…………。
(。・ω・)
箱厨の
なげつける!
(。・ω・)σ ⌒最新話
箱厨は
最新話を 投げつけた!
また、朝が来た。けれど今日の朝は、昨日の朝とはまるで真逆の朝。
「……おはよう」
「ガウ」
寝ぼけ眼を擦りつつ、少し見上げて声をかければ……彼はゆっくりこちらを振り返りつつ、小さく鳴いた。
昨日のこと。コトブキムラを追放された日の次の日に出会った、未知のポケモン。電撃を操る巨大な狼のポケモンは、行くあても頼れる人もない私を助けてくれた。何も言わず、そっと寄り添い話を聞いてくれて……私の境遇を悲しんだり怒ったりしてくれた、優しいポケモン。
ムラへの復讐か、事態の解決かで悩んでいた私に、もうひとつの別の道……すなわち、「元の世界に戻りたい」という原初の願いを示してくれた。おかげで私は、色々と吹っ切れることができた。今まではムラのみんなのため、困っている人たちのためと、「誰かの為に」頑張り続けていた。
けれど、「元の世界に戻りたい」というヒスイ地方に来たばかりの頃はいつも考えていたことを思い出したことで、これからは「自分自身のため」だけに頑張ればいいんだと思うようになってからは、肩の力が抜けていつもよりもだいぶ楽になった。
彼の尻尾の上も、意外と寝心地は悪くなく気持ちよく眠ることができた。彼には本当に感謝してもしきれない。
……それにしても、彼は一体いつから起きていたんだろう。一緒に寝ずの番をしていたはずのダイケンキは先に寝ちゃってるし……まさか、貫徹!?
「……あの、ひょっとして……寝てなかったりする?」
「ガウ」
一つ頷くとほぼ同時に、クアァッ、と大あくびをする彼。一睡もしないまま寝ずの番をしてくれてたなんて……!
「ちゃ、ちゃんと寝なきゃダメじゃない!」
「……グルル」
「あいたっ」
慌てて彼の正面に回り込んで、今からでもいいから少し眠るように言い含める……けれど、彼は鼻先で私の頭を軽く小突くと、そのまま微笑んで見せた。
「気にするな」と、「良く眠れたか?」と……そう言いたいのだろうか、彼は。一体彼は……彼はどこまで私のことを気遣ってくれるのだろう。
「……うん、ありがとう。お陰様で良く眠れたよ。あなたのおかげ……本当にありがとう」
「ガウ」
お礼を言えば、彼は人懐こく鼻先を押し付けてきた。それが彼の信頼の証なのだと思うと、私も嬉しくなって彼の頬をそっと撫でた。
あっ、そういえば……
「私、あなたの名前を知らないね」
「…………」
たった今思い出したようにそう告げれば、彼は気まずそうにそっと目を逸らした。
彼はポケモンだから、人間の言葉を理解できても話すことは出来ない。自分の名前を告げられないことを理解していたのだろう……だから申し訳なさそうに目を逸らしたんだ。
「大丈夫だよ。なんなら私が名前をつけて……あれ?」
私が彼に名前をつけてあげようかな、と考えたちょうどその時だった。いつからそこにいたのか、巣穴の入口の前にアンノーンが一匹いた。
アンノーンはズイの遺跡で石版を見たあたりから、いつの間にかヒスイ地方の各地に出現するようになったよくわからないポケモンだ。私も任務や図鑑作りの途中で見かけることがあったので、28種類すべてを捕まえた。それ以降はズイの遺跡に複数出現するようになったので、勉強も兼ねて複数匹捕まえていたんだけど……まさか、放牧場にいたのが、ここまで出てきちゃったのかな?
「どうしたの?」
「ノーン」
私が問いかけると、さらに入口の脇から複数のアンノーンが飛び出してきて、それらが一斉にこちらに向かってきた。アンノーンたちは規則正しく整列すると、彼の前で立ち止まって並んでいた。
ちょうど私が彼の方へ振り返ると、アンノーンたちが何か言葉を表していることに気がついた。アンノーンたちの並びを左から読んでみると……
「じん……おうが……。『ジンオウガ』……?」
「ガオウッ!」
私がアンノーン文字を解読すると、彼が嬉しそうに吠えていた。まさか、これって……!
「これ……もしかして、あなたの名前……!」
「……!!」
私がそう尋ねれば、彼は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
ジンオウガ……ジンオウガ!!なんて力強い名前……まさに彼の姿、あり方をわかりやすく体現する名前。素直にかっこいい……そう思える名前だ。
「これからよろしくね!ジンオウガ!!」
「ガオウッ!」
元気よく吠える彼……ジンオウガ。ただ、いまの鳴き声で私のポケモンたちがみんな起きちゃったのはご愛嬌……かな。
アンノーンたちは「やりきった」と満足気な笑顔を浮かべたまま、どこかへ飛び去っていってしまった。放牧場に戻った……と、思いたい。
それぞれ朝食を終えたところで、今後の事を考える。
私は元の世界に帰るためにも、ひとまずは時空の裂け目の問題をどうにかしなければならないかもしれない。あの赤くなった空がこの世界に破滅的影響を齎すのだとしたら、あれを放置するわけには行かない。
放置した結果、この世界が崩壊したり私が元の世界に帰れない……なんてことになっては困るから。
なにをどうすればいいのかはわからないけれど、最終目的地はおそらくテンガン山。テンガン山は時空の裂け目に一番近い場所だから、元の世界に帰りたい私としても避けては通れないだろう。ただ、問題はこの赤い空をどうにかしなければならないんだけど……。
「……なんにも見当がつかないんだよね……」
ある意味、詰み状態に近いかも知れない。とりあえず、テンガン山を目指してみようかな……。
「ガウ」
「ジンオウガ?」
どうしようと頭を抱えていると、頭上から声がかかった。見上げれば、ジンオウガが何かを言いたげに私を見ていた。
「どうしたの?もしかして、なにか心当たりが?」
「グルゥ……」
尋ねてみるが、彼は力なく首を振るばかり。けれど、彼は巣穴の外をジッと見つめている。
……彼も彼で、なにか思う所があるのかもしれない。あるいは、彼なりの考えがあるのかな……?
「正直、私はどうすればこの状況を変えられるのかなんて、さっぱりわかんない」
「…………」
「どうすればいいのかさえわからない……けど、ジンオウガはそうじゃないよね?」
「……!!」
「行きたいところ、ある?それなら私、ついていきたい」
そう伝えてみれば、彼は小さく頷いた。……本当は、私がジンオウガから離れたくなくて咄嗟にウソとホントを混ぜただけなんだけど。
ジンオウガは巣穴から出ると、ある一方向へと顔を向けた。あっちって……方角的には東、になるのかな?黒曜の原野の東方面にある場所って……。
「紅蓮の湿地?」
「ガウ」
なるほど、ジンオウガは紅蓮の湿地に行きたいらしい。今は手段が全く見えてこない状況だし、もしかしたら行った先でなにか攻略の糸口が掴めるかもしれない。
「それじゃあ、行ってみようよ。紅蓮の湿地に!」
「ウオオォォーン!」
ジンオウガは遠吠えしながら尻尾を真っ直ぐに下ろしてくれた。私は尻尾から再び彼の背中に乗り移ると、彼は一気に加速して走り始めた。
……それにしても、わざわざ紅蓮の湿地になんて、一体何の用があるんだろう?
ジンオウガの背中に揺られ、休みを挟みつつ走り続けることおよそ四日。私たちは紅蓮の湿地にたどり着いた。今は試練の中洲の崖上にいる。紅蓮の湿地にたどり着くなり、彼は体を横たえた。アヤシシにライドするよりもずっと速かったから、一週間もしないうちにたどり着けたのもほとんど彼が走り続けてくれたおかげ。
だから、彼がここで休むというのなら、それに従うつもり。そもそも私が寝ている間はずっと寝ずの番をしてくれているし、何徹もした上に走り続けてきたのだから、そろそろ寝たほうがいいんじゃないかなとは私も思っていたところだ。だから、彼が素直に眠り始めたときは、とても安心した。私のために無理ばっかりしてほしくは、ないから。
私も彼の尻尾にもたれかかって、そのまま一眠りすることにした。……っと、その前に。
「しばらく寝るから、何かあったら教えてね」
「ロゼ!」
手持ちからロズレイドを出して、周囲の警戒に当たらせるのを忘れない。普段はジンオウガにしてもらってばかりだから、今度は私の番だよね。
少しだけ仮眠を取って、ロズレイドに起こされた頃にはすっかり夜になっていた。ロズレイドが起こしてくれた理由としては、ほかならぬジンオウガが起きようとしていたから、とのこと。
私が体を起こして伸びをしている間に、彼もゆっくりと体を起こした。
「良く眠れた?」
「ガウ」
「そっか。よかった」
ジンオウガも、ここ数日の疲れが無事に取れたようでなによりだ。彼が真っ直ぐに尻尾を下ろしたのを見て、ロズレイドをボールに戻して彼の背に乗った。しっかりと捕まってから合図を出して、ジンオウガは走り出した。
まず、彼はクマの稽古場の方向へ走った。川を飛び越えて羽音の原を北上し、毛槍の草原へとたどり着くと、再び川を飛び越えて深紅沼へとたどり着いた。ここは……以前、荒ぶったクイーンの件についてヒナツさんを探す時に、セキさんに忠告された場所だ。
『深紅沼の中心に小山のような岩があるんだが……いいか?アレを絶対に刺激するな。
不用意に触れたりしなけりゃ問題はないが……まぁ、とにかく近づくなよ』
深紅沼の中心にある岩……グレッグルたちが集まって日向ぼっこをしている岩だ。ジンオウガの向かう先には、あの岩がある。いや……ジンオウガ、あの岩を見てる……?
「(もしかして……?)」
私が考え事をしている間にも、ジンオウガは例の岩の方へと歩いていく。途中、オヤブンスカタンクがこちらに気づいて威嚇してくるも、例の岩が一瞬だけ動いた(ような気がした)と思うと、そのまま引き下がっていった。
日向ぼっこをしていたグレッグルたちまで散ってしまうと、ジンオウガは尻尾を真っ直ぐに下ろした。促されるまま私もジンオウガから降りると、彼は一際大きな声で鳴き声をあげた。
「ウオオォォォォォォォォォンッ!!」
深紅沼に、ジンオウガの咆哮が木霊する。それからしばらくすると、目の前の岩が激しく動き始めた!!それに合わせて大地が激しく揺れ始め、私は立ってることも困難になってジンオウガの前脚にしがみついた。
「な、なに……?」
ドッゴオォォンッ!!
「ギシャアオォォォォォォォォォォォォッ!!」
大地を割いて現れたのは、一匹のポケモンだった。
全身に岩石を纏ったかのような威容のある姿。
棍棒のように太く大きな尻尾と、翼膜まで硬そうな翼。
ジンオウガよりも一回り以上は大きい巨体。
一歩踏みしめるたびに大地を揺らす超重密度。
またしても見たことのないポケモンが、その姿を現した。
「お、大きい……」
ジンオウガの時も驚いたけど、まさかそれ以上の大きさのポケモンがいるなんて。以前、群青の海岸の静かな内海に30m級のドラゴンポケモンが棲んでいるという話をガラナさんとススキさんから聞いたことがあるけど……多分、あれは胴長という意味での大きいということだろう。
果たして、目の前のポケモンはどうか。目の前のポケモンの膝下なんて私の身長を優に超えている。カビゴンやハガネールも相当に重いポケモンだが、このポケモンはその比ではないだろう。だって、自重で若干だけど足元沈んじゃってるし。
「こんな大きくて重くて、ただ存在するだけで危険が付き纏うポケモンなんて、そりゃあセキさんも警告するよね……」
「……?」
「あ、えっと……貴方のこと、ちょっとだけ話に聞いてたの。コンゴウ団って人たちにね。遠目からは時々見てたけど、こんなに大きいなんてちょっと予想外だったよ」
「ヴゥゥ……」
それにしても、グレッグルやスカンプーたちはこんな巨大ポケモンがすぐ近くにいても、全く恐れていた様子がなかった。むしろ、このポケモンの存在に頼っていたようにも思える。もしかすると、共存していたのかもしれない。
しばらく呆然と眺めていたけれど、ジンオウガがゆっくりと目の前のポケモンに歩み寄った。合わせて、巨大ポケモンの方もジンオウガに近づいていく。すると、二匹はお互いの頬を摺り寄せ合い始めたではないか。見た目からして何もかも違うのに、もしかして仲間意識があるの……?
この二匹に、一体どんな関係が……。
「ショウ……?」
「……っ!!」
ジンオウガともう一匹について思考を巡らせていると、後ろから声をかけられた。咄嗟に振り返ると、そこにいたのはコンゴウの長であるセキさんだった。
相棒であるリーフィアも、すぐそばに控えている。
「……セキ、さん……」
「……よう、ショウ。……なんとか、元気でやってるみたいだな」
「……ええ、おかげさまで」
「「…………」」
会話が続かない。けれど、それも仕方のないことかもしれない。
片や組織のために恩人を見捨てた者。
片や恩を仇で返され信頼を失った者。
お互いの距離感が掴めず、ただ無為に時間が過ぎていく。セキさんはこういうの、好きじゃないはずなのに。
「グルルルル……!」
「ヴゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"……」
同じくセキさんに気づいた二匹が、唸り声を上げている。ジンオウガに至っては、私を守るように立ち塞がってくれた。ハガネールよりも大きい二匹のポケモンに睨まれては、さすがのセキさんといえどたじろいでいた。
「……っ。そっちのデカイ狼ポケモンは、初めて見るな。ショウ、一緒にいるところを見るに、あんたのポケモンか?そんなポケモンを連れて、何をする気だ?」
「グルァッ」
「……大丈夫だよ、ジンオウガ。私は平気、だから」
「…………」
セキさんがジンオウガを見て、警戒しているようだった。ジンオウガもジンオウガで、セキさんの警戒心を感じ取ったのか「やんのかコラァッ」と言わんばかりに低い声を出した。
私はジンオウガを宥めると、彼の前へと歩み出た。守ってもらってばかりじゃダメ。ジンオウガにも、後ろにいるもう一匹にも、私の覚悟を見て欲しいから。
「……何を、ですか。そんなの決まってますよ。私が時空の裂け目から落ちてきてから、ずっと考えていたことです。
ギンガ団の仕事が忙しすぎて、一度は忘れちゃいましたけど……彼が、ジンオウガが私に思い出させてくれたんです」
「ジンオウガ……聞いたことのない名前だな。そんなポケモンがこのヒスイ地方にいたとは……」
セキさんは驚いている。たしかに、ギンガ団よりも早くからこのヒスイ地方で生きているコンゴウ団やシンジュ団の人たちすら知らないというのも、不思議な話だ。けれど……そんなことは私にとってはどうでもいいことだ。
ジンオウガは私の心を救ってくれた。裏切られて傷ついた私に寄り添ってくれた。私にとって、手持ちポケモンたちと同じくらいにかけがえのないポケモンなんだ。
「……私の目的は、ただ一つ。私のたった一つの願い……そう、元の世界に帰りたい」
「……!!」
「あの時空の裂け目を通って、元いた私の時代に、世界に帰りたい。たったそれだけ……それ以上もそれ以下もなく、それ以外もない。私は、私が生きる場所に戻りたいだけなんです。
……その邪魔をするなら、セキさんといえど容赦はしません」
私はモンスターボールを構えてセキさんを脅しつける。黒曜の原野から紅蓮の湿地までの道中でたくさんのポケモンと戦ったし、なんなら手持ちポケモンたちはジンオウガに稽古をつけてもらってから目に見えて急成長している。今なら誰にも負ける気がしない。
セキさんの相棒であるリーフィアが、私がボールを構えると同時に前に出てきた。戦うつもりなら、私は……!
「よせ、リーフィア。下がるんだ」
「……フィ」
しかし、セキさんがリーフィアを宥めて下がらせてしまったので、バトルの空気は一瞬で霧散した。私もモンスターボールを腰につけなおす。まぁ、バトルをしないで済むならそれに越したことはないので、正直ホッとしている。
……心なしか、後ろにいるジンオウガたちがてんやわんやしているような気がするけれど、気のせいだろうか。
「ショウ、オレは別にあんたの邪魔をするつもりはない。だが、ギンガ団を追放されたあんたを心配していなかったといえば嘘になる。コンゴウ団もシンジュ団も、みんながあんたの身を案じている……それは本当だ」
「私を受け入れられなくても、ですか?」
「……そうだ」
ああ、セキさんごめんなさい。本当はこんな意地悪な事を言うつもりはないのに、どうしても口を突いて出てしまう。吹っ切れたつもりでいたけれど、やっぱり私はまだまだだ。
カイさんの「世界は広くて私は小さい」という言葉を思い出した。ジンオウガたちみたいな大きな存在に対して、私は随分とちっぽけだ。感情一つに振り回されて心を荒立たせているうちは、己の願いを成就するなど夢のまた夢だ!しっかりしろ、私!
「あんたはこの赤い空をなんとかしようとしてるんだろ?……表立って助けることはできないから、こっそりと助けてやるよ」
「セキさん……お気持ちは、嬉しいです。けど……」
私は後ろから顔をのぞかせたジンオウガの頬をそっと撫でた。目を細める様子は「それでいいのか?」と問われているように感じる。うん、わかってる。でも、もう決めたんだ。
「セキさんの手は、私……まだ、取れません。
同じ人間よりも、まだ彼らの方が信頼できますから……」
「……っ。そう、か……」
私はムラでの一件から、人を信じることが怖くなっていた。また裏切られたら、また利用されたら、また傷つけられたら……そんな悪い想像ばっかりが脳を支配して、私を臆病にさせてくる。
セキさんのことも、シンジュ団のカイさんのことも、本当は信じたい。けれど、怖い。テル先輩やラベン博士やシマボシ隊長、それにみんなも……信じたいけど、怖い。
今の私にとって信じるのも、信じられるのも、ポケモンだけだ。
「ただ、まあ何かあったら必ず駆けつけてやるからよ……それだけは覚えておいてくれ」
「……はい。セキさん、ありがとうございました」
ごめんなさい、セキさん。こんなにもいい人であるあなたを信じられなくて。臆病な私でごめんなさい。
セキさんはリーフィアを伴って集落の方へと去っていった。正直、これでよかったのかなんてわからないけれど……でも、私自身の心を守るには、おそらくこれが最善手。ほかに方法なんて思いつかないよ。
……あっ、そういえば……。
「ごめんね、ジンオウガ」
「……?」
「あ、その……ゲットしてないのに、私の手持ちみたいに思われたから……。
えっと……嫌、かなって……思って……」
「…………」
ジンオウガはフルフル、と首を横に振ると、またいつかみたいに微笑んで見せた。よかった……どうやら嫌じゃなかったみたい。
……ゲット、しなきゃダメかな。これからしばらく一緒に行動するうえで、捕獲していないというのは危険かもしれない。私が、というより、彼らが。
コンゴウ団とシンジュ団はともかく、ギンガ団はモンスターボールによるポケモンの捕獲術を持っている。もし彼らが未捕獲状態で、ギンガ団の誰か――それこそテル先輩のような手馴れた人――に捕らえられたら?今は私の味方であるジンオウガが、私の下を去ってしまうのではないか……そう思うと、途端に怖くなってきた。
かといって、無遠慮に捕獲するのも気が引ける。彼は私の手持ちでないにも関わらず、私のために動いてくれた。それを、捕獲して強制するというのは、彼に対して失礼なのではないかと考えてしまう。……セキさんとリーフィアや、カイさんとグレイシアは、きっとこんな関係だったんだろう。
ボールを使わずとも、協力し合える関係……私とジンオウガは、まさにそんな関係だ。
そもそも、彼らはポケモンなんだろうか……?ヒスイ地方が完全な並行世界だというのなら納得出来るけど、私が生きた時代・世界と直結した過去だというのなら、どうしてこれほどの存在感を持つポケモンが未来の時代に存在していないのだろう?なにより、未来においても彼らのようなポケモンが過去に存在したという話すら、ひとつとして聞いたことがない。
何かしらの理由で絶滅したなら、化石ポケモンとして発見されてもおかしくないだろうに……彼らの存在があるからこそ、私は一概にここが過去の世界だと決めつけられないでいる。
まぁ、いいや。その時は私が彼らの存在を絶やさず伝え続けるだけだし。……できるだけ未来と整合性が取れるような伝え方をしないと。
……って、違う違う、話が逸れた。彼らを捕獲していいのか、そもそも捕獲できるのか……ここは本人に聞いてみようかな。
私は空のモンスターボールを取り出すと、それをジンオウガに突きつけた。
「ねえ、ジンオウガって捕まえても大丈夫?そもそも捕まるのかわからないんだけど……。
もしよかったら、私の仲間になって欲しいな……」
「グル……」
ジンオウガは私が持つボールにそっと近づくと、鼻先でボールのスイッチに触れた。その直後――
――ポシュン
「あ」
「ヴァ」
一瞬、光に包まれたかと思うとジンオウガがボールの中に入ってしまった。私と、隣にいる岩ポケモンの声が重なる。小さく揺れたあと、捕獲を示す花火がボールから打ち上がり、ジンオウガを捕獲……出来てしまった。
「捕まっちゃった……」
「ヴァー……」
隣にいる彼も、心なしか呆れたような声を出している。私は改めて彼をボールから出そうとして身構えて……一瞬だけ考えてから、ボールを投げた。
「出てきて!ジンオウガ!!」
「ウオォォンッ!」
私がその名を呼べば、ボールから出てきたジンオウガが勇ましく吠えた。
……ヤバイ、どうしよう、すごく嬉しい。油断するとにやけちゃいそうになっちゃう。私と彼との間に、明確な『仲間』としての繋がりが出来たのだと思うと、安心と喜びの感情が大挙して押し寄せてくる。
「ヴァー、ヴァー」
「あっ……あなた、も?」
「ヴゥアア!」
感動に浸っていると、岩のポケモンが「自分にも!」とばかりに私に顔を寄せてきた。どうやら、彼も仲間になってくれるみたい……嬉しい!
私はもう一つボールを出すと、スイッチを彼に押し付けた。そのまま中に入ると、小さく揺れた後に花火が上がる。未知のポケモン、二匹目捕獲。ラベン博士が二匹を見たら、驚いて腰を抜かしちゃいそうだね。
すると、ジンオウガが尻尾を真っ直ぐ下ろしていることに気がついた。
これは、ジンオウガが移動を考えている合図!私はすぐに尻尾から背中へと乗り移る。
「行こう、ジンオウガ!」
「ガウッ!!」
ジンオウガは再び走り出す。
今、私の心はとても充実している。やはり、ジンオウガともう一匹の彼が仲間になってくれたこと……これほどに嬉しいことはない。夜の紅蓮の湿地を駆け抜け、私たちは霧の遺跡へとたどり着いた。……どうやら、ここで一泊する予定らしい。
「……そうだ」
ジンオウガから降りて食事の準備を終えたところで、私は例のもう一匹をボールから出した。
「何か用?」と言いたげに首を傾げるそのポケモンは、見た目の厳つさに反して可愛らしさがあり、なんかギャップが凄かった。
「自己紹介、しようと思ってね。私、ショウっていうの。よろしくね」
「ヴゥア!」
「あなた、ジンオウガとは知り合いなの?出会った時、すごく仲よさげだったし」
「ヴァ」
ジンオウガとの関係を尋ねればはっきりと頷いてくれた。そうだったんだ……!
やっぱりジンオウガがここに来た目的は、この目の前のポケモンに会うためだったんだね!
「それで、あなたの名前は……あ」
「ガ」
「ヴァ」
名前についてジンオウガの時のように考えようとしたら、彼の顔面に何かが張り付いた……って、アンノーン!?
「あ、アンノーン?」
「ノーン」
「もしかして、放牧場からわざわざ飛んできてるの?」
「ノン、ノーン」
「あっ、お疲れ様です」
また、アンノーンだ。しかも、ジンオウガの時と同じく放牧場から直接飛んできてるみたい。
……遠いだろうに、お疲れ様。
また、複数のアンノーンが飛んできて、岩ポケモンの前に整列した。私はアンノーンたちの並びを、再び左から解読した。
「ぐらび、もす……あなたの名前は『グラビモス』ね!」
「ヴアアォォォ!」
私がそう告げれば……グラビモスは嬉しそうに鳴き声をあげた。けれど、それからすぐにジンオウガの方へと睨みつけた。
睨まれたジンオウガは一瞬だけビクッ、と反応するとそろりそろりとその場を離れようとする。
「ギシャアアアォォォ!!」
「グルアアァァッ!?」
それから、なぜか怒り始めたグラビモスがジンオウガを追いかけ始め、ジンオウガもジンオウガで必死に逃げ出す、というよくわからない鬼ごっこが始まった。霧の遺跡をグルグルグルグル……霧の遺跡に生息しているラルトスやキルリアたちが突然のモンスターチェイスに怯えたように一ヶ所に集まっていた。
「こら、二人共ー!その辺にしなさい!!」
私が大声で叫ぶと、二匹はピタリ、と動きを止めた。そのまま目の前まで来るように促すと、二匹をそのまま地面に座らせた。
「……よくわからないんだけど、ジンオウガがグラビモスを怒らせるようなことをしたんだよね?」
「ヴァ、ヴァ」コクコク
「ガウ」フルフル
私が確認をすると、グラビモスは頷き、ジンオウガは首を横に振った……直後、グラビモスがジンオウガを尻尾でしばいた。すると、掌を返したようにジンオウガも勢いよく頷いた。
「じゃあ、ジンオウガはグラビモスに謝って、それで仲直りしよう?」
「ガウガウ」
「ヴァー」
ジンオウガがグラビモスに頭を下げて、グラビモスが器用に翼でジンオウガの頭をポンポンと叩く。なんだか、すごく軽快なやりとりだなぁ……これは相当、付き合いが長いに違いない。
アンノーンたちにも感謝を忘れない。どうしてアンノーンがジンオウガたちの名前を知っているのかは謎だけど……この際、些細なことだ。気にしないでおこう。
コトブキムラに飛んでいくアンノーンたちを見送ってから、私たちは食事を取ることにした。
「それじゃあ、ご飯にしよう。……グラビモスは、何を食べるの?」
「ヴァウァ」
のそのそと立ち上がったグラビモスが、続いてドタドタと走って行き……戻ってきた時には、その口にサイホーンを咥えていた。
「……岩ポケモンが主食なのね?」
「ヴァウ」
岩ポケモン……つまり、鉱物ってこと?鉱石や鉱物をご飯にするなんて、すごい食事事情だ。
……そうか、深紅沼のすぐ近くにはゴローンが生息するゴロゴロ坂がある。だから深紅沼に棲んでたんだね。
私の手持ちポケモンたちも含めて、食事を開始する。私の今日の夜ご飯は、すぐ近くに生息するベロリンガだった。……ベロリンガのタンって、あんなに美味しかったんだね。ヤドンの尻尾と同じか、それ以上だった。
それから、今日の寝ずの番は私のポケモンたちにしてもらうことにした。……ジンオウガとグラビモスが文句を言いたげにしてたけど、ジンオウガはつい数日前まで何徹もしてるから絶対にダメです!グラビモスも、出会ったばかりなのにそこまでしてもらうわけには行かない。
二匹を説得して、なんとか納得してもらえたところでボールに戻す。私は手持ちを総動員して寝ずの番を頼むと、すぐに就寝した。
……次は、どんなポケモンに出会えるんだろう。もしかしたら次は、群青の海岸かも知れない。
静かな内海の30m級ドラゴンポケモン……どんなポケモンなんだろう。不安と楽しみ、まだ見ぬポケモンに思いを馳せながら、私の意識はゆっくりと沈んでいった。
気づけば感想を確認する日々……これが感想乞食……これが沼か……