視界に眩しさを感じて、ゆっくりと目を覚ます。どうやら、私は気絶していたようだ。ゆっくりと体を起こすと、視界の左側がよく見えていることに気づいた。
「みんな!ショウが起きたよ!!」
「「「「ショウ!!」」」」
と、目を覚ますと同時に複数の顔が視界を埋め尽くした。まず最初に顔を覗かせてきてくれたのは、セキさん、カイさん、シズカさん、ニールさんの四人だ。
シズカさんが私の体を起こしつつ、鏡を持ってきてくれた。そこに映っている私の顔からは、罅割れが完全に消えていた。
「おぉ!ばっちり呪いは解けたみてぇだな!」
「よかった……!本当に良かったよ……!!」
「ショウ……無事で良かった……!」
「アカイ殿からの手紙で解呪は聞いていたが、やはり起きているところを直接見るまでは不安でな……けど、ちゃんと無事みたいで良かった!」
「ありがとうございます!!」
みんな揃って"良かった"と口にする。私も嬉しくなって、満面の笑みでみんなの言葉に応えた。……っと、それだけじゃなかった!ほかにも気になることがいくつかあるし、聞いておかないと……。
「えっと……他のハンターさんは……」
「グレンさんもアシュリーさんも、自分の管轄に戻っていったよ。二人からショウに『お大事に』って伝言も預かってる」
「そうですか……ちゃんと、面と向かってお礼を言いたかったんですけど……」
「ふふっ……そういうところショウらしいね」
どうやら援軍としてやってきたハンター二人はもう帰ってしまったらしい……うーん、仕事が早い。
「それじゃあ、モンスターたちも……?」
「うん。……あぁ、いや、全部ではないかな。テオ・テスカトルとナナ・テスカトリはショウが運ばれていったらすぐにどこかへ飛んで行ったけど、オオナズチとクシャルダオラは私たちと一緒にこっちに帰ってきたんだ。二頭の方はショウのジンオウガと一緒に説得して、なんとか技巧種研究のために留まってもらったの」
「そうなんですか!」
「えぇ。(オオナズチは絶対に話の内容を分かってない気がするけど……大丈夫かしら?)」
オオナズチとクシャルダオラは、まだ人間に協力してくれるみたい……古龍種の技巧種なら、きっと研究も大幅に進むよね?
それからシズカさんに続いてニールさんも話しかけてくれた。
「それと、ショウが起きたら大長老が是非話をしたいと言っていたぞ。まぁ、無理のないようにとも言われているから、ショウの好きにしたらいい」
「いえ、行きます。ここまで色々としてくださったのに、何もしないで帰るわけにはいきませんから」
「そうか……わかった。それじゃあ、俺は飛行船の準備をしてこよう。シズカ、ここは任せてもいいね?」
「はい。準備ならネネも引っ張ってってください。そのときは……」
「わかってる、遠慮なくシズカを引き合いに出させてもらうよ」
「お願いします」
軽くやり取りをしてから、ニールさんは部屋を出ていった。
……なんだか、シズカさんとニールさん、以前よりも距離感が近くなってるような……具体的には、ニールさんはともかくシズカさんの方からも歩み寄ろうとしているかのような……。
「それじゃ、俺たちもニールの手伝いでもするか」
「そうだね」
「そういえばウォロは?あいつはどこに……?」
「ウォロさんか?たしか、"ヒスイでも役立ちそうなアイテムを仕入れてきますね!"って言って、機嫌良く出て行ったけど……」
「今すぐ止めて可及的速やかに速く速く!!」
「わ、わかった!」
あんちくしょうめ、ここぞとばかりに好奇心を満たそうとしやがって!アイテム収集もどうせ口実……いや、半分は本気かもしれないけどそれでも異世界同士の物物交換はいらんことを招きかねない!
私の剣幕に押されたからか、先輩は慌てた様子で出て行った。あとに続くように、セキさんとカイさんも出て行く。……なんか先輩、終始私のことを顔を赤くして見つめていたけど、どうしたんだろう?
「慕われてるね、ショウ」
「えへへ……」
「それで?私に何か聞きたいことがあるんでしょ?」
「……っ!どうして、それを……」
「だって、起きてからほとんど私の方を見てたでしょ?大丈夫、今は誰もいないし……答えられる範囲でなら、なんでも答えるよ」
なんでも……それなら、ひとつしかない!
「……シズカさんは、私のお母さんのことを……ミツリ・イナヅマのことを知ってたんですか?」
「ふんふむ……聞き返すようだけど、どうしてそう思ったの?」
「ソウヤさんからお母さんの仇の話を聞いたとき、教えてもらったんです。ソウヤさんが事故で死なせた人達の中に、お母さんの従弟……私にとっての叔従父であるコウキさんも居た、って。そして、コウキさんの友人にはシズカさんのお兄さん……リュウセイさんも居る。もしかしたら、シズカとお母さんがどこかで会っていてもおかしくないなって思って……
「……ああ、そうだね……。うん、知ってるよ」
「やっぱり……」
やっぱり、会ったことがあるんだ……ということは、コウキさんとリュウセイさんは他の友達と一緒に友達同士、家で遊びまわったりしてたのかな……?
「あの、お母さんの前世ではどんな人だったのか聞いても……?」
「いいよ。光梨さんはね、私が知る限りではいつもおっとりふわふわしていて、些細な失敗とかをよくするポンコツお姉さん、って感じだったな。あ、些細といっても大したものじゃなくてね?タンスの角に小指をぶつけるとか、扉を開けようとして扉よりも早く動いて頭をぶつけたりとか、テレビとビデオのリモコンを間違えたりとか、そんな程度のものでね……」
「ふふっ……なんですか、それ。お母さんって前世の頃からそんな調子なんですね」
「それじゃあ、今世でも?」
「はい!リモコン間違いはありますし、タンスの角に小指はぶつけるし、扉に頭だってぶつけますよ。あと、ポケモンのオスとメスの姿を間違えたり、技の名前を省略してポケモンを困らせたり……あ、手持ちにいる特性"さめはだ"のガブリアスに顔面からダイブしたときは大惨事で面白かったです」
「えぇ~……光梨さん、それはポンでは済まされないのでは……」
あの時は……うん、色々とヤバかった。"さめはだ"に顔から突っ込んで傷だらけになったお母さんを見て、いつもは物静かなお父さんが烈火の如く怒った姿は今でも思い出せる……うぅ、あれは怖かった……。
「それじゃあ、コウキさんのことも?」
「当然、知ってるよ。後ほかの友人である剛太さん、焔さん、剣介さん……焔さんの幼馴染の葵さんも。みんな、いい人たちばかりだった……。でも、私が知ってるのは兄を含めた四人が死んだことだけ……まさか、光梨さんも死んでいたなんて……。葵さんは大丈夫かな……まさか、葵さんもなんてこと……ないよね……?」
「シズカさん……」
シズカさんは、元いた世界にたくさんのものを置いてきてしまったんだ……きっと今も、誰かが後悔を背負って生きているかもしれない。同じ痛みを分かち合える仲間が次々と消えていって、残された人たちの心境は……。
「信じましょう」
「ショウ……」
「大丈夫……と言っていいかは定かではないですけど……お母さんだって転生して、第二の人生を幸せに生きています。他の皆さんも、前世の記憶があるかはわかりませんが、きっと転生して第二の人生を謳歌していると……生きている私たちが信じましょう」
「そんなこと……いえ、そうね。きっと、あるよね。私も、信じたい」
「案外、身近なところに転生しているかもしれませんよ?」
「ふふっ……なにそれ」
あぁ、ようやくシズカさんが笑ってくれた。前に読んだ『月刊 狩りに生きる』に載ってた関係者インタビューにあった通り、笑ったシズカさんは実年齢よりもだいぶ幼く見える。
……シズカさんの心の時間は、お兄さんが亡くなった時から止まったまま……まるでそう言いたそうに思えて、切ない気持ちになってくる。
「そういえばシズカさん、この服は……」
「あ……ごめんね、窮屈だった?」
「いえ!そうじゃないんです!ただ、この服って……」
紺のブレザー、白のカッターシャツ、薄グレーのミドルスカート……もしかして!!
「……シズカさんの、学校の制服……」
「あはは……実はこっちの世界に来たとき、ちょうど着ていたやつで……着ていた当時はショウと同年代だったから、サイズが合うかなと思って……」
やっぱり!シズカさんが元いた世界で着ていた学校の制服!!私の世界のトレーナーズスクールは私服が普通だったから、こういう規定された服ってちょっと興味があったんだよね。
「しばらくこれ、着てていいですか?」
「え"っ!?いや、その……」
「ダメですか……?」
「うぐぅっ!?……わ、わかった」
「やったぁ!!」
起きてしばらくたったので、体も動かせるくらいにはなってきた。私はそのままの格好でシズカさんと共に宿の外へ出た。中央広場を経由して飛行場に向かうと、飛行準備を終えて飛行船と繋がれたリオレウスと共に会話に興じているであろうジンオウガの姿があった。
「ジンオウガ!リオレウス!」
「「!?!?!?!?」」
二頭の姿が見えたことが嬉しくて声をかけると、振り返った二頭は驚愕に顔を染めて硬直してしまった。それからゆっくりと目だけでアイコンタクトすると、リオレウスが叫びそうになったところでジンオウガが前足を使って口を押さえた。
それから顔を寄せ合うと、器用にリオレウスの口元へ指を当てつつ首を横に振った。それを見たリオレウスもコクコクと頷いている。……どうしたんだろう?
「二人共、どうしたの?」
「「グオグオ!/ワンワン!」」ブンブンブンブン
尋ねてみると、二頭共揃って物凄い勢いで首を横に振り始めた。……何でもないなら、別にいいんだけど……なんで二頭してニヤニヤしてるのか、謎すぎるんだけど……。
「ショ……ッ!?」
「あ、先輩」
船から降りてきた先輩が私を見て……ジンオウガたちと同じ様に固まってしまった。それからみるみるうちに顔を赤くしていって、ついに私から顔を逸らしてしまった。
「先輩、どうしました?」
「な、なんでそんな破廉恥な服を着ているんだ!?」
「破廉恥……?」
確かに下はスカートだけど、ミドルスカートだしそうそうめくれることは……いや、こればかりは時代の違いか。……よしっ、ここはひとつ……。
「ダメですよ、先輩。これは未来の学び舎で常用される制服なんですから」
「ええぇぇええええぇっ!?嘘だろおい!!」
「嘘じゃないでーす。これが未来の常識なんです!」
「うっ……ショウがそう言うなら、そうなのかも……」
……ヤバイ、ちょっと楽しくなってきちゃった。
「とりあえずドンドルマまで行きましょう!大長老に会わないと!」
「それはいいけど、会うときはせめて元の団員服に戻せよな!?」
「はーい」
「ショウ、お前……なんか楽しんでないか?」
「そんなことないですけど」
「……じゃあ、いい」
……ふぅ、バレるところだった。
リオレウスに牽引してもらいつつ、飛行船で移動する。時間に追われることなくのんびりと移動……呪いのせいであまりゆっくりすることができなかったから、とても気持ちがいい。……今までそんな余裕もなかったから、同じように飛んでいたとしてもきっとこの風の気持ちよさなんて気付かなかったんだろうな。
「おっ?なんだか可愛らしい服を着ているじゃねぇか」
「ショウさん、どうしたのその服?」
あ、セキさんとカイさんも来た。
「これは未来の学び舎で常用される制服なんですよ」
「そうなのか!?」
「うわ、うわ……この服、すごいヒラヒラしてるけど大丈夫なの……?」
「リオレウスがゆっくり飛んでくれているので、全然平気ですよ」
うーん、やっぱりヒスイくらい昔の人にとって、現代の制服は斬新すぎるのかな?特にスカートに対する反応が顕著だから、そうかもしれない。
「どっかで見た格好だな」
「そうなのか、シュラーク?」
シュラークさんとニールんも来た。そのすぐ後ろをエイデンさん、少し離れてシズカさんとネネさんも一緒に来ている。みんな、頭防具を外しているから特に男性ハンター組は表情がよくわかる。
「あぁ。確か、シズカと最初に会った時に彼女が着ていたものだ。『ガッコウ』という学び舎の制服と言っていたな」
「姉様が着ていた!?」
うわっ、ネネさん反応、速……というか、近っ!?
「……ぐぬぬ、このサイズだとアタシは着れそうにありませんわね……」
「当然でしょ、七年前に着ていた服よ?今の私だって入るかはわからない」
「(こんな可愛い服を着て学び舎に?だとしたらシズカに良からぬ輩が近づいてきていたんじゃないのか!?今だってシズカは可愛くて綺麗なんだ、俺が男としてシズカを守ってやらないと!!それに七年前の服が今のショウとピッタリってことは、当時のシズカもこれくらいだったってことで……大きくなったなぁ……」
「おーい、シュラーク。途中から声に出てるぞー?」
「え"!?どこから!?」
「"当時のシズカも"~の辺りからですよ。まぁ、七年もあれば人は成長するものですから。……それはそれとして私がチビだって言いたいんですか?」
「ちがっ、違うっ!?誤解!誤解だから!!」
「姉様がどチビなクソガキですってぇ~~!?テメェの目は節穴かあぁぁぁっ!!」
「ネネくん!お前もか!?後、俺はそこまで言ってないしそんなこと欠片も思ってない!!」
……ニールさんの女難は当分はどうにもならなさそうだね。一方、シュラークさんとエイデンさんは私の格好を見て懐かしそうに目を細めていた。
「懐かしいなぁ、その服。シュラークが最初に『俺の弟子だ』ーって連れてきた時も、その格好だったんだよな」
「あぁ、よく覚えているね?七年も前だ、もう忘れたかもと思ってたんだけど」
「忘れられないって、こんな斬新な服装なんて。防具の機能性なんて全く皆無の、ただの衣服だって言うから本当に驚いたんだ。そこへ来てお前の弟子だぜ?そんなの、印象に残らないわけがないって」
「はははっ、そうかそうか。いや、そうだったな。あれから七年……本当に大きくなったよ、シズカは」
そう言って、シュラークさんはネネさんと共にニールさんに詰め寄るシズカさんに目を向けた。なんというか、今のシュラークさんからは父性のようなものを感じる。だって、今のシュラークさんの目は、ポケモンと遊ぶ私を見ていたお父さんと同じ目をしているし。……いや、それだけじゃないな。ジンオウガも、時々あんな目で私を見てくることがある。娘を見守る親のような……そんな、優しい目を。
……まさか、ジンオウガって……いや、そんなわけないよね。お母さんの件もあるので、一瞬「ジンオウガが従兄弟のコウキさんだったらな」なんて考えてしまった。流石に前世が人間なんだから、転生先が非人間は嫌だよね。コウキさん、ごめんなさい。
「なんか、その言い方だと師匠というより父親、だよな」
「俺にあんなでかい娘はいらないよ。……けど、子育ての大変さというのは身に染みたよ。多感な思春期に人生の全てを狩りに捧げようとする少女の成長を見守るのは、成長を喜ぶとともに心苦しいものがあった。
きっとシズカは……本来なら狩りとは無縁の、ごくごく平和な環境で育つべきだったんだ。それがなんの因果やら因縁やら、こんな殺伐とした世界に放り出されて……けど、俺にできることはこの世界で生きるために狩りの術を教えてやることだけだった。それがなんとも、歯痒かったよ」
「シュラーク……」
「シュラークさん……」
そうか……シュラークさんなりに、シズカさんを育てることに思うところがあったのか。まして、私もシュラークさんも、シズカさんが元々どんな場所で生きていたのかを知っている。だから、狩りに関わらないで済むならそれに越したことはないと考えてしまう。
まして、シュラークさんはシズカさんを狩りの世界に引き込んだと言っても過言ではない……だから、余計にその思いが強いのかな。
「シズカさんなら、大丈夫ですよ」
「「え?/ん?」」
「だってシズカさんの周りには、もう沢山の人がいますから。狩りの仲間であるニールさんに相棒のネネさん、お師匠さんのシュラークさんにエイデンさん……『我らの団』の皆さんや、今までシズカさんにクエストを達成してもらった人たちだって。
沢山の人がシズカさんの事を知っていて、そしてシズカさんのことを覚えています。だから、シズカさんはもう独りじゃない。こんなに素敵な人達に囲まれているんですから」
「……そう……か……。ありがとう、ショウくん。そう言って貰えて、嬉しいよ」
シュラークさんの微笑みから影がなくなった。そうだ、ほかならぬシズカさんが現状に後悔していないというのに、シズカさんをこの現状に引き込んだ当人が後悔に近い念を抱いているなど、きっとシズカさんは許さないだろうから。
……さて、私もそろそろ行かないと。
「それじゃあ、私も失礼しますね」
「ん?どこに行くんだ?」
どこ?そんなの決まってる。
「見境なしに見聞を広めようとした猫をとっちめてやろうかと」
「……はい……?」
好奇心は猫ニャースをも殺す、って言葉を骨身に染みるほど教えてあげないとね?
久々に長い時間をかけて移動し、私たちはドンドルマに到着した。私も正装という意味でギンガ団の制服に着替え直し、船を降りた。
「それじゃあ、早速行きましょうか」
「だな」
「うん」
「……あの、ショウさん?なぜにジブンは殴られたのでしょうかね……」
「手当たり次第に声をかけては物を売りつけようとする悪徳商人を黙らせるにはこれが手っ取り早いからよ」
「ひどい……!ジブンは商人としてまっとうな働きを……!!」
「進化の石なんて使い道のわからない石を売っただけでしょうが!」
頭にたんこぶを一個作ったウォロが頭を摩りながら私に抗議してきたけど……問答無用です。先輩が止めに行った頃には、ウォロは既にポケモンを進化させる道具をいくつか売りさばいたあとだった。特に進化の石は秘められたエネルギーに注目が集まり、龍歴院にはかなり売れ行きがよかったとか。
そして、今回のウォロの愚行に目くじらを立てているのは私だけじゃない。
「本当になんてことをしてくれたのよ、この好奇心爆弾魔」
「ば、爆弾魔だなんて心外ですけど!?」
「お前の好奇心は爆弾も同然よ。爆発したら本当に余計なことしかしない」
「姉様を怒らせるなんて、とんだ命知らずだこと……」
実はシズカさんもウォロの一連の行動を知り、腹を立てるまではいかないがイラッとしていた。幸い、進化の石以外は研究目的にも使えないものが多く、主に蒐集家が買い求めていたようだ。
そして、先ほど述べたとおり進化の石は龍歴院が大量に買い占めていった。なんでも「属性エネルギーが鉱石に込められているなんて、一体どういう原理なんだ!?これは技巧種研究の役に立つかも!!」と言って、ほのお、みず、かみなり、こおりの石を買っていったとか。それだけならわかるが、リーフやたいよう、つきにめざめ、ひかりにやみと、この世界の五大属性以外の石も買っていったそうだ。……研究に活かせるといいけど。
「今後は売るにしても、ちゃんと私やシズカさんに相談すること。そうじゃないと、ギルドから"怪しい物を売ってる露店主がいる"って通報されるよ」
「えぇ!?うぅ……わかりました」
「(本当にわかってんのかこの黒幕……)」
一応、ウォロに釘を刺しておいたけど……イマイチ信用ならないのか、シズカさんはジト目でウォロを睨んでいる。……わかります、その気持ち。
そうしておばかさんに制裁を加えつつ、私達は大老殿にたどり着いた。中には入り、顔から包帯が取れた私を見て、大長老は顔を綻ばせた。
「おぉ、ショウ殿。……うむうむ、呪いは無事に解けたようじゃな」
「ありがとうございます!これも大長老をはじめ、ドンドルマやメゼポルタの皆さん、そしてハンターの皆さんのお力添えあってこそです!皆さんに救われたこの命、大切にします!!」
「ムォッホン!それは良かった!ハッハッハッハッ!!」
大長老の豪快な笑い声が響き、その声につられるように皆が顔に笑みを浮かべていた。……よしっ。
「……あの、大長老様」
「ん?如何したかな、ショウ殿」
「私、みなさんにこの御恩をお返ししたいです。なにか、できることはないですか?」
「……ふむ、良いのか?」
「はいっ!ここまで私たちが力を貸してもらってばかりでした……なので、今度はこちらから協力させてください!」
実はこの恩返し、前々からずっと考えていたことだ。ここまでたくさん助けられてきたのに、恩の一つも返さないでヒスイに帰るなんてできるわけがない。
「え?ここはヒスイに戻って対黒龍をするのでは?」
「もう、野暮なことは言うものじゃないわよ、ダイアー。アカイから聞いてたでしょ?」
「いやいや、てっきり叔父上なりのジョークかと……けど、そうだな。むしろそのほうが彼ららしい」
ダイアーさんとシロちゃんの会話が後ろから聞こえる。
アカイさんは黒龍を監視するため、クロノの追跡を始めた。それと入れ替わる形で、ドンドルマで留守番をしてくれていたダイアーさんと合流したのだ。ダイアーさんにクロノのことを話すと「あいつはやんちゃ盛りだからなぁ」と笑っていた。ふむふむ、クロノはやはり見た目通りの年齢と……それでいてアカイさんの実弟であるクロノの方が甥のダイアーさんより年下……アカイさん、一度家系図を見せてもらっていいですか?それと、そろそろシロちゃんが誰の子なのか、もしくは誰の妹なのかも教えてもらっても?
「そういうことでしたら、我々龍歴院からトレーナーの皆様に協力を要請させてください」
「ふむ、主席殿。申してみよ」
「はい。実は巨大ティガレックス討伐後から、世界各地で技巧種の存在が確認されるようになりました。今はまだ数は少ない方ですが、なにぶんハンターの皆様は技巧種の狩猟経験に乏しく……現状、捕獲できた技巧種も四頭しかおりません。
そこで、トレーナーの皆さんにも技巧種捕獲を支援していただくとありがたいのですが……。それと、よろしければ技巧種について知恵もお貸しいただけると幸いです」
「それくらいでしたら、喜んで!」
「本当ですか!ありがとうございます!!……いやぁ、今のところ技巧種に関してはウチのネネくらいしか理解に明るい者がおらず、困っていたのです。ほかの学者は皆、少々頭が固いところがありますから……」
「フンッ!だからアタシは普段から言っているんです……"姉様を見習え"と!!」
「オイ、私を引き合いに出すなバカ」
ドヤ顔でそんなことを宣うネネさんにシズカさんがツッコミを入れるも、気分が良いのか聞こえていないようだった。……あ、シズカさんの口元がひくついてる。
「では、ショウ殿。そのようにしてもらって良いか?」
「はい、大長老様。お任せ下さい」
「とりあえず、ショウは残って協力してくれ」
「……え、ちょ、はいっ!?」
せ、先輩!?なんてことを言うんですか!私だけ留守番だなんて!!
「なんでですか!?」
「なんでもなにも……今までさんざん無理してて、ようやく呪いが解けたんだろ?そんな病み上がりを、いきなり連れて行ける訳無いだろ」
「そうだぜ、ショウ。おめぇがハンターのみんなに助けられたって言うなら、オレたちだってショウに助けられっぱなしだ」
「そうそう!ショウさんもたまにはゆっくり休んで、私たちに任せてよ!」
「少しくらい休んでも、バチは当たりませんよ」
「……どうしても?」
「「「「当然」」」」
「そんなぁ……」(;´д`)トホホ…
うぅ……そう言われてしまってはどうにもならない。私は大人しく留守番をすることになった。
見送りのために大老殿を出て、飛行船に乗り込むみんなを見守る。そんな時、ちょうどセキさんが何かを思い出したように手を打った。
「おっ、そうだ!すっかり忘れてたぜ」
「……?セキさん、どうかしましたか?」
「あぁ!二人の新しい門出に、何か祝いをしないとと思ってな!」
「はい?」
「わああぁあああぁぁあぁぁぁあっ!?」
私が首をかしげ尋ね返すとそれとほぼ同時に先輩が私たちの間に割って入ってきた。……なんか顔赤いけど、大丈夫?
「どういう意味です?」
「ショ、ショウ!これは、あの……!」
「どういう、って……お前ら、付き合い始めたんじゃないのか?」
「えぇ?」
「どわあぁああぁああっ!?」
先輩、ちょっと黙ってください。
「どうしてそんなことを……」
「え?ショウさんから告白して、テルさんも告白を返したって聞いたけど……」
「……あぁ!」
なるほど、そういうことか!!
「先輩!」
「あ、う……な、なんだ、ショウ……?」
「先輩も私と同じ夢を見たんですね?」
「「「「え」」」」
なぁんだ、びっくりしたぁ。そうならそうと、ちゃんと説明してくれればいいのに。
「実は私、アルバトリオンに勝ってから気絶してて……気が付いたらベッドの上で、みんなが私の顔を覗き込んできて驚いたんですよ?でも、その間に夢を見てて……その、恥ずかしながら先輩に"好き"って言ってた夢だったんです。
あんまりにも恥ずかしすぎて、夢の中とはいえ先輩に申し訳ないなって思ってたんですけど……まさか、先輩も私と同じ夢を見ていたなんて……うぅ、なんか、恥ずかしいですね……!」
「…………」( Д )チーン
「……あれ、先輩?」
せ、先輩が白目をむいて気絶してる……だと……!?
「……あー……お、同じ夢を見るなんて、やっぱり二人の相性はいいんじゃないか!?」
「あ、うんっ!そうだよね!同じ夢を見るなんてそうそうないことだと思うよ!うん!」
「いや、流石にそれはムリが――」
「「お前は黙ってろ!!」」
「モガモガ!?」
セキさん、カイさん……うーん、確かに同じ夢を見るなんて偶然、あるんだろうか?そして、ウォロはなぜ口を塞がれているのか。
「……頑張れ少年。諦めなければいつかは伝わるさ……」
「ニールさん……!!」
「さあ、行こう。出先で土産話でも作って、彼女に聞かせてあげようじゃないか」
「はいっ!!」
あ、ニールさんが先輩に声をかけて……熱く握手を交わしている。あの二人、いつの間に友情が芽生えていたのか……。二人はそのまま飛行船へと乗り込んでいった。
「あぁ、やだやだ。これだから男というものは……姉様に相応しいのはアタシのような、器量の良いパーフェクト・ウーマンでなければ!」
「私はノンケだ」
ネネさんは相変わらずシズカさんに絡んでいるけど、これまた相変わらずシズカさんに受け流されている。ネネさんは今回、技巧種のレポートをまとめるために留守番のはずなんだけど……ギリギリまでシズカさんと一緒にいたいのか。
あと、シズカさん。貴女の場合ノンケというよりブラコンでは?……あ、睨んできた。ちょっと怖い。
こうして、ハンター達とトレーナー達は、技巧種モンスター捕獲のために旅立っていった。……あ、そうだ。後でシロちゃんやダイアーさんと相談して、何日くらい協力をするかを相談しないと。こういうのってアカイさんがいたらこっちから聞かなくても自然と決めてくれるから、ついつい頼りきりになっちゃってたな……。
一応相談したところ、シロちゃんは私が目覚めてすぐに祖龍とコンタクトを取り、ヒスイへつながる時空の裂け目を開くように頼んでくれたらしい。それによれば、祖龍から「十日待って」と返事が来たそうだ。
私が目覚めてから十日後……ドンドルマへの移動は、リオレウスが全力飛行していないので三日かかっている。七日間……その間に、こちら側でできることを頑張らないと!
皆がハンターのお手伝いを初めて、今日で三日目。残りは四日だけど、龍歴院に送られてくる技巧種モンスターの数は圧倒的に増えている。ハンターとトレーナーの共同作業によって、捕獲作戦がスムーズに進んでいるからだ。
……え?私は何をしているのかって?私は……。
「……という理屈から、殻を脱ぎ捨てたり完全破壊には至らないダイミョウザザミがみず・いわの複合タイプであるのに対し、容易に殻を脱ぎ捨てるショウグンギザミにはいわタイプが含まれていないみず単タイプであると考えられます」
「「「なるほどぉ……」」」
はい、という訳で現在は技巧種モンスターのタイプ説明中です。アカイさんに代わって、私のフォローをしつつ一緒に説明してくれるのはダイアーさんだ。
今、説明しているのは盾蟹ダイミョウザザミと鎌蟹ショウグンギザミのタイプ違いについてだ。……というか、この二頭ってカニというより……いや、やめておこう。
「続いて、原種と亜種のタイプ違いについてです。題材に上げますのはこちら、惨爪竜オドガロンとその亜種、兇爪竜オドガロン亜種です。この二頭の違いについては、みなさんの方が良くご存知かと」
「亜種には、龍属性エネルギーが備わっていますからね」
「その通りです。そして、牙竜種に属するモンスターはその多くがかくとうタイプを持ち合わせています。
でんき・かくとうのジンオウガとトビカガチ、ドラゴン・かくとうのジンオウガ亜種、あく・かくとうのオドガロンとマガイマガド、ノーマル・かくとうのドスジャグラス、どく・かくとうのドスギルオスとトビカガチ亜種、ほのお・かくとうのドドガマル、こおり・かくとうのルナガロンといったふうに。例外はオドガロン亜種のあく・ドラゴンのみです」
「かくとう……格闘か。なるほど、確かに牙竜種のモンスターは骨格的にも肉弾戦を得意とする種が多い。それが、かくとうタイプに定義される所以かな」
「ジンオウガ、トビカガチ、オドガロン、マガイマガド、ルナガロン……この辺りが特に顕著ですね」
「原種オドガロンはあく・かくとうだが、オドガロン亜種はあく・ドラゴンか……」
「ジンオウガ種やトビカガチ種がどちらもかくとうタイプなのに対して、オドガロン種だけどちらもあくタイプなのよね」
「これも納得のいくタイプだと思うがな。オドガロン種があくタイプと定義されるのは、彼らの狩りのやり方からして納得がいく。そして、牙竜種特有のかくとうタイプを持つ原種と、龍属性エネルギーを持つ故にドラゴンタイプに定義された亜種……」
と、こんな感じで龍歴院の学者さんたちとタイプ相性とモンスターごとのタイプ定義について議論を交わしているのである。これがなかなか楽しい。気分はポケモン博士だ。
「海竜種は種によるがみずタイプが多いなぁ」
「ロアルドロス、チャナガブル、タマミツネ、イソネミクニ、オロミドロ……これらの原種はすべてみずタイプを持っている。その上でロアルドロスは亜種がどくタイプ、タマミツネとイソネミクニが共に原種のみフェアリータイプ、オロミドロも原種がじめんタイプを複合タイプとしている」
「海竜ではあるが、みずタイプを持たないのはでんき・ドラゴンのラギアクルス種、ほのお・フェアリーのタマミツネ希少種、こおり・フェアリーのイソネミクニ亜種、ほのお・じめんのオロミドロ亜種、ほのお・ドラゴンのアグナコトル、こおり・ドラゴンのアグナコトル亜種、じめん単タイプのハプルボッカ……」
「"海竜"種という名前だから、パッと見てわかる個体でないとみずタイプ持ちだと勘違いしそうですね」
海竜種……その名前からしてみずタイプが多いんだろうなと思っていたんだけど、意外とそうでもなかった。私が持つラギアクルスもでんきとドラゴンだし。
「獣竜種も面白いタイプ配置をしているぞ。例えばボルボロス種、ウラガンキン種、ドボルベルク種、ディノバルド種。こいつらは原種と亜種がそれぞれ片方が単タイプ、もう片方が複合タイプという関係性を持っている」
「ボルボロスは原種がいわ単タイプ、亜種がこおりとの複合タイプ。ウラガンキンも原種がいわ単タイプ、亜種がはがねとの複合タイプ。ドボルベルクは原種がくさ単タイプ、亜種がいわとの複合タイプ。ディノバルドだけはこれらと逆で原種がほのおと複合のはがねタイプ、亜種がはがね単タイプとなっている」
「タイプが一つしかない個体が多いな……それだけ獣竜種はシンプルな個体が多いということか?」
「確かにラドバルキンもじめん、バフバロもこおりの単タイプだ。……イビルジョーはあく・ドラゴンだし、アンジャナフ種はドラゴン共通で原種がほのお、亜種がでんきだけど」
「ブラキディオスもほのおとかくとうだろ?……まぁ、あの見た目でかくとうタイプじゃなかったら詐欺だろって思うけど」
「ふむふむ、獣竜種は原種と亜種で単タイプと複合タイプに分かれているものが多い、と」
私が知っている獣竜種はイビルジョーとアンジャナフ原種だけ。未だ出会ったことのない個体は単タイプが多いのか。
「やはり、モンスターのタイプはそれぞれの生活環境や持ちうる能力によって決定されているようだ」
「そうですね。私も概ね、その意見に同意します」
「トレーナーさんのお墨付きなら、早速メモしないと!」
……みんな、今頃どうしてるのかな。ここ数日、捕獲されたモンスターが移送されてくるだけで、みんなとは直接会っていない。久々に顔が見てみたいな……。
~テルの場合~
「そこだ!ギガインパクト!!」
「ライッ!ザアアアァァッ!!」
ライゼクスのギガインパクトが直撃し、ターゲットとなるモンスターが倒れた。その隙にニールが罠を仕掛け、モンスターを拘束。捕獲用麻酔玉を投げて捕獲を完了させた。
「よしっ、ベルキュロス捕獲完了!」
「お疲れ様です、ニールさん!」
「テルもお疲れ様。ライゼクスもありがとな」
「ラライ」
お互いに労い合い、戦ってくれたライゼクスにも生肉を渡して礼を述べる。輸送隊が来るまでの間、少しだけ話をすることにした。
「それにしても、トレーナーとモンスターは本当にすごいな」
「そうですか?」
「そうとも。ここまでドラギュロス、バルガラル、アクラ・ヴァシム、ガスラバズラ……そして今度はベルキュロスときた。かなりハイペースで狩猟しているが、テルは大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。……それに、ショウはもっと苦しく、険しい戦いを乗り越えてる。おれも、いつまでも負けてられないから」
「……そうか」
そう語るテルの表情は、決して焦りの表情はない。焦ってはいないが悠長にもしておらず、確実に己のペースで力をつけている。隣で戦い続けたニールには、テルの成長が手によるように分かっていた。
「さて、ニールさん!次は誰が相手ですか!?」
「落ち着け、テル。ここらで一息つこう。連日連夜狩りに出てたら、俺たちハンターはともかく君らトレーナーは体力が持たないぞ?」
「うっ……わかりました」
ただ、若さ故か無意識に急ぎ足になる傾向があるものの、いずれ大成すれば落ち着きを得て熟練の戦士になるだろう。ニールは一つの確信とともに、テルに飲み物を勧めるのであった。
~セキの場合~
あたり一面に広がるのは泡、泡、そして泡。右を見ても泡、左を見ても泡、地面も泡まみれとなり、もはや足の踏み場もない。そんなあわあわな空間にセキとエイデンは立っていた。
「……終わったか?」
「……なんとか」
「「ふ~~~~……」」
二人は同時に息をつき、その場に座り込んだ。そんな二人を労おうとしているのか、タマミツネが顔を寄せてくる。
「サンキュー、タマミツネ」
「……にしても、つっかれたなぁ……」
「あぁ……ハンターからは嫌われているとはよく聞くが、これだけ暴れまわられるとな……」
「そうだろ?こいつらは本当に……面倒なんだよ……」
そうして愚痴っていると、無事だったのだろう個体がのそりと姿を見せ、二人に向かって突撃し……そのまま泡に足を取られてカーリングよろしく滑っていってしまった。
「ブヒイィィィッ!?」
「……ファンゴってやつは、学習能力がないのか……?」
「突撃だけが武器だからな」
そう、二人の周囲には泡に足を滑らせ転がり続けるファンゴの群れがいた。泡が減って歩けるようになっても、察知したタマミツネによって何度も泡を吐きかけられるために延々とまともに歩けず、「走る→滑る→見事に転ぶ」の無限ループでまともな勝負にならなかった。
余談だが、群れのボスのドスファンゴは開幕泡をぶつけられ、滑った勢いで岩にぶつかりそのまま気絶している。
「お前が相棒で良かったぜ、セキ」
「こいつらは使える技的にもタマミツネと致命的に相性が悪かったみたいだな」
ファンゴとドスファンゴは、特性「すてみ」を獲得しており、そこから繰り出される反動技の威力はG級ハンターすら一撃でKOしてしまう破壊力を生み出していた。……ただ、その凄まじい破壊力を持った勢いで滑っていった個体は、もれなくドスファンゴの仲間入りをしている。
そんなわけで、まともに動けるファンゴが一頭もいなくなったところで息をついた二人はギルドに要請した睡眠弾持ちのガンナーと輸送隊の到着待ち状態で、滑りに滑ってお互いにぶつかりまくるファンゴたちを眺めているのであった。
~カイの場合~
雪山深くの洞窟の中を歩くのは、カイとシズカの二人だ。ガムートをボールから出していないのは、対象となる技巧種モンスターを警戒させないためである。
「……それにしても、流石はシンジュ団の長。寒さなんて平気へっちゃらなんだね」
「わたしからすれば、ハンターさんも気候には勝てないってことに驚いたよ」
「ハンターも人間だからね……ただ、一部地域に属するハンターはドリンクがいらないくらい体が頑強な人もいるよ。まぁ、暑がりなカイにはホットドリンクはいらなかったね」
「うん、もう絶対に飲まない」
クエストに出発する前、シズカが飲んでいたホットドリンクをカイも試しに飲んでみた。その結果、もともと暑がりだったカイの体がすごい勢いで火照っていき、全身から汗が噴き出したのである。「火吹き山の中にいるみたいだった」と、氷海の中に飛び込んだカイは語った。
「……ところで、今回の狩猟対象はどこにいるんだろう?」
「根気強く探すしかない。アイツはなかなか姿を見せないからね……けど、一度姿を見れば忘れられないはずだから。カイもしっかり探してね」
「任せてよ!」
そうは言ったものの、今回の狩猟対象についてカイは半信半疑であった。
曰く、最悪の化物
曰く、色白で可愛い
曰く、見た目通りの恐ろしさ
曰く、人形になるほど人気者
善し悪し一体の評価に、カイの頭は混乱した。そのため、前評判はひとまず忘れて、直接己の目で見定めることにした。
周囲を警戒し、常に気を張って歩き続ける。そんなカイの肩が、突然叩かれた。話しかけるような調子で、トントンと肩を叩かれ思わず振り返る。だが、そこには誰もいなかった。
「……?」
「どうしましたニャ、カイさま?」
「あ、ううん……?」
カイの後方を警戒していたリュウセイが振り返り、カイの様子がおかしなことに気づいて声をかけた。
「リュウセイくん。今、わたしの肩を叩いた?」
「……?いえ、叩いてませんニャ」
「えぇ……?」
答えてから、再びカイに背を向けるリュウセイ。……と、ここでまたカイの肩が叩かれた。今度は素早く振り返るが、少し離れた場所を歩いているシズカしか見えない。
「シズカさん」
「……?なに?」
「今、わたしの肩を叩いた?」
「この距離でどう叩けと」
「……その、ガンランスで?」
「いや、無理でしょ。……近くにいるのか?一体どこに……」
即答で否定すると、シズカもカイに背を向け……やや上を見上げ始めた。いよいよ謎が深まる……そして、三度カイの肩が叩かれた。それと同時にシズカが振り返る。
「あ」
「いるのね!?わたしの後ろに!」
「いや、そうだけど今振り返るのはマズ――」
「なにやつ!!」
シズカの忠告も無視して、カイは勢いよく振り返った。
そして――
「…………」( _ )
「…………」
真っ白なのっぺらぼうが視界いっぱいに広がっていた。
「…………」( ∀ )ニチャァ……
「――――」
かと思えばニッコリと笑みを浮かべて、その口内にある殺意高めの牙を見せつけてきた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?!?」
「(やっぱりフルフルって怖いよね)」
洞窟内にカイの絶叫が響く。対照的に冷静にガンランスを構えたシズカ。体感温度も反応に対する温度差もまったく真逆な二人が挑む、奇怪竜フルフルの捕獲クエストが始まった。
~ウォロの場合~
走る。走る。ひた走る。暑苦しい火山の熱にも負けないど根性を発揮して、ウォロはひたすら走りまくる。
「なんでジブンだけこんな役回りなんですか~~!?」
絶叫を上げながら走り回り、なんとか岩陰に隠れる。一息つくためにクーラードリンクを一気飲みし、ついでに渡された強走薬も飲む。
「はぁ……はぁ……恨みますよ、シュラークさん……!」
作戦を提案したシュラークは、とある地点にモンスターを誘導して欲しいを願い出た。ただ、そのためにはウォロ自身の力が必要だと。ついでにモンスターの生態も見られるので一石二鳥だと。ウォロは好奇心の赴くままに頷き、そして激しく後悔していた。
今だからこそ、ウォロは確信する。シュラークはとんだ狸野郎だと。そして、理解する。ショウから口を酸っぱくして言われた"好奇心は猫をも殺す"という言葉の意味を。
「……流石に、撒けましたかね?」
静かになったので、様子を見るために岩陰からそっと顔を覗かせた……その直後だ。
ドドドドドドドドッ!!
「ヒイィッ!?」
激しい地響きとともに何かが高速回転して転がってきていた。慌てて顔を引っ込めたウォロの鼻先を掠めてそれは転がり、やがて丸めていた体を戻して止まった。
爆鎚竜ウラガンキン。体を元に戻したウラガンキンはゆっくりと振り返り、ウォロの存在を認識した。
「ゴオオオォォォッ!!」
「ぎゃあああああっ!?」
そうして再び転がり始め、ウォロは全力で逃げ出した。やがて開けたエリアにたどり着いた、その時だ。
「ディイイィバッ!!」
エリアの入口で待機していたディノバルドが尻尾を一閃、ウラガンキンの足元を掬い上げて空高く打ち上げた。転がる姿勢のまま宙を舞うウラガンキン、その落下地点には……。
「ホールインワン!」
「ゴアアアァッ!?」
落とし穴と落とし穴を取り囲むように八つの大タル爆弾Gが配置されていた。
「うんうん。ウォロ、いい働きだったよ。ウラガンキンの生態を間近で見られた気分はどうかな?」
「死ぬかと思った(小並感)」
「そうかそうか、満足頂けたようでなによりだ」
実はこの大タル爆弾G、この作戦のためにシュラークが知り合いのハンターに声をかけ、ウォロの分も含めて用意させたものだ。シュラークが手を挙げると、彼の背後からライトボウガン使いが二人、姿を見せた。
「それじゃ、作戦通りに」
「流石はドンドルマの英雄、見事な手並みだ」
「今後共、是非お近づきになりたいわ」
「ははは、俺は大した者じゃないよ。……それでは、止めだ」
「「徹甲榴弾、装填!」」
そうして二人のガンナーが徹甲榴弾を装填し、速射で一斉砲撃を始めた。初弾で八つすべての大タル爆弾Gが炸裂し、さらに徹甲榴弾を顔面に浴びせられてウラガンキンは気絶状態に。そのまま苛烈な勢いで攻撃を叩き込み続け、結局ウラガンキンは嵌った落とし穴から抜け出せぬままあっさりと捕獲されてしまった。
「よし、クエスト完了だ」
「「お疲れ様でした!」」
「お……お疲れ、さま……でした……。ゼェ、ゼェ……」
せめて労働に見合った対価が欲しいと、切に願うウォロであった。
私が目覚めて、きっちり十日が経過した。最終日となる十日目にはみんな戻ってきたし、久々に顔を合わせた。
テル先輩はなんだか顔つきが精悍になってる……一皮むけたって感じ。セキさんはあまり変わり無いかな、なんだかここ数日は楽しかったみたいだ。
カイさんも変わらず……だけど、白いものを見るとなぜか震え上がって頭を抱えるようになっていた。一体何が……?ウォロは……行く前はニコニコワクワクしていたのに、帰ってきたらヘロヘロボロボロになっていた。えぇ……?こっちもこっちでなにがあったんだ……?
「みんなー、準備が出来たよー」
シロちゃんの呼びかけに応じて、大老殿に集合する。この数日間で技巧種モンスターは大分捕獲できたらしく、残り捕獲できていない個体は生態系上位種以上の強力な個体ばかりだ。特に、私たちに力を貸してくれたテスカ夫婦……古龍種の技巧種がどれだけ強力なのかは、ハンター達は既に身に染みているはず……私たちが帰ったあとの彼らが、どうやって戦うのかが気になるところだ。
「大長老様、そして皆さん。今日まで大変お世話になりました!」
「よいよい。こちらこそ技巧種の捕獲に研究、力になってくれたこと、感謝する」
「はいっ!!」
名残惜しくないといえば嘘になる。この世界での出来事は、私達にとって掛け替えのないものになった。この経験は、一生忘れられないものとなるだろう。
「おぉ、そうだ。ショウ殿達の故郷であるヒスイは、黒龍の脅威に晒されておるのだったな?」
「え?えぇ、はい……なので、ヒスイに戻ったら黒龍対策をしなければ……」
「ふむ……シロ嬢よ」
「はい、なんですか?」
「シロ嬢と、シロ嬢と通じる祖龍の力があれば、時空の裂け目の中を安全に行き来できるのだな?」
「はい、可能ですけど……まさか?」
「クックッ、そのまさかよ。大長老の名において、ヒスイへのハンター派遣作戦を、ここに宣言する!」
ハンター派遣!?それって、ヒスイ地方にハンターを送り込むってこと!?
「派遣するハンターは既に決まっておる。まず……我らの団、シズカ・ミズハシ!」
「はっ!」
「続いて龍歴院、ネネ!」
「はいっ!!」
まず、呼ばれたのはシズカさん。続いてネネさんが呼ばれた。後二人は……。
「そして新大陸古龍調査団より、ニール!」
「了解!」
……あれ、エイデンさんは?
「最後の一人だが……」
「自分が同行しましょう」
入口から声が……この声は!
「師匠?」
「あぁ、君の師匠のシュラークだよ、シズカ」
「まさか、最後の一人は師匠ですか?」
「そのとおり」
おぉ、シュラークさんがついてきてくれるなんて!とても心強いです!
「俺はこっちに残って、技巧種モンスターの対策に当たることになったんだ」
「実は、新大陸の方からも技巧種モンスターが確認されてな……我々は一足先に戻る。君はトレーナー達とともにミラボレアスを討ち、きっちりケジメをつけてくるといい」
「無論です、総司令。必ずや吉報を持ち帰ります」
新大陸……確か、ニールさんとエイデンさんが所属する組織が活動している大陸、だっけ。そこでも技巧種モンスターが出てきたんだ……。
「……それで、ネネさんはいったいどんな理由で付いてくるんですか」
「時空の裂け目によってヒスイに飛ばされたモンスターの調査ですわ。どういった種がいるのか、今頃どうしているのか、しっかりと調べませんと」
「本音は?」
「姉様の行くところ、ネネあり!ですわ!!」
素直でよろしい。
「……来た」
「シロちゃん」
「祖様の声が聞こえた……もうすぐ扉は開かれる」
その言葉と同時に、時空の裂け目が私たちの背後に開かれた。いよいよ帰還の時だ。
「それでは……」
「うんむ。……若者達よ、未来を照らし生きる者達よ!必ずや黒龍を討ち果たし、諸君らの未来を掴み取るのだ!!」
はいっ!!
私たちは一斉に返事をする。一人、また一人と振り返り、時空の裂け目へと入っていく。最後に私が入る前に一度振り返り、一言告げた。
「行って来ます!!」
それは決意の言葉。必ずや成し遂げるという意思の表明。その言葉を告げて、私は時空の裂け目へと入っていった。
時空の裂け目を抜けて、大地に降り立つ。見慣れた景色、嗅ぎなれた空気……私は、この地を知っている!黒曜の原野の、原野ベース前!!
「帰ってきた……ヒスイ地方に!!」
「ん?こいつぁ……」
「懐かしい気配だ……ひょっとして、お前さんか?」
「……祖龍……」
ついに帰ってきたヒスイ地方!!
そして、あの男とミラ一族の再会も……