「…じゃあ先ずは定番の卵焼きかな…」
キッチンに用意された踏み台に乗りながら、自前の丸い手で菜箸で丁寧に混ぜて行く(踏み台に乗ってられるのもそうだけど…何でこの手で掴めるんだろうね…)
「…卵焼きはシャカシャカと泡立つぐらい混ぜない方が出来上がった時の見た目も良いし、食感もふわっとする。」
そう口頭で説明しつつ…横にいるキャスターに目をやる…
「メモするのも良いけど…先ずはちゃんと見ろよ。」
「…あら?ごめんなさい。」
キャスターがメモ帳から顔を上げる…
「…菜箸をボールの底に付けて、こうやってそっと混ぜるんだ。」
「……本当にコレだけで良いの?全然混ざってる感じしないんだけど?」
「…卵で作れる物は意外と多くてね、他は泡立って、黄身と白身の境目が無くなるくらいしっかり混ぜるのが普通だけど…卵焼きは基本的にこれぐらいで良いんだ…あまり混ぜると焼く時に卵が固まりにくくなって見た目が崩れるんだ…ま、もちろん味付けさえ大丈夫なら別に普通に食べられるけどね。」
「成程ね。」
「あ、言い忘れてたけどこの時に先ず下味を付けるのが普通だ…葛木の好みは知らないけど、取り敢えず日本人が好む醤油を使ってみようか。」
そう言って僕は…さっき指示の通りキャスターが買ってきたいくつかの調味料の中からボトルに入ったそれを手に取る。
「量の調整が難しいけど…取り敢えずこのくらいかな。」
苦労して開けた(僕は指が無い…)ボトルを少し傾けて醤油を入れる。
「そんなに適当で良いの?」
「…多過ぎなければ良いよ。今は凄い複雑な料理作ってる訳でも無いからね」
……本当はそう言うのを入れておく容器や、醤油差しでも有ると楽なんだけどね…今は良いか。
「さて、卵はこんなものかな。次は…」
フライパンを手に取り、中火で加熱…ある程度温まったところで(いや…何でこの身体で熱気を感じるんだ…案外、このフライパンの加熱面触っても熱く感じるんじゃないか?)油の入ったボトルを開け、傾けて少し足らす…油が加熱されてジューと言う独特な音を聴きながら、畳んだキッチンペーパーを箸で摘んで、それでフライパンの上の油を広げて行く…
「フライパンは焼く前に少し、加熱して…そこからこうやって油を馴染ませるんだ…最も、油が跳ねると危ないから予めキッチンペーパーを容器に入れて、その上から油を注いで漬け込んで置いた方が楽かもね。」
「何の為に油を入れるの?」
「焼いたり炒めたりする料理の際、油を引くのは旨味や水分を閉じ込めたりとかも有るけど…今回の場合はくっつかない様にする為かな。」
「フライパンにくっつくの?」
「焦げ付くのとはまた違ってね…卵は加熱すると固まるから、そのせいも有ると思う。」
油も大体引き終わったかな…さてと。
「じゃあ、今度はいよいよ卵を焼くんだけど…先ずはボールに入ってる卵をこうして一部だけ入れるんだ。」
「?何故一部だけなのかしら?」
「…後で説明するから先ずは見ててくれ。」
この作業が意外と難しい…おっと。
「焼いてる際に泡が出来たらこうして箸で潰すんだ……で、こうやって半熟状になったらフライパンの奥側に箸を付けて剥がし、手前に向かって巻いて行く…」
そう言いながら僕はフライパンを持ち上げる。
「…巻く時は箸で強引に巻こうとするんじゃなくて、こうしてフライパンの方を傾けて…剥がれやすくした卵を箸で摘んで巻いて行くんだ…ああ、言い忘れてたけど…そもそも箸が使えないとコレ作れないから頑張ってくれ。」
「分かったわ。」
「日本人の多くは何だかんだ和食が好きだ。コレが出来たら葛木は多分喜ぶと思うよ…で、巻き終わったらこの卵を持ち上げてまた油を引く… 」
皿に置いたさっきのキッチンペーパーを箸で摘んで油を塗って行く。
「ここにまた残りの卵を同じぐらい入れて、また巻いて行く…これの繰り返しで出来るのが卵焼きだよ。」
「…結構、手間がかかるのね…」
「…コレでも日本の料理の中ではシンプルな方さ。単純に手順が細かくて難しい料理ならもっと他にも有る…その辺は日本に限った話じゃないけどね…」