ポケットモンスターHUNTER アルセウス   作:箱厨

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突然のゲリラ投稿、いわゆる幕間です。


幕間 求めるは力、其は龍を殺す龍の力

ガブリアス。

この名を聞いて、およそ知らぬ者はいないだろう。ポケットモンスターシリーズ第4世代『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』に初登場を果たしたドラゴンポケモンにして、種族値の合計値が600の一般ポケモン、通称『600族』に名を連ねる強力なポケモンである。

シンオウチャンピオン・シロナの切り札として知られ、世代を重ねるごとに周囲の強化に伴って第一線からほぼ退く事態になったことは、ガブリアスを好み愛用する者たちにとっては苦渋ものであったろう。かくいう作者も、旧DPでは何度最初からにしても必ず旅パに加えていたほどには愛好家である。

 

 

さて、時を越えてここヒスイ地方にやってきた少女・ショウが相棒として連れ歩いている基本の六体(旅パ)の内の一体に、ガブリアスが加わっている。このガブリアスは、ショウが純白の凍土を訪れた際に捕獲されたオヤブン個体で、旅パでは最後の加入者であるがその実力は最初の相棒であるダイケンキと双璧を成すほどのものだ。

 

「…………」

 

しかしそんな彼は現在、コトブキムラの放牧場にて他のポケモンたちからかなり離れた場所で一匹、渋面を作って座り込んでいる。彼が考えていることは、ここ最近のバトルにおける自身の勝率に関してだ。

 

「(負けている)」

 

言ってしまえば、負け越している。今の主の手持ちポケモンとして多くの野生のポケモンと戦い、時にはポケモンを相棒とする人間たちとも多くの対人戦を経験し、野生の頃よりもはるかに成長を実感できていた。それまで、己の土をつけたのはあのダイケンキだけだった。ダイケンキとならば、良い勝負ができる。己が好敵手として、ダイケンキはある種の目標であった。だが……空が赤く変化し、それが原因で主が住んでいたムラを追放された翌日のこと。主の呼びかけに応えてボールから出てきたガブリアスは、初めてソイツと相対した。

雷を操る巨大な狼ポケモン、ジンオウガ。目があった瞬間、戦う前から明確な敗北のビジョンを叩きつけてきた理外の怪物。ダイケンキとともに威嚇したはいいものの……あの時、ガブリアスは本能ではっきりと「勝てない」と思った。……思ってしまった、思い知らされたのだ。

 

「(勝てない……)」

 

移動の合間に実施された訓練では、主が誇る自慢の六体が総出でかかっても、歯牙にもかけず足蹴にされた。自分たちよりも多くの技を同時に使いこなし、複数体が相手でも冷静に対処し、一体、また一体と脱落し最後は常に己とダイケンキが残っていた。そうして己が先に下され、ダイケンキも下され味方は全滅した。完敗だった。

 

「(なぜ勝てない……!こんなにも強くなったのに!)」

 

さらに追い打ちをかけるように、ジンオウガと同格のポケモンが何体も現れた。特に彼らのバトルは、ボール越しにさえその力が伝わって来るようであった。自分たちポケモンの理解さえ超えるような、例えるならそれは怪物たちのスタンピード。生物としての格の差からして、余りにも遠すぎるその背中は、追いかけることさえ不毛に思えて仕方が無かった。

 

「(最近は特にそうだ……ずっと勝てていない、負けている)」

 

ガブリアスが振り返ったバトルは、二つ。一つはオドガロン亜種戦、もう一つはイャンクック戦だ。普通のポケモン相手ならば、ほぼ負けなしとも言えるだろうガブリアスだが、未知のポケモンが相手となるとほとんど負け越していた。

イャンクックというポケモンからは、まったく相手にされなかった。ただ繰り手であるアカイの命令に従って攻撃しただけで、ガブリアスを脅威に感じるどころか敵と認識すらしなかった。それだけなら人間の指示を受けて戦うポケモン勝負だ、ガブリアスはまだ耐えられた。

特にガブリアスに堪えたのが、オドガロン亜種との戦い。裂傷という特殊な状態異常になる一撃を食らわされただけで、簡単に交代されてしまったのだ。心優しい主のこと、先の一撃で脅威を感じ、自身に無理をさせられないと気遣ってくれたのだろう。

だが、ヒスイに住まう最強種の一角たるドラゴンポケモンのガブリアスにとって、これが一番堪えた。その上、後に戦ったイャンクックからは敵認定されなかったのだから、ガブリアスのプライドはボロボロだった。さらにオドガロン亜種との戦いで負傷したゴウカザルが戦線離脱し、同じく戦線離脱したミミロップが驚異的なパワーアップを経て帰ってきた。しかも、自身が好敵手と定めたダイケンキに至っては「極み個体」と呼ばれる超強力ポケモンへと成長を果たし、自分だけが置いてけぼりを食うこととなってしまった。

 

「(強くなりたい……けど、どうすればいい……?)」

 

休みの合間を縫って、ひたすら己を研鑽した。主とともに戦うこととは別に、自分磨きのために自主練を始めたのだ。しかし、どれだけ時間を費やしても「成長した」と明確な実感がわかない。それどころか、こうしている間にもミミロップとダイケンキが己を突き放しているのではないかと焦燥に駆られる始末。

そして、今日。あの白いドラゴン使いの少女との勝負前に、手持ちから外されることを宣告された。だが、ガブリアスは内心では「妥当だろう」とも思っていたため、それほどショックは大きくなかった。むしろ、一度主から離れて自分を見つめ直す時間が欲しかったので、ちょうど良かった。ムラについてからも自主練を欠かしていないが、どうにもスランプ気味であったため、一度落ち着くためにこうして座り込んでいるのである。

 

「(……そういえば)」

 

以前、自分でも知らぬ間に強力な突風を吹かせたことがあった。その時、アカイが「龍風圧」と呟いていたのが聞こえていて、ずっと耳に残っていた。

龍風圧……なにかの技か、あるいは能力だろうか。知っている者はいるのだろうか。

 

「(……聞いてみるか)」

 

のそり、と立ち上がったガブリアスは移動を始めた。目指すは放牧場の更に奥まった場所……巨大なポケモン達が集う広場だ。広場に到着したガブリアスは、早速目的のポケモンを見つけて声をかけた。

 

「ガブァ、ガブ(すまん、少しいいか?)」

 

「……ドル?(アァ?)」

 

ちょうど昼寝をしていたのか、寝転がっていた目的のポケモン……オドガロン亜種は、胡乱気な様子でガブリアスを見上げた。しかも寝起きで若干だが機嫌が悪そうだ。

 

「ガブガブ、ガバァ?(龍風圧ってなんだ、知ってるか?)」

 

「……オドルル(……何故、貴様がそんなことを聞くんだ)」

 

ガブリアスが事情を説明すると、オドガロン亜種は緩慢とした動作で体を起こした。

 

「ウォロロ。オルル……オドロ(ナルホド。お前、我らに近づきつつあるなぁ……我らの竜種としての特性が影響しているかもな)」

 

「……ガブ。ガバガブ(ついでに聞きたい。お前が持つドラゴンパワーについて)」

 

「オドロァ(龍属性エネルギーか、いいだろう)」

 

オドガロン亜種は語った。龍属性エネルギー……通称、龍属性は太古から存在が確認されている古龍の弱点とされる属性であり、その詳細は使い手たる己らでさえ深くは知らない。竜の姿を取る生物ならば程度の差こそあれどこの属性を苦手としており、その関係はポケモンにおけるドラゴンタイプ同士のタイプ相性によく似ている。あのリオレウスも、目立たないが龍属性をその身に宿しているとか。

龍属性は「万象を支配し封じる力」。その力に侵された者は本来持ちうる属性を封じられ力を失う。龍が操る力でありながら、龍が忌み嫌う属性。それが、龍属性。

 

「オドルル、オドロァ(龍風圧が扱えるなら我々に近づいているのかもしれん、ちょっと試してみるか)」

 

「ガブガブ?(試すって何を?)」

 

「オドガロ(貴様の竜としての在り方を)」

 

そう言うやいなや、オドガロン亜種はガブリアスを押し倒した。うつ伏せに押さえ込まれ、ガブリアスは身動きがとれなくなってしまった。

 

「……!ガブァ!?(……!な、何をする!?)」

 

「ウォロロ。オドロァ?(傷口を介して貴様に龍属性エネルギーを送ってやる。強くなりたいんだろう?ならば竜としての在り方を我々に近づければ良い)」

 

「ガブ……!(強く……!)」

 

「ウォロルルル?オドロロ……ウォロア(だが忘れるなよ?龍属性は時に使い手をも蝕む諸刃の刃……超克せねば、死するは貴様ぞ)」

 

「ガブ……!ガッブアァ!!(もちろんだ……!主のためならば、どのような艱難辛苦も乗り越えてみせる!!)」

 

「ウオォロアアッ!!(良く言った!!)」

 

オドガロン亜種は勢いよくガブリアスの首に噛み付き、呼気を通じて龍属性エネルギーをガブリアスへと送り込み始めた。その瞬間だ。

 

「(ぐっ、あっ!?こ、これはぁ……!!)」

 

ガブリアスの体内に龍属性が送り込まれた直後、ガブリアスの全身を激痛が襲った。体内を暴れまわるように力が駆け巡り、まるで内部からガブリアスを破壊しようとしているかのようだった。それと同時に、自身の中にある何かが、急速に変質していく感覚を覚えた。おそらくは、ガブリアスという竜種としての力。己の存在意義とも言うべき形が、未知の力に侵食され変質していく。

やがてオドガロン亜種が離れると、ガブリアスは全身を龍属性エネルギーの証である赤黒い雷で包み込みながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ガッ……!ギ、ギギ……!!ガブアアアアアアアアアッ!!」

 

甲高い咆哮を上げるとともに、ガブリアスは一直線に黒曜の原野の方向へと飛んでいった。それを見送ったオドガロン亜種はなに食わぬ顔で寝そべった。

 

「(さて……飲まれるか、飲み干すか。異世界の竜種の気概、見せてもらうとするか)」

 

ただし今度はしっかりと起きたまま、顔だけは黒曜の原野に向けて。

 

 

一方、黒曜の原野まで飛んできたガブリアスは体内で暴れまわる力を制御しようと必死だった。だが、注入された龍属性エネルギーはガブリアスを支配しようと蹂躙してくる。

 

「(超克し操るどころか、支配されないように抵抗するだけで精一杯だ……!オドガロンはこの力を容易に扱えるというのか……!!)」

 

龍属性エネルギーは、ガブリアスに対して強烈な破壊衝動を植え付けてこようとする。徐々にだが、確実に遠のいていく意識の中……ガブリアスの脳裏をよぎったのは、主である少女の笑顔。

 

「(……ある、じ……)」

 

その光景を最後に……ガブリアスの意識はぷつり、と切れた。

 

 

 

 




ショウちゃんがシロちゃんと仲良く喧嘩している間の出来事でした。
ガブリアスは龍属性エネルギーを克服できるのか……。
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