メゼポルタの歌姫
依頼内容
遺跡平原に現れたという、超巨大轟竜……明らかに普通ではない何かが起こっています。これもまた、古龍が齎せし災いなのでしょうか……胸がひどくざわつきます。
諸国を慰安して回る私ですが、今回ギルドの要請を受けてドンドルマでハンターの皆様のために歌うこととなりましたが……道中には当然、危険なモンスターが跋扈しています。
少しでも護衛の皆さんの負担を減らせたら……どうか、よろしくお願いします。
ココット村での宿泊から一夜明け……私たちは村長宅の前で集合していた。
「おはよう、諸君。昨夜は良く眠れたかな?」
「はい!」
「では、食事としよう。腹が減っては戦ができぬ、と言うしな。ショウたち女性陣が宿泊した家があるだろう?あの家に、さらに奥に部屋があったことは気づいているな?」
「えぇ、最初に泊まった時に」
私たちが泊まった家は、私とカイさんとシロちゃんの三人で川の字になっても余裕が有るほどの大きなベッドが一つだけで、あとは簡単な手洗い場や簡易式トイレ、浴場などが付いていた。……が、今挙げたものはどうにも後付け感が否めなず、ひょっとしたら元々これらは付いていなかったのかもしれない、と考えるほどに。
それと、アカイさんが言うようにあの家には暖簾がかかった部屋があった。その部屋には入っていないので内容までは分からないが、話の流れからしてあそこが食堂なのだろうか。
「実はあの暖簾の奥に、キッチンがある。テーブルも大きい物を用意してくれたようで、我々が食事を取るのに十分な大きさだ。……早速向かうとしよう」
アカイさんの案内で、私たちは宿泊先の家に向かう。その家の中、暖簾が掛かった向こう側に入ると、たくさんの材料に大きなキッチンが備え付けられていた。テーブルも長く、私たち七人が食事をするのに十分すぎる大きさだ。
「はぇ~……すっごいや、こりゃ」
「……?料理長らしき人が見当たらないけど……?」
「料理長なら、すでにいる」
「へ?」
「料理長のキングサリ殿!おられるか!」
アカイさんが大声を出すと、キッチンの向こう側からゴソゴソと物音がした。私たちが音源に意識を向けていると……。
「ニャ」
……キッチンの向こうから、ネコがひょっこりと顔を出した。
「「可愛い!」」
「「(おまかわ)」」
「……え?あの~アカイさん?ひょっとしてネコが料理をすると……?」
「当然だが?」
「うえぇ!?人間じゃなくてネコが!?」
私とカイさんは反射的にそう声が出てしまうほどの愛くるしさが、目の前のネコから感じられた。……隣にいる先輩たちから視線を感じる、ような……。
一方で、ウォロは目の前のネコが料理をすると知って、驚きを顕にしている。……まぁ、驚く気持ちは私もわかるけど。
そうしていると、あとから次々とネコたちが姿を見せ始め、合計五匹のネコが集結した。最初に出てきたネコは、人肌で言う褐色色の毛をしたネコで水色の瞳が特徴的だ。
二番目のネコは白と黒の縞模様で、最初のネコと同じ水色の瞳をしている。……ただ、目元に若干だが隈が出来ているのが気になるし、そこはかとなく無気力さを感じるが。
三番目のネコは茶色の毛で、瞳の色も同じく茶色だ。……自信満々気な笑みを浮かべているが、果たして……。
四番目のネコは真顔だが、どちらかといえば無表情な真顔ではなく真面目というか真摯というか、とにかく真剣さが伝わって来るネコだ。毛の色は白が混じった灰色で、瞳の色も灰色だ。
五番目のネコは、出てくる際にポージングを決めるなど、かなりスタイリッシュなネコだ。瞳は最初の二匹よりもやや濃い目の水色、毛の色は……頭周りが金で他は黒という色合いだ。
「さて、紹介しよう。先程出てきた順に料理長のキングサリ、副料理長のトショウ、他弟子たちであるミドリ、ホウサイ、カモミールだ」
「……えっと、よろしくお願いします」
私が代表で、一歩前に出る。すると、同じように料理長のキングサリ……さん?が、一歩前に出て優雅にお辞儀した。すごい、仕草まで完全に人間と同じだ、可愛い――
「トップコックであるオレさまの料理、たらふく食わせてやるからな!このキングサリさま率いるココット料理番衆の料理を前に、ほっぺを両方とも落とすんじゃニャいぜ!」
……か、かわ……?
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」
とりあえず全員でウォロを速攻黙らせた。
「あのですね、ちょっと酷すぎません?皆さん揃ってグーで殴ることは……」
「その前に自身の失礼な言動を省みたらどう?」
「……返す言葉もありません」
シロちゃんを除く全員の拳でウォロを黙らせたあと、私たちは料理を待っていた。縦に連なるたんこぶを五つこさえたウォロの頭は、かなり残念なことになっている。
まぁ、私たちの気持ちをウォロが勝手に代弁してくれたので、わざわざ私たちが声に出す手間が省けたと思えば、これぐらいの制裁で済んだことに感謝して欲しいくらいだ。
アカイさんによれば、彼らは『アイルー』という名の獣人族という種族らしい。……獣に人、と書いて獣人……だから高度な知能を持っていて、人間と同じように生きていくことができるらしい。料理長たちみたいに、人間に力を貸す個体も多いようだ。
「おう、待たせたニャ!ココット料理番衆、スペシャルコースだニャ!!」
キングサリさん率いる料理番衆が、次々と料理を運んでくる。す、すごく美味しそう……!だけど……!
「……な、なんか、すごいボリューミー……」
「これ、ちゃんと食べきれるかな……?」
「……なあ、アカイの旦那。ひょっとしてハンターってのは……」
「あぁ、普段からこれくらいは食べる」
「いやいや、多すぎるだろ!?」
そう、明らかに食事量が私たちが知る料理の比ではないのだ。目の前に置かれたバカでっかいローストチキンのせいで、対面に座ってるテル先輩の顔が見えないんだけど……。
ただ、出てきた料理はどれもこれもが美味しそうだ。先ほどのローストチキンに始まり、私とカイさん、シロちゃんにアカイさんが座る側にはチーズフォンデュに鳥の足のようなから揚げ、野菜たっぷりのシーザーサラダ、刺身などなど……。
反対に先輩やカイさん、ウォロの側に置かれている料理も美味しそう!各種焼き鳥の串焼き、デカイロブスターが丸々一匹乗っかったチャーハンにトマトケチャップたっぷりのパスタ、カニのしゃぶしゃぶなどなど……
私の目の前にも、焼肉のセットが置かれている。ヤバい、ヨダレも腹の音も止まらない……!
「さあ、召し上がれニャ!」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
「ふふっ……みんな嬉しそうだね、アカイ」
「あぁ、連れてきてよかったよ」
私たちは目の前の料理にかぶりついた!
「「「「「美味しい~~~~~!!」」」」」
「はっはっは!豪快な食べっぷりだニャ!こっちとしても、作った甲斐があったってもんだニャ!」
美味い!美味い!美味い!これは何もかもが美味しすぎる!!ハンターって、いつもこんなに美味しい食事を食べていたのかな!?
「このカニ、結構美味いな!」
「そいつは"盾蟹"『ダイミョウザザミ』のボウニクだ!おれが捌いたんだぜ!」
「えっと……ミドリ、だっけか?確かにコイツは最高だぜ!」
「まぁ、美味しくて当然だよな?おれたちは、世界中を旅しながら最高の食材を探した!いろんな人間の口に合うような完璧な食べ合わせを探した!……そして、今!お前たちはおれたちの料理に舌鼓を打っている!この意味が分かるかニャ?」
「意味?」
「……わかった!教えてやる!おれたちが、世界で一番!凄いってことなんだニャ!」
セキさんにめちゃくちゃ熱弁するミドリさんは、なるほど最初の顔合わせの時の自信満々な表情に見合った料理の腕前をお持ちのようだ。
「このトゲトゲ、美味しい……!なにか、手みたいな形だけど……」
「それは"青熊獣"『アオアシラ』から採れる熊の手だね。ぼくが調理したんだニャ」
「えっと……たしか、ホウサイさんでしたっけ?」
「初めましてお客様、ぼくがホウサイですニャ。この熊の手、珍味として知られているんですが、ゼラチンが大変豊富なんですニャ」
「ぜ、ぜらちん……?」
「まぁ、端的に言えばお肌に大変良い栄養を含んだ食材、ということですニャ」
「お肌……!」
カイさんはホウサイさんから熊の手てについて説明を受けている。……美肌効果、か。
「カイさん。その熊の手、こっちにも分けてもらえますか?」
「……………………どうぞ」
「めちゃめちゃ渋りましたね」
私もさっそく熊の手を頂く。……おぉ、これは、なかなか……!
「本当に美味しいです!皆さん、料理が上手なんですね!」
「あはは。ぼくらだってまだまだニャ。日々是精進ってね、ぼくらはもっともっと料理会への頂点へ上り詰めてみせるニャ。……そう、熱くたぎる炎のように。炎は上に燃えあがる!ぼくらも上をめざす!わかるね?」
「なんとなくわかる気がします!」
「それは良かったニャ」
ホウサイさんって、なんか向上心の塊みたいな人……じゃない、アイルーだなぁ。
「うおおぉぉぉ!この滝みたいに流れるやつ、すごい美味いぞ!」
「それはチーズフォンデュといって、ベルナ村で特に流行っている調理法なのニャァ。イケてるでしょ?」
「カモミールさんだっけ、確かにこれはイケてるぜ!」
「人も料理もモンスターも、進化し続けているニャァ。あたしたちもその波に乗り遅れないように、進化の道を前
「え……?」
カモミールさん……見た目はすっごいクールなのに、さっき聞こえたダジャレで全部台無しになった……。
「喋るネコに美味い料理、もうどこもかしこも興味の対象ばかりですね!ちょっとあなたたちのこともいろいろ調べちゃってもいいですか!?」
「……忙しいんで」
「そう言わずに!さあさあさあ!」
「はぁ……。……ふぅ。
……興味も好奇もあとにしな!オマエの興味も好奇も全て!オレの料理でかっさらってやるよ!!たんと食え!遠慮はいらねぇ!限界一杯、腹ァ膨れるまで食わせてやらぁ!!」
「……oh」
ウォロはトショウさんに絡んでいる……が、どこからともなくマイクを取り出してシャウトし始めたトショウさんを前に形勢逆転し、今度はウォロが怯んでいた。……あれだけ迷惑をかけるなって言ったのに、あんちくしょう……。
「私の目の前にあるのは……焼肉?」
「あぁ!オレさま、料理長のキングサリさまが直接手がけた料理だニャ!捌き方から下処理まで、完璧に仕上げてみせたぜ!」
「おぉ!」
美味しそう!さっそくいただきます!私は銀皿の上にあるお肉の一つを箸で取った。
「これはどこの部位ですか!」
「それは……あぁ、火竜のタンだニャ」
「え"っ」
か、火竜……そ、それってリオレウスの……。
「そっちは火竜のキモ、んでそっちが火竜の上カルビだニャ。隣にあるのは雌火竜のバラと雌火竜のロース!リオス夫婦の豪華焼肉セットだニャ!オレさまは飛竜種……特にリオス科のモンスターの調理に関しちゃ、右に出るアイルーはいないと言われるほどの腕前で……どうしたニャ?」
キングサリさんが不思議そうな顔でこちらを覗き込んでくるが……それどころではなかった。
私……腰にリオレウスをぶら下げたまま、危うくリオレウスのお肉を食べちゃうところだった!心なしか、リオレウスの入ったボールが震えている気がする……どうしよう、すごく気まずい……。
「(ククッ……ww)ショウ、ちょうど違うものが食べたいと思っていたところだ。よければこちらのチャーハンとそちらの焼肉、取り替えてくれないか?」
「是非にっ!!」
アカイさん、マジ救世主!!私は秒でアカイさんの提案に乗っかり、チャーハンと焼肉を交換することにした。……複雑そうな表情のキングサリさん、ごめんなさい。まさかリオレウスを連れていますとは言えなくて……。
「むぅ……オレさまの料理、気に入らなかったか……?」
「いや、彼女はリオス科のモンスターに強いあこがれを抱いていてね。だから、その血肉を食らうなどとんでもない、と考えてしまったんだよ」
「あぁ、なるほどニャ。たしかに、一部の人間にはモンスターに強い思い入れがあって、そのせいでモンスターを食材にすることに反対する奴がいるって聞いたニャ」
「ごめんなさい、キングサリさん……でも、私にとってリオレウスは特別なモンスターで……」
「いいさいいさ、気持ちはわかるからな。リオレウスは飛竜種を代表するモンスター、すべてのハンターが必ず超えるべき壁の一つとして、象徴的なモンスターだからニャア」
うんうん、と頷くキングサリさんに、ひとまずは安堵する。アカイさん、フォローありがとうございます!
こうしてなんだかんだ色々とありながらも、私たちは食事を堪能した。
すっかりご飯を楽しんだ私たちは、再び村長宅の前に集合していた。……それにしても、朝からすごいボリュームの食事をしたというのに、胸焼けもないしお腹いっぱいで動けないなんてこともなく……むしろ体の奥から力が沸いてきて、今すぐにでも体を動かしたい気分だ。
「……それにしても、オレたち……ポケモン、じゃなくて、モンスターを食べてたんだな」
「うん……ヒスイ地方ではなかなか考えられなかったよね。ポケモンを食べる、なんて……」
「いやぁ、ジブンはなかなかない体験に、興奮を禁じえないのですけどネ!」
「まぁ、こんな機会じゃなきゃなかなか食べられないですしね。ポケモンだって、どんなポケモンが食べられるかわからないし……なぁ、ショウ」
「ベロリンガのタンは超美味かったなぁ……」
「「「「えっ?」」」」
「……ヒュ、ヒュー……」
「ショウ、ちょっと詳しく話そうか?」
「はい……」
口笛じゃごまかしきれないかぁ……。
私が先輩に問い詰められる中、村長さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おお、皆殿。食事は楽しまれましたかな?」
「えぇ、おかげさまで!ごちそうさまでした!」
「それはよかった」
……アカイさんに聞いたが、村長さんは『竜人族』と呼ばれる人間と獣人族以外の知的種族の一つで、最初に気づいた四本指と長い耳の他に、服で隠れて見えない脚部は鳥類のような関節配置になっていて、なにより人間よりも圧倒的に長命らしい。若者は背高で容姿端麗なものが多いが、老いてくると村長さんのように人間の老人よりも小さい体格になってしまうらしい。……ちなみに竜人族の若者といってもその実年齢は数百歳という単位である。……ジェネレーションギャップがえげつなさそう。
ただ、それらを除けば人間と全く変わらないので、この大陸に住む人たちも竜人族を当たり前の存在として受け入れているんだとか。……ヒスイの人たちも、この大陸の人たちのようにもっと寛大になるべきだと思います。
さて、私たちはこれからメゼポルタへ向かう事になるのだけれど……その前に、明らかに分かりやすい脅威が存在する。
「……さて、アカイの旦那。どうやってメゼポルタまで行く?遺跡平原にゃ巨大なティガレックスが居座ってやがるし、かといって南下するには時間がかかりすぎるだろ?」
「その通りだ、セキ殿。……遺跡平原を強行突破できればいいが、そうは問屋が卸さんか……」
「なんでだ?」
テル先輩が小首を傾げてアカイさんに疑問を投げかける。……ティガレックスの目を掻い潜っての行動なら、あれだけの巨体だ。どうにでも目をくらますことはできると思うけど……。
「ティガレックスは問題ではない。……問題は、人間のほうだ」
「人間……?……あっ!」
「気づいたか、カイ殿」
「……たしか、ティガレックスを討伐するために大規模な作戦を展開するって、昨日の話に出てた……。つまり、遺跡平原周辺は厳戒態勢に入っている……民間人が遺跡平原に入り込まないように、監視の目があるかもしれない……」
「そうだ。そのために、ティガレックスを誤魔化せても人間の目は誤魔化せず連れ戻される可能性がある」
そうか……!村長さんも「大規模な討伐作戦を検討している」って言ってたし、念入りに準備をしているのなら通行規制も取り締まっているはずだ。それは、困ったな……。
「そんなぐずぐずしていたら、ショウの時間が無くなっちまう!」
「……私がひとまず先行しよう。一人ならどうとでもなるはずだ。情報を収集しつつ往復を重ね、なるべく監視の目が緩い場所を見つけてくる」
「お願いね、アカイ」
「任せろ。……だから、ショウたちのことは頼んだぞ、シロ」
「オッケー」
アカイさんはシロちゃんの頭を一度撫でると、時間が惜しいとばかりに走りだして村から出て行ってしまった。……そして、アカイさんと入れ違いになるように別の青年が村に入ってきた。彼はアカイさんの姿が見えなくなるまで見送ったあと、改めて振り返り……シロちゃんと目が合うと、気さくな笑みを浮かべて手を振ってきた。
「……あっ!おーい、やっほー!」
「やっほー!」
少年は全身に黒衣を身に纏った竜人族の青年だ。彼は手を振った体勢のままシロちゃんに近づき、握手を交わした。……シロちゃんの知り合い?その割にはアカイさんのことはスルーしてたし……。
「へぇ、その姿を選んだのね」
「もう少し大人でも良かったんですが、ギルドへ依頼経験のある顔なら融通が利くかなって」
「賢い子ね」
「祖様ほどでは」
「……あの、その人はシロちゃんの知り合い……?」
二人でヒソヒソと内緒話……それもまた、身内であるが故の近さ、かな。
「あ、うん!紹介するね、彼はダイアー。私の従兄弟だよ」
「初めまして、皆さん。ボクは『ダイアー・ミラリス』と申します。以後、お見知りおきを」
シロちゃんの従兄弟……ということは、アカイさんの息子か、甥っ子かな?見た目は竜人族だからあまり当てにならないけど、容姿だけで言えばカイさん以上、セキさん未満の年齢に見える。
「えっと、初めましてダイアーさん。私はショウと言います。こちら、テル、カイ、セキ、そしてウォロです」
「あははあ、遠路はるばるどうもどうも。先ほど叔父上とすれ違ったんだけど、なんかあった?」
「あぁ、うん。アカイは情報収集のためにしばらく席を外すことになって……」
「おぉっと、そりゃあいかん。でしたらこの先、道案内はボクが務めるとしましょうか」
「本当に?ありがとう!」
「いえいえー、いかんせん暇なものでね」
叔父上……シロちゃんはアカイさんの親類の子、さらにダイアーさんはシロちゃんの従兄弟でアカイさんが叔父……。さらにシロちゃんとアカイさんの容姿は人間だがダイアーさんは竜人族……うーん、複雑な家族関係の予感。
「……ということで、叔父のアカイに代わりましてこのダイアーが、皆さんを導く水先案内人となりましょう。皆さん、何卒よろしく!」
「ああ、助かるぜ。流石にシロの嬢ちゃんにばかり負担をかけるわけにもいかねぇからな」
「うん、そうだね」
「それはありがたい!是非とも色々と、お話を聞きたいところです!」
「……よかったな、ショウ」
「えぇ、先輩」
流石にこの中で一番年下のシロちゃんを先頭で歩かせるわけにも行かない。なので、ダイアーさんの提案は渡りに船だ、遠慮せず乗っかるとしよう。
「それじゃあ、シロ。まずは何処へ行くんだい?」
「……ひとまず、ドンドルマを目指したいわ。出来るだけ、村や集落を渡り歩きたいところなんだけど……」
「ふーむ……それならまずは『メタペタット』かな。メタペットとも呼ばれる村で、まあ個人が各々呼びやすい方で呼んでいるみたいだよ。
この村はハンター達が自らの手で興した村で、すぐ近くに狩場である密林があることから各地へ狩りに出向くハンター達の中間地点になっているみたい。こっち側の大陸にいるハンターなら、ドンドルマに行く前に必ず寄ってるんじゃないかな」
「ハンターが集まる村、か……」
ハンターが、自らのために開拓した村……かなり気になる。私がヒスイに来たばかりの頃も、コトブキムラは発展途中だったし……なにか、参考技術なんかが見られるかもしれない。
「まずはここに向かうことをオススメするよ。時間がないなら、早速出発しようか?食料や回復薬や解毒薬などの薬類も、こちらで事前に用意しているからね」
「お願いします!」
ダイアーさん、なんて準備のいい……まるで、最初からこちらに来ることを前提にしていたみたいだけど、まさかね?
「村長さん、泊めていただきありがとうございました!またいつか、ココット村に来ます!」
「うむ……ショウ殿、そして皆々様、どうかお気をつけて……」
ダイアーさんの先導に従い、私たちはココット村を出発した。……ここから先は未知の領域、鬼が出るか蛇が出るか……。
ココット村を出発して、五時間が経過した。もうすぐお昼に差し掛かる頃、私たちは現在『森丘』の名前で親しまれているという狩場にいた。
灰色の体に特徴的な尻尾を持つアプトノスを始め、鹿のような姿の『ケルビ』、黄色い大型昆虫『ランゴスタ』など、本当に見たことも聞いたこともないポケモン、モンスターがたくさんいる。あと、背中にコケが生えている『モス』という豚は見ていてなんだか可愛らしかった。……あ、あとアイルーの他にも『メラルー』っていう黒い毛の獣人族もいた。……ただ、メラルーは手癖が悪く、よく物を盗んでいくらしい。
大型モンスターでいうと、以前アカイさんが手持ちに加えていたイャンクックと、イャンクックそっくりの紫の竜もいた。
ダイアーさん曰く、紫の竜の名前は『イャンガルルガ』というらしく、"黒狼鳥"の別名を持つ鳥竜種……そして、鳥竜種きっての戦闘狂らしい。その戦闘狂っぷりは凄まじく、捕食や縄張り争いなどといった理由もなく、力量差も一切顧みず、目に付いた生物に片っ端から襲いかかっていくらしい。自身よりも格上が相手であった場合でも戦闘本能は衰えるどころか火に油とばかりに燃え上がり、あの古龍級生物イビルジョーを相手に食い下がり一矢報いたという報告すら上がっているそうだ。古龍級生物と互角どころか、一矢報いるほど……私とジンオウガたちなんて、ほとんど手も足も出なかったのに……。
私たちが目指しているのはこの森丘にあるハンターの拠点、『ベースキャンプ』だ。そこは基本安全であり、休むにしても便利らしい。今回は強行軍ということなので、狩場にあるベースキャンプも有効活用しよう、とのことだ。
……本当はNG行為らしいが、「どうせ皆巨大ティガレックスに夢中なので問題なし」とはダイアーさんの言。いや、いいのかそれで。
そして私たちが森丘の森を抜けて丘の方面まで歩いてきた……その時だった。
「――!!」
「――――!」
「……ん、なんだ?」
「今、声が聞こえませんでした!?」
「ああ……聞こえてきた感じからして、ヤバげな雰囲気だ!」
丘の方面で、人の怒号が聞こえてきたのだ。明らかにただならぬ事態に、私たちの空気が緊張で張り詰める。一方、シロちゃんとダイアーさんは至って冷静だ。
「(……まさか?)」
「(あー……向かってるだろうなとは思ったが、まだこの辺だったか……)」
「(シュレイド方面まで来ていたの!?頑張りすぎでしょ、あの子……)」
「(まあ、いいじゃん。面倒な顔合わせを避けられるし、恩は売れるし、一石二鳥ですよ?)」
「(……仕方ない、妥協しましょう)ねえ!ひょっとしたら、モンスターに襲われてるんじゃ……!」
「……!!」
「あっ、ショウ!?」
私はいてもたってもいられず、すぐさま走り出した。あとから先輩が追いかけてくるのが気配でわかる……。
やや開けた場所に出てくると、目の前には対峙する二組の姿があった。
方や、鮮やかな青と黒のストライプ模様に黄色い嘴。鋭い嘴と牙を持ったモンスターの群れ。群れの中には一際大きい個体がおり、その個体は頭部に朱色の大きなトサカを持ち、鉤爪も赤みを帯び、巨大に発達している。
もう一方は、人間が三人とアイルーが一匹の組み合わせ。人間二人は重装甲に盾と槍という、ココット村のハンターと同じ装備をしている。……だが、盾も槍も、あの時見たハンターよりも見た目は普通の鉄の鎧って感じだし、やや貧相な印象だ。アイルーは、まるで神官の如き服装を身につけており、三人のうち武装していない一人を守るように立ちはだかっている。
そして、最後の一人。美しい金髪の女性で、冠のような装飾を頭に身につけている。裾に向かうにつれて色が濃い山葵色のドレスを身に纏っており、控え目に言っても超美人である。
「……こんなところにまでモンスターたちが……やはり、あの巨大な轟竜は凶兆の前触れ……?」
「歌姫様!ここはお下がりください!」
「御身は我々が、身命を賭してお守り致す!!」
「皆様……!」
「(歌姫!)」
歌姫!歌姫って言った!十中八九、あの金髪の女性のことだ!そうこうしているうちに、青いモンスター郡が人間側を襲い始めた。武装している人は小型種を蹴散らすように槍を振り回しているが、その隙を突いて大型種が二人を飛び越えてしまい、歌姫の背後を取ってしまった!
「し、しまった!?」
「させるか……うわっ!」
「ラウラ様!おさがりくださいニャ!!」
「ルル!」
大型種が、今にも歌姫に襲いかかろうとしている……させるか!
「ダイケンキ!シェルブレード!!」
「……!!」
「ギャアッ!?」
モンスターボールを投げ、ダイケンキを繰り出す!秘匿性とか知ったことか、人命には代えられない!!
ダイケンキはアシガタナを抜刀すると、爪を振りかざした大型種に斬りかかった。斬撃をまともに食らった大型種は派手に吹っ飛び倒れこむも、すぐさま起き上がってダイケンキに威嚇し始めた。
「ニャニャ!?み、見たことのないモンスターニャ……!?」
「こ、これは……?」
「大丈夫ですか!!」
「……え?」
私が急いで駆け寄っていくと、三者三様(+一匹)はひどく驚いたように目を見開いた。……マズイ、小型種が騎士の人たちに襲いかかろうとしている!
「ジュナイパー、サイコカッターだ!」
「ジュッパァ!ジュア!ジュアァ!」
「ギャンッ!?」
「ギギャア!!」
「……っ!な、なんだあ!?」
あれは……先輩のジュナイパー!ジュナイパーはサイコカッターで小型種を蹴散らすと、騎士の人たちを守るように立ちはだかった。3本の矢を発動状態で待機し、小型種を警戒している。
「ショウ!急に突っ走るなよ!」
「うっ……す、すみません先輩……」
「……いや、よくやったよ。人助けはいいことだからな!」
「先輩……!」
「あーあー、あれだけ内緒にするっつったのに、お前ら……」
あとから追いついたセキさんは呆れており、カイさんもモンスターボールを手に持っているが出すかどうか迷っているらしい。ウォロは静観しているが、その手は腰のモンスターボールに伸びている。
「おい、シロの嬢ちゃん!こうなっちまった以上は、人命優先だ!構わねぇな!?」
「……えぇ、彼女が目的の歌姫よ。みんなで守ってあげて!」
「お安い御用だ!リーフィア!」
「グレイシア!」
「トゲキッス!」
「フィーア!」
「レイッシャ!」
「チョギイィッス!」
シロちゃんから許可も降りたので、各々がポケモンを繰り出し戦闘態勢に入る。未知の生物を相手にモンスター郡も警戒しているのか、先程までの攻勢が嘘のように大人しい。
「テル!お前はショウと一緒に、そっちのデカいのをやれ!」
「小さい方は、私たちで何とかする!」
「頼みましたよ」
「了解です!」
テル先輩も、私に合流してくれた……これほど心強いことはない!
「グォワ、グォワ、グオオォォォッ!!」
「気をつけて皆!そいつは『ドスランポス』と、その小型種の『ランポス』の群れだよ!」
大型種……ドスランポスが一際大きな声で咆哮を上げると、さらに小型種が増えた。……けど、問題はない。そっちから来ないなら、こっちから行く!
「先輩!」
「ああ!」
「「ダイケンキ!ひけん・ちえなみ!!/ジュナイパー!さんほんのや!!」」
「……!!」
「ジュナッパァ!!」
ダイケンキが突撃し、ジュナイパーがそれを追い越して急襲をかける!足蹴りからの矢による攻撃……そこから畳み掛けるように、ダイケンキの無数の斬撃が襲いかかる!
「ギャッ!!」
「まだまだ!」
「先輩、一気に!!」
「「シェルブレード!!/リーフブレード!!」」
「「……!!/ジュッパアァッ!!」」
「ギャアアアアッ!?」
水の太刀と草の剣……二つの斬撃を同時に食らったドスランポスは派手に吹っ飛び、岩壁に叩きつけられて動かなくなった。目を回しているので、どうやら気絶したらしい。
ボスがやられたことに動揺したのか、ランポスたちの動きが露骨に悪くなった。その隙を突かないセキさんたちではない!
「今だ!リーフィア、はっぱカッター!!」
「グレイシア、ふぶき!!」
「トゲキッス、マジカルシャインです!!」
「フィー!」
「シャアァ!」
「キイィッス!」
三体のポケモンの同時攻撃により、ランポスの群れは完全崩壊だ!群れは散り散りに逃げ出し、あっという間にいなくなってしまった。
「ふぅ……なんとかなってよかった。ジュナイパー、ご苦労様」
「お疲れ、ダイケンキ」
「よくやったな、リーフィア」
「偉いよ、グレイシア」
「よく出来ました、トゲキッス」
各々が己の相棒たちを労っていると……視線を感じてそちらに振り返った。三人と一匹が、不思議そうな目で私たちを見ている。
「……えーっと……大丈夫、ですか?」
「……あ、いえ!……その、お力添え、誠に感謝します。おかげさまで私も、彼らも、命をつなぐことができました」
「いえいえ、お礼なんてそんな……困ったときはお互い様ですよ」
「あっ……ふふっ、そうですね」
なんとか声をかければ、歌姫さんから返事が返ってきた。……よかった、怪しまれて……は、いるみたいだが、少なくとも警戒するほどではないと判断されたかな。
「……見たことも聞いたこともないモンスターでいっぱい」
「しかも、なんだ……へんなボールから飛び出してきたぞ……?」
訂正、騎士二名は未だ放心状態だった。
「……あの、差し支えなければお名前を……」
「あ、これは失礼しました。私は――」
「ショウッ!!」
シロちゃんの鋭い呼びかけ。何事かと思い、次いで気配を感じて振り返れば……ドスランポスが起き上がっていて、今にもこちらに飛びかかろうとしているところだった。
ダイケンキは咄嗟に私の前に出てアシガタナを構えている……だが、これでは攻撃は防げても反撃はできない……!ドスランポスが飛びかかるために足に踏ん張りを聞かせ――
ガサガサガサッ!ドオオォォォォンッ!!
――跳躍しようとした、まさにその時。
森の方から木々が激しく揺れたかと思うと、何かが勢いよく飛び出してきた!よく見るとそれは人で、さらにその人が持っている武器はココット村でも見た砲口のついた槍と盾だった。槍の先端から火が吹いており、その勢いでカッ飛んできた……って、コトォ!?
ドスランポスも気づいたようで振り返ったが……その時には既に槍が振り上げられており、無情にも振り下ろされた槍によってドスランポスは叩き潰された。
かなりの勢いで叩きつけられたのか激しく土煙が巻い上がり、視界が一瞬にして奪われる。さらにその直後、激しい炸裂音が響き渡ると同時に、私たちの頭上を全身に風穴を空けたドスランポスが飛んでいった。
……土煙が晴れると、私と先輩の後方に穴だらけのドスランポスと、目の前に槍を持った人、という光景が目に入った。
槍の人は女性で、身にまとう防具は頭や肩、足の先端が赤いトゲのような色をしていて、全体的には水色と、内側が黄色になっている鎧を身にまとっている。槍と盾は深い青を思わせるような黒色だ。……なんだか、ラギアクルスっぽく見えるのは気のせい……?一緒にいるアイルーは、同じ配色だがその出で立ちは海賊っぽい。この人、ひょっとしてハンター……?
「……はぁ。依頼を出すだけ出しといて、ちょこまか動かれると困るんですが。私が事前にメタペタットに寄り道しなかったら、入れ違いでリーヴェルに向かうところでしたよ……」
「あ……その、ごめんなさい。……依頼を受けてくださったハンター様、で、よろしいですか?」
「えぇはい」
ハンターさんは項垂れたまま話していたが、流石に歌姫さんに声をかけられたからか顔を上げて――私と目があった瞬間、大きく目を見開いた。まるでその顔は、「信じられない」と言わんばかりの表情になっていた。
「……なんでレジェアルの主人公がここに……?」
「……えっ、と……」
「……スゥー。歌姫様、そちらの方々は?……何やら見慣れぬモンスターを引き連れていますが、お知り合いで?」
「……あっ、そうでした!ハンター様が合流されるよりも先に、私たちを助けてくださったんです」
「……ですか」
小声で何か言っていたが、よく聞こえなかった。穴が空きそうなほどに見つめられたので、少々気まずい……ただ、歌姫さんがとりなしてくれたので、ひとまずは安心かな……?
「……見たことないモンスターですね。なんていう個体ですか?」
「あ、その……」
「聞かないほうがいいなら聞きませんけど」
「すみません……」
「お構いなく。……ダイケンキにジュナイパー、後それぞれのパートナーか。なんでウォロが一緒にいるの?ストーリーはどこまで……」
「あの……?」
「あぁ、失礼」
どうしたんだろう、このハンターさん……さっきからブツブツと、小声で何かをつぶやくことが多いな……。
「改めて自己紹介でもしましょうか。まずはそちらから」
「あ、はい!」
私たちは改めて名前を名乗った。その際、ポケモンたちをボールに戻したんだけど、また騎士の人たちがどよめいてしまった。……なんか、すみません。
「……ふむ。ショウさん、テルさん、セキさん、カイさん、ウォロさん。そして……シロさんに、ダイアー・ミラリスさん、ね。……何故に英名?禁忌が関わってるのか……?」
「あの、ハンターさんの名前……」
「あ、度々失礼。まずはこちら、私の相棒のオトモアイルー。名前は『リュウセイ』」
「リュウセイニャ。
「そして、私。キャラバン隊、『我らの団』所属のハンター。名前は――」
「――シズカ・ミズハシ」
ついにハンターと合、流……?