俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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 この作品の時間軸はWikipediaの『英雄伝説 軌跡シリーズの年表』
 に従って動かしています。気になる方はどうぞ。
 創以降のネタバレも飛び交っているので注意してね
 あと作者は黎の軌跡をやってないのでネタバレは堪忍して(*´Д`*)


第八話 ワンオペは日常風景

 

 

 次の日。

 早朝の 6:00より起床ラッパの音が西風の旅団のキャンプ地全体に響き渡る。 

 その音と同時に西風の旅団団員たちは起床し、速やかに身支度を整え、各隊ごとに整列点呼を始めていた。

 今が軍事訓練の最中であることを考慮しても、団員たちの動きに一切の乱れはない。

 さすがは大陸最強の猟兵団の一角。

 その動きはまるで日頃の習慣が身体に沁みついているかのようにスムーズだ。

 そんな中に混じって俺は、起床ラッパの音と共に、昨日西風の旅団に用意してもらった来客用のテントの中で起床し、速やかに身支度を整える―――ことなく惰眠をむさぼっていた。

 

 ……俺が今ここにいるのは西風の旅団の軍事訓練に参加する為ではない。

 専用Sウェポンの注文依頼の為にここに来たのだ。よって俺に軍事訓練の参加義務はない。

 そもそも西風の旅団の団員じゃねえし。

 何で早起きなんぞしなきゃならんのだ。

 技術者に寝起きする時間を強制してはならない、という箴言を知らんのか。

 

 という事で、初めて聞く起床ラッパの音にわたわたと慌てるイリスを落ち着かせ、再度眠りに。

 

 次に目が覚めた時には、時刻は8:00。

 これが黒の工房内であれば、後一時間くらい寝ている所ではあるが、出張先なので大人しく起きることにする。

 西風の旅団の朝食の時間はとっくの前に終わっている為に、イリスを起こして自前の携帯糧食で朝飯を取り、ダラダラと身支度を整え、いざ外へ。

 

 

 「寒……」

 

 

 さすがは無駄に標高の高いアイゼンガルド連峰、その中腹に築かれたキャンプ地である。

 春先であるにもかかわらずこの寒さだ。

 

 ……し・か・し!戦闘用マニピュレーター『パワードアーム』の発展版――戦闘用強化外骨格『パワードアーマー』ならば、問題ナッシング!!

 パワードアーマーの内部に温度調節機能が付いており、使用者の快適な温度に自動で調節してくれるのだ!!……この間温度調節機能がバグって蒸し焼きになりかけたけど。

 まあ、ちゃんとバグ取りもしたし多分いけるやろ。

 

 イリス? あぁ普通のコート着せてるよ。

 

 そして訓練に出て誰も居なくなった団員たちのテント群を抜け、昨日案内された、司令部として活用されている一際大きいテントへ。

 イリスに外で待っているように指示を出し、俺一人で中に入ると、運よく中にはルトガー・クラウゼル氏の姿が。

 とりあえず、依頼人であるルトガー・クラウゼル氏に依頼開始の挨拶をしつつ。……一つだけ頼みごとをする。

 

 ……何も西風の旅団に迷惑をかける訳じゃ……いや、ちょっとだけかけるかもしれんが、まあ埋め合わせは考えてはいる。

 

 別に断られたら断られたで素直に諦めるつもりだったのだが、俺の頼み事の内容を聞いたルトガー・クラウゼル氏は、面白そう、というか楽しそうな表情を浮かべて非常に乗り気なご様子。

 快諾してくれたばかりか、先方に事情を話しておいてくれるとまで言ってくれた。

 

 そうと決まれば!といった様子で、俺がお礼の言葉を言う暇もなく、ウキウキした様子でテントから出ていくルトガー・クラウゼル氏。

 それに一瞬呆気に取られるも、急いで彼に続いてテントの外に出て、待機していたイリスに『命令』を下した。

 

 

 「命令だイリス、《工房》の名代として西風の旅団の食事の準備(・・・・・)を手伝いたまえ」

 

 「ッ!はい」

 

 

 おそらく現在進行形でイリスの頭の中には、この意味不明な命令に対する疑問符がたくさん浮かんでいるのだろうか、説明するのも面倒なので、俺からの命令(オーダー)という事でごり押しさせてもらう。スマンな。

 イリスに外での調理の禁止事項を伝え、先行するルトガー・クラウゼル氏の後に付いていくよう伝えると、彼女はトテトテと走って彼を追いかけていった。

 

 ルトガー・クラウゼル氏にお願いした頼み事。

 それはイリスに西風の旅団の食事の準備を手伝わせてやってほしい、というものだ。

 

 薄々分かってはいたが、イリスの人間関係は非常に狭い。

 彼女と接する、俺とゲオルグ君と悪霊(工房長)だけなのだから。

 

……しかもあの悪霊、くたばる直前まで無自覚にイリスの心とメンタルをへし折りに来やがって。工房長の部屋の前に塩撒いてやろうか。

 

 ともかく。それを踏まえてのこの頼み事である。

 イリスの得意分野である料理を通して、西風の旅団の団員たちと触れ合ってもらい、イリスに人間関係を、できれば交友関係までを広げてもらおうという魂胆だ。

 ルトガー・クラウゼル氏にはこの内容とイリスの状態は話してある。

 さすがに『Ozシリーズ』などの突っ込んだ部分は伏せてはいるものの、少々訳アリ(・・・)で自己肯定感が低く、人間関係も希薄であること。

 この状態では『道具』として役に立たないくらいは話してある。

 

 ……そしてルトガー・クラウゼルさんよ。だからその生暖かい視線止めえや。

 

 ともかく。ルトガー・クラウゼル氏は、訳アリやクセ者といった者たちを積極的に西風の旅団に引き入れていることは作中で語られていたので、そう言えば食いついてくれると思ってのことだったが……あの様子だとルトガー・クラウゼル氏自身にも何かしらの思惑がありそうだ。

 まあ、この作戦の一番の目的はイリスの人間関係の改善なのは確かだが、それ以外にも意味はある……あまりいい話ではないがな。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 という訳でお仕事の開始である。

 

 ルトガー・クラウゼル氏より軍事訓練の一日の流れは聞き及んでいる。

 今の時間は近距離、中距離、遠距離武器を扱う者たちに分かれての戦闘訓練をやっているらしい。

 

 これは完全に偶然だったが、西風の旅団が俺との会合場所に軍事訓練をしているキャンプ地を指定してくれて助かった。

 今回作る事になる専用Sウェポン。その対象者であるゼノ自身の戦闘スタイルを軍事訓練を通して直接見ることが出来るのは個人的に非常にありがたいからな。

 

 アルベリヒ工房長ならば、たかが対象者の戦闘スタイルなど、検査用の武器をいくつか振ってもらうだけで完全に理解してしまうどころか、もうその時点で対象者に相応しい専用Sウェポンの完成図すら頭の中で思い描いてしまうのだろうが。……残念ながら俺にそこまでの技術も、そして経験もない。

 

 ならばどうするか。

 古今東西、劣っている弱者が優れた強者に食らいつく手段など一つしかない。

 すなわち数の暴力。

 アルベリヒ(強者)工房長と(弱者)との間に、技術と経験の大きな差があるのならば。

 この軍事訓練を通して、対象者から膨大なデータ(数の暴力)を収集、統合することで技術と経験を差を埋めるまでだ。

 という事で訓練に参加しているゼノを発見した俺は、訓練の邪魔にならない隅っこの方に陣取り、彼の戦闘スタイル、ひいては彼に相応しい専用Sウェポンの造形を探るべく、データ収集を始めた訳だが……。

 

 ……さすがは未来の西風の旅団の連隊長。ヤベェわ。

 

 作中でスナイパー仕様の《ブレードライフル》なんてものを使ってる時点で薄々気が付いてはいたが、……まさか近距離、中距離、遠距離武器の全てに高い適性を持っているとは。

 

 それぞれの射程距離の武器を扱う者たちに分かれて訓練をしている者達のほぼ全員が、最初に選んだ場所で戦闘訓練をし続けている中、ゼノは見回るかのように、それぞれの戦闘訓練に飛び込みで参加。

 その全てにおいて高い成績を収めていた。

 

 ……これは西風の旅団が有望株といっても、所詮はルーキーであるはずのゼノに、専用Sウェポンを用意しようとするはずだわ。

 

 汎用Sウェポンはあくまで『誰が使っても一定の性能を発揮する』という点を重きに置き、戦闘経験の浅い者でも扱いやすいよう設計している。

 比較的安価になるよう量産しやすく設計もしているが、それはあくまで副次的なものだ。

 戦闘経験の浅い者でも扱いやすいような設計ということはつまり、それだけ扱いを簡単にしているということだ。余分な機能を省くことで、未熟な使用者が使い勝手に迷わないように。

 勿論、それを踏まえた上で、様々な戦闘スタイルに対応できるよう遠・近共に多種多様な種類の汎用Sウェポンを取り揃え、ある程度戦闘経験がある者達の為に、カスタマイズして機能や性能を拡張していく余地も残して設計してはいるのだが。

 ここまで近距離、中距離、遠距離武器を高水準で使いこなせる器用貧乏ならぬ器用万能なゼノには、どれだけカスタマイズしても二種類の距離しかカバーできない汎用Sウェポンという枠組み自体が役不足もいいところだ。

 

 ……しかもこれで罠使いとか、マジで万能だなオイ。

 

 こうなってくると、やはり作中ゼノが使っていた専用Sウェポンがスナイパー仕様のブレードライフルだったのも納得がいく。

 近距離戦を挑むか、中距離射撃で制圧するか、遠距離狙撃で仕留めるか、それとも罠にかけるか。

 その選択自体は戦う彼自身が決めること。

 ならばゼノ専用Sウェポンに求められる性能とは、彼が戦闘の中で選べる手札を少しでも増やすような性能だ

 それを考えれば近距離、中距離、遠距離の全てに対応できるスナイパー仕様のブレードライフルが、ゼノの専用Sウェポンの最適解であるというのは十分理解できる。

 

 大体の方針が決まった……というよりも原作知識が合ってるかどうかを確認出来たので、ゼノのデータ収集と並行して、サラサラっと彼の専用Sウェポンとなる予定のスナイパー仕様のブレードライフルのラフをスケッチブックに描き、戦闘訓練を終えたゼノに見せる。

 

 ……良し良し、中々の好感触。とりあえずはこれをたたき台に、ドンドン細部の仕様を詰めていくとしようかね。

 

 集中して気が付かなかったが、いつの間にか 12:00。昼飯時である。

 戦闘訓練を終えた西風の旅団の団員に混じってゼノと世間話をしつつ、食事場へと向かう。

 

 ……さて、イリスはちゃんとやれてるか?

 

 哨戒などで外に出ている者以外、ほとんどの団員が昼飯を求めて集まっている食事場。

 人の群れでごった返す中、基本持ち回りであるらしい食事当番の面々を見回し、イリスの姿を探してみると、何やら大きな人だかりが。

 学校の給食のように、トレイの上に配膳された品を置きつつ、列の流れに従って移動していると、そこには、西風の旅団の人から借りたであろう大きめなエプロンを身にまとい、懸命にスープを器に入れて配膳しているイリスの姿が。

 そしてその周囲の席には多くの団員が陣取り、イリスのその姿をほっこりとした様子で眺めていた。 

 他の食事当番の面々の様子を見ても、イリスに悪感情を抱いている者も特に居なさそうなので、調理でミスをして足を引っ張ったという事もなさそうだ。

 それどころか、全員が朗らかな笑みを浮かべて見守ってやがる。

 まあ頑張る子供の姿を見て毒を吐けるやつなどそうはいないからな。(工房長は除く)

 

 ……一番の目的であるイリスの人間関係の改善の出だしは上々と言ったところだろう。……もう一つの方もな。

 

 

 「イリス、任務ご苦労」

 

 「あ!お疲れ様です、ハンスこ……しゅ…ハンス様」

 

 

 ……おうイリス、今の俺はただのハンス。工房長代理でも主任でもないのだ。てか様て。

 

 とりあえずあんまり長々と話をしては列がつかえてしまうので、嬉しそうなイリスから配膳を受け取りつつ、一言だけ確認する。

 

 

 「禁止事項は守っているな?」

 

 「はい、食事の準備に《フルン=ティング》は使っていません」

 

 「ならばいい」

 

 

 一番大事なことが確認できて一安心である。

 さすがに黒の工房内のノリで戦術殻を食事の準備に使ったらさすがに問題だからな。

 一応は秘匿兵器だし、アレ。

 

 ……けど料理する時とか、めっちゃ便利なんだよな戦術殻。

 命令すれば火の番もしてくれるし、食器なんかも出しといてくれる。

 それに体の一部を刃物に変えれる(フラガラッハ)から、仕込めばキャベツの千切りや野菜の皮むきなんかもやってくれちゃう便利なヤツである。

 それ以外にも離れた所にあるリモコン取ってくれたり、冷蔵庫から飲み物取ってきてくれたり、寝るときに部屋の電気消してくれたり。ついでに戦闘もこなせる。

 まさに人類のかけがえのない(パシリ)となれる存在。

 それが戦術殻なのである。……話が逸れた。

 

 イリスと別れ、適当なテーブルの席に着く。そしてその対面にゼノも座り、彼も気に入り専用Sウェポンとしての採用がほぼ決まった、スナイパー仕様のブレードライフルについて二人で雑談しながら、昼食を取る。

 

 

 「しっかし、ボンのあのイリスって嬢ちゃんへの扱い。なんか意味あんの?」

 

 「……意味、とは?」

 

 

 するとその雑談の中でゼノは気になっていたのか、俺のイリスの扱いについての話題に唐突に触れた。

 

 

 「あの、命令口調のあれよ。オレらには普通に敬語で話してるいうのに。

 なんであの嬢ちゃんだけ?」

 

 

 ……さてさて、どう答えたものかね。

 

 手を首に当て、もみほぐす。

 俺がイリスに行っている高圧的な物言いとぞんざいな扱い。

 アレにも意味はある。

 

 アルベリヒ工房長に隙を見せない為にこうしているというのもある。

 イリスがあのやべぇ存在意義(レーゾンデートル)で、俺に対しても『道具』としての存在意義(レーゾンデートル)を見出してしまったからこその役作りというのも多少は。

 俺の扱いにイリス自身が嫌気がさして、自らの意思で逃げ出してくれるのも期待して。

 まあ今のイリスの精神面では厳しいだろうが。

 だが一番大きいのは―――

 

 

 「まぁ……色々とありましてね」

 

 

 ……罪悪感かねぇ。

 イリスを完全に手前勝手な感傷と自己満足で、D∴G教団の出荷を差し止めてしまった事の。

 そしてそれ自体が、黒の工房の中で生きるという事それ自体が、今のイリスにとってもはや生き地獄となっている事への。

 

 

 「ほーん。……まあそれぞれ事情もあるやろうしな」

 

 

 俺の物言いに何かを感じ取ったのか、そう言いながらゼノはあっさりと引き下がっていく。

 

 ……しかし、周りがそう思ってくれているのならば重畳だ。もう少し俺への反発心を抱いてほしい所ではあるが。

 

 ああ、ゼノも俺のイリスへの扱いが気にくわないのであれば、いつでもどこぞの主人公たち――英雄たちのように(悪の手先)を蹴散らして、暗く悪意に満たされた地の底(黒の工房)から彼女を救い出してくれて構わんよ。むしろ大歓迎だ。

 俺にはできないからな(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 昼食を食べ終わって午後の訓練。

 なんでも午後からは、西風の旅団総出でアイゼンガルド連峰の険しい地形を利用しての武装障害走を行うらしく、ゼノに一緒に参加するか、と誘われたので―――丁重にお断りしておいた。

 

 ……なんでそんなしんどい場所を走らにゃならんのだ。

 走りたかったらランニングマシンで走るわ。

 こちとら本分は技術者ぞ。

 数ある猟兵団の頂点に君臨するフィジカルモンスター共と一緒に障害物競走なんぞ死ぬわ。

 …あ、でも『パワードアーマー』を着けてなら参加してもいいかもしれん。

 パワードアーマーの地形走破テストも兼ねることが出来そうだし、中々有用なデータが取れるかも……いやいや、もしそれでパワードアーマーが壊れたらどうすんだ。

 ここでの修理は不可能とかになったら、こんな無駄に標高の高いクッソ不便なアイゼンガルド連峰のキャンプ地で残りの滞在期間、俺はどうやって楽して暮らしたらいいんだ。

 

 そうして、食事当番や哨戒といった最低限の人員以外の団員が出払い、静まり返った西風の旅団のキャンプ地の中、俺は一人の団員に案内をお願いしてとある場所へと向かっていた。

 ちなみにイリスは先ほどと同じ任務(食事当番)の真っ最中である。

 

 

 「こちらになります」

 

 「拝見します」

 

 

 キャンプ地の端の方にある大きめなテント、その中に通された俺は中央の机に置かれたいくつかの汎用Sウェポン――動作不良を起こして動かなくなったそれらを順々に見ていく。

 

 ……あーあ、全体的にひでぇ有様だなぁおい。

 Sウェポン自体《工房》製だから、かなり頑丈なはずなのにこの様とは。

 毎度のことではあるが、よくもまあここまで壊せるな。

 これなんて機関部にピンポイントに銃弾ブチこまれて損傷してんじゃねえか。

 

 

 「どうでしょうか。修理できそうですか?」

 

 

 機械に詳しく、西風の旅団の武器の整備も担当しているらしいその団員も、動作不良を起こしたSウェポン共の悲惨な状態をよく知っているのだろう。心配そうに聞いてきた。

 

 

 「ええ、この程度なら大丈夫ですよ。……ここの機材をお借りしても?」

 

 「はい大丈夫です」

 

 

 ……まあ程度の損傷なら問題にもならんわな。だが少なくとも《工房》の関係者じゃないと手も足も出せんだろうが。

 

 西風の旅団がキャンプ地に持ち込んでいた修理機材を指さしながら俺が尋ねると、団員は快く頷いてくれた。……お、中々いい機材を持ち込んでるな。

 

 

 「では早速始めていきますね」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「いえいえ、お気になさらず。取引したSウェポンの修理も我々の《工房》の仕事の範疇ですから」

 

 

 そう言いながら案内してくれた団員を見送り、動作不良を起こしたSウェポンの方に向き直る。

 先ほど言った通り、《工房》が取引したSウェポンの修理も、我々というか俺の仕事の範疇である。

 いわゆるメーカー保証というやつだ。

 まあ本来なら壊れやすい武器なんてものに、しかも有償ではなく無償でやるなど、保証修理の範疇を明らかに超えているのだが。

 Sウェポンというブラント(撒き餌)の価値と信頼を高める為、そして動作不良などの内容をフィードバックすることにより、Sウェポンの改良、ひいては『Ozシリーズ』の発展につなげようと考えたのだ。アルベリヒ工房長が。

 そういう事で、動作不良を起こしたSウェポン共……大概頑丈なのに、それが動作不良を起こすレベルとなるとなると大体がSウェポンだったものになっている、は責任を以て修理することになっているのだ。俺が。

 当然だが、専用Sウェポンも例外ではない。しっかりと丹精込めて以前の性能を発揮できるよう修理させていただくのだ。俺が。

 

 ……なーんで発起人の工房長がSウェポン修理を担当せずに俺がやってんですかねぇ。

 というか専用Sウェポンくらい自分でやれや!工房長が設計したんだろうが!

 あれだぞ!自分で設計してない奴を以前の性能にまで修理すんのってホント面倒なんだぞ!

 

 ……いかん。話が逸れた。

 ともかく、これも仕事の範疇。しかし普通は仲介役を通して動作不良を起こしたSウェポンを《工房》に送ってもらい俺が修理、そして再度仲介役を通して送り返しているのだ。

 

 ……ちなみに、Sウェポン修理は無料ですが仲介役手数料はお客様負担となります。

 

 だからこのような出張修理はしていないのだが……そこはまあ頼み事を聞いてくれたことへの埋め合わせという事で。

 それに、この軍事訓練が終われば、西風の旅団は大口の仕事で大陸中東部に行くと聞いている。

 正確な日にちは聞いてはいないが、ゼノの専用Sウェポンの受け渡しはその大口の仕事が終わってからでいいと聞いているので、割と直ぐに行くという事だろう。

 そうなれば、通常の仲介役を通した方法では、配送に時間がかかり出発までに修理は確実に間に合わない。

 まあ西風の旅団ともなれば、予備用の武器も十分に用意しているのだろうが……それでもこれから大口の仕事が待っているという時に、使うことの出来ない不良在庫を無理に抱えておく必要もないだろう。

 これは俺から西風の旅団への餞別ということで、それに―――

 

 結局は修理すんのは俺なんだしな!

 

 Sウェポン出張修理のお仕事開始である。

 

 動作不良のSウェポンは八本。全て汎用。

 種類は近距離武器二本、近・中距離武器三本、遠距離武器三本。

 うち、修理のみで対応可能は近接武器二本。

 残りは全て完全にバラしてからの破損部品の交換が必要だな。

 幸い、交換が必要な損傷部品と同じものが持参した持ち物の中にある為。問題はない。

 ……まあ幸いというか、最初から専用Sウェポンの注文依頼がどうなろうと、動作不良のSウェポンはここで修理すると最初から決めていたからあるのは当たり前だが。

 

 ……だって山登りまでして手ぶらで帰りたくねえじゃん。

 

 え?最初から出張修理を考えてたなら、頼み事を聞いてくれたことへの埋め合わせになってねえじゃんだって?……知らんな。

 

 

 現在の時刻は 13:30ちょうど。夕飯は 18:00。

 残り4時間半。まあ出先であるし、機材も工房ほど整ってないことも考慮して。

 最初の二本を20分。残りを一本当たり40分で終わらせれば夕飯に余裕で間に合う計算である。完璧だな。 

 

 という事で修理を開始……しようとしたら何処から視線が。

 動物のような威嚇混じった視線でも、アルベリヒ工房長のようなゴミを見るような見下した視線でもない。

 

 好奇心に染まったような視線の――って昨日もあったなこんな事。

 

 そう思い周囲を見回すと、テントの入り口からこちらを覗く銀髪の小柄な少女(・・・・・・・・)が。

 

 ……何やってんすか、フィー・クラウゼルさん。

 

 




 ハンスのイリスに対する感情は大半が罪悪感。
 D∴G教団の人体実験の実験体として、楽に死ねた可能性もある事を考えれば、現在のイリスにとって、生き地獄ともいえる黒の工房に留め置いたこと自体が誤りだったのではないかという考えが捨てきれない為。

 後、ハンスができない理由は明確にありますし書いてます。


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