!」
「「はい!」」
ゆっくりと意識が浮上してきて、目が覚めた。私は体を起こして、すぐ後ろにいるグラビモスの方へと振り返る。目を閉じていたグラビモスだけど、私の起床を感知したのかパチリ、と目を開けた。
「おはよう、グラビモス」
「ヴァヴァー」
うん、と伸びをする。……なにか、不思議な夢を見たような気がしたけど、よく思い出せないや……まぁ、夢の内容って思い出せないことが大半だし、変ではないか。
「ふわぁ……」
「おはよう、ワサビちゃん」
「ぉあよぅ……」
あらら、ワサビちゃんはまだまだおねむみたい。寝ぼけ眼で頭が右へ左へフラフラと……ついでにコックリコックリと船を漕いでいる。ワサビちゃんって、朝に弱いのかな?
手に持っていたボールがこぼれ落ちて、コロコロ転がってからポン!と音とともに中からベリオロスが出てきた。
「ガオ?」
「ふわ……あ!ベリオロス!」
「ガ」
と、さっきまで半分は寝ていたワサビちゃんの意識が一瞬で覚醒した。しかも勢いそのままにベリオロスの顔面にしがみつく。顔にくっつかれたせいか、ベリオロスも動けなくなってしまった。
「ヴァッハッハッ!」
「ガオウッ!?」
「ヴァウ、ヴァヴヴ」
「ガウー……」
そんなベリオロスを見たグラビモスが愉快気に笑うと、ベリオロスも「なんだテメェ!」とばかりに睨みつける。けれど、グラビモスが顔にひっついているワサビちゃんを示すように首を動かすと、ベリオロスは不承不承とばかりにおとなしくなった。
やっぱり彼らはお互いに生息地が異なれども、ある程度の面識はあるみたい。……けど、一体どこで出会ったんだろう?彼らが人目を忍んで一堂に会することができそうな場所なんてどこにもなさそうだけど……。
「おはよう、ベリオロス」
「ガオ」
「……今日から、あなたはショウさんと一緒に行っちゃうんだよね……なんだか、寂しくなるね」
「ガオガオ」コクコク
「ベリオロスも、寂しいの?」
「ガオ」コクリ
「……えへへ、そっか!」
ボールに入ってようが入ってなかろうが、ワサビちゃんとベリオロスの関係は変わらずのままだ。確かにこれなら、コンゴウ団やシンジュ団の人たちがボールを使わない乃至は使いたがらないのもよくわかる。ボールがなくても、ポケモンとの絆を深めることはできるんだ、と。
ワサビちゃんはベリオロスをボールに戻すと、そのまま私の下まで来てボールを差し出してきた。
「……ショウさん、ベリオロスをよろしくね」
「もちろん!またいつか、ここに連れてくるからね」
「うん……!あたし、待ってるから!!」
キッサキ神殿でワサビちゃんの思いとともにベリオロスを受け取った私は、ウォーグルにライドして氷山の戦場へと向かった。そこでは昨日の約束通りにウォロさんが待っていた。
「お待ちしていました、ショウさん」
「ウォロさん……わざわざすみません」
「いえいえ、お気になさらず!それでは、行きましょうか」
「はい」
それからウォロさんとしばらく歩いていたんだけど、極寒の荒地辺りで唐突にウォロさんが振り返った。
「そういえばショウさん、アレ出してくださいよ、アレ」
「アレ?」
「アレと言ったら、ジンオウガ!あの力強い前脚にあの巨体……あのポケモンに乗って行ったほうが、よっぽど早く着くと思いませんか!?それにジブン、未知のポケモンをもっと近くで見てみたいという思いもありまして、是非ジンオウガの背中に乗せてもらえたらなと!」
「……あー……」
確かに……ここから何処へ行くにしても、徒歩だと明らかに時間がかかってしまう。あまり人前には出したくないけど……ウォロさんはジンオウガしか見たことがないはずだし、四の五の言ってられないか。
「ジンオウガ!」
ボールからジンオウガを出し……って。
「ジンオウガ、ウォロさんを見るなり露骨に嫌そうな顔をしないの!」
「グルル……」
「あらら……ジブン、何か嫌われるようなことでもしましたかね……?」
「いえ、その……多分、この子の個人的な好みのあれこれかと……」
「それはそれで傷つくんですが!?」
「ジンオウガ、ここから遠くへ移動するんだけど、ジンオウガに乗って行ったほうが速く着くの。お願い……」
「……ワン」
私がなんとか頼み込むと、ジンオウガは緩慢とした動きではあるけれど、しっかりとしゃがんでくれた。ありがとう、後で目一杯褒めてあげないと。
「ありがとう、ジンオウガ!さぁウォロさん、尻尾の方から背中にかけて乗り込んでください。私が先に乗りますので」
「はいはい!いやぁ、未知のポケモンに乗れるなんてなかなかにない機会!楽しみです!」
私が先導する形で、二人揃ってジンオウガに乗り込んだ。ウォロさんは終始興奮しっぱなしで、なんだか小さな子供みたいだ。
「それじゃあ、行きます。ジンオウガ、お願い!ウォロさん、道案内の方、よろしくお願いします」
「お任せ下さい!」
ジンオウガの背中に揺られること、およそ三日。確かに徒歩で行くよりはだいぶ早いけど……向かっている方角からしてもしも黒曜の原野で出会っていたらさらに時間がかかったのでは?と思わざるを得ない。
着いたのは、なんとも不思議な狭い場所。窪地のようなその場所には、小さな家が一件建っているだけだ。ウォロさんはボロ家と言うけど……そもそもここってウォロさんの家?
ジンオウガをボールに戻して奥に進むと……なんかすごいミステリアスな女性が椅子に座っていた。テーブルの上には時代錯誤なティーセットなんて置いてあるし……。名前はコギトさんといい、コギトさん曰く、私は「時空の迷い人」……らしい。時空の裂け目によって時間と空間の均衡が崩れかねなくて、それを防ぐ使命を託されたのが時空の迷い人である私……らしい。
「(そんなこと言われても……)」
そんなこと言われても、迷惑千万極まりなし。そもそも私は好きでこのヒスイ地方にきたわけじゃないし、拾ってもらったムラへの恩返しの為に働いたら状況悪化した責任取らされて追放されたし、かと思えば今度は知らぬ間に託された使命を果たせ、ときたか。
……どいつもこいつも、身勝手すぎる!どうして誰ひとりとして私の話を聞いてくれないのか!!私の思いも、願いも、何もかも無視して、勝手なことばっかり言って!!……けど、この赤い空を放置できないと感じているのは確かだし、なんとかできるというのなら話は最後まで聞かないと……。
話は、庵の中で続けられた。どうやらヒスイ地方にあるシンジ湖、リッシ湖、エイチ湖には、それぞれ心を表すと言われているポケモンがおり、三匹の試練をこなすことで与えられる物を紅蓮の湿地の霧の遺跡に持っていけば、「あかいくさり」という道具が得られるらしい。
「ふう……そなた、使命がわかったなら、やるよな」
「…………」
「……ショウさん?」
私は、コギトさんの問に即答できなかった。使命なんて、どうでもいい。私はただ、元いた世界に帰りたいだけ……なのに、この上身に覚えのない使命まで押し付けられるの?冗談じゃない……!
「……私は、元いた時代に、世界に帰りたいだけです」
「ふむ……なるほど、道理じゃな。そなたはあの裂け目を通ってこちらに来た。来た道を戻れば、元いた場所に戻れる……そう考えるのも無理はないが、そもあの裂け目を放置してこの世界が消滅すれば、そなたが居た場所もただではすまぬと思うが?」
「……えぇ、でしょうね。ですから、やれというならやりますが」
「では、やれ」
「ちょっとちょっと、なぜに険悪になっているのです!ショウさんとしても、あの裂け目は放っておけないのでしょう?」
「……冗談ですよ、ウォロさん。過去が変われば未来が変わる……浅知恵ですが、それくらいはわかります。ですから、その使命……しっかりと果たすことにします」
ウォロさんの言うとおり、あの裂け目を放っておいて何かあっては、大変なことになってしまうかもしれない。ましてや、ここヒスイ地方は私が生きた時代から随分と昔のこと……この時代で起こった出来事が、後の世に悪影響をもたらさないとは限らない。この時代で起きた問題は、なるべくこの時代で解決しておくべきだ。
……と、ここで庵の外からポケモンの鳴き声が聞こえた。コギトさんに見て来いと言われ、ウォロさんと一緒に外に出るとそこにはケーシィがいた。……このケーシィ、まさか……。
「あら、手紙ですね。ショウさん宛ての」
「手紙……」
ケーシィから手紙を受け取り読んでみる……これ、シマボシ隊長からだ!ケーシィを通じて放牧場のポケモンをやりとりしろ、ベースキャンプが使えるように手配したなどなど、こちらの調査がよりスムーズに進められるように便宜を図る旨の内容が記されていた。そして……シマボシ隊長は私を、「優れた調査隊の一員」と評してくれ、さらにこの異常事態の調査をいち早く終えることを信じている……とまで言ってもらえた。
思わず、涙がこぼれた。ガラナさんが言ってくれた言葉……私を信じている人もいるという言葉が、今更になって実感できた。テル先輩やラベン博士も信じてくれている……大丈夫、私はもう何も怖くない。
「もしかして、いい報せですか?」
「ふふっ……内緒、です」
さて、三つの湖を巡る試練……ウォロさんはもう少しだけ助力が欲しいようだけど、流石にこれ以上は……
「ウォロさん……商人というのは抜け目ないね」
「え?」
突然聞こえてきた声に振り向けば、カイさんとセキさんが歩いてきていた。どうやら二人共、それぞれの団の団員たちを落ち着かせていたらしい。……当然だが、二人が表立って私を助けてしまうとギンガ団との間にいらない諍いを生みかねない。だからこっそり助けてくれるそうだけど……。
「…………」
「(セキさん……?)」
セキさんがこっちを見てから、チラ、チラとカイさんの方へと視線を向けている……これは……!
「(ショウ、カイを選べ。こいつちょっと厄介になってるから)」
「(わかりました、セキさん……!)」
アイコンタクトは完璧……の、はず。
「えっと、カイさん――」
「わたしだよね!バサギリを鎮めるとき材料となる好物を持ってきたし、ともにシズメダマをつくったよ!」
「わ」
うっわぁ……すんごい期待に満ちた目……こ、これは裏切れない……!
「……じ、じゃあ、カイさんで……」
「さすがショウさん!よい選択だよ、後悔させないよ!」
満面の笑みで選ばれたことを喜ぶカイさん……思わず目を逸らしてセキさんの方を見てしまう。……セキさんもセキさんで、カイさんにバレないようにホッと息を吐いていた。
その後、セキさんはデンボク団長の様子を見ることになり、私とカイさん、ウォロさんの三人で湖を巡ることになった。
さて、バレないためにカイさんとウォロさんは先に行ったし、私も出発――。
「待て、おぬし」
――……しようとしたところで、庵から出てきたコギトさんに呼び止められた。なんだろう、これから出発って時に……。
「どうしたんですか?手短にお願いします」
「……そなた、変わったものを連れておるな?」
「え」
「ほれ、はよう見せんか」
「いや、あのっ、ちょっと……!?」
な、なんかすごいグイグイくる!変わったものってもしかしてジンオウガたちのこと!?最初はなんとか抵抗していたけど……結局、コギトさんの圧に負けて、ジンオウガたちを見せることとなってしまった。
「ほほぅ、この出で立ち……まるで狼よな。小さな後ろ脚に比べて、この前脚……筋肉のつき方があからさまに違う。駆けるだけに及ばす、跳躍力も凄まじそうじゃな。高低差の激しい山岳地帯にさえ容易に住み着いてしまえるじゃろうな。……ふむ、何?でんきタイプじゃと?しかも、かくとうタイプも併せ持つか!ほうほう、するとあの背中の毛や甲殻が電気を操るのに必要な器官ということか。……なに、調査中じゃと?もっとこの異形のケモノを調べよ」
「ふむ……全身に纏う岩、まるで鎧のようじゃな。それに、心なしかほんのりと暖かい。……なんじゃと、熱を溜める?しかも排熱のために可燃性のガスを腹部から出すだけでなく、口から火炎を放つじゃと!ただの排熱行為すらも攻撃に転じるか……ハハッ、なかなか面白い発想じゃな。習性をそのまま攻撃に利用するなど、あたしも初めて聞いたわ。ふむ……主な食料は鉱物か、まさに見目の通りのいわタイプ、じゃな。……まだまだ調べられることがありそうじゃ、もっと調べよ」
「背電殻、とな。電気を貯蓄する器官であり、それと同時に電気を操る器官でもある、と。……なんと!体長30m!?これはまた、随分と大きな竜じゃな。ほほぅ、自ら発生させた電気だけでなく、外部から受けた電気すら背電殻に貯めることができるのか。最大まで電気を貯めると背電殻は美しい蒼光を放つ、と……ふむ、一度見てみたいものじゃな。まだまだ調べる余地はありそうじゃな」
「おぉ、これぞまさに飛竜!と言わんばかりの姿じゃ。雄大な翼、強靭な脚……空に生きるものとして、これほど理想的な姿もなかろう。……なに!三日三晩と飛び続けられる体力を有するじゃと!?三日三晩ともなれば、飛行する生物としては破格の性能になるのじゃ。……地上から宙返り!?加えてハガネールを溶かし尽くすほどの火炎を操るとは、芸達者なドラゴンじゃな!足の爪には毒をも有するか、これを狩りに用いる、ということじゃな。まだわからぬことが残っていそうじゃな、余さず調べあげよ」
「おぉ……なんと美しい琥珀色の牙じゃ。こやつは純白の凍土に棲んでおるのじゃろう?白い体毛は雪の中でも隠れるためか?腕の翼に刺が生えておるな……なに、滑り止め?ほほぅ、スパイクのような役割を持っておると……これほどの巨体でありながら、それほどに俊敏に動くことが出来るのか?なるほどなぁ、面白い。まだまだ調べられそうじゃな、もっともっと異形のケモノについて調べるのじゃ」
もうずっとこんな感じ……けど、こんなにはしゃぐなんてちょっと見た目とのギャップがすごいんですが。……「異形のケモノ」か……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない……けど、もしかしたら……。
私はリオレウスの背中に乗って、最初の目的地である純白の凍土へと向かった。
純白の凍土に着き、すぐにアヤシシやウォーグルらにライドしてエイチ湖を目指す。エイチ湖に着くとアルセウスフォンが反応し始め、それまで存在していなかった洞窟の入口が出現した!?
私とカイさんは揃って中へ。湖のポケモンを守るポケモンがいるらしいけど、果たして……。
「……あれ、かな……」
「えぇ、多分……けど……」
洞窟の中にそのポケモンはいた。
全長6m半にも及ぶ大柄な体躯。
威圧的な強面や鋭い鉤爪。
胴体全体を覆う分厚い毛皮と、丸太のように太く強靭な四肢。
「鬼」を彷彿とさせるような、青白い顔。
この雰囲気は……むしろ、ジンオウガたちと同じ……!!
「ドゴッシャアアアアッ!!」
謎のポケモンは大きく咆哮すると、私たちへめがけて飛びかかってきた……。
一万文字超えたし、中途半端だが一旦ここまで!
まぁでも、今はGW中なんでね、書く時間なんていくらでもあるんでね!
丸一日使ってこれだけ書けたら上等ですよね?ね!?