俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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第二十一話 理屈をこねれば大体経費

 

 エルム湖湿地帯で無事プロレマ草の採集を終えた後。

 俺たちはウルスラ間道へ戻ると、一旦聖ウルスラ医科大学へと向かい、大学前のバス停留所から出ている市内行きの路線バスに乗り込んでクロスベル市へと帰ってきた。

 

 町に着いたころには、もう時刻も午後五時半を回っており、夕暮れの光が町中を暁に染め上げていた。

 

 ふむ……。このまま夕飯と洒落込むには少し早すぎるな。どこかで時間でも潰したい所ではあるが……。

 そうだな……、ついでにもう一つ用事を済ませるか。

 

 

 「ついて来い、イリス」

 

 「わかりました」

 

 

 俺とイリスは町の中央広場から裏通りへと入り、建物のスキマを縫うように建てられたアーケード内、無数にある店の煌びやかなネオンの光の中を、泳ぐように先へ先へと進んでいく。

 そのまましばらく歩くと目的地が見えてきた。

 鬱陶しいまでに自己主張の激しいネオンが煌めく裏通りの中にあって、ひっそりと建つ骨董店。

 その外壁に『イメルダ』という店の名前を見つけ、目的の店であることを確認すると、イリスの手を引きながらそのままドアを開けて中に入る。

 

 

「ヒヒッ、初めて見る顔だね。いらっしゃい」

 

 

 俺がドアを開けたのに合わせて、扉に据え付けられていた鐘がカランカランと店内に木霊する。

 それと同時に、怪しげな女の声が聞こえて来た。

 

 店のカウンター奥に座る、紫色の衣装を身にまとった老婆。

 この人こそが軌跡シリーズでお馴染みの、クロスベルの裏通りでアンティーク屋《イメルダ》を営んでいるイメルダ夫人である。

 

 おおう……。『零の軌跡』や『碧の軌跡』のちびキャラから、『閃の軌跡Ⅳ』で3Dキャラに昇格した時にも、大概インパクトがあったが……。

 生で見るとなんか…もう…すげえな。

 一緒に入ってきたイリスなんか、夫人の圧に腰が引けてしまっておるわ。

 

 

 「……冷やかしはごめんなんだがねぇ」

 

 

 イメルダ夫人の想像以上のキャラの濃さに、内心圧倒されつつもカウンターに近づいていくと、夫人の口から溜息と共に素っ気ない言葉が漏れ出た。

 

 ……まあ、見た目成人したてっぽい青年に、年端もいかぬような少女のコンビだ。

 如何にも金を持っていなさそうなその組み合わせは、高価なアンティークを扱う彼女の店に出入りするには、相応しくないように見えるだろうが……せめてあからさまな態度を表に出さないよう、最低限努力してほしいものである。

 

 

 「いえマダム。冷やかしではありませんよ。

 ……こちらで《ローゼンベルク人形》を扱っていると耳にしたのですが?」

 

 

 こちらは冷やかしの客ではなく、明確に物を買いに来たのだから。

 そう言いながら、イメルダ夫人に懐に入れていたミラの札束の幾つかを見せる。

 

 秘技!札束ビンタ!

 

 本当は小切手や手形でも構わないし、ぶっちゃけそっちの方が楽なんだが……。

 俺のような若造だと、有価証券の類は、まず初見では信用されんのでな。

 一定以上の現金は常に持ち歩くようにしているのだ。やっぱこの手に限る。

 

 

 「……ああ、そっち目当ての客かい。

 ヒヒャヒャ、その通り。

 うちはヨルグの爺が作った《ローゼンベルク人形》の販売代理を請け負っている。

 そっちの棚に飾ってるから見ていきな」

 

 「ありがとうございます」

 

 

 俺の支払い能力を見て、冷やかしではないと分かったことで、一転して気を良くしたイメルダ夫人は、店の一角にあるアンティークドールが収められたショーケースを指し示した。

 

 ……その笑い方といい、全身紫色のケバい恰好といい、《魔女の眷属(へクセンブリード)》のローゼリアよりよっぽど魔女やってんな……。

 

 それはともかく。俺がここに来たのは《ローゼンベルク人形》を手に入れる為だ。

 

 クロスベル自治州の街外れにある工房――《ローゼンベルク工房》の長にして人形師――ヨルグ・ローゼンベルクが手掛けるローゼンベルク人形。

 そのあり得ないほどに精巧なそのアンティークドールは多くの人々を魅了し、小さいものでも一体あたり数万ミラ。

 プレミアがついたものでは、過去にオークションで500万ミラもの高値で落札された人形すらあるほどだ。

 大体1ミラあたり10円くらいなので、日本円にして約5000万円ということだな。

 

 ちなみに、ヨルグ・ローゼンベルクの《ローゼンベルク工房》は、俺たち《黒の工房》と同じく、結社《身喰らう蛇》と協力関係を持つ技術集団――《十三工房》に名を連ねており、結社の幾つかの人形兵器の制作や、《パテル=マテル》といった『ゴルディアス級人形兵器』構想も当初は彼が手掛けていたものだ。

 尤も、『ゴルディアス級人形兵器』開発計画自体は、《十三工房》の統括者であり、蛇の使徒(アンギス)第六柱、そして弟子でもあるF・ノバルティスに道半ばで横取りされてしまったのだが、それはひとまず置いておくとして。

 

 イメルダ夫人が指差すショーケースの中を覗けば、そこには確かにローゼンベルク人形たちが並んでいた。

 

 ……これは……凄いな。前世であったアンティークドールの比じゃねえぞ。

 これが、この世界最高峰の人形と謳われるローゼンベルク人形か。

 

 そのショーケースの中に鎮座する物言わぬ少女たち。

 『不気味の谷』なんぞ軽く越えたその造形は、まるで本当に生きているかのような、今にも動き出しそうな気さえしてくるほどに精巧に作られている。

 

 ……いやホント、ここまで来るともはや人と区別がつかねえな。

 確かに大陸中にコレクターがいるのも頷けるクオリティーの高さだ。

 しかも最終的には、コレの後続が機械知性(ラピス)を宿して動き出すんだから堪んねえな?

 いい意味でも悪い意味でも(・・・・・・・・・・・・)

  

 ……だがまあいい、そんな未来の話より目先のコイツだ。

 クオリティーに問題はない。これならば十分転用(・・)できるだろう。

 

 俺がわざわざ《ローゼンベルク人形》を買いに来た理由。

 それは、この人形を用いることで、現在製作中の機械人形の完成度を向上させる事にある。

 

 『《パテル=マテル》用の神経系統を用いた制御技術』と引き換えに結社から譲渡された、『人間そっくりな機械人形の製作技術』。

 その技術を用いて製作中の機械人形に、弟子(ノバルティス)に「人形の調整にかけては右に出る人間はこの世に存在しない」とまで評されるほどの人形師(マイスター)が作り上げた《ローゼンベルク人形》の技術を解析し反映させることが出来れば、そのクオリティーを格段に向上させることが出来るだろう。

 俗に言うリバースエンジニアリングというやつだ。

 

 え?どうやって人形を解析するのかだって?

 リバースエンジニアリングだぞ?そんなもん人形バラして解析するに決まってるだろ。

 

 とりあえず、ショーケースの中から趣向の違う、そしてできるだけ高い(重要)ローゼンベルク人形を三体くらい選んで購入する。

 

 すんませーん!コレください。支払いは一括現金払いで。

 あ、領収証お願いします。後で経費(工房の金)で落とすんで。

 

 

 「……アンタ、バイヤーか何かかい?」

 

 

 さくさく購入手続きをしていると、イメルダ夫人が唐突にそんなことを聞いてきた。

 

 

 「いえ、違いますが……。

 何処かに売ったりするつもりは一切ありませんよ」

 

 「それにしては人形を見る目が……まあ良いさ。売れるんならね」

 

 

 俺がそう言っても、なんとなく納得していなさそうしているイメルダ夫人。

 

 失礼なババアだな。この俺を転売ヤーなんぞと間違えるとは……。

 社会に寄生する悪性腫瘍のような下劣で矮小な存在と同列に扱うでないわ。

 

 転売ヤー死すべし慈悲はない。

 

 俺は、単にヒューマノイドロボット製作における技術課題を克服する為に、ローゼンベルク人形(サンプル)をバラバラに分解して内部構造その他諸々を調べたいだけだ。

 何故か首をかしげているイメルダ夫人を放っておき、そのまま購入手続きを進める。

 

 ……ああ、そうだイリス。

 お前、この店の中で欲しくなったモノとかあるか?

 ほら、そこの人形(ローゼンベルク人形)とか欲しくなったりとか、コレクションしてみたいと思ったりは………。

 

 え?しない?………………そうか。(´・ω・`)

 

 

 

 

 幾つかのローゼンベルク人形を購入し、《黒の工房》の表向きの拠点の一つに郵送してもらう手続きを終えて店から出る頃には、もうすっかり日も落ちてしまっていた。

 

 さて。そろそろ晩飯にはいいころ合いだろう。

 何処で食べるかね。カフェレストラン《ヴァンセット》か、宿酒場《龍老飯店》もいいな。いやここは――

 

 幾つかの晩飯候補を思い浮かべながら、中央広場へ向かって裏通りを歩いていると、曲がり角から大きな人影がにゅっと現れた。

 

 

 「あ……」

 

 「あん?」

 

 

 曲がり角で出くわした三人。

 多種多様なネオンの光によって、夜になろうともある程度の明るさが保証されているからこそ、互いの顔を確認し、それが見覚えのある顔ということを認識するまでさして時間は掛からなかった。

 思いもよらぬ出会いに両者ともにフリーズしてしまっている中で。

 

 

 「……お久しぶり、です」

 

 「…おう、そうだな」

 

 

 イリスのおずおずとした挨拶が響く。

 

 ベージュのスーツを身にまとった大柄な男性。

 西ゼムリア大陸最高峰の猟兵団《西風の旅団》の元No.2にして、今現在はクロスベル市に拠点を置くマフィア組織――《ルバーチェ商会》の若頭を務める《殺人熊(キリングベア)》ガルシア・ロッシ氏とバッタリ出くわした。

 

 

 

 





 悪意はない。デリカシーもない。

 ヨルグ「……」(^ω^#)

 イメルダ「あ…あの奴の目…養豚場のブタを見る目だぁあああ!!?」


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