俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件 作:ギルバート
返事は返せておりませんが、励みになっております!
先の性能実験から、しばらくして。
Oz72の再調整や、受け入れ準備などでバタバタしていたものの、ついに今日、黒の工房においてOz72改めイリスを加えた新体制が、めでたくスタートした。
まず地精の長であり、黒の工房における全研究を統括するアルベリヒ工房長と、その補佐をするジョルジュ・ノームことゲオルグ君。
主にSウェポン研究と、新たに開発中の戦術殻や人形兵器、Sウェポンなどの各種装備のテスターを担当する俺こと――ハンス主任と、そしてその補佐に新たにイリスがつく、四人体制である。
え?トップのイシュメルガはどうしただって?知らん。
エレボニア帝国のどっかで闘争の種を撒き散らしながら、悲劇でも量産してんじゃねーの?
ともかく。
俺の補佐に、一定以上の戦闘能力を有するイリスがついたのは非常にありがたかった。
実際、Sウェポンの研究方面はともかくとして、テスター要員が不足していたのは確かだったからな。
今まで、一対一の性能実験ならともかく、一対二、一対三などといった多人数を相手取ることを想定した性能実験なんかでは、ゲオルグ君、最悪工房長までもが、データ記録を機械に任せテスター要員として駆り出されていたのだ。
それを考えれば、イリスの出荷差し止めは、その動機自体は俺の個人的感傷からだったが、テスターの人員不足を解消する、良い機会だったのは間違いない。
……それにこれで最高一対四までの性能実験が出来るしな!
こうして始まった新体制であるが、早々に問題が発生した。
端的に言うと、イリスのメンタルがマジでヤバい。
そもそもな話。先の性能実験でアルベリヒ工房長がイリスに対して言い放った失敗作発言で、Ozとしての
だから、Ozとして命令に対し従順であるイリスに対し、『自らの
そしてOzとしての
そしてその命令で時間を稼ぎつつ、その間にイリスに戦闘やテスター、最悪料理といった家事手伝いなどでもいい。
趣味のような、あるいは何か打ち込めるものを見つけ、それに熱中か、集中させることで、どうにかイリスの気を紛らわせながら折れた心を癒しつつ、メンタルを上向きに持っていこうと。
そういう長いスパンでの計画を
え?何で過去形なのかだって?HAHAHA!決まってるじゃないか!
ついさっき!アルベリヒ工房長が!!イリスのメンタルに!!!
トドメを刺したからだよおおおお!!!!
事の発端は一時間ほど前まで遡る。
俺やゲオルグ君、イリスまでもが、アルベリヒ工房長に会議室に呼び出されたのだ。
工房長が俺やゲオルグ君だけならともかく、イリスまで呼び出したことに対し、おかしいとは思ったものの。
よくよく考えれば、工房長の頭がおかしいのは今に始まったことではないと思い直し、スルーすることにした。
……今思えば、ここでもっと工房長の頭を疑ってかかるべきだったと後悔している。
ともかく、俺やゲオルグ君、イリスが席に座る中、会議室の扉を勢いよく開け放ち、随分とご機嫌な様子で入ってきたアルベリヒ工房長。
工房長は会議室にある教壇の前に立つと、前口上など一切なく、すぐさま自分達を呼び出した本題かつ、とんでもない爆弾を繰り出してきた。
「では、これより《巨イナル一》再錬成の儀式、《巨イナル黄昏》成就の核となる、不死の黒の聖獣を殺すことの出来る《根源たる虚無の剣》。
その前提条件を満たした、Originator zero《根源たる虚無》計画の完成形である、Oz73――ミリアム・オライオン、及び最終型となるOz74――アルティナ・オライオン製造計画の概要を伝える」
あまりに突然に投げつけられた爆弾情報に、思考の90%くらいがフリーズする。
辛うじて動いている10%程度で、「工房長が随分とご機嫌だったのはこれが理由か」とか「この時くらいからミリアム・オライオンとアルティナ・オライオンの製造計画が始まったのか」とか取り留めもないことを考え。
残りの思考が急速に回復してくるにつれて、今自分の横に
おいいいいい!!??
何口走ってんだ工房長!!??俺の横にイリスが座ってんだぞ!?
Ozの失敗作の烙印を押した者の前で、後続の製造計画を話始めようとすんじゃねえよ!?
しかも、何Ozの真実バラしてんだ!!??
実はイリスにはOzの真実――Originator zero《根源たる虚無》計画の真の目的というものを知らされていない。
イリス自体、元々がアルベリヒ工房長が『Oz自身の身体能力、及び戦闘能力と、戦術殻との同調率は反比例するという仮説』を立証する為だけに造った個体だ。
その性質上、Ozとしては失敗することが生まれる前から決まっていた個体である為、そんな個体にわざわざ《巨イナル一》や《巨イナル黄昏》《黒の聖獣》などといったOzを理解する上で必要な事柄を一から説明しなければならないことに、非効率さを感じたアルベリヒ工房長が、その説明を大幅に省いたのだ。
だからイリスは、Originator zero《根源たる虚無》計画とは、『戦術殻と完全同期した、人にして武具でもある存在を造り出す計画』であることまでしか、知らされてはいない。
「あ、あの……アルベリヒ工房長。《巨イナル一》や《巨イナル黄昏》、《黒の聖獣》とは……」
「……ああ、そう言えば話していなかったか。
まあ、製造計画の概要を伝えるついでだ。Ozの真の目的とは―――」
「少々お待ち下さい、アルベリヒ工房長。
この話、黒の工房の秘匿事項が多分に含まれております。
……ただのテスター要員が知る必要のない情報でしょう。
機密保持の観点から見ても、適切であるとも思えません。
……イリスには外してもらうべきでは?」
何とか顔にいつも通りの営業スマイルを張り付けながらも、イリスに対し、速攻Ozの真実をばらそうとするアルベリヒ工房長の言葉を遮りながら、そう進言する。
そりゃあ、いつかはイリスにも話さなければならん事ではある!
だが、少なくとも今じゃねえ!
工房長に全否定されるまで、イリスの心の拠り所だったOz計画が、自分の命を生贄に、不死の聖獣をぶっ殺せる武器を生み出す計画だったなんて、血も涙もないような真実、メンタルがボロボロの今聞かせることじゃねえよ!
そう思い、これ以上工房長がいらん事を話し始める前に、イリスを会議室から追い出そうとしたのだが―――
「いや、これでいい。
曲がりなりにもOz72――イリスは、ハンス主任の補佐としてではあるものの、Originator zero《根源たる虚無》計画に、参加する立場になったのだ。
にもかかわらず、自身が参加する計画について知らないというのは、格好がつくまい」
などと宣いやがった。
白々しい……何が格好がつくまい、だこの野郎。
格好なんぞ、効率至上主義の工房長が、気にしたこともない癖に……。
何だ。イリスの教団出荷に異を唱えたことへの、当てつけの―――
「それに何より、Originator zero《根源たる虚無》計画の完成形である、Oz73――ミリアム・オライオン、及び最終型となるOz74――アルティナ・オライオンの製造計画が滞りなく完遂した暁には、ついに我らが主であるイシュメルガ様の宿願である《巨イナル一》の力を手に入れ神となる為の、偉大なる一歩を歩まれることになる!
その為にも、万が一にもその始まりたる製造計画に不備があってはならない!」
……ちげーわ。そんな事一切考えてねえわ。というか、もはやイシュメルガの事しか眼中にねえわ。という事はさっきのは、ただの不確定要素の排除の為の建前という事か、よかっ……いや、よくねーよ。
無自覚に人のフォローを台無しにしやがって。
もうちょっとイシュメルガ以外の他人に配慮することを覚えろよ。
ホント、そういうとこだぞ。
若干恍惚の笑みを浮かべながら、イシュメルガへの賛辞を述べるアルベリヒ工房長。ぶっちゃけ気持ち悪い。
だがそれでも。
そんなトリップ状態の工房長が作り出した、イリスにOzの真実――Originator zero《根源たる虚無》計画の真の目的を説明するという流れは、もはや止められないことは、理解できてしまった。
関係者であるにもかかわらず、ただイリスへの説明を避けるよう主張する俺と、万が一の製造計画の不備を防ぐ為にも、関係者に情報の周知の徹底を主張するアルベリヒ工房長。
どちらに理があるかと問われれば、アルベリヒ工房長の方にあるのは明白だからだ。
……もしイリスのメンタル面が考慮されるのであれば、その限りではないのだが、残念ながら、黒の工房内ではそういったような事柄は全く考慮されることはない。
クソが、イリス用の研究成果や結果をでっち上げやすいよう、俺の補佐という立場につけたことが完全に裏目に出たか……。
もはや、イリスがOzの真実を知ることになるのは確実。
最悪、真実を知ることで、イリスのメンタルにトドメを刺すことになりねない。
………かくなる上は―――
「ああ、そういうことであれば。了解しました、アルベリヒ工房長。
……しかしOz73にOz74ですか。
ということは、ミリアム・オライオンと、アルティナ・オライオンは、Oz72のイリスから見れば『妹』ということになりますね。
いっそイリスにも、オライオンの姓を名乗らせますか?」
『姉妹愛によるメンタル回復作戦』である!
この作戦は、イリスにオライオンの姓を名乗らせることで、血のつながりが無くとも、ミリアム・オライオン、アルティナ・オライオンの両名を家族――妹と認識させ、彼女に情を抱かせることで、何とかイリスのメンタルを回復させようという作戦である!
……本当ならこの手は打ちたくなかった。
確かに今のイリスのメンタルは回復するかもしれんが、その情が強くなればなるほど、自らの命と引き換えに『根源たる虚無の剣』を生み出すことになる二人に対し、後々イリスが苦悩することになるのは目に見えている。
……残念ながらイリスの場合は同調率の関係上、作中ミリアム・オライオンが行ったような、アルティナ・オライオンの身代わりとなって《根源たる虚無の剣》になる、なんてことは不可能だ。
自身が妹たちの身代わりとなることすらもできないという残酷な現実は、猶更その精神を蝕むことになるだろう。
いくら最終的にあの二人は生存するとはいえ、それはあまりに惨すぎる。
だから本来、イリスと二人と引き合わせるかどうかは、当初の計画によってイリスの心が癒え、メンタルを上向きに持って行ったのち、経過観察しながら、慎重に判断する予定だったのだが。
こうなってしまった以上、仕方あるまい。
直ぐにでもイリスに何かしらの希望を見せてやらなければ、命にすらかかわる。
より良き未来より目先の問題。種籾を今食べないとすぐ死ぬのだ。
そう思い、何とかイリスのフォローをしようと、その後に続く言葉を必死に考えていると、アルベリヒ工房長から「ハア?」みたいな心底呆れたような顔で見られた。
おう、何だその腹立つ顔は。ブッ飛ばすぞ。
「何を言っている?ハンス主任。
仮説を立証する為だけに作った、出来損ないのOzと、正当な後継型を同列に扱うなどとは……。
それにOzとして失敗作であるOz72――イリスなどに、Originator zero《根源たる虚無》の完成形である事を示す、『オライオン』の姓を冠せられる訳がないだろう」
「ッ!?」
工房長、オマエホンマいい加減にせえよ!!??
さっきから、人のフォローを無自覚に全部台無しにするどころか、事あるごとにイリスの心の傷口に塩塗り込むような真似しやがって!!
俺やゲオルグ君にするようなノリで口撃してんじゃねーよ、この腐れ外道!!!
かくして最後の一手さえも、アルベリヒ工房長に無自覚に潰され、完全に打つ手のなくなった俺は、嬉々としてイリスへOzの真実を語る工房長を見ていることしかできなかった。
え?ゲオルグ君はどうしただって?
会議室の片隅で身を縮めて、全力で空気になろうと努力してるよ。
◇
会議という名の地獄が終わって早々、イリスのメンタルにトドメを刺し終えたアルベリヒ工房長は、相変わらず機嫌良く、つかつかと慌ただしく出て行った。もう死ねよあいつ。
多分、この後すぐミリアム・オライオンとアルティナ・オライオンの製造計画に取り掛かるのだろう。
そしてゲオルグ君も、チラリと一瞬イリスを見た後、いそいそと逃げるように自分の研究室へと帰っていった。
そりゃそーだ。もはやイリスになんて声をかければいいか分かんねーもん。俺だってゲオルグ君の立場なら同じことをしたさ。
……それはそれとして、後で覚えとけよ。
「……研究室に帰るぞ、イリス」
「…………はい」
とりあえず会議室の扉を開け、Ozの真実を知り、顔面蒼白のイリスを伴って、自分の研究室への帰り道を歩く。
しかし……、どうしてこうなった。
今日、新体制がめでたくスタートしたというのに、その直後に体制崩壊の危機とは。
しかも内ゲバで。
……とりあえず、あれだ。
前から思っていたが、アルベリヒ工房長とイリスの相性が悪すぎる。
地精の一族の必須スキルである、工房長の口撃の上手い受け流し方をマスターしているゲオルグ君や、そもそも工房長の話をまともに聞いてない俺と違って、生真面目であるイリスはアルベリヒ工房長の言葉を正面から受け止めてしまう。
どうせ工房長の話なんぞ、技術関連を除けば、嫌みと妄言しか吐かねえんだから、まともに聞くだけ無駄だというのに……。
……まあ、それをイリスにしろと言うのはあまりに酷だろうが。
とりあえず対処療法ではあるが、今後イリスをアルベリヒ工房長に近づけさせないようにしよう。
研究室のドアを開けて中に入る。
そしてイリスに研究室に新しく併設された自身の部屋に戻るように告げた。
さて………、どうするか……。
俺の命令に素直に従い、よたよたと自身の部屋へと戻っていくイリスの痛ましい後ろ姿を見ながら、手を首に当て、もみほぐしながら考える。
アルベリヒ工房長による度重なる口撃により、もはやイリスのメンタルはズタボロ。
心に至っては折れるどころか、折られすぎて粉末状になってるレベルである。
……ホントあの工房長死んでくんねえかな。
そんな心の重病人に対して、一体どう対処すればいいのだろうか。
クソ、外傷くらいなら何とかできたんだが。
……前世の時に、心理学についても学んでおけばよかったか。
イリスside
私の名前はイリス。形式番号Oz72。
この番号からも分かる通り、私はOriginator zero《根源たる虚無》計画において72体目に製造された個体……ですが、戦術殻との同期率が著しく低く、製造者であるアルベリヒ工房長の求める要求水準どころか、平均水準すらも超えることができなかった『欠陥品』です。
Ozとして用済みとなり、廃棄処分代わりに、人体実験の実験体として出荷される予定だった私のようなモノに、私の性能実験の相手役を務めてくださっていたハンス主任は、『道具』としての利用価値を見出してくださいました。
純粋な戦闘員としてや、Sウェポンや戦術殻、人形兵器の性能実験のテスター、そして光栄にもハンス主任が行っているSウェポン研究の助手としての御役目に至るまで。
本来であれば、Ozの失敗作が望めるべくもない御役目の数々を授けてくださったハンス主任には、感謝の言葉もありません。
そんなハンス主任は私に「自らの
ハンス主任の
アルベリヒ工房長より、私の管理を委任されたハンス主任からの
その命令は絶対であり、何をおいても私の全力を以て確実に遂行されなければなりません。
……ですが愚鈍な私には、そもそも自らの
Ozとしての存在意義すらも失った無能の私では……。
――ですが今日の会議において、アルベリヒ工房長は私に、秘匿事項だったOriginator zero《根源たる虚無》計画の真の目的、その情報を開示してくださいました。
Originator zero《根源たる虚無》計画の真の目的。
それは、自らの命と引き換えに《巨イナル一》再錬成の儀式、《巨イナル黄昏》成就の核となる、不死の黒の聖獣を殺すことの出来る《根源たる虚無の剣》を生み出すことのできる人造人間――Originator zero《根源たる虚無》を造り出すこと。
そしてその会議でアルベリヒ工房長は、その前提条件を満たした、Originator zero《根源たる虚無》計画の完成形である、Oz73――ミリアム・オライオン、及び最終型となるOz74――アルティナ・オライオン製造計画の開始を宣言されました。
……自らの命と引き換えに《巨イナル一》再錬成の儀式、《巨イナル黄昏》成就の核となる、不死の黒の聖獣を殺すことの出来る《根源たる虚無の剣》を生み出すという
で、あるのなら…………。
ハンス主任の『道具』として、誠心誠意お仕えし。
Originator zero《根源たる虚無》計画における完成形である、ミリアム・オライオンとアルティナ・オライオン……いえ、ミリアム・オライオン様と、アルティナ・オライオン様かのどちらかが、その終着点である《根源たる虚無の剣》に至られるという
それが……それこそが、Ozとして出来損ないである私でも……、いえ、私だからこそ証明することのできる。
……唯一無二の『
◇
あれ?イリスもう出てきて……おうふ、もうこんなに時間たってたんか……。
うーん、まだ方針どころか、なんて声をかけたらいいかさえ決まって……、
あれ?ちょっと顔色よくなってる?どうしたん?
え?自分の『存在意義』を見つけたの?……マジで?
ちょっと、どんなのか言ってみ?
……ふむふむ、俺の『道具』として、誠心誠意お仕えし、ミリアム・オライオン様と、アルティナ・オライオン様、……様?が根源たる虚無の剣に至られるよう、全力で支える?
それがOzとして出来損ないである自分の『
そっか、そっかー。そう思っちゃったかー。そっち方面に行っちゃったかー。
…………………………………。
誰か………、イリスに心理カウンセラーの派遣をお願いします……。
そして大体工房長が悪い。
誤解のないように言っておくと、イリスに悪意は全くないです。
全て善意からの行動。
優秀な後輩が栄光を掴めるようにアシストしてくれる。
心優しい先輩です。(なお栄光の基準は彼女の主観)
閃の軌跡Ⅲ、Ⅳに特大の地雷がセットされました。