「そう言えば結局何で卵焼きは巻くのか聞いてなかったわね…」
メモを片手に聞いてくるキャスターに僕は口を開いた。
「均一に火を通す為だよ、最初に加熱した部分が固くなって、卵焼きはそこを中心に火が通って行くんだ。」
「そう…」
「…メモを取るのも良いけど先ずは食ってくれ、他はともかく…味噌汁だけは冷めたらあまり意味が無い。」
「…それもそうね。」
「味付けも簡単なのに…美味しいわね…」
「…見た目もシンプルだけど、この手の料理は先人たちの工夫の賜物だからね…如何にお金を掛けず、複雑な手順を踏まず、余程料理の向いてない人で無い限り、誰でも作れる美味い物を…とね…だから例えば僕に習わなくても、大抵の初心者向けの料理本には定番で今回作った物は出て来るよ。」
「そう…でも貴方が教えてくれるんだから当分は本は要らないのでは無いかしら?」
「…魔術師の間は何処までも等価交換が原則だ。癪だけど、もう僕とアンタの間では契約が成立してる。僕の分かる範囲の料理で良いのなら教えてやるよ…最も、それ以降は最初に言った通り衛宮に頼むか…本を買った方が良い。」
「そう…」
「契約が成立してる内は僕も手を抜かず、教えるよ……その代わり…」
「ええ。代わりに私の知識を叩き込んであげるわ。」
「それにしてもごめんなさいね…」
僕の指示に従って洗い物をするキャスターが口を開いた。
「何がだよ?」
「…その…貴方の身体は食事が出来無いから…」
「…ああ、何だ…そんな事か。そう言われても僕は現状に思う所は無いよ。何せ今の僕は…腹が減らない所か、特段食べる事に対する興味が湧いて来ないからね。」
「……決めた。貴方のその身体…もう少し改良するわ。」
「……魔術の無駄使いだね…」
「さて…どうかしら?」
「特別違和感は無いな、さっきまでと特に変わらないよ。」
有無を言わさず、僕の眠っていた部屋に連れて行かれ…キャスターが何やら一言二言発するのと同時に意識が飛んだ僕が目を覚まし、顔を覗き込んでいたキャスターにいきなり体調を聞かれたが…別に何も不快な感じは無い…寧ろ何かしたのか、と感じた程だ…
「そう…それじゃあ一つ実験よ。」
「実験だって…?」
ぬいぐるみの身体で感じない筈の寒気が背中に……いやこれ本当に悪寒を感じてるね…どうなってるんだ…?
「そう身構えないで…はい、あーん…」
そう言いながら片手で皿を持ち、もう片方の手で箸で摘んだ卵焼きを僕に差し出して来る…
「……アンタが作ったのか?」
「そうよ。」
キャスターが自分で作ったと言うそれは…お世辞にも見た目が良いとは言い難い…綺麗に巻けなかったのか、形はヨレヨレだし、少々焼き色が着き過ぎている…ま、食べられない程じゃないだろうけどね…最も…
「僕は食べられないんだけど「いいえ。大丈夫な筈よ。ほら、口を開けて?」…ハァ…分かったよ。」
キャスターの言う通り口を開ける…口の中に入って来たそれは冷めていて熱で火傷するなんて事は無さそうだ…味は…焦げてたけど若干の苦味を感じるくらいで、特別問題は無い…ただ、少ししょっぱめ…っ!?
そこまで感じて僕は漸く違和感に気付いた…味が…分かる!?
「キャスター、何をしたんだ?」
「特別な事は何もしてないわ…貴方は五感を得たの…ただ、それだけ。」
キャスターの言うそれを聞きながら咀嚼し、飲み込んだ所で感じる物…それは…
「……いや…空腹まで感じたらこの身体に宿ってる意味が無いんだけど…?」
「あら、良いじゃない?食事は結局お腹が減っている方が楽しめるでしょ?」
「……」