俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件 作:ギルバート
この話から黒の工房の独自解釈、及び捏造が多々見られます
「へー。
『エレボニア帝国政府がジュライ市国に対して、帝国の鉄道路線を同市に延長することを提案し、ジュライ市国はその提案を受諾』、か。
オズボーン宰相も、就任してから一年も経ってねえのによくやるねえ」
工房内の自身の研究室に併設されているキッチンで朝食を作りながら読んでいた帝国時報の内容に、つい独り言が漏れてしまった。
エレボニア帝国宰相への就任早々、エレボニア帝国の貴族派が功績の為にリベール王国を侵略しようとした戦争『百日戦役』の講和条約をついこの間取り纏めたばかりだっていうのに、その裏でジュライ市国併合への布石を打つとは、凄まじいバイタリティだ。
しかもこれであの汚物のカタマリみたいなイシュメルガの思念体に取り憑かれた状態だっていうのだから感服するしかない。
さすがはエレボニア帝国中興の祖と云われる獅子心皇帝ドライケルスの生まれ変わりだな。
…まあこの件がきっかけで、ギリアス・オズボーンと帝国解放戦線のリーダーである《C》であり蒼の騎神《オルディーネ》の起動者、そして主人公のライバルであるクロウ・アームブラストとの因縁が出来てしまうのだがな。
そんなことを考えながら、ふと新聞の端の日付を見れば、そこには七耀暦1194年の文字が目に入った。
今は七耀暦1194年、長編作品となる英雄伝説、その始まりである『英雄伝説 空の軌跡』が始まる約八年前である。
ちなみリベール王国を舞台にした『英雄伝説 空の軌跡』が七耀暦1202年。
クロスベル自治州を舞台にした『零の軌跡』と『碧の軌跡』、そしてエレボニア帝国を舞台にした『閃の軌跡』『閃の軌跡II』が共に七耀暦1204年。
作中内で度々のその存在が語られていた、地精《グノーム》及び《黒の工房》が初めてその姿を現し、黒の騎神《イシュメルガ》、《黒き終焉のアルベリヒ》、そして主人公リィン・シュバルツァーの父であり、黒の騎神の起動者でもあるラスボス、ギリアス・オズボーン宰相が《巨イナル黄昏》成就に向けてやりたい放題し始める『閃の軌跡III』『閃の軌跡IV』が七曜暦1206年だ。
となるともし自分が表舞台に出て、主人公陣営と敵対するとしたら、今から約一二年後という事だな。
それまでには何とかブラック上司一号――イシュメルガの隷属の枷を外して巻き込まれないよう『英雄伝説 空の軌跡』さえ超えれば比較的安全であり、英雄伝説きってのチート親父が守護するリベール王国あたりに国外逃亡したいところだが……。
そもそも原作開始まで、文字通り悪意蔓延るこの黒の工房内で、果たして生き延びることが出来るのか、それが目下最大の問題である。
そんな詮無きことを考えていると、食パンを突っ込んだトースターから焼き上がる音が響いた。
トースターから程よい焦げ目の付いたトーストを引き抜き、バターを適当に塗りたくって朝食の出来上がり。
あらかじめ作っていた珈琲と帝国時報を片手に、自身の研究室へ。机に積み上げられた本やら資料やらを雑に端にずらして食べるスペースを確保する。
そしてパンと珈琲を頬張りながら、帝国時報を読み進めていく。
これがここでの日常である。
ちなみに一応黒の工房内にも食堂というものは存在するが、マトモに使われたことはない。
三食全部、各々がそれぞれの研究室で勝手に食べている。
そもそもが地精という集団自体が、害悪上司共が権能と恐怖で縛り上げているだけのチームワーク皆無、絆?信頼?何それおいしいの?を地で行く集団なのだ。
そこに研究に没頭すれば一徹ニ徹当たり前、空腹すらも忘却の彼方に追いやる、他人に合わせられない個人主義丸出しの技術者としての負の側面が合わされば、こうなるのも仕方がないと言えるだろう。
閑話休題。
トーストを齧りつつ、帝国時報の『IBCの資産額が大陸一となる』という記事を読んでいると、なんの前触れもなく突然研究室のドアが勢いよく開け放たれた。
そこに居たのは毎度お馴染み、忠犬系ブラック上司のアルベリヒ工房長。
工房長は優雅に朝食を味わっていた俺の姿をすぐに見つけると、こちらが何か言う隙もなくストレートに要件を切り出した。
「ハンス主任、今から2時間後、D=3演習場にて
戦闘準備を整えておくように」
言うことを言ったアルベリヒ工房長は、こちらの返事を待たず、そのまま踵を返し、また勢いよくドアを開き、足早に研究室から出ていった。
多分このあとゲオルグ君の所にも行くのだろう。
そんな事を考えながら、俺は大きなため息をついた。
ついにこの時が来てしまった。
いや、こんな事を考える時点で、心の内はすでに答えは決まっているのだろうが、本当に行動に移して良いものか、そもそも成功するのかを考えれば、中々決心が付かない。
……だがまあ、結局は成るようにしかならないだろう。
出たとこ勝負だ。
まあ、とりあえず今言いたい事があるとすれば―――
「ノックぐらいしろや………」
◇
黒の工房が作り出したモノの中に、『Oz』というものがある。
正式名称―――Originator zero《根源たる虚無》。
人形兵器である戦術殻と完全同期した、人にして武具でもある存在であり、自らの命と引き換えに《巨イナル一》再錬成の儀式、《巨イナル黄昏》成就の核となる、不死の黒の聖獣を殺すことの出来る《根源たる虚無の剣》を生み出すことの出来る人造人間―――ホムンクルスたちのことだ。
作中では《根源たる虚無の剣》を巡って、主人公と同じクラスだったOz73――ミリアム・オライオンと、主人公の教え子であり、74体目にして最終型であるOz74――アルティナ・オライオンとの間で様々なドラマがあった訳だが、ここで一つ疑問が浮かぶ。
ミリアム・オライオンとアルティナ・オライオン以外のホムンクルス。
Ozをただの道具としか見ていない、鬼畜外道のアルベリヒ工房長が主導している時点で、大体の末路は予想していた。
廃棄処分。
その身体には、アルベリヒ工房長が長年Ozシリーズにフィードバックし続けてきた地精の技術の粋が詰まっている以上、安易に外の世界に放流するわけにもいくまい。
だからこそ、72体のOzたちは人知れず、この黒の工房内で生まれ、そして消えていったのだろう、と。
だが最近工房長の手伝いという形で、Ozシリーズの研究に加わり
あの全てにおいて効率を重視するアルベリヒ工房長が、わざわざ作ったホムンクルスをただ廃棄処分にするなどという、
◇
工房長の襲撃から二時間後。
戦闘準備を整え、工房長に指定されたD=3演習場の向かえば、もうすでに実験の用意が整っていた。
全面真っ白の広大な演習場の中心に立つ、10歳くらいの幼い白髪の少女。
タイツのような戦闘服に身を包んたその少女は、感情の起伏に乏しい蒼い瞳を、演習場の入口付近に立つ俺へと向けていた。
それと同時に、演習場内にスピーカー越しに話すアルベリヒ工房長の声が響き渡った。
『では、これよりOz72――イリスの最終性能実験を開始する。
Oz72、
「了解しました」
「………了ー解」
アルベリヒ工房長の不穏な言葉と共に実験を告げる声と同時に、Oz72――イリスと呼ばれた少女が手を挙げる。
「来てください、フルン=ティング」
そして、その掛け声と共に、何もないはずの少女の背後より、一体の深緑の異形の傀儡が現れた。
これこそが黒の工房が生み出した人形兵器、戦術殻だ。
そしてこの戦術殻と完全な意思疎通ができる者こそがOzという事である。
……まあ残念ながら、この少女においてはそれが当てはまることはないのだろうが。
背後に戦術殻を従わせやる気満々の少女。
今から始まるのは性能実験という名の戦闘だ。
しかもOz72の性能実験と銘打っているだけあって、ただガチで戦い合えばいいというのではなく、Oz72の性能データを取る為にも、彼女が自身のポテンシャルを最大限発揮できるよう、こちらが調整してやらなければならないのだ。
まあ手間がかかることは確かであるが、その為の準備は整えてきたし、そもそも性能実験自体もこれが初めてではない。
Oz72とは、過去に何度も性能実験という名の戦闘をした仲だ。
その手の内は知り尽くしているし、支障はないだろう。
……たとえ死力を尽くしたとしてもな。
「そんじゃあ、始めますかね。来い、グ―――」
「ああ、待ちたまえ」
自作のSウェポンを構えつつ、こちらも戦術殻を呼び出そうと、手を上げたちょうどその時、何故かいきなりアルベリヒ工房長から静止の言葉が掛かった。
何だよ、出鼻を挫きやがって。
内心悪態をつくが、工房長の不興を買えば、後で何をやらされるか分かったものではないのでその部分については黙っておく。
「アルベリヒ工房長、何か問題でも?」
あくまでも上司に従順な下っ端のフリをしつつ、工房長に質問をする。
するとアルベリヒ工房長はとんでもないことを言い出した。
「ちょうどいい機会だ。
ハンス主任、君の作り上げたSウェポンの性能実験も並行して行う。
戦術殻の使用は禁止だ」
「は?」
思わず工房長に反抗的な言葉が口からつい出てしまったが、もはや内心はそれどころではなかった。
は?戦術殻の使用は禁止?Sウェポンの性能実験も並行して行う?
つまりは何か?戦術殻と連携して全力で襲ってくるOz72を、こちらは戦術殻なしで、しかもOz72がポテンシャルを引き出せるように調整しながら、同時に自分が使う武器のポテンシャルまで引き出すことまで考えろと?
おいいいいいいい!!??
難易度が爆上がりしてる上に、注文まで増えてんじゃねえかあああ!?
何なの?バカなの?こちとら戦術殻が禁止されたせいで、Oz72用に事前に準備してた策の半分が使いものにならなくなったんですけど!?
というか、やるならやるで、何であらかじめ言っておかねえの?
お前あれだろ、それ今思いついただろ?戦闘するなら、ついでにSウェポンのデータも取れるとか閃いちゃったんだろ?自分の中ではナイスアイデアだとか思って、何も考えずに言い出したんだろ?お前効率厨も大概にせいや!!
てかゲオルグ君も止めろや!!どうせアルベリヒ工房長の傍にいるんだろ!?俺には無理だけど、上司の暴走を諫めるのも部下としての責任―――
『では始め』
あまりの無茶ぶりに、罵詈雑言と共に思考が空回りを続けるが、残念ながら、黒き鬼畜のアルベリヒ工房長は思考が回復するまで待ってくれるわけもない。
無慈悲な実験開始の宣言と共に、Oz72がこちらに攻撃を仕掛けようと戦術殻と共に近づいてくる。
もはや交渉の余地はなく、賽はすでに投げられた。
……こうなってしまっては、是非もなし。
「来いやあああああああ!!!!」
元日本人の社畜魂みせたらあああああああ!!!!
◇
30分後。
何とか実験は終了した。
いやー死ぬかと思った。
一気に潰すとかならともかく、Oz72のポテンシャルを引き出す為にも、基本的に全ての攻撃に対して受け身に回らなければならない状況で戦術殻禁止はアカンて……。
手数が足りなくなるわ。
あれだね、数の優位を取られることが、どれだけに戦局に影響をもたらすか、骨の髄まで思い知らされたね。
というかそんな状況でも、きっちりスピーカー越しに注文を付けてくる鬼畜工房長。
特に絶好の追撃のチャンスの時に、空気を読まずSウェポンの砲撃機能の使用を要求された時には、その砲口をアルベリヒ工房長がいるであろうコントロールルームに向けてぶっ放してやろうかと、どれだけ思ったか……え?結局要求は聞いたのかだって?
聞いたよ!工房長に逆らえるわけないだろ!
予想以上にチャージに時間がかかって追撃できなかったわ!
……うむ、これは改善が必要だな。
それはともかく。
戦闘で上がった息を整えつつ、Sウェポンを肩に担ぎながら、Oz72の方を見やる。
そこには、もはや立つこともできず、ぺたんと床に座り込んだまま息を荒げているOz72とそのすぐ傍でひっくり返っている戦術殻の姿があった。
最後の方は手加減が出来なかった為に、思いっきりSウェポンでぶっ飛ばすことになってしまったので、怪我を負っていないか心配していたのだが、目立った傷がないところを見るに、上手く戦術殻でガードできたのだろう。良かった良かった。
まあこれで、Oz72の性能実験と、急遽決まったSウェポンの性能実験も、その両方共が恙無く終了したと考えてもいいだろう。
……結果はともかくとしてだが。
『両者共ご苦労だった。これにてOz72――イリスの最終性能実験と、Sウェポン『アサルトソード』及び『パワードアーム』の性能実験を終了する。君たちはしばらくそこで待機していたまえ』
案の定、一ミクロンたりとも心のこもっていない労いの言葉と共に、工房長は実験の終了を宣言した。
そして待機命令が出たという事は、移動せずにここで先の実験の総評を行うのだろう。
『さて、これより先の実験、二つのSウェポンの性能実験の総評と、最終性能実験を踏まえたOz72――イリスの評価結果を伝える』
しばらくののち、戦闘時に思いついたSウェポンの改善点をメモしつつ、武器の損傷度合いを確認していると、先の戦闘データの分析を終えたのか、再度工房長の声が演習場に響き渡った。
先ほどまで立つこともできず、座り込んでいたOz72の方も、待機中に多少は回復したのか、戦術殻に寄りかかりながらではあるが、何とか立つことが出来ている。
『先にSウェポンの性能実験の総評から―――』
そこから始まったのは、工房長による怒涛のダメ出し。
出るわ出るわ、先に自分でも気づいた砲撃機能のチャージの長さから始まり、全く気付きすらしなかった小さな点にいたるまで。
しかもそれが、てんで的外れというわけではなく、全て的を射ているのだから耳が痛い。
特に自分でも意識すらしていなかったデカくてクソ重い『アサルトソード』をぶん回す為に作った、Sウェポンという名の戦闘用マニピュレーター『パワードアーム』の特定モーション時に起こる不自然な出力低下、その原因と対策を示された時には目から鱗といった気持ちだった。
さすがは黒の工房のトップである。
人間性はゴミクズ以下だが、数百年にも渡って培われてきたその技術力は、他者の追随を許さないほどだ。(シュミット博士は除く)
まあ結果として、工房長から怒涛のダメ出しをくらいはしたものの、総合的には悪くない評価を頂いた。
このSウェポンの研究には、かなりの時間を費やしているので、無駄にならなくて一安心だ。
『まあ、こんなところだろう。
次に最終性能実験を踏まえたOz72――イリスの評価結果の方だが―――』
そして工房長の実験の評価は、ついにOz72の評価へと移った。
Oz72の方も、どことなく緊張したような面持ちで、工房長の言葉を待っているようにも見える。
さあ、ここからだ。
先ほどは、工房長のいきなりの無茶ぶりで死にかけたものの、ここからが本命であり、そして本番である。
……こうなることは予想はしていた。
だがそれでも、もしかしたら何かのきっかけで、Oz72は自分や工房長の予想を超えるかもしれないと。
だが残念ながら、先ほどの戦闘で確信した。
『こちらについては……、
Oz72は最後まで自分たちの予想を超えることはできなかったのだ、と。
確かに今までの性能実験の中でも、一番の動きを見せていたことからも、人造人間――ホムンクルスとしての性能は十全に引き出せてはいる。
その身体能力、そして戦闘能力は、わざわざ比較せずとも、この後に生まれるOz73――ミリアム・オライオンや、最終型であるOz74――アルティナ・オライオンより確実に上だろう。
人工的にいくらでも生み出せる兵士という面で考えれば、彼女は間違いなく成功作であるといえる。
だが違うのだ。
この実験の趣旨は、量産可能な兵士を生み出すことではない。
人形兵器である戦術殻と完全同期した、人にして武具でもある存在であり、自らの命と引き換えに《巨イナル一》再錬成の儀式、《巨イナル黄昏》成就の核となる、不死の黒の聖獣を殺すことの出来る《根源たる虚無の剣》を生み出すことの出来る人造人間――Originator zero《根源たる虚無》を作り出すことなのだ。
その事を考えれば―――
『
その趣旨を最後まで超えることの出来なかったOz72に、その評価が下されるのは、残念ながら順当であるといえるだろう。