俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件 作:ギルバート
あの裏にはこんなことがあったんじゃねえかなという妄想。
我らがアルベリヒ工房長が悪夢の復活を遂げ、黒の工房に帰還してしばらく間。
俺はアルベリヒ工房長へ黒の工房の管理業務引継ぎの為、工房長の不在時の出来事と、各種代行していた業務の報告に費やしていた。
今もまた待機する俺の前で、アルベリヒ工房長が俺の提出した報告書(捏造済み)や、黒の工房の資金の運用状況(改竄済み)を確認しながら、現在の黒の工房の状況把握に努めている。
……まあ当然、ほぼ全ての書類は俺の都合のいいように手を加えているがな。
アルベリヒ工房長はしっかりと確認しているつもりのようだが甘い甘い。その程度で俺の不正の数々を見抜けるものかよ。
こちとら書類や報告書の捏造、資金帳簿の改竄に年季が入ってんだ。俺の不正を見抜きたきゃマルサの先鋭連れてこい。
そして忘れてはいないあの恨み。
顔にいつも通りの営業スマイルを張り付け、慇懃無礼な態度を心掛けながら、スキあらばアルベリヒ工房長が受けた西風の旅団団長の専用Sウェポンを完成させずに(あの世へ)バックレたあの件をチクチクと突いていく。
あ、そうだ。工房長がさっさと復活しなかったせいで、追加の専用Sウェポンの依頼を受ける羽目になった件についてもネチネチイヤミいったろ!
「ふむ。これならばSウェポン部門の全てを任せてもいいだろう。
ハンス主任、これからは専用Sウェポン製作も含め全てのSウェポン製作を担当するように」
なん…だと…?
◇
そんなこんなで、俺が光栄にもアルベリヒのブタ野郎にSウェポン部門の全てをなすりつけられたことを除けば、つつがなく工房長代理の業務の引き継ぎを終え、死亡した工房長の代わりに黒の工房の指揮を執っていた俺ことハンス工房長代理から、アルベリヒ工房長をトップとした従来通りの体制が再スタートした次の日。
アルベリヒ工房長と俺(強制連行)は、とある施設を訪れていた。
ここはゼムリア大陸で暗躍する秘密結社――
……おい大公。オメエの領地内に犯罪組織の拠点築かれてっぞ。
その研究施設を我が物顔でのし歩くアルベリヒ工房長と、その後を先のアームの接合部を修正し、西風の旅団から収集したモーションデータにより各流派の剣技の模倣再現が出来るようになったSウェポン戦闘用強化外骨格『パワードアーマー』――通称『メカゴリラ二号改』を着込み、(工房長にも)秘密裏に逃走ルートを詮索しながら歩く俺は、研究施設の最奥にある扉の前へとたどり着いた。
アルベリヒ工房長と俺が扉の前に立つと、ひとりでに扉が開き俺たちを中へと誘う。
何のためらいもなく踏み込んだアルベリヒ工房長の後をイヤイヤ付いていくと、その中は壁一面にモニターや端末が並べられたコントロールルームのようになっていた。
そしてその部屋の中央にある椅子に座る男が一人。
「これはこれは、黒の工房の工房長殿。
わざわざトップ自ら、私に引き渡す予定だった研究成果を持ってきてくれたのかね?」
壁一面のモニターから目を離し、そんな事を宣いながらこちらに向き直る、坊っちゃんヘアのメガネのオッサンは、F.ノバルティス。通称は博士。
身喰らう蛇の最高幹部《
ちなみにその邪悪そうな見た目からでも一目で分かる通り結社の中で一二を争うマッドサイエンティストだ。
「寝言は寝てから言ってほしいところですな博士。
我々は問いただしに来たのですよ。
そんな結社産マッドに対して、ウチの所のマッドが憮然した表情を浮かべていた。
ことの発端は先日、地精産マッドことアルベリヒ工房長が望まれもしねえ悪夢の帰還を果たした数日前まで遡る。
ラインフォルト社の研究施設に潜り込んでいた黒の工房のとある研究員の下に、F・ノバルティスからの依頼品である研究成果の引き取りの為、結社の《
その時、何故かその研究員と執行者との間で戦端が開かれ、その結果執行者の手により研究員が殺されるという事件が起きたのだ。
「何をバカな。我々はそもそも依頼品を受け取ってなどいない」
「口ではどうとでも言えますからな。死人に口なし、と言いますので」
「……何が言いたいのかね」
「我々は疑っているのですよ。貴方たち結社を。
最初から執行者を使って、我々の研究員を始末して研究成果を強奪するつもりだったのではないか、とね」
今回、アルベリヒ工房長がおそらく護衛役であろう俺を引き連れ、わざわざこの結社の研究施設に乗り込んで来たのは、この事件を問い詰める為だ。
ノバルティス博士が不愉快げに無実を主張したが、その程度でアルベリヒ工房長が追及の手を緩めることは無い。
確かに自身の組織に所属する研究員が結社に殺された以上、アルベリヒ工房長の抗議は当然。
そして、こちらの研究員が殺されているにもかかわらず、結社の執行者が瀕死の重傷であるとはいえ生存し、しかもその研究員がノバルティス博士に引き渡す予定だった研究成果そのものも、戦闘によって生じた余波による爆発火災で行方不明となれば、研究員を始末して強奪した研究成果を結社が隠し持っているのではないかという疑惑が浮上するのは、そう不思議ではない。
ここだけの言い分を聞けばアルベリヒ工房長の方に分があるように思うだろう。
ここにいるアルベリヒ工房長=殺された研究員――フランツ・ラインフォルトという構図が無ければな!
この事件の真相、それはイソラ・ミルスティンと相討ちとなったアルベリヒ工房長が、時間を掛けて《地精》の中で最も優秀な子孫であるフランツ・ラインフォルトに寄生、融合して人格を乗っ取った際、ちょうどそこに研究成果を引き取りに来たクルーガーと遭遇。
彼女に殺され、イシュメルガの加護により復活した不死者となることで、フランツ・ラインフォルトの身体をアルベリヒの思念体と完全に同化させ乗っ取る為に、研究成果の引き渡しを拒否して戦闘をふっかけたというのが真相である。
つまりクルーガーは完全なとばっちり、アルベリヒ工房長の策謀に巻き込まれただけなのである。
ちなみにアルベリヒ工房長が結社に強奪されたと主張する研究成果――有人型機動兵器《
つまりどういうことかというと。簡潔にいえば今回の一件、その全てがアルベリヒ工房長による自作自演なのだ。クソかな?
ついでに言うと、アルベリヒ工房長が乗っ取った相手――フランツ・ラインフォルトは、ラインフォルトの名からも分かる通り、将来帝国最大の重工業メーカーへと押し上げるラインフォルト社の社長、イリーナ・ラインフォルトの旦那であり、G・シュミット博士の一番弟子、そして閃の軌跡シリーズのヒロインであるアリサ・ラインフォルトの父親でもあるのだ。地獄か。
それはさておき、何故アルベリヒ工房長がこの壮大な自作自演の工作を仕掛けたのかというと、原作では語られてはいなかったのだが、どうやら事件を引き起こすことで、ノバルティス博士より依頼された研究成果――有人型機動兵器《
では何故アルベリヒ工房長は研究成果の引き渡しを有耶無耶にせねばならなかったのか、そしてそもそも何故結社のノバルティス博士が黒の工房に研究を依頼したのか。
そこには、とあるジジイからそこのマッドが横取りかましたあげく、散々手こずっているとある巨大人形の開発計画に端を発する。
十三工房の一角――《ローゼンベルク工房》の長ヨルグ・ローゼンベルクが構想、開発を始め、ノバルティス博士が横取りした『ゴルディアス級戦略人形兵器開発計画』。
コード《パテル=マテル》と名付けられた全高15.5アージュ(メートル)の巨大人形兵器の機体開発は、研究者としてだけは超一流のノバルティス博士を以てしても想像以上に難航していた。
特にこの巨体を動かす各部アクチュエーターの開発と、本体重量55トリム(トン)完全武装時は68トリム(トン)の巨体を支えることになる脚部関節の設計は、いかに博士とオーバーテクノロジーを有する結社とはいえども、並大抵のことではなかったのだ。
そして開発計画そのものに暗雲が立ち込め始めた頃、十三工房に参画し主に大型の人形兵器の製作技術を結社に提供していた黒の工房に、ノバルティス博士が目を付けた。
ノバルティス博士は黒の工房に人型の大型人形兵器を研究を依頼。
そしてそれは黒の工房が依頼を断れば十三工房からの追放も辞さないという強硬なものだった。
まあ黒の工房で活動する
それを結社に提供した製作技術から嗅ぎつけるあたり、さすがはノバルティス博士といったところだが。
それでもアルベリヒ工房長としては、イシュメルガの下僕として《巨イナル一》再錬成の儀式、《巨イナル黄昏》を引き起こす地精として、将来的に《巨イナル黄昏》を巡って敵対することになるであろう結社には、少しでも自身の有する技術を見せたくないのが本音だったのだ。
しかし黒の工房の技術向上の為にも、様々な分野で突出した古代技術を持つ集団たちによる技術者ネットワークである十三工房から追放されるという事態も避けたい。
そこでアルベリヒ工房長が思いついたのが、今回の《地精》の中で最も優秀な子孫であり、寄生対象でもあったフランツ・ラインフォルトを利用した、この自作自演の事件だったのだ。
ホント、マジで外道だよなウチの所の工房長。
今もノバルティス博士との依頼契約を全力で踏み倒して有耶無耶にすべく、時折殺されたフランツ・ラインフォルトの無念を
それに対し、ノバルティス博士も食い下がっているようだが、結社の執行者本人が黒の工房の研究員を殺したと証言している為にかなり分が悪そうである。
……というか、アルベリヒ工房長も前の工房長の顔そっくりに変装してるとはいえ、よくフランツ・ラインフォルトの身体でこの場所に来ようと思ったな。自作自演とはいえオメエを殺した組織だぞ。
しかも、その身体でフランツ・ラインフォルトの無念を騙るとか、大胆不敵というか、どんだけツラの皮が分厚いんだよ。戦車の正面装甲並みか。
そんなこんなで一時間後。
はっきり言って関わり合いになりたくないマッド同士の汚ったねえ足の引っ張り合いは一応の収束を見た。
ノバルティス博士は依頼の取り下げ。
その代わり結社の有する人間そっくりな機械人形の製作技術と、黒の工房の『ゴルディアス級戦略人形兵器開発計画』に使える技術をトレードすること、となった。
ノバルティス博士は依頼を取り下げたものの、トレードとはいえ結局黒の工房はゴルディアス級の開発計画に使える技術を提供せねばならず、また殺された研究員への保証もない。
そして何も知らない者達から見れば、結社が研究成果も強奪している可能性もあるのだ。
これだけ見ると、アルベリヒ工房長の一人負けのように思えるだろう。
これはノバルティス博士が十三工房の統括者としての立場を利用して、アルベリヒ工房長の意見を封殺しにかかったからなのだが。
だが真相を知っている者からすれば、これはアルベリヒ工房長の大勝利といえる。
黒の工房の基幹技術である人型の人形兵器の製作技術の詰まった
殺された研究員の保証がない件についても、殺された研究員=自分である為、正直どうでもよく、提供する技術についても、黒の工房が提供しても特に惜しくない、操縦者の神経系統を用いて、人形兵器と操縦者との意思の疎通が可能となる技術を提供することで、機械人形の製作技術がもらえるのだ。
一応、ノバルティス博士の前である為、怪しまれないよう部下の無念を晴らすことが出来ず
わかるぞ工房長。そうしないとこらえ切れないんだろ?笑いが。
わかるわかる。何せオメエが死んだときに同じようになったからな!
というか、《パテル=マテル》の制御テストで犠牲者出しまくってたあの技術、提供したの
しかも、よりにもよって、ウチが戦術殻と同調するために使っているあの技術を提供するとか……そらあれだけ犠牲者が出るはずだわ。
アルベリヒ工房長、分かってて提供しやがったな……。
そしてようやくこの場もお開きという方向に流れ始めた。
はぁ、終わった終わった。
交渉が決裂しなくてホント良かったわ。工房長を見捨てて逃げるのは確定事項としても、この研究施設から脱出できるかどうかは賭けだからな。
……え?お前護衛役として連れてこられたんだろって?知らんな。
まあ工房長もいざという時には自分を見捨てて逃げるように夢の中で言っていたような気がしないでもないので問題はないだろう。
しっかしマッドが同じ空間に二匹も居ちゃあ、部屋の空気が悪くなって仕方ねえ。
さて、地上に上がったらレミフェリアのどっかの都市の本屋にでも寄るか。医療関連の本も欲しいし。後イリスとゲオルグ君のお土産でも買おうかね。というかレミフェリア公国の特産品て何だ?医療関係に強いくらいしか知らねえんだが――――
「ああ、そうそう。これから結社との連絡役についてはここにいるハンスが努めます。
多少技術者としての心得もありますので、技術交流の窓口としても利用していただければ」
「ふむ?……まあそれなりによろしく頼むよ」
…………………………は?
個人的には、無人の巨大人形兵器作ってる結社と、有人の巨大人形兵器作れる黒の工房では、人形兵器に関しては黒の工房の方が上じゃないかと。
パテマテ以外の大型人形兵器はトロイメライを解析して作ったT・M・ドラギオンが出てくるまで無いようなので。