俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件 作:ギルバート
七耀暦1202年 3月
結社《身喰らう蛇》がゼムリア大陸中に幾つも抱えるセーフハウスの一つ。
その多目的ホールに二百名近い男達――《ジェスター猟兵団》の猟兵たちが屯していた。
緩やかな音楽が流れる中、男たちは談笑したり、本を読んだりとそれぞれが思い思いに時間を潰していると、ホールの扉を開けて一際大柄な男と優男が入ってくる。その大柄な男の姿を見るや否や、全員が動きを止めて一斉に敬礼を捧げた。
ホールの中央にある壇上に上がったその男――《ジェスター猟兵団》団長はその光景に一つ頷くと、ホールの隅々まで響き渡るような野太い声を張り上げた。
「お前ら!たった今クライアントである《結社》から、俺たち《ジェスター猟兵団》に向けて極めて大きな依頼が出された!
依頼内容は『エレボニア帝国内における遊撃士協会勢力の影響力排除と協会ネットワークの解体』!
その報酬は何と……三億ミラ(三十億円)だ!!」
《ジェスター猟兵団》始まって以来、初めてとなる超大型依頼と、その依頼報酬三億ミラという破格の提示額に、ホール内にどよめきが走った。
「いいかお前ら、これは単なる仕事じゃない……!この依頼を完璧に達成し、あのお高く留まった遊撃士連中に土をつけることで、俺たち《ジェスター猟兵団》の名をゼムリア大陸中に知らしめることが出来る!!
そしてこの報酬を元手に《ジェスター猟兵団》を更に拡大し、いずれ《赤い星座》や《西風の旅団》の連中に追いつき…いや追い越して大陸一の猟兵団になる、その第一歩とする為に!!
この依頼必ず達成するぞ……!!」
「「「応っ!!!」」」
大陸屈指の猟兵団たちをも越えてみせると息巻く団長の演説とその熱意は、ホール中に余すことなく伝わり、その熱に浮かれた団員たちの喉から、一斉に力強い雄たけびがほとばしった。
「そして、今回の依頼にあたって、クライアントである《結社》から、依頼の見届け役兼助っ人が派遣されてきた!
帝国内での兵站と活動拠点確保に加え、作戦立案とそのオペレートも担当してくれる、ノーバディだ」
「よろしくお願いいたします」
その流れで団長は一人の男を紹介する。
彼の傍らで控えていた眼鏡をかけた優男――ノーバディが優雅に会釈をした。
その物腰の柔らかさと優しそうな顔つきとは裏腹に、鍛えられた身体と隙の無さから察するに元軍人の類だろう。
ただ、戦場で切った貼ったをする前線指揮官では無い、どちらかと言えば組織の中枢で戦略・計画を立案しエリートコースを歩んできた参謀本部上がりのような、どこか陰険な雰囲気を漂わせていた。
団長の言葉に納得し、皆がノーバディを受け入れる空気が漂い始めた中、一人猛然と立ち上がる者が居た。
「団長!少々お待ちください……!
作戦の立案はこの俺!世紀の知将にして大天才である、《道化》のジェリコにお任せください!!」
《ジェスター猟兵団》の最精鋭を率いる《ジェリコ部隊》の部隊長《道化》のジェリコだ。
普段から《ジェスター猟兵団》の作戦立案を担う彼にとって、クライアントである《結社》から見届け役兼助っ人とは言え、ぽっとでの男に自身の仕事を奪われるなど、常日頃自身を「世紀の知将にして大天才」と称する彼にとって許しがたい屈辱だったのである。
「いや、ダメだ。
《ニーズヘッグ》の連中に断られた兵站支援を《結社》に引き受けてもらえる代わり、コイツの『立案』を聞くという契約になっている」
「ぐぬぬぬ……!」
そんなジェリコの猛然とした抗議を団長はけんもほろろにはねつけた。
ただジェリコは、これでも《ジェスター猟兵団》の最精鋭を率いる《ジェリコ部隊》の部隊長であるために、ヘソを曲げられないよう、団長は『落とし所』を用意する。
「だが、コイツが出来るのは作戦の『立案』だけ。あくまで主導権はウチにある。明らかに無理な作戦を提案してきた場合は突っぱねることができる。そうだな?」
「ええ、その通りでございます」
「とりあえずノーバディの考えた作戦を聞いてからにしろ」。そう言外に込められた団長の言葉にジェリコは――
「しょ、承知いたしました……!!
おい、ノーバディとかいうヤツ!!精々この世紀の知将にして大天才であるジェリコ様の最低基準を満たすくらいの作戦は考えているんだろうな……!!」
口元に浮かぶ不満を隠そうともせず、本当に渋々、不承不承といった様子で渋々引き下がった。
「ええ、もちろんですとも。ではこちらをご覧ください」
「もしくだらない作戦計画を出してきたら、すぐさま自分が取って代わってやる」、そんな態度を隠すこともなく睨めつけるジェリコに、ノーバディは特に気にする事なく、手前にいる団員たちに資料を後ろに配るように指示を出すと、手元にあるプロジェクターのリモコンを操作し、スクリーンに鮮明なエレボニア帝国地図の映像を映し出させた。
そしてノーバディは、団員全員が配られた資料とスクリーンを交互に確認する中、レーザーポインターを片手に、時折映像を切り替えながら、如何にして『エレボニア帝国内における遊撃士協会勢力の影響力排除と協会ネットワークの解体』を成し遂げるかの作戦内容の詳細を説明し始めた。
そして作戦内容の説明を終えたのち、あれほど息巻いていたジェリコが非常に苦々しい表情を浮かべながら、以降この件に関して一切の口を噤んだことからも、ノーバディの作戦『立案』が採用されたかどうか、もはや言うまでもないだろう。
◇
《ジェスター猟兵団》への作戦説明会が終わってそのまま解散となった後、ノーバディは一人残って後始末をしていた。
するとノーバディ誰も居ないはずのホールに、突如として若い女性の声が響いた。
「上手く纏まったようですね、ノーバディ様。いえ……
暗闇から染み出すように、暗殺者のような、はたまた娼婦のような、扇情的で蠱惑的なスニーキングスーツを身にまとった女性が音もなく現れた。
「……『私』が《結社》内で活動し始めた頃には、貴方は既に離脱されていたと思うのですが」
「古巣とはいえ、情報収集は欠かしておりませんでしたので」
「なるほど……さすがは《
「どちらでもお好きなように」
ノーバディの言葉に女性――執行者No.IX――《告死線域》、《死線》の異名を持つシャロン・クルーガーは冷徹な表情を浮かべながら素っ気ない言葉を返す。
すると会話をしていたノーバディの姿が一変する。
彼の姿は、突然切り替わったかのように唐突に色を喪って、赤とメタリックな単色へとそれぞれ変化し。顔が、服が、体が。まるでアイスクリームが溶けるかのように、グズグズと崩れ落ちていくと共に、その下地があらわになっていく。それが全て溶け落ちた時。
ノーバディと名乗っていた男性は、黒いスーツの上に白衣を纏った長身痩躯の金髪の青年――ハンス主任へと姿を変えていた。
「では改めまして。今回わが師であるワイスマン教授の要請により、リベール王国にて教授主導で行われる『福音計画』遂行における最大の障害、S級遊撃士カシウス・ブライトのエレボニア帝国への誘因と足止めの指揮を執る事と相成りました、結社《身食らう蛇》十三工房所属――ハンスと申します。執行者No.Ⅸ――《死線》シャロン・クルーガー殿のお噂はかねがね。
かの有名な《月光木馬團》の―――」
「前置きは結構です。任務内容は……?」
戦術殻による擬態を解除したハンス主任の、胡散臭い営業スマイルを浮かべながらの挨拶を、シャロン・クルーガーはバッサリと切り捨て、冷淡に任務内容の説明を促す。
そんな彼女の不躾な態度に、ハンス主任は特に怒ることなく、ただ肩をすくめると彼女に与える任務内容の説明を始めた。
「つい先日、最年少でA級遊撃士となった《
近々ノーザンブリア自治州に里帰りの予定のあるようなので、その機会を利用してください」
「彼女だけでよろしいのですか?」
「ええ、この『最年少のA級遊撃士』という肩書きが厄介でしてね。
最悪、その肩書きが遊撃士たちの希望の象徴となって、
「承知いたしました」
「ああ、それと。《鋼都ルーレ》にある遊撃士協会も襲撃する予定ですが、約束通り
「……その言葉、違えることのなき様。
さもなくば、《死線》は貴方に向けられることになるでしょう」
「ええ、肝に命じておきましょう」
ニコニコと笑うハンス主任に警告とも取れる言葉を残した後、シャロン・クルーガーは、現れた時と同じく、夜の暗闇に溶けるように音も無く消え去った。
その後、唐突に笑みを消したハンス主任は、しばらくの間、彼女がいた場所をジッと見つめると、一言ボソリと呟いた。
「………分かっちゃいたが、生で見るとエロいな……」
◇ハンスside
《帝国遊撃士協会支部連続襲撃事件》又は《帝国ギルド襲撃事件》。
それは、リベール王国の地にて行なわれる結社《身喰らう蛇》の『福音計画』最大の障害となる、S級遊撃士カシウス・ブライトを同国から引き剥がすべく、《結社》子飼いの《ジェスター猟兵団》がエレボニア帝国で仕掛けた一連の事件の名称だ。
帝国内の六都市にある遊撃士ギルド支部を次々と爆破襲撃することで帝国遊撃士ギルドの危機感を煽り、近隣の高位遊撃士を緊急招集させるという狙いの元行われた作戦は、《ジェスター猟兵団》の壊滅と引き換えに、確かにカシウス・ブライトをリベール国内から引きずり出し、『福音計画』の第一段階――《輝く環》を有する空中都市《リベル=アーク》を異次元空間に凍結封印する《封印機構》の第一結界解除が成功するまでの五ヶ月間もの間、エレボニア帝国の地にて拘束、足止めすることに成功している。
それならば、その襲撃事件を俺が担当することになったとしても、そのまま原作の作戦をなぞれば成功は確実と思うかもしれないが、問題が二つある。
一つ目が、俺自身が《帝国ギルド襲撃事件》の詳細な情報をほとんど知らないことだ。
この事件の内容は《空の軌跡3rd》の《星の扉13》にて語られているのだが、他のストーリーとは違い、遊撃士協会側や襲撃者視点で語られるのではなく、帝国軍情報局と参謀本部との通信のやり取りをプレイヤーが端から盗み見るという手法で語られている。
だがこの手法、あくまで襲撃事件を外から観察している第三者たちによる通信内での会話である為、「何が起きた」かというのは話されるが、「いつ」「何処で」「誰が」といった詳しい情報は互いが知っているものとして、通信での会話が省かれているのである。
しかもこの一連の事件を追っている帝国軍情報局がとんでもないボンクラで、カシウス・ブライトに対する尾行は速攻で撒かれて向こうが接触しようとするまで居場所分からねえわ、遊撃士側がジェスター猟兵団の補給拠点を襲撃する計画掴めてねえわ、彼の提案した共同作戦で美味しいところを譲って貰う代わりに、あごで使われるわと、国家の諜報機関としてあるまじき醜態を晒しまくっている。
最後の通信で「カシウス・ブライトの脅威度評定を『LV4』から最大評定の『LV5』――国家安全保障上の重大な脅威へと格上げする」などとほざいでいたが、もはやこいつ等の存在自体が国家安全保障上の重大な脅威である。
まあ、ともかくそんな訳で、襲撃事件の大まかな流れは知っていてもその詳細は知らず。
知らない以上、原作の忠実な再現は不可能という訳だ。
そして二つ目の問題が、本来俺の代わりに襲撃事件を担当していたのが、カンパネルラという点だ。
執行者No.0――《道化師》カンパネルラ。
紫スーツを着たオカッパショタで、誰彼構わず煽り倒す、カスみたいな性格をしてるヤツなのだが、原作では割と与えられた任務はしっかりと熟そうとしている。(達成するとは言ってない)
なのでおそらく原作の襲撃事件では、《ジェスター猟兵団》の作戦自体に口は出さないまでも、姿を変えたり、幻覚を見せたりと奇術みたいな能力を駆使して、積極的では無いにせよ、襲撃のフォローくらいは、間違いなくしていたことだろう。
となれば、仮に《ジェスター猟兵団》に作戦を丸投げしたとしても、原作でフォローしていたであろうカンパネルラが居ない為に、原作通りに進むとは限らない可能性が十二分に考えられるのである。
おまけに襲撃事件の詳細を知らないせいで、そのフォロー内容も一切不明ときているので、俺が代わる事も出来ない。
物語の語り手である帝国情報局のボンクラさから来る襲撃事件の内容の不明確さと、襲撃をフォローしていたであろう存在の不在。そんな不確定要素だらけの作戦計画で、あの元祖チート親父――カシウス・ブライトを足止めする?
冗談ではない。そんなものは、ただの自殺行為だ。
そんなゴミみたいな作戦計画に命をかける気などサラサラ無い。
ならばどうするか。
答えは簡単。
懐から紫色の錠剤が入ったビンを取り出した。
これこそが今回の作戦の鍵。俺が作り出した『チート』の
非人道的なカルト集団《D∴G教団》のアルタイルロッジにミリーズロッジから強奪した夥しい量の凄惨な実験データを丹念に精査し、培養に成功した《プロレマ草》を元に、《黒の工房》と、《星見の塔》より押収した錬金術の大家―クロイス家の錬金術を昇華させて作り上げた、全く新しい『新型グノーシス』だ。
コイツともう
だが当然リスクが無いわけではない。
『新型グノーシス』創薬にあたって、ラット、犬、工房長と段階を踏んで行った非臨床試験では問題は無かったものの、買収した製薬企業を通して、多額の報酬と引き換えに治験協力者を募って行っている臨床試験は未だ途上であり、実験データが不足しているのが現状だ。
長期間の服用実験のデータに至っては、現在進行形で工房長が愛飲しているコーヒーメーカーに秘密裏に仕込んでいる被検薬の治験データ二か月分くらいしか存在していない以上、未だに重篤な有害事象は確認できてはいないとはいえ、自身が服用するリスクは十分に存在している。
だが、その程度のリスクは負わなければならない。
何せ、相手は英雄伝説を代表するチート親父であるカシウス・ブライト。
ルート次第によってはいきなり出てきてラスボスを半殺しにするわ、敵が仕掛けた狡猾な罠を見抜いて解決策を教えるわ、ラスダンの崩壊に巻き込まれて逃げ道を失い、命を捨てる覚悟を決めた主人公たちをどっかから連れてきた古代竜(友達)に乗ってサックリ救い出すわ、久々に出てきたら連合軍の総司令官になってるわと、なんかもうやりたい放題な、イ◯ロー伝説構文がそのまま使えそうなバケモノである。
そんな相手に、何のリスクも無く勝つことなど不可能だ。
さて、こちらの戦力は俺と、《ジェスター猟兵団》一個大隊200名に、執行者1名。
対してエレボニア帝国内で活動する遊撃士は29名に、援軍として訪れる予定のS級遊撃士1名。
作戦期限は5か月間。
さあ、遊撃士共。結社《身喰らう蛇》による《福音計画》第一段階完遂まで、俺たちと一緒にエレボニア帝国の地で踊り狂おうぜ
ジェスター猟兵団のジェリコのキャラクター像知る為に暁の軌跡の動画見たけどこんなキャラだったんだ……
次回より帝国ギルド襲撃事件開始
原作とは大幅に違った、チート親父とのガチの殴り合い展開になる予定です。
これより下は読み飛ばしてもらって構いません。
ジェスター猟兵団の人数の推測
レーヴェ曰く「凡庸な連中しかいない」らしいので少数先鋭ではないのは確定。
『暁の軌跡』にて、登場したジェスター猟兵団の残党はボートさんにやられた5名に女王生誕祭襲撃の28名の計33名(補充したのかは不明。ただ残党に入りたがるやつ居る?)なのは確定。
襲撃事件に際し、ニーズヘッグに兵站支援を依頼していたと判明。(自力での兵站網の構築に自信が無い?)
『界の軌跡』のフェリの発言から『創の軌跡』真・無限回廊にいた人数(51名)を中隊規模と表現していた為、軌跡世界の猟兵団は一個中隊が50~60名と推測。となると大隊が3~4個中隊(150~240名)連隊が3~4個大隊(450~960名)となる?
仮にジェスター猟兵団の総員が一個中隊だった場合、摘発した帝国軍が半数以上取り逃がしたド無能になるので、二個中隊以上は居た?
似たような案件に《ニーズヘッグ》が起こした細菌テロ未遂事件があり、その時には連隊を動員している(のちに壊滅)
以上のことを考慮し、襲撃事件の規模を考え、その凡庸さを数で埋めしつつ、かつ自軍で補給を完結できない程度だと仮定すると、ジェスター猟兵団の人数は一個大隊(200名)くらいだったんじゃないかと予想しました。