俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 感想、誤字報告いつもありがとうございます!

 ガルシア・ロッシVSパワードアーマー(中身入り)
 視点が途中で切り替わりますのでご了承ください。
 


第十話 殺人熊VSメカゴリラ

 

 

 西風の旅団の団員たちへの戦闘時のモーションキャプチャの収集依頼と、その場のノリで決まった武術大会と、その過程で突如として決まったハンスとガルシア・ロッシとのエキシビションマッチ。

 周囲を観客の団員たちがガヤガヤと囲んで盛り上がる中、ハンスとガルシア・ロッシはお互いに距離を取った状態で向き直る。

 ハンス自身の身の丈ほどもある刀身に、巨大なリボルバーが取り付けられた片刃の大剣――Sウェポン『アサルトソード』を肩で担ぎながらも若干緊張した様子で佇むハンスに対し、ガルシアは悠然とした態度で余裕すら感じられる。

 

 

 「一応……」

 

 「あ?」

 

 「一応、先に言っておきますが。私の戦い方は正道とかけ離れていますが……それでもよろしいので?」

 

 「誰に向かって言ってんだ。俺たち(猟兵)に王道やら邪道やら気にする奴は居やしねえよ。

 先手は譲ってやる。どっからでもかかって来な」

 

 「……では遠慮なく」

 

 

 直後、ハンスの姿が霞んだ。

 読み合いも駆け引きも一切省いた無遠慮で無作法な突撃。

 だが常軌を逸した速度で、それこそ瞬きひとつする間に、ハンスの姿は担いだ片刃の大剣と共にガルシアの目の前まで移動している。

 神速の踏み込み。そして斬撃。自身の身の丈ほどの巨大な大剣を、ハンスは易々と振り下ろす。

 

 

 「――!」

 

 

 その一撃をガルシアは大きくその場から飛び退ることで回避する。

 本当であれば、大剣の側面に打撃を加えることで斬撃をいなして軌道を変え、ハンスにカウンターを仕掛けたかったのだが、戦場で培われた勘がその斬撃を迎え撃つことに警鐘を鳴らしていたため、ガルシアは自身の勘に逆らわず回避することを選んだ。

 その直後、自身の判断の正しさを知る事になる。

 

 ガルシアという対象を見失った大剣は速度をほとんど落とすことなく振り切られ地面に接触、直後爆発したように地面が吹っ飛び、クレーター状の大穴を開けた。

 

 

 「オイオイ、マジかよ……」

 

 

 信じられない威力だった。

 確かに振り下ろし攻撃というのは、重力が加算される分、他のどんな攻撃よりも威力が出やすいが、これはそんな次元の問題ではない。

 戦技(クラフト)魔法(アーツ)の補助など一切ない、単純なハンスの膂力だけで放たれた一撃。そしてその膂力は人類のそれを大きく超えていた。

 

 ハンスは更なる追撃を加える。

 気合の掛け声どころか、足音も立てずに放たれる無音の斬撃の数々。

 一つ一つが攻城兵器の一撃にも等しいその斬撃を、ガルシアは体捌きのみで刃を躱していく。

 

 

 (……なるほど、そういう事か)

 

 

 切り払い、横薙ぎ、切り上げ、袈裟切り。

 一撃でも当たればノックアウト確実の斬撃の嵐を、まるで疲れた様子も見せずに無尽蔵に放ち続けるハンスと、その必殺の斬撃を体捌きのみで躱していくガルシア。

 両者とも互角、いやむしろガルシアに一切の手を出させていないハンスが優勢であるかのように見える中、ガルシアはハンスの能力をほぼ見極めていた。 

ハンスが身の丈を超える大剣を軽々と操っているのは、どうやら本当に純粋な筋力によるものであると、そして―――

 

 

 「その馬鹿力……鎧に何か仕込んでるな?」

 

 「ッ!?見事な慧眼っぷり、さすがはガルシア殿。もう少し悩んでくれても良かったんですがぁねえッ!!」

 

 

 その異常なほどの馬鹿力の出処がハンスが着こんでいる鎧であることをガルシアは看破する。

 

 

 (……まあ、こんなもんか)

 

 

 まるで物量で押しつぶすかのように猛烈な速度で次々迫る斬撃を紙一重で回避しながらも、ガルシアに焦りはない。

 

 確かにその速度と威力は凄まじいが、巨大な質量を振り回しているためにその太刀筋が限定され、慣性の法則にも逆らえない。

 それに加え、どうもハンス本人はまともに剣術を習ってはいないらしく、それっぽくガワを整えて大剣を振り回してはいるものの、その道の達人たちと比べるまでもないほどに、太刀筋は甘く非常に隙だらけ。

 これではまるで剣を振っているというより、剣の形をした棍棒を振っている印象さえ感じる。

 勿論、そんな数々の不利さえも簡単にねじ伏せるほどの怪力と、それを基に繰り出される斬撃の嵐のせいで、攻めることは容易ではないものの、付け入る隙は十分にあった。

 神経を研ぎ澄まし、ひたすら回避に努めながらチャンスを待つガルシア。

 その機は意外と早く訪れた。

 ガルシアに一向に攻撃が当たらないことに焦れたのか、ハンスの攻撃が極端に大振りになったのだ。

 思い切り深く踏み込んで、右手一本で大剣を薙ぎ払う。

 リーチを最大限生かした攻撃だが、躱された時の隙も当然、大きい。

 

 ガルシアはバックステップでその一撃を躱し、大剣の刃が通り過ぎた瞬間に踏み込んだ。

 振り回した反動を殺しきれず、大剣はハンスの背中側にまで流れてしまっている。

 この体勢からなら、ハンスの鎧が如何に超絶的な出力で切り返したとしても間に合わない。

 

 

 「ハアッ!」

 

 「なにッ!?」

 

 

 しかし、ガルシアの予想よりも遥かに速く、ハンスは追撃を繰り出して来た。しかも前回と同じ右側から。

 ハンスは背中越しに、大剣を右手から左手に持ち替え(スイッチ)、初撃と逆方向に切り返すのではなく、もう一回転して同方向から二撃目を打ち込んできたのだ。

 身体ごと回転させての連続攻撃ならばともかく、自身の身の丈を超える大剣をナイフのように持ち替えるとは、さすがに予想できなかった。

 胴を切り裂かんとばかりに迫る横薙ぎの攻撃を、ガルシアは地面に這いつくばり姿勢を低くしてやり過ごす。

 そしてそのまま自身の両腕を軸に、両足を振り回すように回転させ、二撃目を放ち切り無防備なハンスの足元に向け、足払いを仕掛けた。

 

 

 「うおッ!?」

 

 足払いは見事に決まり、両足を払われたことで空中に漂う事になったハンス。

 足を振り回した反動で素早く立ち上がったガルシアは、その空中で体勢を立て直すことも出来ず無防備な体を晒すハンスに向け拳を引き絞る。

 まるで弓を引き絞るかのように右腕を引きながら力を蓄えるガルシア。

 

 

 「コレ(・・)がただ馬鹿力を出すだけのものだとお思いでッ!?」

 

 

 するとハンスは、左手に持った大剣を地面に突き刺して固定、左腕の腕力だけで浮きあがった体を大剣の柄の上まで持ち上げて見せた。

 まるで軽業師のような曲芸じみたバランス感覚で大剣の柄の上で逆立ちして見せたハンスは倒立したまま柄の上で姿勢を制御、そのまま力を蓄え着地狩りをしようとしていたガルシア脳天目掛け、かかと落としを決めようとする。

 

 

 「チッ!」

 

 

 上からの奇襲攻撃に、ガルシアは着地狩りを諦め、バックステップをすることで回避。だが今度はかかと落としで地面に落ちてきた時を見計らって追撃を仕掛けようとする。

 だが空から落ちてきたハンスの攻撃は、かかと落としで地面を穿つのではなく、地面を揺らすような踏み込み。

 それと同時にハンスは既に大剣を振りかぶっていた。その巨大な刀身が完全にハンスの身体の影に隠れてしまっている。まるで背中の鞘に納刀しようとしているような、極端な構え。

 

 

 「――!?」

 

 

 壮絶に嫌な予感がして、ガルシアは追撃の一切をすっぱり諦め、全力で横方向に飛び退る。

 その直後―――

 

 

 「オラァ!!!地裂斬(・・・)!!!」

 

 

 断頭台のギロチンを彷彿とさせる、振り下ろし攻撃が放たれた。

 ただでさえ、膂力を向上させた上で全力で踏み込んでの渾身の振り下ろし攻撃。

 その攻撃は今までの攻撃の比ではなく、攻撃が接触した地面は轟音と共に文字通り裂けた(・・・)

 地面に一直線の断層を作り、それでも止まらず、その巨大な刀身を完全に地面に埋没させるほどの一撃に、ガルシアは驚きと若干の呆れを漏らす。

 

 

 「オイオイ……。いくら何でも力づくすぎるだろ。

 しかも地裂斬ってオメエ……」

 

 「地面を裂く斬撃ですから、まあ大体地裂斬みたいなもんでしょう」

 

 「……その言葉、アルゼイドの門下生共の前で絶対言うなよ。ぶっ殺されんぞ」

 

 

 ガルシアの言葉に、ハンスは地面から大剣を引き抜きながら、シレっとそう云い放つ。

 単に馬鹿力で地面を叩き割るという、剣術など一切関係無いただのゴリ押し。

 それに帝国二大流派、アルゼイド流の戦技(クラフト)の一つである《地裂斬》の技の名前を付けるハンスのあまりの厚かましさぶりに思わずガルシアは苦笑する。

 一時の気の抜けた会話。

 だが、その平穏な時間は長く続くことは無く、直様戦いが再開される。

 一番最初と同じようにハンスから仕掛けられる怒涛の斬撃の嵐。

 そして先ほどと同じくその攻撃を体捌きのみで躱していくガルシア。

 

 

 「……あん?」

 

 

 そんな中、ハンスの攻撃にある違和感を感じた。

 切り払い、横薙ぎ、切り上げ、袈裟切り。

 一撃でも当たればノックアウト確実の斬撃の嵐を、まるで疲れた様子も見せずに無尽蔵に放ち続けるハンスだが。

 その攻撃に一切の変化がないのだ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 その攻撃がガルシアに一発も当たらず、避けられ続けているにもかかわらずである。

 普通なら効かないと分かれば攻撃方法を変えるだろう。

 もしくは自身の有する隠し札か、切り札を切るか。

 だがハンスは攻撃方法を変えるでもなく、隠し札、切り札を切るでもなく。

 ひたすらに斬撃の嵐を繰り出すだけ。

 最初は攻撃方法を変えないのは、それ自体が隠し札か切り札かにつなげる為の思考誘導の類かとも思ったが。そしてここでガルシアにある一つの仮説が浮かんだ。

 もし、もしも。

 ハンスは攻撃方法を変えないのではなく、変えられないのだとしたら(・・・・・・・・・・・)

 隠し札、切り札を切らないのではなく、そもそもそれ自体が無いのだとしたら(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 今のこの不自然な膠着状態にも説明がつく。

 そして、ガルシアにはそのような者達の共通点を実例として(・・・・・)よく知っていた。

 

 

 「まさかオメエ、……格上との戦いは初めてか?」

 

 「ッ!?」

 

 

 斬撃を躱しながらポツリと放たれたガルシアの一言。

 その言葉に明らかな動揺を見せたハンスはガルシアとの間合いを取るように、大きく飛び退る。

 鎧の力もあり、一瞬で間合いを開けたハンスはガルシアを警戒しつつも苦笑交じりの困った顔をしていた。

 

 

 「まさかそこまで見抜かれてしまうとは……。参考までにどうやって見抜いたのか伺っても?」

 

 「何、そんなに難しい話じゃねえ。

 旅団の部隊長として、似たような跳ね返り(・・・・・・・・・)を散々見てきたからな」

 

 「……ああ、なるほど」

 

 

 その言葉にハンスは納得したように頷いた。

 それはよく西風の旅団に入団したてのルーキーによく見られることだ。

 団長であるルトガー・クラウゼルはよく訳アリやくせ者といった者達をよく拾ってくる。

 その者達は大概、猟兵としての才能や見込みがある者達が多いのだが、その恵まれた才能に胡坐をかき増長している輩もまた多い。

 そういった輩の共通点として、自分より格上の強者と戦ったことがないのだ。

 格下ならば、いくら相手が数を揃えようとも相手にならず、同格であっても自身の才能でごり押して何とか勝ててしまう温い環境。

 そしてそのように才能でごり押しできるような相手としか戦っていないからこそ、それを防がれた時の対処法、隠し札か、切り札といったものを彼らは考えてはいない、もしくは考えていても非常にその札の数は少ないのだ。

 

 ハンスも同じだったのだろう。

 あの人類のそれを大きく超えた膂力から放たれる斬撃の嵐と、アクロバティックな動き、そしてあのアルゼイド流に喧嘩を売ってるエセ地裂斬。

 おそらくはそれを以て、今までの戦いを制してきたのだろう。

 確かに有象無象なら相手にならない、非常に強力な組み合わせではあるが……、だからこそそれが全て通じなかった瞬間、ハンスは完全に攻め手を失ったのだ。

 

 

 「ええ、そうです。

 圧倒的な格上との戦闘はこれが初めてですし、これ以上ガルシア殿に対抗できるような切り札や隠し札もないのも事実です。……ですが勝ち筋自体はちゃんと考えてはいるんですよ?」

 

 「……持久戦か。また随分と強引な」

 

 「まあ、これくらいしか勝ち筋がないものでッ!!」

 

 

 そう言いながら、ハンスは一呼吸の間にガルシアの元まで近づき斬撃の嵐を繰り出す。

 ガルシアが疲れて回避し損ねるまで斬撃の嵐を繰り出し続けるという、それしか手がないのは分かるがホントにするか?という脳筋の極みのような選択肢を選んだハンスに対し若干呆れながらもガルシアは考える。

 手札が全て割られた時点で諦めるのではなく、持久戦という選択肢を選んだ時点で、ある程度の勝算は見込んではいるのだろう。

 それに付き合ってもいいのだが……。それではあまり意味がない。

 

 ハンスの言動から察するに、自身が今まで格上との戦闘をしたことがないという事、そして格上との戦闘をしたことがないからこそ自身の今の立ち位置を知らないという事に関して、危うい事だという事は理解はしているようだった。

 それだけでも、恵まれた才能に胡坐をかいて自分を無敵だと勘違いしている輩に比べれば遥かにマシというものだが。

 それでもモノがモノである以上、頭で理解しているから全部解決、という訳でもないのだ。

 …だから老婆心ながら手助けをしてやろう。

 西風の旅団の部隊長として、恵まれた才能に胡坐をかき増長しているルーキ共の鼻っ柱をへし折り、上下関係と身の程をわからせ(・・・・)てきたものとして。

 こういうのは相手の土俵に上がって、相手の得意分野で敗北を味わわせた方が良く効く(・・・・)のだ。

 

 

 「ま、世界の広さというものを教えてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 【悲報】ガルシア・ロッシ氏がゲロ強い件について

 

 っべーわ、マジっべーわ。

 いや、確かに相手は未来において特務支援課の前に越えるべき壁として立ちふさがった、あの《殺人熊(キリングベア)》。

 一流の猟兵であり、明らかな格上である以上、苦戦は確実だと理解はしていたのだが……まさかこっちの攻撃がかすりもしねえなんて思わねえよ!!

 

 こちとら『パワードアーマー』着てんだぞ。

 人間辞めたフィジカルゴリラ(主人公陣営)共に、一介の技術者(人間)である俺が対抗する為に考え出した手段。 

 『フィジカルゴリラに対抗するには、俺自身がゴリラになることだ』

 を体現した戦闘用強化外骨格『パワードアーマー』――通称『メカゴリラ二号』を着てんだぞ!

 そりゃあ今日手に入れたモーションデータは入力してないが、それでもこのいつもの通りの戦闘スタイルで全く歯が立たんて……。

 戦闘用マニピュレーター『パワードアーム』――通称『メカゴリラ一号』時代からお世話になってた地裂斬まで使ってこのザマて……。

 

 あれか?ゴリラパワーが足りんのか?

 人間やめたフィジカルゴリラ共に対抗しようとするには、そんじょそこらのゴリラじゃなく、ゴリラの中のゴリラ、キング〇ング目指さなあかんのか?

 

 しかし先ほどガルシア・ロッシ氏に言ったように、今の状況は完全に手詰まり状態である。

 先ほどから彼に向けて繰り出している斬撃の嵐。

 これはどちらかというとガルシア・ロッシ氏を攻撃しているというより、ガルシア・ロッシ氏の接近を防いでいるという意味合いの方が強い。

 この斬撃の弾幕を張っているからこそ、ガルシア・ロッシ氏がこちらの間合いに入るのを防げているのだ。

 止めた瞬間、懐に潜り込まれ彼お得意の軍用格闘術をお見舞いされる。

 先ほどは何とか回避はできたが、そう何度も出来るものではない。

 一応俺の今振ってるSウェポン『アサルトソード』にも砲撃機能といったものも備わってはいるが状況を打開できるものでもない。というか使ったら状況が確実に悪化する。

 斬撃の弾幕を止めての隙だらけの砲撃なんぞ、敵にチャンスをくれてやるようなものだからな。

 だからこそガルシア・ロッシ氏が疲れて回避し損ねるまで斬撃の嵐を繰り出し続けるという、自分でもどうかと思う選択肢を取るしかないのだ。

 まあ、幸い『アサルトソード』をぶん回す膂力は『パワードアーマー』から供給されているし、そのエネルギーが尽きるのもまだまだ先である為、勝算が無い訳でも無いのだが。

 

 

 などと考えながら斬撃を繰り出していたら、何やらガルシア・ロッシ氏の方で動きが。

 なんと斬撃を繰り出す『アサルトソード』に向かって、自らの拳を当て始めたのだ。

 もちろん刃の部分ではなく側面に向けて、そしてこちらの攻撃の瞬間を狙って器用に打撃を打ち込んでいく。

 さすがは鍛え上げたガルシア・ロッシ氏の鉄拳。

 その強い衝撃は『アサルトソード』を通して俺にも伝わってはいるのだか。

 正直そんな打撃、『パワードアーマー』の出力の前には妨害にもなりはしない。

 そしてSウェポン『アサルトソード』もその程度の打撃で壊れるほど軟な構造はしていない。

 そんな事ガルシア・ロッシ氏も分かっているはずだが。

 それでも何故かガルシア・ロッシ氏は斬撃の嵐を掻い潜りながらも、愚直に大剣に向かって打撃を打ち込み続ける。

 

 そしてその時は突然訪れた。

 

 バキッという何かが折れるような、非常に嫌な音が訓練場に響き渡る。

 その音の発生源はガルシア・ロッシ氏の拳からではない。彼が打撃を打ち込み続けた俺のSウェポン『アサルトソード』でもない。

 音の発生源は俺の肩(・・・)

 使用者の動作を補助するパワーアシスト機能により俺に斬撃の嵐を繰り出せるだけの膂力を供給していた『パワードアーマー』、そのアームの接合部からだ。

 

 

 「は?」

 

 

 あまりの突然の事態に思考が停止する。

 だが状況は俺の思考の回復を待つことなく急速に悪化していった。

 急に重くなった(・・・・・・・)『アサルトソード』により、ガルシア・ロッシ氏の接近を防いでいた斬撃の嵐が繰り出せなくなったのだ。

 そしてそれを読んでいた(・・・・・・・・)ガルシア・ロッシ氏が急速に間合いを詰めてくる。

 その時に浮かべていたガルシア・ロッシ氏の獰猛な笑みにより、彼が一体何をしたのかようやく理解した。

 

 

 (あの不自然な打撃は、『パワードアーマー』の接合部に負荷を掛けるためのッ!?)

 

 

 

 そう、彼が狙っていたのは『アサルトソード』ではない。

 狙いは『アサルトソード』を振り回して斬撃の嵐が繰り出せるだけの膂力を供給していた『パワードアーマー』の接合部。

 あの打撃は、こちらの攻撃の瞬間を狙って打撃を打ち込むことで『パワードアーマー』の接合部に負荷を掛けて破壊するためのものだったのだ。

 だが理解できたところで状況が良くなる訳でもない。

 

 

 「このぉッ!?」

 

 

 接合部が破壊されたことでアーマー本体から膂力が供給されなくなり、もはや使い物にならなくなった右手に代わり、『アサルトソード』を左手に持ち替え(スイッチ)、再度斬撃の嵐が繰り出そうとするも。

 ガルシア・ロッシ氏が俺の懐に潜り込む方が圧倒的に速かった。

 振り下ろそうとした『アサルトソード』が左腕ごと、ガルシア・ロッシ氏のフックで真上にかち上げられ、そして唸りを上げた正拳突きが俺の眼前に迫る。

 もはや『パワードアーマー』の全力を以てしても、切り返しには到底間に合わない。

 その衝撃を予想し、思わず固く目を瞑ってしまうも。

 いつまでもその衝撃が来ることは無かった。

 恐る恐る目を開けると、目と鼻の先でピタリと止まった拳とガルシア・ロッシ氏の勝ち誇った顔が。

 

 

 「ハ、ハハ。参りました……」

 

 「まあ、中々に楽しめたぜ小僧」

 

 

 俺の敗北宣言とガルシア・ロッシ氏の勝利宣言。

 エキシビションマッチの終了を告げるそれに観客の団員たちの歓声が訓練場に響き渡る。

 

 ……結局はこのザマだ。

 

 自身の立ち位置を知る為、その高みを確認するためと言いながら、内心ではガルシア・ロッシ氏に食い下がれるのではないかと思っていたのだ。

 だが蓋を開けてみればこれである。

 こちらの攻撃は全て避けられ、ガルシア・ロッシ氏にかすり傷一つ負わせることは出来ず、あげく最後には手加減までされる始末。

 所詮一介の技術者の悪知恵ではこの程度。

 これが現時点での自身の立ち位置であり、そしてその高みははるか雲の上にあるということなのだろう。

 しかし、その事を今知ることが出来て幸運だと思っている。

 

 

 「対戦して頂き、ありがとうございましたガルシア・ロッシ氏。おかげで世界の広さを、そして身の程を思い知ることが出来ました」

 

 「ほう……、折れてはいねえみたいだな」

 

 「まあ、本分は技術者ですからね。試行錯誤(トライアンドエラー)は日常茶飯事ですので」

 

 「なるほどな」

 

 

 失敗は成功の基とまで言うつもりはないが。

 それでも今回の敗北は貴重な財産となるだろう。 

 現時点での自身の立ち位置とその頂き、その差を身をもって経験できたという事は。

 今回の戦いで改善点、改良点は山ほど見つかった。

 今回入手したモーションキャプチャデータの分析もあるし、接合部の脆弱性が見つかった『パワードアーマー』の改良、場合によっては後継機の製作にも取り掛からなければならない。

 

 技術者にとって試行錯誤(トライアンドエラー)は日常茶飯事。

 必ずや今回の敗北を生かして、さらなる飛躍を遂げて見せよう。

 とりあえず、直ぐに出来る対策として―――

 

  

 「とりあえず、もうちょっと『パワードアーマー』の出力を上げてみようと思います」

 

 「………オメエ何で技術者の癖に、選択肢がちょいちょい脳筋方向に走んだ?」

  

 

 




 Sウェポン戦闘用強化外骨格『パワードアーマー』――通称『メカゴリラ二号』

 『フィジカルゴリラに対抗するには、俺自身がゴリラになることだ』の思想の元ハンスが開発したSウェポンの枠組みに入っているか若干怪しいパワードアーマー。
 使用者の動作を補助するパワーアシスト機能や体勢のバランスをコントロールする姿勢制御スタビライザーにより、使用者は規格外の身体能力を手にすることが出来る。
 それに加え、モーションデータを入力することで、プロの身体捌きや戦技(クラフト)を再現することも可能。
 それ以外にも、使用者の快適な温度に自動で調節してくれる温度調節機能や、戦術殻に制御を委ねることで全自動歩行機能も実装している。


 Sウェポン『アサルトソード』

 ハンス自身が手掛けた自分専用Sウェポン。ハンス自身の身の丈をほどもある刀身に、巨大なリボルバーが取り付けられた片刃の大剣。
 見た目通り非常に重いが、運用時は戦闘用マニピュレーター『パワードアーム』――通称『メカゴリラ一号』か『パワードアーマー』とセットで運用することで、片手でもナイフのようにぶん回すことが可能。
 Sウェポン自身には砲撃機能がついており広域制圧も可能。アサルトソードを突き刺した上で使用すれば、装甲車も破壊できる。
 最初は『パワードアーム』とのセット運用で満足していたが、『アサルトソード』をぶん回しすぎて腰を痛めた為、全身をカバーできる『パワードアーマー』に移行したという経緯を持つ。


 地裂斬(パチモン)

 ハンスが『パワードアーム』時代からよく使っている技。技?
 アームやアーマーから供給される馬鹿力を以て地面を叩き割る。
 剣術など一切関係無いただのゴリ押しにもかかわらず帝国二大流派、アルゼイド流の戦技(クラフト)の一つである《地裂斬》の名前を使っているので、アルゼイドの門下生に見つかったら地の果てまで追いかけ回される。
 ラウラネキも真顔になるレベル。
 ただ、地裂斬を放つ時は。必ず対象物をアルベリヒ工房長と重ねて放っている為、魂だけは籠っている。

 「オラァ!!!地裂斬(くたばれ工房長)!!!」


 
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