「ん?悪いけどもう一回言ってくれないかな?」
僕の言葉にキャスターが溜め息を吐く…
「聞いてなかったの?買い物について来て欲しいって言ったのよ。」
「まさか本当について行く羽目になるとはね…」
改めて先程のアパートでのやり取りを思い出す…
『いや、無理だろ…今の僕は…ぬいぐるみだよ?』
『その辺は魔術で誤魔化すから問題無いわね。』
『…認識阻害って奴か…何ともまぁ無駄な魔術の使い方だね…でもアンタ忘れてないか?』
『?…何を?』
『…さっきも言ったけど、現代ではアンタの格好は目立つんだ。必然的に服を買うまではアンタは自分にも認識阻害の魔術を使う羽目になる…自前って事は無いんだろうけど…アンタは魔力を使って現世に顕現してる身だろ?なら無駄に魔力を消費すべきじゃないんじゃないか?』
『その辺は…まぁ何とかなるわ。で、来てくれるわね?』
『僕に拒否権無いじゃないか…いやいや、店までの地図と買うべき物のメモ書いて渡すから一人で行ってきなよ。』
その後押し問答が続き、結局僕の方が折れ…こうしてキャスターと共に外を歩いている…
「坊やもずっとあんな狭いアパートの一室ってのも嫌でしょう?」
「その辺は同意するけどね…僕は、何でアンタと一緒に行く話になるのか聞きたいんだよキャ…母さん。」
「……」
僕がそう言うと、横で布製の丸っこい僕の手を握って歩くキャスターが黙り込む。
「いや、アンタが外ではそう呼んで欲しいって言ったんだろ?何か不満か?」
「…何て言うのかしらね…そうね、私は…今そう呼ばれる事に喜びを感じているのよ。」
「…あっそ。」
僕としてはこの女をそう呼ぶ度に色々複雑な気持ちになるから…あんまり呼びたくないんだけどね…
「僕らに親子の語らいなんてそもそも似合わない。さっさと買い物を済ませて帰ろう。」
「分かってるわ…所詮この関係は仮初の物って事はね…」
「分かってるなら良い。」
さて、先ずは服屋か…女性の服を選ぶなんて久しぶりだ…最もコイツなら大抵何でも似合うだろうからあまり張り合いは無い…まぁだからこそ僕のセンスが光る所だろう。
……とまぁ…そんな事を考えるくらいには…本当は僕もこの外出を楽しんでは居るらしい…
『次で降りる…そこのボタンを押して。』
『分かったわ。』
下手な事を口に出来ないバスの中…声を出さずとも会話出来るのは便利だな…そんな事を考えながら僕は念話で更に指示を出す。
『…今更だけど、葛木の財布はちゃんと持って来てるな?』
『ええ…でも…本当に私が使ってしまって良いのかしら…?』
『…特にまともな趣味が有った様には見えなかったし、アンタに使われるなら葛木も文句は言わないだろうさ。そもそも葛木の方からアンタに渡して来たんだろ?』
『それは…そうなんだけど…』
キャスターは病院に葛木を連れて行く際…私物を全て託されていた…その中には財布も有り、当然中には現金の他にキャッシュカードの類も入っている…有るなら先に言って欲しかったな…正直、今後の計画が逆に狂う…ま、これからはそっちも計算に入れるとしよう…最も葛木は貯金こそ多そうだけど、さすがに無駄遣いしたらあっという間に無くなりかねない。…と言うか、聞かれるまで存在を忘れてたってのもどうかと思う…まぁ今言っても仕方無いか…
『ついでだ、予定外だけど銀行の利用の仕方も後で教えるよ…と、そろそろ着くな…小銭出しといて。』
『……本当に私の分だけで良いの?』
『…アンタが僕をガキに見える様にしたんだろ?なら僕はタダだ。』
キャスターの話の通りなら、今の僕はせいぜい見えても四~五歳の何処にでも居る子供って所だ…小学校にすら入ってない様に見える以上、僕が運賃を払う必要は無い。
『大丈夫かしら…』
『そう緊張するな、堂々としてろよ。』
聖杯から与えられる現代の知識には穴が有る…改めてその事を理解しつつ…止まったバスの中、キャスターの手を引いてバスを降りた…キャスターは確実に馬鹿じゃない、何れは慣れるだろうけど、今日は結構大変かもしれないな…
…ま、それでも悪い気はしない。せっかくだし今日は…この極上の美女とのデートを楽しむ事にしよう…