またシリアスな
雰囲気に
――心の俳句
「出歩いてみたのは良いものの、やっぱり独力で回るのは無理か…」
「区画が入り組んでて、迷子になりそうだ」
どうしても気になる事があった為、多少痛む身体に活を入れ、部屋を後にしていた。
そう…たった今、ロドス艦内を探索中であります!
うむ、メテオリーテが迷子になるのも分かる。初見だとここが何処だとか、全然分からない。
「あのアークナイツのロドス・アイランドをこの目で見られるんだから、生きてて良かったなぁ…」
「ここってさっき通らなかった?」
「いや、一応通ってない場所なんだけど…、案内板とか無いのか此処は……」
隣できょろきょろと周囲を見渡すラウラ。
俺がベッドから出た瞬間飛び起きてきた。寝入ったと思ったのに…
「あの、患者の方は病室で待機して頂きたいのですが…」
「え、俺?あぁ大丈夫、痛みはそこまで酷くないし、ちょっと散歩してるだけだからさ」
「は、はぁ?いやそう言う事ではなくてですね…」
病依というのは結構目立つなぁ…なんて考えながら、とある人を捜す。
意識が戻ってから、色々と直前の記憶がハッキリとしてきた。
俺はタルラとの闘いの最後、デュエルディスクの不調により罠カードを発動出来ず敗北した。
あのリバースカードが発動出来ていれば、少なくとも意識が飛ぶなんてことは無かったと思うんだけどなぁ…
「あの、Aceって人は何処に…」
「えぇっ!?」
先程声を掛けられた職員に話しかけようとすると、後ろでバサバサっと何かが落ちる音がする。
振り返ると、そこには背の低いコータスの女性が、驚いた顔で台車に乗せた書類を落としていた。
「あぁ、アーミヤさん…大丈夫ですか?書類落としましたけど」
「アーミヤおねぇちゃんこんにちは~」
「こ、こんにちは…」
二人で落とした書類を拾う。結構量があるな…
……これもしかして、全部ドクターの元に届く奴かな?
うわぁ……
「じゃ、じゃなくて!ユウリさん!」
「はい?」
「身体は大丈夫なんですか?昨日の様子だと、とても出歩けるような状態では無いでしょう!?」
「えっ」
そ、そうなの?
身体にガーゼ貼ってあったけど、後は何もされてなかったよ?
俺はてっきり打ち身程度だとばかり思ってた…
「お、俺…そんなに不味い状態だったんですか?自分ではあんまり分かんなくて…」
「無意識で強力なアーツを使い続けていたんですよ!?」
「後遺症が残ってもおかしくないと聞いていましたけど、本当に大丈夫なんですか…?」
「ええ!?」
よ、良かった何もなくて…
本当に生きてるって素晴らしい、うん
「いやぁ、俺はこんな感じなんで一先ず大丈夫…です」
そこまで言われた手前、ちょっと不安だけど…
「ケルシー先生に言われたんですよ。後の事は貴方とドクターに任せるって…」
「私と…ドクターに?……そうケルシー先生が仰ったんですか?」
「はい、確かにそう言われました」
ロドス・アイランドの実質的トップは3名。
医療部門における最高責任者であり、ロドスを常に見えない部分から支え続けるケルシー。
先日救出されたばかりだが、今後戦闘における指揮権を一任されるドクター。
そして今目の前に居るアーミヤが、ロドスのCEO…最高経営責任者だったかな?
まぁ兎に角偉い人だ。
「というより、ケルシー先生と話したという事は、施術後すぐに目を覚まされたんですね…」
「あ、あはは…そうみたいっすね……」
此処まで来ると、寧ろ呆れられてる気がする…
「どうぞ、アーミヤおねぇちゃん」
「はい、助かりましたラウラちゃん。…一先ず付いてきて頂けますか?そう言う事であれば、ドクターも交えてお話しましょう」
―――
――
―
「ドクター?失礼しますね?」
コンコンと扉をノックする。恐らく此処が執務室なのかな?
中から「どうぞ」と声が聞こえ、アーミヤに続いて部屋に入る。
「あぁアーミヤ…君が持ってきた書類が多すぎて、もうどれがどれだか分からなk…」
バサバサと書類の山が崩れる。あれ、デジャブ?
「ゆ、ユウリ…出歩いて大丈夫なのか?」
「その件はアーミヤさんと既にやってます」
「そ、そうか…」
仕方がないのでまた書類を集める。
アーミヤが持ってきた書類に気付いたのか、ドクターはまた固まってた。南無…
「あ、アーミヤ?これだけの量を私一人で片付けるのか!?」
「はい」
はい、じゃないでしょ!
あのフードの下、多分泣いてるよ?
「私からと、ケルシー先生が目を通しておいて欲しい分を持ってくると、どうしてもこの量になってしまうんです」
「だ、だからって…優先して見て欲しい分とか、そういった区分で分けてもらえると」
「…?今お渡ししている分が、ドクターの仰る優先的に処理して欲しい書類なのですが…」
「」
アカン、ネットミームも真っ青なブラック企業じゃないか。
「あ、あの…ドクター?元気出して下さい…」
「ドクターさん!頑張れー!」
俺も手伝いますとは、言えなかった。
弱いな、俺…
「う、うん…」
「そ…それで、ユウリとラウラはどうして此処に?」
「そうでした、ケルシー先生が私達にユウリさんの事を任せると伝えられたそうで…」
「ケルシーが?ふむ…」
え、何…?
そんなに考え込む様な事、俺言ったっけ?
……あ、違う違う。
俺、またなんかやっちゃいました?
……うむ、良し。
「ユウリにぃ、何で笑ってるの?」
「へっ!?いや、何でもないよ!」
転生者である以上、一度はそう言う場面に出くわしたかったのだ。
これで俺のしょうもない夢が一つ叶った。
「ユウリ、君は怪我の治療が終わった後はどうするつもりなんだい?」
「え?そうですね…、特には決めてませんでしたけど」
「そうか、ならロドスに留まる気はないかな?源石病の治療も続けられるし、居住区もロドスにはある」
「それは俺もケルシー先生に伝えてました。此処に居て良いですかって、手続きか何かがあるんですよね?」
「うん、そこまで話が進んでいるなら、私からの提案なんだけど…」
「ロドスで働いてみないか?」
「……」
い、今の状況で、それ言います?
どう考えてもいい返事は貰えない環境に居るのに、自覚無いのかな…
「エーット、俺もそれだけの書類を仕事で任せられるんでしょうか…?」
「いえ、これはドクターの分なので、ユウリさんには関係ありませんよ」
「アーミヤ?その言葉は私に酷いと思わないのかな?」
「…コホン、そう言う事だから心配は要らないよ。後方支援の部署に配属になっても此処まで酷くはない、と思う」
…思う?
「まぁ君の場合、配属部署はケルシーから推薦されているも同然なんだけど」
「推薦?俺は何も言われてませんけど」
「普段ならロドスの人員採用は、人事部が担当しているんです」
「ですが今回は、ケルシー先生が私とドクターに扱いを任せると仰ったんですよね?」
「そう、ですけど…」
何となく読めてきたな…
ロドス内部のどの部署に俺が配属されるかという話だろう。
ロドス・アイランドは、源石病の治療研究を主に生業としている医療機関だ。
だが実際問題として、感染者を助けるためには現地に赴く実働部隊…前線に立つオペレーターが不可欠である。
人事部の人選を行わず、ドクター達に話を通したという事は……
「ケルシーが私に話を通すとなると、君に前線でのオペレーター契約を薦めている様なんだ」
「この話を受ける受けないは別として、此処で仕事をする場合はオペレーターの適性検査がある」
「私も目を通したばかりで詳しくは言えないけど、ロドスは常に人員不足に悩まされているんだ」
「だからユウリがオペレーターとして入職してくれるととても助かる」
やはりか…
俺アーツは使えますけど、一般人ですよ?
それに俺のいた部屋には、俺の私物が無かったし…
つまりカードもデュエルディスクも今無いんですけど…
「その話を蹴るとどうなります?」
「そうだね…私達は慈善団体ではなく、営利団体だ。治療に関してもタダというわけにはいかない」
「居住区に関しても同様で、此処で住む以上金銭のやり取りは発生する」
「仮に君が働かなくてもいい程の資金を既に持っているのであれば、オペレーターの仕事に就かなくても問題は無いけど…」
お金が無ければ、ロドスに居座る事はままならない、と…
至極当然だよなぁ…
「大丈夫です。一応聞いてみただけで、俺は仕事が貰えるならロドスで働きます」
「唯、俺は今私物が全部無くなってまして、カードとデュエルディスクが無いとアーツも使えないんです…」
「そうでした!ユウリさんの私物なのですが…」
な、何ですか…?
まさか両方ともチェルノボーグに置き去りに…?
「クロージャさん、エンジニア部門のチーフエンジニアの方が持って行ってしまって…」
「あぁ、そう言う事なら大丈夫ですよ」
無くしてなくて安心した。
あのデッキにはラウラから預かったカードも入っているからな…
……ん?ラウラ?
「……ユウリにぃ、お話終わった?」
「わ、悪い。まだもう少し…」
「む~……」
そりゃ暇するわな…
だけど俺達が生きる為には必要な事なので、ラウラには我慢してもらう…
「ハハ、ラウラには退屈だったかな?」
「難しい話は分かんないよぉ」
「ラウラちゃん、お茶菓子があったので一緒に食べませんか?」
「…?お菓子?」
「はい、甘くて美味しいクッキーですよ」
「食べるー!」
え!?俺も食いてぇ!
甘いものなんて、こっちに来てから数えるくらいしか食ってないのに!
「ドクター、ユウリさんの事はお任せしても大丈夫ですか?」
「大丈夫、アーミヤもお嬢さんのお相手は頼んだよ」
「ふふっ、了解しました」
―――
――
―
「さてユウリ、君とはもう少しだけ話があってね」
「…はい?」
先程の会話とは少し声のトーンが落ちている。
ラウラがいると話し難い内容があったのか?
「Aceの事なんだけど…」
「……!」
俺から聞こうと思っていた事だったけど、ドクターから先に切り出された。
「Aceの部隊はどうなったんですか?」
「…君がタルラを足止めした結果、私達はあの場から撤退した部隊員と合流出来た」
「だけどWという傭兵と戦闘になった際、私達は大きく打撃を受けた。…勿論Ace達も」
「……率直に言うと、Aceは未だ意識不明だ。あの身体の損傷では、生きている事が奇跡だろう」
「他の部隊員達もAce程酷くはないけど、それでも重体だった事に変わりはない」
「そう、ですか……」
Aceは助かったのは、命だけ……
他の部隊員達も倒れたままか……
「じゃ、じゃあScoutは!彼は無事にロドスに帰って来ましたか!?」
「ケルシーから聞いたのか?…残念だけど、Scoutが率いる部隊も消息不明だ」
「そ、そんな……」
俺が転生した当初に考えていたシナリオはこうだ。
Aceの部隊を助けることによって、第一にAce自身が生存する。
次に、Aceが無事に離脱出来るという事は、その部隊員であるGuardも同時に撤退する。
これにより、Guardを助ける為にScout自身が犠牲になる必要が無くなる。
そうなると、Scoutは傭兵部隊と交戦をしない選択肢が生まれる。
最後に、Scoutが戦闘を回避した場合、無事にロドスに帰って来る可能性が高くなる。
Aceを助けて、上手くいけばの考えだったけど、ほぼ全部失敗に終わったとは……
「私は君を責める為に、この話をした訳じゃない」
「だからそんな悲しい顔は止めて欲しい」
「で、でも結局Ace達は…」
「私もあの場では助けを必要としていた身だ。助けた側に居る君をどうこう言う権利は無いと思うが…」
「これだけは言わせてくれ」
「君のお陰で、Ace達は今ロドスに帰る事が出来た。これは紛れもない事実だ」
「……」
さっきのシナリオを考えていた時点では、俺は転生者として己惚れていたのかもしれない。
ゲームので知り得た知識を奮って、人が助けられるなら助けてしまおうと、軽い気持ちで考えていた節もあった。
だが結局の所、俺はこの世界に来てから随分とテラの常識に染まっていた。
チェルノボーグに来る以前にも、人が死ぬところは見たことがあるし、感染者が粉塵となる様も見たことがある。
だから現実の問題としてAce達に割って入った際には、どうか助かって欲しいと本気で願ったし、何かのついででScoutが助かるなんて微塵も思えなかった。
だけど事実として受け入れなければならないと分かると、気持ちはずんと沈んでいく。
「最後に、Ace達を助けてくれて…本当に有難う。君の行いは危険な物だったけど、齎した結果は賞賛されて当然のものだ」
「俺、俺は…そんなに出来た人間じゃありません……」
声が震え、無意識に手に力が入る。
「いや、君は優しくて勇敢な人間だ。そうでなければ、見ず知らずの人間の為に悲しい顔が出来るもんか」
違う、見ず知らずなんかじゃない。
俺は一方的に知っていたんだ。Aceの事を、Scoutの事を…
「…ドクター」
「なんだい?」
「俺は、ケルシー先生にも話したんだけど、色々訳ありな奴なんだ」
「ロドスにはそう言う人間が沢山居る」
「貴方の過去の事も、多少知ってる」
「…そうか、じゃあ悲しい気持ちにさせてしまって悪いけど…」
「記憶を失っている事も知ってる!でも記憶を失った事は、誰からも聞いてないんだ」
「…うん、それで?」
「俺は、ロドスでこれから起こる事が少しだけ解るんだ…。この先どんな風な結末を迎えるのかを……」
「…そうか」
俺は自分の事を話し始めた。それも、ケルシーに伝えた様にではなく、かなり感情に任せて……
だけど、ドクターは何も言わない。ただ静かに、俺の話を聞いている。
怒らないのか?
何が起こるのか知っていながら、Ace達をこんな風にしたと。
怪しまないのか?
未来を知っているなんて、なんの根拠もない事を言っている俺の言葉を。
何故聞き返してこないんだ?
ドクターの起こす一挙手一投足が、俺は不思議でならなかった。
「ユウリは私とは違うが、その境遇では普通の人とは違う苦労をして来たんだろう」
「私は知っての通り記憶がないけど、まだ実感が無いんだ。恐らくこれから困りに困るんだろうね」
自虐的に笑って見せるドクター。だがその表情は、目深に被ったフードで見る事が出来ない。彼の感情は、彼の発する声色で判断する他ない。
だけどどうしてだろうか、そんな彼に俺はまだ、"自分を投影"してしまっている。
「あまり泣くなよユウリ、妹さんにバレたら恥ずかしいだろう?」
「……え?」
「…あ、……」
「す、すいませっ……う、う……」
気付けば俺は泣いていたらしい。
ロドスに来てから、俺もラウラと一緒で泣き虫になってしまったのだろうか。
色々な感情が心の中で渦巻いて、上手くコントロール出来ない。
「…お互い、まだ道半ばなんだ。月並みだけど、頑張ろう」
「……はい」
ああ、そうか…
多分俺は、自分の境遇を理解して欲しかったんだ。
どんなに世界に馴染んだとしても、結局俺は元々、この世界と関わる筈の無い人間。
この言い知れぬ疎外感を、誰かに打ち明けたかったんだ。
対してドクターは記憶を失って、自分が知っているものが無い世界の住人となった。
他の人は自分の事を知らない俺と、他の人だけが自分の事を知っているドクター。
そして、俺の言葉を信じてくれたのもドクターで、それが堪らなく嬉しくて…
「俺、俺…頑張ります。出来る事は少ないかもしれないけど…それでも……」
「うん、待っているよ」
―――
――
―
「アーミヤ、此方の話は終わったよ」
「あっドクター、ありがとうございます。ユウリさんもお疲れさまでした」
「いや、なんというか…逆に色々助かりました」
「…?」
「ユウリにぃ!待ってたよー!」
何かを手に持って、俺の方へと駆けてくる。
結構な時間話してたし、ラウラには悪いことしたな…
「はい、あーん…」
「へ?あ、あー……んぐ」
あ、甘い!美味い!?
小麦の香り、バターの風味!
そして果実の酸味が効いたジャムのアクセント!
「んまい!」
「おいしーよね!クッキー!」
沁みる……
久々に食べた甘いものは、暴力的なほど美味い……
「ユウリさんに残しておくって、ずっと待ってたんですよ」
「そ、そっか…悪かったなぁ待たせてしまって…」
「えへへ……」
「じゃあユウリ、伝えた通り今日から十分休息を取って欲しい」
「その後、体調に問題が無ければ人事部に行って、オペレーターの適性検査を受けるんだ。いいね?」
「はい…ドクター、アーミヤさんも、ありがとうございました!」
「失礼…ドクター、入るぞ」
俺達が執務室を出ようとしたタイミングで扉がノックされる。
「あ、ケルシー先生」
「は?」
その後ケルシーが俺に、怪我人が何故うろついているのかと説教を始めた。
そのせいでラウラの待機時間が増えたのは、また別のお話。
後書きになります。
おかしいなぁ、曇らせるのが癖になっている気がするぞ?
こんな事じゃあどんちゃん騒ぎじゃなくて曇天騒ぎになっちゃう!
なんつって!ガハハ!
え、何ですかその手は…あ!痛い!たた、叩かないで!
「うん?もう最後まで読んでしまったのかい?」
「じゃあはい、後書きまで読んでくれてありがとうございました」
「…ついでに、書類の整理を手伝ってくれると助かるんだけど…駄目?」