念能力者バトルロイヤル(更新停止中) 作:おヒマ?
「……どうして……わたし……生きて、る……の?」
「マチ! マチぃいいいいいい!」
端正な作りからまるでマネキンの首のように地面に転がるマチの頭。それを抱き抱えて俺は叫んだ。
とりあえず状況整理。
俺が凍らせたマチを、倒した筈のピピンが砕き、立場が逆転した。
能力の対価にオーラ使い切ったピピンがなぜ立っているのか、どうして実の妹を砕いたのか、他にも頭の中で沢山の事が渦巻いたがすぐさま追い出す。
一心不乱に砕けた彼女をかき集める。
理論上できるはずだ。ここからでも戻せる。俺の能力じゃ殺せない。オーラを込め続ける間はたとえ破片になっても死なないのは実験し、知っている。
唯一の懸念材料である凍らせてなかった頭部も傷口を新たに凍結させて延命。
よしこれで当面は問題ない。あとは体を組み立て……直せるだろうか……
パズルでもピース多くなると外縁部しか作れないってのに……
「わ、わたしの、体が……ば、ばらばらに……死に、たくっない……死にたくないよぅ……うぁあああああ——」
「大丈夫。大丈夫だから泣かないで凍らせた俺が悪かったから。 凍った時も結局死ななかっただろう? 直せる。大丈夫。これは悪い夢だ」
「ゆ゛め゛し゛ゃ゛な゛い゛! おにっ、お兄ぃっ、兄さんがわたしをッ!! どうしてなんでッ!? わたっわたしは好きだから!兄さんが大好きだったからっ助けたかったのにぃぃ……っ!! やっぱりっ、わ、わたしっの事なんて邪魔だったんだ! だったら父さんと母さんが出てったみたいに、兄さんも1人で行っちゃえばよかったでしょ……っ……」
俺の腕の中で複雑そうな家庭の事情を叫ばないで欲しい。
というか俺を無視して話を進めるな。
「……いいや邪魔なんかじゃない。テメェは最愛の妹だった。 愛していたよ。 じゃなきゃ親なし2人旅で世話なんかしてねえし。遊園地にだって連れてってやったろ。嫌いで連れてくと思うか?」
「じゃっ、じゃあなんで!?なんでぇぇぇ……。 兄さんは、いっつも、いっつも「テンセーシャ」追っかけて!勝手に戦って、置いてかれてばっか! 今日だってこの人に因縁つけてさ。でも負けちゃったじゃん! 怖かったのに! 殺されると思って! でもあたしが身代わりになれば、許してくれるって、言われたから——!!」
「そうだ。そこが問題なんだよな。 事もあろうにお前“おもしろメガネ”の野郎に汚された。 あーもう台無しだよ。ガチでないわー」
そんな理由で妹を手にかけたのか。いや怒らせる意図はあったが……
「大体テメェもテメェだわ“おもしろメガネ”! 台無しにしやがって!」
「ちょっとキスしただけじゃないか! 何もこんな…… 潔癖症なの?」
「はぁ!? よし、よし、よーくわかった。 お前“ラブプラス”やった事はあるか? 誰が好きでもいいけどさぁ、ヒロインが主人公とくっつく前に知らぬ男と口づけしてるCG見てどんな気分になる? 他人の“メインヒロイン”に手を出してただで済むと思うな! お前も、お前も!ここで死ね!」
なるほどヤバイ奴だな?
でもそんな主張もなんとなくわかってしまう……いやよくわかるけど!
でもでも“メインヒロイン”って、これもう電子ゲームじゃないですしおすし。
大体実妹だろ? さっさとくっついてりゃよかったじゃないか。
現原作マチからこんなに可愛く仕立て直して、時間だけは腐るほどあったんだから。
それより何より俺のマチをこんなに悲しませて、どうしてくれよう。
「好きだ」とは本人の弁だが、マチの表情から今までは本当に“いい兄”してたと読み取れる。
本心から好いていた相手に、一転殺される。そんな最大級の裏切りに感情はぐちゃぐちゃ。好きな相手の幸せな顔も苦しい顔も楽しみたい俺としてはこれ以上ない素晴らしい表情。もう2度と見られないんじゃないかと心配になるぐらい最高の顔だ。
はっきり言って大満足。が、引き出したのが俺以外というのがどこまでも気に食わない。
なんか人として超えられない壁を見せつけられたというか、精神的寝取られというか、まず
俺
……でもなんか男として負けた気がする。
「……いつも……いつもいつも私を人形みたいに扱って
「
この感情を認めるのは暗に「俺は彼よりマチを
「なんで!? たった一回キスしたから? しかも私からした訳じゃないのに!」
いいのかそれで!? でも実際彼以上に落とせるシチュエーション想像できないし。
「俺はこの“ゲーム”、クリアできれば好きなヒロインが貰えるから参加したの! なのに
いや、実際そうかもしれん。 ただ生かすだけならともかくとして。ここから感情的に上げて落としても家族という引力の強い関係に勝てるか? 俺なんて誘拐犯の強姦魔みたいなもんだし……
「……言っている意味が……わかんないんだけど……」
「あん?
やっぱ無理かな?
黙って悩んでる間になんか2人で盛り上がってるし。
まあそうなって来ると彼のいう事も最もだ。
やっぱり最初って重要だよね。なんかこう、2回目だとインパクトがない。はじめての「大きな裏切り」をよりによって血を分けた兄に食らった彼女を絶望させたところで、仮に凄く幸せにできたとしても落とした瞬間「ああなんだ、お前も兄と同じか」みたいな慣れが出る。
それはつまらない。
つまらない事はやったってしょうがないしなぁ。
「おい聞いてんのか“クソメガネ”!?」
「んあ? ああ、効いてるよ。すっごい効いてる。むしろ最高効率で俺の心はズタボロだよ」
「お、やっぱ分かるかお前にも! リアルって苦労に報酬が見合わないよなあ! お前どこ卒だ? 京都か、東大か? やっぱり女はプレミア価格でいいから箱入り未開封がいいよなあ!」
「え、なんの話?」
「え?」
「え?」
「「……え?」」
大学と女になんの関連性があるんだ。しかも東大……あれか?東大の同好会は女東大生を歓迎しないって噂。じゃあ女東大生も男東大生を歓迎しない同好会作ったらそれでいいんじゃないっすかね? ——ま、違うだろうけど。
「ぅぅぅ…………っ、もういいッ!! ねえ、メガネの人!」
さっぱり分からないが、首だけのマチに声を投げつけられた。
……待てどっから声出してんだ!?
ていうか2人ともメガネメガネってこれ一応サングラス——
「あんた私が欲しいって言ったよね。 じゃあこいつ殺して! そしたら私はあんたのモノだ!!」
「へ?」
「んなぁは——ッ!? ……死ねクソビッチ——!!」
怒りに駆られて紅蓮の鎧を纏い鮮血のような雷光轟く右腕を突き出してくるピピン。
その間俺が何してたかと言えば、ちょっと動けないでいた。
頭蓋骨の中で幾度となく反響する「そしたら私はあんたのモノ」
焦燥と憎悪、険悪と反転した深い愛情の込められた眼差しで貫かれながら、こんな情熱的なセリフ。
興奮せずにいられるだろうか。
少なくとも俺は興奮した。3歳でもできるんだな、勃起。生首相手に。
目算年齢1桁。
こんな幼女に、するならともかく、させられるなんて……いやあ生きてみるもんだ。
さて、眼前には触れれば、いやもう触れなくても中遠距離のあらゆる物質を超振動、加熱、膨張、崩壊へと導くエナジー迸る右手の平が。これは避けるのが得策。むしろ避ける以外愚策。
が、懐から足元に欠けて惚れた女が散らばっている。
瞬間、光速を超えたニューロン。
逃げられない。逃げる気も起きない。生き残るには何か切るしかない。俺の能力。出来ること。
答えすなわち——
「迎撃、相殺する!
鮮紅の動的破壊エネルギーと俺の静的停止エネルギーがせめぎ合う。
本来能力で変換されたオーラにオーラをぶつけても完全に消し飛ばすには至らないが——コイツは消せるッ!
奇遇ですねぇ!
「くぅ……わかってはいたが、能力の
奴も察し、吐き捨てる。
いわば俺たちの能力関係は『電子レンジ』と『逆電子レンジ』。物質を振動させて熱するか、停止させて冷却するか、向き違えど過程は一緒。等しく『振動変化』だからこその相殺。
「だが出力が
「委細承知! だから
制約と誓約により日に3分しか使えない能力をさらりと再使用して来た時点で、捨てる覚悟くらいできている。
電子レンジは本来振動数の合うものだけ熱するが、奴のは出力と多様な波長でほぼ万物に対応し、人体なら腕から伝播した分だけで全身がポンと弾け飛ぶ。
が、氷ならどうだ?
振動に当てられた掌が骨を残し爆散。間を置いて骨も破裂。
遂に二の腕中央部に亀裂が入るが、
破壊が止まる。
温める対象が無限に吸熱冷却してしまえばそれなりに保つんだよ。自分の身でやりたかなかったけど。
しかし出力差まではどうにもならず、数秒間の拮抗状態で些かジューシーな臭いが立ち込めて来た。あと痛み。思い出したように今更「手が弾け飛ぶ感覚」という実に体験したくないものが思考加速の副作用としてじっくりねっとりと痛覚に叩き込まれる。
とっくに泣いてる。正直言って今にも気絶しそう。
凍った部分は痛みを感じないのにおかしいじゃないか。
手先は凍らせてなかったからおかしくないね。
だがこれで——
加熱の感覚。身をもって!身に染みた!
『能力』の簒奪はできなくても、同系統なら模倣ぐらいできらぁ!
「そして、お前今「手は凍える」って言ったよな?」
「だったらなんだ“クソメガネ”!?」
じゃあその鎧でオーラは防げないんだな?
まあ加熱できたところでどうせ
流石に「胃の内容物」とかは生き物判定食らわないよね?
死亡入試、大問1、
胃の中で『水蒸気爆発』が起きたら人体はどうなるでしょう。
答えはこのあとすぐ!
「ちゃんと
左を肘まで
それもただ加熱したオーラじゃない。
ギンコの犠牲系『制約と誓約』の応用。「どうせ捨てるのだから」と、利き腕と痛みを捧げ熱変換させた爆発的な運動エネルギーつきオーラ譲渡。防ぐ手立ては
数瞬のち紅蓮の鎧が身震いし、鋭い平手打ちのような破裂音がした。力んでいた腕も足もダラリと垂れ、一つ湧き立つ沼のような咳をしたかと思えば、堪らず地に伏し転げ回る。
腹ペコだったのかな? もっと気前よく弾けると思ってた。が、消化器がやられた人間はそう長くない。しかし既に1回『復活』された身としては気を抜けず、注視したままオーラでマチの破片を拾い集める。
こういう時俺の能力便利だ。オーラが染まるから人体がどれか1発でわかる。
「兄さん…… 倒したの? あの人に一体何をしたの」
「ハラワタを煮えくり返させた」
「そう……確か『ネン』っていうのよね。 あの、兄のとどめは——いえ。 私が生きてるのも、凍ってるのもその、あなたの『ネン』なのよね……」
よね……マチの語尾が「よね」って違和感?
「それは私にも……つ、使えるものなの?」
「使うだけなら誰だって——
「《あなたは死なせない…… 立ち上がって……ピピン!!》」
ちょい待ち!
死に体の男からなんか聞こえた。女の声だ。
不穏な文言に気にしていた『復活する能力』の発動かと思ったが——ビンゴ。消えかかりの火みたいだった若草色のオーラが今また
……? 燃える、虹?
引っかかるものを感じていると、彼の体から虹以外に飛び立つ影。
それはえらく簡素な『念獣』だ。
まるでガラス細工。均等な平たいパーツで構成された青い蝶が祝福する様に彼の周りを飛ぶ。
「《——〜♪〜〜♫〜〜♪〜〜♫〜〜》」
飛びながら、声。何か喋っている?いや違うこれは——
奴の能力はアニメを模したもの。これもそうだろう。
虹、炎、歌、青い蝶、復活…… ——あ。
脳内で一件ヒットしたゲームがあるが、いやそれはダメだって。
待って待って!発動したからもう止まらないとは思うけど、ちょっと本当にそれだけは待って!
内心叫びまくっていると奴の体からもう1匹飛び出す。今度はオレンジを基調とした赤い鳥——小さな鳳凰。
ヤバイのが確定した。
2匹が輪を描いて飛びながら飛ぶのを超高温・低温のオーラでハタキ落とそうとするも
ならば本体を叩——しまッ!?
紅蓮が霞む。
「 」
「——ッ!」
《
「ごふっ——!?」
衝撃に、迫り上がる血の味。
マチの為に踏みとどまったが、アバラから聞きたくない音が何回かした。
油断はしていなかった。能力の正体に
それなのに避けられなかった一撃。遅れて聞こえた声。
この野郎、音速を超えやがった。
「兄さん!? 兄さんもうやめて! その傷じゃあ……——」
「るっせえんだよっ!! 裏切りモンガァ゛ア゛ア゛ア゛。そう何度も蝙蝠してっと、俺だけじゃなく“メガネ”にも捨てられっぞ……う゛ぉ……ぉ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛ェ゛ェェェ……」
しかし代償も大きい。
喉もやられたのか時折壊れたモーターみたいな音で喋り、吐き出した血はペンキ缶をぶち撒けたように道を赤黒く彩った。
「なんだよ……この血は…… ふざけんなァ゛ア゛ア゛ア゛!!」
迫りくる怒りの2発目。しかし装甲も纏わず生身の殴打だ。助走距離もなければ、身体強化だけで受け止められる範囲。当然左で——あ、無いんだった。
刹那の合間、出来たのはシズクのプレゼントが壊れないよう強化するくらい。
鈍い音と痛みを伴い顔面に突き刺さる拳。なかなかどうして、具現化系のくせにいいパンチを打ってくるじゃん。
それにしても音速のパンチって……さ、すごいなんか——?
痛いよ。痛いけど。痛いんだけも、ね?
凄いドキドキしてきた。
技のたびに脈打つ、このッ快感! どうしてか『興奮』が止められないんだけど!
なにこれナニコレ! 手短に済ませようと思ったのに!
永遠に続けたい感ある!
「ゲッホゲホ……オエぇぇぇ……
「そんなに吐いて大丈夫? じゃないよね? ひっひっひっひっひっひ。 あと1発で終わりだな?さあ——」
「「さあ行こうか」か? “ヒエール・ジョコマン”気取ってんじゃねェ゛ェ゛エ゛エ゛エ゛ヨ゛ォ゛オ゛この戦闘狂が!」
「あら“クレしん”はお嫌い? 俺は親に禁止されてたからなあ、これが大好きなんだよ。 あとお前、多分胃が破裂してるよ。最悪肺も逝ってる」
「だから血が止まらないのか……てことは本当に、もう、長くないわけか……」
途端に死期を悟った顔になり、一瞬、妹へと黒目が揺れる。そして妹もまた。
おやおやぁ?
その目にあるのは興味、『愛』or『憎』。そして『不安』。
殺し、殺されたのになんかおかしないっすか?
しかしどういう事だろうか。彼を立ち上がらせた蝶と鳥が歌う能力。あれはゲーム“ガンヴォルト”で主人公が乙った際確率で蘇生しスコアと引き換えにさまざまな強化と専用の曲を歌ってくれる『SONG OF DIVA』の再現だと思ってたんだが——
「でなにその能力? “シアン”と“RoRo”が歌ってるのに、HP回復も無限ジャンプも出来そうにないじゃないか」
「んな便利な能力……あって……まるかよ……! はぁ……。 ピンチになった時、確率で発動、オーラ全回、能力の再使用・最大強化、身体能力の向上……3分感の、きょ、強制……そんな、ところだ」
「聞いといてアレだけどよく言ってくれるね。 負けを認めちゃった感じかなぁ?」
挑発すると睨みつけてくる目、そこに宿る意思に気分が高揚する。
そうこなくっちゃ。
訂正する。 ピピン君、面白いよ。
「馬鹿言え、テメェはここで死ぬんだ。 俺の手で、あの世に送り、返してやる。高学歴のプライド、なめんな」
「ま、待って兄さん! これ以上戦う事になんの意味が——」
「うっせー、意味なんか、要らねえ! コイツを殺す! 絶対に殺す! それだけありゃあ、充分だ!」
「そうだよマチ。 ようやく楽しくなって来たんだ。 今、俺は君よりも彼を欲している」
「……きっしょ。 なに
「変化系は変態だからね。興奮すりゃ勃ちもするさ。 いや〜詮無い詮無い」
「“善哉善哉”みたいに、言うなっての! 巻き込むな、変化系を! キルアに謝れ!」
「そんなことより、ちょっと俺の話し聞いてよ。 どうせ3分は死なねえんだろ?」
「あ゛!? ナンデ——」
「君の能力と。精神構造から見た、「お前がどんな人間か」の当てずっぽうな推理さ」
かくしてもはや「変態戦闘狂」の
戦う事は楽しい。死力の程に。知ってしまった。
そして気付いたんだけど、コイツ手ェ抜いてたな? 音速超えられるのに。
で、あれば——どんな論理武装か、
「君自身、本当マチにそんな「こだわり」、なかったんじゃない?」
「はぁ? 原作キャラだぞ、なわけ——」
「一言目が『原作キャラ』。 これもう答えだよね?」
「——ッ!」
形成再逆転。ここに来て初めて、その表情が、泣きそうなくらい卑屈な顔で、初めて「本心」と呼べそうなものを露出させるピピン。
「そんなに大事ならそもそもギンコ追う時置いてかない。 知ってるかい? 『能力』って結構人間性出るんだぜ」
「……」
「敵に突っ込むけど鎧は纏う。変身と英雄願望。 ヒーローとヒロインへの執着。女の子の歌声で復活しても、その
「違うッ!!」
「なら後悔か? だからマチへの情も割り切れない。 好きなんだろまだ、家族として」
「……にいさ——「そんなわけねえッ! コイツはもう汚れた! ダメなんだ! チィ——ッ、御託はもういい! サ゛ッサ゛ト゛ヤ゛ロ゛ォ゛ォ゛ぜ! また「時間切れ」狙いか!? 卑怯者!」
「卑怯はどっちだ。 妹の目を見て言え! 最愛の家族に裏切られた、妹の! できねえだろ!」
「兄さん!」
その一言でピピンの焦点が、中央で固定された。図星な上現実逃避か。
時間ももうない。ここから一気に引っぺがす。
「大切だけと雑にする」
置いてかれたマチ。
「好きだけど見たくない」
姿のない謡精。
「望むのは無垢なヒロイン」
潔癖症。
「そして、女を奪った相手より、奪われた女への突発的暴行。 後悔」
俺を殺さずマチを破った……っとちょっと待て。
やっといてなんだが、どうしてコイツは大人しく推理(笑)を黙って聞いてるんだ?
時間がないのは確かだろう。なら今すぐ殺したいはず。
いつから、なにがきっかけで大人しくなった……?
ああ〜! そういうことか! やっぱ家族の情は切れなかったんだね!
てことで俺は背を向けます。そして、歩き出します。
「待て、どこに行く!? 逃げる気か!?」
「飽きたから帰る」
「はぁ?」
今まで口撃を甘んじて受けていたのに一変。焦りが見える。
マチとのキスは奴の何か、トラウマ的なサムシングを刺激して突発的に行動させた。困惑して自己正当化を図るも、起きてしまえば残るのは後悔。
さっき不意打ちで殺さなかったのは、俺が死ぬと困るから。
治せそうなのは俺だけ。人質狙いだった?
でももう自分が長くない。
だからスッキリ殺されてやろう、と。
残念。死にたがりのカスに用はねえんだよ。
「ちょっと待て! マチはどうする? 欲しかったんだろ!? 置いて——このままじゃ死ぬぞ、いいのか!?」
「は? お前が砕いたんだろ、お前がどうにかしろ」
「どうにかって! それができないからキレてんだろうが——ッ!」
「そーゆートコじゃないかー? 高学歴高級取りなのに女に振られたの」
「振られてねェッ!! 待てよ! 待てって言ってんだ!」
まあ死んでも999秒以内にギンコ持ってくればどうにかなるし。多分。
こっちには蘇生能力があるんだよ。
でもそれを知らないピピン君は媚びるしかないよねー?
「フッザケンナ! ブッコロス!! ここへ来い!」
ちょっとは媚びろ。
しかしこれだけの能力者の本気。眠らせたまま勝つなんて惜しい。
なんとしても全力を拝みたい。
「よしわかった! じゃあ賭けをしよう。お前、ピピン、本気出せ。どうせ寿命ももうない。なりふり構わず殺しに来い。 で、俺がそれを迎え撃つ。 できたらマチのこと、今後一生責任持って可愛がってやるよ」
「なに言ってんだ!? 無茶苦茶だぞ!? 俺が勝ったら、全員死ぬじゃねえか!?」
「どの道『転生者』との戦いで危険は多い。なら守れるだけの力、信じたいだろ? 見せてやるよ。女に振られた事を来世まで引きず軟弱者に、モテる男の余裕って奴をなあ!」
「……だから……振られては……ねぇって—— 言ってン゛だロ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛がぁああああああ!!?」
本人の気にするところ逆鱗、地雷、虎の尾を踏み抜いてタップダンスした結果爆発するオーラ。
何という量だろう。膨れ上がるそれは怒りによって道に面していた建物のガラスを尽く砕いた。
いいねえ! そうこなくっちゃ!
俺もまた、冷めたエンジンが温まってくるよ!
「マジかよォ゛ォ゛…… なにそのオーラ。 お前“メガネ”、どこにそんな隠してんの。 それだけあったら手も無傷だったろ……」
「トキメキエンジンは『興奮』で動いておりまーす。 というか相手が興奮させてくれないとやる気も出ない……。 仕留めるなら日曜の昼下がりに狙撃するのがオススメ」
「“プロレス”ほど、強くなるとか、やっぱ、根っからの戦闘狂じゃん。 ——はッ! わかった! 死んでも後悔すんなよォ!?」
感情とオーラがリンクしてるのは今更説明するまでもないが、未だ膨れ上がる俺の力に底が見えない。それについて恐るでも、呆れるでも、喜ぶでもなく、今度こそ本当の覚悟を決めるピピン。
「《——♫〜♫〜♫〜♪√♪√♫√♪√♫〜♪〜♪〜♫〜♪〜♫〜〜》」
「《——♫〜♫〜♫〜♪√♪√♫√♪√♫〜♪〜♪〜♫〜♪〜♫〜〜》」
再度展開される紅蓮の装甲、銀の掌に金の剛爪。『SONG OF DIVA』の効果か『紅蓮聖天八極式』にまで昇華されたと言うのにオーラが時間で減りもしない。純然たる殺意を感じる。
「やっぱオメェ気に入らねぇわ“クソメガネ”! 人の話し聞かねえし!
「おっ、奇遇だなぁ! 俺もだよ。お前を殺したくて今すっごい超興奮する」
「
今になって正しく理解した。俺が「優勝候補」と言われる、その指すところを。
体を包み込むこの多幸感に、まるで神になったような万能感。興奮で呼び覚まされるオーラの量が尋常じゃないのだ。
その上、俺の興奮は止まる所を知らない。
前世では欠陥だったが、今じゃ無限大の力を与えてくれる。
「あそうだ、一つ質問があったんだ。この『SONG OF DIVA』の曲ね。 ——ふんふふ、ふふふふふ——
「「《——♫〜♫〜♪〜♪〜♫〜♪〜♫〜〜》」」
「ふふふん、ふん、ふ〜んふ、ずっちゃかちゃ——」
「「《——♫〜♫〜♫〜♪√♪√♫√♪√♫〜♪〜♪√♪√♫√♪√♫〜♪〜》」」
「はんはん↑ふんふん↓てれれれれれ↑れれれ→——ッ!」
「《アイオライト》〜——って、なんでエンドレスで『
「これが1番好きなんだよ! 文句あっか!?」
「なるほど! ちな“モルフォ”、“RoRo”ならどっち? “爪”ならRoRoカバーの方が好きなんだけども」
「……ゲッホゲホ—— …………ケホッ…………き、機械に繋がれたシアンちゃんはなッ!サイコーに胸キュンなんだよッ!!」
「倒錯しているのか!? 危険な男だ……生かしておくわけには、いかない……!」
不意に繰り出されたネタ。返しの銃を構えるジェスチャーに、学生時代のわちゃわちゃとした空気を感じる。
どうしよう。ピピン意外と楽しい男なんだけど。話は合うしネタは気づいてくれるし強いし。
惜しいなぁー!
だが休み時間はここまでだ。
「うぇっうぇっ、まだ増えるか、オーラ。 嘘だろ? かはっ!」
「ところがどっこい……!夢じゃありません……!
「吐かせ!お前もマチも、逝くんだよ! 『
奴のオーラもさらに膨れ上がり、紅蓮聖天八極式の掌から天を裂き、空気を割り、視界をドス赤いエナジーが占領する——
威力や充分。
相手にとって不測なし。
「まだだァ゛ア゛!! 『
「にゃにッ!? 右手が更にデカく——」
「これが最期だからなァ゛!! 『亡者の執念』、『
「オイオイオイオイオイオイ待て待てって!ちょ、なにその“オール・フォー・ワン”じみた能力の読み上げは!? しかも自己強化、自爆特攻、命の前借りと怒涛のラインナップ! お前少しは手加減しろ!」
「……手加減ってなんだぁ?」
「違う今のはネタじゃない!」
「大丈夫大丈夫、半分はハッタリだからさぁ……」
なんだハッタリかぁ……
しかしながら強化に強化を重ねられた力は姿を歪ませ、ジャキジャキと各部は変形を繰り返し、内側からはこれでもかとばかり質量を無視した新たなパーツが湧いて出る。
その終局に現れたのは——やはり『腕』。
破壊の象徴とばかりに巨大化した
「……へへっ、ギャグかよ。 強そうだけど、足もないのにそれでどう殴るのかにゃぁ? ……まさか全身ロケットパンチ?」
「《もう俺は長くない。だから、なんだって、できるのさ!あははははは—— さあ飛べェ゛、眷属ヨ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛》」
接地点——肘とアスファルトの隙間から漏れ出る暴風と目を焼く光。
地を這う熱風にマチが飛んでしまわないようオーラでガードしているとその巨腕は動き出す。
「兄さんが、腕になって……飛んだ……!?」
「冗談みたいだろ?…………冗談だったんだけどなぁ。 ま、首だけで生きてる君ほどじゃないよ」
一周回ってキレッキレ。
ゆったりと天へ昇るそれは徐々に速度をつけながら旋回し、時折手を開いたかと思えば癇癪か脅しのように『輻射』の光条を
なんたるオーラの無駄使い。
いつの間にか彼を鼓舞する謡精の歌も『
あの馬鹿、全力で楽しんでやがるな!
「くっくっくっ……もう最っ高!!! やっぱお前好きだ!大好きだわ!! おかげさまで俺のエンジンもフルスロットルだよ!! わはは——!」
「わ、笑ってないでこれからどうするんですか!? 兄さんはここへ落ちてくる気だ。それをどうにかしないと! でも、逃げないって事は、な、何か策があるんですよね?」
「へ? そんなもん
「な——ッ!?」
生首コロリで驚愕を露わにするマチ。これからはよくある事だから、ガンバ!
さて、空を飛ぶ熱エネルギー放出機構付き有人腕型追尾式ロケット弾頭君たらいつの間にやら遠くへ行って白いスカートを履いて帰って来たが、あれはどう見てもソニックブーム。
体格の近いマチ(全体)を持った感じ15kgとして、それが秒速340m超。
豆腐でも340m/sでぶつければ人間死ぬらしいからな。バラバラにされるじゃねえか。
がしかし、今や俺は『完全温度管理者』
我が手には『加熱』と『冷却』、温度を司る能力が揃っているのだ! さあ飛んで来い!お前を熱して冷やして——どうなるんだ?
どうにもならなくね? これだから質量兵器は……
「打つ手、無し——さあ面白くなってまいりました!! 退けば
「ぅぇッ!? い、今ですか!? そんな急に言われても——」
「じゃあともに死のう! 大丈夫、寂しくないよ」
「わかった! わかりました言いますから! ……好き、です……」
「それはお兄さんよりもー?」
「——ッ あんなのもう、兄じゃ……——」
「それはお兄さんよりかなー?」
「だからッ!!」
「お兄さんよりかにゃー? 直撃まで10…9…8…」
唐突なカウントダウンにこんなどうでもいい事で脳をフル回転させているマチ。
「何をしている。言ってしまえばいいじゃないか」と、身内を刺した事ない奴は言うだろう。が『非情』で割って1になれないのが『家族』というもの。それが『家族』である限りどこまでも心を揺さぶり、辛く苦しい“思い出”になる。
我が身可愛さの身内殺しと俺への服従、全部いっぺんに引き金を引かせる。
これならきっと上書きできるね。
「わかった!言うから! あ、兄よりも……」
「アニヨリモォ?」
「兄よりも……あなたの事、兄よりも大好きになります……」
グラッツェ。俺様大興奮。拾い上げて口付けを交わし、舌をねじ込む。
エンジンにニトロが入った。
『強化系』は奴より俺が近い上、
負ける道理はないな!?
やる事は単純、ただ一つ。
全オーラを右脚に集中させ降ってくる最高のバカを迎え撃つ。
俺も助走つけて跳び膝蹴りだぁ!
「「《死ねやおらぁあああああああああああ!!》」」
その瞬間に音はなかった。
ただ、時間が流れ、全てが終わった後だと。周囲を見てようやく気付く。
横には、オーラに包まれたマチ。
前を向けば快晴の青。
立ち上がろうとして、右脚が無いことを知る。
全て使い切り息も絶え絶え、『輻射』に焼かれぢくぢくと痛む顔と腹。
奴は立っていた。
「はは……、まじか、足、一本で…… 悔しい……」
「悔しい、だろ! そう、だろう! はぁ……はぁ……ア゛!? アドレナリン切れた……死にそ……」
——半身を失って、尚。
「死ぬなよ…… 頼んだぞ、クソメガネ。 ……なあ、メガネ……お前さ、年収400万で、好きな女と暮らすの。年収2000万で、バツイチコブ付きになった、同じ女なら、どっち取る……?」
なんだその意味のない質問は。
そんなの誰だって答えは決まってる。
「2000万だ!」
「……はは……結局……そうか……お前も——」
「馬鹿言え女もだ! どの道くっつくなら!金関係ないじゃん!」
「…………そうだな……俺も……それが、良かったなぁ…… あ〜、クソ!畜生! 親ガチャ外れたぁあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……——ッ!」
声の主が地に落ちる。
腕は完全に消失し、肩を中心に蜘蛛の巣のような放射状に体が裂けた、あまりにも痛々しく直視できない姿。そんな彼が事切れるまで数秒とかからなかった。むしろよく会話なんてできたものだ。
壮絶な拷問の後のような姿に似合わぬその顔は、不思議と未練を感じさせない。それを証明するように青と赤の光が、彼を2度再生させた歌の精が祝福する様に二重螺旋を描き、空へと消えた。
「ってなんかスッキリ感出してるけど。なにあの断末魔……?」
最初から、最後まで。何がしたいのかよくわからない男だったが、まあ、最後の一撃だけは評価してやろう。
墓でもたててやろうかな、なんて考えていると、すぐさまオーラ切れを意味する深い睡魔が襲う。
そうだ俺も全部出したんだ! やばい……
ちょ、せめて足、止血——違う、今寝たら……マチの延命が止まる……寝ちゃ……だめ……だ……けど……やっぱ眠い——あ、そうだ。俺の血。血で、血でちょっと……ぁ
しかし鉛のような目蓋に抗えなかった。
アイオライトは曲名だから…… (震え声)