俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件   作:ギルバート

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第九話 社長令嬢には媚びを売るべし

西風の旅団団長ルトガー・クラウゼル氏の養娘にして、閃の軌跡の主人公――リィン・シュバルツァーが所属していたトールズ士官学院の特科クラス《Ⅶ組》の生徒の一人であるフィー・クラウゼル。

 作中では小柄ながらも極めて高い身体能力と、西風の旅団の団員たちから教わった戦闘技術を以て、敵の攻撃を避けて避けて避けまくって反撃する回避盾として、瀑布と覇道と修羅のクオーツ引っ提げ、一撃で一切合財粉砕するラウラネキと共に、Ⅶ組の主力メンバーとして大活躍をしてくれたものだが……それはまだまだ未来の話。

 

 彼女がトールズ士官学院に入学し、特科クラス《Ⅶ組》の生徒の一人として物語が動き出す(ゲーム開始)時から、八年前である今、猟兵の間から《西風の妖精(シルフィード)》の通り名で呼ばれるほどの卓越した戦闘技術を持ち合わせた彼女の姿は何処にもなく。

 ここにいるのは、戦災孤児としてルトガー・クラウゼル氏に拾われ、養娘として彼が率いる西風の旅団に同行している、作中よりも更にチンチクリンな一人のか弱い少女である。

 

 ……そんなか弱い少女に、俺はガン見されていた。

 

 

 「……あの、何か?」

 

 「ん、別に……」

 

 

 最初はテントの入り口からこちらを覗くだけだったのに、いつの間にかテントの中にするりと入ってきたフィー・クラウゼルにそう問いかけてみたものの、作中と同じく眠たげで何を考えているのか分からない表情に変化はなく、目ぼしい答えも返ってくることは無い。

 だが、おおよそフィー・クラウゼルが何故テントの中に入ってきたのかは彼女の視線から想像がつく。

 

 彼女の目当ては俺――ではなく、俺の手元にある分解途中のSウェポン。

 

 武器の分解修理――それも常識からはかけはなれた《工房》製のSウェポンのそれに、彼女の興味が引かれたのだろう。

 テーブルに所狭しと置かれている、分解途中のSウェポンから取り外された、彼女からすれば何処にどう使うのかすら分からない未知のパーツの数々と、そのパーツをSウェポンから次々に外して分解していく俺。

 それはおそらく西風の旅団のほぼ全ての団員が武装障害走で留守にしている為に、暇を持て余していた彼女にとって、絶好の退屈しのぎに感じたに違いないだろう。

 それらに興味津々といった視線を向けていた。

 しまいには手近にあった台に飛び乗って座り、完全に見物スタイルまで取り始めた。

 まあその辺りは他の団員に教え込まれているのか、ただ見ているだけで特に分解したパーツを動かしたり触ろうとしたりしないだけ、非常に良心的ではあるのだが――

 

 物凄い気が散るッッッ!

 

 別にフィー・クラウゼル自身は何か話しかけたり言ってきたりはせず、ただジッと俺の作業光景を見ているだけなのだが。

 第三者に見られ続けるというのは、それだけで気が削がれるものである。

 それに小粋なトークで場を和ませたり、イリスやゲオルグ君みたいに指導することで間を持たせるという選択肢も、彼女の様子から察するになさそうだ。

 パン屋のショーウィンドで、職人がパンを作っているのをガキんちょがガラスへばりついて見ているのと同じ理屈である。

 ガキんちょにとって、パンが出来上がっていく光景そのものに心が引かれているのであって、パンを作っているオッサンオバハンなんぞ欠片も興味ないのだ。

 

 フィー・クラウゼルにとって心が引かれているのは、このSウェポンの修理風景そのもの。

 その修理の内容自体についてはぶっちゃけどうでもいいのだ。

 俺にいたってはその付属品Bくらいにしか思われてはいない可能性が高い。

 いや、そもそも顔を認識してもらえているかも怪しいぞオイ。

 

 ……まあ仮に話しかけたしてもフィー・クラウゼルくらいの年頃の子供に何を話せばいいのか分からんがな! 

 前世であれば、〇ーチューブ動画でも適当に見せてやったものを……。

 

 え?追い出せばいいだろって?馬鹿野郎!最強の猟兵団の一角、西風の旅団団長の養女さんだぞ!?

 もし追い出して、フィー・クラウゼル嬢のご機嫌を損ねたらどうすんだ!?

 親バカの旅団の団員共に何されるか分からんわ!

 

 結局打開策が見つからなかったことで、フィー・クラウゼル監視の元、このまま修理作業を続行することになって、しばらくして……。

 

 結局のところ、フィー・クラウゼルが何故ここに来たのかといえば、暇を持て余した彼女の退屈しのぎでしかない。

 最初こそ分解修理中のSウェポンと、それから出た未知のパーツの数々に、興味津々な目線を向けていたものの、あんまり代わり映えしない作業光景に彼女自身が飽きてしまったのだろう。

 座っていた台から、飛び降りるとスタスタと出ていってしまった。

 

 ……いや、追い出すのもアレだったし、自分の意思で出ていってくれたのは助かったが……何だこの敗北感は。

 いっその事、戦術殻を使ってド派手に修理を……いやいや、イリスに使うなって命令しておいて自分だけ使うというのはイカンだろ。

 

 しかし。

 フィー・クラウゼルは作中での言動から、よく気まぐれな猫に例えられていたが……その気質は昔から変わっていないようで。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 何だか無駄に疲れる羽目になったSウェポン修理を終わらせ、現在の時刻は18:00前。

 フィー・クラウゼルの査察という不測の事態に巻き込まれたものの、Sウェポン修理自体はおおよそ最初の予定通りに終わらせる事ができた……というか終わらせた為、夕食時には十分に間に合った。

 武装障害走から疲れ果てて帰ってきた団員たちでごった返す食事場まで辿り着くと、昼間と同じようにトレイの上に配膳された品を置きつつ、列の流れに従って移動していた……のだが、何故か食事当番の中にイリスの姿が見えなかった。

 その事を近くにいた食事当番の団員……というかアンタこの間の親切な哨戒兵じゃねえか――に聞くと、非常によく手伝ってくれたので先に上がらせたそうだ。

 イリス本人は先に上がる事に大分渋ったそうだが。

 

 ちょうど良かったのでその親切な哨戒兵改め、親切な食事当番にイリスの様子と働きぶりを伺うと、非常に好意的な返答が返ってきた。

 親切な食事当番曰く、調理の手際もよく、ちゃんと言う事も聞いてくれて助かっているらしい。

 

 ……うむ、イリスは他の者達との意思疎通を含め、問題なくやっているようだな。それは重畳。

 これをきっかけにイリスに人間関係、できれば交友関係まで広がればいいのだがな。

 

 ……それと親切な哨戒兵さん改め、親切な食事当番さん。前も言ったが、その生暖かい視線止めえや。そういうのは俺じゃなくイリスに向けてくれ。

 

 腹立つ視線を向けてくる親切な食事当番さんに礼を言い、とりあえず先に夕食を取っているであろうイリスの姿を探すことに。

 すると近くに、何やら人だかりが。

 その光景にデジャヴを感じつつその人だかりに近づいてみると、案の定イリスの姿と。

 そしてここからが予想外だったのだが、なんとイリスの対面には、つい先ほど散々こちらのペースをかき乱してくれやがった気まぐれ猫――フィー・クラウゼルが座って、二人で夕飯を食べていたのだ。

 ……これだけなら似たような年齢の少女たちが仲良くなり、二人楽しくご飯を食べているように思うだろうが――

 

 

 「……うぅ……」

 

 「…………」

 

 

 イリスは目の前にフィー・クラウゼルの様子を不安そうにチラチラと伺い、フィー・クラウゼル本人はイリスの視線を特に気にすることなく、ムシャムシャと夕食を食べている。

 

 ……え?何この楽しい食事会とかけ離れた重苦しい雰囲気は。

 

 お世辞にも良くなさそうな雰囲気を醸し出しながら食事をする二人。

 その周囲で団員たちが非常に肩身が狭そうに、二人の様子を心配そうに伺っている。

 

 ……ははーん、大体読めたぞ。

 

 おそらくこの二人の食事会をセッティングしたのは、そこの団員たちだろう。

 でなければ人見知りの激しいイリスがフィー・クラウゼルと共に食事を取ろうなどと思うまい。

 

 セッティングした理由は、まあ同世代がいないフィー・クラウゼルに少しでも似たような年齢の少女と交友関係を持ってほしいという、まあ純然たる善意の行動なのだろう。

 

 それに異を唱えるつもりはないし、それ所かイリスに人間関係を、できれば交友関係までを広げてもらおうというこちらの思惑に沿っている為、むしろ願ったり叶ったりなのだが……。

 非常に残念なことに彼らは、一つ非常に重大な思い過ごしをしている。

 

 あの二人が誰かの仲介無しにマトモに会話できる訳ないのである!!

 

 意外と人付き合いは悪くはないものの、自分からは積極的に他人と関わろうとしないフィー・クラウゼルと、ボッチ……というか今までほぼ人に会った事のないイリス。

 双方ともに対人関係において基本受け身という最悪の組み合わせである。

 多分あの様子から見て、イリスはフィー・クラウゼルに何か話しかけたりしようとしているみたいだが。

 どうせ、「自分なんかが話しかけてもいいのだろうか」や、「相手が不愉快にならないだろうか」などと考えて最初の一歩を踏み出せないのだろう。

 残念ながらちょっと前まで対人経験のスコアが人間二人と悪霊一匹止まりの対人クソザコイリスに、あの無表情で何を考えているのか分かりにくいフィー・クラウゼルの相手は、あまりに荷が重すぎる。 

 

 ……ホント、これだがら居酒屋で飲み交わしただけで仲良くなれる陽キャラパリピ共は……。

 

 あいつらは自分たちの尺度で物事を考え過ぎなのだ。

 もう少しコミュ障の陰キャラ達の事も考えてやってほしいものである。

 

 ……しゃあねえ。ルトガー・クラウゼル氏の養娘さんにして、未来の主人公メンバーにあんまり不愉快な思いをさせるわけにもいかん。イリスに助け船でも出してやろう。

 

 しかし、どうやってフィー・クラウゼルの機嫌を損ねずにイリスに助け船を出すか……。

 フィー・クラウゼルのことだ。そもそも先ほどあった俺の事なんぞ顔すら覚えておらず、普通に「誰?」とか普通に言ってきそうだからな。

 もし覚えていたら、その事を話題に出しながら介入、覚えてなかったら…まあ道具云々はさすがに子供には早いので、イリスの上司とでも偽っておこう。

 まあ、所詮は子供一人。

 いつも通りの営業スマイルとセールストークで上手く転がしてくれるわ!!

 

 

 「まあまあ、落ち着きなって。

 せっかくの交友の輪の中に、俺たちがズカズカ入り込むのは野暮ってもんだ」

 

 

 そう言いながら、二人に近づこうとしていた俺の肩を掴んだのは、おそらくは俺と同じように様子を見ていたのだろう団長ルトガー・クラウゼル氏である。

 

 ……そう言われましてもね、ダンナ。

 あれ仲良く所か、もはやお通夜みたいな食事会になってますぜ。後俺は落ち着いているが。

 

 

 「……あんまり、良い雰囲気とは言えませんがね?」

 

 「ハハッ!最初は大体そんなもんさ。

 仲良くないように見えて、反りが合わないように見えて、いつの間にかテメエらで勝手に仲良くなっちまうもんだ。ガキっていうのは」

 

 「そんなもんなんですかねえ」

 

 「ああ、そんなもんさ。だから俺たち親っていうのは、その様子を遠くから見守ってやんのが一番なんだ」

 

 

 そう言って、葉巻を取り出して火をつけ、二人の様子を遠巻きに見守るルトガー・クラウゼル氏。

 

 まあ、彼の言わんとしていることは分かる。作中でもフィー・クラウゼルがラウラネキと反りが合わなくなったことがあったが、お互い殴り合って仲直りするということがあったので、フィー・クラウゼルの方はその考えはあながち外してはいないと思うが、イリスの方は……いけんのかこれ?

 

 ……まあクライアントがそういうなら是非もなし。

 というか、そもそも最初の俺の頼み事の内容を聞いた時の様子から察するに、その時からルトガー・クラウゼル氏の中には、先ほど二人の食事会をセッティングした団員たちと同じ考えが浮かんでいたのだろう。

 自分の養娘であるフィー・クラウゼルに少しでも似たような年齢の少女と交友関係を持ってほしいという。

 まあイリスに交友関係まで広げてもらおうという、こちらの思惑にも合致している以上、まあ配慮をしてくれたクライアントには従う事にしよう。その様子を見守るというのも。別に俺はイリスの親ではないが。

 

 

 「しっかし食事会は失敗か。ここまで相性が良くないとは……。次の手を考えんとな……」

 

 

 いや、アンタもガッツリ介入してんじゃねえかッ!!??

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 二日目。

 早朝の 6:00より西風の旅団のキャンプ地全体に響き渡る起床ラッパの音を、鋼の意思でガン無視し、目を覚ますと時刻は8:30。

 相も変わらず西風の旅団の朝食の時間はとっくの前に終わっている為に、起きていたイリスと共に自前の携帯糧食で朝飯を取り、ダラダラと身支度を整え、いざ出陣。

 イリスにまた調理の手伝いを言いつけ、俺は昨日と同じく団員たちが集まる訓練場へ向かう。

 そして引き続きゼノの戦闘スタイル、ひいては彼に相応しい専用Sウェポンの造形を探るべく、データ収集を始める――訳ではない。

 いや、本来の予定ではそうするつもりだったのだが、作中でゼノがスナイパー仕様の《ブレードライフル》を使っていたのを知っていたことが予想以上に有効に働いた。

 このおかげで一番時間が掛かるはずだったゼノに相応しい専用Sウェポンの造形が、彼自身が納得できる形で直ぐに決まり、昨日夕食後に話し合いをした時点で細部の仕様までを完全に詰めることが出来たのだ。

 ホント原作知識様様である。

 専用Sウェポン製作に使用する使用者の採寸自体も昨日の内に取っているし、データ収集の方も十分。

 これで何時でもゼノの専用Sウェポン製作に取り掛かることが出来るだろう。

 本来なら数日はかかると思っていたので嬉しい誤算である。

 なので今日の昼過ぎにはここをお暇しようと思っている。

 

 では何故俺が今ここに居るかというと、俺の個人的な用事の為、少々西風の旅団の団員たちにお仕事の依頼をしに来たのだ。

 団員たちの戦闘時のモーションキャプチャを取らせてくれというな。

 

 モーションキャプチャとは人やモノの動きをデジタル化する技術の事である。

 この技術により、モーションキャプチャを取った団員たちの戦闘時の動きをデジタル上で再現することが出来るのだ。

 ではその再現したモーションデータを何に使うのかというと、俺が今着ている戦闘用強化外骨格『パワードアーマー』に使う。

 この『パワードアーマー』にその集めたデータを入力することで、アーマーに内蔵されている使用者の動作を補助するパワーアシスト機能により、俺は何時でも団員たち――プロの猟兵たちの動きを再現出来るようになるのである。

 仕組みとしては、結社のデータから八葉一刀流の動きを再現した人形兵器『レジェネンコフシリーズ』とほぼ同じといえる。……まあエリュシオンの模倣擬体(シミュラクラ)の域には到底及ばんだろうが。

 

 ともかく、これこそが俺の切り札。

 八葉一刀流、ヴァンダール流、アルゼイド流などといった、この激動の時代で立ち上がるであろう人間辞めたフィジカルゴリラ(主人公陣営)共に、一介の技術者(人間)である俺が対抗する為に考え出した手段なのである。

 ……断じて日々の生活をラクにしようとして作ったのではないのだ。

 

 ちなみに西風の旅団の団員たちに依頼するにあたって、まずは団長であるルトガー・クラウゼル氏に了承してもらうべく、モーションキャプチャや『パワードアーマー』など関連技術を含めた詳細な説明をさせてもらったのだが、「オジサンには難しすぎてサッパリ分からんよ……」と言われ、「とりあえず機械使った見取り稽古ってことでいいんだろ?」といった風に納得されてしまった。

 ……いや大筋では外してはいないし、大体合っているといえば合っているのだが。

 

 そして団員達も俺の依頼の説明に当初はちんぷんかんぷんといった様子で警戒する者もいたが、ルトガー・クラウゼル氏の「機械を使った見取り稽古」という説明を引用させてもらうと全員納得してくれた。解せぬ。

 

 ともかく。かなりの高額な報酬を提示したことと、そして団長のルトガー・クラウゼル氏も了承済みだということで、多くの団員たちの協力を取り付ける事が出来た。

 ……それにただ戦いの動きを見せるだけということで、自身の隠し札や切り札を見せる必要がないことも決断の後押しをしたことだろう。

 

 ……ちなみに報酬の出所は全て黒の工房の金なので俺の懐が痛むことは一切無い。

 嗚呼、素晴らしきかな経費落ち。

 

 ひとまず協力してくれる団員たちを集め、どうやってデータを集めるかの説明をする。

 このモーションキャプチャのデータの取り方は非常に簡単。

 画像式モーションキャプチャーの撮影機材で四方を囲んだフィールド内で、二人の団員が怪我をしない範囲で全力で戦ってもらう。

 ただそれだけである。対象者に面倒な機械の取り付けや、ゆっくり動いてくれなどといった注文なども一切ない。

 精々が撮影機材に攻撃を当ててぶっ壊さないでくれ、くらいである。

 本来の、というより前世では、モーションキャプチャの為に対象者に「マーカー」を付けたボディスーツを着用してもらう必要があったし、そもそも二人以上、ましてや戦闘時の動きなどを同時に追う事の出来るモーションキャプチャ用カメラが無かったのだか……、さすがは現代でも再現不可能な人形兵器蔓延るゼムリア大陸。

 敵味方を正確に識別し、目標を追尾するセンサーやカメラ関連などといった技術力は現代の比ではないのだ。

 ……まあ魔力を基にした半永久機関を作ったり、液体金属を完全制御出来たりしている時点でそれ以外も割とぶっ飛んでいるのだが。

 

 それはともかく。フタを開けてみれば、ただ全力で模擬戦闘をするだけで金が貰えるという非常に単純な依頼内容に、団員達のウケもよく、更に協力者も増えて、見物人も合わせて訓練場はさながら武術大会のような盛り上がりを見せていた。

 

 ……何かいつの間にかトーナメント表まで作ったり、あげく誰が勝ち上がるかの賭け事みたいな事まで始めているが。

 まあ別にデータは取れるし、対象者のモチベーションアップにもつながりそうなので、特別何かいう事もあるまい。

 

 そして始まった西風の旅団の団員たち限定の武術大会という名のモーションキャプチャデータの収集は非常に上手くいっていた。

 戦いにおけるプロの猟兵たちの立ち回りと身のこなし、攻撃モーションや戦技(クラフト)などは勿論、様々な戦局においての判断の仕方や魔法(アーツ)を繰り出すタイミングなど。貴重なデータがザクザクである。

 そしてうれしい誤算だったのは、協力してくれた西風の旅団の団員たちの中にヴァンダール流や、アルゼイド流、そして帝国2大流派から生まれた百式軍刀術の使い手たちが何名かいたことだ。

 もちろん使い手といっても正規のではなく、それぞれが自身の戦い方に流派の動きや戦技(クラフト)を取り入れた程度ではあるものの、そこはプロの猟兵。

 達人クラスまでとはいかずとも、使い手たちはそれに近い動きや戦技(クラフト)を再現できていたのだ。

 

 ……まさかここでこの三つの流派の動きのデータを取れるとは思いもしなかった。

 この使い手たちの動きを徹底的に分析し、『パワードアーマー』に読み込ませることで、将来的には疑似的に三つの流派の動きや戦技(クラフト)を使用することが可能となるだろう。

 まあ欲を言えば、八葉一刀流の使い手がいたらなお良かったのだが……さすがにエレボニア帝国で東方発祥の八葉一刀流はマイナーな流派に当たるからな。いないのも仕方あるまい。

 ……まあ八葉一刀流のデータの宛はあるしな。

 

 各撮影機材から集まってくる膨大なモーションデータをホクホク顔で手元の端末で確認していると、ついに武術大会と言う名の……もう武術大会でいいや――も、決勝戦を迎えたらしく一際大きな盛り上がりを見せていた。そして――

 

 

 「オラァッッッ!!!」

 

 「グハアッ!!??」

 

 

 ちゃっかり参加していたゼノに、いつの間にかエントリーしていたガルシア・ロッシ氏がアッパーを食らわせて試合終了。

 そしてガルシア・ロッシ氏の掲げた拳と共に、観客たちの野太い歓声と、ゼノに賭けていた者達の絹を裂くような絶叫が訓練場に響き渡った。

 

 ……ホント楽しそうだなオイ。

 後ここに来て分かった事だが、ゼノは何となく予想していたがガルシア・ロッシ氏も大概ノリいいな。

 

 そんな事を思いながら、俺はガルシア・ロッシ氏に近づいていく。

 

 

 「いやいや、ガルシア・ロッシ殿。優勝おめでとうございます。そしてご協力して頂いた皆様のおかげで、非常に貴重なデータ取ることが出来ました」

 

 「?……!あ、ああ。クライアントの希望に沿うことが出来て良かったぜ」

 

 

 ……オヌシ熱中しすぎて、これが仕事の依頼だったってことを忘れておったな?

 

 

 「いえいえ、そう謙遜なさらず。

 此方としましても多くのデータが取れた事で非常に助かったのも事実なのです。

 ……何なら追加報酬として優勝賞金でもお出ししましょうか」

 

 

 若干のからかいの意味も込めて言った俺に対し、舌打ちしつつそっぽを向こうとしたガルシア・ロッシ氏だったが、何かを思い付いたのか、獰猛な笑みを浮かべながら此方に向き直った。何ぞ?

 

 

 「そうだな。どうせなら追加報酬として……小僧にも相手してもらおうか。

 見たところ、そこそこやれるんだろ?」

 

 

 ガルシア・ロッシ氏はまるで俺を挑発するかのように、そう言ってきた。

 

 ……模擬戦とはいえ、《殺人熊(キリングベア)》ガルシア・ロッシ氏との一騎打ちか。

 

 

 「…………よろしいので?」

 

 「ああ、問題ねえよ。それに……滾ってんだろ(・・・・・・)

 折角だ。エキシビションマッチといこうじゃねえか」

 

 

 ……人をさも血の気が多い野蛮人みたく言いよってからに。こちとら技術者ぞ?全く……だが。

 

 ハッキリ言って、俺はこちらの世界に来てから今まで、格上との戦闘というものをしたことがない。

 戦闘においてイリスはさしたる相手にはならず、ゲオルグ君も同様。

 アルベリヒ工房長にいたっては俺との相性が悪すぎて、そこらの小型魔獣以下である。

 黒の工房内の人形兵器や戦術殻は、その設計に携わっている為に動きが読めてしまい、命の危険を感じるような大型魔獣には会ったことがない。

 だからこそ。

 ここで一流の猟兵であり、明らかな格上である《殺人熊(キリングベア)》ガルシア・ロッシ氏との戦闘を経験できるという事は、自身の立ち位置を知る為にも、そしてその高みを確認するためにも非常に重要な意味を持つのである。

 

 

 「では、偉大なる先駆者の胸を存分に借りるとしますか」

 

 「いいぜ、軽くもんでやるよ」

 

 

 突如として決まった俺とガルシア・ロッシ氏とのエキシビションマッチに観客の団員たちが再度盛り上がる中、俺はガルシア・ロッシ氏が待つフィールドの中央まで歩きながら、自身の得物である専用Sウェポン『アサルトソード』と戦闘用強化外骨格『パワードアーマー』の調子を確認していた。

 

 ……今回集めたデータは分析が必要で使う事が出来ないが、元々『パワードアーマー』に入力していたモーションデータの方は使える。

 とはいえ戦い方としては自身のいつも通りの戦い方となるだろう。

 相手は未来において特務支援課の前に越えるべき壁として立ちふさがった、あの《殺人熊(キリングベア)》。

 一介の技術者の悪知恵で、何処まで食い下がれるか、腕試しと行こうじゃないの。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、俺の戦術殻は…………まあいいや、最近戦闘では全く使ってねえし

 

 




 戦術殻「!?」

 西風の旅団って団長含めて大体ノリが良さそう。
 あと西風の旅団のフィー・クラウゼルへの親バカは団長由来じゃねーかという妄想。


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