俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 バレバレだけどはボカしていく


第十四話 戦闘?いいえ接待です

 

 俺が光栄にも腐れ外道自演マッド野郎のアルベリヒ工房長に、Sウェポン部門の全てと、世界を股に掛けるテロリスト集団である身食らう蛇(ウロボロス)の連絡役に任命された数日後。

 

 イリスの性能実験で使っていたD=3演習場にて、俺とアルベリヒ工房長は戦闘訓練を行う為、互いに距離を開け、向かい合わせで相対していた。

 

 ……先に言っておくが戦闘訓練にかこつけて闇討ちしようとかではない。したいけど。 

 

 そもそもこの戦闘訓練は俺から工房長に提案したことではあるが、工房長も同意をしている。

 戦闘訓練の目的としては、アルベリヒ工房長の方は、新たに寄生した身体と戦術殻との同調の確認を、そして俺の方は、西風の旅団から収集したモーションデータにより各流派の技の模倣再現が出来るようになったSウェポン戦闘用強化外骨格『パワードアーマー Zwei 』――通称『メカゴリラ二号改』の稼働テストを求めての事である。(目的がそれだけとは言っていない)

 

 

 「来い、ゾア=バロール」

 

 

 そう言いながら、アルベリヒ工房長が指を鳴らすと、工房長の背後の空間から通常の戦術殻よりもひと回りほど大きい、本体からいくつもの触腕を生やした、銀色の一つ目の巨大戦術殻が現れた。

 コイツこそがアルベリヒ工房長の使役する戦術殻――《ゾア=バロール》だ。

 『全ての戦術殻の原型』と称されるだけあって、その性能は黒の工房に存在する他のどの戦術殻よりも高く、オマケに液体金属で構成されている体は、物理的なダメージを負っても形状再生し無効化してしまうのである。

 

 ……どっかのターミなネーターの2作目に出てきそうなヤツであるが、コアや関節の継ぎ目の部分には攻撃が効くので、溶鉱炉に落とせなきゃ倒せねえ、どこぞの人類抹殺ロボットよりはマシではあるが……鬱陶しいヤツである事には変わりはない。

 全く、素直にボコれば良かったゲームの時と違って厄介な性質を持ちやがってからに……。

  

 それに対し、俺の方の装備はというと、身体に装着した戦闘用強化外骨格の『メカゴリラ二号改』、以上である。

 いつもブン回しているSウェポン『アサルトソード』は持って来てはいないし、何なら俺の使役する戦術殻の方も今回の戦闘訓練では使うつもりはない。

 理由としては、今回の戦闘訓練は『メカゴリラ二号改』の稼働テストがメインであるというのもそうだが、俺にとっては、そこらの小型魔獣以下のクソザコであるアルベリヒ工房長への配慮という名のハンデであるというのが大きい。

 何故、非常に高性能な戦術殻であるはず《ゾア=バロール》を使役するアルベリヒ工房長を、クソザコゾウリムシ扱いできるのかと言えば……、相性の問題というのもあるが、純粋にアルベリヒ工房長が弱すぎるせいである。

 

 アルベリヒ工房長の戦闘スタイルは、ほぼゾア=バロールだより。

 本人はゾア=バロールが戦っている後ろで突っ立って指示を出しているか、時々魔法(アーツ)を撃ってくるくらいしかしていないのである。

 ぶっちゃけ、アルベリヒ工房長の戦闘能力の内訳は、95%くらいがゾア=バロールによるものといっても過言ではない。

 

 例えるなら、サ〇ヤ人襲来前のク〇リンを、戦闘力5のおっさんが従えているようなものである。

 

 まあそれでも前衛を務めるゾア=バロールが非常に高性能かつ優秀な為、こと一対一で戦う場においては、然したる問題にはならないのだが……、一対多、特にゾア=バロールを倒せないまでも一時的に足止め出来てしまうような戦力を相手にした場合、一気に問題が表面化してしまう。

 俺か戦術殻かどちらかが、ゾア=バロールを抑えてしまうと、途端に戦闘力5のゴミしか残らないという事態に陥ってしまうのである。

 

 ゲームだったら、アルベリヒ工房長のHPはゾア=バロール込みの値だったので問題は無かったのだろうが、残念ながらここは現実だ。

 現実にターン制などはないし、ゾア=バロールの強さがそのままアルベリヒ工房長の強さになるわけでもない。

 いくら頑張っても戦闘力5はクリ〇ンにはなれんのだ。慈悲はない。

 

 ……というか前から思っていたが、そもそも工房の連中は未来のオライオン姉妹も含めてどいつもこいつも、戦闘を戦術殻に頼り過ぎだろうが。

 戦術殻任せにするんじゃなく自分でも戦え。何で戦術殻に指示だけ出して棒立ちなんだよ。ポ〇モンバトルしてんじゃねえんだぞ。 

 

 そんな訳で、しっかりとテストが出来るよう戦力を釣り合わせる為に、今回は(も)俺の戦術殻はお休み。戦闘方法はこの訓練の為に作った(・・・・・・・・・・)、《殺人熊(キリングベア)》ガルシア・ロッシ氏の軍用格闘術で挑むつもりである。

 

 

 「ではこれより、ゾア=バロールと憑依素体との同調テスト及び、Sウェポン戦闘用強化外骨格『パワードアーマー Zwei 』の稼働テストを行う。先行は譲ろう、かかってきたまえ」

 

 

 ゾア=バロールを侍らせながらそんな事をほざくアルベリヒ工房長。

 

 ……何がかかってきたまえだ。ハンデ貰ってる分際で調子乗りやがって。いいだろう。

 いくらハンデを貰ったところで戦闘力5のゴミでは、〇イヤ人に敵わぬという事を思い知らせてくれるわ!

 

 

 「では遠慮なく」

 

 

 後で不意打ちされたから負けたなどという言い訳を吐けないよう、申し訳程度にアルベリヒ工房長に声をかけながら、パワードアーマーの脚部出力を全開にして、一気にアルベリヒ工房長との距離を詰める。

 

 とにかく、軍用格闘術で挑むつもりである以上、距離を詰めねば話にならん。

 

 そんな訳で、最短最速でアルベリヒ工房長との距離を詰めにかかったのだが、そんなに上手い事行くはずもなく、案の定俺とアルベリヒ工房長との間にゾア=バロールが割り込んで、こちらを攻撃し始めた。

 

 六本の触手のような銀腕を鞭のように振り回しながら、こちらに攻撃を仕掛けてくるゾア=バロール。

 元が金属であるとは思えないほどに柔軟さと伸縮性を持つ銀碗たちをウネウネと動かし、四方八方から襲い掛かってくるその妨害攻撃により、ゾア=バロールを無視してアルベリヒ工房長の下へと向かう事は不可能になったものの、攻撃自体は採取した膨大なモーションデータから組み上げた無数の回避モーションを駆使することで容易に躱せている。

 

 ……おお、いつもならアサルトソードで迎撃しながらじゃないと避けれない攻撃を無手でしのぐことが出来るようになるとは。さすがは超一流の猟兵団から収集したモーションデータ。優秀優秀。

 

 さて、この戦闘訓練の勝利条件…というより終了条件はアルベリヒ工房長から一本取ること。

 普段ならここでゾア=バロールの足止めしておけば、フリーになってる俺の戦術殻が、アルベリヒ工房長から一本取ってくれるのだが、今回は俺一人。

 さすがに使い慣れない軍用格闘術で戦術殻たるゾア=バロールを仕留めるのは厳しすぎるのでな。

 どこかで前衛のゾア=バロールのディフェンスを突破して、後衛のアルベリヒ工房長の下に辿り着かなければならん。

 

 ポ〇モンバトルで勝利したくば、〇ケモンではなくトレーナーを狙えばいいのと同じ理屈である。

 

 ……まあ一応両者共に戦闘訓練の目的をテストしている以上、必ずしも勝たなければならないことはないんだが……、アルベリヒ工房長如きに引き分けというのは癪に障るのでな。

 

 

 それに……それこそが今回の本当の目的(・・・・・・・・・・・・・)であるし。

 

 

「貫け。ゾア=バロール」

 

 

 しばらくゾア=バロールによる銀腕を躱しながら機を伺っていると、後方のアルベリヒ工房長の声と共に、ゾア=バロールの動きが唐突に変化した。

 アルベリヒ工房長の声に咄嗟に反応し、俺が大きく宙返りをしながら後方に飛び退るのとほぼ同時に、俺がいた場所の地面を無数の針が生えた六本の大槍(這い寄る銀腕)が突き穿った。

 演習場の床を大穴を開けるその正体は、先ほどまで触手のように蠢いていた銀腕。

 液体金属の完全制御を成し得るゾア=バロールにとって、銀碗を流体から個体に瞬時に変化させるなど児戯に等しい。

 

 軟体動物のように蠢いていた銀腕が、唐突に表面から無数の針をハリネズミのように生やしてこちらを貫いてくる。その奇襲性は、初見殺しとして十二分に期待できるものだろうが……まあこちらも何度もアルベリヒ工房長と戦闘訓練をした身である。

 互いの手の内を知り尽くしている以上、今更そんな攻撃に引っかかる訳がない。

 そして、その事をアルベリヒ工房長も理解しているからこそ―――

 

 

 「昏き雷よ、焼き尽くせ!」

 

 

 間髪入れずに二撃目が来るという訳だ。

 アルベリヒ工房長の声と共に、ゾア=バロールから放たれる三本のレーザー光線(トライブリューナク)。地面を抉りながら近づいてくるそれらを、発射口であるゾア=バロールからレーザー光線の軌道を見極め、光線と光線の間にわずかに存在する安全地帯へと体を滑り込ませていく。

 かくして、ゾア=バロールのレーザー光線を掻い潜った先に待つのは―――

 

 

 「行け、サタナスクロー!」

 

 

 避けられぬ最後の攻撃である。

 ゾア=バロールの左側が分離、浮遊しながら三本の銀腕を大きく開き(サタナスクロー)、まるでこちらを握りつぶすかのように襲い掛かってくる。

 一撃目、二撃目をワザと回避させ、退路を意図的に制限していくことで、避けることの出来ない三撃目への布石とする三段構え。

 チラリとゾア=バロールの後方でアルベリヒ工房長の薄笑いが見えた。

 今頃アルベリヒ工房長は勝利を確信していることだろう。

 なにせこちらはいつもと違って攻撃を防ぐことのできる『アサルトソード』を持っておらず無手の状態。

 その状態ではゾア=バロールを防ぐことなど出来まい――とアルベリヒ工房長は思っているんだろうが。

 

 ハッキリ言って甘い。〇ックスコーヒー並みに甘々である。

 何が甘いって、たかが得物を持っていない程度でゾア=バロールの攻撃を防ぐことなど出来ないと考えているアルベリヒ工房長がである。

 

 ……一体この軍用格闘術は誰の動きを模倣再現してると思ってんだ。

超一流の猟兵団、西風の旅団のNo.2――《殺人熊(キリングベア)》ぞ?

 

 パワードアーマーのアシスト機能に従い、身体を大きく沈めつつ、右足を後ろに下げて力を蓄える。

 そしてこちらに襲い掛かってくるゾア=バロールのクロ―が間合いに入った瞬間――

 

 

 「オラァ!!!」

 

 

 右足に溜めた力を一気に解き放ち、左足を軸にコマのように回転させた。

 

 ガルシア・ロッシ氏の戦技(クラフト)――大回転旋風脚。

 採取したモーションデータから組み上げ、使用者の動きを補助するパワーアシスト機能により模倣再現された強烈な回し蹴りは、ゾア=バロールのクロ―の中心部を見事に捉え、パワードアーマーが生み出す力も後押しし、クローをゾア=バロールの本体とは反対方向の空間へと蹴り飛ばした。

 

 ッ!!?衝撃キッツ!?ホントマジで固ってえよなコイツ!だがクローを本体とは反対方向へと蹴り飛ばしたからゾア=バロールの本体は隙だらけだ!

 

 クローを失い隙だらけのゾア=バロールに間髪入れず仕掛けるべく、回転させていた右足を地面に下すと同時に、全力でゾア=バロールに向けて走り寄っていく。

 パワードアーマーが脚部へと力を供給することにより、一瞬でその距離を詰めてもなお、その速度は止まらず、それどころか更に上げていく。

 そしてそのままトップスピードに乗った状態で、体の右半身を盾にするように前へと突き出し、躊躇なくゾア=バロールへと突っ込んでいく。

 

 

 「吹っ飛べ!!」

 

 

 ガルシア・ロッシ氏の戦技(クラフト)――ベアタックル。

 

 ゾア=バロールを標的に一切の減速なしにかましたタックルは、その莫大な運動エネルギーを空中に浮遊していたゾア=バロールに余すことなく伝播させ、かなりの重量のあるゾア=バロールをまるで木の葉のように跳ね飛ばした。

 

 まあド派手にぶっ飛んでいったものの、液体金属で構成されているゾア=バロールには、蹴り飛ばしたクローを含め、ほとんどダメージはないだろうが。

 流石はゾア=バロール。原作にてベテラン遊撃士であるはずのエステルとヨシュアをして、散々手こずったと言わしめただけある。(アルベリヒ工房長に手こずったとは言っていない)

 

 ……だが、それでも時間稼ぎには十分だ。

 

 タックルをかました勢いそのままに、そのまま最速でアルベリヒ工房長までの距離を詰めいく。

 驚愕の表情を浮かべるアルベリヒ工房長は未だ硬直状態から抜けきれておらず、蹴り飛ばされたクロー部分も、ふっ飛ばされたゾア=バロール本体も復帰まで時間がかかる。

 アルベリヒ工房長への進行ルートを邪魔するものは皆無だ。

 

 さあ、前座は終わり。

 ここからが本番にして(・・・・・・・・・・)今後の未来をも左右する(・・・・・・・・・・・)、重要な局面である。

 

 失敗は許されない……訳ではないが面倒くさいので一発で成功させたい。

 

 アルベリヒ工房長に走り寄りながら左拳を構えつつ、仕掛けを作動させる。

 カシャリという極小の音と共に左拳の側面から飛び出したのは、縫い針にも似た細長い針。

 その表面には魚の釣り針のような返しが幾つもついている。

 そして未だ身動きの取れないアルベリヒ工房長の眼前まで近づくと、拳の側面から見えるか見えないかのその小さな針を伴ったまま、アルベリヒ工房長のこめかみの部分、当たるか当たらないかギリギリのライン目掛けて一気に振りぬく。

 拳から飛び出した、そして魚の釣り針のような返しのついた小さな針は、その返しにアルベリヒ工房長の長髪を数本絡ませ――毛根ごと引きちぎった(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 アルベリヒ工房長side

 

 

 

 「これで戦闘訓練は終了……ですかね?」

 

 

 こめかみ辺りに鋭い痛みと拳の風切り音が聞こえてしばらくして。

 拳を私の顔のすぐ横で振り抜いた状態で、ハンス主任は相変わらずの営業スマイルを浮かべながらそう嘯いた。

 Sウェポン戦闘用強化外骨格『パワードアーマー Zwei 』の稼働テストを目的としたハンス主任からの提案に乗る形で、執り行われることとなった今回の戦闘訓練。

 こちらとしても、ちょうどゾア=バロールと憑依素体との同調テストも行いたかった為、ハンス主任の提案は渡りに船ではあった。

 

 だがハンス主任の戦闘能力の高さ自体は把握してはいたが……、まさか不意打ちが決まったとはいえ、戦術殻を封じた状態で、ここまでやれるとは少々想定外だった。

 ……まあ、所詮は不意打ち狙いでしかなく、弾き飛ばされたゾア=バロール自体もほとんどダメージはないが。

 

 最後の攻防でハンス主任の攻撃が掠ったのか、ピリピリとした痛みを放つこめかみを撫でつつ、振りぬいた拳を戻し、手を後ろに組みながら(・・・・・・・・・・)立っているハンス主任へ返答を返す。

 

 

 「……そうだな、ゾア=バロールと憑依素体との同調テストはこれで十分だ。

 『パワードアーマー Zwei 』の稼働テストの方は?」 

 

 「ええ、こちらも実戦データの収集の方は十分でしょう。

 詳細については後でデータを確認してからになりますが……、実際に使ってみた所感として、西風の旅団から収集したモーションデータから組み上げた回避モーション群、あれは中々に優秀です。

 純粋に回避行動の質が上がります。

 《殺人熊(キリングベア)》の軍用格闘術の模倣再現も、……まあそれなりには使えるでしょう」

 

 「何か問題が?」

 

 「結局の所、パワーアシスト機能で模倣再現出来るのは動きだけですからね。

 戦技(クラフト)なども模倣再現することは出来ますが、所詮はガワだけ。

 軍用格闘術の本質を理解している訳ではない以上、完全再現という訳にはいきません。

 不足分をパワードアーマーの出力で埋めたとしても、やはりモーションデータの提供者(ガルシア・ロッシ氏)のそれと比べれば、かなり見劣りします」

 

 

 「いいとこ中伝(中級者)レベルの模倣再現でしょう」と言いながら、ハンス主任は肩を竦めて見せた。

 

 

 「ふむ……、それでは他の流派の模倣再現も、それと同様の現象が起こる可能性があると」

 

 「可能性ではなく、確実に起こるでしょう。

 しかしそれを踏まえても、モーションデータさえあれば、どんな流派でも中伝(中級者)レベルの模倣再現が可能、という点に関しては十二分に魅力的であるとは思いますがね。色々と(・・・)

 ……まあ、それの解決策についてはひとまず置いておくとして、しばらくは集めたモーションデータを基に、軍用格闘術だけでなく、他の流派のマスターデータ作りに専念しようと思います」

 

 「そうか」

 

 

 ハンス主任から今後の方針を聞き、そして戦闘中いくつか目に付いた『パワードアーマー Zwei 』の技術的問題点とその解決策を伝え、今回の戦闘訓練はお開きとなった。

 

 ……まあ、順調に進んでいるならば特に言うことはあるまい。

 黒の工房に対し、成果を示し続けるのであればな。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 戦闘訓練がお開きとなり、D=3演習場から足早に去っていくアルベリヒ工房長を、俺は手を後ろに組みながら営業スマイルで見送る。

 

 そしてアルベリヒ工房長の姿が見えなくなり、たっぷり二分が経過し、確実にこの近辺に工房長が居ないと確信した所で―――

 

 

 セ―――――――――フ!!!

 

 

 ようやく警戒を解くことが出来た。

 

 ……何とかアルベリヒ工房長に勘付かれずに済んだな。

 

 

 「仕事だ《グング=ニール》」

 

 『A・WnЭҐК』

 

 

 俺の呼ぶ声と共に唐突に何もない空間から現れた赤色の傀儡。コイツが俺専用の戦術殻(パシリ)――《グング=ニール》だ。

 

 

 「予定通り(・・・・・)、今からコントロールルームに行って、さっきの戦闘記録を改竄して来い。出来るな?」

 

 『Ё・Ⅴжёӥа』

 

 「よし行け」

 

 

 俺に命じられたグング=ニールは、フワフワと浮かびながらコントロールルームへと向かっていく。

 俺の戦術殻は、他の戦術殻とは違って戦闘方面ではなく、データ分析処理などといった情報支援方面に改良している。あと雑用。

 そもそも戦闘ではあんまり使わねえし。

 まあ、改良程度でそこまで積極的に特化させている訳ではないが……、記録データの改竄くらいは難なくこなすせるはずだ。

 

 ……いっその事、情報支援方面に特化させてもいいかもしれないな。いくつか改造アイデアもある事だし。

 

 隠蔽工作に向かうグング=ニールを見送りつつ、俺は後ろに組んでいた手を離し、左手を目の前へ掲げ、成果物を確認する。

 

 左拳の側面から伸びた魚の釣り針のような返しのついた小さな針。

 そこには、アルベリヒ工房長の毛根つきの髪の毛が数本絡みついていた。

 

 コレこそが今回の戦闘訓練における最大の目的。

 

 コレをアルベリヒ工房長の頭から毟る為に、わざわざ『パワードアーマー』の稼働テストなんて目的をでっち上げ、至近距離まで近づかれても怪しまれない軍用格闘術のモーションデータを組み上げたのだ。

 そもそもの話、戦闘訓練自体が、そのために仕組んだものだ。

 じゃなければ誰がアルベリヒ工房長なんぞと戦闘訓練なんかするか。

 本当に稼働テストの実戦データが欲しければ、イリスかゲオルグ君に戦闘訓練の相手役を頼むわ。

 

 ……言っておくが、髪の毛を毟ることそのものが目的ではない。

 もしそれが目的なら、数本と言わず、アルベリヒ工房長の髪の毛全部毟ってハゲベルヒにしている。

 

 俺が欲しかったのは、髪の毛の毛根。

 正確に言えば、その細胞から抽出できる遺伝子情報の方だ。

 コイツは自然に抜けた毛からは抽出できんのでな。

 

 本当なら、ほっぺたの内側を綿棒でこする口腔上皮の方が一番確実に結果を出せるんだが……、どれだけ考えてもアルベリヒ工房長に気付かれずに検体を採取する方法が思いつかなかったのだ。

 

 なので次善の策として、戦闘中のどさくさに紛れてアルベリヒ工房長の髪の毛を毟って検体を採取するという方法を選んだのである。

 

 そしてこれこそが、あの腐れ上司を絶望の底へと蹴り落とすための切り札。

 

 アルベリヒ工房長に対するとっておきのジョーカーとなる代物だ。

 

 まあ尤も。それが実現するのはまだまだ先の話。

 

 もっと言えば、遺伝子情報自体は首尾よく手に入ったものの、それ以外にも解決しなければならない問題はまだまだ沢山ある。遺伝子情報からの素体造りに、魂魄の流出問題等々。

 どれもこれも一朝一夕では片付くようなものではない、非常に難しい難題ばかりだ。

 

 

 だがしかし!しかしである!

 

 

 未来でアルベリヒ工房長を絶望の底へと蹴り落とせるという希望があるのならば!!

 

 

 そして絶望の底に沈んだ工房長を煽り倒せるという愉しみがあるのならば!!!

 

 

 そこにどんな壁があろうと、乗り越えて見せようではないかッ!!!!

 

 

 あ、そうそう。

 一応言っておくが、俺がさも私利私欲で計画を練っているように思っているかもしれないが、これは人助けも兼ねている。

 全てが上手くいった暁には、助かる命もあるのだ。

 だからこれは、れっきとした正義の行いなのである。

 よってアルベリヒ工房長を絶望の底へと蹴り落とすのも煽り倒すのも全て、正義の為の致し方無い犠牲なのである。

 よしんば正義の行いが成されなかったとしても、アルベリヒ工房長は絶対に致し方無い犠牲にしてやるので、何の問題もない。

 

 

 





Sウェポン戦闘用強化外骨格『パワードアーマー Zwei 』――通称『メカゴリラ二号改』

 アーム接合部の補強に加え、西風の旅団から収集したモーションデータにより回避モーションや、各流派の模倣再現が出来るようになったパワードアーマー。
 従来通りの機能も問題なく使用可能。
 ただし、各流派の模倣再現については動きだけしか再現できない為、本家と比べ劣化傾向にある。

 大回転旋風脚(模倣再現):中円・0%で気絶 CP60

 ベアタックル(模倣再現):直線・0%で気絶 CP45



 小ネタ:誰でも出来る!ハンツ主任の(たお)し方!

 「ハンツ主任って、アルベリヒ工房長にソックリだよね~(笑)」

 「」

 死因――憤死

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