俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件 作:ギルバート
時間が半年ほど飛びます。
―――七耀暦1195年
薄暗い研究施設の廊下。そこを駆け抜ける一筋の影があった。
整った顔立ちをした金髪の青年。
まだ少し幼さを残す顔つきに、アンバランスな鋭利な眼光を宿らせ、身の丈ほどもある刀身に、巨大なリボルバーが取り付けられた片刃の大剣を担ぎながら、研究施設の廊下を突き進んでいく。
一見すると、研究施設を襲撃しに来た侵入者といった様相ではあるものの。
それにしてはその青年の足取りは、まるで勝手知ったる我が家のように一切の迷いはなく、そして研究施設の警備システムもその青年を排除しようとはしなかった。
まあ、仮に警備システムがその青年の排除を試みようとしたとしても叶わなかっただろう。
すでに、人形兵器などで構成されていた警備システムは、
青年は、破壊された人形兵器の残骸には見向きもせず、警戒しながらも、ずんずん廊下を進んでいく。
そして、その青年が選んだルートには、必ず人形兵器の残骸が散乱していた。
それはまるで、人形兵器を破壊して回った誰かと、その青年の
そしてついに目的地へと辿り着いたのか、その青年は足を止め、一際大きな扉を見据える。
その一際大きな扉は、外側から何か大きな衝撃を受けたのか、くの時にへし折れて内側へと倒れており、完全に扉としての役割を放棄していた。
青年はその様子を確認すると、自身の横の何もない空間を一瞥する。
すると、その何もないはずの空間から
それを確認すると青年は、その赤い何かを従え、担いでいた片刃の大剣を構えて、その扉の内側へと飛び込んだ。
「…………わお」
その扉の先にあったのは、広大な広さを持つ研究室。
一見すると青年が驚きの声を上げたのは、その得体の知れない生物の浮いた巨大な培養槽の数々や、多種多様な機械群といったものに圧倒されたからのように見えるが。
そんなものなど見慣れている青年にとってはその程度、今更驚く価値もない。
では何を見て青年が声を上げたかと言えば―――
研究室全体に刻まれた、壮絶な戦闘痕。
強大な力を持つ者同士がこの場所で全力で争ったのか、研究室の壁や床、天井に至るまで傷ついており、哀れにも戦闘に巻き込まれたのであろう培養槽や機械群が、無残に破壊された断面や中身をさらしていた。
そしてそんな戦場の奥、研究室の制御端末付近に何者かが横たわっていた。
青年は、その横たわっている何者かに近づきながらも。
まるで
すると青年の視線はある一点で止まった。
そこにあったのは、真っ黒な血だまり。
その血だまりは、カラカラに乾いていており、明らかに
だが不思議なことに、普通ならその血だまりに沈んでいなければならないはずの死体の姿は、何処にもなく、代わりに、その血だまりから、何かを引きずったような跡、そして何かの動物の足跡のようなものが残されていた。
その光景に青年は何を理解したのか、見渡すのを止めて、武器を仕舞い、横たわっている何者かに近づいていく。
それは男性の亡骸だった。
その見開いたままの目には光はなく、もはや何も映すことはない。
鼓動や脈拍の確認をするまでもない。死んでいるのは明白だった。
「これは、これは……」
にもかかわらず。一人の男性の亡骸を前にしているにもかかわらず、青年に悲壮感といったものは全くない。
むしろ親しげにそう呟きながら、ニタニタと笑い、男性の亡骸から流れ出た後の乾いた血だまりを、躊躇なく踏みにじりながら、男性の亡骸へと近づいていく。
そして亡骸の直ぐ傍でしゃがみ、頬杖をつきながら――――
「ざまあないですね。
心底馬鹿にしきった様子で、ゲラゲラと嗤い声を上げた。
◇
今現在、黒の工房には厳戒態勢が敷かれていた。
事の発端は二日前。
情報スパイとして潜り込んでいる教団の会合に出席するため、一週間ほど、外に出向いていたアルベリヒ工房長からの定時連絡が、その日を最後に音信不通となってしまったのだ。
この事態に、アルベリヒ工房長不在時の代理として、黒の工房の管理を任されていたハンス主任は、黒の工房・緊急事態マニュアルに基づき、非常事態宣言を発令。
この工房長の失踪が、黒の工房の敵対勢力による仕業である事も考慮し、最悪の事態――この黒の工房本拠地への襲撃に備えるべく、工房長より代理として与えられていた権限を行使、黒の工房内の全警備システムを全力稼働させ、ゲオルグとイリスには、完全武装で待機しておくように命じた。
そしてハンス主任は、アルベリヒ工房長捜索の為、最後に定時連絡のあった、教団幹部としての顔を持つアルベリヒ工房長が教団内に保有する研究施設――ロッジへと単身確認に向かった。
◇
黒の工房内の転位ゲート。
そこは物々しい雰囲気に包まれていた。
転位ゲートを取り囲むように配置された、大量の魔導兵器や汎用戦術殻。
黒の工房の警備システムと連動したそれらは、機械であるがゆえに、一切の油断や慢心なく、その身が持つ武装を転位ゲートの方へと向けられていた。
その最後方、自立型の状況制圧用魔導兵器《ヘカトンケイル》を盾にするようにしながら、ゲオルグは大型ハンマーを、イリスは柄の部分に何やら複雑な機構の付いたレイピアと、射撃機構の付いた短剣を携え、そしてその傍らには、それぞれが使役する戦術殻――《ナグルファル》《フルン=ティング》を侍らせ、完全武装で待機していた。
転位ゲート前に用意された防衛ライン。
元々が、地下1000アージュに存在する大地の裂け目に橋を架けるように造られた黒の工房の本拠地である。
厚い岩盤で外界から完全隔離されたここに、出入り口は存在せず、二基の転位ゲートのみが、ここと外界とを行き来する、唯一の手段となる。
そして襲撃者対策の為、片方の転位ゲートの機能を停止させている今、この黒の工房と外界とを繋ぐ出入り口は、もはやこの目の前の転位ゲートのみだ。
それを考えれば、この転位ゲート前に防衛ラインを敷き、黒の工房の戦力を集中させるというのも、そうおかしな話ではない。
そうして、無数の兵器と共に待機していたゲオルグとイリスの二人だったが、突如として転位ゲートが稼働を始めた。
誰かが、外界に設置されている転位ゲートを起動させ、それと繋がるこちらの転位ゲート――即ちこの目の前のこれに転移しようとしている合図である。
二人に緊張が走る。
認証装置付きの転位ゲートである以上、起動させることが出来たということは、そういう事なのだろうが、……万が一のことがある。
二人はそれぞれ得物を構え、配置された兵器と共に、油断なく様子を伺う。
しばらくして。転位ゲートより一人の整った顔立ちをした金髪の青年が現れた。
『……対象識別。登録アカウントに合致。黒の工房、構成員。ハンス主任であると確認されました』
その警備システムの機械音声と共に、周囲の魔導兵器や汎用戦術殻が一斉に武装を下した。
「ハンス主任!」
「主任!」
それと同時に、イリスとゲオルグがハンス主任の元へと駆け寄る。
「今帰った。こちらに異常は?」
「「ありません」」
「そうか。二人ともご苦労だった」
いつも顔に浮かべている青年らしからぬ営業スマイルは成りを潜め、険しい表情を浮かべながらも、ハンス主任は二人を労った。
「あ、あの……アルベリヒ工房長は……」
イリスが不安そうな様子で、ハンス主任に尋ねる。
そもそもハンス主任は、アルベリヒ工房長捜索の為、最後に定時連絡のあった、アルベリヒ工房長が教団内に保有する研究施設――ロッジへと単身確認に向かったはずであった。
それにもかかわらず、ハンス主任が一人で戻ってきた。と、いう事はつまり―――
「…………」
「ま、まさか……」
「そんな……」
重苦しい空気に包まれる三人。だがそれを打ち破るようにハンス主任は、おもむろに話始めた。
「……黒の工房・緊急事態マニュアル 第44項『管理者たる工房長死亡時の対応』に基づき、
「「………」」
ハンス主任のその言葉に、ゲオルグとイリスは沈黙を以て、肯定の意を返した。
「よろしい。ではしばらくは襲撃者対策の為、この転位ゲートへの警戒体制は維持する。
そしてこの緊急事態に集中するため、現時刻を以て、ミリアム・オライオンとアルティナ・オライオンの製造計画を除いた、全プロジェクトを一時中止。
ゲオルグとイリスは手分けして、アルベリヒ工房長が抱えていた案件の精査に努めろ。
工房長が何か急ぎの案件を抱えていた可能性もある」
「了解です」
「承知致しました」
「では解散」
ハンス主任改め、ハンス工房長代理から下された命令を遂行すべく、ゲオルグとイリスは足早に離れていく。
その様子を何かをこらえるような表情で見ていたハンス工房長代理は―――
◇
だ…駄目だ まだ笑うな…こらえるんだ…しかし…
吹き出しそうになるのを、険しい表情で懸命に押さえ込みながら、俺は自身の研究室に駆け込む。
そして研究室に滑り込み、扉が完全に閉まったことを確認して―――
「工房長ざまああああああああ!!!!」
防音対策の施された研究室内で全力で叫んだ。
紳士淑女諸君、御機嫌よう!
無様にくたばったアルベリヒ工房長に代わり、この黒の工房を運営していくことになったハンス主任改め、ハンス工房長代理だ!
いやー、清々しい気分だ。
アルベリヒ工房長の死体を見た時には、胸がすくような気持だったよホント。
本当であれば、あの工房長が無様にくたばる瞬間も、ぜひこの目で見たかったのだが……。
まあ良しとすることにしよう。
だが……、ゲオルグ君やイリスには悪いことをしたと思っている。
今回、アルベリヒ工房長を殺した下手人は単独犯。
しかも工房長と相討ちとなり死亡している為。黒の工房への襲撃など、確実にないと断言できるにもかかわらず、そのことを一切伝えずに、黒の工房の警戒任務に当たらせてしまったのだから。
アルベリヒ工房長を殺した下手人。
それは、もう原作知識により分かっている。
およそ1200年前、《
この件は、非常に優秀な調査能力と推理能力を兼ね備え、真相に辿り着きかけたイソラ・ミルスティンを、邪魔に思ったアルベリヒ工房長が始末しようと画策。
それを《未来視》で視たイソラ・ミルスティンが、より良い未来の因果に紡ぎ直す為、相討ち覚悟で激突し、そして最終的に両者、共倒れとなったというのが一連の流れだ。
……出てくるたびに、大物ぶって意味深な事ばかり言っておきながら、800年間地精の居場所どころか、一連の陰謀一つ見抜けなかった合法ロリババアである、アホの……じゃなかった緋のローゼリアに率いられた
作中では、大体の年号はともかくとして。
その日時、そして激突した場所については明らかにはなっていなかったが。
それが二日前であり、そして激突した場所が、先ほど俺がアルベリヒ工房長捜索の為に、訪れた研究施設――ロッジだったのだろう。
ちなみに、先ほど確認した際、アルベリヒ工房長の死体はあったものの、致死量の血が流れ出ていた痕跡があるにもかかわらず、そこにイソラ・ミルスティンの亡骸がなかった件については、血だまりの周囲にあった動物――それも鳥のような足跡から、大体の想像はつく。
イソラ・ミルスティンは使い魔として、白い梟を連れていた。
その梟が転位魔法か召喚魔法か何かを駆使して運び出したのだろう。
「母としての思いを娘に伝えたい」
そんな亡き主人の願いを果たすべく、自身の体が消滅し、残留思念に成り果ててもなお、約12年もの間、霊窟内で娘たち一行が訪れるのを待ち続けていたほどの使い魔だ。
それほどまでに忠誠心のある使い魔が、敵陣といえる場所に、主人の亡骸を放置する訳がない。
敵ながら天晴れな忠義心である。
え?上司の死体の前で、ゲラゲラ笑ってたオマエも見倣えって?
ハハッ、ワロス。
……いや、一応言っておくと、一頻り工房長の醜態を嘲笑ってすっきりした後、死体の方はちゃんと弔ってはおいたし、墓も簡易ではあるが立ててはおいたのだ。
アルベリヒ工房長の正体、それはイシュメルガが作り出した精神生命体的な存在――つまりは悪霊である。
優秀な地精の血族に寄生する事で活動しており、身体が滅んでも優秀な子孫に寄生することで何度も復活するのである。やっぱ悪霊じゃねえか。
だから、あの工房長の死体も、《黒のアルベリヒ》という悪霊に憑りつかれていた、哀れな地精の誰かという事になるのだ。
そりゃあ弔いもするし墓も立てる。……銘の方は分からなかったが。
え?もし仮に、本物の工房長の死体があった場合はどうするのかって?
ケツに爆薬詰めて発破してくれるわ。
だが、これでアルベリヒ工房長が滅んで一見落着……という訳ではない。
先も言った通り。アルベリヒ工房長の正体は、優秀な地精の血族に寄生する事で活動する精神生命体だ。
そして今回も滅んだのは身体だけ。
本体である精神生命体は生きているのだ。クソが。
だからしばらくすれば、アルベリヒ工房長は、新たな優秀な子孫に寄生することで復活し、戻ってくることになるのだ。
しかも新たな寄生先というのが、主人公の仲間の父親なのである。地獄かここは。
だが、それでも。
一時的にでもアルベリヒ工房長がくたばったことで、この黒の工房に、つかの間の平穏が訪れたのは確かである。
だから俺はアルベリヒ工房長が一時的にでもくたばるこの日を、一日千秋の思いで待ち侘びていた……というわけではない。
……むしろ憂鬱な気持ちに苛まれていた。
今の今まで俺は、アルベリヒ工房長とイソラ・ミルスティンとの戦いに、十中八九駆り出されるものとばかり思っていたからだ。
相性の問題もあるのだが、俺はアルベリヒ工房長よりも強い。
……まあ俺が強いというより、アルベリヒ工房長がそんなに強くないといった方が正しいのだが、それはともかく。
だからこそ、イソラ・ミルスティンを確実に始末することを考えた場合、俺という駒を呼び出さない訳がないと考えていたのだ。
だから、この場合はどう動けばいいのか、原作通り相討ちに持っていくのかとか、何とか上手いこと立ち回って工房長だけを殺せねえかなとか、……いや、むしろこれ下手を打てば工房長諸共まとめて殺されるんじゃね?などと色々考えていたのだが………。
だが結局、この心配は全て杞憂に終わった。
アルベリヒ工房長は俺を駆り出すことなく、イソラ・ミルスティンの始末に動いたのだ。
しかも、俺に知られないよう秘密裏に動いてまで、だ。
……はっきり言って、今回の件は寝耳に水だった。
原作知識から、そろそろアルベリヒ工房長と、イソラ・ミルスティンが相討ちとなる時期というのは知っていたものの、正確な日時や場所を知らなかった為に、おおよその見当を付けることが出来なかった、というのもそうだが、工房長がイソラ・ミルスティン関連の情報を徹底的に隠蔽していたからだ。
……そういえば最近、よく教団の会合があるなと思っていたが、……まさかこういう事だったとはな。
まあだが、その理由については分かる。
そもそも、アルベリヒ工房長は俺を信用していない。
俺が自身の本心を悟られぬよう行動していることも知っているし、俺が何かしらの展望を抱いていることも勘付いている。
だからこそ、そんな信用の出来ない駒を戦場に持ち込むことを嫌ったのだろう。
イシュメルガの隷属があるとはいえ、戦場では何が起こるか分からないのだから。
……結局、真相は死んでしまった以上、真相は闇の中……ではなく復活した工房長に聞いてみなければ分からないが。一つ言えることがある。
そwれwでw死wんwでwりゃw世w話wねwえwわw
あぁ^~心が愉悦でぴょんぴょんするんじゃぁ^~
これでしばらく、工房長のねちっこい妄言や嫌みも、成果や結果の催促も聞かなくていい生活を送れるんだからな!!!
最高に「ハイ! 」ってやつだアアアアア!!!
ああそうだ。『第28次イリスの
フッフッフッ……、今回の作戦はすごいぞ……!
今までの作戦は、その悉くが失敗に終わったが……、今回はなんか成功する気がしないでもないのだ!根拠は無いけど!
……そういえばここ3日ほど寝てねえな。
まあ工房長失踪の件で忙しかったからだが。……準備は仮眠を取ってからだな。
そんな事を考えていたら、俺の研究室のドアをノックする音が聞こえた。
『ハンス工房長代理、ゲオルグです。アルベリヒ工房長が抱えていた案件についてご報告が』
「入れ」
『失礼します』
そう言いながら、研究室に入ってくるゲオルグ君。
さすがはゲオルグ君。死ぬまでドアのノックすることを覚えなかった、どっかのバカ工房長とはえらい違いだ。
もし履歴書がいる場合は私にいいたまえ。
アピール欄の所に『ゲオルグ君はドアをノックできる素晴らしい人材です』と書いといてあげよう!
そんなことを心の中で考えていると、ゲオルグ君は早速本題を話し始めた。
「二週間後に予定されている、猟兵団《西風の旅団》とのSウェポン取引なのですが……」
「ああ、それがあったな……」
その言葉でゲオルグ君がここを訪ねたおおよその理由を察することが出来た。
《西風の旅団》
トールズ士官学院 VII組 の一員フィー・クラウゼルの養父、《猟兵王》ルトガー・クラウゼル氏が団長を務める、ゼムリア大陸において《赤い星座》と並んで最強の猟兵団との呼び声高い集団である。
作中において、この西風の旅団と黒の工房との間には、どす黒い因縁がある訳だが……それはひとまず置いておくとして。
現状では、黒の工房製の武器であるSウェポンをご贔屓にしてくださるお客様、と言ったところである。
だがSウェポン取引に関して、別に西風の旅団だけがお得意様という訳ではなく、赤い星座とか他の猟兵団にも流しているし、大概は仲介役を通して取引をしている為、直接会うことはあまりないのだが、この件に関してはそういう訳にはいかない。
「かねてより西風の旅団、団長ルトガー・クラウゼル氏より製作を依頼されていた、Sウェポン《バスターグレイブ》の引き渡しの日だったな……」
「ええ、その通りです」
さすがにここまでの大口取引に、いつも通りの仲介役を通しての取引という訳にもいくまい。
普通なら、取引の窓口もしていたアルベリヒ工房長自らが行わなければならない案件であるだろう。
そしてその工房長が不在である以上、最低でもSウェポンの扱いをよく知る黒の工房の誰かが出向かねばなるまい。
……つまりは俺だ。
「まあ、案件が案件なだけに、そのくらいは仕方がない。
西風の旅団とのSウェポン取引については、私が出向くとしよう」
まあ、きっちりと筋は通す西風の旅団だ。
敵対関係であるものにも、戦場で会わなければ飲みに誘うような連中である為、命についてはさほど心配はしていない。
……今の所は、だがな!
そう考えながら、西風の旅団とのSウェポン取引について、ゲオルグ君に了承の意を示したのだが、何故かまだゲオルグ君は出ていかなかった。……どうしたん?
「まだなにか?」
「あの……、今回、西風の旅団の団長より製作を依頼されたSウェポン《バスターグレイブ》なのですが……」
「そういえば、あのSウェポンに関しては、アルベリヒ工房長が直々に製作するとのことだったな」
まあ、依頼者は『赤い星座』に並ぶ、超一流の猟兵団である『西風の旅団』の団長の武器製作の依頼だ。
生半可なモノは出せないという意味でも、Ozの為にその超一流の戦闘データを手に入れるという意味でも、アルベリヒ工房長が担当するのは、至極当然と言えるだろう。
……未来に向けた仕込みの関係もあるしな……。
「で?それがどうかしたのかね?」
「あのー、その……」
随分と言いづらそうに、口ごもるゲオルグ君。
……ははーん。理解したぞ。
製作者が不在な上に、製作に関わっていないSウェポン《バスターグレイブ》の仕様説明がお前に出来るのか、という事を言いたいのかな?ゲオルグ君は。
ハッハッハッ!舐めないでくれたまえ。これでもSウェポン研究者の端くれ。
自身が関わっていなくとも、完成さえしていれば、そこから性能を逆算することも―――
「その《バスターグレイブ》なのですが………まだ完成していません」
………………………………は?
………………………………は?
え?完成していない?二週間後に引き渡し期限の迫ったSウェポンが?
西風の旅団の団長より製作を依頼された《バスターグレイブ》が?
完成していない?
……こ、……こ、こ……こ