ポケットモンスターHUNTER アルセウス   作:箱厨

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実は本編よりサブタイ決めに一番時間がかかった……あるあるでしょ、これ。


シンオウ神殿へ ~団長と懐刀~

シンジ湖での試練を終えた私は、ライドポケモンを乗り継いで大急ぎで原野ベースまで戻ってきた。オドガロンとの戦いで負傷したポケモンたちをボールから出して、すぐに応急処置を始めた。

ガブリアスとゴウカザルは裂傷状態になっているから、アカイさんからもらった活力剤を使ってあげる。患部に塗ってあげると、みるみるうちに傷が塞がっていった……これなら、ガブリアスは大丈夫そう……けど……。

 

「ゴウカザル、腕が……」

 

「キキ……」

 

ゴウカザルの腕……尺骨とかがある部位が変な方向に曲がっている……骨が完全に折れているようだった。かいふくのくすりをつかったけど、外傷が治っただけで折れた骨が元に戻ることはなかった。ミミロップの耳も同様で、傷は塞がったが、塞がっただけ……噛み潰されて変形してしまった耳が元に戻ることはなかった……。

 

「ショウさん!」

 

「ショウさん、ご無事で!」

 

「カイさん、ウォロさん……」

 

湖に置いてきたカイさんとウォロさんも合流した。

 

「事情は聞きました。簡単な応急処置でしたら、ジブンに心得があります」

 

「お願いします……」

 

ウォロさんは慣れた手つきで応急処置を始めた。ゴウカザルには木材で即席の添え木を作り、布で首から吊るように腕を固定してくれた。ミミロップの耳には簡単に包帯を巻いてもらい、一通り二匹の状態を確認してくれた。

 

「……終わりましたよ」

 

「ありがとうございます、ウォロさん」

 

「いえいえ、これくらいでしたらお任せ下さい。……ただ、ゴウカザルは間違いなく腕の骨が折れているでしょうし、ミミロップの耳の状態も気になります……。ギンガ団には医療隊がいるので、あとは専門家にお任せするほかありませんね」

 

「いえ……してもらえるだけで、とてもありがたいです……」

 

私はゴウカザルとミミロップの二匹と向かい合った。

 

「……二人共、ごめんなさい。私が未熟なばかりに、二人には大怪我をさせてしまった。本当に、ゴメ――」

 

「ウキッ」

 

「あいたっ」

 

二匹に謝罪をして頭を下げようとしたところ、ゴウカザルからデコピンをされてしまった。顔を上げれば、優しげに微笑む二匹の姿があった。

 

「ゴウカザル……ミミロップ……」

 

「ウキャキャ」

 

「……ミィ」

 

「……?」

 

あれ……今、ミミロップの反応が鈍かったような……まさか!?

 

「ミ、ミミロップ……あなた、まさか……耳が……?」

 

「ミィ……」

 

あぁ……そんな、そんな……!ミミロップ……耳が、聞こえなくなってしまったの……!?

 

「ミミ、ロップ……わ、私、わたし……!」

 

「ミイ」

 

ミミロップは優しく私を抱きしめると、そのまま背中を撫でてくれた……私は、私は……!

 

「ご、ごめ……!ごめん、なさい……!ミミロップ……ミミロップ……!!

うわああああぁああぁあぁああぁぁぁぁぁぁっ!!

 

「ミッミィ」

 

涙が、声が、抑えられない。大声を上げて、情けなく泣き叫ぶ私を、ミミロップは優しく抱きしめ続けてくれた。

 

 

 

 

私がミミロップと出会ったのは、彼女がまだミミロルだった頃のこと。他のミミロルと混じって、明らかに色が違うその子を見たとき、必ずゲットしようと思った程だ。そして、念願叶って捕獲に成功したときは、大げさにはしゃいでしまったのは今となってはなかなかに恥ずかしい話……。

私はこの色違いのミミロルを、必ずミミロップに進化させるべくいつも一緒に行動した。調査に行く時は必ず手持ちに加えて、資源回収などはミミロルに任せていた。そして……ついにミミロップへと進化した時の感動は、言葉では言い表せないものだった。進化後は様々な技を覚えさせて、いつも一緒に連れ歩く旅仲間の一匹となっていた。

私にとって、大切な思い出がたくさんあるポケモンなのだ。そんな彼女が……オドガロンとの戦いで、右耳を失聴してしまった。全てはトレーナーである私に責任がある。けど……ミミロップは、「気にしないで」と言わんばかりに微笑み、抱きしめ、背中を優しく撫でてくれる……ジンオウガとの間に感じたぬくもりが、ミミロップからも伝わって来る。それは、隣にいるゴウカザルからも伝わって来るものだ。

ゴウカザルも、私にとって思い出深いポケモンだ。というのも、私のお母さんが冒険に出るときに最初に選んだポケモンがヒコザルだったのだ。お母さんのゴウカザルはとにかくすばやさが高くて、なんならきょうせいギプスを持ってても大半のポケモンを余裕でぶっちぎるほどだ。そんなお母さんのゴウカザルを見て育った私は、当然だがお母さんと同じゴウカザルを捕まえたいと思っていた。そして、シシの高台でヒコザルをゲットした私はお母さんのゴウカザルにも負けないゴウカザルを育ててみせると誓ったものだ。

そんな二匹の、戦線離脱……大きな失態だ。ジンオウガたちのような、巨大ポケモンの脅威……わかっていたつもりになっていたみたいだ。今一度、肝に銘じなければならない。

 

 

 

 

「ありがとう、ミミロップ……もう、大丈夫だから」

 

「ミィ」

 

私はミミロップから離れると、二匹を一度ボールに戻す。ウォロさんの言うとおり、一度専門的な分野の人に診てもらったほうがいいだろう。

それから、私たちは一度コギトさんの下を訪ねて、手に入れた素材を渡した。……エムリットって言うんだ、あのポケモン。アグノム、ユクシー、エムリット……三匹の素材を手に入れたことで、私たちは紅蓮の湿地にある霧の遺跡へと移動した。もちろん、バラバラに移動して、だけど。ただ、驚いたのは肝心のコギトさんが伝えられていた伝承にあかいくさりの作り方がなかったことだ。

どうすれば……と困っていると、再びアグノム、ユクシー、エムリットの三匹が現れて、それぞれの素材で一瞬のうちにあかいくさりを作り上げていた……いや、ちょっとまって本当に原理不明なんだけど!?ツッコんだら負けかな、コレ……。

あかいくさりの完成を見届けると、ウォロさんから衝撃の情報が齎された……それは、デンボク団長が調査を待たずしてテンガン山へ登ったというものだった。あかいくさりの事情を知らないとはいえ、あの人らしくない……!

私は大急ぎでコトブキムラへ向かった。あかいくさりのことも含めて、きちんと報告に行かなければならないだろうから……けど、正直に言うとあまり気が進まない。ムラには未だに私を疑う人がいるだろうし、なにより団長と顔を合わせるのが気まずい……というより、嫌。だから、シマボシ隊長へ報告に行くのだ、と自身を鼓舞しながらムラへと向かったのだ。そうじゃないと、すぐにでも足が踵を返しそうになるから。それに、ゴウカザルとミミロップを医療隊に相談しに行かないとだし……。

 

気持ち駆け足で門をくぐると、なぜかテル先輩が門番をしていた……あれ、異動したの?心なしか、人気が少ないような気もするし……。

 

「……!ショウ……?」

 

「先輩」

 

「ショウ!」

 

先輩も私に気がついたようで、直ぐにこっちに来てくれた。

 

「ショウ、おかえり。お前が帰ってきたってことは、何かあったのか?」

 

「えぇ、まぁ。この事態を収束できる可能性を持ってきましたよ」

 

「本当か!?よしっ……ちょっと待ってな!隊長や博士に知らせ……」

 

「……?」

 

本部へ走り出そうとした先輩だけど……体の向きを変えたところで私の方へと振り返り、そのまま私に近づくと顔を近づけて私の顔をまじまじと見つめてきた。

 

「先輩?」

 

「……ショウ、なにがあった?」

 

「えっ……」

 

「目元が赤くなってる。泣いたんじゃないか?何かあったんだろ、おれは先輩なんだから、もっと頼ってくれよ」

 

「うっ……」

 

も、元に戻したつもりだったのに、戻りきってなかったか……うぅ、先輩の顔、有無を言わさぬ雰囲気を感じる……。しょうがない、これは正直に話すしかないかな……。

 

「実は……」

 

私はテル先輩に、湖の三試練の話をした。洞窟に住み着いていた未知の巨大ポケモン達と、彼らとの戦闘でゴウカザルとミミロップが戦線離脱するほどの重傷を負ったこと、そして……ミミロップが失聴し、戦えなくなってしまったことも。

 

「私……私のせいなんです……。私が判断を誤って、すぐにミミロップをボールに戻せなかったから、だから……」

 

「…………」

 

思い出すと、また涙が溢れてきた。洞窟内で響いた劈くようなミミロップの悲鳴は、今も私の耳にこびりついている……オドガロンに捕まった時、すぐにでもボールに戻せば、ミミロップは……。

 

「ショウ」

 

私が何度も涙を拭っていると、先輩がそっと私を抱きしめてくれた。それは、原野ベースで抱きしめてくれたミミロップと同じ、優しい温もりが伝わる抱擁だった。

 

「なあ、ショウ。お前、"私のせいで"って言うけどさ……ミミロップとゴウカザルは、少しでもお前のことを責めたのか?」

 

「……ううん、責めなかった」

 

「そっか……それじゃあ、二匹はもうショウのことを許してるんだよ。……いや、許す許さないってのもおかしな話だ。だって、二匹はショウのことを信じて、背中をあずけてくれたんだからさ。そんな二匹がショウのことを責めたり怒ったりしてないんだから、ショウ自身があまり自分を責めちゃダメだろ?

ゴウカザルとミミロップが心から信頼してくれたお前を、他でもないお前自身が卑下しちゃダメだ。それは、二匹からの信頼に背中を向けるようなモンだぞ」

 

「……!」

 

先輩……!そっか、私は……二匹の信頼に応えられなかったことを、ずっと気に病んでたんだ……。

ポケモンの力だけでも、トレーナーの判断だけでもダメだ。ポケモンとトレーナー、双方の信頼が合わさって、初めてポケモンバトルが成立する……お父さんの言葉だ。私が一方的に彼らに報いることができなかったと思っていたけど、それはポケモンたちも同じだった……。そして、その上でまだ私のことを信じてくれている……なのに、私だけが卑屈になって自分を下に見ていたら、それは確かにゴウカザルがデコピンをするわけだ。

先輩が、優しく頭を撫でてくれる……それだけで、心まで暖かくなっていく。ずっとこうしていたい……なんて、そんなふうに思ってしまうほどに。

 

「……あの、もう大丈夫です」

 

「そっか」

 

一応、大丈夫だと伝えると、先輩はあっさりと離れてしまった。なんか、ちょっと寂しいような……って、私ったら、何を考えて……!?

 

「ショウ、大丈夫だ。お前の仲間はポケモンだけじゃない。おれや博士たちだって、みんなお前の仲間だ!」

 

「先輩……」

 

優しく微笑む先輩の顔を見て、胸がトクン、と高鳴った。同時に、顔が熱を持って赤くなっていくのを自覚する。

……もうダメだ、誤魔化せない。私……先輩のこと、好きだ。素性の知れない私にこんなにも優しくしてくれて、追放される時も純粋に怒ってくれて、天冠の山麓で予期せぬ再会を果たしたときは「生きていてくれてありがとう」とさえ言ってくれた……そんな先輩の優しさに、自分でも気がつかないうちに惹かれていた。

……でも、きっと……この気持ちは、封印しなければならないものだろう。私は元の時代に帰るつもりだし、テル先輩は元々この時代を生きる人。連れて行くことも、残ることもできない……それなのに、一方的に「好き」なんて感情を抱いていたら、先輩にすごく迷惑をかけてしまう。だから、私はこの気持ちをずっと封じ込めておく。……大好きな人に、迷惑はかけられないから……。

 

「よし、それじゃあ今度こそ博士たちに知らせてくるよ!」

 

「あっ……」

 

走り去っていく先輩の後ろ姿に、やはり寂しさを覚えてしまう。……ダメだよ、私……この気持ちは、伝えるわけには行かないって、決めたんだから……。

 

 

テル先輩が戻ってきたとき、一緒にいたのは博士だけだった。曰く、デンボク団長が警備隊を率いて自ら時空の裂け目とその向こう側に見えたというポケモンの影を調査すると、テンガン山へ向かってしまったためにほとんどの仕事がシマボシ隊長に回されてしまい忙殺されているとのこと。……本当に老害だな、あの親父。

調査隊本部へ赴くと、シマボシ隊長から開口一番「賞賛する」と言われてしまった。それは、追放直前に下された隊長からの命令である「野垂れ死にするな」を守りきったからだそうで……それもこれも、すべて隊長が便宜を図ってくれたからこそだ。そのことを正直に伝えると……全てケーシィの独断で、隊長本人としては不便だったと顔を逸らしてしまった。……耳が赤くなってることは、言わないほうがいいんだろうな。

それから、話はこの事態を収束させるための有益な情報……即ち、あかいくさりの話となった。あかいくさりの話……隊長は信じてくれるようだった。現に、私にギンガ団調査隊として復団し、事態を収束するよう命令を下してくれた。……隊長、貴女という人は本当に……。

 

「……もう一つ、確認する」

 

「……え?あ、はい、なんですか」

 

「テルと博士の両名より、異変発生後に各地にてそれまで未確認であった巨大ポケモンが出現したとの報告を受けている。そして、ショウがそれらのポケモンをすべて捕獲していることも」

 

「あっ……」

 

「天冠の山麓に出現したというリオレウスなる巨大ポケモンとの勝負、そして捕獲まで……一連の報告は既に受けている。その上で確認する。ショウ、キミは強力極まりなく且つ巨大なポケモンを完全に御することができるのか?」

 

「できます」

 

「そ、即答だな……」

 

間髪入れずに即答すれば、テル先輩が驚いたように呟いていた。こればかりは本気で自信がある。なんなら彼らの力があれば、それこそ元の時代に戻ったあともジム巡りだろうがコンテストだろうがバトルフロンティア等の施設だろうが、全てにおいて勝ち続けること請け合いである。

ただ……オドガロンの一件のように、彼らの力の使い方を誤れば容易く命が散らされることも間違いない。彼らの力を御するということは、その力を過剰に振るうことなく制御して、普通のポケモンらと何ら変わらない力加減を発揮するということだ。

私の回答に満足したのか、隊長は「よろしい」の一言で済ませてくれた。それから改めて、私に調査命令を下してくれた。ただ、私の追放令を出した団長が不在の中で、そんなことをしていいのだろうか……。

 

「隊長、大丈夫ですか?ボスが留守なのに……」

 

テル先輩も気がかりみたい……しばし目を閉じた隊長は、目を開くと毅然とした態度で言い放った。

 

「留守を預ける方が悪い」

 

「……プッ、アッハハハハッ!!

 

「笑いすぎだ」

 

だ、だって……!あの堅物な印象が強いシマボシ隊長が真顔で「留守を預ける方が悪い」って……!そんなの、笑いを堪える方が無理だよ……!

 

「ボクも行くのです!ボクたちは調査隊ですからね!」

 

「いくな、とは言っていない」

 

こうして私のギンガ団復団が決まり、テンガン山へはテル先輩とラベン博士も同行することになった。

……出発する前に、医療隊のキネさんを訪ねる。大怪我を負ったゴウカザルとミミロップを診てもらうためだ。

 

「……あれ、ラッキー?」

 

「ラッキ?」

 

「あぁ、この子?この子はね、テルくんが捕ってきてくれたのよ。医療に関してなら、力になってくれるはずだって」

 

先輩、そこまで気が利いて……。私は早速、キネさんにゴウカザルとミミロップのことを話して、実際に二匹の状態を見せたりした。……めちゃめちゃ怒られた。それもそうか……でも、怒られてもしょうがない。それだけのミスを犯したんだ、受け止めるしかない。

 

「……ゴウカザルは骨折してるわね。骨が元通りにくっつくまでに、これはかなりの時間を有するわ。それと、ミミロップだけど……」

 

「はい……」

 

「……右耳は、一生聞こえないままになるわ。ごめんなさい、なんとか力を尽くしたんだけど……」

 

「いえ……診てくださってありがとうございました」

 

「……この状態のミミロップは勝負はもちろん、野生に帰すこともできないわ。覚えておいてね」

 

「はい」

 

二匹を医療隊に預けたあと、次に私が向かったのは放牧場だ。ミミロップとゴウカザルが抜けた穴を埋めるためのポケモンを、よく考えないといけない。

今回、ポケモン入れ替えで私が重要視する点は二点。一つはフェアリータイプのポケモンが不在であること。もう一つはゴウカザルの代わりとなるかくとうタイプのポケモンだ。よく吟味した上で、私が選んだのはトゲキッスとルカリオだ。トゲキッスはかえんほうしゃを覚えてくれるし、なにより選考基準であるフェアリータイプのポケモンだ。ルカリオは……うん、ワサビちゃんの影響をモロに受けました。かくとうタイプだし、ルカリオも元々強いポケモンなので採用しない手はない。

 

二匹を追加で手持ちに加えて改めて正門まで行くと、そこではカイさんが待っていてくれていた。

 

「ショウさん、デンボクさんは……?」

 

「テンガン山だ」

 

「デンボクさんも大人なのに、案外聞き分けがないんだなあ!」

 

それはそう。私が内心で激しく同意している間にも、カイさんはデンボクさんを止める!といって一足先に天冠の山麓へと向かっていった。私たちも後に続こうとした……その時だった。

 

「あんた……追い出されてもムラのために調査をしていたんだろ」

 

後ろから声をかけられた……ムラの住民である男性と、女の子。なぜ……いや、それよりも。どうして私がムラのために調査をしたことに……そうか、先輩か。そういうことになっているなら、そういうことにしておいたほうがいいだろう。私は一歩前に出ると、深く頷いた。

 

「そうだよな、ショウはムラのみんなのためにあかいくさりを手に入れたからな」

 

「そうですとも!調査隊はムラの皆さんのため、そしてポケモンと仲良くできるように彼らを調べているのです!」

 

テル先輩もラベン博士も、私に続けてそう言ってくれるけど……先輩、あなたは確信犯ですよね?私が戻って来やすいように、少しでも私の印象を良くしようとして……。すると、女の子が私に近づいてきて……げんきのかたまりをくれた!

……どうして君が持ってるの?どこで拾ったの?お姉ちゃんに正直に言ってごらん?いや、でも、大変便利な道具なのできちんとお礼は言いますけど。

 

「三つ、命令する」

 

そして、隊長からの命令。一つ、山頂ベースからシンオウ神殿に向かうこと。二つ、あかいくさりにて事態を収めること。三つ、無事に帰還すること……。

 

「はいっ……!」

 

私は、力強く返事をした。……ただ、ごめんなさい隊長。もしもの場合、私は三つ目の命令を守れないかもしれません。なぜなら、私の目的は時空の裂け目を通って元の世界に戻ること……最悪、これがこの時代との一生のお別れになるかもしれない。

ムラを出てしばらく歩いたあと、私は後に続く先輩と博士の方へ振り返った。時間もないし、これが一番手っ取り早い!

 

「先輩、博士。ここからは爆速で山頂ベースへ向かいます」

 

「爆速?」

 

「なにか手があるのですか?」

 

「もちろん。来いっ!リオレウス!!」

 

「グオオオオンッ!!」

 

私はすぐさまボールからリオレウスを繰り出した。リオレウスは私たちを見て状況を察したのか、すぐさま体を伏せてくれた。

 

「さあ、行きましょう」

 

「いやいやいやいや、ちょっと待て!まさか、コイツに乗っていくのか!?」

 

「多分これが一番早いと思います」

 

「いや、それは間違いなくそうなんだろうけど……」

 

「乗りましょうテルくん!こんな機会は滅多とないですよ!」

 

「ほら、博士も乗り気ですよ。大丈夫、ジンオウガにだって乗れたんですからリオレウスも楽勝ですって」

 

「陸路と空路は違うんだよぉ!?」

 

何がそんなに違うのかなぁ……ポケモンに乗るという点では、陸路も空路も一緒だと思うけど……。

 

「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……!」

 

「せんぱーい、行きますよー?」

 

「……スーッ……よしっ、行くぞ」

 

「……なんでそんな覚悟極まった顔をしてるんですか」

 

ようやく先輩が動き出したことで、私たちはリオレウスに乗って山頂ベースへと向かった。

……先輩、高所恐怖症なら最初からそう言ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山頂ベースに着いてすぐに、私はリオレウスをボールに戻した。ウォロさんが先回りしていたらどうしようかと思ったが、私たちの方が早く着いたみたい。……先輩、着いてすぐは足がプルプル震えててちょっと可愛かったな。今はベースのテント内で休んでもらっている。

それから少しして、ウォロさんも到着した。復団祝いにまんたんのくすりを貰ったので、すぐにかいふくのくすりへとクラフトした。……ちょっとウォロさん?なんで顔を引きつらせてるんですか。別に嫌味じゃないですよ、どうせならかいふくのくすりをくれたらよかったのにとか思ってませんよ?ムラの子供はげんきのかたまりをくれたのに、商人のウォロさんはまんたんのくすりしか用意できなかったのかなんて考えてませんよ?えぇ、全然、まったく。

ウォロさんによると、セキさんとカイさんも既に先に向かったとのこと。ウォロさんから武運を祈られたところで、ウォロさんも一足先に現場へと向かった。……そのあと、ツバキさんからも激励してもらったんだけど……正直、してもらえるとは思ってなかったので結構意外だった……なんかすみません。

二人分の激励を受けて、私はテンガン山の山頂にある神殿……シンオウ神殿へと向かった。

 

 

シンオウ神殿へと繋がる道、岩の間……そこを駆けていくと、意外な人物がいた。

 

「ムベさん……?」

 

「おお、あんたか。息災であったか」

 

なんと、イモヅル亭の主人であるムベさんがいた!確かに普段はイモヅル亭の前にいるはずなのに見当たらなかったなとは思っていたけど、まさかこんなところにいたなんて……。どうやらデンボク団長の命令で食料補給の指揮を任されていたんだとか……いや、団長を呼び捨てって、一体どんな関係……?

 

「さあて、使われついでだ。あんたを始末するとしようか」

 

「……は?本気ですか?」

 

始末……始末?私を殺そうっていうの?本気で……?

 

「わしはデンボクの懐刀でなあ……あやつのじゃまをするヤツが現れたら、始末する約束なのじゃ!それに、わしも安心して暮らせる新天地を欲しているのでな」

 

「…………」

 

ほぅ……それは、つまり、あれか。殺す側に立つ以上は、殺される覚悟もあると?

 

「あんたもご存知のめかくしだま……これを……こうじゃ!」

 

ムベさんがめかくしだまを使い、一瞬だけ姿が見えなくなる。煙が晴れると……忍び装束に似た格好をしたムベさんがそこにいた。

 

「貴様がキングを鎮めたと聞いて血が騒ぎ、心が震えたぞ。使いどころもなく衰えていくシノビの技、最後に振舞う相手が現れよったと!」

 

そう言って構えるムベさん……なるほど、なるほど、よくわかった。

 

ふざけるな

 

だったら最初から私を殺しに来れば良かっただろうが!それをなんだ、食糧確保のついでに殺すだって……?冗談じゃない!私の命をあんたらの食糧事情以下に扱われてたまるか!!怒りで目の前が真っ赤になる……だが、それ以上に怒り狂っているポケモンが、さっきからボールの中で暴れている。

グラビモスだ。彼は私の事情に一番同情してくれたポケモンで、団長やその周辺の人物に強い殺意を抱いている。もしもグラビモスを出してしまえば、彼は一切の容赦も慈悲も血も涙もなく、彼らを一方的に蹂躙して殺し尽くすだろう。私も、そんなグラビモスの思いに強く感謝している……けど、ダメだ。復讐をするしない以前に、殺すことだけは、絶対に。

彼の……ジンオウガの顔が脳裏をよぎる。私に復讐ではなく、帰還の道を示してくれた、ジンオウガ……彼の想いに報いたい。そのためには、ここで出すべきはグラビモスではなく……!

 

「ダイケンキ」

 

「…………」

 

私の一番のパートナー。私に勝利を捧ぐべく、自らの力の象徴たる角を折って以来……何か、強い覚悟を秘めた眼差しを持つようになったダイケンキ。わかる……いまのダイケンキなら、誰が相手だろうが負ける気がしない!

 

「ゆけ、ムウマージ!」

 

「マージ」

 

ムベさんはムウマージを繰り出してきた。……勝てる。

 

「ひけん・ちえなみ」

 

「……ッ」

 

「マ"ッ!?」

 

「なに!?」

 

ダイケンキの斬撃がムウマージを一刀の下に斬り伏せた。ムウマージは一撃で倒れ、ムベさんは驚愕に目を剥いている。

 

「なんと……!行け、オオニューラ!インファイトだ!」

 

「オオーラ!」

 

「躱せ」

 

「…………」

 

オオニューラの両手足による乱打が繰り出されるが、ダイケンキは無言で全ての攻撃を見切り、回避し続けた。

 

「つばめがえし」

 

「……!」

 

「ニュラッ!!」

 

「馬鹿な……」

 

またしても、一撃。

 

「今のダイケンキは抜き身の刃も同然……触れれば斬れるぞ」

 

「くっ……サーナイト!!」

 

「サァーナ……」

 

次はサーナイト……タイプ相性では不利だが、負ける気がしない。

 

「ムーンフォースだ!!」

 

「サーナ!」

 

「どくづき、投擲」

 

「……!」

 

私の指示を受けたダイケンキが秒で行動する。アシガタナを抜いて毒を纏わせると一切の迷いもなくぶん投げた。どくづきはムーンフォースを打ち破り、サーナイトに命中した。

 

「ナァッ!?」

 

「サーナイト!?」

 

「追撃のどくづき」

 

「…………!」

 

「サナァア!!」

 

追撃のどくづきも直撃し、サーナイトは倒れ伏した。……残りは何匹だ?早く出せ、片付けてやる。

 

「終わりですか?」

 

「くっ……!エルレイド!!」

 

「エルレッ!」

 

「力強く、インファイトだ!!」

 

「エルレレレレ!!」

 

「ダイケンキ」

 

「……!!」

 

私がダイケンキの名を呼べば、彼は両足のアシガタナを抜刀して二刀流になると、二本足で立ち上がる。そして、迫り来るエルレイドの乱撃を両手のアシガタナで捌き始めた。

 

「馬鹿な……なんだ、これは!まるで意味がわからんぞ!」

 

「そんなはずはないでしょう。目の前で起こっていることは現実で、全てです」

 

「クッ……!!」

 

「ダイケンキ、力強く、つばめがえし」

 

「……ッ!!」

 

「エレッ……!」

 

全ての攻撃を捌き終えた直後、ダイケンキは右のアシガタナでエルレイドを上から斬りつけ、その後返すように左のアシガタナで思い切り斬り上げた。吹っ飛んだエルレイドはムベさんの前に落下する……戦闘不能だ。

 

「……さすがよのう」

 

自身の負けを認めるムベさん……意外だな、もっとしつこく狙ってくると思ったのに……。

 

「勝てぬ相手を何度も狙うのは、愚かなシノビのすることよ……」

 

心を読まれたかな。

 

「そうですか……」

 

「……貴様のことはそれなりに気に入っておるのじゃ……ポケモンを上手く戦わせるからの」

 

「ありがとうございます」

 

……どうやらデンボクさんとムベさんは暴れるポケモンに故郷を焼かれたばかりか、多くの同胞を失ってしまったらしい。だからこそ、デンボクさんは安心して暮らせる新天地を作るべく、ヒスイ地方へとやってきたんだとか。そのためなら、強硬手段も辞さないだろうということも……。

 

「もしもだ!時空の裂け目よりポケモンが現れたなら、デンボクは我を忘れるやも知れぬ……貴様の強さで助けてやれ」

 

「お生憎様ですが、親切の押し売りはしませんので……そのつもりでいてくださいね」

 

「……ああ」

 

一応、今の私はギンガ団の一員として復帰しているし、ムベさんが助けてくれというならそれも構わないが……デンボク団長の方から「手出し無用」なんて言ってきたら、こっちはもう知りませんけど。どうやらムベさんにはちゃんと伝わったようで、溜息をつきながらも了承してくれた。

 

 

ムベさんを突破した私は、神殿に続く長い坂道を上っていく。その途中、セキさんとカイさんの二人と合流した。

 

「セキさん!カイさん!」

 

「ショウ!無事だったか!」

 

「ショウさん、待ってたよ」

 

二人は私を暖かく迎えてくれた。

 

「ショウ、カイからすべて聞いた。……ゴウカザルとミミロップは、残念だったな……」

 

「ありがとうございます、セキさん。ミミロップは戦えなくなったし野生にも帰れなくなりましたけど……ゴウカザルは、時間が経てば必ず戻ってきます。だから、私は大丈夫です」

 

「そうか……強いな、お前は」

 

そう言って、頭を撫でてくれるセキさん……って、ん?セキさんの目、また何か言いたげな……!

 

「正直、押し付けてすまんかった」

 

「今度からはセキさんがどうにかしてくださいね」

 

「お、おまっ!いつから……!?」

 

「内緒です♪」

 

「……?なあ、ふたりして何をコソコソ話しているの?」

 

「カイが本当に頼りになるなぁ、って話だ!なっ?……なっ!?」

 

「えぇ、そうです。……フッ、えぇその通りです」

 

「……?」

 

自分の気持ちを自覚したせいか、相手が同じような気持ちを抱いているとなんとなく察せるようになった。……セキさん、意外と押しが弱いんだなぁ。

 

「ゴホンッ!山頂にやってくるであろうポケモンの影とは、おそらくシンオウさまのことだろう……止められるのはあんただけだ!」

 

「シンオウさまがやってくるのに、デンボクさんに足止めされているの」

 

そう言って、二人が揃って振り返る。……あんの老害ボケ親父、あかいくさりで首絞めたろか……っと、いけないいけない。なにか変な思念を感じ取っちゃったかな……変な言葉遣いが出ちゃった。

私はすぐに坂を駆け上がり、デンボク団長の元へ向かった。団長は私の接近に気づいたのか、「お前か」と言いながら振り返った。

 

「あかいくさりとやらで世界をつなぐと聞いた。つなぐとはつなぎ止める……正しい世界を維持することだろうが、本当に信じて良いのか?」

 

「信じてください。信じてもらわないことには、こちらもどうにもなりません」

 

「…………」

 

まだ、疑うのか……!!

 

「デンボクさん、いい加減にしないと!」

 

セキさんとカイさんも追いついた。カイさんは同じ長同士、ムラを守りたいという考えには賛同するが、私を疑うのは間違っていると力説してくれた。……バカ!の一言を添えて。

 

「……そうだな。だが、おいそれと信じもしものことがあったとき、ギンガ団のみなに申し開きがたたぬ。それに、異変発生後に各地にて、それまで全く観測されなかった未知の巨大ポケモンが次々と出現したという報告もあった。そして、それらのポケモンを追放されたショウが次々と捕獲して回っているということも」

 

「それは……!」

 

「そのような強力無比なポケモンを揃えて、何を企む?よもや、復讐が望みか?」

 

「くだらない」

 

反射的に答えてしまったが……いいや、この際だから言ってやる。

 

「復讐なんて、そんなつまらないことに時間を費やすつもりはありません。復讐なんて無駄な労力です、そんなことに命をかけたりなんてしません」

 

「そうだよ!デンボクさんがコトブキムラのみんなを守るため必死なら、ショウさんだって命張ってるよ!……ショウさんなんて、その巨大ポケモンとの戦いで、ポケモンが二匹も大怪我を負ったんだよ……」

 

「……だな。それでも世界のために、みんなのために、ショウはあかいくさりを持ってきてくれたんだぜ。そんなショウが復讐なんて考えるわけねえよ……それは暴論が過ぎるぜ、デンボクの旦那」

 

カイさんだけでなく、セキさんも援護してくれた。……ありがたい。

 

「……あいわかった!これより先の事態にはおまえとわたし、より強い者が当たるとしよう。ショウとそのポケモン、立ち合え!今日は真剣勝負だ!」

 

……はぁ。時空の裂け目が目の前にあるというのに、この人は……勝負の最中にシンオウ様が現れたら大変だ、とっとと速攻でケリをつけてやらないと。

 

「行け!ウォーグル!!」

 

「ウォーガ!」

 

「ダイケンキ」

 

「…………」

 

邪魔をするというのなら、デンボク団長……たとえあんただろうが斬り捨てる。

 

 

 

 




無言でアシガタナを振るい敵を斬り伏せるダイケンキ……

これが、極み断ち斬るダイケンキだ!……かっこいい……かっこよくない?

……ポケモンの極み個体、もっと増やそうかな?二つ名個体は三年前から考えてたし……。
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