俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 たくさんの感想や、誤字修正の報告ありがとうございます!
 てなわけで投稿。 


 注意!この話には仕事をバックレた工房長に対するオリ主の呪詛が、多分に含まれます。


第六話 連勤、徹夜はブラックの華

 アルベリヒ工房長がお得意様である猟兵団《西風の旅団》の団長から注文されたSウェポンを、完成させずに(あの世に)バックレるという衝撃の事実が判明し、すったもんだあって12日後。

 

 黒の工房の人的資源(三名)を全力稼働(連日デスマーチ)させることで、何とか西風の旅団の団長、団長ルトガー・クラウゼル氏より製作を依頼された、幾つもの特殊機構を施した巨大な槍、Sウェポン《バスターグレイブ》が何とか完成した。

 

 身体に満ち満ちている開放感と達成感に浸りながら、俺の研究室の作業台に乗る《バスターグレイブ》を眺める。

 

 ……これを見ても思うが、やっぱ工房長の技術力に関してだけはホントすげえな。

 

 通常、特殊機構や変形機構を組み込めば、それだけ武器本体自体の強度が落ちて脆くなる。

 だから通常、Sウェポンは、客の要望と、特殊機構や変形機構の数、そして武器本体の強度との妥協点を探りながら、設計開発していくものなのだが。

 

 ……武器本体の強度を一切落とすことなく、ルトガー・クラウゼル団長の要望を十全に満たすことの出来る特殊機構や変形機構を破綻させずに、幾つも組み込むなんぞ、人間業じゃねえよ。……人間じゃなかったわ。

 

 本来であれば、これほどのSウェポン、俺如きでは逆立ちしたって作り上げる事は出来なかっただろうが、アルベリヒ工房長が設計自体は終えていたことが幸いし、何とか完成にこぎ着けることができた。

 それでも納品二日前に完成という、滑り込みのような結果になってしまったが……、完成したことは間違いないのだ。良しとすることにしよう。

 

 ……ホント、ゲオルグ君とイリスには感謝の言葉もねえな。

 

 ゲオルグ君は俺と手分けしてSウェポン製作に携わってくれたし、イリスはその他の色々な雑用や雑務、それに食事の用意といった事まで、率先して熟してくれた。

 

 ……というか普通にイリスの食事が美味かった。

 少し前に「何かお役に立てることはありませんか?」とか聞いてきたから、ちょっと料理の仕方を教えただけなんだが……。もはや料理の腕は俺より上なんじゃね?

 

 そんな二人もSウェポンが完成して緊張の糸が切れたのか、連日のデスマーチの反動に抗えず床にひっくり返って爆睡している。一応あいつらの睡眠時間はちゃんと取ってたのだが。

 

 ……というか床で寝るな。風邪ひくだろうが。

 

 とりあえず熟睡中の二人を脇に抱えて研究室内を移動、イリスを研究室に併設された彼女自身の部屋に、ゲオルグ君は……とりあえず研究室内にあるソファーに寝かせて毛布でも掛けてやる。

 

 ……二人ともお疲れさん。

 

 え?お前は寝ないのかだって?

 

 残念ながら《バスターグレイブ》は完成したが、他にも西風の旅団に引き渡す予定の汎用Sウェポンやそれ用の弾薬やらの準備があるからな。納品書作成と合わせて、まだ休むわけにはいかんのだ。

 

 だが、あの子供二人と違って俺は前世でデスマーチに慣れてるからな!

 この程度で揺るぎはせぬよ!

 

 あぁ~睡眠負債が積み上がっていくんじゃぁ~

 

 ……というかここ数日、視界の端で、ちっちゃな工房長とイシュメルガ共がめっちゃいっぱい飛び回って、鬱陶しいのだが……。ぶち殺したろか。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そんなこんなで二週間後。

 

 ついに西風の旅団とのSウェポン取引の日の当日。

 丸一日、睡眠時間に当て、何とか体調を回復することで、腐れ上司共の幻覚を抹殺し、やって来たのは、エレボニア帝国・ラマール州にあるエイボン丘陵。

 なだらかな起伏や小山が何処までも広がる見晴らしの良い場所である。

 ここが西風の旅団とのSウェポン取引場所となる。

  

 一応、他にも取引場所の候補として、歓楽都市ラクウェルや、ガラ湖周遊道などの名前が挙がっていたのだが、ラクウェルに関しては堅気を巻き込むのを嫌う西風の旅団が拒否。

 ガラ湖周遊道に関しては、宿場町ミルサンテが近くにある為に難色を示した。

 

 ……まあ、こちらとしても、ラクウェルはともかくとして、ガラ湖周遊道に関しては、黒の工房の本拠地があるグレイボーン連峰に程近い距離にある為に、見つからないとは分かってはいても、心情的には遠慮したかったので、好都合ではあったのだが。

 

 結果、消去法で周囲に人の住んでいない、魔獣が徘徊しているだけのエイボン丘陵が、黒の工房と西風の旅団との、Sウェポンの取引場所に選ばれたのである。

 そんな中、俺とイリス、そしてSウェポンや弾薬の入ったコンテナや機材を担がせた汎用戦術殻共を引き連れて訪れたのは、エイボン丘陵の東、見晴らしの良い中央部から少し外れた、少し高い丘に囲まれた 奥まった場所にある広場。

 

 ……クッソメタ的な事を言うと試練の箱4があった場所だ。

 

 ここが西風の旅団との集合地点になっている。

 非常に分かりにくい場所ではあるが、西風の旅団にはあらかじめこの地点の座標は伝えているので、迷うことは無いだろう。

 ちなみに、ゲオルグ君には、黒の工房の警備任務という名の休みを与えている。

 今頃爆睡していることだろう。

 

 ……本当であれば、イリスにも休みを与えたかったのだが……、少々彼女にはやってもらうことがあるのだ。スマン。

 

 今現在の時刻は16:00ちょうど。

 西風の旅団との取引時間が19:00を予定していることを考えると、三時間も早い到着となるが……これでいい。

 彼らの歓迎準備の為に、わざと一足早く現地に到着したのだ。

 イリスと共に周辺の魔獣を一掃。

 そして汎用戦術殻共に指示を出し、Sウェポンや弾薬の入ったコンテナの開封作業や、機材の設置、仮設テントの設営準備を始める。

 

 ……別に歓迎準備といっても、ヒャッハーの類ではない。

 

 黒の工房の技術者としての、である。

 

 西風の旅団、団長ルトガー・クラウゼル氏からの依頼品であるSウェポン《バスターグレイブ》。

 工房長が残していた資料から、その形状、そしてその機能はルトガー・クラウゼル氏と幾度も話し合われた内容を元に、アルベリヒ工房長が細心の注意を払いながら図面を引いたことが分かっている為、武器自体の完成度という点については疑う余地はない。

 そして完成後の試験運用についても全項目を良好な数値でクリアしていることからも、製作段階でのミスが無いことも含めて、である。

 だが、それだけでは分からない点もある。

 

 ルトガー・クラウゼル氏が、実際にSウェポン《バスターグレイブ》を使用した際の使い心地だ。

 

 もちろん《バスターグレイブ》の図面を引く際、アルベリヒ工房長が、使用者であるルトガー・クラウゼル氏の体格や体重、さらには左右の肩幅や腕の長さの違いに、全身の筋肉量のバランスまで考慮に入れながら図面を引いている為に、使い心地が悪いとは考えてはいないが。 

 それでも、使って見なければ分からないこともある。

 

 手になじむグリップの付け替えや、使用者の癖を考慮した照準装置の誤差修正、果ては猟兵である使用者が咄嗟に求める、身体的特性や合理性などでは測れない、彼ら特有の『遊び』の部分の調整に至るまで。

 大抵使用者が武器に合わせるような細かな個所を、ルトガー・クラウゼル氏を交えながらこの場で最終調整をすることで、使用者に武器を合わせる。

 そうして初めて、このSウェポン《バスターグレイブ》は、晴れてルトガー・クラウゼル氏の専用武器《バスターグレイブ》となるのである。

 

 ……ちなみに、これと似たような内容の事を、生前の工房長に言ったら鼻で笑われた。クソが。

 

 Sウェポン《バスターグレイブ》の最終調整用のプチ工房ともいえる拠点と、的を配置した試射場の設営が終わり、現在の時刻は18:00。

 

 設営準備自体は、荷物運び兼、作業要員として連れてきた汎用戦術殻共がやってくれた為に楽だった。

 

 ……だからイリス!設営準備自体は、汎用戦術殻共が勝手にやるようプログラミングしてんだから、お前は無理にあいつ等に混じって設営準備を手伝おうとしないでいいんだ!

 

 という事で、設営されたテントの中で晩飯である。

 今回はありがたいことに、イリスが手作り弁当を作ってきてくれた。

 

 ……手作り弁当なんて、何年ぶりだよ、おい。

 転生前はほぼ毎日手作り弁当(社員食堂のおばちゃん製)を(買って)食べてたが……、こっちでは初めてじゃねえの?……いかん涙が。

 

 ……待てイリス!何でもねえ!弁当も美味いし、俺が俯いていたのも別件だから!だからそんな泣きそうな顔すんじゃねえ!

 

 そして、何とか宥めすかしたイリスと共に、食後のティータイムと洒落込む。

 イリスはホットミルクを、俺はホットコーヒーをブラックで。

 しばらくすると周辺警戒に当たっていた小型戦術殻から、何人かの人影がこちらに向かっているとの連絡があった。

 

 その連絡を聞き次第、俺はイリスに目配せすると、彼女はすぐに飲みかけのコップをテーブルにおいてイスから立ち上がり―――

 

 

 「来てください、《フルン=ティング》」

 

 

 その場で彼女が使役する深緑の戦術殻《フルン=ティング》を出現させ――

 

 

 「ステルス=モード起動します」

 

 

 《フルン=ティング》と共にまるで消えるように姿を消した。

 

 今頃イリスは、所定の奇襲ポイントに向かっていることだろう。

 

 これが、この場にイリスを連れてきた理由である。

 西風の旅団がきっちりと筋は通す集団だという事は、原作知識で知っているとはいえ。

 だからと言って、それに無条件で寄りかかれるほどに、俺は強靭な精神を有している訳でもない。

 どうしても万が一のことを考えてしまう。

 それに西風の旅団はその仕事柄、同業者や敵対した勢力や組織から、それ相応の恨みを買っている。

 そしてそんな西風の旅団に恨みを持つ勢力や組織が、西風の旅団が取引するという事を何処からか嗅ぎつけた場合、この取引現場を襲撃しに来ないとは限らないのだ。

 

 ……後、方々の猟兵団にSウェポンを流しまくっている黒の工房が気に入らない奴らも追加で……。

 

 だからこそ、西風の旅団もそういった者たちの襲撃の可能性を考慮して、民間人が巻き込まれる可能性のあるラクウェルやガラ湖周遊道を除外し、最悪襲撃者が現れたとしても、誰にも迷惑の掛からない無人のエイボン丘陵を選んだんだろうが。

 

 そういった事が起こった場合の、俺側の保険がイリスなのだ。

 

 この取引現場を第三勢力が襲撃、又は何らかの理由で西風の旅団との取引が失敗し、最悪敵対することになった場合、所定の奇襲ポイントに先んじて戦術殻の特殊機能、ステルス=モードで潜伏していたイリスが《フルン=ティング》と共に奇襲攻撃を仕掛け、現場を混乱させることで、俺の戦線離脱の支援をしてもらうつもりなのである。

 

 一応、イリスの奇襲攻撃と同時に、作業要員として連れてきた汎用戦術殻共も暴走させる事で、その場の混乱に更なる拍車をかけるつもりでいるのだが……。

 おそらく第三勢力の襲撃者には効いても、西風の旅団には効かんだろな。

 

 ……まあどうせ俺の戦線離脱の支援が失敗するとしたら、それは西風の旅団と敵対した場合に限られるだろう。その時は大人しく諦めて、俺がイリスを奴隷のように扱っているかのように西風の旅団に印象付けさせることで、何とかイリスだけでも助かる方向に持って逝くとしよう。

 

 

 そして現在の時刻は19:00ちょうど。

 予定していた西風の旅団との取引時間である。

 

 つい先ほどの周辺警戒に当たっていた小型戦術殻の連絡通り、俺たちが設営した仮設テントの前に八名の男たちが到着した。

 黒と鼠色の軽装の戦闘服に、全員が同じ部隊の所属であることを示す蒼い鷲(ゼフィール)の紋章。

 そう、彼らこそが―――

 

 

 「ようこそお越しくださいました《西風の旅団》の皆様」

 

 

 ゼムリア大陸において《赤い星座》と並んで最強の猟兵団との呼び声高い《西風の旅団》である。

 

 

 「私、《工房》より此度のSウェポン取引を担当するよう仰せつかりました、ハンスと申します」

 

 

 顔にいつも通りの営業スマイルを引っ付け、全力で西風の旅団の応対を開始する。

 向こうも、まさか《工房》が、自分達とのSウェポン取引にこんなクソガキを派遣してきたことに驚いているらしく、西風の旅団のメンバーからも僅かな困惑の色が見え隠れしていたが―――

 

 

 「……へえ、お前さんが、俺が依頼した武器を含めた(・・・・・・・・・・・・)、取引を担当するって?」

 

 「ええ、そう受け取ってもらって結構です。

 西風の旅団、団長《猟兵王》ルトガー・クラウゼル殿」

 

 

 まるで西風の旅団のメンバーの動揺を鎮めるかのように、前に出てきたのは一人の中年の男性。

 彼こそが猟兵団《西風の旅団》の団長であり《猟兵王》の異名を持つルトガー・クラウゼル殿だ。というか―――

 

 ……オーラがやべえええええええええ!!!

 

 ゲームでは分からなかったが、対峙して分かるオーラというか、カリスマ性!てか器!

 ミジンコみたいな器しか持ち合わせていないアルベリヒ工房長とは、格が違う!

 

 五〇〇〇……いや、六〇〇〇アルベリヒはあるぞ!?

 

 これが戦場を生き抜き、そして《猟兵王》を冠された者の持つオーラなのか……。

 そして、問題はそれだけじゃない。 

 年代から考えて、もしかしたらまだ在籍してんじゃないか、とは思っていたが……。

 

 

 「まさかこんなガキが出てくるとはな。

 団長の新しい武器の見物目当てに、ついて来ただけだったが……。吹かしてんじゃねえだろうな?」

 

 「いえ、正真正銘、私が担当者で間違いありませんよ。《殺人熊(キリングベア)》ガルシア・ロッシ殿」

 

 

 ……よりにもよって、ここに来るのか、檻のくまさん!!!

 

 そこには西風の旅団、団長ルトガー・クラウゼル氏の右腕として、実質的なNo.2の立場を有する《殺人熊(キリングベア)》ガルシア・ロッシがいた。

 

 ガルシア・ロッシ。

 軌跡シリーズをプレイした者にとって、この名前は西風の旅団所属のガルシア・ロッシ部隊長よりも、クロスベル市に拠点を置くマフィア組織・『ルバーチェ商会』の若頭として、『零の軌跡』の主人公チーム『特務支援課』と対立し何度も戦うこととなる、ガルシア・ロッシ若頭のほうが馴染み深いだろう。

 

 零の軌跡では、主人公たちの前に立ちはだかる壁として、主人公相手に暴れまくり、シャブでラリッて主人公相手に暴れまくり、その後の作品では、なんやかんやあって、主人公をボコボコに殴った後、一緒に拘置所で暴れまくり、そのまた続編では、敵対マフィアのトップと一緒に、主人公相手に暴れまくり、あげく町中で暴れまくったりと、やりたい放題するのだが、それは一先ず置いておくとして。 

 

 ガルシア・ロッシは『ルバーチェ商会』の長マルコーニが、先代を追い落とす際に実行部隊として彼の部隊が雇われ、その後、彼の部隊ごと、とある猟兵団から引き抜かれたと作中では語られていたが。

 その引き抜かれた猟兵団こそが、西風の旅団なのである。

 

 だから、引き抜かれた時期を考えれば、彼が未だ西風の旅団に在籍している可能性は十分にあったのだが……。物見遊山で来てんじゃねえよ!?

 

 ……というかこれヤバくね?西風の旅団の隊員が六名もいる時点で尻尾巻いて逃げるレベルなのに、それに加えて《猟兵王》と《殺人熊(キリングベア)》の組み合わせって……もはや万が一にも逃げおおせる気しねえんだけど?

 

 ……しかも《猟兵王》に圧倒されて、今まで気が付かなかったけど《殺人熊(キリングベア)》も中々のオーラ。う~ん、四〇〇〇アルベリヒくらいありそう。

 ちなみに基準として、そこらを歩いている一般人が十アルベリヒくらいである。

 工房長はどうだって? 

 一アルベリヒは一アルベリヒだよ。

 

 

 「まあ、そう言うなガルシア。俺たちの世界(・・・・・・)も年齢なんてものは、何の価値もねえ。

 それは向こう(・・・)もそうなんだろうよ。

 ……大事なのは、テメエの腕だけさ。そうだろ?」

 

 

 などとしょうもないことを考えていたら、俺の事を訝しく思っているガルシア・ロッシ氏を、ルトガー・クラウゼル氏が説き伏せてくれていた。

 その言葉に、何故かガルシア・ロッシ氏はげんなりとした顔をしていたが。

 

 

 「だが……、俺も少し気になることがある。

 お前さんが、今回の取引を担当するのはいいとして……、俺と武器について話し合った《工房》の担当者――グラン・マーグって奴だったんだが……あいつはどうしたんだ?」

 

 

 そう言いながら、ルトガー・クラウゼル氏は俺を見据えながら説明を求める。そこには僅かな矛盾点をも見逃さない鋭い眼光が光っていた。

 

 ……まあ、そうなるわな。

 

 こんな土壇場での急な担当者の変更は誰だって不審に思うものである。ちなみに、グラン・マーグというのはアルベリヒ工房長がいくつか持つ偽名の一つだ。

 一応、工房長も《工房》のトップだとは名乗らず、一技術者としてルトガー・クラウゼル氏と交流していたらしい。

 さて、どうするか……と言っても正直に話すしかないんだがな。

 

 

 「申し訳ございません。グラン・マーグは事故により……」

 

 

 何かをこらえるような表情を顔に浮かべながら、申し訳なさそうにしながら、ルドガー・クラウゼル氏にそう弁明する。

 まあ本当は殺されたんだが、ガバッて殺されたんだから事故死みたいなもんだろ。

 ちなみに俺が、何かをこらえるような表情をしているのは演技ではない。

 こうしないとこらえ切れないのだ、笑いが。

 

 

 「それはまた何とも……、ご愁傷様、と言った方がいいのかね?」

 

 

 おめでとうでいいと思いますよ!

 

 まさかの想定外の訃報の知らせに、ルトガー・クラウゼル氏は気まずそうに頭をガリガリ掻きながらそう言う。

 

 

 「するってえと……、俺が依頼した武器の納品は無理だったっていう話か?」

 

 

 どことなくしょんぼりした雰囲気を漂わせて、そう俺に聞くルトガー・クラウゼル氏。

 

 楽しみにしてたのね……。

 

 

 「いえ、グラン・マーグは生前、設計を完了させていたので、それを元にこちらで完成させました。

 ですので納品に関して問題ありません」

 

 「お!そうかそうか!」

 

 

 そう俺が伝えると、途端に手を叩きながら嬉しそうな声を上げるルトガー・クラウゼル氏。

 

 ……かわいいオッサンだな、おい。

 

 そして俺は、ルトガー・クラウゼル氏を仮設テントの中に案内し、依頼の品である、Sウェポン《バスターグレイブ》を披露、この武器の詳しい仕様説明と整備方法、それに加え、先の最終調整の件を彼に提案した。

 その提案にルトガー・クラウゼル氏は、一瞬驚いたような表情をしたものの、提案自体は快く了承してくれた。

 

 ……さあて、ここからが技術者としての俺の仕事だ。

 

 ルトガー・クラウゼル氏に、実際にSウェポン《バスターグレイブ》を使用してもらい、その時のデータと、彼が感じた使用感を元に、持ち込んだ機材を駆使して、細かな調整を施していく。

 彼も、自身の命を預けることになる武器の事とあってか、真剣そのもので、どんどん要望を出してくれる。

 そして、ガルシア・ロッシを始め、その他の西風の旅団のメンバーは、期せずして団長の新武器の性能披露みたいなことが始まったこの場を、ワイワイ騒ぎながら楽しんでいた。

 

 そして一時間後。

 

 

 「お疲れ様でした。ルトガー・クラウゼル殿。

 お手数をおかけしました」

 

 「いや、随分といい仕事をしてくれたと感謝しているくらいさ」

 

 

 満足のいく最終調整が終わり、最後にルトガー・クラウゼル氏と固い握手を交わした。

 

 

 「それに……、武器の設計をしてくれたグラン・マーグにも、直接礼を言いに行かんとな」

 

 

 そう言いながら、グラン・マーグの墓の場所を教えてくれと頼まれた。

 ……どうせ、工房長なんぞ、そのうち何処かから湧き出てくるんだから、墓参りなんぞせんでいいのに。律儀な人である。 

 とりあえず、この間、工房長の死体を埋めた墓の場所を教えておくか。……後で銘を掘っておこう。

 最終調整が終わったことを察したのか、さっきまで見物していた、西風の旅団の団員がゾロゾロと近づいてくる。

 

 ……ああ、そうだ。まだ終わってないんだった。

 

 その後彼らに、今回一緒に何本か引き渡す予定だった汎用Sウェポンの簡単な説明と、弾薬の詰まったコンテナの中身を、ざっとではあるが確認してもらい、納品書と共に渡す。

 こちらの汎用Sウェポンらに関しては、最終調整をする気はない。

 いや、この汎用Sウェポンらは団の備品として、不特定多数の団員が使うことになるらしいので、特定個人に合わせた調整をする必要がないというべきか。

 そして彼らは、汎用Sウェポンを収めたケースと、弾薬の詰まったコンテナを次々と担いでいく。

 

 ……《バスターグレイブ》ほどじゃないにせよ、汎用Sウェポンもそれなりの重量があるし、コンテナなんてかなりの重さがあったんだが……運び慣れてんなー。

 

 それを見届け、今度こそ終わった、と内心溜息をついていると、汎用Sウェポンを収めたケースを持ったガルシア・ロッシ氏が声をかけてきた。

 

 

 

 「……武器の調整を見てたが、いい腕だった。

 さっきは、疑って悪かったな」

 

 

 そう一言俺に言うと、彼は他の団員の元へさっさと行ってしまった。

 これは一番最初の、俺が《工房》担当者であることを疑ったことに対する謝罪なんだろうが。

 

 ……別にそこまで気にしなくてもいいのに。またまた律儀な人である。

 むしろ、自分とこの社長ともいえる立場の人間が依頼した取引に、こんな高校生くらいのクソガキを向こうが担当者として出してきて、怒鳴り散らさないだけ温情と言えるだろう。

 むしろ電凸や、相手の会社へ乗り込むまである。

 

 そんなこんなで、この場はお開きとなり、西風の旅団の各々が素早く撤収作業を行っている頃。

 葉巻を吸いながら、随分とご機嫌なルトガー・クラウゼル氏が話しかけてきた。

 お!この匂い……、いい葉巻吸ってんなー。

 

 「ハンスと言ったか?

 急な担当変更で、さぞかし大変だったろうに……。今日は助かったよ」

 

 「いえ、お役に立てて光栄です」

 

 

 何とか西風の旅団との取引が終わりを向かえたことで、若干気が緩みながらも、ルトガー・クラウゼル氏と話をしていたのだが―――

 

 

 「それに……そっちの嬢ちゃんも(・・・・・・・・・)

 随分と長引かせてしまって済まないな」

 

 

 一番高い丘の上―――イリスが潜伏している(・・・・・・・・・・)場所(・・)に視線を向けながら話す、ルトガー・クラウゼル氏に背筋が凍り付いた。

 カマかけや、ブラフなどではない。

 彼は、確実にそこにイリスがいることを確信しながら話している。

 

 

 「な、ぜ……、分かったので?」

 

 

 いつも通りの営業スマイルは、おそらく顔に張り付いたままの為、表情からは俺の内心を悟られてはいないだろうが、若干震えの入った声は誤魔化せなかった。

 

 ……一体どうやってイリスの隠れ場所を割り出したんだ!?

 いや、それ以前に何故俺がイリスを伏せていることが分かった!?

 

 大混乱し、思考が空回りをしている俺を見て、ルトガー・クラウゼル氏はカラカラと軽快な笑い声を上げた。

 

 「いざって時のことを考えて、伏兵を潜ませておくっていう考えは悪くねえ。

 だが……、潜ませておくならその痕跡は残しちゃいけねぇな(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 そう言いながら、彼が指をさしたのは、テーブルの端。

 そこにはイリスと共に、食後のティータイムに使った飲みかけのコップが二つ並んでいた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「あ………」

 

 

 担当者が一人しかいないにもかかわらず(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、コップが二つ。

 しかも俺もイリスも暖かいものを飲んでいた為、彼らが来た時には、まだ湯気が漂っていたことだろう。

 ということは、飲み物を飲んでいた片方は、飲み物が温かいうち―――つまりは彼らが来る直前で何処かに消えたという事になる。

 何のために、というのは考えるまでもない。

 なんてことはない。俺がイリスを伏兵として伏せていることを、ルトガー・クラウゼル氏に見抜かれたのは、単純にこちらがポカをやらかしただけだったのだ。

 だが、まだ腑に落ちない点もある。

 

 

 「……参考までに、どうやって彼女を見つけたのか聞いても?」

 

 

 ここは少し高い丘に囲まれた 奥まった場所にある広場。

 奇襲する箇所は幾つもある。

 それにイリスは戦術殻《フルン=ティング》の特殊機能、ステルス=モードの力を借りて潜伏していた。

 これは、原作の数年前だからなのか、作中でアルティナの戦術殻《クラウ=ソラス》が見せたステルスモードよりは性能は劣るものの、それでも動かなければ余程のことがない限り見つかることは無い。

 しかも時間は夜。雲の合間から月明かりが出ているとはいえ、この暗闇の中、複数の奇襲ポイントからステルス=モードの力を借りて潜伏するイリスを見つけるなど不可能である……はずだったのだが。

 

 そのことをルトガー・クラウゼル氏に聞けば、あっさりと教えてくれた。

 彼曰く、先の件で伏兵が一人であることは、分かっていた。

 そして、数で劣る伏兵側が数で勝る者たちを奇襲しようと画策した場合、意識的に選ばない限り、その地点で一番奇襲した時の効果を見込める場所を、無意識のうちに選んでしまう。

 

 そのことを踏まえ、一番奇襲した時の効果が見込めそうな一番高い丘の上を、つぶさに観察していた際に微かに見えたのだそうだ。

 暗闇と月明かりのコントラストに混じって見える少女の輪郭を。

 

 ……これはあれか。最初のポカを手掛かりに、ルトガー・クラウゼル氏の卓越した戦術眼によって、こちらの手の内を丸裸にされた感じか。

 

 ……というか、ルトガー・クラウゼル氏が、丘の上を観察してたの全く気付かなかったわ。

 

 そして最後のはおそらく、暗闇と月明かりとがランダムに移り変わる周辺環境の変化に、《フルン=ティング》の特殊機能のステルス=モード……正確には周辺の景色と同化しているように見せる、光学迷彩の演算処理が追い付かなくなったんだな。だから、コントラストに混じってイリスの輪郭が浮かび上がってしまったのだ。

 

 ……フッ、俺のポカとガバのオンパレードじゃねえか!!! 

 

 

 「……完敗です」

 

 

 ガックリと項垂れ白旗を上げる俺を見て、豪快な笑い声を上げるルトガー・クラウゼル氏。

 

 屋内ばかりでなく、屋外でもステルス=モードの性能実験をしておくべきだったか。

 後あれだな、器が大きいと得だな。笑われてるのに全然嫌味な感じがねえんだもん。 

 ……もうついでだ。今後の事も考えてイリスの事も紹介しちまえ。

 

 

 「来い、イリス」

 

 「はい」

 

 

 俺の掛け声と共に、ステルス=モードを解除し、結構な高さのある丘から躊躇なく飛び降りるイリス。

 そして、ふわりと地面に着地すると、西風の旅団のメンバーを警戒しながら、すぐさま俺の傍へと駆け寄ってきた。

 突如として、何もない空間から現れたように見えるイリスに、西風の旅団の何人かは驚いた様子だったが。

 ガルシア・ロッシ氏と、後二人くらいの団員はイリスの存在に気が付いていたようだった。

 

 ……八名の内、四名に察知されてた時点で奇襲攻撃の失敗は確実だったな。

 

 

 「コレ(・・)はイリス。今回の取引に際して手配したこちら側の協力者です」

 

 「………………イリスです」

 

 

 とりあえず今後の布石を打つべく、俺がイリスを道具のように扱っているかのように西風の旅団に印象付けさせつつ、イリスに挨拶するように促してみたのだが、当のイリスは随分と西風の旅団を警戒している様子。

 そんなイリスに団長を始め、西風の旅団のメンバーが苦笑いを浮かべていた。

 

 ……というかイリス!無駄に西風の旅団に威嚇するんじゃねえ!お前じゃ勝てねえから!俺も勝てねえけど!

 

 そう思い、まるで小型犬のような威嚇を連想させるイリスの首根っこを掴んで、ズルズルと俺の後ろに持っていく。

 

 ……ん?何故か生暖かい視線が。

 

 その後少し会話した後、ルトガー・クラウゼル氏率いる西風の旅団と円満に別れ、ついにこの場所に静寂が訪れた。

 

 

 「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 思わず自分の口から、大きなため息が出てしまった。

  

 ……何とか無事に終わったぁぁぁぁぁぁっぁ!!!

 

 アルベリヒ工房長がお得意様である猟兵団《西風の旅団》の団長ルトガー・クラウゼル氏から注文されたSウェポン《バスターグレイブ》を、完成させずに(あの世に)バックレるという、トンでも事件から端を発した今回の騒動。

 それにようやく終止符が打てたことで、俺の中には確かな達成感と充足感があった。

 それに満たされながら周囲を見渡せば、こちらを見ながら顔を青くするイリスの姿が。

 

 ……ああ、忘れてた。

 

 多分イリスの中では今回の任務は自分のせいで失敗したと考えているのだろう。

 ほぼ俺の失態だったんだがな……。

 

 アルベリヒ工房長の無自覚な言葉の暴力により、Ozとしての存在を全否定され、心とメンタルをボキボキにへし折られているせいか、イリスの自己肯定感はヤバいくらいに低い。

 故に、自分のせいで任務や仕事が失敗したと感じてしまうと、このように情緒不安定になるのだ。

 おそらくだが、イリスが少しでも多くの仕事や業務を手伝い、役に立とうとするのも、自己肯定感の低さが原因だろう。

 イリスが「自分のこと」が認められない為に、『道具』として他者に認めてもらう事で、自身の価値を認識しようとしているのだ。

  

 ……あのやべぇ存在意義(レーゾンデートル)も何とか方向修正をしないといかんが、この自己肯定感の低さも改善してやらんといかんぞ。

 

 ……いっそのこと、クロスベルの聖ウルスラ医科大学に入院でもさせるか? 

 あそこには、聖女ウルスラの生まれ変わりもいるし、メンタル面にも精通している七曜協会の神父も巡回に来るし、何とか……いや、工房長が許さねえか。

 というかそれ以前に、あそこはそのうち、劣化ワイスマンこと、釣りキチ教授の巣窟になんじゃねえか!……この世界に安息の地は無いのか。

 

 ……まあ、この問題は今は一先ず置いておくとして。

 

 

 「命令だイリス。撤収準備を始めろ」

 

 「ッ!!はい、ハンス工房長代理」

 

 

 とりあえず命令をすることで情緒不安定のイリスを何とか動けるようにし、ついでに汎用戦術殻共にこの仮拠点の片づけを命ずる。

 

 こんな状況で、いいアイデアなんぞ思い浮かぶかッ!!

 撤収だ、撤収!!

 イリスにはスマンが、俺はもう帰って休みたいんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「いやぁ、それにしても、さっきの《工房》の小僧。

 若えのに技術者として、いい腕をしてたな。

 ……見た感じ、戦闘の方も十分熟せるようだ」

 

 「まあ戦術面では、少々詰めが甘かったがな」

 

 「それに……、あの嬢ちゃんを見る限り《情》の方も中々に厚そうだ。

 これは、機会があれば誘って(・・・)みてもいいかもしれねぇな?」

 

 「……でたよ、いつもの悪癖が。

 こんなクソみてえな掃き溜めに、ガキを引きずり込もうとしやがって、この悪党が」

 

 「ハハッ、それに関しては、言い訳しようもないが……。

 ……どんな時だって、その方が救いになる(・・・・・)連中もいるものさ」

 

 「?あのガキがか?そう見えなかったが……」 

 

 「いやぁ、あの内面は随分と愉快な(・・・)事になってると思うぜ?

 ……まぁ、あの小僧とは長い付き合いになる気がするからな。 

 気長に誘っていくとするさ」

 

 「長い付き合い、か。またいつもの勘か?」

 

 「ああ、俺の勘だ」

 

 

 

 

 

 

 




 イシュメルガ「!」

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