ポケットモンスターHUNTER アルセウス   作:箱厨

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今回はちょっと短めです。


ドンドルマの大長老

白無垢を纏う花嫁とともに、三三九度の盃を交わす。神楽の奉納も無事に終わり、二人で揃って誓詞奏上を果たす。御神前に玉串を捧げ、ひとまず挙式の全体の流れは終わった。

まさか自分がこんな幸せを甘受できるとは思わなかった。思えば花嫁との出会いも唐突なことで、馴れ初めと言える馴れ初めもあまり自慢できるほどのものでもないだろう。右も左も分からぬ彼女に、ヒスイで生きていくためのあれこれを伝授しただけなのだから。

しかし、その後も縁があって様々な問題解決に勤しむ彼女を博士とともに労ったり、時には勝負の腕を競い合ったり……あのひと時は、本当に幸せと言えるだろう。

 

花嫁が、ゆっくりとこちらを見る。出会った当初は自分と同じだった身長も、今や自分の方が大きく伸びた。照れたように顔を赤くし、けれど幸せそうに微笑むこの世界で最も可愛くて美しい自分の花嫁。

 

その後、部屋に移動し二人揃って布団の上に座る。男女七歳にして席を同じゅうせず、と言うが、今や自分たちは夫婦なのだ。そして、夫婦となった男女が迎える最初の夜……初夜にすることなどしれている。

 

同じ布団にもぐった花嫁……否、妻がゴソゴソと動き、自分の上に乗った。照れと喜びに火照った体と赤い顔で、満面の笑みを見せてくれた。

 

「幸せにしてくださいね……先輩……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢だった。

 

「なんつー夢見てんだおれぇー!?」

 

絶叫とともに飛び起きた少年、テル。相当衝撃的だったのか全身には変な汗が吹き出ており、緊張からか高揚からか顔も赤い。

 

「(いやいやいや、本当になんて夢だよ!?おれがショウと……け、けけ、結婚、とか……!)」

 

改めて夢の内容を思い返すが、テル自身はありえない、と首を振る。ショウも人間で女性なので、歳を重ねればやがて結婚もするだろう。だが、その相手が果たして自分でいいのだろうか、と疑問がよぎる。

ショウはヒスイを救った英雄だ。赤い空の異変を解決するだけでなく、ジンオウガをはじめとするヒスイに生息していた巨大ポケモンを捕らえて操り、時空の歪みを通じて別地方から流れ着いた巨大ポケモンと戦いこれらを鎮めてきた。どのようなポケモンでも十全に力を発揮させる判断能力と洞察力、相手が未知のポケモンであろうと決して臆さない勇気と度胸、ポケモンたちとの強い絆……ポケモンと共に生きる者として、大変素晴らしい人だ。

反面、テル自身はショウと比べると自分は何倍も見劣りする、と考えている。ポケモン調査の手ほどきをしたのはテルだが、その後はショウ自身の成長によるものだ。ショウがコトブキ村から追放されたあとは死に物狂いで強くなったテルだったが、ショウはさらにその上を行っていた。

『極み』や『二つ名』と呼ばれるポケモンの強化個体、そして巨大ポケモン群……どこまでも上り詰めて、いつか手が届かない場所に行ってしまうのではないか。そんな漠然とした不安が、テルの内から湧いてきた。

 

「(……って、なわけあるか。ショウはいなくなったりなんてしない。もしいなくなるとすれば、それは……元いた場所に、帰る時だろ)」

 

そうなると少し寂しくはなるが、それも仕方のないことだとテルは考える。

かつて暴走したディアルガとパルキアを捕獲し、赤い空の異変を解決したあとのこと。シンワ祭りで平和と共存を祝ったあと、ショウが一時期心神喪失状態に陥ったことがあった。ショウは事態を解決したあと、時空の裂け目を通って元いた場所に帰るつもりだったのだ。しかし、事態を解決すると時空の裂け目が消失してしまったため、帰れなくなったショックで心神喪失状態になってしまったのだ。

そのことをテルは、ショウの世話をしていた際にショウ自身から聞かされていた。だから、ショウの最終目的が元いた場所に帰ることだと知ったのだ。

 

「(……まさか、おれがショウに帰って欲しくないって思ったばかりに、あんな変な夢を……?それにしたってなんだって結婚の夢なんだよ!もっとほかになんかあっただろ!?)

うおおぉあああぁぁ!?

 

ベッドの上でゴロゴロ、既に同部屋のセキとウォロとアカイが起床済みでいないことをいいことに、テルはひたすらベッドの上で悶え続けた。

 

「(いつまでたっても起きねぇから様子を見に来たら……テルのやつ、なにやってんだ……)」

 

もちろん、様子を見に来たセキにばっちり見られていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜襲をかけてきた黒龍ミラボレアスの代弁者を名乗る少年、クロノ。彼から挑まれたポケモン勝負は最終的に巨大ポケモン同士のバトルにもつれ込み、ダイケンキたちの活躍で普通のポケモン勝負では勝利したものの、その後の巨大ポケモン同士のバトルではクロノが繰り出した古龍級生物・イビルジョーの耐久や体格差に物を言わせた戦術にジンオウガが追い詰められてしまった。万事休す……そんな時、私たちを助けてくれたのはアカイさんだった。

巨大ティガレックスを鎮めたことで遺跡平原周辺が通れるようになったので、早速合流してくれたのだ。その際、アカイさんは新しい巨大ポケモンを引き連れてきた。現在、私が手持ちとして連れ歩いているポケモン……ジンオウガとリオレウス、その亜種個体だ。

ジンオウガの亜種個体、《獄狼竜》ジンオウガ亜種はドラゴン・かくとうの複合タイプで、でんきとみずタイプには弱いが、ほのおとこおりに強く、ドラゴンタイプが効かない体質をしている。……ドラゴンタイプがとうとうドラゴンタイプを無効にしてしまった。

リオレウスの亜種個体、《蒼火竜》リオレウス亜種はドラゴン・ひこうの複合タイプで、ドラゴンとこおりに弱いが、みずとでんきに強く、ほのおは一切効かない体質だ。ほのおタイプではなくひこうタイプなのは、原種以上の空戦能力故だろう、とはアカイさんの言だ。

二体とも、とても強く鍛え上げられていた……どうやら黒龍転移を受けて、アカイさんがタマゴから育て上げた歴戦個体らしく、その実力は古龍級生物にも劣らぬそうだ。……時間に余裕ができたら、勝負させてもらおう。

 

さて、全員が起床したところで酒場へ向かい、朝食を取る。昨夜宴会をしたのも、この酒場だ。そこで朝食をとりつつ、シズカさんたちとともに本日の予定を確認する。

 

「さて、今日の予定の話をするけれど、いい?」

 

「どうぞ」

 

「了承。……それじゃ、今日の予定を話すね。

今日は朝食を摂り終えたあと、大老殿にてドンドルマの大長老との会談があります。会談には大長老の他、側付きの大臣に龍歴院の職員、歌姫御一行、新大陸古龍調査団も同席します。会談の内容は主に、時空の裂け目のこと、時空の裂け目に吸い込まれて消えていったモンスターたちとショウたちが連れているモンスターたちの関係や、ショウたちの目的なんかになります。一応、ショウたちだけでなくアカイ……さんたちからも、お話を伺えたらと思いますが……いかがですか?」

 

「あぁ、喜んで会談に応じよう。それよりも、シズカくん。君がいてくれたおかげで、この大陸の住人たちにも、思いのほか早く受け入れてもらえたと聞く。そのことについて礼を述べたい。ありがとう」

 

「……い、いえ……私のことは呼び捨てで結構ですよ……

(アカイ……兄さんが言うには、コイツがミラバルカンだって話だけど……なんでコイツこんなにフレンドリーなの?人間に負けてブチギレたんじゃないの?人間嫌いじゃないの?)」

 

「ふむ、了解した

(この娘、こちらの存在に感づいているな?すると、シロやダイアーのことも気づいてそうだな。……シズカ・ミズハシ……水橋流静の妹、少し気にかけておくか)」

 

シズカさん……ダイアーさんの時もそうだけど、なんだか一部の人とは話しにくそうだな。人見知りって様子でもなさそうだし、どうしたんだろう……?

 

「……先輩」

 

「ゲフッ!?ゴホッ!ゴホッ!!」

 

「せ、先輩!?」

 

「おいおい、どうしたテル?いきなり咽せやがって」

 

私がなんとなく先輩に声を掛けると、先輩は飲んでいたスープを吹き出し、さらに咽せたようで激しく咳き込んでいた。え、これ私が悪いの?

 

「え、えぇっと……ど、どうした、ショウ?」

 

「いえ、"どうした"はむしろこちらのセリフ……いきなり大丈夫ですか?だいぶびっくりしたんですけど……」

 

「おっ、おおおお、おれは全然元気だぞ!?ショウはどうだ!元気か!?」

 

「え、元気です、けど……?」

 

「そ、そっかそっかぁ!そりゃあよかったぁ!!」

 

あはははは、なんて笑いながら先輩は食事を再開した。……いや、本当にどうしたの先輩?大丈夫?お水飲みます?

なんか先輩の様子が終始おかしかったものの、全員が食事を終えたところで大老殿へと向かった。大老殿の入口に近づくと、待機していた騎士たちが動き出した。

 

「シズカ・ミズハシ殿と、モンスタートレーナー御一行様、ようこそいらっしゃいました」

 

「中で大長老がお待ちです」

 

「ご苦労様、そしてありがとうございます。それでは失礼します」

 

シズカさんに続き、中へと入っていく。まず一番に目に付いたのは……。

 

「「「「「(デッッッッッッカ!?)」」」」」

 

奥にある大きな椅子に座る、これまた巨大な人だった。……いや、待って、聞いていたとは言え実際に見ると本当にデカイなぁ!?

 

「大長老様。シズカ・ミズハシ、トレーナー一行とともに参上致しました」

 

「うむ。シズカよ、ご苦労であった。控えておれ」

 

「はっ!」

 

シズカさんがこちらまで戻ってくると、大長老さまは咳払いを一つすると話し始めた。

 

「ムォッホン!モンスタートレーナー諸君、よくぞこの大老殿に参った!皆を代表して歓迎しよう!ワシはこのドンドルマの全てを取り仕切る者だ、この街が外からの災厄に崩されぬよう、また同時に日々豊かであるよう、全力を尽くしておる。

……さて、貴君らにはまずはじめに、礼を述べたい。先の作戦において、巨大化した轟竜をハンターらとともに狩猟してくれたと聞いた。作戦指揮を執った将軍も、実に高く評価していたぞ。

この大陸には、貴君らのようにモンスターとともに手を取り合い、助け合うという文化が根付いておらぬ。だが、此度の貴君らの活躍により、その認識に変化が表れ始めた。亜大陸にいるモンスターライダー達を受け入れようという意識が芽生え始めたのだ。

それもこれも、全ては貴君らの働きによるもの……この大陸に生きる者として、礼を言おう。本当に、ありがとう」

 

「い、いえ!私たちも、私たちの目的がありますので……ですが、私たちの働きが皆様のためになったのなら幸いです」

 

私が代表して、大長老さまの言葉に答えた。……いや、割と手放しに評価されたり褒められたりで、あまりそういうことを経験していないせいかめちゃくちゃ照れる。見れば、ウォロを除く三人も照れたように笑顔になったり頬を掻いてる。

 

「……さて、我々としては貴君らトレーナーの働きに報いたい。……が、同時に貴君らに聞かねばならぬこともある」

 

「承知しています。……私たちが連れているモンスターたちのこと、ですね?」

 

「うむ」

 

話は本題に入った。さて、ここからは……。

 

「……大長老殿、よろしいか」

 

「うむ、貴殿は……」

 

「我が名はアカイ。故あってショウ達と行動を共にする者、彼らの味方です。私は元々こちらの大陸で生きる者でしたが、シュレイド城に裂け目が発生したことを受けて、裂け目を通じてショウたちが住まうヒスイの地に降り立った者です」

 

「なんと!?あの謎の裂け目を通ったというのか!?」

 

大長老の傍にいる小柄な老人竜人族が声を上げた。シズカさん曰く、彼は大老殿の大臣らしく、その中でも大長老さまの意志を迅速かつ正確に実行する政務係、らしい。

 

「えぇ。……といっても、少々異例中の異例ではありますがね。一つ一つ説明させていただきたく存じますが、いかがか?」

 

「うむ。アカイ殿、よろしく頼む」

 

では、と前置きしてから、アカイさんの説明が始まった。

 

「まず、時空の裂け目について説明しましょう。あの裂け目はこちらの大陸と、ショウたちが住まうヒスイという二つの大陸を繋げる通路となっています。では、なぜ裂け目は開かれたのか?

それは、ヒスイに生息する古龍種、反骨龍ギラティナが開いたものだからです」

 

「古龍種!!まさか、あの裂け目がモンスターの力によるものとは!!」

 

そう言って反応したのは……たしか、龍歴院の人、だっけ?あ、となりにネネさん座ってる……そういえば、ネネさんの所属は龍歴院だったな。ひょっとしてハンターだけでなく、研究員も兼職してるんだろうか。

 

「そうです。反骨龍ギラティナは己を生み出しながらも追放した古龍種、創造龍アルセウスに反旗を翻すべく時空の裂け目を開いたのです。そうして同じく創造龍アルセウスによって生み出された兄姉の古龍種……時間龍ディアルガと空間龍パルキアを暴走させることによってアルセウスを引きずり出そうと試みた。……結果は失敗。それどころか、現地民であるこちら、ショウによってその目論見を潰された」

 

「一つ、ショウ殿に聞きたい。古龍種と相見えたと言うが、君はハンターではないようだが……モンスターの力を借りてこれを鎮めた、と解釈してよろしいか」

 

私にそう訪ねてきたあの肌が黒い人は……ニールさんが近くにいるってことは、あの人がニールさんが所属する新大陸古龍調査団の総司令さん、だろう。

 

「はい、そうです。この時も、モンスターたちの力を借りて古龍たちを鎮めてきました」

 

「なるほど……」

 

「説明を続けます。

目論見を潰されたギラティナではあるが、ではそのギラティナがこちら側にまで時空の裂け目を開いたのかと言われれば……答えは、否。むしろギラティナは、その力を利用されたと見ていいでしょう」

 

「利用された……?」

 

「さて、ギラティナが反旗を翻すべく時空の裂け目を開いた同時刻、こちら側の大陸でも、大きな力のうねりが発生した。……調査団の蒼き星」

 

「……なにかな?」

 

「ちょうどその頃、そちらでは新たな生命が誕生した頃だったな。……新しい、古龍種が」

 

「……!!冥灯龍ゼノ・ジーヴァのことを言っているのか!?」

 

ニールさんが驚きに声を上げた。冥灯龍……古龍種って、生まれたりするんだ。卵生かな?胎生かな?

 

「その通り。ゼノ・ジーヴァ……やつが生誕する際に発せられた、強大な古龍の生体エネルギー……それは、ギラティナが開いた時空の裂け目によってダメージを負っていた次元境界線に対して致命傷となった。

新大陸ではゼノ・ジーヴァ討伐以降に不思議なことが起こったんじゃないか?例えば……異世界から未知のモンスターや人間がやってくる、だとか」

 

「……!!」

 

「……その通りだ。ゼノ・ジーヴァ討伐以降、確かに新大陸では"異世界"に関連する不思議な事件が次々と起こっている」

 

「やはりな」

 

なんてことだ……ギラティナが起こした事件と、古龍の生誕がタイムリーで重なってしまったばかりに、異世界からいろんなものが流れ着いてしまったのか……!

 

「ただ、それだけではヒスイとこの大陸を繋げるには弱い。……誰かが意図的に繋げでもしなければな」

 

「誰かが意図的に……」

 

「とっくにご存知のはずだろう?我々がおとぎ話として長く伝え続けた、伝説上にしか存在しないと信じられてきた災厄の古龍……禁忌にその名を連ねた、伝説の黒龍……」

 

「まさか……!」

 

「そう……黒龍ミラボレアス。やつこそが、我々の大陸とショウたちの大陸、二つの大陸を時空の裂け目で繋げた元凶!普段はあまり知られていないが、ミラボレアスには自力で時空間を渡る力がある……今回、二つの大陸で起こった二つの事件が、結果的にミラボレアスを手助けする形になってしまったのだろう」

 

ミラボレアス……!やつの力が、二つの世界をつなげてしまったというの……!?

 

「ミラボレアス……!!」

 

「アイツが迷うことなく裂け目に逃げていったのは、そういうことだったのかよ……!!」

 

ニールさんもエイデンさんも、悔しさを滲ませている。自分たちの身の回りで起こったことが、巡り巡って敵に塩を送る形になったことが、相当悔しかったみたいだ。

 

「黒龍に時空間を渡る力が!?それは是非にでも調べなければ……!!」

 

「……言われてみれば、ミラボレアスはどこからともなく現れ、そしていつの間にかいなくなる……それが、時空間を渡る力によるものだとしたら……?」

 

龍歴院の二人も、その立場上モンスターの生態を解き明かすべく知能をフル回転させているようだ。……というか、第一印象のせいで知的な印象がないネネさんの学者然とした雰囲気が全然似合わない……。

 

「……では、アカイ殿よ。黒龍は今、どうしていると考えられる?」

 

「お答えしましょう、大長老殿。

黒龍は現在、力を集めているところでしょう。その最終目的は、己を追い詰めたハンターへの逆襲……すなわち、蒼き星への復讐でしょう」

 

「……ッ!!」

 

「ニール……」

 

「なんと……」

 

「私とこちら、シロはボレアス種に使える巫女と禰宜の役割を担っております。シロは祖龍に、私は紅龍にそれぞれ仕える身……シロは、祖龍より黒龍が次元を超えたことを伝え聞き、私に協力を打診しました。私もそれを受け、紅龍より許可を得て祖龍が開いた時空の裂け目を通じてヒスイの地へと降り立ったのです。

そこで活動中、恐ろしいことを耳にしました……黒龍ミラボレアスが、人間に呪いをかけたというものです。そしてその呪いを受けたのはほかならぬ……こちらの、ショウなのです」

 

アカイさんの言葉に、周囲がにわかにざわつく。アカイさんがこちらへと振り返ったので、私は頷くと一歩前に出た。

 

「私はちょうど、槍の柱という場所で創造龍アルセウスに会っていました。ヒスイに住む全てのモンスターと出会え……その約束を果たしたことを、報告するために。

そして、その最中のことです。突然、槍の柱に時空の裂け目が開くと、中から一体のドラゴンが出てこようとしていました。黒い体に黒い角、そして恐ろしい瞳……後にアカイさんから聞いた話から、あれがミラボレアスなのだと理解しました」

 

「ショウはミラボレアスに出会ったのか!?」

 

「……そうです、ニールさん。ただ、ミラボレアスと目が合った時から、度々心臓が痛むようになりました。まるで誰かに心臓を直接握り締められているかのような、鋭い痛みが。後にシロちゃんに、祖龍を介して看てもらったところ、それが黒龍の呪いだということがわかったんです」

 

「……シロ嬢、それは真か?」

 

「はい。元々黒龍も紅龍も、ミラボレアスが持つ力の一部が分たれた半身のようなもの……だから、ショウの中に黒龍の力の一部が流れ込んでいることに気付けた」

 

「は、半身んんんんんんっ!?しかも、祖龍といえばボレアス種のなかでも伝説中の伝説!いったい祖龍は何故黒龍や紅龍を生み出したのですか!?」

 

「私は祖龍様にお仕えする巫女だけど、そこまでは教えてもらえてません。あと、紅龍は黒龍が転じた姿であって、厳密には同じ黒龍ですよ」

 

「あっ……いえ、お話の最中に失礼しました」

 

一瞬、龍歴院の職員さんが勢いよく立ち上がったものの、シロちゃんに冷静に諭されて大人しくなった。

 

「……大長老様、よもやこれほどまでとは……」

 

「うむ……もはや、我々の常識に収まりきる話ではないか……」

 

「さて、我々の目的についてお話しましょう。我々の目的は――」

 

ズキッ!!

 

「がぁっ!?」

 

「ショウッ!!」

 

あがっ!?し、心臓が……!こんな、とき、に……!

 

ズキッ!!ズキッ!!ズキッ!!

 

 

ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ

 

痛い!痛い!!痛い痛い痛い痛いいいぃぃぃぃぃっ!!

 

「あっ……がっ……!が、あ"あ"あ"あ"っ!!」

 

「ショウ!しっかりしろっ!シロッ!!」

 

「わかってるっ!!」

 

し、シロ……ちゃん……。シロちゃんが、必死に祈りを捧げ、て……。

 

「これは……!?」

 

「まさか、黒龍の呪い……!!」

 

「ショウっ!」

 

「シ、ズ……カ……さ……」

 

ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ

 

「ぎゃ、がぁっ!?ぎぃあっ!あ"あ"あ"あ"あ"っ!!」

 

「シロ……!」

 

「黙って……!!」

 

……だ……め……。も……いし……が……。

 

「……~~♪」

 

「……?」

 

……え……あ……。

 

「~~~♪~♪~~~~♪」

 

「歌姫様……」

 

「~~♪~~~♪~~~~♪」

 

歌……歌が、聞こえる……。なんだか、体が……楽になってきた……?

 

「……ぅ、ぁ……」

 

「ショウ!」

 

「……シロの祈りだけでは、抵抗するのに精一杯だった……歌姫の歌が祈りの力をブーストさせたのか……?」

 

胸の痛みが収まり、ようやく目を開けることができるほどに落ち着いてきた。私は先輩に体を支えられた状態で、セキさんだけでなくシズカさんにニールさん、ネネさんも私の顔を覗き込んでいた。

 

「ショウ、よかった……!もう、私の身の回りの人には死んでほしくないの……!」

 

「シズカさん……」

 

「ショウ、すまない!俺たち調査団がミラボレアスをとり逃したばかりに、こんなことになっちまった!本来なら無関係の君に、余計なものを背負わせて……謝っても、謝りきれない……本当に、申し訳ない……」

 

「ニールさん……」

 

「まったく!姉様をこんなに心配させるだなんて!これ以上、姉様には悲しい思いをして欲しくないから、呪いを解けるならさっさと解くのよ!」

 

「ネネさん……」

 

一人だけ平常運転……。

 

「……話の途中ですまない、大長老殿」

 

「いや、先のことで委細承知した。ショウ殿の呪い、もはや一刻の猶予もあるまい。こちらで可能な限りの援助をさせてもらうぞ」

 

「ありがたい。……ショウの呪いを解くには条件がある。一つは祖龍の巫女であるシロの祈り、一つは歌姫の歌の力……」

 

「わ、私の歌が……」

 

「あぁ、貴女が歌ってくれなければ、シロの祈りだけでは時間がかかっていた」

 

「成り行きで同道することになったとはいえ、目の前で見知った方が苦しむ姿を見たくなくて……私の歌が力になるのでしたら、お手伝いいたします!」

 

「ありがたい。……さて、条件のさらに一つが滅龍石だ。これら三つを揃えて、メゼポルタにある祈樹の泉に向かわなければならない。祈樹の泉には龍脈が流れている……力を高める上では、最高の場所といってもいい」

 

「龍脈が……なるほど、それならば納得。大臣よ」

 

「心得ております、既にハンターに打診し、滅龍石収集へと向かわせております」

 

「さすがは大臣、話が早い」

 

ようやく体が動けるようになった……先輩に支えられながら立ち上がると、どうやら話が進んでいたみたい。私も会話に加わろうとしたその時だった。

 

「……?ちょっとまって」

 

「シロちゃん……?」

 

「……ごめん、ショウ。突然なんだけど……脱いでくれない?」

 

「……?……!?え、ちょ、へぇっ!?」

 

ぬ、脱げぇっ!?いきなり何言い出しちゃってんのこの子ぉ!?

 

「説明は後!とにかく服!上だけでいいから!!」

 

「いやいや!むしろ説明してくれないと納得いか――」

 

「問答無用っ!!」

 

「ぎゃああっ!?」

 

シロちゃんに飛びかかられて、あれよあれよと言う間に上半身が肌蹴られていく。いや、シロちゃんだいぶ鬼気迫る顔してるけど、一体全体何!?

うつ伏せに転がされるとそのまま一気に服を下ろされた!

 

「……っ。やっぱり……!」

 

「……あ、あの~?シロちゃん、いったい何がやっぱり――」

 

「ショ、ショウ……背中に、罅が……!!」

 

「……え?」

 

先輩の言葉に、一瞬だけなんのことかわからなかった。それからすぐさま大老殿にいる竜人族のお姉さんが持ってきた鏡で、シロちゃんが私の背中を写してくれた。

 

「……な、に……コレ……?」

 

私の背中には……紫色に発光している罅割れが生じていた。それも、罅割れは心臓部を中心に広がっており、今は上は肩に、下はちょうど脇腹の真ん中あたりで止まっている。

 

「……シロ」

 

「間違いない……黒龍の呪いよ、ここまで表面化するだなんて……」

 

「ちっ……あの野郎、いよいよ見境なくなってきたか。それほど余裕がないのか、あるいは我々を追い込む策か……」

 

「なんにせよ、厄介なことに変わりはない……。ごめんね、ショウ。服、直すね」

 

「……あ、うん……」

 

おもわず愕然となった……本格的に命の危機が迫っていることを察して、体の震えが止まらない。シロちゃんがなんとか服を戻してくれたけど……私は……。

 

「ショウ!」

 

「っ!?」

 

と、ここでいきなり先輩が抱きついてきた!?

 

「大丈夫だ」

 

「せ、先輩……」

 

「根拠も自信も何もないけど……でも、ショウは絶対に大丈夫だ!絶対絶対に、なんとかなる!いい加減でも適当でも、なんでもいい!前を向いて、歩こう!下を向いて震えるな!それじゃあ、ミラボレアスの思うツボだ!むしろあいつに言ってやれ!

"どうした?こんなものか?それがどうした!"って!!」

 

「……!!」

 

「おれが、みんながショウにはついてる……だから、最後まで諦めちゃダメだ!呪いが解けるように、おれも頑張る……おれが、おれがショウを、守ってやる……!!」

 

「先輩……!」

 

おもわず先輩の背中に手を回す。お互いにきつく抱き合い、そこから感じられる温度を惜しみなく感じ取る。

ああ……そうだ、私は独りじゃない。先輩やみんなが、私にはいる……だから、きっと大丈夫。

 

「(……ん?みんな?あれ、そういえば……)」

 

「……気持ちはわかるが、時と場所と場合を弁え給えよ、君たち」

 

「「わあああぁぁっ!?」」

 

思わず顔を真っ赤にして勢いよく離れた。そうだ、みんないるじゃん!みんなここにいるじゃん!!公衆の面前で思いっきり抱き合っちゃったじゃん!?

 

「ムォッホン!若さとは良いものよな」

 

「大長老さまが言うと説得力がハンパな……いえ、何でもありません」

 

「姉様!私の隣はいつでも空いてますよ!」

 

「大タル爆弾置いとくね」

 

「リア充爆発ですねわかります!」

 

「(……俺もいつか、シズカとあんなふうに……)」

 

「おーいニール、戻ってこーい」

 

や、やっちゃったあああぁぁぁぁ……恥ずかしすぎて死にそう……。

 

「……まぁ、それぐらいの元気があれば多少のことであれば大丈夫だろう。……それでは、大長老殿」

 

「うむ。貴殿らはメゼポルタを目指すのだな」

 

「えぇ。……若い命を守るため、全霊を尽くす。大長老殿のご協力にも、感謝します」

 

「若き命を守るは老骨の努めだ、人より長く生きる竜人族だからこそ、短き生を懸命に生きる人間の営みは美しい。それを守るためならば、協力は惜しまぬとも」

 

「……えぇ、そうですね」

 

うぅ……こっちがてんやわんやしている間に、話が終わっちゃったみたい……。なんか、大事なところでいつも恥ずかしい思いをしているのは気のせい……?

 

「皆様とは、もうしばらく一緒なんですね」

 

「そうなりますね……ラウラさん、これからもどうぞよろしくお願いします」

 

「こちらこそ!……あの、セキさん……」

 

「ん?……!あぁ、アレか?もちろん構わねぇぜ」

 

「ありがとうございます!」

 

「(ラウラさん、すっかりリーフィアが気に入ったなぁ)」

 

ラウラさんもすっかりポケモンに慣れたよね。……主にリーフィアのおかげで。

 

「ふぅ……」

 

「……シズカよ」

 

「はっ!大長老様、いかがされましたか?」

 

「大老殿より、ハンター『シズカ・ミズハシ』へ依頼を出す。歌姫ラウラ殿を、メゼポルタまで護衛せよ」

 

「……!!それは、つまり……」

 

「うむ……貴殿も、ショウ殿に同道を頼む。貴殿はハンターだからな、こういった形の方が楽であろう?」

 

「……フフッ、ですね。……了解しました。その依頼、お受けします!」

 

「うむ!」

 

大長老さまと話をしていたシズカさんが、こっちに向かってくる……どうしたのかな?

 

「……ついさっき、大老殿から歌姫護衛の依頼が出されちゃってね。私もメゼポルタまでついて行くよ」

 

「本当ですか!?心強いです!!」

 

「やったぁ!シズカさんが一緒なら、百人力だ!」

 

「も、持ち上げすぎ……っ!」

 

嬉しいっ!シズカさんもついてきてくれるなんて!とても心強い味方が増えた!

 

「うぅ……ね、姉様~……」

 

「……ネネくん、龍歴院からも依頼を出していいかな?」

 

「はい……?」

 

「今回のティガレックス技巧種の件を受けて、狩猟中にジンオウガをはじめとするモンスターたちが全く未知の攻撃を仕掛けていたと聞いたよ。そこで、だ。

龍歴院からの依頼というのは、これらトレーナーが扱うモンスターが通常種とどう違うのかを調査して欲しい、というものだ」

 

「……!!と、ということは……」

 

「大義名分があれば、付いて行っても問題ないだろう?」

 

「愛していますわ主席様!」

 

「はっはっは、こんなに嬉しくない愛の告白もあるんだなぁ」

 

……?今度はネネさんがこっちに向かってきて……。

 

「姉様!姉様!!たった今龍歴院からの依頼で、ショウさんたちのモンスターを調査して欲しいと頼まれてしまいました!」

 

「……ふ~ん……。……私もさっき、大老殿から依頼を――」

 

「あら!奇遇ですわね!!ということは、今後も姉様と一緒に行動できる、ということですわね!」

 

「寄るな」

 

ネネさんが嬉しそうにシズカさんへ抱きついた。……シズカさんは相変わらずだけど。

 

「総司令、我々は……」

 

「……ミラボレアスはどうやら、あちらのショウを狙っているようだ。なぜ黒龍がただの個人を標的にするかは不明だが……呪いを掛けるほどに執着しているとなると、みすみす見過ごすことはできんな」

 

「では、調査団は歌姫護衛に同行する、ということで?」

 

「うむ。ミラボレアスがショウを狙って、直接現れないとも限らない。蒼き星たちよ、少女を導く星となってくれ」

 

「「了解!」」

 

……!今度はニールさんとエイデンさんが来た!

 

「あら、調査団のお二人さん……どうなさいました?」

 

「調査団の決定を、知らせておこうと思ってな」

 

「……ニールさん、どうなりました?」

 

「調査団は、歌姫護衛についていくことにしたよ。……ショウを狙うミラボレアスが直接姿を見せる可能性がある以上、ミラボレアス討伐作戦に参加した者として捨て置くことはできない。

やつが姿を見せることがあれば、任せてくれ。……今度こそ、奴を仕留めてみせる」

 

「そのときは、私も手伝います。……これはもう、調査団だけの問題じゃありませんから」

 

「シズカ……!」

 

「困ったときはお互い様……貴方の言葉ですよ、ニールさん」

 

「あ……!……は、ははっ!そうだな……ありがとう、シズカ」

 

「どういたしまして」

 

ニールさんたちまで来てくれるなんて……私、本当に色々と恵まれているなぁ……。

 

「キィーッ!あんの優男めぇ……!」

 

「どうどう」

 

……恵まれてる、よね?

 

「では、若き者達よ!未来を勝ち取り、その手に掴むために!いざ、出で立て!!」

 

応っ!!

 

大長老さまの号令に、私たちは全員で返事をした。大老殿を出て階段を降りると、そこには見慣れた金色の鎧があった。

 

「行くんだな」

 

「師匠」

 

「メゼポルタまでの道中、君たちに幸あらんことを願う」

 

「ありがとうございます」

 

「怪我しないで帰ってこいよ~」

 

「きゃっ!乱暴に撫でないでくださいっ!」

 

どうやら、シズカさんのお師匠さんは見送りに来てくれたみたい。師弟揃ってじゃれあう姿は、本物の親子みたいだ。

用意された飛行船に乗り込み、私たちは再び空へと舞い上がる。もちろん、リオレウスが牽引する特急便だ。上昇を始め、高さが大老殿とおなじくらいになったところで、私は大老殿に向けて大きく手を振った。大長老や、皆さん方に見えたらいいな、と願って。

 

「ん!」

 

「先輩……!」

 

見ると、先輩も手を振っていた。すると、セキさんにカイさん、ウォロ……みんなも一斉に手を振っていた。下を見ると、ドンドルマに集まっていたハンターの皆さんも手を振ってくれていた。

 

「行ってきまーすっ!!」

 

私は大きな声で叫ぶ。大長老の言うとおり、未来を勝ち取るために……私たちは、空の旅を行く!

 

 

 

 

――ショウ 余命14

 

 




はい、いよいよメゼポルタに向けて出発です。
ただ、黒龍の呪いが進行したことのよってショウの余命が削られてしまいました。あと二週間……ショウは呪いを解くことができるのか……。
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