セルレギオスの襲撃を受けた私たちは、途中から加勢してくれた"雌火竜"リオレイアとリオレウスのコンビネーションでこれを退けた。そのまま二体が飛行船を引っ張ってくれたおかげで、ほぼ一日でドンドルマに到着することができた。
飛行場で待機していた船員に二体が咥えていた縄を預けると、そのまま二体揃って山の一つの上に止まった。リオレウスは首を伸ばしてドンドルマの街を見渡していて、リオレイアはそんなリオレウスの翼の毛づくろいをしていた。……リオレウス、街を見るのに夢中で気づいてない。
飛行場からシズカさんの案内で広場まで来ると、私たちは一斉に視線を向けられた。……ちょっと気圧されたけど、あくまでも堂々とする。この街に来ることだって、目的の一つだったんだから。
「それでは、私はいちど大老殿まで歌姫様をお送りしなければならないので。みなさんはこちらでお待ちください」
「わかりました」
「では歌姫様、お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
ラウラさんの手を引いて、長い階段を上がっていくシズカさん……スゴい手馴れているなぁ。
さて、残された私たちはというと……完全にお上りさん気分だ。周りにあるものすべてが気になって仕方がない。先輩やカイさん、ウォロはしきり周囲を見回していて、セキさんは一番落ち着き払っている……ようで、チラチラと周りに視線が向いている。ただ、見られているのは私たちも同じなので、私はリオレウスの方を見ておくことにした。
……リオレイアに迫られて困った様子で対応している。うーん、完全に尻に敷かれているなぁ、あれは。あと何か、リオレウスがリオレイアに対して申し訳なさそうにしているのも気になる。やはり妻子を残して死んでしまったことが尾を引いているのだろうか……せっかく生き返って再会できたんだし、夫婦円満でいられるといいな。
そんなことをぼんやりと考えていると……なにやら強烈な視線を感じとった。私がその気配の元を探すと、すぐに見つかった。
リオレウスを彷彿とさせる色合い……いや、あの色は間違いなくリオレウスの色だ。リオレウスの素材で作られた防具を身に纏った女性がこちらに向かって歩いてきていた。眉間には皺が寄っており、険しい表情であることに間違いはない。黒い羽のような装飾のついた銃を背負っている。黒く長い筒がついているのを見るに、あれはシズカさんから教えてもらった武器の一つ『ボウガン』なのだろう。
他の皆も彼女の存在気づいたのか、それぞれが気取られないように警戒心を強める。やがて彼女は私たちの前に立つと、一度全員をそれぞれ一瞥してから、やがて口を開いた。
「ねえ、あなたたちって火竜船に乗ってきた人たちよね?」
「火竜船……?」
「『"火竜"が牽引する飛行船』ってことよ。アレに乗ってきたんでしょ」
「……まぁ、そうですけど」
「だったら話は早い。……シズカ・ミズハシを出しなさい、今すぐに」
……!!この人、どうして私たちと一緒にシズカさんが乗っていたことを……!?
「いるんでしょう、彼女が。だったら黙って繋ぎなさいな」
「……失礼ですが、あなたは?」
「要らぬ時間を取らせないで」
取り付く島もないとはこのことか……こちらが名前を尋ねたにも関わらず、彼女は無視して「シズカ・ミズハシを出せ」を繰り返すばかりだ。これにはさすがに、大人組も黙ってはいられないようだ。
「おいおい、いきなり現れるやいなや『シズカ・ミズハシを出せ』だと?あんた、シズカと何の関係があるんだ?」
「部外者に話す義理はないわね。……というか、ハンターでもない男が彼女を呼び捨てとか……!!」
い、いきなり雰囲気が変わった……!?目の前の女性から強い圧が放たれている……!
「オレらは一週間ほど一緒に行動したんだぞ、多少は打ち解けたって文句はねぇだろ」
「……と、というか!あなたはさっきからなんなんですか!シズカさんになにか、因縁でもあるんですか!」
セキさんが反論し、カイさんも援護射撃の質問攻撃をする。女性は若干だが答えに窮したようで、わずかに口篭った。
「……く、くどいわね。アタシとあなたたちは無関係同士、こっちの事情を話す理由はないと言ったはずよ」
「そうはいかねぇな。オレたちだってシズカには随分と助けられたんだ。アイツには恩がある、不義理を働くわけにはいかない以上、オレらにとって身元がわからねぇアンタとシズカを会わせるわけには行かねぇ」
「……ほんっとうにしつこいわね……!」
「そっちが話してくれたら済む話なのに……!」
うーん……これじゃ押し問答になってしまう、どうすれば……。
「……なにやら雲行きが怪しいですね、シズカさんを呼びに行きますか?」
「……行きたいけど階段途中に騎士の人がいるし、無理じゃないかな」
「困りましたねぇ、シズカさんがいなくなった矢先にこれとは……」
ウォロが耳打ちをしてくるが、実際どうにもならないだろう。し、シズカさーん……速く戻ってきてー……!
果たして私の祈りが通じたのか……階段を下りてくるシズカさんの姿が見えた。シズカさんはすぐに私たちを見つけて……露骨に嫌そうな顔をした。それからため息をつく仕草が見えたかと思うと、ズカズカと音が聞こえそうな勢いで歩いてきた。
そして自身よりも背の高い女性に向かって手を伸ばし――
「なにやってんの、おバカ」
「いたたた!?」
思いっきり耳を引っ張った!女性は痛みに顔をしかめつつ振り返り、シズカさんの姿を見とめた。
「あっ!姉様!!」
「「「「「姉様?」」」」」
「違う」
シズカさんを姉呼び……もしかして、妹……と、思ったらシズカさんから間髪を容れず否定された。
「この子が勝手にそう呼んでるだけ。認めたつもりはないし、今後も認めない」
「でも呼ばせてもらっているということは脈アリ!ネネは諦めませんからね!!」
「ねぇよ」
「……えっと、シズカさんのお知り合いで?」
「あ~……まぁ、"知ってる人"という文字通りの意味での知人かどうかで言うと確かに知人ね。彼女は『ネネ』といって、見ての通りハンターよ。
同い年の私を勝手に"姉様"なんて呼ぶ変態だけど、実力は確かだからそこだけは信用してもらって結構よ」
「あぁ!姉様は今日も辛辣っ!でもそこがいい!!」
「抱きつくな」
自分よりも小さなシズカさんに抱きつくネネさん……シズカさん、表情は完全に嫌そうなのに意外と抵抗しないんですね。
「……ハンターってのは変わり者が多いんだな」
「なまじ命懸かってる仕事だからね、ちょっと頭のネジを緩めないとやってられない人もいるのよ」
シロちゃん……そうは言うけど、ネネさんはだいぶ緩み過ぎじゃないかと。
「それにしてもすごい注目ですねぇ。周りにいる皆さん、シズカさんが姿を現してからずっとあなたを注視していますよ?」
「自覚はある」
ウォロの言うとおり、最初は私たちのことを物珍しげに見ていた周囲の人々は、シズカさんが姿を見せてからはその一挙手一投足を見逃すまいとばかりに注目している。シズカさんも自覚があるようだけど、もしかしてネネさんに抱きつかれても無抵抗なのはそのためかな?
「……それと、ショウさん」
「はい?」
「実は大長老よりあなたにお願いがあるの」
「……聞きましょう」
「頼みというか、依頼に近いのかな?要約すると、"リオレウスを使ってハンターを支援して欲しい"ってこと。なんせ貴重な航空戦力だからね、使えるものは何でも使おうの精神じゃないと、あのティガレックスは倒せないと踏んだみたい」
大長老……移動中に聞いたけど、このドンドルマにいる竜人族で一番偉い人らしい。あと、とんでもなく大きい人らしく、座高だけで6mはあるんだとか……いや、大きすぎない?立ち上がったらゴシャハギと相撲できるんじゃないかな?
……っと、とにかくその大長老から私への依頼という形で、ティガレックス討伐作戦に参加して欲しいそうだ。どのみち私はラウラさんと一緒にメゼポルタまで行かなきゃならない……ならば、ここは遺跡平原を押し通るしかない。
「わかりました、喜んで力になります」
「ありがとう。では、その間はテルくんたちは……」
「おれたちも力になれるぜ!おれにはライゼクスがいるし」
「オレはタマミツネを持ってるぜ」
「わたしにはガムートがいるよ」
「ジブンはディノバルドですね」
「……いや、ちょっと待てだからそういうことは先に言えっつってんでしょうが」
「ごめんなさい!」
うっかりしてた……ほかの巨大ポケモンたちのこと、ちゃんと報告してなかったな。すると、隣にいるネネさんが目を丸くして話を聞いていた。
「なになに?姉様、コイツら何者?」
「モンスターを操る者たちよ。モンスターの頭脳となって知略を練り、彼らに戦う術を与える者。亜大陸にいるライダー達とは違うから……そうね、"トレーナー"なんてどうかしら」
「『モンスタートレーナー』……へぇ、リオレウス使いはさっき聞いたばかりですけど、ほかにもいたんですね」
ネネさんはシズカさん一色だったその興味を、わずかだが私たちにも向けてきた。……まぁ、これは実際に見てもらったほうが早いかもしれないけどね。
「では、それらのモンスター使いの件は、私が追って大老殿に連絡しておきます。……ひとまずは、宿ですかね」
「あ」
……あー、そうだった。リオレウスの牽引に始まりティガレックスの妨害、さらにセルレギオスの襲撃にリオス夫妻による牽引……時間がかかったり時短になったりで、結果的に一日以内でドンドルマに着いたはいいが、実は現在時刻は夜だったりする。
シズカさん曰く、ここに集まっているハンターは明朝とともに出発し、現地である遺跡平原にて現在戦闘中の部隊と合流する予定なんだとか。
「とりあえず、皆の宿の分まで私が事前に予約してるから、付いてきてね」
「はーい!ネネは姉様と同室――」
「あんたの部屋、ねぇから」
「そんなぁっ!?」
いけずー!なんて言い寄ってくるネネさんを適当にあしらいながらシズカさんは歩き始めた。私たちもついて行き、大きな旅館らしき建物に到着した。そこのロビーでシズカさんが話している間、男性のハンターさんが声をかけてきた。
「なぁ、あんたらってシズカ・ミズハシと知り合いか?」
「え?あぁ、はい。成り行きで歌姫様のついでに護衛を……」
「なにっ!?それじゃあ、あんたらはシズカ・ミズハシのことをよく知りもしないで一緒にいるのか!それはよくない!もったいない!」
「も、もったいない……?」
私がオウム返しのように聞き返すと、その男性ハンターはまるで熱が入ったかのように語り始めた。
「あぁ、もったいない!今や世間が注目する期待の超新星、シズカ・ミズハシに対して"ミリしら"でいていいはずがない!ほら、俺の『狩りに生きる』をやるから、よく熟読しな!あ、それは布教用に配布してる奴だから、そのまま持って帰ってもらっていいから!そんじゃ!」
男性は勢いよく語りながら一冊の本を私に押し付けてきた。それから、まるで「いいことをした!」と言わんばかりに爽やかな笑顔で立ち去った……。
「……なんか、シズカってマジに有名人なんだな」
「だね。……これ、雑誌?うわ、すごい、表紙を飾ってる!」
私が渡された本……『月刊 狩りに生きる』とタイトルがつけられた本。その表紙にはガンランスを構えた精悍な顔つきのシズカさんが載っていて、とってもかっこいい。よく見ると、ページが折られた箇所がある……ここを読めということかな?
「お待たせ……って、うげっ。その本、どこで……」
「えっと……通りすがりのハンターさんから……」
「……はぁ。結構恥ずかしいことベラベラ喋っちゃったから、あまり読んで欲しくないんだよねぇ……。あの、声に出して読まないでね?」
「黙読させていただきます」
「…………」
シズカさんは疲れたようにうなだれると、そのままトボトボと歩き出した。あとに続くと、部屋が二つ分用意されていた。
「とりあえず、男と女に別れてね。私は別に部屋を取ってあるから、また明日合流しよう」
「姉様!部屋番!部屋番を教えてください!」
「教えてもいいけど、その前にその両耳引きちぎらせろ」
「教えてくれないんですねわかります!でも知りたい!」
「勘弁してよ……」
シズカさんとは部屋の前で別れた。……終始ネネさんにくっつかれて、それだけですっかり疲れきっていた様子だけど、大丈夫だろうか……。
部屋に入って荷物整理を終えたあと、私たちは一つの部屋に集まった。……まぁ、あのハンターさんに渡された雑誌が気になるので、みんなで読もうということになったのだ。
「へぇ~……」
「おぉ……!」
「こいつぁ……」
「うわぁ……!」
「ナルホド……」
「ふんふむ……」
「なるほどねぇ……」
シズカさんがハンターになったきっかけだとか、シズカさん自身に関する噂だとか、あとはシズカさんのことを知る人へのインタビューだとか、とにかく内容がシズカさん一色だった。
こうして特集を組まれるほど、シズカさんは注目を集めている有名人だったんだ。インタビューにしても、回答者の人たちもシズカさんのことを想っているのがよくわかる。
こうして夜は更けていき、それぞれ男女別に別れたあと、私たちは就寝についた。
朝。目が覚めた私たちがロビーへ降りてくると、昨日とは打って変わって緊張感に包まれていた。ロビーでチェックアウトを済ませるハンター達は皆、その顔に緊張の色を浮かべている。
ロビーの壁にもたれて目を閉じるシズカさんを見つけた。……こうして見ると、シズカさんだけ頭ひとつ抜きん出て小さいだけでなく、他のハンターと比べてもだいぶ冷静でいることがよくわかる。
私たちがまっすぐシズカさんの元へ歩いていくと、察知したのか目を開けた。
「おはよう。昨日は良く眠れた?」
「はい、おかげさまで」
「そう、それはよかった。……知ってのとおり、もうすぐ明朝の時間となる。その時刻を迎えれば、ここにいるハンターは全員が遺跡平原へ向かい、巨大ティガレックス討伐作戦に参加する。さすがにハンターランクが上位に達していない者は連れてはいけないけどね」
「ハンターって格付けみたいなのがあるんだね」
「そうなんだよ、カイさん。それぞれ下位、上位、G級の三段階に分かれててね。けど、これはどのハンターにどれくらいの実力があるのかを明確にするシステムだから、決して欠くことはできないの。分不相応のクエストを受けてお陀仏……なんて、洒落にならないからね」
「たしかにな……」
カイさんの質問に丁寧に答えるシズカさん……本当、いつもどおりだなぁ……。一人、また一人とハンターが減っていく中……。
「姉さまぁ!おっはようございまぁーす!!」
「……………………おはよう」
「あ、ついでにみなさんもおはござー」
「お、おはようございます……」
開口一番、大きな声でシズカさんに挨拶をするネネさん。……ついでとばかりに私たちに挨拶をしてくれたけど、思いっきり棒読みだ。いや、どこか拗ねているような気もするけど……。
「……アタシが一番に姉さまに挨拶をするはずだったのに」
訂正、普通に拗ねてた。
「しょうもないこと言ってないで、チェックアウトは済ませたの?」
「もっちろん!ふふっ、姉様と同じパーティに入れるといいなぁ」
「G級ハンターの一極集中は避けるべし、と明言されたでしょうが。このクエストで何人死ぬかわからない中で、一つのチームに複数のG級ハンターの配属は難しいんだから。
ネネだってG級ハンターだし、上位ハンターのお守りくらいはできなきゃね」
「ちぇー」
「フム……話の流れからして、シズカさんとネネさんはG級ハンターのようですね?」
「えぇ」
「G級ハンターとはいわばプロ中のプロ、エリート・オブ・エリート!そして姉様は歴代でも最年少でG級ハンターへと至った若きホープ!!誰もが認める天才ハンターなのです!」
「持ち上げすぎ」
ウォロの問いにも即答するシズカさん。ネネさんの補足も実にわかりやすい。あと、シズカさんがとんでもなく凄い人というのは、昨夜読んだ"狩りに生きる"で十二分に理解している。これは余談だが、昨今では「G級」ではなく「マスターランク」という名称が使われているそうだが、ここ"現大陸"では未だ馴染みが薄いらしく、個々人によって呼びやすい方が使われているそうな。
「……それじゃあ、シロちゃん、ダイアーさん。行ってきます」
「気をつけてね……」
「命あっての物種、と言うしな。死はもとより、怪我のないよう注意してくれよ」
「わかってます」
シロちゃんとダイアーさんは留守番だ。さすがにポケモンを持っていない二人まで連れて行くことはできない。
私たちが旅館を出て広場まで出てくると、大勢のハンターが所狭しと集まっていた。さらに広場の出口には何台もの幌馬車が集まっていた。
「すごい……」
「圧巻だな、こりゃ……」
「……みんな、身に纏う気迫が違う。死地に赴かんとする戦士みたい……」
「それほどの脅威なのでしょう、件のティガレックスとやらは」
そのすごい光景に、テル先輩たちは各々感想をこぼす。その間、私は別のことを考えていた。
それは、昨夜の旅館でのこと。飛来してきたリオレイアについて、シロちゃんに意見を求めたときのことだ。
『あのリオレイアは、人間の敵でも味方でもないよ』
『え?でも、あの時は……』
『リオレイアのスタンスはあくまで
『…………』
『だから――』
「("味方の味方は味方"……つまりそれは、"リオレウスが敵と認識した存在"は全て敵ということ)」
あのリオレイアが敵なのか味方なのかは、すべて私のリオレウスにかかっているということ。……まぁ、私のリオレウスはとても理性的だし、基本的には人間の味方だから心配はいらないだろうけど……。
「……注意が必要だね」
「ショウ?」
「いえ、なんでもないですよ先輩」
「ショウさん、ハンターが移動を始めましたよ」
ウォロに促されて見てみると、ハンター達が続々と幌馬車に乗り込み、次々と移動を開始した。騎士の人が見送る中、シズカさんと騎士の一人が私たちに近づいてきた。
「こちらの方々は私が同伴します」
「承知しました。……えぇっと、モンスタートレーナーの皆さん。こちらのハンターの指示に従って移動してください」
「わかりました」
「では、参りましょう」
シズカさんの指示に従い、私たちも幌馬車に乗り込んだ。ここで私たちは、アレについて話し合わなければならない。
「……さて、皆さん。ここで一つ重要な話があります」
さっそくシズカさんが切り出した。
「皆さんには、あるモノの扱いについて十分に注意していただかなければなりません。場合によっては、徹底的に秘匿する必要があります」
「そいつはなんのことだ?」
「無論、モンスターボールです」
シズカさんの話は続く。
どうやらシズカさんは大老殿に対してモンスターボールはあくまで「モンスターを格納し運搬する為の道具」としか説明しておらず、「捕獲し、使役することを可能とする」という一部の情報を伏せているらしい。
その理由を話す過程で……ヒスイよりも未来の時代に誕生する組織……いわゆる、「悪の組織」の話題となった。ポケモンの力を悪用し私利私欲を肥やすばかりか、世界征服や世界崩壊、宇宙創造や天変地異など、思想はともかく行動は過激で厄介極まりないものが多い。
かくいう、私が知る歴史においても別の地方でそういった組織は興っていた。……お母さんが壊滅させたという組織、
シズカさんが懸念しているのは、モンスターボールの機能である「捕獲」と「使役」を知られることの危険性についてだった。この世界のモンスターは、身体的ポテンシャルならポケットモンスターを優に上回る生き物が大半だ。それは、体の大きさからして既に明らかだろう。もしもそんな強力無比なモンスターたちを、人間たちが自由に使役することができたなら?
「待っているのは戦争よ……竜大戦なんて目じゃないほどの戦争。世界全土を戦場とした、地獄に行っても見られないような殺戮ショーが始まるわ……」
「……なんてこった……」
「……道具は所詮、道具。要するに使い方次第……わかってたつもりだったけど……」
これまでほとんどモンスターボールに触れることのなかったセキさんとカイさんが、力なく言葉を紡ぐ。
……あの時。私は弱って墜落するセルレギオスを、ほぼ反射的に捕らえようとしていた。けど、もしもあそこでモンスターボールの性能が知られていたら……この世界の技術力なら、モンスターボールの量産も簡単に出来てしまうかもしれない。
「だから、人前でモンスターボールを使った捕獲は控えてほしいの。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、備えなんていくらしたって足りないくらいだからね。問題は確実に潰しておきたいの」
「わかりました」
私が代表して、シズカさんの言葉に同意する。ギンガ団ですら、長い年月の果てに悪の組織へと堕ちてしまったんだ……この世界でも、モンスターボールとモンスターを悪用する組織が誕生しないとも限らない。
シズカさんの言うとおり、用心に用心を重ねておくことに越したことはないのだ。
遺跡平原に到着する頃には、空は一面がマゼンタ色に染まっていた。遠く離れた場所には巨大な飛竜がいる。
黄色の外殻に青い縞模様の体躯。
歩行に適した形状に発達した前脚。
あらゆるものを噛み砕きそうな鋭い歯。
遠目に見てもデカいとわかるポケモン……あれが、ティガレックス……。
「着いた。みんな、降りて」
シズカさんに続いて馬車から降りると、広い平原地帯にこれまたハンターがたくさん集まっていた。その数はドンドルマの広場の比ではなく、あの時に見た人数の実に三倍以上はいる。
シズカさんが私たちの先頭を歩いていく。それに続いて歩いていくと、いかにもお偉いさんとわかる格好の男性が立っていた。
「将軍。シズカ・ミズハシ及びモンスタートレーナー五名、ただいま現着しました」
「おぉ、シズカくん。君も来てくれたか」
「はい、将軍。蛇王龍を超える巨体など、普通のティガレックスには俄かに信じられないことです。これを捨て置くことなどできません。微力ながら、私も討伐に協力します」
「微力だなどと……現大陸で活躍が目覚しい君の助力が得られるなら、これほど心強いことはないだろう」
「……ところで、黒龍討伐作戦に赴いた将軍がここにいるということは……」
「無論、調査団にも引き続き協力をしてもらっている」
「フッ……それは、頼りにさせていただきますね」
とても厳格な雰囲気を纏う将軍、と呼ばれた男性。シズカさんよりも2周り以上は歳を重ねていそうなのに、放たれるオーラはとても若々しい。きっと心の強い人なんだろうな……。
「……して、君の後ろに控えている者たちが?」
「えぇ。専用のボールを用いてモンスターを格納・運搬するすべを持つ者……モンスターの頭脳となり、彼らのポテンシャルを最大限にまで高めその力を引き出す者たち……トレーナーです」
「……子供もいるではないか」
「幼けれど侮るなかれ。人間の頭脳とモンスターの力……ライダーとは異なる人竜一体は、時に思いもよらぬ力を発揮します。このシズカ・ミズハシが保証します」
「ふむ……君がそこまで言うのなら、アテにさせてもらおう」
「お任せ下さい」
……あれ?なんだか知らぬ間にプレッシャー与えられてる?結構責任重大な気がしてきた……!
「もうすぐ最終作戦会議が開かれる。君も参加してくれるな?」
「了承」
「さて……初めましてだな、トレーナー諸君。私が此度の巨大轟竜討伐作戦の作戦指揮を任された将軍である。以後、見知りおきを」
「初めまして、将軍さん」
私たちも一人ひとり自己紹介をしていき、それぞれが操るモンスターの名前を挙げていく。その名を聞いた将軍さんは、驚いたように目を見開いた。
「ジンオウガ、リオレウス、ディノバルド、タマミツネ、ライゼクス、ガムート……錚々たる顔ぶれだな。いずれのモンスターも、あのシュレイドに出現したものと同じ裂け目に吸い込まれたと報告を受けたモンスターであることが気になるが……」
「シュレイドの裂け目もそうですが、今は目の前の目標に集中しましょう。諸々の検討は、後でもできますので」
「そうだな……しかし、ショウくん、かな?見たところ十代半ばに見えるが、モンスターを二頭も操るとは……その若さで大したものだ」
「あ、ありがとうございます」
「君たちの力、存分に頼らせてもらう。よろしく頼むぞ」
「わかりました」
将軍は一度大きく頷くと、即席で作られたであろうお立ち台に上がった。それだけで、各々好きに雑談をしていたハンター達は一斉に黙り込み、将軍の方へと体ごと視線を向けた。
「諸君!此度は巨大轟竜討伐作戦に参加してもらい、まことに感謝する。遺跡平原に突如として出現した巨大なティガレックスは、我々が見たこともないような攻撃を繰り出し、天変地異を引き起こしている!
このティガレックスを放置すること、罷り成らぬ!この作戦に集まった総勢500余名のハンター諸君、ティガレックスを見事討伐し、この大陸を守ろうではないか!!」
将軍の演説に熱気が高まったのか、ハンター達が一斉に歓声を上げた。すごい……みんな、やる気まんまんだ!
この場にはパッと見500人はいないが……どうやら『バルバレ』側にもハンターが集まっているらしく、そちらとの合計人数が500名ほどになるらしい。
「今回、轟竜討伐にあたり特殊な協力者を得ることができた。モンスターの頭脳となり、彼らの力を十全に引き出すトレーナーの諸君である」
ここで私たちの紹介である。それぞれの名前と、操るポケモンの名前が列挙されていき、ハンター達の間でどよめきが起こる。
私たちは一度、ポケモンたちをモンスターボールから繰り出し、事実を確かなものとする。特に私がジンオウガとリオレウスを同時に繰り出したときは、驚きの声がたくさん上がっていた。
「彼らの力も借り、必ず!ティガレックスを討伐する!!以上だ!」
モンスターをボールに戻すと同時に、将軍の演説も終わった。それから、シズカさんと同じ最前線に立つために移動を始めた。その間は、さぞ私たちが注目を集めただろう……と、言いたいが。
「おい、あれ……」「シズカ・ミズハシ?本物だ!」「ねぇ、ちょっと話しかけてきなさいよ」「えっ!?無理無理!あなたが行ってきてよ!」「あれが"蒼の銃槍"……シズカ・ミズハシ……」「ちっちゃいなぁ……いや、本当にちっちゃいなぁ……」「シズカさーん!結婚してくださーい!!」「ぐふふ……シズカちゃんとおそろっち……死に物狂いで頑張った甲斐があったぜ……」
こんな感じで、終始シズカさんが注目を集めっぱなしだった。……若干だが、アブナイ視線が混じっているのは気のせいか……?
「シズカ、あんた本当に有名人なんだな。雑誌に載るだけあるぜ」
「やめてよ、セキさん。そんなんじゃないってば」
「ううん、本当にすごいと思うよ。みんながみんな、それだけシズカさんのことを頼りにしてるってことだと思うから」
「カイさんまで……」
セキさんとカイさんからの手放しの評価に、シズカさんはどこか照れくさそうだ。……表情に変化はないけど。
「……おっ、いた!おーい、シズカー!」
と、移動中に声をかけてきたのは二十代後半ほどの男性だった。特徴的な前髪に、雰囲気と表情からして陽気そうな人だな……。
「エイデンさん、ご無沙汰しています」
「あぁ、久しぶりだな!最後に会ったのは……新大陸に渡る前か」
「はい。そちらも壮健そうでなによりです」
「お陰様でな。ほら、お前とも久々の再会だろ?」
「うぐっ……」
『エイデン』と呼ばれた陽気な男性は、もう一人別の人物を引っ張ってきていた。全身のいたるところに黒っぽい刺がついた、これまた黒い防具を身にまとっている。顔も隠れるタイプなようで、表情は窺えない。背中にはとてつもなく大きな剣を背負っている。文字通りの大剣、といったところか。
……と、ここで頭の防具を外した。エイデンさんとそう歳が変わらなさそうな男性だ。
「……えーっと……。ひ、久しぶりだね」
「はい」
「その、G級……マスターランクになったって聞いたよ。すごいな、俺が新大陸に渡ってから、数年のうちに……大したものだよ」
「まぁ、あなたにはたくさん助けられましたから……報告の義理はあるだろうと思っていたので」
「そ、そうか……!」
シズカさんは変わらず淡々とした様子だが、男性はどこか嬉しげな様子でシズカさんと話している。……おっ、これはほの字ですな?察しのいい私はお口チャックします。
「『ニール』さんも最前線ですか」
「まぁな。かくいう君もだろう?俺たちは調査団枠として、遊撃隊として動くことになっているんだ」
「遊撃……ようは自由ですか」
「ははっ、物は言いようだな。といっても、俺もエイデンも後ろに引っ込むタチじゃないんでね、バリバリ前線を張らせてもらうよ」
「ふふっ……頼りにしてますよ、5期団の青い星さん?」
「おっと、こりゃあ期待に応えなくっちゃな、蒼の銃槍さん?」
「うっ……や、やめてくださいよそれ……」
いや、よくよく聞くとシズカさんの声色も明るい。リュウセイくんの言うとおり、シズカさんは表面化しにくいだけで結構感情豊かなんだ。
「はぁ~い、ごめんなさ~い!姉様はぁ、前線で準備があるのでこれにて失礼しまーす!」
「「あ」」
場が和んできたタイミングで、ネネさんがシズカさんを掻っ攫っていった。振り返ったネネさんが小さく舌を出している……どうやら意図的にやったらしい。
いや、初めて会った時からシズカさんのこと大好きなんだなぁとは思っていたけど……まさか他人との会話を遮るほどとは思わなかった。
「(´・ω・`)」
「……ま、まぁまぁ、ドンマイだって。
「うぅ……ま、また言えなかった……」
「……えっと、大丈夫ですか?」
「ん……?あぁ!もしかしてさっき言ってたモンスタートレーナーさん?いや、こいつのことは気にしないでくれッス。フラれた女に再アタックしようとしただけッスから」
「ふ、フラれ……」
陽気な男性……たしか、エイデンさん、だったか。彼が言うには、隣で落ち込んでいるニールさんはシズカさんとちょっとした縁があったらしく、何度か狩りを共にする中で徐々に惹かれていったらしい。
そこで彼なりにアピールしようと、シズカさんの狩りを手伝ったり、不足する素材を分けてあげたりと積極的に行動していたようだが……どうやらシズカさんにはそれらが全て「お節介」に見えたようで、「あまり甘えすぎるのも申し訳ないので」とフラれてしまったらしい。好意に気づかれないばかりか、お節介扱いまでされてしまいショックを受けたニールさんは、失恋を振り切ろうと遠い新大陸へと渡ったそうだが……ご覧の通り未練タラタラであり、今でも文通をしているらしい。
「んじゃ、俺たちも配置につくか……あんたらの力、頼りにしてるッスよ!」
「は、はい!」
「よし……ほら、いつまでも落ち込んでないで行こうぜ!」
「ちょ、また引っ張るのか……!」
エイデンさんはニールさんを引っ張って所定の位置に向かっていった。私たちもシズカさんを見失わないうちに追いつき、配置につく。
ポケモンたちを繰り出すと、空からリオレイアが降りてきた。そのことにハンター達が警戒するが、私のリオレウスと仲睦まじくし始めると途端に警戒が解けた。
……が、ここで問題が起きた。
「ライッ!!」
「グオ!?」
「…………」(#^ω^)ビキビキ
リオレウスとリオレイアの間を割くように、ライゼクスが割って入った。それから「見捨てないで……」とばかりにリオレウスにすがりつくライゼクス……と、その背後で青筋を立てているリオレイア。
リオレウスは赤い甲殻が青く見えるほどに顔面蒼白状態。対してリオレイアは無言でリオレウスをじっと見ている……コワイ。
……と、リオレウスがこっちを見た。その顔には「たすけてー!」という文字がありありと浮かんで見える。
うーん……。
『ねぇ、レウス?これどういうこと?』
『違うんだレイア!これは、あの……』
『レウス……?私じゃダメなの?私、私……』
『まってゼクス、お願い待って』
『レウス……?』
『レウス……!』
『主ー!たすけてー!』
会話にするとこんな感じか。…………。
「( ´∀`)bグッ!」
「グオオオンッ!?」
私は黙って親指を立てることにした。リオレウスが「裏切られた!?」とばかりにショックを受けている。
……ぶっちゃけ飛竜の修羅場に割って入る度胸は私にはありません、あしからず。
「おっ、なんだなんだ?」「修羅場だ!モンスター同士で修羅場ってるwww!」「……え、あのライゼクス雌個体じゃね?珍しっ」「おぉー、正妻戦争ってか?」「やったれリオレイアー!」「負けるなライゼクスー!」「……なぁ、なんかリオレウスが気の毒なくらいに顔色悪いんだが」「気のせいじゃね?」「リア獣死すべしっ!!」「爆ぜろ」
周りのハンターも面白がって囃し立てている。リオレイアとライゼクスが両サイドからリオレウスに詰め寄り、挟まれたリオレウスは今にも死にそうな顔をしている……うん、頑張ってリオレウス。私は応援することしかできない。
……と、前線で話し合いをしていたシズカさんがこっちに来た。
「作戦を通達する。まず、移動式の大砲と組立て式バリスタを可能な限りティガレックスに接近した上で設置し、これらを用いてティガレックスの体力を奪う。ただ、兵器に対する防備は必要最低限で構わない。
ハンターが安全且つ確実にティガレックスへ攻撃するために、ショウとテルの両名はリオレウス、ライゼクスによる航空攻撃を仕掛けて欲しい。ティガレックスの注意が上空に向けば必然、足元に居るハンター達への注意が逸れる。……特にショウ」
「はい」
「……あのリオレイアのことは聞いた。リオレウスの判断で敵味方を判別するようなら、リオレウスの手綱を握る貴女にこそ、あのリオレイアに対して十分に注意して欲しい。……まぁ、本音を言うとそのへんは心配してないんだけど、一応ね」
「わかってます」
「今回、ハンターにはギルドより支給品として"応急薬グレート"、"携帯食料"、"秘薬"、"いにしえの秘薬"、"鬼人・硬化各グレート品"が支給されることとなる。ハンター各自、これらの取り忘れのないように」
はいっ!!と、ハンター達から力強い返事が返ってきた。
「さて……そろそろ作戦開始時刻だ。諸君、派手に行こう」
――うおおぉぉぉぉっ!!
ハンター達の気勢は十分。私たちもやる気に満ちている!
ドンッ!と何かが打ち上げられた。信号弾のようだ……あれが作戦開始の合図かな。それなら……!
「先行します!行きましょう、先輩!」
「おうっ!頼むぞ、ライゼクス!!」
「行こう、リオレウス!!」
「ライッ!」
「グオンッ!」
私と先輩はそれぞれリオレウスとライゼクスに乗り込み、一足先に戦場へ飛び出した。リオレイアも、リオレウスの隣を併走している。私たちの役割はハンターへの注意をそらすこと……それなら、なるべく高く飛んだほうがいいだろう。
高度を上げると、さっそくティガレックスが動き出した。私たちを的確に捉えると、その口元に大量の水を集め始めた。
「回避っ!!」
すぐさま回避運動を取る!回避のために動くと同時に、ティガレックスから膨大な水のブレスが発射された!攻撃こそは当たらなかったが、突然天気が変わり雨が降り始めた!
「うわっ、急に雨が!」
「気をつけて先輩!まだまだ来ます……!!」
「わかった!かかってこい……ティガレックス!!」
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!」
空間を激しく揺らすほどの巨大な咆哮を上げるティガレックスへ、私たちは全力で突撃した!!
これだけ書いてて文字数は1万4千ちょいか……少ないな(感覚麻痺)
ティガレックスの弱点と、ダイマックス技対応の技表です。
ティガレックス
ドラゴン/かくとう
弱点 火:× 水:△ 雷:○ 氷:× 龍:△
四倍:フェアリー
二倍:ひこう、エスパー
半減以下:みず、くさ、むし、いわ、あく
こうかなし:ほのお、こおり
等倍:上記以外全部
ダイアタック→ばくおんぱ
ダイバーン→ほのおのキバ
ダイストリーム→アクアブレイク
ダイサンダー→かみなりのキバ
ダイソウゲン→ソーラービーム
ダイアイス→こおりのキバ
ダイナックル→インファイト
ダイアシッド→どくどくのキバ
ダイアース→10まんばりき
ダイジェット→ダブルウイング
ダイサイコ→サイコファング
ダイワーム→であいがしら
ダイロック→ストーンエッジ
ダイホロウ→シャドークロー
ダイドラグーン→げきりん
ダイアーク→かみくだく
ダイスチル→アイアンテール
ダイフェアリー→チャームボイス
ダイウォール→ほえる
ちゃんと18タイプ、使える技があるんですよね。ティガレックスのチャームボイスとはww