まさか投稿ペースの都合上、新年早々に投稿することになるとは……!
今回は本編とはあまり関わらない話を特別編ということで、どうぞ!
某高校の学生寮。一般人の受け入れも認められている特殊な寮の一室に、二人の男子高校生がいた。大きなコタツに入ったまま寝転がり、なにをするでもなく天井を見上げている。
「……のぉ、流静さんや」
「……なんだい、剣介さんや」
「彼女が欲しいです……」
「生まれ変わって出直せ」
「辛辣ぅ!」
ガバッ!と体を起こしたのは氷室剣介。高校では「顔は100点、その他0点」で知られる残念系イケメンである。顔の良さを活かして配信者活動をしており、これがなかなかウケがいい。
そして、剣介に辛辣な言葉を浴びせたのは水橋流静。メガネをかけた「ザ・インテリ」な少年であり、剣介とは真逆で頭脳明晰。現在通っている高校においても、成績トップの実力を叩きだしているほどだ。
「もうちょっと言葉を選んでくれよ!俺、傷ついたぞ!」
「フォローされて惨めな思いをするのと、直球で傷つけられるの、どっちが良かったんだ?」
「……いやぁ、流静は友達思いのいいやつだ!」
「気遣った覚えはないが」
「お前には人の心がねぇのか!?」
「"馬鹿に付ける薬はない"ってのと同じくらいには」
「ふえぇ……流静がいぢめてくる……」
「光輝たち、遅いな……」
「無視しないで!」
剣介を散々に弄って満足したのか、流静は寝返りを打った。無視された剣介は「よよよ……」と泣き真似をするが、これも無視されたので素に戻った。
キンコーン
「おっ、来た」
「出るか」
チャイムの音が聞こえたので、二人揃って起き上がる。そのまま玄関に向かうと、ドアを開けて客人を迎え入れた。
「よっすー、遅かったな」
「おっせーよ!俺、腹減ったんだけど!?」
「わりぃわりぃ!限定のおせちセット、なんとか買い付けたぜ」
流静の部屋を訪ねてきたのは三人の少年。
おせちの入った箱を掲げて得意げに笑うのは赤羽焔。赤色をこよなく愛するヒーロー気質な少年だ。ただしオツムは少し残念なのでリーダーには向いていない。
ただし行動力は一番あるので、焔が一番に動き出すことで結果的にほかのメンバーを引っ張る形となっている。振り回している、とも言う。
「光輝もすまんな、無理を言ったみたいで」
「気にすんな。ミツ姉も『コウちゃんのためなら』って、喜んでおせちをキープしてくれたからな」
「後で光梨さんに礼を言っといてくれ」
「りょーかい」
流静が謝罪の言葉を投げかけた相手は稲妻光輝。焔が買い付けたおせちセットは、光輝の従姉である「
メンバーの中でも流静に次ぐ常識人で、芸人風に言うならボケ兼ツッコミ。両方満遍なくマルチにこなすので、自然と常識人枠に収まった。
「腹減ったぁ……。あ、剣介~、鬼滅全部読んだぞー。そんで返しに来た」
「おーう、ありがとなー」
剣介に漫画が入った袋を渡したのは岩木剛太。五人の中で最も筋肉質な体型をしているが、運動部どころかスポーツマンですらないインドア派である。筋肉はただの飾りだ。
インドア派は伊達ではなく見た目に反して手先が器用で、その器用さはメンバーの中で家庭科関係の成績が一番高い評価4を貰っているほど。
五人は一つの部屋に集まると、各々おせち料理に舌鼓を打つ。和気藹々と食卓を囲むさまは、まるで兄弟のようである。
「焔ぁ!テメェ、俺のこぶを!!」
「早い者勝ちだよ光輝のば~か!」
「ちょ、流静ー!エビ!エビの頭、外してくれ~!」
「剣介お前、下手の極みか!どうやったらエビが縦に真っ二つになるんだよ!?」
「田作りがうめぇ……」
「剛太……いつまでイワシ咥えてんだ……?」
……和気藹々、のはずである。
食事を終えれば、次はゲームの時間である。剣介の部屋はいつもメンバーが集まるので、五人以上で遊べるゲームが当たり前のように常備されている。
「さぁ、ついにこの年がやってきた」
「いや、マジでやるのか……あれを……」
「俺はいつでも準備オーケーだぜ!」
「一応、準備してきたぞ」
「よし、企画開始の宣言をしろ!剣介!」
「了解ィ!!」
焔に促された剣介は勢いよく立ち上がると、右手を挙げながら声を上げた。
「故きを温ねて新しきを知る!ポケモンバトル大会ソード&シールドfeat.ポケモンスタジアム~!!」
「「「「イエーイっ!!」」」」
パチパチワーワー、と拍手喝采。宣言を終えると、剣介はその場に腰を下ろした。
これから行われるのはただのゲームではない。剣介の配信に協力するための、いわばリハーサルのようなものである。
内容はいたってシンプル。Nintendo64のソフト『ポケモンスタジアム2』及び『ポケモンスタジアム金銀』にて採用された特殊ルールを使って行われるバトル大会である。
「採用ルールはくじ引きで決めるぜ~」
「何が出るかな?何が出るかな?」
「ポポポポンポン、ポポポポン♪」
「……出たー!ルールはポケモンスタジアム2のイエローカップだー!」
「……流静、イエローカップってなんだっけ?」
「参加可能ポケモンはレベル15以上20以下で、尚且つ選出時のレベル合計が50以下になるようにしなければならないシングル63ルールだ」
「えぇ……進化ポケモンもレベル20以下で進化する奴しか使えないってわけかぁ。それならギャラドスが最強か?」
ルールをド忘れしていた剛太はうんうんと唸りながらNintendo switchの電源を入れる。使用ポケモンを決めるためである。
「ギャラドスより速い電気なんていくらでもいるぞ?逆に4倍弱点は避けたほうがいいかもな」
「昔はともかく、今なら石進化組や懐き進化組が充実しているし、低レベルでもバトルの幅は広がりそうだな」
「固定ダメージ技が当時、覇権だと聞いたことがある。あとバーチャルコンソールを使えば過去作から低レベルポケモンとか連れてこれるし」
「あぁー……そういえば赤緑だとレベル15のハクリューとか釣れたよな。その場合は使ってもいいのか?」
「バグじゃないならよし」
「念の為に3DSを持って来といて良かったわぁ」
「うわぁ……ぐぬぬ、ちょっと待て!」
光輝や剛太たちが3DSを取り出す中、焔は突然立ち上がると席を外した。剣介と光輝が廊下に出た焔の様子を窺った。
「……あ、葵?いやぁ、ちょっと忘れ物をしちまって……そうそう!俺の部屋にある3DS、ちょっと剣介ん家まで持ってきてくんね?
……いや、本当にごめんて!でも葵しか頼れなくて、頼むよ~!……え、マジで!?やっほう、さすがは葵!持つべきは幼馴染!愛してるぜ!……え、あっ!?……なんだよ、急に電話切りやがって……」
電話を終えた焔が部屋に戻ってくると、意気揚々とswitchの電源を入れた。
「ふっ、葵に俺の3DSを持ってきてもらうように頼んだ。これで俺も対等だぜ」
「「リア充死すべし」」
「なぜぇっ!?」
「光輝、剣介。今は手持ち選出の時間だぞ。私語は慎め」
「「うーす」」
メンバーが手持ちポケモンの選出を初めてしばらく。部屋のインターホンが鳴らされた。焔が直ぐに立ち上がって玄関まで駆けていき、来客の対応に当たった。
「待ってたぜー、葵!」
「はい、3DS。まったく、急に電話してくるから何かと思えば……ゲーム持って来いなんて、よくもまぁ幼馴染に言えたわね」
「いやぁ、葵ならこの時間はフリーだって知ってたからな。なんてったって幼馴染のことだ、お前のことならなんでもわかるぜ」
「~~っ!!」
焔の言葉に赤面した来客の名は陸上葵。焔の幼馴染の少女で、この鈍感野郎に振り回されているツンデレ少女である。それでもなんだかんだで世話を焼いているあたり、かなりゾッコンなのだろう。
「羨ましいです、葵さん……」
「……って、あれ?静香ちゃん?」
「こんばんは、赤羽さん」
葵の背後からヒョコッ、と顔を覗かせたのは水橋静香。流静の妹なのだが、一夜の過ちで流静にトラウマを植え付けてからというものの、流静から距離を置かれているブラコン娘である。
「こっちに来る途中でね、合流したのよ」
「静香ちゃんも来たかぁ。……流静、大丈夫かね……?」
「よろしければ、お邪魔しても?まさか、こんな寒空の下に美少女二人を放置するなんて言いませんよね?」
「いや、自分で言うんかい。……そうだな、美少女を夜の寒空に放置はよくない。とりあえず上がりなよ。家主じゃない俺が言うのもアレだけど」
「お邪魔します」
焔が言うやいなや、静香は勝手知ったるとばかりにササッと中へ入っていった。
「ほら、せっかくだから葵も……」
「……ふーん、静香ちゃんはあんたから見ても美少女なのね」
「え?いや、兄妹揃って美男美女ってのは羨ましいもんだが……」
「ふんっ、どうせ私なんてそこらの端女とそう変わらないって言いたいんでしょ?美少女なんて言わなかったわけだし」
「はぁ?」
どうやら葵は、先ほど焔が「美少女」と称した中に自分が含まれなかったことに不貞腐れているらしい。だが、鈍感クソ野郎の焔がそんなことを察する訳もなく、怪訝な表情を浮かべた。
だが、鈍感とは時にとんでもない凶器と化すのだ。
「葵は言うまでもなく美少女だろ。他の連中は知らんが俺はちゃんとわかってるし、わざわざ言うことか?」
「……っ!……っ!!」
「ちょ、いてぇ!?なんで叩く……って、あ、こら!俺を置いていくな!!」
「(バカバカバカバカ!焔のバカー!!)」
言外に「お前が可愛い?知ってる」と言われ、またまた赤面した葵。照れ隠しに焔に一発パンチをお見舞いしたあと、早足に部屋の奥へと消えていった。
「……なんだよ、あいつ」
コイツ本気で背中刺されろ。
「よぉーす、葵来たけど……って、流静ェ……」
「( Д )」
「兄さん兄さん兄さん兄さん……」スリスリ
「静香ちゃんが来た瞬間からこれよ」
「もう重症だな……」
焔が部屋に戻ると、静香が流静に頬ずりをしていた。流静はトラウマが蘇ったのか、意識を彼方へ飛ばしているようだった。
そんな水橋兄妹を放置してポケモンの準備を終えた一同は、早速バトル大会を開催した。
「まずは光輝VS焔!」
「よっしゃー!焔、対よろ!」
「うい、対よろ!んじゃあ、行くぜー」
「えーっと……はぁ!?ネギガナイトォ!?やったなぁ、お前ぇ!」
「お前もふざけんなよ光輝お前ぇ!レベル15のエレキブルとブーバーンが並ぶ絵面のエグさよ!」
「金銀だとエレブーとブーバーがレベル20以下でゲットできるからな!」
どうやら各々、手持ちに想定外のメンバーが居ることに驚いたようだ。
光輝の手持ちにはバーチャルコンソールから連れてきた低レベル進化ポケモンが複数おり、焔も条件さえ満たせば低レベルで進化できるポケモンを用意していたようだ。
「やっべ、忘れとった。安直に懐き進化で固めちまったぜ……」
「俺は更に石進化縛りだぜ?」
剛太も同様に低レベルで進化できる懐き進化ポケモンを用意しており、剣介はどうやら進化の石で進化するポケモンを用意したようだ。
「流静はー?」
「……あ、俺?あー……ネタバレは避けたいが、あえてヒントを言うなら道具進化、だな」
「「(絶対に輝石ポリ2だ)」」
流静も思わぬガチポケを用意しているだろうことを察し、剣介と剛太はヒヤリと冷や汗を流した。
ポケモンバトル大会も大いに盛り上がり、配信も大成功を収めた。配信を終えた現在時刻は0時30分。部屋に集まったメンバーは今は年越し蕎麦を食べているところだ。
「いやぁ、みんな協力ありがとうな!次回のルールも決まったし、こいつは楽しみだ!」
「次はどんなルールだっけ?」
「金銀のチャレンジカップルールだ。ゲーム内ではランダムに選ばれた6体のポケモンを使うシングル63」
「ただ、ゲームみたいにランダムでポケモンを選べないからな、少々ルールを変えることにしたんだったな」
「そう、参加メンバーの手持ちをくじ引きを引いて使うっていうルールだ。クジの内容からは自分自身と前回選んだ人の手持ちは抜きにするっていうルールでな」
「ガチパで組むか、ネタパで組むか……」
「そこはその人の人間性次第だなww」
年越し蕎麦を堪能しながら、彼らは次の配信について話し合っていた。
「いやぁ、悪いな葵!年越し蕎麦、作ってくれてよ!」
「べ、別に。どいつもこいつもインスタントのカップそばで済ませようとしていたのが、見ていられなかっただけよ」
「静香も悪かったな。押し付けたみたいで」
「ううん、平気。兄さんの胃袋を掴んでいいのは私だけ」
「アッハイ」
部屋のキッチンでは葵と静香が料理の腕を振るっている。というのも男五人組、年越しをインスタント麺で済ませようとしていたのだ。具体的には
光輝→マルちゃん緑のたぬき(大盛り)
剛太→日清U.F.O.(大盛り)
流静→ごつ盛り天ぷらそば
焔→どん兵衛天ぷらそば(でか盛り)
剣介→ペヤングやきそば超超超大盛GIGAMAX
と、「"そば"って名前が付いてりゃなんでもOK」な精神で適当に選んでいたのだ。しかも五人中二人は焼きそばである。……実はこれでも自重した方で、最初期の案は「ペヤングやきそば超超超超超超大盛ペタマックスを五人でつつき合う」というものだったりする。
とにかく事情を知った葵が呆れ果てて説教をした上、「私が作る!」と一念発起して五人のカップそばを没収し、手料理の蕎麦料理を振舞ったのだ。
ちなみに、流静の分だけは静香が「作る」と言って頑として譲らなかった。
「いやぁ、実家から送られてきた和蕎麦の使い道、困ってたんだよな。ありがとうな、陸上さん」
「ううん、こちらこそ。こんな上質な和蕎麦を送ってくれるなんて、氷室くんのご家族は素敵な方たちね」
「ハッハッハ!まぁ、金だけはあるからなぁ、ウチ」
剣介は苦笑いしつつ、葵お手製の『長ネギと豚ひき肉の焼き和蕎麦』をすする。その隣では、焔が『オム焼き蕎麦』に舌鼓を打っていた。
「かぁー!うめぇー!!」
「お口に合ったようで何よりよ」
「いや、本当に葵の料理はうめーわ」
「だなー。陸上さんの手料理をほぼ毎日、何の見返りもなく食えるとか……焔、殺すぞお前?」
「ちょ、剛太!嫉妬はやめーや!」
「そういうなら俺にもくれー!幼馴染気分を味わわせてくれー!」
「葵は俺の(幼馴染)だ!誰がお前に(幼馴染の手料理を)やるか!!」
「へっ!?はっ、えぇ!?」
オム焼き蕎麦を強請る剛太を一刀両断し、再び食事に戻る焔。……ただし、発言が色々と抜けてしまっているせいで、一人別方向にダメージを負っているが。
「おーい、陸上さーん?」
「わ、私が焔のもの……いや、そういうのってまだ早いっていうか……!あ、でもでも焔が求めるなら私……えへ、えへへへ……♪」
「……だめだこりゃ」
「焔ってさ、いつか絶対に刺されるよな」
「あぁ、間違いなく刺される。10万ドル、ポンと賭けてもいいぜ」
「兄さんは私と相思相愛だから、刺される心配はないよ?」
「家族愛って意味ならな」
「わかった!」
「それはわかってないやつの『わかった』だ!」
葵は焔の言葉にトリップし、静香は静香で己の一途(?)な想いに正直だ。我関せずとばかりに料理を楽しむ光輝と剣介だが、ここで光輝のスマホが震えた。
「……ん、電話」
「誰ぇ?」
「……ミツ姉だ。はい、もしもーし」
《コウちゃん?あけましておめでと~》
「あけおめ」
どうやら光輝の電話相手は従姉の光梨のようだ。光梨もまた、男共にとっては勝手知ったる仲なので、特別席を外すことなく光輝は電話を続けた。
「ことよろ、ミツ姉」
《今年もよろしく~。うーん、コウちゃんは今年はそっちで年を越すのね……》
「なんだよ、寂しいなんて柄でもねぇでしょ?俺だって家族以外と過ごしたい時間があるの」
《うぅ~、でも、私はやっぱり寂しいなぁ……。去年まではコウちゃんとコタツ越しに新年の挨拶をしてたから~》
「いい加減に弟離れをしなさい、ダメ姉貴」
《うえ~ん、コウちゃんの意地悪ー……!》
「意地悪くて結構、ミツ姉のためなら鬼にも悪魔にもなってやろう」
《ちっちゃかった頃は天使だったのに……》
「じゃあ今は堕天使だな」
《なんでそう上手い事を言うの~!》
電話越しとは言え、特に険悪な様子はなくむしろ良好な仲のようだ。光梨はどこかおっとりとしたような話し方が特徴で、そのために怒っても迫力がないことが本人の悩みなんだとか。
「……静香」
「いや」
「まだ何も言ってない……」
弟離れを促す光輝を見て、流静も静香に話を振るが全て話す前に断られてしまった。水橋兄妹の家族離れは永遠に訪れないことだろう。
「あー、わかったわかった。来年はそっちで年越しするから!」
《……ホントに~?》
「ホントホント、コーキ、ウソツカナイ」
《……わかった、信じる》
「んじゃあ、来年までね」
《は~い。バイバイ、コウちゃん》
「ハイ、バイバイ」
通話を終えると、光輝はうんと背伸びをした。ちょうど電話終を待っていた剛太が光輝に話しかけた。
「さっきの電話、光梨さんからか?」
「ん?あぁ、ミツ姉から」
「すげえよなぁ、光梨さん。若くして医師免許持ってんだろ?そういう身内が一人でもいたら、マジ羨ましいわ」
「仕事以外だとふにゃふにゃだけどな、あの人。締めるときは締めるのに、締めなきゃ一生ガバガバだし」
呆れる光輝だが、決して本心からではない。光梨のふわふわ具合は自宅内でもちょうど良い緩衝材となっており、機嫌を損ねていても毒気を抜かれてしまうのでむしろありがたみすら感じているほどだ。
「剛太はどうだ?来年……じゃない、今年は7番目の甥っ子さんが小学生になるんだろ?」
「その前に2番目の姪っ子の高校受験に3番目の姪っ子の中学卒業、さらには5番目の甥っ子の修学旅行の準備に後は……」
「……相変わらずだが、このメンツの中で一番苦労しているのって絶対に剛太だよな」
「本当に……あんのクソ兄貴が……!」
ギリリ、と歯軋りとともに握り拳を作る剛太は、並々ならぬ怒りをその身に滾らせている。
剛太の兄は剛太とは2周り以上も年が離れた生粋のプレイボーイであり、遊んだ女の数は本人曰く「何かしらのスポーツチームは作れる」ほど。当然、遊んだ女の中には子供が出来てしまった人もおり、そのうえ剛太の兄は仕事もできて稼ぎも甲斐性もあるという厄介者。子供が出来た交際相手はまとめて面倒を見ているのだ。
しかも日本では多重婚は法律上では認められていないものの、多重交際については法律でどうこう言われないのをいいことに誰も籍を入れていないのである。入れたとしても離婚後は旧姓を名乗れることを利用して結婚→即離婚で全員が同じ名字を名乗っていたりする。
剛太もその煽りをモロに食らっている。具体的には、たくさんいる甥っ子姪っ子の世話をさせられているのである。
「子供の面倒を見るための体力作り、加えて家事能力とか諸々……いつのまにか筋トレみたいになってたのは笑えなかったぜ……」
「今じゃ甥っ子姪っ子達からは"頼れる兄貴"だもんな、剛太」
「去年の夏に剛太の実家に遊びに行ったけど、前に聞いた時より増えてたよな?」
「……そうだよ、また増やしてきたんだよ!稼ぎもあって甲斐性もあって、兄貴自身は悪い人間じゃないんだが世間体が!世間体があぁ!!」
「まぁ、傍目から見たら女と遊び回るクズ男だよな」
「ちゃんと稼いで面倒見ているからクズではないし、なんなら普通に優良物件なんだけどな……」
「クソ兄貴めが……俺が一番負担になってるんだよ察しろよ……!!」
「剛太はマジおつかれさん……」
忌々しげに呟きながら、コップのお茶を一気に飲み干す剛太。剛太自身、子供の面倒を見るのは嫌いではないが、だからといって見境なく交際相手を増やす兄の蛮行は見逃せない。
いつか絶対にぎゃふんと言わせる、剛太は胸の内に誓った。
「剣介、去年は……」
「三人。全員断った」
「アニメやマンガと違って、御曹司ってのは楽じゃねえのな」
「それなー!なんなら今日の夕刊に紛れてお見合い写真入っててビビったー!」
剣介もまた、不満を吐露するように声を上げた。
「顔は100点、その他0点」な男、氷室剣介……その実態は、"家庭の生活を支える"をモットーに掲げる「氷室インダストリアル」の御曹司である。ただ、昔から我が強く"我が道を行く"気質だった剣介にとって「肩書きに縛られた生き方は囚人も同然」と反発し家を飛び出したのだ。
……なお、本人は気づいていないが、家族からはしっかりと一人暮らしを支えられている模様。加えて御曹司ということもあって度々実家から送られてくるお見合い写真に辟易としており、送られた写真を検めることなくマンションの焼却炉に突っ込み続けている。
この場に集まっているメンバーは剣介の実態を知りながらも、決して公にしたり人目のつく場所で触れたりはしない。剣介は大事な仲間であり、仲間が面倒事に巻き込まれるのをよしとしないからである。
「まぁ、そんなこんなで一年を越えられたわけだよ諸君」
「だな」
「今年もしっかりいい年にしないとな!」
「あ!あれやろうぜあれ!三国志のなんか有名な誓い!」
剣介が突然言い出した内容に一同は困惑するも、思い当たる節があったのか光輝が顎に手を当てて考え始めた。
「誓い?誓いって言ったら俺、桃園の誓いくらいしかしらんが……」
「多分それ!なんか"同じ日に死のうぜ"ってやつ!」
「道連れは勘弁してくれ」
「オイコラ言い方ぁ!!」
焔のボケに突っ込みつつも、なんだかんだで桃園の誓い擬きの準備をする男ども。なお、女性二人は「これは男同士の誓い!」ということで外れている。
「俺たち五人、生まれた日は違うけど!」
稲妻光輝。
「この誓いを立てるからには一心同体!」
岩木剛太。
「願わくは同年同月同日に死することを願う!」
水橋流静。
「一人は四人のために、四人は一人のために!」
赤羽焔。
「共に助け合い、支え合い、一年を乗り切っていこう!」
氷室剣介。
「「「「「俺たちは!生涯通してズッ友だ!!」」」」」
少年たちは誓い合う。新年に友情の証を立てて、その誓いを決して破らないと。傍で見守る少女二人もまた、少年たちの誓いに胸を熱くしていた。
高校一年生の少年たちの、二年生への進級に向けた友情の誓いであった。
友情の誓いから数ヵ月後。
――願わくは同年同月同日に――
彼らの願いは現実になる。
たくさんの連れと一緒に迎える新年、マジ羨まですね
……え、オチ?なんのことかな……。