俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 創の軌跡のクリア記念に書き始めました


第一話 退職すら許されないクソ職場

 エレボニア帝国北西部、ラマール州の東外れに位置する地点、グレイボーン連邦の地下1000アージュに存在する大地の裂け目。

 厚い岩盤で外界から閉ざされたそんな場所に、隠れ潜むように本拠地を置く《黒の工房》内を一人の男性が我が物顔で闊歩していた。

 

 何処かの司祭服(・・・・・・・)に身を包んだその男性は、工房内のある一室までたどり着くと、ノックもせず容赦なくドアを開け放つ。

 

 するとそこには、様々な機械や装置、そして乱雑に積み上げられた本や資料が所狭しと置かれた、研究室が広がっていた。

 

 

 「おや工房長。どうしたので?」

 

 

 そして研究室の中から、そのような声と共に一人の少年が顔を覗かせた。

 この研究室の主と思われる、整った顔立ちをした金髪の15歳くらいの少年は、少年らしからぬ営業スマイルを浮かべながら、自身が工房長と呼んだ男に近づいていく。

 

 その様子にその男は何の感慨も示すことなく、単刀直入にここに訪れた目的を告げた。

 

 

 「《教団》の会合で一週間ほどここを離れることになった。

 その間ゲオルグと共に、この工房の管理を任せる」

 

 「それはまた何とも急な話ですね。

 ……Sウェポンの研究は進めておいても?」

 

 「工房の管理に支障が出ない範囲でなら構わん」

 

 

 それだけを告げると男はもう用は済んだのか、研究室のドアへとまた手をかけた。

 開け放たれたドアから去り行く間際、相変わらず営業スマイルを浮かべたままの少年に向けて、最後に選別の言葉を言い放った。

 

 

 「しっかりとその責務を果たすように、ハンス主任」

 

 「ええ、お任せください、アルベリヒ工房長(・・・・・・・・)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 突然だが転生モノというジャンルがある。

 

 神という超常的な存在から授かった能力、或いは知識を元に、異世界で無双する。

 それは閉塞した現代の世の中において、若者に絶大な支持を受けている人気のジャンルだ。

 

 それになぜか自分が選ばれてしまったのだ。

 

 といってもトラックに轢かれて異世界に転生したとか、神様に会って飛ばされたとかではない。

 

 自身の務める研究所から帰って、寝て起きたら、少年の身体になっていたのだ。

 何がどうなってそうなったかは定かではないが、自分の記憶とこの少年の記憶は問題無く思い出すことができた。

 

 そしてその少年の記憶で、ようやく自分が、散々十年以上シリーズを追いかけやり込んだゲームの世界に転生したと理解したのだ。

 

 普通ならそこで歓喜するだろう。

 チート能力は有していないとはいえ、ゲームが現実となったこの世界においては原作知識は未来予知にも等しい。

 

 それをうまく利用すれば、なんだって出来るだろう。

 主人公を助ける、あるいは死ぬであろう登場人物を助ける、もしくは投資等で大金持ちになることも夢ではない。

 その転生したゲームが英雄伝説であり、しかも地精の構成員の一人として転生していなければだがな!

 

 英雄伝説とはゼムリア大陸と呼ばれる世界を舞台に、この世界の超常的な存在たるエイドスの女神が遣わした七つの至宝――セプト=テリオンを巡って、少年少女とついでにオヤジが活躍する正統派RPGシリーズである。

 

 その中にあって西ゼムリア大陸の軍事大国エレボニアを舞台とした英雄伝説・閃の軌跡にて、初めて姿を見せた地精――グノームと呼ばれる集団は、簡単に言えば、七つの至宝の内の二つを使って(色々あって合体して一つになった)この世界の神に至ろうとする絶対悪――黒の騎神イシュメルガに従うゴリゴリの悪の組織だ。

 

 主人公に倒されるべき悪の組織なだけあって、作中でやらかした事はあまりにも多く――

 

 合体して一つになった《巨イナル一》を使用可能な状態にすべく、宰相の全面協力が有るとはいえ、軍事大国エレボニアを使って大陸全土を巻き込んだ世界大戦を引き起こす。

 精神を蝕む魔煌機兵と呼ばれるロボット兵器をばら撒く。

 皇族の乗る飛行船を爆破。

 主人公の仲間の父親代わりであった猟兵団の団長を誅殺したあげくに生き返らせ手駒に。

 主人公の仲間の父親に取り憑いて自我を乗っ取る。

 主人公の仲間の母親を相討ちとはいえ殺害。

 主人公の仲間をぶっ殺して武器にする。

 主人公のライバルを生き返らせ手駒に。

 主人公拉致監禁。

 

 とまあ軽く上げただけでも、これだけ事を作中で組織だってやらかしているのである。

 もはや主人公陣営に百回は殺されても文句は言えない所業の数々だな。

 これで氷山の一角というのだからマジで救えねえ。

 

 え?コレのトップのイシュメルガはどうだって?

 ………ハハッ!

 

 とまあ、こんな組織に俺は構成員の一人として転生してしまったのだ。地獄かな?

 

 そして残念ながらこの世界では原作知識による改変もほぼ不可能である。

 何せこの世界では《黒の史書》と呼ばれる予言書があり、エレボニア帝国の歴史はその筋書きに沿って進んでしまう。

 一応予言書の内容を覆す事も不可能ではないらしいが、後日凄まじい揺り戻しが起こるらしい。

 よって実質的に、予言されているといっても過言ではない、エレボニア帝国が引き起こす世界大戦も止めることは出来ず、また地精がそれに向かって突き進む事も止められないのだ。地獄かな?

 

 じゃあ組織から逃げてから、大筋の歴史に絡まない、悲劇を防ぐような改変をすればいいと思われるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

 先ほど地精が黒の騎神イシュメルガに従っているといったがそれは自主的ではない。 

 正確には、地精はイシュメルガに眷属にさせられている、分かりやすくいえば下僕にさせられているのだ。

 作中で「魂まで隷属させられている」とまで言われるだけあって、その強制力は物理的精神的に凄まじく、イシュメルガに対して逆らうどころか、組織からの逃走、あげくイシュメルガや組織に対し不利益になるような行動さえも、完全に規制されてしまう。

 例えば、反逆や逃走を画策することは出来ても、いざそれを実行に移そうとした瞬間、自分の意思に関係なく身体の自由が奪われ、その気力を根こそぎ奪われてしまうのだ。

 これのせいでそもそも組織から逃げることさえも出来やしない。

 

 それを分かっているからこそ、俺の上司であり地精の長、そして地精が運営する組織――《黒の工房》の総括者であるアルベリヒ工房長も、逃走の心配なく俺に工房を預けることができるのだろう。

 まあ幸い、思考まで読める訳ではないので、原作知識を読まれる事も、腐れ上司共に対する罵詈雑言、はたまた実行に移すことの出来ない数百通りの逃走手段さえも読まれることがないのは、幸いであるが。

 

 

 「さて、どうするかね〜」

 

 

 アルベリヒ工房長が出ていき、また静寂が戻ってきた研究室内で、一人思考を巡らせる。

 黒の工房の管理といっても、工房の全ての施設はほぼ全自動で稼働し続けるよう設定されているので、特別になにかしなければならないということはない。

 敵対勢力による侵入についても、この工房の唯一の出入り口である転送ゲートさえ注意を払っておけばいい。

 部下であるゲオルグ君に丸投げしておけば問題ないだろう。

 そもそも、作中で拉致監禁された主人公を救出するため、仲間の力と魔女の力まで総動員し探り当てるまで、数百年にも渡り、発見さえされなかった場所なのだから、その必要すらもないと言えばないのだが。

 

 なので工房長が帰ってくるまでの一週間、遊び呆けていたって何の問題もない。たが―――

 

 ふと視線を前に向けると、そこには加工中の金属板に反射した自分の顔が映っていた。

 

 ハンス主任。

 この名前は、作中において一度たりとも登場したことはない。

 これが単にオリキャラであるのであれば問題は無いのだが、もしそうでなかった場合、このハンス主任は作中が始まるまでに何らかの理由で死んでいる事になる。

 

 千年以上もの妄執がついに果たされようとする機会に、地精がわざわざ人材の出し惜しみをする必要など、どこにもないからだ。

 

 事故死や病死か、常に付き纏っている可能性のある死神についても注意を払わなければいけないのだが―――ぶっちゃけ何か失態を冒して工房長に粛清された可能性が一番高い。

 何せ作中において主人公の仲間から「清々しいまでの外道ぶり」と揶揄されたほどのキ○ガイである。

 何かあれば、同じ一族の一人や二人粛清することに、躊躇などすまい。

 しかも、英雄伝説の作中においてはあまり死人が出ることはないが、それ以外の部分では死ぬ、バンバン死ぬ、容赦なく死ぬ。

 しかも死ぬだけならまだ良い方の場合すらあるのだ。

 人体実験に、シャブによる洗脳、強制売春etc.

 「はい、よろこんで」はトラウマもんやで……。

 

 英雄という光の裏には影があるとはよく言うが。

 このままただ無意味に過ごせば、アルベリヒ工房長の冷酷な一面を示すスパイスとして、サックリ粛清されかねない。

 この世界は光の当たらないモブになど、全く優しくはないのだ。

 

 未来をより良い方向に変えてやるという気概など、とうの昔に喪われた。

 だが、モブとして生きていくのはともかく、こんな所で死ぬなどまっぴらゴメンである。

 だからそれを防ぐためにも、まあ取り敢えずは―――

 

 

 「……Sウェポンの研究を続けるか」

 

 

 アルベリヒ工房長に粛清されないよう精々ゴマを擦っておくことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ハンス主任

 よりにもよって地精なんぞに転生してしまった哀れな人柱。
 研究に戦闘と両方を熟せる為、アルベリヒ工房長からは主にSウェポンの研究開発を任されている。
 イシュメルガの支配により逃走することもできない為、毎日実行に移せない逃走計画を練りながら、粛清されないよう、日々上司たるアルベリヒ工房長にゴマを擦っている。


 地精《グノーム》

 およそ1200年前、女神より七つの至宝セプト=テリオンの一つである大地の至宝《ロスト=ゼウム》を賜った一族であり、焔の至宝《アーク=ルージュ》を賜った一族である魔女と共に合体してしまった《鋼》である《巨イナル一》の力を分割管理するために、七騎の騎士人形を作りだした一族。
 なのだが今は自身が生み出した騎士人形の一つであるはずの《黒の騎神》イシュメルガに支配され、一族全体がイシュメルガの眷属として取り込まれてしまっている。


 黒の騎神《イシュメルガ》

 ブラック上司一号。
 色も黒けりゃ、思念体まで黒い、そしてやる事なす事全て真っ黒という完全無欠のブラック上司。
 再錬成された《巨イナル一》と融合し神になる為だけに1000年以上も悪意をばら撒きながら暗躍を続けている。
 エレボニア帝国で起きる悲劇的な出来事の裏にはだいたいコイツがいる。
 今のところは、下っ端の下っ端であるハンスとは直接の面識はないが、ハンス主任の行動を最も制限しているのは、コイツであるといえる。


 アルベリヒ工房長

 ブラック上司二号。
 地精たちの長であり、彼らが所属する組織である《黒の工房》の工房長。
 ハンスの直属の上司。
 正式は《黒き終焉のアルベリヒ》だが誰もその名で呼ばれない。
 主であるイシュメルガの宿願を成就させる為なら、どんな非情な手段をとることも厭わない忠犬系ブラック上司。
 今現在、潜伏中のとある《教団》の幹部の仕事が立て込んでいる為、よく留守にする事が多い為、よくハンスに工房の管理業務と仕事を任せている。
 ちなみにアルベリヒ工房長はイシュメルガが作り出した精神生命体的な存在で、優秀な地精の血族に寄生する事で活動しており、身体が滅んでも優秀な子孫に寄生することで何度も復活する為、今の所殺すことは不可能である。



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