なんで……
「男五人で顔突き合わせてゲーム三昧とか……だからモテないんでしょうが」
「あぁー!言ったな、テメー!!」
どうして……
「今に見てろ!俺だってやれば彼女くらい出来らぁ!!」
「ふんっ、どうだか!」
こんな……こんなことなら……
「それより約束、忘れるんじゃないわよ?あと一年だからね」
「うぐっ……わ、わかってらぁ!とにかく行ってくるからな!」
……私の、気持ち……
「……え?アイツが……」
伝えとけば……よかった……
「死んだ?」
早朝の某高校にて、彼らは集まっていた。近い席に座り、神妙な顔でお互いを見つめ合っている。
「……ついに、この時が来たな」
「だな」
「待ちわびたぜぇ……」
「長かったな」
「まったく……お前ら、ちっとも辛抱できてないじゃねえかよ」
「しょうがねえだろ?なんてったって……」
その一言の後、五人は息ぴったりに声を合わせた。
「「「「「モンハンライズ!大型アップデートで新章きちゃあああ!!」」」」」
イエーイ!と五人は立ち上がってお互いにハイタッチをする。少し落ち着いたところで、五人は再び席に着いた。
「いやー、物足りないとは言わないが終わらねえだろうなとは思っていたが、まさか新タイトル引っ提げての登場とは!」
「新ステージ、新モンスター……そして新要素!くぅーっ!楽しみすぎて待ちきれねぇ!!」
「まったく……モンハンは一体どこまで行くつもりなのか……!」
「止まるんじゃねぇぞ!」
「止まらねえぞ!」
「あぁー!モンハンは止まらなーいっ!!」
どうやら五人はハマっているゲームが最新要素のアップデートを控えていることに興奮を抑えきれないようだった。
「それだけじゃないぞ。ポケモンの新作だってそうだ!」
「スカーレットとバイオレット……お前ら、どっちにする?」
「俺はバイオレットにする。シンプルに伝説ポケモンのデザインが好みだな」
「俺はスカーレット!なんてたって「東方のスカーレット姉妹と同じ!」……ってオイコラ!」
「お前やっぱりロリコンだろ」
「誰がロリコンだコラー!!」
「ちなみに俺はバイオレットだ」
「俺は……スカーレットだな。あの伝ポケのずっしりした感じがいい!」
「最後はお前だぞ」
そうして、各々が購入予定のバージョン名を挙げる中……唯一人黙っていた少年は渾身のドヤ顔で告げた。
「俺は断然、スカーレット!この俺のメインカラーと同じだからな!」
「お前ってやっぱり赤色が好きだよなー。モンハンも赤い色のモンスターだけ狩猟が三桁突破してるしww」
「ぶっちぎりで多かったのって確か……」
「そう!マイフェイバリットモンスター――」
「リオレウス、でしょ?」
五人が一斉にこちらへ振り返った。四人はまたか、という顔で。残りの一人は、なぜここにと言いたげな顔で。
「葵!?どうしてここに……」
「日直」
「アッハイ」
今日は私が日直の日。だから、いつもよりも早めに来たつもりなのに……コイツら、一体いつからいたのよ。始業時間の30分前には来たのに、もう既にいるなんて……。
あっ、初めましての人は初めまして。私の名前は『
そして、この五人の中のひとり……赤色がトレードマークで、とあるゲームに登場するモンスター、リオレウスを"マイフェイバリット"と称して止まない男は私の幼馴染である。
……ほんと、なんでこんな奴が幼馴染なんだか。
「あ~……葵が日直の日、今日だったか」
「まったく……朝早くから学校に来るあんたたちを輝く目で感心する先生方に対して、思うところとかないわけ?」
「全くないわけではないが、気にしたら負けだと思う」
「そこは気にしなさいよ!」
ハハハハハ、と後ろの四人が笑い出す。コイツとのやり取りを毎回夫婦漫才呼ばわりされてて、正直なところうんざりとしている。コイツもコイツで、ヘラヘラと笑うだけで何も言わないし……!
「陸上さん、日直お疲れさん。手伝おうか?」
「平気よ。気持ちは受け取っておくわ」
「了解」
さっき話しかけてきたコイツは見た目はインテリ眼鏡って感じで、実際五人の中では一番偏差値が高い。彼がほかの四人……特に私の幼馴染ともう一人の残念イケメンの勉強を見ていることが多い。戦隊モノに例えるなら、イメージカラーは青色。
「あーあー、仲悪くてもいいから俺も幼馴染が欲しかったなー」
「いや、ほぼ毎日顔を突き合わせるのに仲悪かったら居心地最悪だぞ?」
「うるせーわ!持つ者には持たざる者の気持ちなどわからん!!」
「めんどくせぇ……」
幼馴染を妬んだ彼は見た目でわかるとおり脳筋野郎である。下手な運動部よりも筋肉質な体つきをしているのに、やってることと言えばゲーム三昧。筋トレは趣味だとか。イメージカラーは灰色。
「でも、なんだかんだで付き合いは長いんだろ?いいじゃあねぇか、付き合いがあるだけマシさ。縁を切られる方がよっぽどだぜ?」
そう言って器用に椅子の上で胡座をかく彼は、インテリくんと揃って比較的まとも枠である。彼とインテリくんが常識人枠(たまにボケる)で、残りの三人が非常識人だ。イメージカラーは黄色。
「知ってるか……?人は、身近なものほど失って初めてその大切さに気づくんだ……」
「……つまり?」
「奪ったろかー!」
「誰がやるかー!!」
そして、幼馴染に絡んでいるロリコン呼ばわりされていた彼は、この五人の中でもぶっちぎりのイケメンである。そして残念である。ご覧のとおり生粋のゲーム好きで、偏差値も低い筆頭ボケと呼ぶにふさわしい残念っぷり。なにより本人にその気がなくとも状況が勝手に彼を「ロリコン」にしてしまうほどの不幸体質持ちである。イメージカラーは白。
「……どした、葵?日直の仕事はいいのか?」
「よくないわよ。……今からするわ」
「「「がんがれー」」」
「うるっさい!その鬱陶しい応援やめなさいっ!!」
「「「すみませんでした」」」
「秒で謝るやんwww」
「だから止めとけと言うに……」
彼ら五人は高校で出会って以来、まるで数十年来の友人かのように一瞬で意気投合した。そしてどこに行くにしても予定さえ合えば必ず五人で行動するようになった。幼馴染も、彼らとの付き合いが楽しいのだろう……私をほっぽり出すくらいには。
正直、こんなはずじゃなかった。高校に上がるまでは私にべったりだったくせに、あいつらと出会った途端、そっちに乗り換えた尻軽男め……元々素直になるのが苦手な私は、コイツらと出会ってからの幼馴染にはかなりつっけんどんな態度を取るようになっていた。……まぁ、それでもまるで堪えた様子がないのは、さすがは私の幼馴染、というべきなのか……。
放課後。私の隣を歩くのは、幼馴染。どうやらこのゴールデンウィークでやることが決まったらしく、呑気に鼻歌なんて歌っている。
「フン、フフフ~ン♪フ、フフフフ~ン、フフフン、フン~♪」
「……随分とご機嫌ね」
「おうよ!今年のゴールデンウィークの間に、初代モンハンからライズまでのクエスト全部やるって配信をすることになったからな!」
配信というのは、某有名動画サイトでの配信ことだろう。五人のうちの白い彼が配信者であり、そのルックスも相まってかなり人気らしい。……オツムは残念だが。
幼馴染が遊んでいるハンティングアクションゲーム「モンスターハンター」は、今年の三月に最新作が発売され、さらに六月には大型アップデートを控えている。私の幼馴染をはじめとする五人組は、中古から新作まで、ほぼすべてのモンハンシリーズを押さえるほどのモンハン好きである。あと、それと同じくらいに「ポケットモンスター」シリーズも愛好していて、いわゆるガチ勢だったりする。
「くあー!楽しみすぎる!この世代に生まれてよかったー!」
「はいはい、ゲーム一つで一喜一憂できるなんて、おめでたいこと……」
「なんだよー、楽しみなんて人それぞれなんだから、別にいいだろー?」
「……別に、ダメとは言ってないじゃない……」
「あ、そうだった。悪い、言いすぎたか?」
「……ううん」
ただ、そのゲームと男友達にあんたを奪われて複雑……なんて、口が裂けたって言えるはずがない。そりゃあ、私との付き合いが若干悪くなったのは気に入らないけど、好きなことで楽しそうにしているあんたを見るのも、嫌じゃないし……。
「あーあ、楽しみだなー!はやくゴールデンウィークが来ないもんかね?」
「待ってればそのうち来るわよ」
「んー……よしっ、葵!今からゲーセン行くぞ!」
「は?……はぁ!?今から!?」
「おうっ!"善は急げ"、"思い立ったが吉日"だぜ!」
そう言って、幼馴染は私の手を取った!こ、こいつぅ……またしれっとそういうことをする……!
「ほらっ!行こうぜ!」
「……まったく、もう……」
ほんっと、しょうがない幼馴染なんだから……♪
ある意味、その話をするのは必然だったのかもしれない。
「聞いたぜ、葵」
「うん……」
呼び出された校舎裏で、全く似合っていない神妙な顔を浮かべる幼馴染。どこか複雑そうで、けれど受け入れようとしているような、そんな顔。
「お前……告られたんだってな」
「うん」
「……そうか」
はぁ、と幼馴染はため息一つ。
「……そいつの目ん玉腐ってんじゃね?」
「なんだとコラァ!!」
「いだだだだだだだだだ!?」
秒でアイアンクローしてやった。
「うごごごご……おーい、俺の顔変形してないか?」
「これ以上変形の余地もないくらいブサイクだから安心なさい」
「ひっでぇなおい!……それで?」
「はい?」
「告白、受けたんだろ?」
「……ッ!!」
なんで……そんな……!受けることが当たり前みたいな言い方……!!
「受けるわけないじゃない!」
「……いや、そんな必死になるなよこえぇな」
「あっ……ごめん……」
「いや、なんの謝罪よ?しっかし、振るとは思わなんだなー……なんだ、好きな奴でもいるのか?」
「……!!……い、いる……」
「そっかー、いるのかー……って、え"っ!?いる!?」
「声がデカい!!」
「……っと、すまん……」
流石にこの手の話はデリケートな問題なので、幼馴染も声を潜めてくれた。
「マジで?いや、全然そんな様子なかったが……」
「(そりゃ、ずっと近くにいるんだもん……)ちょっとでもそんなフリを見せたら、あんたのことだから勘づくでしょうが。だから自重してんのよ」
「へぇ~……ま、俺は葵の幼馴染だからな、お前のことなら大抵は分かるし何かあればすぐに気づくぜ!」
「(……私の想いには気づかないくせに……)」
「……な、なんだよそのジト目は……」
「べっつに~……」
「……?」
まったく……どうして私はこんな奴のことを……。
「しかしきになるなー、お前が惚れたっていう男。大層な色男なんだろうなー……スッゲェイケメンで、スッゲェ頭良くて、ついでに人格者で……よし、殺す」
「なんであんたが殺意湧いてんのよ」
「いやいやいや……たとえどんな男だろうが、葵が不幸になるなら抹殺しなければと思い……」
「だから、なんでそこまでしようとするのよ……」
「そりゃあ、葵が幼馴染だからさ」
それがどうした?と言わんばかりに首をかしげる幼馴染……コイツ、今自分がとんでもないこと言ってるって自覚ある?
「しかし、幼馴染として鼻が高いぜ。俺の幼馴染は告られるくらいにはいい女だぞって、自慢ができるぜ」
「そんな自慢はせんでよろしい!」
「ハハハ!……はぁ、俺も告白されたい……」
「あんたに告白なんてする酔狂はいないわよ」
「酔狂ってなんだ!俺だってなぁ、本気になれば彼女くらい作れるわ!」
「あんたに彼女が出来るころには、ノストラダムスの大予言も的中しているでしょうね」
「お前それ、一生来ねぇってことだろ!?」
「さぁねぇ~?」
コイツに、彼女?……もしもそうなったら、殺らねばならない。ぽっと出の女なんかより、私の方がずっとコイツを……。
「くっそムカつく……!よぉし、いいだろう。そこまで言うなら賭けをしようじゃねえか!」
「賭け?」
「そう!この高校三年間で俺に彼女ができたら、お前は俺がモテ男であることを認め、俺の彼女にプレゼントを買う買い物に付き合ってもらう!
……フッフッフ、どうだ?悔しかろう?モテないと思い込んでいた男の惚気を聞かされながら、リア充っぷりに歯噛みして女の物を買わされるというのは!」
コイツ……妙に的確に人がイラッとする点を突いてくるわね……。もしもこれで私の想いに気づいていながらこんなことを宣うようなら、男の尊厳を消し飛ばす必要があるだろう。
……まぁ、気づいていないからこんなことが言えるんだろうけど。
「あっそう、いいわよそれで。……その代わり、こっちも条件を出させてもらうわ」
「ふん……たしかにこのままではフェアではないからな。いいだろう、条件を言え!」
「もし高校三年間の間に彼女ができなかったら、私に土下座して『葵様、この愚かな非モテ陰キャオタクを哀れに思うならどうか私と交際してください』って言うのよ。
……フッフッフ、どう?腹が立つでしょ?自分がモテないダサ男と認めた上で、好きでもない女と無理やり恋人同士にされるのは!」
「うげぇ……って、ん?いや待て、ひとつだけ訂正することがある」
「はぁ?」
訂正……?一体どこを訂正する必要が――
「俺、別にお前のことは嫌いじゃないぞ?むしろ好きだ」
「は……?……え、ちょ、なっ、はぁ!?」
「なんでそんなに驚くんだ……。何年幼馴染として付き合ってきたんだよ、お前のことが嫌いならこうして二人きりで話だってしねぇっての」
「…………」
……コ、コイツ……。コイツ……コイツ……!
「……!!」
「ちょ、わっ、おい!急に叩いてくるなよ!なんなんだよー!?」
"なんなんだ"はこっちのセリフだっつーのー!!
それから時間がいくらか過ぎて……ある日突然、ソレは訪れた。
その日は休日で、私は少し早いが卒業と進学に向けた勉強をしていた。勉強中の気分転換で窓の外を見ると、幼馴染がちょうど家を出たところだった。
「(何処へ行くのかしら)」
私は迷わずベランダに出ると、ちょうど門をくぐった幼馴染に声をかけた。
「ねえー!」
「ん……?お、おぉー葵!どうしたー?」
「こっちのセリフよ、どこへ行こうとしてるの?」
「んー、ちょっと最寄りのファミレスへ!」
ファミレス……?でも、今日はあいつの両親も仕事で、家にはあいつ一人。そういう時は、大抵は私の家へ食事を集りに来るのだけれど……。
「ああ、もしかしていつもの集まり?」
「そう!今度、五人で『タイプ縛りバトル大会』をやるからな、その予行演習だ!それでファミレス集合になったんだよ!」
「ふーん……」
タイプ縛り……ってことは、ポケモンか。私も簡単なことならある程度ゲームのことがわかるようになっちゃったわね。
「男五人で顔突き合わせてゲーム三昧とか……だからモテないんでしょうが」
「あぁー!言ったな、テメー!!今に見てろ!俺だってやれば彼女くらい出来らぁ!!」
「ふんっ、どうだか!」
彼女、彼女って……そんなに恋人が欲しいわけ?……どうして私じゃないのよ、バカ……。
「それより約束、忘れるんじゃないわよ?あと一年だからね」
「うぐっ……わ、わかってらぁ!とにかく行ってくるからな!」
「じゃあな」
「はいはーい」
……これが、幼馴染との最期の会話になるなんて……思いもよらなかった。
その日の夜。両親と一緒に夕食を食べている最中に、そのニュースが流れてきた。
『続いてのニュースです。……酒気帯び運転により暴走。五人の若い命が、亡くなりました』
「うわっ、飲酒運転~?意外となくならないんだね」
「そうだな……どうしても人間、油断というものが生まれるからな。油断大敵、ってやつだ」
「……あらやだ、ここってすぐそこのファミレスじゃない?」
「は?」
お母さんの言葉につられて、テレビ画面に目が向く。……そこに映っていたのは、普通のファミリーレストラン。……でも、待って、たしかあそこには……。
「……ウソ……」
「ちょっと、どうしたの葵?顔が真っ青よ……?」
「待って……待って……!」
私はすぐにスマホを取り出すと、アイツの番号をコールした。……出ない。
もう一度コールした。……出ない。
もう一度コールした。……出ない。
LINEに切り替えた。メッセージを打ってすぐに送信する。……アイツなら、返信がなくとも一分も経たずに既読がつくはずなのに、つかない。
「ウソ……やだ……違うよね……?ねえ、早く出て――」
『亡くなったのは――』
事故に巻き込まれて死亡した人の名が挙げられた。まずは運転手。54歳の中年男性だった。
続いて挙げられたのは、いずれも高校生の名前……それも、知っている名前だった。そして
『――――』
「……は……?」
アイツの、名前が――
「葵っ!!」
気がついたときには、自室のベッドで寝ていた。なぜ……と、考えて、最後の記憶が蘇った。
ファミレスで起こった事故、羅列された死亡者の名前、その中にアイツの名前が――。
「……っ!!」
私はなんとか全身に力を入れてベッドから降りると、フラフラと覚束無い足取りで一階に降りた。リビングでは、両親が深刻な顔で黙り込んでいた。……と、ここで足音で気づいたのか、お母さんが私の方を見た。
「……!葵……っ!」
「……お母、さん……私……」
「葵、お前は疲れているんだ。今日はもう寝なさい」
「……ねえ、お父さん。さっきのニュース……」
「……ッ!!」
私がニュースのことを尋ねると、二人は今にも泣き出しそうな顔を浮かべた。……あぁ、やっぱり……。
「……交通事故だよ、飲酒運転で暴走してね。……その……ファ、ファミリーレストランに、突っ込んだ……みたいだ……」
「……それ、で……?」
「運転手は死亡した。……そして、事故に巻き込まれた、五人の、高校生も……」
「…………」
お父さんは、ゆっくりと彼らの名を挙げていった。……うん、やっぱり知ってる名前だ。そして……。
「そして、彼も……」
「……そう……」
私は、ゆっくりと踵を返した。
「……もう、寝るね……」
「葵……」
お母さんの呼び掛けを無視して、私は自室へ戻った。ベッドに飛び込み、布団をかぶって、それから――
「……うわああぁぁああぁぁあぁぁぁぁあぁっ!!!!!」
――泣いた。
……あのファミレスの事故から、何年経っただろうか。それからの私の世界は、色を失った。
アイツがいない、アイツの声が聞こえない、アイツの姿が見えない……たったそれだけのことかもしれないが、私にとってはとても大事なことだった。アイツの死を振り切ろうと、私は過去に類を見ないほどの無茶をした。高校を卒業して、大学に入学して、その大学も卒業して就職して、とにかくがむしゃらに働き続けた。なにか、なにかしなきゃと、強迫観念に駆られ続けていた。……そうしないと、アイツの死を思い出してしまうから。
当然、そんな無茶が長く続くはずもなく……私は40を目前にして過労が祟って倒れてしまい、精神的にも弱っていたためにあっさりと病気に罹って死期を迎えていた。……でも、これでよかったのかもしれない。アイツがいない世界で、恋とか結婚とか幸せとか、そんなの何にも考えられない。
病院のベッドの上で、そっと目を閉じる。脳裏によぎったのは、昔の思い出……私が初めて、恋をした日――
幼い頃から、私はそこらの男子よりも喧嘩も強い男勝りな女の子だった。男子が相手でも決して引けを取らない私のことを、気に入らない男子が現れるのも時間の問題だった。
そうして保育園児だった頃、先生が外で遊ぶ子供たちに気を取られている隙に、教室に残っていた私に突っかかってきた男子がいた。
相手は三人で、流石の私も三対一は分が悪く、あっという間に袋叩きにされてしまった。先生は外にいるし、助けも呼べない。もうダメだ……そんな時だ。
『おもしろそーなことしてるな!おれもまぜろー!!』
そう言って現れたのは、真っ赤な服を着た男の子。男の子は私と、三人組をそれぞれ見てから、こんなことを言ったのだ。
『んー……そっちがさんにんで、こっちがひとりか。じゃあ、おれはこっち!!』
そう言って、彼は私を守るように三人の前に立ちはだかったのだ。三人はなにか文句を言っていたが、彼は笑顔のままでこう続けた。
『なんだよー!おれはまぜろっていったけど、べつにおまえらのなかまになるなんていってないだろ!よぉーし、それじゃあやるぞー!おらああああ!!』
それからは、彼の無双が始まった。三対一なのに、彼は三人を圧倒した。圧倒、といっても、"やられる前にやる"という言葉を忠実に再現した先制攻撃の連続攻撃なのだが。そうして、三人を一方的にボコボコにしたあと、彼は私に手を差し伸べた。
『やったな!おれたちのかちだ!!』
彼は私が自力では立てないと思ったのか、腕を掴んで立ち上がらせようとしたが、それがいけなかった。なんと、ちょうど彼が私の腕を掴んだタイミングで先生が戻ってきてしまい、彼だけが一方的に責められたのだ。
けど、彼は何一つ言い逃れも言い訳もせず、黙って先生の言葉に耳を傾けていた。……そんな彼を見ていられなくて、私は慌てて間に割って入った。
『ちがうんです、せんせい!かれはわたしをたすけてくれたんです!!』
『……!!おまえ……』
私が泣きながら必死で説得すると、先生も落ち着いたのか倒れている三人からも事情を聴いて、改めて彼一人のせいではないことを理解してくれた。……ただ、"やりすぎ"と注意を受けていた時の彼は、どこか憮然とした様子だったが。
帰る時間になってから、彼が声をかけてくれた。
『なあ、おまえ。さっきはありがとうな』
『ううん、わたしのほうこそありがとう。……ねぇ、どうしてさっきはせんせいにちゃんとおはなししなかったの?』
『え?うーん……だってせんせい、よくわかってなかったみたいだしさ。だったらおれひとりがわるものになったほうが、わかりやすいかなって』
『わるものなんかじゃない!あなたは、わたしの……ヒーローだもん!!』
『……!!ひ、ヒーロー?おれが?……へっ、へへ!』
彼は嬉しそうに、照れくさそうに微笑んだ。そんな彼の微笑みに、私の胸は大きく高鳴った。……この時、私は彼に恋をしたのだ。
『わたし、くがうえあおい!あなたは?』
『おれ?へっへー、よぉくきけよ!おれのさいこうにかっこいいなまえ!』
そうして、彼との付き合いが始まった。……歳を取って、思春期を迎えると恥ずかしくなって、思ったようなことをちゃんと言えない時もあったけど、彼は笑って受け止めてくれた。あの時から、私は、ずっと――。
「……あ、い……たい……よ……」
それが、私の最期の言葉となった。
気が付くと、私は辺り一面真っ白な空間に立っていた。方向感覚すら麻痺しそうなその空間の中で、唯一異質な点があるとすれば……私の目の前に立つ、白いドレスを着た少女だろうか。
「会いたい?」
「……え?」
「会いたい?」
少女の問いに、一瞬だけ理解が遅れる。だが、二度目の問い掛けで、それがなんなのかを理解する。私の最期の言葉……彼に、会いたいという思い。
「彼は今、遠い場所で戦っている。かつて貴女を助けた時のように、誰かのヒーローとなって」
「……アイツ、が……」
「……でも、このままじゃ彼は、彼らは殺されちゃう。強大で、邪悪な力に」
「……ッ!?」
ころ、される……?また、アイツが……アイツが、殺される?……ふざけるな。
「……るな」
「おや?」
「ふざけるな……ふざけるな……!また、また私から奪うつもりなの!?冗談じゃない!!なんでアイツばっかり!アイツは!アイツは、私の……!!」
「それじゃあ、一緒に来る?」
「……え?」
少女が、そっと手を差し伸べてきた。……奇しくもその動きは、幼い頃の彼と全く同じ――。
「力を貸して欲しいの。……彼らに対して、特に強い感情と想念を持つ貴女が最適だった。……もう一度彼に会いたいなら、私に力を貸して欲しい」
「……アイツに、アイツに会えるなら……なんだってする……!」
「ありがとう!」
少女は満面の笑みを浮かべてから……すこしだけ、困った表情になった。
「……でも、彼はもう人間じゃない。人の器を捨ててしまって、まったく別の生き物になっちゃったの」
「構わないわ。アイツが人間じゃないなら、私が人間でいる意味もない。……できれば、アイツと同じがいい。同じ存在になりたい」
「(想像の云十倍は重いなぁ)うん、わかった」
少女がそう答えてから、私の意識が少しずつ溶け始める感覚を覚えた。そして……新しい、私の体の感覚も。
私は、その体のことを知っていた。アイツが、頻りにその名を口にしていたからだ。アイツの、フェイバリットモンスターの、番。……ふふっ、あはは♪
『こいつらはな、俺の理想なんだ』
『はぁ?なにそれ』
大丈夫よ。
『最近の作品じゃあな、どちらか一方がピンチになると、もう一方がそれを察知して駆けつけるんだ。……俺は、生涯のパートナーとそんな関係になりたい』
『……つまり?』
私が――
『お互いに助け合って、支え合って、どんなピンチだって二人で必ず乗り越える!そんな
『そもそも相手がいないでしょうが』
『なにをー!?』
――あなたを助け、愛するわ。だから、待っててね――
「行こう、リオレイア」
「グアアオ!(喜んで)」
『おれ?へっへー、よぉくきけよ!おれのさいこうにかっこいいなまえ!
おれのなまえはあかばね――』
――焔♡
こういうのが欲しかったんじゃろ?(ニチャア)
さあ、最高に素敵な