こちらは以前から感想内でちらほら見かけた"アレ"を題材に取り上げてみました。
「……ん」
顔に差し込まれた光から逃げるように、ショウは寝返りを打った。昨夜は色々とありすぎたので、もうちょっとだけ寝ていたかったのだ。大長老との会談までは時間もあるので、ここは潔く二度寝と洒落こもうとして……。
「ワオン」
「……んぇ?ジンオウガ……?」
宿の部屋には入れないはずのジンオウガの声が聞こえ、疑問から思わず目が覚めた。目を開ければそこはなぜか森の中で、どう考えても部屋の中ではなかった。
「……え、はい?」
「クゥン……?」
「あ、ジンオウガはとりあえずボールに戻って」
「ワン」
体を起こしたことで自身がなぜか屋外にいること、周囲に木々は立ち並んでいるがジンオウガを隠し切れるほどではないと判断し、手早くボールに戻すためボールを取り出した。
「……あれ?」
だが、ジンオウガはボールに戻らなかった。なぜかボールが反応せず、ジンオウガをボールに戻せなかったのだ。なんどもなんども試したり、別のボールを試すが尽くが失敗に終わった。
「なぁんでぇ……?」
「クゥ……」
「……ごめんね、ジンオウガ。どこか隠れられそうな場所、さがすから」
「ワン!」
聞き分けよく返事をするジンオウガ。頭を下げてきたのでそのまま頭を撫でてから、ショウは改めて周囲を見渡した。
「……うわぁ、どうしよう。ここ、どこ?」
感じられる自然の雰囲気からして、先程までいたドンドルマのような場所でもなければ、ヒスイ地方というわけでもない。だが、ショウは本能的に懐かしさを感じていた。ヒスイでもないが懐かしい……その感覚から、ショウはここがどこなのかを察した。
「まさか、ここ……いや、でも待って?私、最後の記憶は宿の部屋で寝たところまでなんだけど……?いや……」
首を傾げるショウだが、身近に似たような体験をした人物が居ることを思い出した。
シズカ・ミズハシ。彼女は自室のベッドで寝たはずなのに、目を覚ましたら異世界のベッドの上だった、という異世界人だ。ひょっとしたら、自身も同じ体験をしているのかもしれない。
もしもそうなら、喜ばしいことだ。念願の「元の世界への帰還」が叶ったのだから。だが、なぜかショウは心から喜ぶことができなかった。
「……まだ、やり残したことがあるからだ」
「グルル……」
「そうだね、ジンオウガ。……黒龍を、あいつをそのままになんて、できない」
その理由については、すぐにあたりをつけた。自身に呪いをかけた黒龍ミラボレアス。奴を放置したまま元の世界に戻っても、なんの意味もない。そのことに気がついたからだ。
「どうやったら帰れるかなぁ……?」
「……!(ピクッ)」
「ジンオウガ?」
うんうん悩んでいると、ジンオウガが唐突に顔を上げた。一点をジッと見つめ続けていることから、ジンオウガが何かを感じ取ったのだとショウは理解した。
「……向こうで、何かあったの?」
「ワン」
「……わかった。ジンオウガはここにいて、私が行ってくるから」
「クゥン……」
「大丈夫だよ。ヤバイって思ったら、ガブリアスに乗って飛んでくるから」
どれほど離れているかは定かではないが、極み化したガブリアスならすぐに戻って来れる。そう確信して、ショウはジンオウガをその場に留まらせた。なるべく身を隠すよう言いつけて、ショウはジンオウガが感じ取ったという気配の先へと向かった。
シンオウ地方、ミオシティのはずれにある森の中で、ポケモンバトルが繰り広げられていた。……ただし、内容としてはおおよそ正当なバトルといっていいかは定かではないが。
「いえ~い!今日のバトルは絶好調~!!」
「くぅ~……!俺たちの日頃の努力が、ついに実を結ぶ日が来るとは……!」
「この調子でジャリボーイ達をやっつけるのニャ!」
「「おう!」」
「ピカピーっ!」
「ウキキー!」
「ピカチュウ!!」
「サルノリ!」
戦っているのは二つの勢力。片方はロケット団と呼ばれる、カントー地方を中心に活動をしているポケモンマフィアの構成員であるムサシ、コジロウ、ニャースの二人と一匹。
もう片方は、リサーチフェローの活動のためにシンオウ地方を訪れていた少年たち、サトシとゴウだ。
皆さんもよく知る展開なら、ムコニャ組がいつものようにサトシ達に星にされる展開がお約束なのだが……どうやら今回は状況が異なるようだ。
「ごめん、サトシ……俺があいつらの攻撃を撃ち落としたから……」
「気にすんなよ、ゴウ。ピカチュウもサルノリも、絶対に取り返そうぜ!」
「……!ああ!!」
現在、ムコニャの手元には檻に囚われたピカチュウとサルノリがおり、彼らを助けるためにサトシたちは戦っていた。
リサーチフェローを終え、帰りの船を待っている間にシンオウ地方のポケモンを探そうということになり、ここミオシティ外れの森に来ていたサトシたち。だが、一瞬の油断からピカチュウとサルノリをロケット団に奪われてしまったのだ。ピカチュウの電撃があれば檻を破壊することも容易だろうが、それだと共に中にいるサルノリにダメージが及ぶ。そのため、ピカチュウも迂闊に電撃を使えずにいた。
対するロケット団が秘密兵器「ロケット・ガチャット」から繰り出したのはケッキングとゴクリンの二体。サトシはウオノラゴン、ゴウはインテレオンを繰り出して対抗した。戦況は、最初こそはサトシたちが優勢だった。特性「なまけ」によって思うように行動できないケッキングにムサシが悪戦苦闘したためだ。……だが、勝負の女神はムコニャ達に微笑んでしまった。
コジロウがやけくそ気味にゴクリンに出した指示「いえき」をゴウのインテレオンが「ねらいうち」で跳ね返した際に……いえきが、ケッキングに命中してしまったのである。いえきはポケモンの特性を消してしまう技。これにより、特性「なまけ」が消えてしまったケッキングが怠けられないストレスで怒りが爆発し、単騎でウオノラゴンとインテレオンを圧倒し始めたのである。
今もなお、怒り狂うケッキングに調子づいたムサシの指示が噛み合い、ケッキングのアームハンマーがウオノラゴンとインテレオンを吹っ飛ばした。
「ウノラァ!?」
「テルルゥ……!」
「いいわよいいわよケッキング!その怒りをジャリボーイ共にぶつけちゃいなさい!」
「ケッキーンッ!!」
「まずいぞ、サトシ……このままじゃ……!」
「くそっ……!どうする……どうする……!?」
万事休す……と、その時だった。
「……!え、バトル中……?」
一人の少女が、草の根かき分け飛び出してきたのだ。その姿を見留めたサトシは、思わず声を上げた。
「え、ヒカリ!?」
「ヒカリ!なんでここに……それに、その格好は……!?」
「……?」
飛び出した少女はサトシたちに名を呼ばれるが、なぜかキョトンとした表情のまま固まっていた。
それもそのはず。その少女は、かつてサトシとシンオウを旅した仲間のヒカリではなく、ヒスイの時代に飛んだショウだからだ。
「(なんであの人たち、お母さんの名前を知ってるの?お母さんからも、あんな知り合いが居るなんて聞いたことない……)」
一方、ショウはショウで母の名を知っている少年たちに困惑していた。母から目の前にいるような少年たちのような友人が居るなど聞いたことはないし、母はシンオウを一人旅で巡ったと語っていたからだ。
「(まぁ、それは置いといて……)」
「げげっ、シンオウのジャリガール……!?」
「どうしてここに!?なんか変な格好しているし……」
「いつものポッチャマがどこにもいないニャ……」
「……Rのマーク、ロケット団か」
ショウはボールを手探り、選出するポケモンを吟味する。ケッキングが血気盛んに暴れている様から、何かしらの理由で特性が機能していないのだろう。
「カントーのポケモンマフィアが、他地方くんだり何の用かしら?」
「はぁ?何言ってんのよアンタ。あたしたちはこのピカチュウを手に入れるために、なんどもあんたらと戦ったじゃない!」
「おーい!忘れるなんてひどいぞー!!」
「誰のことを言ってるの!私の名前は、ショウよ!ガブリアス!!」
「ガッブァアアアァッ!!」
自身の名を告げながら、ショウはボールを投げた。中から飛び出した極みガブリアスは、大気を震わせるように咆哮を上げた。
「ガ、ガブリアスゥ!?」
「お、おいおいおいおい!なんか、でかくないか!?」
「そ、それどころか姿もまるで違うのニャ!」
ムコニャは極みガブリアスの姿に恐れ戦くように身を寄せ合っている。一方、驚いているのはムコニャだけではない。
「えぇ!?あ、あれが、ガブリアスだって!?」
「背びれは翼みたいになってるし、爪も二本に増えてる……メガガブリアスとも全然違う!」
ゴウもサトシも、初めて見る姿のガブリアスに驚愕していた。特にサトシはカロス地方でメガガブリアスを目にしたことがあるだけあり、驚きも一入だった。
「それにあいつ、ショウって言ってた……」
「ヒカリじゃないんだな……でも、そっくりだ」
なにより、仲間のヒカリと姿かたちは似ていても全くの別人だったこと。その衝撃が非常に大きかった。
「えぇい、怯むんじゃないわよ!ケッキング、きあいパンチ!!」
「ケッキンッ!!」
「受け止めろ」
「ガブ」
大きな衝撃とともに、ケッキングの拳が極みガブリアスに直撃した……かに見えた。実際は、龍風圧に阻まれて拳は届いておらず、極みガブリアスはまるで微動だにしていない。
むしろケッキングを見下ろし「なんなんだぁ、今のはぁ?」とでも言いたげに口角を釣り上げた。
「ケッ、ケッキ!?」
「ドラゴンクロー!」
「ガッブアアアアッ!!」
「ケッキーッ!?」
「「「えええええええっ!?」」」
怒涛の勢いで暴れまくっていたケッキングが一撃で倒されてしまい、ムコニャ達の間に動揺が走る。
「己の限界を超え、極みに達した私のガブリアスに!そんな柔な拳が効くものか!!」
「ガブァ!!」
「「「あわわわわ……ヒィッ!?」」」
ショウが吠えると共に極みガブリアスも威嚇をする。すっかり怯え切ったムコニャに、追い打ちをかけるように激しい破壊音が響く。
木々をなぎ倒し、地響きを鳴らし、姿を現したのは……サトシもゴウも、ムコニャ達でさえ見たことも聞いたこともない、蒼光の雷を纏う巨大な狼ポケモンだった。
「「「わあああああああっ!?!?!?!?」」」
「な、なんだ、アイツは……!?」
「ポ、ポケモン……なのか……!?」
威圧感を放ち、ムコニャ達を見下す巨大なポケモン。その圧倒的な存在感に、敵意を向けられていないにも関わらず、サトシもゴウもまるでその場に縫い付けられたように動けなくなっていた。
「ウ、ウゥ……」
「ウオノラゴン!?」
「……ッ」
「インテレオン、どうしたんだ……?」
それは、ほかのポケモンたちも例外ではない。ウオノラゴンは目の前の巨大ポケモンに怯えきり、サトシの背後に隠れてしまった。インテレオンは指を構えて技を放てる状態にいるが、よくよく見ればその腕は震えている。
特にゴウは、伝説のポケモンを前にしても臆することのないインテレオンが、こうも震えるほどに緊張している姿を見たことがなかった。
「ウオオオオオオオオオオオンッ!!」
狼ポケモン……ジンオウガが一層大きく咆哮を上げると、背中の甲殻や前足の爪が展開された超帯電状態へと移行。さらにその勢いのまま、雷電を纏った前足でムコニャ達をド派手にぶっ飛ばした。
「なんかそっくりさんが現れるし……」
「見たことないポケモンが次々に出てくるし……」
「情報量が多すぎるのニャー!!」
「ソーナンスッ!」
「「「やなかんじ~!?」」」
ムコニャ達はあっという間に星になって見えなくなった。それから超帯電状態を解除したジンオウガはショウにそっと寄り添うと、ショウもまたジンオウガの頬を撫でて応えた。
「結局来ちゃったかぁ……でも、ありがとうジンオウガ」
「ワン」
「ガブリアス、檻を」
「ガブ」
極みガブリアスが爪で檻を破壊すると、ピカチュウとサルノリはそれぞれサトシとゴウの元へと駆けていった。
「ピカピ!」
「ピカチュウ!」
「キキ~!」
「サルノリ!よかった……!」
相棒が無事に戻ってきたことを喜ぶサトシ達だが、ぶっちゃけそれどころではないので喜びもほどほどにショウの方へと向き直った。
「えっと、ショウ、だっけ?サルノリ達を助けてくれてありがとな」
「……いえ、別に。大したことじゃないので」
「凄いなぁ、ショウのガブリアス!それってメガシンカなのか?それにこっちのでっかいポケモンもスゲェ!電気を纏ってたし、でんきタイプかな?」
「あの、ちょっと……!」
思いのほかグイグイ来るサトシのコミュ能力に、ショウは思わずタジタジになる。ガブリアスはともかくジンオウガは誤魔化しようがないのでどうするか迷っていると、ジンオウガが低く唸り声を上げた。
「グルル……!」
「……っと、悪い!なんか一方的に聞いちゃったな」
「いえ、あの……ジンオウガ、めっ」
「……クゥ」
「ジンオウガ……っていうのか?初めて見たなぁ……。それにそのボール、ミオシティの体験コーナーで使ったのと同じ……?」
ゴウはショウが使っているモンスターボールが、かつてミオシティにある図書館で開かれたシンオウフェスの体験コーナーで使った旧式のモンスターボールと全く同じであったことに気がついた。
現在は体験コーナー用に復元されたものが数個あるだけで、それ以上のものはないはずである。だが、ショウはその過去のモンスターボールと同じボールを使っている。それだけでなく、ショウの服装も当時のポケモン調査隊が着ていたという制服と同じだ。
「(ここまで共通点があるなんて……ただのコスプレイヤー、じゃないよな……)」
特にゴウが気になるのは、目の前にいる巨大なポケモン、ジンオウガだ。実は先ほど、こっそりスマホロトムを起動しポケモン図鑑を開いたのだが、ジンオウガに焦点を当てた途端に砂嵐になったのだ。さらにガブリアスも通常の姿しか表示されず、ショウのガブリアスの姿は図鑑に登録されなかった。
「(ポケモン図鑑が対応できないなんて、明らかにおかしい……ガブリアスも、このジンオウガってポケモンも、絶対に普通じゃない)」
伝説のポケモンすら、図鑑に登録することができるのだ。にも関わらず図鑑に登録できなかったガブリアスとジンオウガ……二体のポケモンに、決して小さくはない疑問が生じた瞬間であった。
「――二人ともっ!!」
「?」
「あれ、シロナさん?」
「っ!!」
突然、上空から声がかかったかと思うと、空から誰かがガブリアスに乗って飛んできた。その人物とは、シンオウチャンピオンのシロナ。考古学者としての側面も持つ、シンオウ地方で一番強いトレーナーである。
シロナは相棒のガブリアスから飛び降りると、ショウとジンオウガを見て固まった。
「――ぁ……」
「シロナさん、どうしてここに……?」
「……っ。実家でヒスイ地方に関する気になる資料が見つかったから、ミオシティの資料館で検分しようと思って来たのよ。そしたら、町のはずれで蒼い光の電撃が見えたから、まさかと思って来てみたら……」
「…………」
「グルル……」
「"嵐の鮫竜"……それに、"蒼光を纏う雷狼"……まさか、本物……?でも、どうしてここに……!?」
「……行こう」
「ワン」
「……っ!!ま、待って……どうか話を……!」
「待ちません。……私たちには、帰るべき場所がある」
シロナが引き留めるのも聞かず、ショウは極みガブリアスをボールに戻すとジンオウガの背に乗った。ジンオウガはサトシたちを一瞥したあと、ショウの方へと視線を戻した。
「いいよ、気にしないで。行くよ」
「ワオン」
「まっ――」
力強く大地を蹴り上げ、ジンオウガは駆け出した。ジンオウガの姿はあっという間に見えなくなり、シロナは脱力するように肩を落とした。
「……ふぅ」
「あの、シロナさん?ショウたちがどうかしたんですか?」
「ショウ……あの子の名前は、そういうのね?」
「はい」
「……二人とも、まだ時間はある?よければミオシティの資料館まで一緒に来て欲しいのだけれど」
「ゴウ、どうだ?」
「えっと……よかった、時間はまだ大丈夫だ」
「それじゃあ、シロナさん。一緒に行きます」
「ありがとう」
シロナに連れられ、サトシたちは一路ミオシティへ戻っていく。なぜシロナがあれほど焦燥に駆られていたのか、ショウ達は何者なのか、疑問を残したまま……。
ジンオウガの背に揺られながら、ショウは今後の事を考える。アカイやシロがうまいこと異変に気づけば、ミラルーツの力を借りて自分を迎えに来てもらえるはず。ひとまず、その可能性にかけることにした。
「……ふわ……」
「クゥ……?」
「ん、ごめんねジンオウガ……ちょっと、眠くて……。しばらく寝るね……」
「ワン」
「うん、お休み……」
ショウはジンオウガの背に全身を預け、眠る態勢に入る。それに合わせてジンオウガも速度を緩め、ゆっくりゆっくりと歩を進める。
微睡みに身を任せ、ショウは意識を沈めていった……。
その出会いは現実か、夢幻か。そこに意味はあったのか。
その答えを知る者は、おそらくいない。いるとすれば、それは……神のみぞ知る、ということだろう。
はい、ショウちゃんinアニポケ時空、でした。
当たり前なんだがジンオウガがオーバースペック過ぎるんよ……睨まれてなお気絶しなかったムコニャは伊達に劇場版でいろんな目に遭ってないってわけですね。