「そう…ほうれん草はそんな感じで切って……良し、ちょっと代わろう。」
「何故かしら?せっかくだから次も私が「疲れただろ?」……そんな事無いわ。」
「嘘つけよ、今の間は図星だったからだろ?」
「…そもそも何故分かったの?」
「アンタたちサーヴァントは戦闘をする事に特化した身体だ、極端な話…一番非力と言われるキャスターでさえ、全く何の対策もしてない一般人なら素手で殴り殺す事だって不可能じゃない…でも、さっきのは疲れた筈だ…実際神経使っただろ?焦げ付かないように箸で何度も卵とニラ転がすのは?」
「……」
「失敗されると面倒だ、何せ昨日と違って僕も食うんだからな…後は僕がやるから…しっかり見てると良い…」
そう言っていまさっきキャスターが洗い、水気を切ったフライパンを掴む…わ、重さも昨日より感じる様になってるよ…視点が下がった以外、身体能力にほとんど変化は無いけど…こうなるとホント不便だね…
それにしても…僕は改めて部屋に雑に置かれている食料を見て溜め息を吐きたくなった…物の見事に野菜と味噌と卵…それに米しか無い。
量が十分ならまだしも僕とキャスターが人並みにしか食べない上、二人しかこの家にいない事を差し引いても数日分くらいしか無い…そもそもあんまり大量にあっても冷蔵庫が無いと…いくら今が冬場とは言え、食材の方がもたない…
今日、キャスターには早急に家電量販店に行って冷蔵庫を…いやその前に肉だ、肉。まともな食材が野菜か卵に味噌しかないってなると…料理を教える僕のモチベーションが続かない…こうなって来ると食欲が湧いてくるのが本当に不便だね…これなら前の方が良かったよ…
「ねぇ、ちょっと…」
それに、これからは金が必要だ…魔術を使うな、と言った以上キャスターは既存の金を使うしかない…この場合葛木の貯金辺りだろう…葛木は特別金のかかる趣味も無さそうだけど…そうでなくても退院してくれば色々入り用になる(そもそも入院費はどうなってるのか…キャスターは医療保険についての知識も無さそうだし)
やれやれ…考える事が山積みだ…最初は僕の貯金を渡そうとしてたけど…アレはそもそも桜の為に用意してた物だし…僕が死んだ事が伝わってれば桜の手に渡ってる可能性は高い…返せとは言いたくないし、これから先アイツは金が要る…やれやれ…ホント何で生き返っちゃったんだろうね…
「ねぇ!」
「うわ!…何だよキャスター…?」
急に耳元で叫ばれて驚き、思考の海から帰って来る…
「何だよ、じゃないでしょ…さっきから呼んでるのに…あのねぇ、私は説明されないと…見ただけじゃ分からないわよ…」
ほとんど睨みつける様なジト目を向けられ、思わず視線を逸らしたくなり下を向けば…既に茹で終わったほうれん草がボールに入った水に着けられていた様だ…まさか無意識のまま、ここまでやるとはね…とにかく、ここからはキャスターの手が必要だし、ちゃんと説明しないとね…
「悪かった…今からアンタにもやってもらう事があるから…1から説明するよ。」
「つまり、先ずはほうれん草を茹でる必要があったのね?」
「そう、だからフライパンに湯を沸かしたんだ。」
「もう茹で終わったから水に着けたと…」
「とは言え…良く考えたらその水は氷も入ってないから、念の為先に魔術で冷ましてくれ。」
「…成程…その次は?」
「…残りの作業はほうれん草が冷めてからな。」
「そろそろ良いんじゃないかしら?」
「そうだね、じゃあそれを手に取って振るとかして適当に水を切って。」
「…こんな感じかしら?」
「そう、そんな感……キャスター、一つ良いか?」
「何かしら?」
「…アンタそのローブ気に入ってるのか?料理する時は汚れるし、別の格好にしたら良いんじゃないか?」
「…坊やも遠慮が無くなって来たわね…」
「教える側の人間が遠慮してても仕方無いだろ?アンタだって僕に教える時にそうするんだろうし、僕だって気になったらきっちり指摘するよ。」
「生憎私はコレしかないのよ…」
「……今日早速色々買い出しに行って貰うつもりでいたけど…アンタは服を買うのが先みたいだな…」
「そんなの…必要?」
「必要だ、アンタのその格好現代ではとにかく目立つし…何より…」
「何より?」
「…いや、何でも無い。取り敢えず水切りはもう良いから、僕の言う通りの長さにほうれん草をまた切ってくれ。」
何より、とてつもなく怪しいとは…さすがに僕の口からはとても言えなかった…
「さっきのフライパンに水、しょうゆを入れて煮る…沸騰したところでほうれん草を入れて、また煮る…」
「どのくらい煮るの?」
「約一分かな…って、現代の時間の数え方の知識は聖杯から貰ってるか?」
「ええ、大丈夫よ。とにかく一分くらい煮れば良いのね?」
「そうだ、で、似たら最初にアンタが混ぜた卵を半分くらい、こうしてボールを回しながら入れる。」
「何故回すの?」
「食材全体を卵で覆う為…と、ここでコレを使う。」
「鍋の蓋?」
「コレをフライパンの上に落として…フライパンに蓋をしてまた一分…」
「随分手間がかかるわね…」
「この程度なら手順が多少多いくらいだよ……うん、そろそろ良いかな…」
タオル越しに鍋の蓋のつまみを掴み、蓋を持ち上げる…うん、ちゃんと卵が固まってる…それを確認し、僕は残りの卵をまたボールを回しながら入れる。
「また一分くらい煮るの?」
「今度はもっと早いよ、十秒……うん、完成。」
僕はコンロの火を消し、キャスターの方に振り向く…
「…じゃ、コレもフライ返しで皿に盛り付けてくれ。」
「分かったわ。」