ポケットモンスターHUNTER アルセウス   作:箱厨

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後編、始まります!


緊急クエスト:歌姫、ドンドルマへの導べ~後編~

ドスランポスとの群れとの戦闘中、倒しきれていなかったドスランポスが攻撃を仕掛けてくる直前に乱入してきた人……ハンター。その名前は『シズカ・ミズハシ』といった。

どうやらシズカさんは歌姫のラウラさんの護衛依頼を請け負ったハンターらしく、ラウラさんの動向を先読みしてこの森丘に来ていたんだとか。すごい……ハンターってそんなことまで出来るんだ!

 

現在、私たちはシズカさんの案内で森丘にあるベースキャンプに来ている。ここからシズカさんが用意した幌馬車に乗ることになるそうだ。幌馬車に繋がれているのは、見た目はマンムーそのままにイノムー並みに毛深さを増したモンスターだった。……あっ、わかった!これが『ポポ』なんだ!前にアカイさんが「そっくり」って言ってたけど、本当にそっくりだ!

 

「では、自分が御者を勤めます。ハンター様は、どうか歌姫様を」

 

「了承」

 

どうやら騎士さん二人は一人が御者を勤め、もう一人が、馬車の外で警戒をするようだ。シズカさんは馬車に乗り込み、ラウラさんの側に付くようだ。

馬車が動き出して最初の夜。シズカさんはさすがにこの大人数は想定していなかったらしく、敷布団などもラウラさんの分しか用意していなかったようだ。

しかし、私たちとてなんの用意もなく旅をしているわけではない。

 

「それならご心配なくハンター殿。我々の分は我々の分で、ちゃんと用意しているので。こちらのことはどうかお気になさらず」

 

「さいですか……。では本日はこちらで野宿となりますので、準備をお願いしますね、ダイアー……さん」

 

野営の準備をする中、そう言うやいなやハンターさんは武器を片手にどこかへ歩き始めた。

 

「あの、どちらへ?」

 

「周囲に罠を張っておきます。小型モンスターには鳴子で、中型以上には落とし穴やシビレ罠が有効ですので。人間が掛かることはありませんが、気をつけてくださいね」

 

「いえ、その、見学したいなと思いまして」

 

「……見ててもつまらないと思いますが」

 

「ダメですか……?」

 

「うっ……。……はぁ、わかりました。お好きにどうぞ」

 

少し困らせてしまっただろうか……けど、罠を使って捕獲するという話はアカイさんから聞いてから少し気になっていたので、一度見てみたいと思っていたのだ。

私はシズカさんに続く形で歩いていく。私の横には、シズカさんのオトモアイルーのリュウセイくんも歩いている。彼がこの位置なのは、私の護衛を兼ねているのだそうだ。しばらく歩き続けたあと、シズカさんは肩に担いでいた袋の中から筒のような物を取り出した。それを地面に設置したあとに天井部をひねると、火花とともに筒の一部が高速回転し始めた。シズカさんが少し離れたあと、物凄い音とともに地面に網が展開されていた。シズカさんが腰につけている筒を開くと、そこから光の玉が飛び出す。しゃがみこんだシズカさんが手を伸ばすと光の玉もそちらへ飛んで行き、網が張られた地面がはっきりと見えた。

 

「……ん、よし」

 

「あの、それは?」

 

「ん?……あぁ、この光の玉?『灯蟲』って言ってね、まあ松明代わりみたいなものです。夜間の狩猟なんかじゃ、とっても便利で重宝するんです」

 

「む、虫なんですか」

 

「えぇ、私たちハンターは自然の中からたくさんの力を借りている……この灯蟲も、その一つってわけです」

 

「へぇ……」

 

「さっ、ここの落とし穴はオッケー……次、行きますよ」

 

「あ、はい!」

 

再び歩き出したシズカさんの後を、慌てて追いかける。次に仕掛けたのは、伏せたお椀の上に回転するファンがついたような形状のものだ。それを地面に置くと、上部を捻って固定している。その直後、罠から放電が奔り始めた。

 

「さっきのは落とし穴で、こっちはシビレ罠。中にいる雷光虫って蟲が起動源になってて、モンスターを痺れさせることができるんです」

 

「おぉ……」

 

「ただ、一部のモンスターには罠が効かないんですよ。罠を察知して回避したり、罠の中にいる生物を狙ったり、とね。

例えば……このシビレ罠に使われている雷光虫、ジンオウガというモンスターと共生関係にあって、ジンオウガは罠を破壊して中にいる雷光虫から電力を分けてもらおうとするんです」

 

「えぇ!?ジンオウガと!?」

 

「えぇ。……あの、そんなに驚きます?というか、知ってるんですかジンオウガ?」

 

「あっ……」

 

やっばい、やらかした……。ジンオウガと共生関係にある虫の話に、驚いて声を上げてしまった。なんとか言い訳しないと……!

 

「えぇっと、その……」

 

「まぁ、時空の裂け目の出現に伴っていなくなったモンスターたち……その中にジンオウガの名前があった時点で、なんとなくそんな気はしてたんだけどね」

 

「……え?」

 

「やっぱりヒスイ地方に飛んでたか。それじゃあ、ほかのモンスターもみんなヒスイ地方にいるのかな?それにしても、なんだって遠い異世界で開いた時空の裂け目がこっちの世界でも開いたのかしらね。

ウォロとギラティナの一人と一体だけではどう考えても無理だろうし……やはり、ミラボレアスか。奴が時空の裂け目を利用したと見ていいかな……もともとボレアス種には自力で時空を渡る力があるって、昔に兄さんが言ってたし」

 

「……?……ッ!……ッッッ!?」

 

な、なにを……?シズカさんは、一体、何を言って――

 

「ようこそ、異世界人。welcome to differnt world」

 

立ち上がり、振り返ったシズカさんはそう言いながら手を差し伸べてきた。……私は、今、どんな顔をしているだろうか……。

 

「……ん、ゴメンね。私が君を一方的に知ってるだけで、君と私は今日が初対面だよ」

 

「いや、それは、そう……ですが……」

 

「実は私も異世界人なんだ。……そうだな、ノボリと一緒だと思っていいよ」

 

「ノボリさんと!?」

 

ノボリさんまで知ってる……!?ノボリさんは原因不明の転移によってどこからかヒスイ地方へとやってきた人で、記憶喪失者でもある。会ったことのない人のことまで知ってるなんて……!

 

「あの人の記憶を取り戻したいなら、シャンデラでも見せてあげるといいよ。知ってる?シャンデラ」

 

「……ほのお・ゴーストの複合タイプで、ランプラーの進化系……」

 

「そうそう、ヒスイ地方にはいないのによく知ってるね。さすがはシンオウ地方出身者、ポケモンの情報も現代版、ってわけだ」

 

「私のことを知ってるんですか!?」

 

「(あぁ……主人公(あなた)だったのね)いいえ、正確にはあなたがアルセウスの導きによって、現代のシンオウ地方からヒスイ地方に転移したってことだけ。だから、あなた自身のパーソナル情報は何も持っていないわ」

 

「あっ……。そ、そう、ですか……」

 

……いや、待て。"そうですか"じゃないでしょ普通!?シズカさんも実は異世界人で、私やノボリさんのことを知っていて、さらにはノボリさんの記憶のことまで!!

 

「あ~……そう警戒しないで欲しいな。別にあなたのことを取って食おうとか考えてないから。むしろ遠路はるばる次元を渡って、この世界に何をしに来たのかな?って思っただけだから」

 

いつの間にか睨みつけていたのか、シズカさんが肩を竦めながら両手を挙げた。しまった、困らせてしまったかな……。

 

「い、いえ……えっと、シズカさんはどうしてここに?」

 

「さぁ?時空の裂け目か、はたまた別の要因か……けど、時期的に考えればそっちの時空の裂け目が先だと思うんだよね」

 

「hai」

 

「時空の裂け目が開いたあと、多分……こっち側でも何かあったのかな。それが原因で、次元境界線にダメージが及んだ可能性がある。次元って複雑な上に結構デリケートなイメージだし、誰かが手を加えたら簡単に崩壊しちゃいそうだよね。

そこへ来て、ミラボレアスだ。あいつ、自力で時空を渡れたりするし、あいつが原因じゃないかな」

 

「hai」

 

「けど、イマイチ確証がないんだよね……決定的な証拠でもあればいいけど、あったところでそれを証明する手段はこの世界にはないし。……新大陸のコラボイベント、いつからだっけ?あれも異世界関連だったから、無関係じゃないはず……その前後で何があったかさえわかれば……。

そっちは時空の裂け目が開いただけなんだよね?もしそうなら、ウォロもギラティナも今回の件に関しては白だね」

 

「hai」

 

「はぁ……こんな時、兄さんがいてくれたら……」

 

いきなり難しすぎる話を始めたシズカさんについていけず、空返事を繰り返していたところで、気になる単語が出てきた。

これ以上、この話題が続くと私の頭がパンクしてしまう……!私は思い切ってそのワードに飛びついた。

 

「兄さん?お兄さんがいるんですか?」

 

「…………」

 

あ、表情が死んだ。地雷だこれ。

 

「……スゥー。その話は、後でね」

 

「アッハイ」

 

これは……これ以上聞いてはいけないやーつ……。すっかり固まった私が返事を返すと、シズカさんはため息をついてから手をシッシッ、と振った。もう寝ろ、ということだろう。私は素直に応じることにした。

シズカさんは引き続き罠を張るらしく、再び歩き出した。私のそばには、シズカさんのオトモアイルーのリュウセイくんしかいない。私が野営地へ向けて歩き出すと、リュウセイくんもついてきた。

 

「……ご主人がごめんなさいニャ」

 

「えっ!?」

 

急に話しかけられてびっくりした!足元を見れば、リュウセイくんが申し訳なさげに眉尻を下げて俯いている。

 

「ご主人にとって、お兄さんの話は地雷なんだニャ。だから、ご主人から話すまでは、決してそちらから尋ねることは避けて欲しいニャ」

 

「う、うん。今のでだいぶ理解した」

 

「それは良かったニャ」

 

「でも」と、前置きしてから、リュウセイくんは私を見上げた。

 

「何も知らないと、それはそれで気を遣わせてしまうので、ボクの方から簡単に説明させていただきますニャ」

 

「……いいの?」

 

「いいのニャ。それに、ご主人のことを積極的に知ろうとしてくれたのは、ショウ様を含めて十七人目。ご主人のお友達が増えて、ボクはとっても嬉しいのニャ。だから話すニャ」

 

それから一拍おいてからリュウセイくんは話し始めた。

 

「まず、ご主人にはとても大切なお兄さんがいたニャ。お兄さんはご主人にとって、それはそれは大変自慢のお兄さんでしたニャ。ご主人は周りから『天才』なんて呼ばれているけれど、お兄さんは更にその上を行く天才だったそうニャ」

 

「て、天才……」

 

「勉強、運動、人望……全てにおいて神懸かり的天才ぶりを発揮するお兄さんと比べれば、ご主人はだいぶ平凡だったそうニャ。だから、周りからも失望されたりして、プレッシャーが酷かったそうニャ」

 

「それは……」

 

いつだって、人は比べたがる生き物だ。……だけど、その差を理由に誰かをひどく言うなんて、許せないことだ。

 

「けど、そんなお兄さんにたくさん助けられて、支えられてたおかげで、ご主人はお兄さんを悪く思うことはなかったそうニャ。そんな大好きなお兄さんが、ご友人を含めて五人で食事を兼ねて遊びに出かけたときのこと……酔っぱらいが運転する車が事故を起こして、お兄さんたちが巻き込まれて全員即死しちゃったニャ……」

 

「……ッ!!」

 

それは……!どおりで地雷になるわけだ……!!

 

「お兄さんが亡くなってから、ご主人は生きる気力を失ってしまったニャ……そんな時に出会ったのが、キャラバン隊の団長だったニャ」

 

……リュウセイくんは敢えて言葉にしなかったが、おそらくシズカさんはもともといた場所から転移したことで出会ったのだろう。良縁に恵まれたんだね……。

 

「ハンターになったことで、ようやくご主人はちょっとだけ元気を取り戻したニャ。出会ってからの七年間で、ご主人はすっかり立派なハンターになってみせたニャ」

 

「……ところで、お兄さんの名前は?」

 

「名前は『リュウセイ・ミズハシ』って言うニャ」

 

「リュウセイ・ミズハシ……って、あれ?君の名前って……」

 

「ボクの名前もリュウセイニャ。……そう、ご主人は亡くなったお兄さんの名前を、ボクに付けているんだニャ。

きっと今も未練はたらたらで、おそらく依存も入ってたニャ。そうでなきゃボクに実兄の名前を付けるばかりか、二人きりの時だけ『ニーサン』なんて呼んで甘えてこないニャ」

 

「…………」

 

そ、想像以上にメチャクチャ拗らせてる……こっちからこの話を掘り下げなくて本当に良かった……。

 

「リュウセイ、くんは……その、困ったりしてないの?」

 

「……ご主人の本当の事情は、今のところボクしか知らないニャ。ご主人が異世界からやってきたことも含めて……。だから、ご主人の立場に立って考えた時、自分勝手に『迷惑だ』なんて言えないニャ。

所詮はアイルーに過ぎないボクだけど……こんなボクでも、ご主人の心の傷を少しでも癒すことができるなら、喜んで力になるニャ。ご主人はボクを『怒り喰らうイビルジョー』から命懸けで助けてくれた恩人……だから、ボクだけは絶対にご主人の味方を張り続けるニャ」

 

な、なんという孝行ネコ……!これが本当の"猫の恩返し"……!!

『怒り喰らうイビルジョー』は、ハンターズギルドから「遭遇したら即撤退」が徹底されている……にも関わらず、シズカさんはリュウセイくんを守るために半日も戦い続け、精根尽き果て刀折れ矢尽きるとも怒り喰らうイビルジョーからリュウセイくんを逃がし、さらに自身も逃げ切るということを成し遂げたんだとか。

 

「すごいんだね、シズカさん」

 

「ギルドにはすっごく怒られたけど。でもご主人は日頃から働きすぎだから、ギルド側もご主人を合法的に休ませるいい機会ができたと安堵していたニャ」

 

「そんなに働いていたの?」

 

一週間にクエストを十個こなすくらいは普通だったニャ

 

「えっ」

 

どうやら当時シズカさんは"一週間十クエスト"がモットーだったらしく……普通に働き過ぎである。クエストを取っ替え引っ替えに受注しては達成する様は、まるでワーカーホリック状態だったそうな。そこでシズカさんが所属するキャラバン隊の団長さんがギルドに相談していたところ、シズカさんが怒り喰らうイビルジョーと一悶着やらかしたことで謹慎処分……つまり、合法的に休ませることができたとか。

 

「今ではだいぶ落ち着いたけど、それこそハンターになって二、三年ほどは弱っていたり傷ついた小型モンスターを見捨てられず助けてしまうことが多かったニャ。でも、ご主人はそれくらいにはとても優しい心をもっているんだニャ。……口数が少ないし感情の変化も乏しいから、冷たい人ってよく言われるけど」

 

たしかに……私と話をしている時も、あまり表情に変化が見られなかった。……これ、大好きなお兄さんの前だとコロコロ変わるやつだったりしたのかな?

 

「……ん、着いたニャ。ショウさん、この話は……」

 

「大丈夫。内緒、だよね?」

 

「ありがとうございますニャ」

 

ぺこり、と頭を下げてから、リュウセイくんはキャンプ地に戻っていった。私も後から続き、ちょうど夕食時だったようなのでたくさんのお肉に舌鼓を打った。後から戻ってきたシズカさんも一緒になって夕食を食べたのだが……シズカさん、ずっと騎士の二人から質問攻めにされていたな……有名人なのかな?

……ところで、このお肉……リオレウスのお肉、混ざってないよね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝を迎え、罠をすべて処理したシズカさんが合流してから、私たちは再び出発した。道中、小型の肉食モンスターが度々姿を現したが、シズカさんとリュウセイくんの一人と一匹がすべて撃退した。

……いや、シズカさんが強いのはなんとなくわかっていたけど、リュウセイくんも強すぎ!シズカさんの砲撃で吹っ飛んだモンスターを利用して三角飛びをして別のモンスターを頭上から強襲とか、曲芸の域を超えてるから!

そうして、森丘のベースキャンプから出発して三日でメタペタットへと到着した。ここから更にドンドルマへ向かう事になるのだが……徒歩くらいの速さで移動すると数ヶ月は掛かってしまうそうだ。ポポは特別足が速いわけではないので、頑張ってもひと月以上はかかってしまうのだとか。

それはマズイ、ドンドルマに着く前に私が死ぬ。とりあえず、どうやってシズカさんにこの事を話すかだが……。

 

「さて、ここからさらに移動になりますよ。なるべく早くドンドルマに戻りたいので、予定としては一、二ヶ月を想定しています」

 

「えっ!?も、もっと速くならないのか!?」

 

「……?なにか事情がおありで?」

 

「えっと、ショウが呪われてて……」

 

「はい?」

 

テル先輩がしどろもどろになりつつも、私の事情を話してくれた。……すると、シズカさんが鬼のような形相で私の両頬を掴むと、ハイライトの消えた瞳で私の顔を覗き込んできた。

 

なぜもっと早く言わない?

 

「す、すいません!機会を逸していただけで、隠すつもりはありませんでした!!」

 

「……はぁ。仕方がない、ここで議論しても無駄ですし。それでは、どうやって速く移動するかを考えなければ……」

 

「ハンター殿、飛行船は使えないのでしょうか?」

 

「……遺跡平原周辺の空は、巨大ティガレックスの遠距離攻撃の射程範囲内だよ。飛行船を使うなら超低空飛行を強制されることになる。地形しだいでは上昇せず飛ぶことはできないし、そもそも低空飛行自体が危ない。なので却下です」

 

騎士の一人がシズカさんに質問するが、どうやら事情が有って使うことは推奨されないようだ。……でも、それなら問題はないはず!

 

「……シロちゃん、ダイアーさん」

 

「ショウ?……まさか?」

 

「多分、これが一番だと思います。これなら、飛行船で飛んでも問題はないかと」

 

「……わかってる?自分が言っていることが、この大陸にとってどれだけ異常なことか……」

 

シロちゃんが、険しい顔で私を見てくる。……わかっている。下手をすると、私は大陸中の人たちから迫害される可能性があることも。それでも、私は生き残る可能性がわずかでもあるのなら、そちらに賭けたい!

 

「もちろんだよ」

 

「……はぁ、もぅ。しょうがないなぁ……」

 

「ありがとう、シロちゃん!」

 

「……アカイがあなたを気に入る理由、分かる気がするな……」

 

「あはは、ウチのシロにここまで言わせるとは。大した人だね、ショウさん」

 

シロちゃんからお許しを頂き、ダイアーさんも笑って受け入れてくれた。私はシズカさんを呼び出すと、メタペタットから離れて人目のつかない場所まで移動した。そして……。

 

「出てきて!」

 

「グオオオオンッ!!」

 

「……!!リオレウス……!?」

 

私はボールの中にいるリオレウスを繰り出した。勢いよく飛び出したリオレウスは私を見て……それから隣にいるシズカさんを見るやいなや、ポカンと大口を開けて呆然となった。……どうしたんだろう?

 

「……この個体、まさか」

 

「……えっと、これで空を飛んでいこうかな、と。リオレウスの機動力なら、遠距離攻撃にも対応できますし……それに、飛行船への攻撃だって守ることが出来ると思います!!」

 

「あ、いや……その、ダメとは言ってない、けど……。ちょ、ちょっと待って整理させて」

 

スゥーハァーと深呼吸をしたあと、長考を始めたシズカさん。……マズイ、かな……。

 

「……一つだけ、方法がある。かなり綱渡りだし、なんなら向こうから勝手に勘違いしてもらったら御の字だけど……」

 

「あるならそれに賭けましょう!……こっちは命を懸けているので」

 

「……それ、シャレにならないよ。普通に笑えない」

 

言いながら、シズカさんはみんなの元に戻っていった。私も後から付いていく。

 

「みなさん、お話があります」

 

「なんでしょう」

 

一番にラウラさんが反応した。……相変わらず、リーフィアを抱っこしたままだ。なんでもリーフィアから香る草木の匂いが故郷を思い出させてたいへん落ち着くんだとか。

 

「どうやらショウさんには少々事情がありまして、一月以内にメゼポルタへ向かわなければならないそうです。なので、諸々の事情を考慮して飛行船での移動となりました」

 

「飛行船ですか……それで、事情というのは?」

 

「えぇ、その件ですが……」

 

シズカさんが事情を説明すると、ラウラさんたちは酷く驚いた様子で私を見てきた。私はまだ大丈夫だ、という意思表示のために力強く頷く。そして、場所をメタペタットの外へ移して……。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「まぁ!あのリオレウスがこんなにも大人しく……よしよし」

 

「グオン♪」

 

「うふふっ、こうして見るとなんだかとても可愛らしいですね!」

 

私のボールから飛び出したリオレウスを見て、騎士二人と御付きのアイルーのルルさんは呆然となり、ラウラさんだけが平常運転でリオレウスを撫でていた。

 

「……わっ、なんだ?」

 

「先輩?どうしました?」

 

「いや、その……ライゼクスが入ってるボールが急に激しく動き出して……」

 

「…………」

 

嫉妬って怖いね(小並感)。なんでわかったんだろうか……。

 

「……よし、行けっ!」

 

一方、シズカさんは手紙を書き、それを鳥の足に備われた黒い筒の中に入れると、そのままどこかへ飛ばした。聞く所によると伝書鳥らしい。

 

「ドンドルマには念のため、一報を入れました。……返事までは四日ほど有するけど、待てる?その代わり、飛行船なら全力で飛ばせば片道六日だよ」

 

「待ちます」

 

「……了承」

 

一瞬、シズカさんがなにか言いたげにしていたけど……何も言わずに了解の返事をくれた。……さて、四日か。その間にしっかりと準備をしよう。出来る限りのことを、だけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四日後。ドンドルマから返事か帰ってきた。

 

「ドンドルマからの返答が来ました。内容を掻い摘んで説明しますと……『とりあえず早く来て!』、です。リオレウス使いであるショウさんに関しては、巨大ティガレックス討伐後、対談の場を設けたいとのこと」

 

「やった!」

 

良かった!ひとまずは受け入れてもらえたみたい。

メタペタット全体にもこの返答が広められているらしく……ハンターは一人もいないが、商店などのお店の人たちも「まぁ、歌姫が早く現着するなら」とひとまず受け入れてもらえた。

 

「それと、これは龍歴院……まぁ、言ってしまえばモンスターの研究機関ですが、そこに所属する主席研究員さんから『リオレウスに飛行船を牽引させてはどうか』という提案を頂いています。……あと、その様子を観察させて欲しい、とも。

ともあれ、三日三晩飛び続けられるリオレウスの飛行能力があれば、最速二日でたどり着けそうですが……如何しますか?」

 

「まぁ……!あの"空の王者"に、飛行船を引っ張ってもらえる、ということですよね?」

 

「はい、そんなところです」

 

「なんだか楽しみですね!ねぇ、みなさん?」

 

「……肝が据わりすぎでしょこの歌姫……」

 

ラウラさんは終始ノリノリだったが、騎士の方々もルルさんも引きつった笑みを浮かべていた。シズカさんはどこか疲れたような表情で目をそらしている。

メタペタットの飛行場で、飛行船とリオレウスの体を縄で結びつける。リオレウスがかなり大きなサイズなので必然的に長い縄が必要になったが……どうやら準備してもらえたようだ。

 

「よろしくね、リオレウス」

 

「グオオン!!」

 

リオレウスも絶好調だ!また、リオレウスに飛行船を牽引させるという前代未聞の試みに、多くの人が店舗を放り出して見学に来ていた。

 

「準備できました!出発できます!!」

 

「よし……では、発進!」

 

飛行船がゆっくりと港から離れ、接触の心配がなくなるとリオレウスが力強く羽ばたき前進した。それに合わせて飛行船も前進を開始する。

 

「うわぁ……認めたくないけど、これは確かに速いわ」

 

「普段の飛行船とは、全然違いますか?」

 

「段違いよ。……いや、そもそもリオレウスに引っ張らせるって発想が既にアレだわ……」

 

人に懐いているとはいえなぁ、とぼやくシズカさん。普通、リオレウスをここまで人馴れさせるなら卵から育てるしか方法はなく、そもそもそんな習慣すらこの大陸では馴染み無いものなので、普通ではありえないことなんだとか。

 

「まぁ、今回はリーフィアもグレイシアも飛行船の防衛のために力を発揮しますので。近くを飛んでるトゲキッスとガブリアスも同様です」

 

「それは信じているよ。あなたたちが従えているモンスターだからね」

 

「ありがとうございます」

 

「(ただガブリアスはいつポケモンからバケモンになったんだ。あんな進化、見たことないんだけど)」

 

飛行船のすぐ近くを飛ぶトゲキッスとガブリアスを見ながらそう話せば、シズカさんもしっかりと頷いてくれた。

……ただ、ガブリアスを見た瞬間、かなりドン引きしていたのは気のせいだったのだろうか……。

 

「よしよ~し」

 

「フィーア♪」

 

そして、ラウラさんは相変わらずリーフィアを愛でている。……と、そこへもう一つ別の影が。

 

「レシャ」

 

「フィ?」

 

「レーシャ」グイグイ

 

ラウラさんに撫でられていたリーフィアに、グレイシアが近づいていく。そのままリーフィアの尻尾を引っ張り始めたグレイシアだが、リーフィアは「なに?」と首を傾げるばかりである。

 

「……なんか前も見たな、こんなやりとり」

 

「あぁ……馬車の中での」

 

セキさんが私に近づいてきて、目の前の光景に一言つぶやく。そう、あれは幌馬車での移動時のこと……なにか言いたげな様子でラウラさんがセキさんをチラチラ見ていたので、思わず声をかけたことが始まり……。

 

『どうしました?』

 

『あ、えっと……その、そちらの御人にちょっと……』

 

『セキさん、ラウラさんが用があるみたいですよ?』

 

『オレ?歌姫さん、オレに何か用か?』

 

『あ、あの……先ほどのモンスター……』

 

『あぁ、リーフィアか?』

 

『そう、そのリーフィア……その、抱っこさせていただけませんか!?』

 

『『……え?』』

 

こうしてラウラさんの頼みで、リーフィアを抱っこさせることになったのだ。故郷を思い出してすっかり落ち着いた様子のラウラさんと、そんなラウラさんに愛でられて気持ちよさげなリーフィア……と、そこへ……。

 

『ヴ~……』

 

『どうしたの、グレイシア?』

 

ボールから飛び出したグレイシアが、リーフィアの尻尾を咥えて引っ張り始めたのである。あれはどう見ても嫉妬していて、自分もリーフィアに構ってもらおうとしているのだが……。

 

『……あ!もしかしてグレイシア……』

 

『レイシャ!』☆':.*ヾ(^∀^)*.:'☆パアァ

 

『グレイシアもラウラさんに撫でて欲しかったんだね?』

 

『……レ~』(´・ω・`)ショボーン……

 

カイさんの盛大な勘違いで、二体揃ってラウラさんに頭を撫でられることとなった。……撫でられている間のグレイシアの憮然とした表情に気づかないリーフィアェ……。

 

「……ッ!前方、巨大火炎接近!!」

 

出発して数時間が経過した頃、一緒に乗船してくれた船員さんが大声を発した。その声に反応したリーフィアとグレイシアが素早く船首に移動した。……ラウラさんがちょっとだけ寂しそうな表情に……。

私たちも船首に駆け寄ると、確かに遠くに大きめ火炎が見える。遠目でこれだけ大きく見えるのだから、接近すれば相当なサイズだというのはよくわかる。

 

「リオレウス、豪火球!!」

 

「グオオオンッ!!」

 

「よしっ、ガブリアス!」

 

「リーフィア!」

 

「グレイシア!」

 

「トゲキッス!」

 

「「「「はかいこうせん!!」」」」

 

リオレウスの豪火球を、四本のはかいこうせんが押し込む形で巨大火炎とぶつかりあった!大爆発が起こり、その余波で飛行船は大きく揺れる……が、なんとか凌ぎ切った!

しばらく様子を見るが、第二波は来ないようだ。

 

「どうやらこちらを見失ったようだな……。船の高度を下げて!リオレウスには前方で異変があれば伝えるように」

 

「リオレウス、聞こえたね?頼んだよ!」

 

「グオン!」

 

力強く返事をしたリオレウス……その体に、突然影が差した。影……上か!?シズカさんも気づいたようで、上を見上げて望遠鏡を取り出していた。

 

「……ッ!上空より飛翔物接近!!」

 

「ギュアアアアンッ!!」

 

「ガブリアスッ!!」

 

「ガブアッ!!」

 

リオレウスに向かって飛びかかってきたソレは、ガブリアスがげきりんで軌道上に割って入ったことでルートを変えて私たちの前に立ちはだかった。

 

リオレウスに次ぐおよそ19mほどの体長。

刃物のように鋭い金色の鱗。

独特な形状の翼や後脚。

鼻先から後方に向けて伸びる角。

 

金の竜……そう呼ばれても違和感のない竜が現れたのだ。

 

「ちっ……『セルレギオス』か……!」

 

「セルレギオス……?」

 

「"千刃竜"の別名を持つ、厄介な竜よ。奴の鱗は"刃鱗"と呼ばれていて、それを飛ばして攻撃してくるのよ。その攻撃で傷ついたら裂傷状態になるわ」

 

「裂傷……!」

 

「ついでに言うと、空中戦においてはリオレウスとタメを張れるわ……こっちのリオレウスが自由に動けないタイミングでくるなんて……!」

 

裂傷状態……オドガロン亜種と同じ状態異常使いか!!しかも実力のほどはリオレウスと互角……今は分が悪すぎる……!

 

「ガブリアス!ドラゴンクロー!!」

 

「ガブアァッ!!」

 

「援護しなさい、トゲキッス!ムーンフォース!!」

 

「チョギィス!」

 

今はポケモンで対処するしかない!ガブリアスが突貫し、セルレギオスに肉薄する。自身よりも四倍以上の体躯の敵を前にしても一切怯むことなく、ガブリアスは果敢に向かっていった。

対するセルレギオスはサッと身を翻すと素早い動きでガブリアスの攻撃を回避していく。どころか、尻尾や足の爪でガブリアスのドラゴンクローと打ち合いすら演じるほどだ。トゲキッスの遠距離攻撃にも余裕で対応している……なんて機動力だ、これは確かにリオレウスをタメを張れるだろう。

と、ここでセルレギオスが突然方向転換をしてきた。向かった先には……ウォロのトゲキッスがいる!

 

「狙われたか……!トゲキッス!!」

 

「チョゲェ!?」

 

なんの前触れもなくいきなり自分に向かってきたセルレギオスに、トゲキッスは威圧されて動けなくなっていた!そのままセルレギオスの足に捕まったトゲキッスは、勢いよくガブリアスに向かってぶん投げられてしまい、二体はそのまま激突してしまった……!

 

「ガバッ!?」

 

「チョギ!!」

 

「レギオオォンッ!!」

 

さらに高度を上げたセルレギオスが、もみくちゃになって錐揉みする二体にめがけて飛び蹴りを放ってきた!?ガブリアスとトゲキッスは錐揉みから抜け出せないまま、そのままセルレギオスに蹴飛ばされて吹っ飛ばされしまった!

 

「ガブリアス!!」

 

「トゲキッス!!」

 

二体を吹っ飛ばしたセルレギオスは再び方向転換!今度は飛行船に……いや、リオレウスに向かってくる!!

 

「ちっ、こっちに来やがる……カイ!!」

 

「わかった!!」

 

「リーフィア、エナジーボール!!」

 

「グレイシア、れいとうビーム!!」

 

「フィア!」

 

「シャア!」

 

リオレウスの体を伝ってより前に出たリーフィアとグレイシアが、それぞれの攻撃で弾幕を張る……が、セルレギオスはそれすらも次々と回避してこっちに向かってくる……!!

 

「レギオスッ!!」

 

セルレギオスのあの蹴りが、リオレウスに向けられた!マズイ、今のリオレウスは動けない……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グアアアアオンッ!!」

 

「セルッ!?」

 

……が、突然横合いから何かが突っ込んできてセルレギオスに強烈な体当たりを食らわせた!?二体の飛竜はしばらくもつれ合っていたものの、セルレギオスが蹴り飛ばされたことで突っ込んできた何かがリオレウスの前まで飛んできてその全貌を顕にした。

 

リオレウスとほぼ同サイズの約21mの体長。

全身を覆う緑色の甲殻。

翼爪や背中、尻尾など随所に生えた鋭い刺。

何より目を引くのは、やはりリオレウスそっくりの、その姿。

 

「グアアン!」

 

「……グオン……!?」

 

「なっ……『リオレイア』……!!」

 

「……っ!リオ……レイア……!!」

 

シズカさんの呟きが耳に届き、思わずその名を復唱する。

リオレイア……以前、アカイさんからその存在を聞かされてから、私が一番会いたいと思っていたポケモン……!まさか、こうして本物に出会えるなんて!!

 

「クォン……」

 

「グルル……」

 

リオレイアとリオレウスは、お互いに頬をすり合わせるように顔を寄せ合っている……え、あれ?ちょっと待ってもしかして……!

 

「……あの二体、ひょっとして……番……?」

 

「よくわかったね、ショウ。あのリオレイア……このリオレウスの奥さんみたいだね」

 

「よかったね!!リオレウス!!」

 

「……(^_^;)」

 

シロちゃんが後ろから説明してくれたけど、まさか番だったなんて!夫婦がこうして再会できるなんて、奇跡だよ!!

……と、思ったけどリオレウスはどこか気まずそうというか微妙そうな雰囲気……なんというか、困ってる……?一体どうしたんだろう……?

 

「(直近のリオス夫婦の狩猟依頼……まさか、別々に貼られていた、アレか?場所は二頭とも遺跡平原だった……だったら、コイツらは既に……なぜ生きてる?)」

 

「……?シズカさん?」

 

「あっ……いえ、大丈夫。少々予定外のことで、驚いただけだから」

 

隣で呆然としているシズカさんに声をかけると、我に返ったようでちゃんと返事が来た。……歴戦のハンターであるシズカさんでも、驚いて呆けるなんてことがあるんだ……。

 

「ちょ、わわっ!なんだよ急に!?」

 

「せ、先輩……?」

 

「いや、ごめん!なんかライゼクスの入ったボールがさっきよりもずっと激しく……」

 

……こっちもそろそろ爆発するかも。

 

「ギュアアアアアッ!!」

 

さて、ここまで完全に蚊帳の外に追いやられていたセルレギオスが、怒っているのか全身のウロコを逆立てた状態で向かってきていた。その姿を、酷く冷めた目で見下したあとにリオレウスの頬を一舐めしてから、リオレイアはセルレギオスに向かっていった。

 

「リオレイアが……!」

 

「……マズイかも知れない」

 

「え?」

 

「リオレイアは"陸の女王"という異名を持つほど強靭な脚力を持つけど、空戦能力はリオレウスほど強くはないの。リオス科同士が空中戦をしたら、まずリオレウスに軍配が上がる。

リオレイアも並の飛竜種以上の飛行能力は持っているけどね……リオレウスとライバルとよく言われるセルレギオスやライゼクスなんかが相手だと、ほとんど勝ちの目がないのよ」

 

「そんなっ!?」

 

「……けど、あのリオレイアが私の知るリオレイアなら、例外だけど」

 

言いながら、シズカさんは飛行船の手すりに手をかけて戦いを見守っている。私も覗き込むが……そこには、先程までのシズカさんの解説を覆す光景が広がっていた。

セルレギオスは刃鱗飛ばしで攻撃しているが、尽く躱されている。蹴りを繰り出せば、サマーソルトによる尻尾攻撃でカウンターを喰らわされている。

リオレイアがセルレギオスに突撃していく。セルレギオスは刃鱗を飛ばすがやはり躱され、それどころか翼の付け根を掴まられてしばらく引っ張りまわされた挙句、大きく前回転した勢いで投げ飛ばされた!さらにリオレイアは追撃にきあいだまの技を何発も打ち込み、終始セルレギオスを圧倒している!

 

「……やはりそうか」

 

「やはり……って?」

 

「……以前、遺跡平原に強すぎるリオス夫婦が出現したことで話題になったの。よく縄張り争いをするライゼクスやセルレギオスなんかを、単体で一方的に圧倒できるほどの個体がね。さらに夫婦共同とは言え、あの"怒り喰らうイビルジョー"をほぼ完封して追い返したほどだからね……」

 

「い、イビルジョーを……!というか、リオレウスたちのこと、知ってたんですか……?」

 

「当然。……そのリオス夫婦に追いやられた結果、オトモになる前のリュウセイを襲ってたのが、そのイビルジョーだから。因果関係はきちんと調べあげるのよ、私」

 

「えっ」

 

「そのイビルジョーとは天空山でケリをつけたんだけど……まぁ、今はいいか。

当然、そんなに強力な個体が現れたらいつ人的被害が出てもおかしくはない……ということで、クエストが貼られたのよ」

 

クエスト……たしか、依頼だっけ?

 

「依頼……」

 

「ここまで言えばわかるんじゃない?……そう、あのリオス夫婦の狩猟依頼」

 

そう言ってシズカさんが指で示したのは……私のリオレウスと、セルレギオスと戦うリオレイア……。

 

「しゅ……っ!?」

 

「最初は二頭同時狩猟だったんだけど……二頭同時だとあまりに強すぎて、四人構成でも勝てなかったわ。余りにも異例の事態よ……夫婦の片割れに四人ずつ、つまり総勢八人掛りによるリオス夫婦の特別狩猟作戦ね。

作戦は無事に成功、二頭は狩猟できたわ。ただ、リオレウスの遺体だけはなぜか狩猟後に現れたライゼクスに奪われたそうだけど」

 

「…………」

 

待って、ちょっと待って。一体どういうこと……?

 

「シズカさん……何て?意味がわからない……。狩猟成功?あなたは何を……」

 

「あえて身も蓋もな言い方をすると……私が知る限り、あの二頭は一度死んでいるのよ」

 

「…………」

 

「けど、なぜか生きてる。

……ポケモンの技も含めて、死体が時空の裂け目に飲み込まれたことと何か関係がある……?死者に命を吹き込むなど、それこそ神の所業……人知の及ばぬ者の仕業。まさか、ミラルーツ……?

 

シズカさんが何を言っているのか、途中から理解を拒んでいた。……二体は一度、殺された?誰に?ハンターに?ハンターは、人間……つまり、彼らは……。

 

「(私たち人間に恨みがあったのでは?)」

 

もしもそうなら……リオレウスが最初に襲ってきた理由も、納得がいく。リオレウス自身は「勇気を示せ」とこちらを試すような気概だったけど……もしもその裏で、私たち人間への憎しみがあったとしたら?夫婦仲を裂かれるばかりか命すら奪われて、一切の憎悪の欠片もなく私たちに接することができるだろうか。

私でさえ、一度は私を追放したコトブキムラのみんなを強く憎んだことさえあった……それなのに、野生の生物である彼らが一度覚えた怒りや憎しみを忘れる、なんてことがあるのか?もしかしたら……リオレウスは人間への怒りや憎しみを押さえつけているのかもしれない。

「自分は一度死に、そして生き返った。ならば、妻もきっと……」

そんな思いで、再び夫婦再会の時まで、その憎悪を押さえ込もうと……。

 

「(私は、リオレウスに謝らなければならない、かもしれない……)」

 

私の都合で彼の力を借りて、結果的に奥さんと再会するまで振り回してしまった。だったら私は、リオレウスに謝らなければならないだろう。そのためにも、まずは……。

 

「ガブリアス、リオレウスの縄を切ってあげて」

 

「ガブ?」

 

「お願い……」

 

「……ガバ」

 

私の雰囲気で察してくれたのか、ガブリアスはそれ以上何も言わずに従ってくれた。飛行船と自身を結ぶ縄が切られたことで、リオレウスが動揺している。

 

「グオ……?」

 

「リオレウス……行って。行って、リオレイアを助けてあげて」

 

「……グオオオオン!!」

 

力強く頷いたリオレウス……そのまま雄々しく羽ばたき、一気にリオレイアの下まで飛んでいった。

リオレウスとリオレイア……並んで飛ぶ姿は、ある種の芸術と呼んでも差し支えない。そんな雰囲気が、あの二体から感じられた。

 

「グアン?」

 

「グオオ!グオオア!!」

 

「……!グアアオン!!」

 

お互いに顔を見合い、それから頷き合う。二体が並ぶ姿にセルレギオスが一瞬だけひるんだ……その時だ!

リオスは同時に飛翔する。それと同時にリオレウスがエアカッターで牽制を仕掛けた!見たことのない攻撃に動きが鈍ったセルレギオスは回避も叶わず攻撃を受ける。そこへ上へ回り込んでいたリオレイアがソーラービームを浴びせた!

 

「グアアオ!」

 

「グオア!!」

 

そのままセルレギオスの背後を取ったリオレイア……と、思いきや!正面から迫っていたリオレウスと背後を取ったリオレイアが瞬時に位置を入れ替え、リオレウスが口にエネルギーを含ませながらセルレギオスに噛み付き、そのままはかいこうせんごとセルレギオスを撃ちだした!はかいこうせんに押し込まれるセルレギオスに、並走したリオレイアが横合いからラスターカノンを三連発叩き込み、さらに回り込むとリオレウスと同じようにセルレギオスに噛み付いた!

 

「グアアアアオ!!」

 

「グオオオオア!!」

 

リオレイアはわずかに顔を上げると、やや上空にいるリオレウスに向けてはかいこうせんごとセルレギオスを撃ちだした!!リオレウスはそれを足で受け止めると、強力なキックでセルレギオスを全力で蹴り抜いた!!今の……まさか、メガトンキック!ここで新しい技が使えるようになったのね!

蹴られて吹っ飛ぶセルレギオス……当然その先には、リオレイアがいる!!再びはかいこうせん!再び受け止め、メガトンキック!三往復するとリオレイアはサマーソルトで打ち上げ、そこへリオレウスがエアスラッシュで追撃!!

動きが止まったところへ下へ回り込み、そこから再び噛み付くとリオレイアも一緒になって噛み付いた。そして……!!

 

「グオオオオオオン!!」

 

「グアアアアアアン!!」

 

「ギギャアアアアッ!?」

 

二体同時のはかいこうせんで、セルレギオスを空高く撃ちだした!!強烈な光線によって、どこまでも天へ登っていくセルレギオス……やがて大きな爆発が起こると、力なく墜落していくセルレギオスの姿が……。

私は反射的にポーチの中のモンスターボールに手が伸び……その手をシズカさんに掴まれた。

 

「ここでソレは使わないで……!」

 

「けど……!」

 

「気持ちはわかる……だけど、この世界でモンスターボールの存在を知られるには、まだ早すぎる……!!」

 

「っ……」

 

私はモンスターボールを掴んだ手をそっと離し、ポーチから手を抜いた。その手にボールが握られていないことを確認してから、シズカさんもやっと手を離してくれた。

やがてセルレギオスの姿が見えなくなると、リオレウスとリオレイアが揃って飛行船まで飛んできた。

私は船首に立つと、リオレウスに謝るべく口を開いた。

 

「……リオレウス、私……」

 

「グオン」

 

「あいたっ!?」

 

私が口を開いた直後……リオレウスに鼻先で小突かれた。人が一大決心をして謝罪をしようというのに、一体何を……!

 

「……リオレウス?」

 

「グオグオ」

 

リオレウスは……笑っていた。その笑みはまるで「どうだ?」と言わんばかりの……そう、いわゆるドヤ顔だった。私はそれまで謝ろうと思っていた気持ちがすっかりなくなっていた。……今のリオレウスに謝罪するなんて、失礼極まりないと思ったからだ。

 

「……うん、すごかった。すごかったよ、リオレウス。リオレイアも、ありがとう」

 

「グオオン♪」

 

「…………」ガジガジ

 

「グオアッ!?」

 

リオレウスが嬉し気に鳴いた……直後、リオレイアがリオレウスの首に噛み付いた。甘噛みのようだけど、噛まれたリオレウスはひどく驚いた様子だ。……え、まさか私、ポケモンに嫉妬されてる?

 

「グアグアン」

 

「グ……グオン……」

 

リオレイアが何かを促すように鳴くと、リオレウスも気落ちした様子で従った。……もしかして、尻に敷かれるタイプかな?

二体はすぐに動き出した……リオレウスとリオレイアが、切れて二つになった縄をそれぞれが咥えて、同時に引っ張り始めたのだ。

 

「おぉ……リオス夫婦の共同作業だ」

 

「……もう俺は何を見ても驚かんぞ、絶対に驚かんぞ」

 

「大型モンスターも人馴れすると便利なんだニャ……」

 

あ、いつもの二人と一匹は相変わらず放心状態だ。

 

リオス科二体による牽引は当然、スピードも安定性も抜群で二日どころか一日立たぬ間にドンドルマが見えてきた。

 

「あれがドンドルマだよ」

 

「あれが……」

 

「さぁ、入港準備をしよう。……リオレイアについては、なんて説明したものか……うーん……」

 

シズカさんは頭を抱えているけど……私は、とにかく街のことが気になっていた。そこに住む人たちはどんな人たちなのか、どんな生活を築いているのか……気になることが山積みだ。

私たちは相棒ポケモンをボールに戻すと、徐々に近づいて来る街の姿に胸を高鳴らせた。

 

 

 

 

――ショウ 余命21




セルレギオス「最強夫婦に勝てるわけないだろ!?」

アカイ不在のために説明不足だったセルレギオスのタイプ相性がこちら

セルレギオス
かくとう・ひこう
弱点 火:× 水:△ 雷:◎ 氷:○ 龍:△
四倍:でんき、こおり
二倍:ひこう、エスパー、フェアリー
半減以下:みず、くさ、かくとう、むし、ドラゴン、あく
こうかなし:ほのお、じめん
等倍:上記以外全部

正直、「ひこう」にするか「ドラゴン」にするかめっちゃ迷った。けど、あれだけちょこまかと動かれまくったら「ドラゴン」より「ひこう」のほうがめっちゃ動く印象が強いなと思いました。
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