説明してる暇は確実に無いからさっさと手を引いて、キャスターに聞いた病院の場所に向かっているけど…当然ながらキャスターの動きは何処か鈍い…ハァ、全く…僕が説明してないのが悪いと言っても、もう少し察する力を持って欲しい、は…さすがに無理な注文か…仮に同じ立場なら僕もこんな感じだろうしね…それに、黙って僕に手を引かれるまま走っているだけまだマシとも言えるしね…それでも、やっぱり前途多難だよ…
母親が明らかに何も分かっておらず、子供の方が具体的に話を進めて行くと言う状況に医者は混乱していたみたいだけど、何とか…話を詰めて行く事は出来た…と言うか、葛木自身が自分で話をある程度進めていたからどうにかなった様なものだけど。とは言え、どう考えてもこっちの支援が無いのが原因とは言え…絶対安静の状況で葛木が毎日の様に院内をあっちこっち動き回ったり、挙句に点滴も普通に腕から引っこ抜いて勝手に外出するのが常で、医者も看護婦も何度も頭を抱え…胃にも穴が空きそうになったとか聞いたからこっちも何て言ったら良いのか分からなくなった(何であの傷で普通に動けるんだよ…てか、傷が完全に塞がってないのに鍛錬してたとか…本当に意味が分からない…)
「…いや、だからさ…動くのやめてくんないかな?」
「身体が鈍るからな。」
「鈍るも何も…アンタまだ傷塞がってないんだって。そう言う段階にすらまだ到達してないって、一体何べん言ったら分かるの?つか、そのせいで余計に治りが遅くなってるって医者に聞いたんだけど?」
ちなみにここは病院の中庭…そしてそこのベンチで医者と色々看護婦に言われて、それがトドメになったのか項垂れて屍の様に静かにベンチに腰掛けるキャスター、そしてぬいぐるみの僕…更に、本来なら寝たきり確定どころか…普通に昏睡状態に陥っていても可笑しくない男が入院着姿で今ここに居る(葛木とか言う名前だけど)僕がいくら言っても、聞き耳持たず…ひたすら拳法の様な構えから徐々に身体を動かして行く動作の反復をやめようとしない葛木……あー…うん、僕の中には内臓なんて一つも無い筈なのに何かお腹の辺りが痛くなって来た(まぁ、今の僕は無い筈なのに食べ物を摂取出来る訳だけどね…)
「それで…お前は私とキャスターの息子になる訳か。」
「……うん、話はちゃんと聞いてた様で何よりだよ…」
医者としばらく話して後、言われた通りの場所で葛木が普通に元気良く鍛錬やってる姿見て先ず絶句…しばらく呆けてたけど(キャスターはそもそもあの話し合いの後から何言ってもまともな反応が返って来ない)何とか復帰した僕は葛木に詰め寄って……うん、どれくらい時間経ったんだろう…元々来たのも割と遅い時間だったけど、そろそろ日が暮れそうって事は大体二時間くらいはここに居た気がする…
「…ハァ、そうだな…そこを理解してくれたなら取り敢えずもう良いよ…今日は何の準備もしてないし、僕たちはもう帰るから…それじゃあな、葛木「慎二」…何?」
葛木に背を向けて、キャスターの元へ向かおうとした葛木が声を掛けて来たので振り返る……と言うか、コイツ今僕を名前で呼んだのか……親子設定だからその方が自然では有るけど…今までコイツには苗字でしか呼ばれた事無いからどうも変な気分だ…
「……父と。」
「?…悪い、もう一回言ってくれないかな?」
かなりボソッと何かを言われたが、さすがに聞こえなかった…
「…父と、呼んではくれないのか?」
……今のは聞こえた…と言うかコイツ、こんな表情するんだな…相変わらずの仏頂面だけど、少し期待してると分かる…と言うか、よりによって僕にそう呼ばれたいのか?
「…周りには今誰も居ないし「だが、私はお前の父なのだろう?」……」
見てる人間は居ないんだから、親子の振りをする必要は無い…そう言ったつもりだったんけど、何か反論にもならない反論が返って来た……あー…面倒臭い…
「ハァ…じゃあ、また来るよ……父さん。」
「っ…ああ、またな。」
……葛木は無表情なのに何故か、笑ってる様な気がした…ハッキリ言って気持ち悪くも感じたけど、葛木が大人しくしてくれるならこれくらいサービスしても良い……うん、本当に安静にしてくれるなら子供らしく、いっそ可愛らしい笑顔も付けてあげよう…何ならハグのサービスも有りだ(親子なら普通かも知れないけど、それでもキスは仮に相手がキャスターでも何か嫌だ)
キャスターに声を掛けて立ち上がらせた後、振り向いたけど背を向けた葛木の足はちゃんと病院まで戻って行っている…ハァ、全く…両親揃って本当に世話の焼ける…