俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 ずっとル《ド》ガー・クラウゼルだと思ってた(´・ω・`)
 指摘・訂正してくださった方、ありがとうございます!
 後半年ほど時間が進みます



第七話 担当者不在は言い訳

 

 アルベリヒ工房長が魔女の眷属(へクセンブリード)の巡回魔女――イソラ・ミルスティンに相討ちとなる形で殺害され、そして俺がハンス工房長代理として黒の工房の指揮を執る事になった――直後、あのクソ野郎がお得意様である猟兵団《西風の旅団》の団長ルトガー・クラウゼル氏から注文されたSウェポン《バスターグレイブ》を、完成させていなかったことが発覚するというトンでも事件が終わって。

 

工房長の殺害からしばらく、実行犯が何のアクションも示さない(単独犯だし相討ちになったので当たり前だが)ことから、実行犯の黒の工房本拠地への襲撃に備えるという名目で発令していた非常事態宣言を解除し、警戒体制から平時体制へと順次移行され、黒の工房にいつも通りの日常が戻り始めた今現在。

 

 黒の工房には、穏やかで平和な時間が流れていた。

 

 理由は単純明快、主であるイシュメルガの宿願を成就させる為なら、どんな非情な手段をとることも厭わない忠犬系ブラック上司のアルベリヒ工房長がくたばったからである。

 常に価値のある成果や結果を要求し続け、部下を締め上げるクソ上司が、一時的にでも消滅したことは、黒の工房のメンバーの精神衛生に非常に良い結果を齎した。

 

 イリスは、心とメンタルをボキボキに折られて半ばトラウマの象徴となりかけているアルベリヒ工房長と接することがなくなった為に、体調不良(トイレに駆け込んでマーライオン)が無くなったし、ゲオルグ君も、一時的な食材の過剰なまでの発注量が激減していることから察するに、おそらくストレスから来ていたであろう暴飲暴食の回数も減っているのだろう。

 かく言う俺も、技術関連以外、工房長の話をまともに聞いてなかったとはいえ、鬱陶しい雑音が聞こえてこないという素晴らしい環境のおかげで研究が捗ること捗ること。

 

 工房長、そのまま死んでてくんねえかな。

 

 最近はいっそ黒の工房から白の工房に改名してやろうか、などと考えながら、猟兵団と仲介役を通してのSウェポン取引や黒の工房の運営をしつつ、Sウェポンという名の戦闘用マニピュレーター『パワードアーム』の発展版、『パワードアーマー』の研究開発に勤しんだり、『第36次イリスの存在意義(レーゾンデートル)方向修正作戦』の準備に費やしたりしている。

 

 え?作戦数がやたら増えているし、そもそも無駄に自信のあった第28次の方はどうしたんだって? 

 ……覚えてねえな、そんな事。

 

 

 そんな穏やかな時間がゆるやかに過ぎていき、年が変わり七耀暦1196年もしばらくして。

 平和な日常は唐突に終わりを告げた。

 

 黒の工房宛に俺たち……というか俺を絶望の淵に叩き落す、非常に厄介なSウェポンの注文依頼が来てしまったのだ。

 

 依頼人は西風の旅団。

 

 何でも少し前、西風の旅団に入団し、瞬く間に頭角を現して来た大型ルーキーに、専用のSウェポンを用意してやりたいとのことだった。

 

 この時期に西風の旅団に入団してくる団員で、大型ルーキーと呼ばれるほどに実力のある人物と言えば、のちに西風の旅団の連隊長を務め、そして作中において主人公の属するVII組の前には幾度となく立ちはだかった《罠使い(トラップマスター)》ゼノか、《破壊獣(ベヒモス)》レオニダスのどちらかだ。

 そしてこの前、西風の旅団に喧嘩を売った組織が全滅したという噂を情報屋から仕入れたので、十中八九ゼノの方で間違いない。

 ちなみにこのゼノ、喧嘩を売った組織に所属するヒットマンとして、ルトガー・クラウゼル氏を殺害しようと試みるものの軽く撃退されたあげく飲みに誘われ、暗殺失敗により組織から追われることになるが、その組織をルトガー・クラウゼル氏が全滅させてしまい、結果西風の旅団に入ったという、トンでもねえ経歴の持ち主である。

 

 とはいっても、元は組織に所属するヒットマン。

 便宜上ルーキーとして扱ってはいるものの、実力の面では既に十二分にあり、忠誠心の方についても、命を助けられる形となったルトガー・クラウゼル氏の事を、親のように慕っている為に問題もない。

 そんな今後の活躍を期待できる彼に、西風の旅団が専用のSウェポンを用意してやりたいというのも十分理解できる話ではあるし、本来であれば何の問題もないのだが……。

 

 今はタイミングが非常に悪かった。

 何故なら、今の黒の工房に、専用Sウェポン注文依頼に応えることの出来る人物――アルベリヒ工房長がいないからである。

 

 

 Sウェポンは大まかに二つに分けられる。

 一つ目は汎用Sウェポン。

 専ら俺が研究開発を担当しているのだが、様々な猟兵団に流れているほぼ全てのSウェポンは、この汎用Sウェポンだ。

 汎用Sウェポンのコンセプトは『廉価品』。

 『誰が使っても一定の性能を発揮する』という点を重きに置き、戦闘経験の浅い者でも扱いやすく、猟兵団として数を揃える必要があることを考えて、比較的安価になるように量産しやすい設計を心掛けている。

 もちろん様々な戦闘スタイルに対応できるよう遠・近共に多種多様な種類の汎用Sウェポンを取り揃えているし、カスタマイズも対応しているが、それでも汎用Sウェポンのコンセプトである『廉価品』という軛から抜け出ることは無い。

 

 もう一つは専用Sウェポン。

 そのコンセプトは『特注品』。

『特定個人が使った場合に最大限の性能を発揮する』という点を重きに置き、対象者が武器に望む性能を極限まで追求し一から作り上げる、完全オーダーメイド品。

 この間のルトガー・クラウゼル氏の為に作り上げられた《バスターグレイブ》がそれに当たる。

 

 まあ、様々な猟兵団に流れているほぼ全てのSウェポンは、この汎用Sウェポンであると言った通り、こちらの注文は滅多にない。

 大体の猟兵は、『廉価品』とはいえ、《工房》の技術で作られているがゆえに十分な性能を誇る汎用Sウェポンで不足はないからだ。

 それに下世話な話だが……、『特注品』の為に、専用Sウェポンは非常に高い。

 比較的安価になるよう設計しているにもかかわらず、下っ端猟兵団では手が出せない汎用Sウェポンよりも遥かに。

 だからこそ、専用Sウェポンの注文依頼を出すものは、『廉価品』の汎用Sウェポンでは不足なほどに戦闘技量が高く、かつ注文できるだけの資金を持つ者――優れた猟兵団を率いるトップやそれに類する者などの、ごく少数の戦巧者に限られているのだ。

 

 ……まあ、見栄で持ちたがる者も居ない訳ではないが。

 

 そういった事情もあり、どちらが担当するかは決めていない(・・・・・・・・・・・・・・・・)ものの、生半可なモノは出せないという意味でも、Ozの為に汎用Sウェポンでは不足が出るほどの一流の戦闘データを手に入れるという意味でも、今までの専用Sウェポン注文依頼は全てアルベリヒ工房長が受けていたのだ。

 

 ……それに、そういう戦巧者が満足するような専用Sウェポンを、製作できるほどの技術力を有しているのが、アルベリヒ工房長だけだという理由もある。

 

 使用者の要望を全て叶えるような特殊機構や変形機構を組み込みながらも、武器本体の強度の低下を極限まで抑えるのは勿論のこと、使用者の体格や体重、左右の肩幅や腕の長さの違いに、全身の筋肉量のバランスまで考慮に入れながら設計する。

 誰が使っても同じ性能を発揮することを主眼に置く汎用Sウェポンとは違う。

 特定個人のみを対象に絞り、その者が使った場合においてのみ最大限の性能を発揮することを目的とした、ワンオフ武器。

 それが専用Sウェポンだ。

 

 はっきり言って今の俺に、アルベリヒ工房長ほどの専用Sウェポンを作れる技術力はない。

 専用Sウェポン自体は、俺の『アサルトソード』や、イリスの『オーバルレイピア』と『マシンガンダガ―』など、いくつか手掛けている為、作れないことは無いのだが……。

 それでもアルベリヒ工房長が作り上げる専用Sウェポンの性能には遠く及ばないのは確実である。

 

 人間性はダニ以下だが、技術力だけはあるのだ。工房長は。(なおシュミット)

 

 そのような半端者が作った専用Sウェポン、技術検証としてや身内で使うならばともかく、世間に出すわけにもいくまい。

 そのことを考えれば、西風の旅団の専用のSウェポン注文依頼に対し、担当者不在という事で断るのが普通(・・)なのだが。

 

 ……非常に、非・常~に残念ながら、黒の工房は普通ではない。

 

 もしこの注文依頼を断り、後々復活したアルベリヒ工房長がその事を知った場合、アルベリヒ工房長の不興を買うおそれがあるのだ。

 

 ……いや、おそれとかではなく、確実に不興を買う。

 

 その理由は簡単。

 そもそも黒の工房がSウェポン製作を手掛けるのは、『Ozシリーズ』の更なるブラッシュアップの為だけであるからだ。

 必要なのは超一流の猟兵たちの戦闘データ。

 汎用Sウェポンなど、Sウェポンの評価、評判を上げ、専用Sウェポンを欲しがる戦巧者を釣り上げるための撒き餌(ブランド)でしかない。

 極論を言ってしまえば、『Ozシリーズ』――《巨イナル一》再錬成の儀式、《巨イナル黄昏》成就の核となる、不死の黒の聖獣を殺すことの出来る《根源たる虚無の剣》が完成さえしてしまえば、今すぐにでも全てのSウェポン製造を放棄してしまっても構わないのだ。

 にもかかわらず、本命であるはずの専用Sウェポン注文依頼を、担当者不在という理由で蹴ればどうなるか……ロクでもない結果になるのは違いない。

 

 クソァ!藪蛇になると思って、専用Sウェポンの担当者を明確に決めてなかったのが裏目った!!

 それに専用Sウェポンを作れないという訳ではないから、製作不可でゴリ押すこともできねえし!!

 

 もしこの専用Sウェポン注文依頼を断って、工房長にバレでもすれば、成果や結果を示せなかったとして大減点は確実。

 何せ『Ozシリーズ』の完成度に直結する案件である。

 それを考えれば、イエローカードを出されるレベルの失態だ。

 レッドカード(この世から)退場に限りなく近づいてしまう。

 

 その時点で俺には受けないという選択肢は存在しない。

 

 幸い先の騒動で、アルベリヒ工房長が引いた設計図面を元に、ルトガー・クラウゼル氏専用Sウェポン《バスターグレイブ》を製作、完成させたことで以前よりも理解度が深まり、より完成度の上がった専用Sウェポンを作れるとは思うが。

 それでも俺一人では、アルベリヒ工房長が作り上げる専用Sウェポンの性能には及ばないのは確実である。

 

 ……最近助手としてモノになり始めたイリスと、後工房長代理の権限を行使して、ゲオルグ君を徴発して……それに原作知識でゼノの専用Sウェポンの造形を把握していることも考慮に入れれば……何とか食らいつけるか?

 

 ちなみに専用Sウェポン自体は作れるにもかかわらず、何でこんなに必死に完成度を上げようとしているのかというと。

 技術者として云々では……無い訳ではないが、完成度の低い専用Sウェポンを流してしまうと、『Ozシリーズ』が完成していないにもかかわらず、戦巧者を釣り上げるためのブランド(撒き餌)であるSウェポンの名に泥を塗ったとして、それはそれでアルベリヒ工房長の不興を買いかねないからだ。というか絶対買う。クソが。

 

 ……というか何で俺がここまで頭を悩ませねばならんのだ。

 そもそもあの工房長が生きてりゃこんなことにはならなかったのだ。

 死ぬなとは絶対言わんから、もうちょっとタイミングを見計らって死ね。

 それか今すぐ生き返って専用Sウェポン作ったら、速やかに死ね。

 というか、そもそも生き返ってくんじゃねえ。

 

 生きてても死んでても祟って来やがる腐れ上司を脳内で虐殺しつつ、兎にも角にも依頼人である西風の旅団に会おうという事で返信の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 専用Sウェポンの依頼人である西風の旅団に連絡して、実際に会う日までの一週間の猶予。

 

 俺はその時間を、黒の工房のメンバーに専用Sウェポン注文依頼を受けることになるかもしれないと伝えて、者共を絶望の淵に蹴落としつつ、アルベリヒ工房長が残した過去の専用Sウェポン資料を総浚いし、片端から頭に叩き込むことに費やしていた。

 

 そして西風の旅団との面会当日。

 

 俺は助手としてイリスを連れて、西風の旅団に指定された場所、ノルティア州の北部のアイゼンガルド連峰に向かっていた。

 アイゼンガルド連峰は無駄に標高の高く、周囲に何もない不毛地帯。

 何でこんな場所を西風の旅団が指定したかというと、今ここで西風の旅団が数日間に亘って、キャンプを張っての軍事訓練をしているらしいからだ。

 何でも大陸中東部で大口の仕事が控えているらしく、それに向けての軍事訓練という事だそうだ。

 

 ……まあこんな辺鄙な場所なんぞ、訪れる者など滅多にいないし、訓練でどれだけ暴れまくろうが迷惑が掛からんだろうからな。軍事訓練には最適だろう。

 

 とりあえず始発の列車に乗り込んでノルティア州へと入り、ケーブルカーを乗り継いで、アイゼンガルド連峰の麓にある温泉郷――ユミルまで到着。

 本来ならば、主人公の故郷であるユミルの観光や、万病に効くとされている温泉に浸かったりしたい所ではあるが、今は仕事で来ているのでそんな時間はない。

 ユミルの宿酒場《木霊亭》で遅めの昼食を取りつつ、そのまま郷を抜ける。

 ここから大体四時間、西風の旅団のキャンプ地がある地点まで、荷物を背負いながら春先で雪の残るアイゼンガルド連峰の険しい山道をひたすら歩き続けるのだ。

 最初の一時間程度はイリスも付いてこれてはいたものの、二時間過ぎた辺りから大分足元が覚束無くなってきていたので、彼女の使役する戦術殻《フルン=ティング》に乗るように《命令》を出した。

 

 ……だから山登りはキツイから、最初から《フルン=ティング》に乗っとけって言ったのに「私は身体能力だけが取り柄なので」とか言って見栄を張りやがって。まあ何事も経験だろう。

 

 何でお前は疲れてねえのだって?

 フッフッフッ!よくぞ聞いてくれました!俺がこのアイゼンガルド連峰の険しい山道でも全く疲れないのは、つい先日完成し、実際今身に着けている戦闘用マニピュレーター『パワードアーム』の発展版――戦闘用強化外骨格『パワードアーマー』のおかげなのだ!

 この『パワードアーマー』には、使用者の動作を補助するパワーアシスト機能が搭載されており、その機能を使えば、こんな険しい山道での長距離移動なぞ、何の苦もなくスムーズに―――

 え?自分の足で歩こうと思わないのだって?

 何でそんなシンドいことをしなきゃなんねえの?

 

 イリスが《フルン=ティング》に乗ったことを確認し、再度行軍開始。

 森林限界の為、草木の一本も生えてねえ石と岩と雪少々な、クッソ殺風景な景色をガン無視し、『パワードアーマー』の制御を俺が使役する戦術殻に丸投げすることで全自動で歩行しつつ、楽してひたすら目的地を目指す。

 

 そして周囲が暗くなり始めたちょうどその頃、ようやく山の向こうに西風の旅団のキャンプ地と思しき光景が見えてきた。

 とりあえず体力を回復したイリスに《フルン=ティング》を仕舞うよう指示を出し、最後のキャンプ地までの距離を歩く。

 その途中、西風の旅団の哨戒兵の二人組に出くわしたが、ちゃんと話は通っていたらしく、しかも片方がこの間の西風の旅団とのSウェポン取引の日に同行していた団員だったので、スムーズに話が通った。

 おまけに、その団員がルトガー・クラウゼル団長の元まで案内してくれるというのだから至れり尽くせりである。

 そして、その親切な哨戒兵の案内の元、ついに俺とイリスは西風の旅団のキャンプ地へと足を踏み入れた。

 そこはもはや小さな町と言ってもいいだろう。

 アイゼンガルド連峰の中腹辺りにある平地に築かれたキャンプ地は、ちょうど夕飯時だったのか、食事の匂いが漂い、軍事訓練で疲れた団員たちが騒ぎながら腹を満たしていた。

 

 ……おおう、やっぱすげえ光景だな。

 

 二百名を超える戦闘要員を抱えている西風の旅団である。

 しかも今回の軍事訓練にはほぼ全ての団員が参加しているというのだから、そのキャンプ地の光景だけでも十分圧倒されるというものだ

 

 すると何かに服が引っ張られる感覚が。

 チラリとその方向を見ると、イリスが俺の服の裾をおそらく無意識に掴んでいた。

 その顔は少し青い顔をしており、腰が若干引けている。

 

 ……これはあれか、ここまで大勢の人を見るのは初めてだから、圧倒され過ぎて恐怖を覚えてんのか。

 

 まあそもそも、今の今までイリスの人間関係は俺、ゲオルグ君、アルベリヒ工房長という非常に狭い範囲で完結していたのだから当然のことではあるが。

 

 ……というかイリスの人間関係に一匹、人間じゃねえ悪霊が混ざってるし、そもそもまともな奴がゲオルグ君しかいねえじゃねえか。

 これは人間関係もどうにかせんといかんぞ……。

 

 とりあえず、こんな所ではぐれては探すのが面倒なのでイリスの手を掴んでおく。

 

 ……おう親切な哨戒兵さん。案内してくれんのはありがてえが、その生暖かい視線止めえや。

 

 さらに親切になった哨戒兵に案内されて着いたのは、一際大きいテント。

 そこに案内されて中に入ると、司令部として活用されているのか、ズラリと並んだ机に書類が山ほど積み上げられ、その中で何名かの団員がテキパキと手際よく書類の決裁をしていた。

 その中で――

 

 

 「おお若えの!久しぶりだなぁ!それにそっちの嬢ちゃんも!」

 

 

 そしてその中央の机に座っていた一人の中年男性は俺とイリスを見るなり、立ち上がって気さくにこちらに歩いてくる。

 

 

 「ええ、半年ぶりでしょうか。お久しぶりです。ルトガー・クラウゼル殿」

 

 「…………お久しぶり…です」

 

 

 俺はいつも通りの営業スマイルを浮かべて、目の前の依頼人に挨拶をする。

 それに続いて、俺の真似をするようにたどたどしく挨拶をするイリス。

 そして俺は西風の旅団、団長《猟兵王》――ルトガー・クラウゼル氏と握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「いやぁ、こんなところまで来てもらって済まねぇな」

 

 「いえ問題ありません。……元々こちら側が無理を言って押し掛けたので」

 

 

 ルトガー・クラウゼル氏は、アイゼンガルド連峰のような場所に呼び出してしまう事になって申し訳なさそうにしていたが。

 そもそも西風の旅団は専用Sウェポン注文自体は、大陸中東部で大口の仕事が終わってからでいいと言ってくれていたのに、こちら側が話したいことがあると言って、無理に予定を合わせてもらったのだ。

 むしろ大事な軍事訓練の最中に押し掛けてきたこちら側が謝らなければならないくらいである。

 

 

 「それで?専用Sウェポン注文の依頼について、どうしても話したいことがあるとの事だったが……」

 

 

 挨拶もそこそこに、ルトガー・クラウゼル氏は早速本題を切り出す。

 そして俺もスイッチを切り替えるように背筋を伸ばし、気合を入れる。

 

 ……今回の注文依頼に端を発した《工房》内の複雑な事情。

 色々と考えた結果、此間の西風の旅団とのSウェポン取引である程度の事情を知っている彼らには、重要な事柄を除いて素直に話すことにした。

 

 元々Sウェポン製造は、俺が汎用Sウェポンを、グラン・マーグ(アルベリヒ工房長の偽名)が専用Sウェポンを担当する形で回していた事。

 

 グラン・マーグが事故で亡くなった為、俺が専用Sウェポン製造も担当する事になったが、俺の技術者としての腕はグラン・マーグに劣っており、彼が作り出していた専用Sウェポンよりは完成度が劣ってしまうだろうという事。

 

 それでも専用Sウェポン注文を担当させてほしい事をルトガー・クラウゼル氏に伝えた。

 

 最後に、もし俺が作った専用Sウェポンの性能が気に入らないようであれば、全額代金を返金するという言葉も忘れずに。

 

 ……別に最後のは西風の旅団の為という訳ではない。

 質の悪い専用Sウェポンを流通させ、Sウェポンのブランドに泥を塗ったとして、アルベリヒ工房長の不興を買わないようにする為もあるし……これでほんの僅かにでも戦闘データが手に入れば、成果や結果を示せなかったとして減点は諦めるとしても、せめて大減点は回避できねえかな~などと考えたりしているのだ。

 

 ルトガー・クラウゼル氏は俺が話す内容を黙って聞いてくれていた。

 ……流石に俺が汎用Sウェポン製造を担当していたという事には驚いていたが。

 

 そして俺が全てを話し終わると、突然ルトガー・クラウゼル氏は楽しそうに笑い出した。

 

 

 「いいねぇ……若いっていうのは。

 おっし!西風の旅団の専用のSウェポンの注文依頼。ハンス(・・・)!お前さんに任せた!存分にやってくれ!」

 

 「ッ!ありがとうございます」

 

 

 ……まあ、名前を呼ばれたという事は、そういう事なのだろう。

 

 もはや、あの腐れ上司なんぞ関係ない。

 一技術者として、必ずや西風の旅団の専用のSウェポンの注文依頼を、依頼人が望む最上の形で完遂せねばなるまい。それが流儀というものだ。

 非常に機嫌が良さそうなルトガー・クラウゼル氏を見ながら、俺はそう決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「そうと決まれば、早速顔合わせといくかね。おい誰か、ゼノの奴を呼んできてくれ!」

 

 

 俺に、西風の旅団の専用のSウェポンの注文依頼を任せてくれた、ルトガー・クラウゼル氏は、早速とばかりにテントの入り口近くにいた先ほどの親切な哨戒兵さんに声をかけ、誰かを呼びに行くように伝えた。

 

 やっぱり、西風の旅団に入団し、瞬く間に頭角を現して来た大型ルーキーというのは、ゼノで間違いなかったか。となると専用Sウェポンは《ブレードライフル》という事になるな。

 ……後、親切な哨戒兵さん。わざわざここまで案内してくれたのにまた動いてもらって、すんません……。

 

 しばらくのち、親切な哨戒兵さんが一人の男を連れて戻ってきた。

 サングラスをかけた飄々とした長身の男。この男こそが―――

 

 

 「ボンか。俺専用のSウェポンを作ってくれるんは」

 

 「ハンスと申します、こちらは助手のイリスです」

 

 「おお、これはご丁寧に。西風の旅団のゼノやよろしゅうな、お二人さん」

 

 

 のちに《親馬鹿》…じゃなかった《罠使い(トラップマスター)》の異名を轟かせ、西風の旅団の連隊長を務める事になるゼノだ。……相方はまだ居ないようだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ゼノと簡単な挨拶を済ませた後、今日この場はお開きとなった。

 まあもう夜も遅いし、彼らも軍事訓練で疲れているだろうからな。

 ゼノに協力を仰いで、彼の専用Sウェポンの下準備に取り掛かるのは明日からになるだろう。

 

 ルトガー・クラウゼル氏に一声かけ、俺とイリス、そしてゼノは先ほどまでいたテントを後にする。

 するとゼノが夕飯でも一緒にどうかと声をかけてきた。

 何でも彼も先ほどまで哨戒に出ていたらしく、帰ってきてすぐ団長に呼ばれたので、まだ夕飯を食べていないそうだ。

 

 ……訓練しに来た西風の旅団に飯を集るのも悪いと思って、一応俺とイリスの分の携帯糧食を持ってきてはいたのだが……へへっ、くれるというのなら遠慮なくご同伴に預からせてもらいやす、アニキ!

 

 イリスの手を引きながらゼノのアニキの案内にホイホイついて行っていると、何処から視線が。

 魔獣のような敵意や殺意の混じった視線でも、アルベリヒ工房長のようなモルモットを見るような冷淡な視線でもない。

 

 僅かな警戒と好奇心の混ざったような視線のような……。

 

 そう思い周囲を見回すと、テントの隅っこ方からこちらを覗く銀髪の小柄な少女(・・・・・・・・)が。

 

 

 「どうしたん?急に立ち止まって」

 

 「いえ、あそこに小さな女の子が……。迷子…とかではないですよね?」

 

 

 俺が急に足を止めたことを不審に思ったゼノに、その答えを知りながらも(・・・・・・・・・・・)、ワザとすっとぼける。

 ゼノは俺の視線を追いかけて銀髪の小柄な少女を見ると、合点がいった様子で頷いた。

 

 

 「ハハッ!ちゃうちゃう。迷子なんかやないで。

 正真正銘、西風の旅団の一員や。まあ戦闘員やないけどな。

 

 あの子はフィー・クラウゼル。団長の養娘さんや」

 

 

 ええ、よく存じておりますとも。

 ゲームでは回避盾として、散々お世話になりましたから。

 

 

 




 山登りをする者達の気持ちが分からない系オリ主。
 おそらく友人が山登りに誘っても「何でせっかくの休みに疲れに行かなきゃならんのだ」とか言って断るやつ。それ以外なら喜ぶ。

 西風の旅団の戦闘要員の数は、赤い星座の戦闘要員300名を参考に。
 ちなみに、ヨルムンガンド作戦のナレーションから《結社》は戦闘要員2700名らしい。多いな!?
 というか《旅団》なら最低1500名以上なのだが。しかも《連隊》長もいるし……どういうこっちゃ。



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