俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 黎の軌跡Ⅰ、Ⅱクリアしてたら遅くなりました。いや~面白かった(小並感)



第二十話 旅行?いいえ出張です

 

 枕元にある大きな窓から射し込む柔らかな朝の日差し。

 昨日寝る前にカーテンを閉め忘れたせいで、午前八時という朝っぱら(当社比)から、その鬱陶しい陽の光に睡眠妨害をかまされたことで、俺の気分は寝起き早々最低最悪である。

 このままカーテンを閉めて二度寝をしてやろうかと思いはしたものの、微妙に眠気が飛んでいってしまったので仕方なく起きること選択し、フカフカのベッドから這い出た。

 伸びをしつつその広い部屋を見渡すと、部屋の中心にある豪奢なテーブル席に座っていた一人の少女がスクリと立ち上がった。

 

 

 「おはようございます、ハンス主任」

 

 「ん」

 

 

 既に起きていたらしい少女――イリスのあいさつに俺は頭をガリガリかきながら軽く手を挙げて応える。

 そしてそのままベッド脇にあるお洒落な机に置かれた受話機に手を伸ばし――

 

 

 「ああイリス。お前、朝飯は食べたか?」

 

 「いえ、まだです…」

 

 「では二人分だな」

 

 

 イリスに確認を取ると、そのまま内線電話をかけた。

 

 

 「はい、こちらルームサービスです」

 

 「朝飯二人分部屋に持って来てくれ。なる早で」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アルタイルロッジの隠し通路の出口を手榴弾で破壊し、全力でロッジから逃走したその後。

 俺とイリスは服を着替えて欺瞞工作の為に大きく迂回するルートを取りながら、早朝のアルタイル市へと戻り、あらかじめ用意していたチケットで国際路線である『大陸横断鉄道』の始発列車に乗り込み、早々にカルバート共和国を後にした。

 

 そしてあのD∴G教団殲滅作戦から二日が経った今現在、俺とイリスは、カルバート共和国の隣にあるクロスベル自治州の州都クロスベル市の歓楽街にある《ホテル・ミレニアム》のスイートルームに活動の拠点を置いていた。

 

 何故そのまま黒の工房の本拠地があるエレボニア帝国へと帰らず、わざわざクロスベル自治州で活動を続けているのかというと、D∴G教団殲滅作戦の余波の調査をする為……というのが表向きの理由である。

 昨日の段階で、アルベリヒ工房長に戦術殻を介した長距離通信で技術情報の奪取に成功した旨を伝えた際にそう提案し承認された。

 

 ちなみにアルベリヒ工房長とゲオルグ君のペアもこちら同様、技術情報の奪取に成功したそうだ。下手打って捕まりゃ良かったのにな。

 二人が担当したミリーズロッジへは、教団員に扮して潜入し、難なく情報を奪ってきたらしい。

 

 ……そりゃあ今は関係はないとはいえ、長年D∴G教団の幹部司祭を務めてきたのだ。

 その手の内を知り尽くしている以上、襲撃を受け混乱するロッジ内に教団員に成りすまして潜入し、技術情報を奪ってくるなど、アルベリヒ工房長には容易いことだっただろう。

 

 しかしである。こちらが三連ゴリラや教団員共に絡まれまくったのに、工房長だけトラブルやハプニングが無かったのは不公平というものだ。教団員に間違われて捕まりゃ良かったのにな。

 

 まあともかく、アルベリヒ工房長とゲオルグ君は、そのまますぐに黒の工房の本拠地に帰還するつもりだったこともあり、提案はすんなりと受け入れられたのである。帰りに事故れ。

 

 ……余談だが、この調査は黒の工房の職務に該当するので、このホテルのスイートルームの宿泊費は経費扱いである。当然だな。

 

 

 

 さて、余波の調査にクロスベル自治州を選んだ理由として、この場所が一番情報収集に適しているという点が挙げられる。

 

 ゼムリア大陸西部の内陸部に位置するクロスベル自治州は、二大国であるエレボニア帝国とカルバード共和国の緩衝地域の自治州として、両国の影響下で国際交易と金融の拠点としての発展を遂げてきた貿易都市だ。

 その経緯や都市の性質上から、宗主国であり国土を隣接する帝国・共和国両国民の他にも、レミフェリア、レマン自治州、オレド自治州と非常に多くの外国人が行き交う為、各国の情報が非常に集めやすい。

 そのくせ、様々な理由で治安が終わっているので諜報活動がしやすいのである。

 

 ―――というのは表向きの理由。

 裏の理由にして、俺がわざわざクロスベル自治州に拠点を置いた本当の目的。

 それは、この地でとある二つの品(・・・・)の回収を目論んでいるからである。

 

 二つの品は、ゲームなどでよくある入手期間が限られている、俗にいう期間限定アイテムというものだ。

 一つ目は、元の持ち主が一部を除いてほぼ全てを持ち去ってしまい。

 二つ目は、その採集場所に釣りキチ教授が徘徊し始めるのである。

 

 まあ、一つ目の方も回収されるのは今から六年後――『碧の軌跡』が始まってからなので、まだまだ時間的猶予はあるし、二つ目に至っては同じく六年後にはそこら中に生え始めるので、決して今すぐ回収しなければならないという訳ではないのだが……どうせならこの地で暗躍をする連中の視線が教団殲滅作戦の方に集まり、足元への警戒が緩んでいるであろう今このタイミングでコッソリ回収してしまった方がいい。

 

 

 客室係に部屋まで持って来させた朝食を二人で食べた後、外出準備を整え部屋を後にする。

 

 

 「おはようございます、トバルカイン(・・・・・・)様にアリス(・・・)様。昨夜は良く眠れましたでしょうか」

 

 「ああ、ぐっすりとな。

 これから出かける。おそらく帰りは遅くなるだろうから、食事は外で済ませてくる」

 

 「かしこまりました。いってらっしゃいませ」

 

 

 フロントで声を掛けてきたホテルマンに、暗に飯を用意せずともいい事を伝えつつ、そのまま二人でホテルを出た。

 

 ちなみにトバルカインというのは、俺がいくつか持っている顔の一つである。

 エレボニア帝国とリベール王国との戦争――『百日戦役』の折、まるで未来を見通したかのような神がかり的な投機で瞬く間に資産を増やしていった将来有望なエレボニア帝国出身の青年投資家、アリスは腹違いの妹という設定だ。

 

 ちなみに投機のくだりは、ほぼ事実である。

 原作知識様々だな。

 しかし、ホント勝ててよかった。

 原作知識のおかげでほぼ勝てる賭けだったとはいえ、バタフライエフェクトにより万が一という事もあったからな。

 

 種銭はどうしたかだって?

 そんなもん黒の工房の資金を流用したに決まってるだろ。

 工房長が長年溜め込んできた資金を根こそぎぶち込んでやったわ。

 

 一世一代の大博打ではあったが、大きく賭けた分、リターンもまた大きいものになった。 

 おかげで今では種銭分を差し引いても、俺の総資産はかなりのモノになっている。

 

 金というのはいくらあっても困るものではないからな。あればあるほどいい。

 まあ、金はあっても自由はねえんだがな! HAHAHA!

 

 え?それだけ稼いでいるのなら、工房の金使い込まなくても良いんじゃないかって?

 

 分かってねえな……。

 何かが欲しいから、工房の金を使い込むじゃねえんだ。

 工房の金を使い込みたいから、使い込むんだ。

 

 俺が工房の金を使い込む事で、工房長の資産が目減りする。

 俺はそういったことに幸せを感じるんだ!

 

 

 

 

 ホテルを出た後、西通りにあるベーカリーカフェ《モルジュ》に寄って昼飯を買い、クロスベル市南口からウルスラ間道へと徒歩で出る。

 ちなみに今の俺の服装はフォーマルスーツの上にコートを着込んでおり、パワードアーマーは着用していない。

 さすがに赤く塗った『メカゴリラ』は目立つのでな。

 まあ装着していなくとも、魔獣共に遅れは取らんが。

 

 クロスベル州最大の湖であるエルム湖を右手に、時折聖ウルスラ医科大学へと向かう路線バスが通り過ぎていくのを見送りながら道なりに歩き続けていると、間道から脇道へと逸れる道が見えてきた。

 その脇道に進み、しばらく歩いていると、視界が唐突に開け、巨大な塔の遺跡が現れた。

 ここが一つ目の場所。

 数百年前、とある目的(・・・・・)の為に中世の錬金術師共が建造した《星見の塔》だ。

 

 おお……、ゲームではそれほど感じなかったが……近くで見ると大きいな。

 

 クロスベル警備隊が張った侵入禁止のバリケードを無視して飛び越えて塔を真下から見上げれば、その大きさに圧倒される。

 

 さて。目的の品が保管されている場所は、この塔の中層と上層の二箇所に分かれている。

 本来(ゲーム)であれば、その場所に辿り着く為には、そこにある正面扉から塔の中に入り、徘徊している魔物や錬金術師共が遺したゴーレム共を躱しつつ、様々なギミックを解除しながら上へ上へと登っていかなければならないのだが……ここは現実だ。そんな面倒なことをするつもりはない。

 

 即死攻撃をぶっ放してくるファッキン戦車(デススラッガー)の相手なんぞしてられるか。

 

 

 「イリス、あそこに見える外回廊から侵入するぞ。仕事だ《グング=ニール》」

 

 「了解しました。来てください《フルン=ティング》」

 

 『A・WnЭҐК』

  

 『К∴эвиХ』

 

 

 俺とイリスは自身が使役する戦術殻に飛び乗り、塔の中層辺りにある外回廊を目指してフワフワと飛んでいく。

 そして先にイリスが外回廊へと到達。それに少し遅れて俺も到達し、道中を大幅にショートカットしつつ《星見の塔》の内部へと侵入を果たした。

 

 うーむ。やはり俺とイリスの体重差のせいか、イリスを乗せている《フルン=ティング》より遅えな。

 もう少し出力を上げるか?

 

 そんな事を考えながら、外回廊を下へと降っていき、外回廊と塔内部を隔てる扉を開け放つ。

 

 

 「………よし、あったぞ」

 

 「こ…これは」

 

 

 その扉を開けた先にあったのは、薄暗くも幻想的に光り輝く吹き抜けの塔内部。

 そして数メートルはあろう高さの巨大な本棚ぎっしりに納められた膨大な量の書物。

 

 これこそが俺が回収したかった一つ目の品。《星見の塔》を建てた錬金術師共―――クロイス家が遺した魔導書だ。

 

 

 

 1200年前、かつてこのクロスベルの地に存在したという《七の至宝(セプト・テリオン)》が一つ。

 《幻の至宝》――虚ろなる神(デミウルゴス)

 

 それを授かった当時のクロイス家を中心とした一派は、他の至宝を授かった一族と同様、至宝が振るう奇蹟と恩恵により繁栄を謳歌していたそうだ。

 

 しかし『女神に代わる地上の神が欲しい』という人々の願いを聞き入れたことによって高位の人格を持つことになった《幻の至宝》は、人間とほぼ同質の感情と知性を持つが故に、人間や世界の不条理や醜さに次第に心が耐えられなくなっていってしまう。

 そうして最終的には、自らがいずれ暴走し守るべき人々を傷つけないよう、自身の至宝に備わる因果を御するその力を以て、自らの因果を解いて消滅してしまったのである。

 

 その結末は、至宝そのものに叡智と判断力がなかったゆえに人の欲望を無制限に叶えてしまい、肉体的にも精神的にも堕落していった《空の至宝》――輝く環(オーリ・オール)の眷属共や、よりにもよって至宝を授かった者同士でいがみ合ってドンパチし始めたあげく、大陸全土を丸焼きにして吹っ飛んだ《焔の至宝》――紅い聖櫃(アークルージュ)と《大地の至宝》――巨の黒槌(ロストゼウム)のバカ眷属共よりは、はるかにマシなものだったと言えるだろうが。

 だからといって、今まで自分たちを導いてくれる存在が突如として居なくなってしまった彼等の衝撃と絶望が和らぐ訳でも無い。

 

 そうしてクロイス家の一派、何故そうなったのか、至宝が何を思ってそうしたのかを省みることなく。

 喪われてしまった至宝を何としてもこの手に取り戻すべく、《幻の至宝》を復活させる…いや、ただの復活のみならず《幻の至宝》をも凌駕する《零の至宝》の創造する《碧き零の計画》を立案。

 700年もの長きにわたる暗躍を始めたのである。

 

 ちなみに、泣く子もドン引くキ〇ガイカルト教団である《D∴G教団》も、この《碧き零の計画》の核となる《零の至宝》の器であるホムンクルスを完成させる為に、こいつ等が生み出した傀儡なのである。クソかな?

 

 ここにある魔導書の山は、如何にして《零の至宝》を生み出すか。その手法を追い求めた錬金術師共の妄執の一欠けらと言ったところだろう。

 

ちなみに彼らの探求心の矛先は外にも伸びており、《零の至宝》の器に叡智を蓄えさせる装置――《揺籠》の作成に俺の属する地精(グノーム)の有する技術――地脈を使った叡智の自己組織化技術をクロイス家に掠め取られている。

 尤も、こちらもクロイス家からホムンクルス作成技術を盗んでいるのだが。

 

 

 「イリス、ここにある書物全ての内容を記録するぞ。

 …ああ、指紋を遺さないよう手袋をつけておけよ」

 

 「りょ、了解しました」

 

 

 のちに……と言っても六年後ではあるが、魔導書を回収しに来るであろうクロイス家の連中に勘付かれないよう手袋をつけ、イリスと手分けをしてお互いの戦術殻にも手伝わせながら、アルタイルロッジの時と同じように本の内容の記録を撮っていく。

 

 時間的猶予も人手も足りなかったアルタイルロッジの時とは違って、時間に追われないというのは実に良い。

 魔導書自体も劣化は進んでいるが十分読める範囲だ。文字も問題無く解読できる。

 次々と記録を撮っていく傍ら、魔導書の内容を解読しながら流し読みしていたのだが……中々面白い事が分かった。

 

 それは何故クロイス一族の錬金術師たちが、この《星見の塔》に自身の秘奥を記した魔導書を遺したのか、という裏事情だ。

 

 どうやらこの《星見の塔》は、《零の至宝》を創造する為の《陣》の一つであると同時に、バックアップ施設という側面も持っていたらしい。

 クロスベル全体を覆い尽くすほどの馬鹿馬鹿しいまでの巨大な錬成陣。

 その《陣》の構築を主導するクロイス家が、万が一錬金術の知識を失伝させるような事態に陥ったとしても、この場所に保管されている錬金術の秘奥を記した魔導書を基に速やかに再起を図れるようにする。

 ここはその為に作った場所であるらしい。

 

 ……なるほどな。同じく《陣》を構成する《月の僧院》に《太陽の砦》にはガッツリと《D∴G教団》の痕跡が残っていたにもかかわらず、《星見の塔》にその跡が全く見当たらなかったのはその為か。

 

 そりゃあこの塔自体がクロイス家の保険であるのなら、所詮はクロイス家の傀儡でしかない《D∴G教団》の連中が寄り付かないようにしてるわな。

 塔の内部に放たれている錬金術師のゴーレム共や侵入を妨げるギミックは、《D∴G教団》を含めた侵入者共を追い散らす門番にトラップといったところか。

 

 まあ、だからこそ六年後。

 《零の至宝》の完成を目前にし、もはやバックアップなど不要と判断した当代のクロイス家は、計画の発覚を遅らせるため、ここにある魔導書を持ち去ったのだろう。

 

 ……おそらく動いたのはマリアベル・クロイスだな。

 作中、敢えて全ての魔導書を持ち去らず、数冊をおひねり感覚で置いていくあたり、まんまあのサド女のやりそうな手口だ。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 俺とイリス、そして俺たちが有する戦術殻共まで動員しての記録収集は、特にトラブルも無く順調に進んではいたものの、それでも保管されている魔導書自体が膨大な量である為に、この階層の記録を撮り終える頃には正午を回っていた。

 

 魔導書の保管場所は後もう一箇所あるんだが……、先に昼飯にするか。

 そうだな……せっかくだし、こんな薄暗いところより見晴らしの良い場所で食べることにしよう。

 

 イリスを引き連れ外回廊に出ると、入ってきた時と同じように互いの戦術殻に乗り、更に上を目指す。

 そして最上階にたどり着くと、そこには四方を一望できる見晴らしの良い屋上と、巨大な鐘が鎮座していた。

 この鐘こそが《幻の至宝》に代わる《零の至宝》を生み出す錬成陣の要。

 作中において隙あらば鳴りまくって問題を引き起こし、外しても勝手に鳴りまくって問題を引き起こし、博物館に保管しても共鳴して鳴りまくって問題を引き起こす、存在自体が迷惑な古代遺物(アーティファクト)の害悪鐘である。

 個人的にはこんな害悪鐘なんぞ、さっさとぶっ壊したいところではあるが……これを壊すとどんな問題が起こるか予想もつかないので実行に移すことは出来ない。

 まあ、将来的には害悪鐘だとしても、今のところはただのデッカイオブジェなので無視しても問題はないだろう。

 

 屋上の一角にレジャーシートを敷き、ベーカリーカフェで昼飯にと買ってきたサンドイッチセットと飲み物を開けてイリスと共に食べる。

 うむ。流石はクロスベルの人気パン屋。美味である。

 眼下にエルム湖を望む、周囲を自然に囲まれた塔の最上階、森から聞こえてくる鳥たちの鳴き声と、太陽の光が心地よい。

 惜しむらくは、冬という事もあってピクニックを気取るには少々肌寒いところだな。

 まあ、俺もイリスもコートを羽織っているし、冷たい風も風よけ代わりの害悪鐘で防げているので問題は無いのだが。この鐘初めて人様の役に立ったのではないだろうか。

 

 ……ってかイリス。口元にソースが付いてんじゃねえか、汚えな。

 

 持っていたハンカチでイリスの口周りをゴシゴシと拭いてやる。

 

 

 「これでよし」

 

 「あぅ…。あ、ありがとうございます……」

 

 

 さて。昼飯を食べ終われば、作業の再開である。

 最上階の一つ下に降り、同じく魔導書が並ぶ部屋で、さっきと同じように魔導書を記録に収めていく。

 

 魔導書の数自体は先の場所よりも多かったものの、作業に慣れてきたこともあり、結果、先ほどよりも早く作業を終えることが出来た。

 

 うむ。中々段取りよくいったのではないだろうか。

 

 流し読みした範囲でも、使えそうな情報や応用できそうな技術が幾つもあった。

 かつてこちらがクロイス家から技術情報を掠め取った際は、Ozの開発に必要なホムンクルスの製作技術が中心だったからな。 

 ここまで幅広い錬金術の知識を入手できたのは僥倖だ。

 

 ……欲を言えばクロイス家が編み出した、錬金術を更に発展させ科学技術と融合させた《魔導科学》の技術情報があればなお良かったのだが……流石にこの場所には無かった。

 

 まあ、この場所は本当に非常時の為の防災シェルターみたいなもんだからな。

 そんな所に最新の研究成果は置かんわな。

 

 尤も、もしクロイス家の最先端技術である《魔導科学》の技術情報が一部でもこの《星見の塔》に保管されていたのなら、彼らが塔を厳重に守り、そもそも侵入することさえ叶わなかっただろう。

 

 クロイス家の連中にとって既に時代遅れの技術情報しか保管されていない。

 クロイス家の錬金術の知識を失伝させるという事態に陥らない限り、何の役にも立つことは無い、ただの倉庫だからこそ長年放置されており、こうも容易く技術情報を盗み出せた面も大きい。

 

 まあ錬金術を極めたクロイス家にとっては型落ち品であったとしても、こちら(地精)にとっては情報の宝庫だ。

 この錬金術の幅広い知識を記した魔導書の山は、二つ目の品(・・・・・)と共にせいぜい俺が役立ててやることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 侵入時と同様に、戦術殻に乗って地上に降りてきた俺とイリスは、そのまま《星見の塔》を後にする。

 来た道を帰り、ウルスラ間道へと戻ってくれば、現在の時刻は午後三時を示していた。

 

 ……ふむ。日暮れまでまだ時間があることだし、このまま二つ目の品も回収しに行くか。

 

 

 「このままもう一か所回るぞ。ついてこい」

 

 「了解しました」

 

 

 懐中時計をポケットにしまいつつイリスにそう告げ、ウルスラ間道をクロスベル市方面ではなく、聖ウルスラ医科大学方面に向けて歩いていく。

 

 そのまま歩みを進めれば、エルム湖を望む見晴らしのいい光景は、次第に森林地帯の風景へと置き換わっていった。

 そして、先と同じく脇道が見えてきたので、そちらに向かって進む。

 すると、足元は次第に湿潤な土地と変化し始め、周囲の様相も、湿地帯特有のソレへと置き換わっていった。

 

 エルム湖から流れ込む水を豊富に含んだ泥濘みにキレつつ、腹立ち紛れに目についた魔獣をしばき倒しながら、奥へ奥へと進んでいく。

 そして―――

 

 

 「……ここか」

 

 「……こ、この植物は一体……」

 

 

 湿地帯の最奥部にまで辿り着くと、そこには蒼色の花をつけた神秘的な植物が辺り一面咲き乱れていた。

 

 これこそが、七耀教会の聖典の外典《ラダー記》において『吉兆とも凶兆ともとれる蒼色の神秘の花』として伝えられている霊草。 

 かつての《幻の至宝》が、人と地上を識るために咲かせた眼にして依代にして、俺がこのクロスベルの地で回収を目論んでいた二つ目の品である――プレロマ草だ。

 

 

 「フン、どうやら無駄足にならずに済んだようだな」

 

 

 今の季節が冬である以上、もしかしたら寒さで枯れている可能性も考えていたのだが……流石軌跡シリーズきっての害悪雑草。

 鬱陶しいくらいの生命力だな。

 ……まあこちらとしては有難いのだが。

 

 呆気にとられるイリスを横目に、俺は戦術殻に持ってこさせていた大型ケースを広げ、特殊な溶液に満たされた幾つものビンと、そして小型スコップを取り出す。

 

 

 「イリス。ここにある雑……植物を集めれるだけ集めるぞ。

 いいか、なるべく根を傷つけないように掘り起こしてこのビンの中の溶液に沈めろ」

 

 「……ハンス主任、この植物は一体どうなさるのですか?」

 

 

 プレロマ草の採集準備とその説明をしていると、イリスが疑問を投げかけた。

 

 この植物をどうするのか、か。

 

 その問いに対し、そのままの意味で答えるのならば、このプロレマ草を黒の工房に持ち帰り、培養研究するという答えになるのだが……そういうことを聞いているのではないだろうな。

 

 イリスが聞いているのは「このプロレマ草を研究して一体何を(・・)しようとしているのか」という点だろう。

 

 そんなもの、決まっている。

 わざわざこんな辺鄙な場所まで来て、プレロマ草を集める理由なんぞ一つしかない。

 

 ―――このプレロマ草を原料として生み出される『真なる叡智』

 

 

 「作るんだよ。新しいグノーシスをな」

 

 

 

 

 ―――俺が有効活用してやろう

 

 

 





 ハンス主任の倫理観なんて所詮こんなもん。

 錬金術+黒の工房技術+グノーシス = ???


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