俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 アルタイルロッジ潜入ミッション。

 


第十六話 強盗?いいえ産業スパイです

 

 七耀暦1198年一月深夜。

 カルバート共和国西部アルタイル市近郊にある森林地帯。

 街と街とを結ぶ街道から外れているがゆえに、地元民ですらあまり立ち入ることのない鬱蒼とした森林地帯の、さらに奥深くにひっそりと建てられた石窟寺院跡。

 その近くで岩窟寺院跡の入り口を警戒しながら、隠れ潜むように待機している五人の集団がいた。

 

 

 「現時点で、特に異常はなし。

 どうやら連中に作戦は気付かれてはいないようだな」

 

 「ええ、そのようですね」

 

 

 茂みに隠れつつ、双眼鏡で岩窟寺院跡の出入り口付近を確認していたクロスベル警察の中年捜査官――セルゲイ・ロウの言葉に、傍らの若い男の捜査官である――アリオス・マクレインが同意する。

 

 

 「しっかし共和国領内の犯罪組織の拠点制圧なんて大捕物を、共和国軍ではなく、俺たちクロスベル警察の警察官に任せられるとはな………」

 

 「共和国軍内の一部の将校に教団との繋がりが確認されたからだそうですが……一体どこまで連中の手が伸びているのやら」

 

 

 セルゲイ・ロウのその呟きに、もう一人の若い捜査官――ガイ・バニングスが言葉を続けた。

 

 各国政府や軍隊に警察、遊撃士協会、七曜協会などといった名だたる組織が参加する《D∴G教団》殲滅作戦。

 その一大作戦に、数ある《教団》の拠点の一つとはいえ、宗主国の片割れであるカルバート共和国の軍隊を差し置いて、クロスベル自治州の刑事である彼らが選ばれるという事自体、日々もう一つの宗主国であるエレボニア帝国との軋轢に悩まされている一般のクロスベル民なら自尊心を搔き立てそうではあるが。

 彼らにそういった類の感情は一切ない。

 作戦前のブリーフィングにて、この《D∴G教団》という組織の、あまりに常軌を逸した残虐性を嫌というほどに理解しているがゆえに。

 

 

「お三方、そろそろ時間ですぞ」

 

 

 話していた三人に、壮年の男性二人が声をかける。

 彼らは遊撃士協会から派遣され、セルゲイら三人の突入班が来るまで、岩窟寺院跡を利用する形で作られた《Ð∴G教団》の拠点(ロッジ)――アルタイルロッジの監視をしていたベテランの遊撃士たちだ。

 殲滅作戦が始まれば、彼らが後方支援と、教団員を逃がさないよう入り口に陣取って封鎖線を張る手はずとなっている。

 

 

 「女神(エイドス)の加護を。気を付けてな」

 

 「外は任せい。『支える籠手』に懸けて、何人たりとも《教団》の悪鬼羅刹共を逃がしはせん」

 

 「ええ、よろしくお願いします。女神(エイドス)の加護を」

 

 

 二人の遊撃士と言葉を交わしたセルゲイは、これから突入する部下(戦友)であるアリオス、ガイを見やる。

 そのセルゲイの視線に対し、二人は力強く頷いた。

 

 

 「よし!未成年児拉致監禁並び暴行の容疑で、これより《Ð∴G教団》アルタイルロッジの強制捜査を開始する!

 いくぞ!!セルゲイ班!!」

 

 「おう!」

 

 「承知……!」

 

 

 そして五人の男たちは、無尽蔵に悲劇を量産する《Ð∴G教団》に終止符を打つべく、アルタイルロッジへと突入していった。

 

 

 …………遥か上空にて、月の無い夜空と同化しながら、彼らを見下ろす一人の少女と異形の傀儡に気付かないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンスside

 

 

 

 『こちらイ……β(ベータ)、襲撃部隊のアルタイルロッジ突入を確認しました……ヘクチッ

 

 「こちらα(アルファ)了解、潜入ミッションを開始する。β(ベータ)はこのまま合流地点C-12へと移動せよ」

 

 『こちらβ、了解しました……クチュン

 

 

 上空から光学迷彩を使って姿を消しながら突入班を監視していたβ(ベータ)ことイリスからの連絡を聞き終え、(アルファ)は無線を切った。

 

 ……イリスには、襲撃部隊―――特にあの中に居るとびっきりのヤベー奴に気配を探知されないよう、なるべく高高度から監視するように言っておいたんだが……さすがに真冬の空は寒すぎたか。

 なるべく暖かい恰好をさせていたのだがな……。

 

 まあイリスは先の襲撃部隊の監視任務を完了したら、後は先に決めておいた合流地点で待機しておくように『命令』しているから大丈夫だろう。

 

 ……何ならこの潜入ミッションが無事に終わったら、どっかの町で温かい飯でも奢ってやってもいいか。(工房の金)

 

 

 さて。アルベリヒ工房長より命令が下った、リベールのチート親父ことカシウス・ブライトが総指揮を執る《D∴G》教団殲滅作戦、その真っ最中に《教団》の拠点の一つであるアルタイルロッジに忍び込み、襲撃部隊と《教団》の狂信者共がドンパチやってる中を搔い潜りながら《教団》の有する技術情報を奪取してこいとか言う、控えめに言って頭おかしいんじゃないかと思うような今回の潜入ミッション。

 おまけに潜入ミッション自体三日前に急遽決まったものである為、潜入する為の下調べなどといった事を行なっていないという杜撰さである。

 潜入先ですらこの手抜きっぷりなのだから、当然襲撃部隊の情報など調べている訳もない。

 結局、今回の潜入ミッションで役立ちそうなモノと言えば、数年前にアルベリヒ工房長が《教団》の幹部司祭として活動していた時にパクッてきたロッジの見取り図と、それに記載されている隠し通路の情報くらいである。

 ちなみに、当たり前の話であるが、数年前の見取り図である為、新しく拡張された部分や封鎖された部分など載っているはずもなく、そもそも今現在も正しく見取り図として機能しているかどうかすらも定かではない。

 それで教団のロッジに潜入してこいとか言うのだから、もはや無茶無謀を通り越して、新手の自殺か何かだろう。

 気分はさながら、ひのきのぼうを持たされて魔王を倒して来いと言われる勇者の気分である。

 ……いやまあ立場的には勇者側ではなく魔王側だったりするのだが。

 

 全く……、アルベリヒ工房長が……というより《黒の工房》がもっと早く《D∴G》教団殲滅作戦の情報を掴めていたのであれば、もっとまともな潜入計画を練ることが出来たのだろうが……。

 

 ……いや、むしろこの辺りは、事ここに至るまで黒の工房の情報網すらも欺いて、殲滅作戦に関する情報を秘匿しきったカシウス・ブライトの――ひいては《遊撃士協会(ブレイザーギルド)》の方が一枚上手だったという事か。

 

 まあ、そこまで情報の秘匿に気を遣っていた理由も、こちら(黒の工房)を警戒していたとかではなく、《教団》で運営していた《楽園》とかいう名の強制売春所で弱みを握られたクッソ情けねえペ○フィリア権力者も含め、いたる所に存在する《教団》のシンパ共に、殲滅作戦の動きを悟られないようにしていたからだろうが。

 

 だがそれにしても、ここまでカシウス・ブライトと《遊撃士協会(ブレイザーギルド)》に情報戦で惨敗しておいてなお、教団の有する技術情報を諦め切れず潜入ミッションを強行しようとするあたり、流石はアルベリヒ工房長といった所である。頭おかしいんか?おかしかったわ。

 

 だがまあ事ここに至っては、もう割り切るしかない。

 幸い、潜入装備に関しては俺の研究品から幾つか見繕うことが出来たし、見取り図以外の情報が皆無のアルタイルロッジの方も、そのロッジに突入する襲撃部隊の情報の方も、非常に、非・常〜に残念ながら原作知識から多少は補完することができる。 

 

 え?情報を補完できるのに何でそんなに嫌そうなんだって?

 ……世の中には知らない方が良かったという事もあるんだよ。

 

 さて、では今回の潜入ミッションの舞台となるアルタイルロッジやその他の事についておさらいしておこう。

 

 数百年前に鍾乳洞に造られた石窟寺院跡。

 その寺院跡を《Ð∴G教団》が改修、《儀式》という名の人体実験を行う拠点として利用しているのがこのアルタイルロッジだ。

 元々が自然の鍾乳洞を利用しているだけあって、内部は迷路のように入り組んでおり、そこに侵入者用のトラップに、《教団》に飼いならされた魔獣、そして死ぬことを厭わない狂信者共が待ち構えている。

 

 一応、アルベリヒ工房長から齎されたアルタイルロッジの見取り図と原作知識により、ロッジ内部の詳しい構造とトラップが仕掛けられていそうな箇所に関しては見当はついているが、ロッジ内を徘徊する魔獣と狂信者共については見つからないよう注意しておく必要がある。

 とはいえ、魔獣と狂信者に関してはそこまで心配していない。

 おそらくこの両者は、アルタイルロッジ制圧の為に突入してくる襲撃部隊の方に掛かり切りになるだろうからな。

 

 というかハッキリ言って、このアルタイルロッジ潜入ミッションにおける最大の障害は《教団》側の魔獣や狂信者などではない。

 このアルタイルロッジに突入してくる襲撃部隊―――クロスベル自治州クロスベル警察の『セルゲイ班』の方である。

 

 『搦め手』の異名を持ち、のちにその手腕を以て主人公が属する特務支援課を設立するベテラン刑事のセルゲイ・ロウ。

 原作主人公ロイド・バニングスの兄貴であり、エロい巨乳の姉ちゃんと婚約中という死亡フラグ満載の優秀な捜査官のガイ・バニングス。

 そしてさっき襲撃部隊の中に居ると言った、とびっきりのヤベー奴。

 『八葉一刀流』の二の型《疾風》の免許皆伝を受けた、のちの《風の剣聖》アリオス・マクレイン。

 

 三人だけの部署であるにも拘わらず捜査一課以上の実績を叩き出し、《D∴G教団》殲滅作戦に抜擢されるほどの優秀なチームであり、今回のミッションにおいて最も警戒すべき連中である。

この『セルゲイ班』にだけは見つからないよう細心の注意を払わなければならん。

 

 特にアリオス・マクレインとは絶対遭遇してはならない。

 『八葉一刀流』というエリートゴリラ共を輩出し続けた流派の免許皆伝の証である《剣聖(もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな)》。

 その名を未来で授かることが確定しているマジモンの怪物なのである。

 アリオス・マクレインがいつ《剣聖(チート)》の名を授かったのかは定かではないが、それでも未来でその証を授かる以上、現時点でもかなりの技量を兼ね備えているのは確実。

 普通に考えて、ただの技術者(人類)がマトモに戦って勝てる相手ではないのは言うまでもない。

 

 ……コイツらがいるから、俺はアルタイルロッジになんぞ来たくなかったんだ。

 できる事ならアルベリヒ工房長とゲオルグ君が担当するミリーズロッジを担当したかったよ……。

 ミリーズロッジの場所も何も知らんが、少なくとも三連ゴリラが屯するこの場所よりは絶対マシだろうからな。

 

 一応万が一見つかった時に、己の素性がバレないように用意した保険(・・)もあるが……、使わないに越したことはない。

 

 ああそれと、このアルタイルロッジにはもう一人、非常に重要な人物(・・・・・・・・)が実験体として《教団》に囚われているのだが……そちらに関してはあまり気にしなくていい。

 どうせ、『セルゲイ班』の連中が救出するだろうからな。

 

 さて、そろそろ突入した襲撃部隊『セルゲイ班』と《教団》の狂信者共が戦端を開いた頃合いだろう。

 こちらも仕事(潜入ミッション)を始めるとしよう。

 今俺が居る場所は、おそらくは幹部司祭の逃走用に作られたと思われる、アルタイルロッジにいくつか存在する隠し通路の一つにいる。

 目の前の壁一枚隔てて向こう側がアルタイルロッジとなる。

 

 とある(・・・)《組織》の下っ端兵士に賄賂(工房の金)を渡して借りてきたヘルムと大剣を装備し、とある(・・・)《組織》のプロテクターを真似て赤く塗った(・・・・・)『パワードアーマー Zwei 』――通称『メカゴリラ二号改』の調子を確認する。

 

 そして準備を整え、通路の壁にあったレバーを押し倒す。

 すると鈍い音と共に通路とロッジを隔てていた壁が横へとスライドし道が出来た。

 

 ……さあ、ここから先に進めばもう後戻りはできん。

 後は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処することにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

  

 隠し通路の先へと踏み込むと、どうやら倉庫として使われているらしい周囲に物資の入った木箱やコンテナなどが積み上がった場所に出た。

 その障害物たちの間をすり抜けて通路方面へと向かい、慎重に様子を伺ってみるが人影は無い。

 

 だが耳をすませば、遠くから銃声や怒号、そして魔獣の雄叫びといった戦闘音が鍾乳洞内に反響しながら聞こえてくる。

 

 ……予想通り《教団》の魔獣と狂信者のほとんどは襲撃部隊の『セルゲイ班』の迎撃に向かったようだな。そのまま俺がミッションを終えるまで争っておいてくれよ……。

 

 そのまま俺は音を立てずに目的地に向けてアルタイルロッジの通路を駆けていく。

 

 このアルタイルロッジは上層、中層、下層、そして最下層と分かれており、隠し通路は中層、下層、最下層に一つづつ存在している。

 今俺が出てきたのは中層にある隠し通路。

 そして目的地は下層にある《情報保管庫》となる。

 アルベリヒ工房長曰く、ここにロッジの技術情報が集積されているらしく、ここのデータを全て奪取することが今回の潜入ミッションの目的となる。

 下層にある《情報保管庫》に向かうのであれば、わざわざ中層にある隠し通路を使わずとも、同じ下層にある隠し通路を使う方が良いと思うかもしれないが、下層にある隠し通路の出入り口と《情報保管庫》の場所が、ちょうど東側と西側の端というほぼ真反対に位置している為、もしそちらを使うのであれば、おそらく一番教団員が詰めているであろう中央付近を横切らなければならないのだ。

 それならば《情報保管庫》と同じ西側にある中層にある隠し通路を使った方が、多少道中の距離が長くなろうとも発見されるリスクを抑えることが出来る。

  

 迷路のような複雑な内部構造をしているアルタイルロッジ内を、事前にアルベリヒ工房長から齎された見取り図と原作知識を思い出しながら音もなく駆け抜け、途中バタバタと慌ただしく駆け回っている教団員や魔獣共を物陰に隠れてやり過ごしていく。

 そして何とか誰にも見つからずに目的の部屋―――《情報保管庫》に到着することが出来た。

 

 中に居るのは三名か……。

 

 入り口のドアを僅かに開けて中の様子を確認すれば、三人の教団員たちが中で慌ただしく作業をしていた。

 おそらくは侵入者を抑えきれなかった時の為に、技術情報を含めた研究データの持ち逃げする準備をしているだろう。

 

 ……その業務、俺が引き継いでやろう。

 

 刑事ドラマのようなドアを蹴破るといった仰々しい真似はせず、普通にドアを開いて中に入る。

 突然開いたドアに中に居た者たちは、誰か他の教団員が入ってきたのかとこちらに視線を向け――

 

 

 「「「なっ!?」」」

 

 

 顔をヘルムで覆い、赤色のプロテクター(・・・・・・・・)を身に纏った予想外の不審者に思考が硬直しているようだった。

 もちろんデータの持ち逃げ準備をしていることからして、彼らも侵入者の存在は当然知っていたのだろうが。

 まださほど時間も経っておらず、未だ喧騒か遠くに聞こえるような段階で下層に近いこの場所まで踏破してくる者が居るとは想定外だったのだろう。

 それでも硬直したのは一瞬。

 一部の教団員たちは再起動を果たすと、行動を起こそうと動き出すが―――

 

 

 「遅え」

 

 

 未だ事態飲み込めず固まっている者、こちらを敵と見做して動こうとする者まとめて、部屋の中に居た教団員を一人づつ丁寧にサプレッサー付きの導力銃で撃ち抜いていく。

 そして三発の小さな発砲音から少し遅れて、三人の教団員が床へと崩れ落ちた。

 

 言っておくが殺してはいない。

 対フィジカルゴリラ(主人公陣営)用に開発中の麻酔弾で痺れて動けなくなっているだけだ。

  

 あのフィジカルゴリラでも最低一時間は動けなくなるよう性能を強化した特別性である。

 狂信者といってもただの人間が食らえば三日は動けなくなるだろう。

 後で突入班に逮捕ついでに救出してもらうといい。

 

 

 「仕事だ、《グング=ニール》」

 

 『A・WnЭҐК』

 

 「ここのサーバーのデータ全てをコピーしろ。

 いいか?データはコピーするだけで削除するなよ。

 教団員共の犯行記録を消す必要はない」

 

 『Ё・Ⅴжёӥа』

 

 「よし、かかれ」

 

 

 部屋の中に居た教団員を行動不能にすると俺専用の戦術殻――《グング=ニール》を呼び出し、データの収集を命じる。 

 他の戦術殻とは違って戦闘方面ではなく、データ分析処理などといった情報支援方面に改良しているアイツに任せておけば、サーバー内に保存されている電子データの接収は問題ないだろう。

 

 俺の命令を理解した《グング=ニール》が情報端末にアクセスして作業を始めるのを見届けると、先ほど導力銃で撃ち抜いた教団員共をうつ伏せに転がして手足を結束バンドで締め上げていく。 

 

 結束バンドマジ便利。さすが国によっては手錠代わりに使われるだけはある。

 

 そして教団員共の懐を漁り、所持していた戦術オーブメントを片端から踏み壊していく。 

 

 いくら麻酔弾が効いているとはいえ、キ〇ガイ共に武器なんぞを持たせたままにしておく訳がない。

 そして……やっぱり持ってやがったか(・・・・・・・・・・・・)

 

 予想通り、教団員全員が懐に忍ばせていた蒼の錠剤(・・・・)が入ったビンも確実に没収していく。

 

 これこそが《D∴G教団》を《D∴G教団》たらしめている薬物―――軌跡シリーズきっての害悪植物である『プレロマ草』を主原料として製造された《グノーシス(真なる叡智)》である。

 

 服用すると脳の無意識的な制限が外れ、超人的な身体能力を発現することが出来、その他にも体質や摂取量によって様々な効果を発揮する《グノーシス(真なる叡智)》。

 これを、《D∴G教団》は非人道的な人体実験を行う上で、必ずと言って良いほどに実験に使用してきた。 

 その裏には喪われた幻の至宝を再現せんと暗躍する錬金術師一族の壮大な野望があったりするのだが、それはともかく。

 とりあえずこれは全て没収させてもらう。摂取して暴れられても敵わんのでな。

 

 ……それに個人的に、この《グノーシス(真なる叡智)》には色々思うところがあるしな。

 

 ここまでやってようやく、教団員共の完全な無力化が完了するのである。

 普通ならここまでせずにボコればいいだけの話なのだが、ここでしばらく作業をしなければならんからな。

 

 

 「グハッ!?」

 

 

 念の為に、出入り口近くにいた教団員の一人をドアの前に蹴り転がしてバリケード代わりにしておく。

 

 さて、電子データ関連は《グング=ニール》に任せるとして……、俺は紙媒体に記録された技術情報を接収していくとしようか。

 部屋にあった机の上に持ってきた撮影機器を設置し、ズラリと並んだ資料棚にある資料を片端から手に取って、その設置した撮影機器の前でページの全体が映るように気をつけながらパラパラとめくっていく。

 こうすることでクソ重い紙媒体の資料全部を持っていかずとも、記録された技術情報を持ち出すことが出来るのだ。

 まあその分、分析は死ぬほど面倒くさいが、後でゲオルグ君がやっといてくれるだろう。(上司命令)

 

 よしよし順調順調。

 この後は奪取した情報を持って速やかに来た道を戻り、侵入する時に使った中層の隠し通路から離脱すれば任務完了だ。

 

 

 ガハハ、勝ったな。

 

 

 

 

 

 

 

 一時間半後

 

 

 

 何で!紙媒体で記録された技術情報が!!こんなにも多いんだ!!!

 

 

 

 途中までは上手くいっていた技術情報の接収。

 だがそれは《教団》が想像以上に技術情報を紙媒体で保管していたことによって、予想外に時間が掛かっていた。

 まさか大半の技術情報をサーバーじゃなくて、紙媒体で保管してやがったとは……。これだからアナログ共は。

 俺が盗みやすいように全て電子データで管理しとけってんだ!

 

 途中からは目ぼしい技術情報のみを抜粋し、一足先に作業を終えた《グング=ニール》にも手伝わせて技術情報を収集していくが、それでも全ての作業を終える頃には、当初の想定していた時間を大幅に超過していた。

 

 クソが!時間をかけ過ぎた!

 

 全ての資料を録画し終えた撮影機器を回収し素早く撤収準備を整えると、足早に部屋の出入り口へと向かう。

 

 

 「どけ!」

 

 「ごぼあッ!?」

 

 

 なにドアの前に寝転がってんだ。通行の邪魔だろうが!

 

 ドアを塞いでいた教団員を蹴り退かし《情報保管庫》から出ると、潜入時は遠くに聞こえていた戦いの喧噪が、いつの間にかかなり近くで聞こえるようになっていた。

 

 予想以上にセルゲイ班の制圧速度が早いな……。

 ……中層の隠し通路を使うのは危険か?

 

 先ほど潜入に使った中層にある隠し通路から脱出するには、来た道を引き返す必要がある。

 つまりはあの『セルゲイ班』と《教団》の狂信者共が戦闘を繰り広げているであろう場所に近づいていく形になるのだ。

 最悪、向かっている途中で『セルゲイ班』と鉢合わせしかねない。

 

 仕方ない……、脱出は下層にある隠し通路を使うか……。

 

 

 「こちらα(アルファ)、合流地点変更。C-36へと向かえ」

 

 『こちらβ(ベータ)、了解です』

 

 

 通路を駆け抜けながらイリスに無線で連絡を入れ、合流地点の変更を伝える。

 

 先ほども言った通り、《情報保管庫》のあるこの場所から下層にある隠し通路の場所に向かうには、一番教団員が詰めているであろう中央付近を横切る必要はあるが……、三連ゴリラと鉢合わせするよりはマシである。

 

 いや、データは全て回収し残るは脱出のみである以上、もう隠密に気を配る必要もないか?

 下層の隠し通路まで《教団》の連中を振り切りながら最短ルートを突っ切るという手も―――

 

 などと考えながら移動していると、通路の曲り角で何かを抱えたハゲ教団員とバッタリ出くわしてしまった。

 

 

 「な!?もうこんなところまで―――」

 

 「やかましい!!」

 

 「がべッ!?」

 

 

 人が考え事をしている最中にギャーギャー騒ぐんじゃねえ!

 

 何かを喚いていたハゲを無視して、大剣の峰でぶん殴る。

 ハワードアーマーのパワーアシスト機能によって巨大な鈍器と化した大剣はハゲ教団員の顔面にめり込み、鼻血や砕けた歯を周囲に撒き散らしながらぶっ倒れた。

 その途中、ハゲ教団員が抱えていた何かを取り落とし、力無く床へと転がる。

 その何かとはモノではなく人。

 頭にヘッドギアのような装置を付けられ、小さな呻き声を上げて、グッタリしている幼い少女だった。

 

 ……………あれ?コイツもしかしてティオ・プラトーじゃね?

 

 その容姿は原作よりも幼いものの、のちに主人公が率いる特務支援課の一員となるティオ・プラトーで間違いない。

 ちなみに。先ほど言っていたアルタイルロッジに実験体として囚われている非常に重要な人物というのが彼女のことだ。

 

 アレ?何でティオ・プラトーがこんなところに居るんだ?

 いや、アルタイルロッジに居るのは分かってたが。

上層にある精神感応装置の近くでガイ・バニングスに救出されたんじゃなかったか?

 ゲーム内で言っていた気が…………ん?あれは精神感応装置にティオ・プラトーがかけられていたっていう説明だけだったけ?……やっべ覚えてねえ。

 今この時この場所にティオ・プラトーが居る。そのことが正史なのか、それとも何らかのバタフライエフェクトによるものか判断が付かん。全く―――

 

 

 「このクソ忙しい時に厄介事をデリバリーしてきやがって、このハゲ!!」

 

 「ぐはッ!?」

 

 

 腹立ち紛れにハゲ教団員にサプレッサー付きの導力銃で麻痺弾をブチ込みつつ、急に降って湧いてきたこの問題にどう対処するかを考える。

 

 多分このまま放置しておいても、いずれ『セルゲイ班』に救出されるだろうし、問題無いだろうが……。

 

 でもなあ……さすがに未来の特務支援課の情報処理部門を担当の彼女をこんなハゲと一緒に置き去りにするのもなあ。……なんかハゲが移りそうだし。

 というか……ティオ・プラトーほとんど身動きしてねえけど……死んだりとかしてねえよな?

 

 

 「あー、嬢ちゃん?大丈夫かね?」

 

 

 とりあえずグッタリとしたティオ・プラトーを助け起こそうと、俺が彼女に触れたその瞬間(・・・・・・・・・・・・)―――

 

 

 「あ、あああああああああああああ!!??」

 

  

 ティオ・プラトーは人間の喉から発せられたとは思えないような絶叫を上げながら、頭を抱えて苦しみ始めた。

 

 何だ!?どうした!?どうなってんだ!?何故突然苦しみだした!?

 

 苦悶の表情を浮かべるティオ・プラトー。

 

 あれか?もしかして感応能力で、俺の中にある繋がりからイシュメルガの悪意でも読み取ったとかか!?

 

 ティオ・プラトーは《D∴G教団》に拉致されて以来、薬剤投与や精神操作などといったあらゆる人体実験を受けた結果、常人を遥かに凌ぐ感応能力を身に着けてしまっている。

 人の気付かない音や導力波の流れ、属性の気配、生物の感情や心の揺らぎの機微まで。

 そんな彼女だからこそ、イシュメルガと地精(グノーム)の間にある従属支配の繋がりから、イシュメルガの悪意を読み取ってしまった可能性も否定出来ない。

 

 やべえよやべえよ!この場合どうすりゃ良いんだ一体!?

 誰かー!?お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー!?

 

 すると天が願いを聞き届けたのか、少女の悲鳴を聞きつけて全速力でこちら駆け寄ってくる二人の人影が。

 

 

 「「その娘から今すぐ離れろ!!」」

 

 

 それはショットガンを構えたセルゲイ・ロウ課長に、トンファーを携えたガイ・バニングス捜査官であった。

 

 

 

 

 お医者様は呼んだが、お巡りさんは呼んでねええええ!!!

 

 

 

 

 

 





ハンス主任の化けの皮が剝がれてきました。



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