「…ハァ…やれやれ…そう時間が有るとも思えねぇが…先ず、お前は自分の力について何処まで把握してる?」
「…何処までって言われても…俺がまともに使える魔術はせいぜい強化ぐらいで…」
「…あれ?シロウはキリツグから何も聞いてないの?」
「?…爺さんの事を知ってるんですか?」
「…あー…シロウは私の事もまだ知らないのか…私はイリヤ…イリヤスフィール・フォン・アインツベルン…ま、要するに私はキリツグの娘…名前は違うけどね。」
「!…爺さんに娘…じゃ、じゃあ貴女は…!」
「そっ。私はシロウのお姉ちゃんって事…うん、せっかくだからちょっと呼んでくれない?」
「…呼ぶって何を「言ってみてよ、お姉ちゃん…って」……」
「ほらぁ…照れないで、一回呼んでみて「おい、話が進まねぇだろうが」え~…だってぇ…」
「いい加減にしねぇと追い出すぞ。」
「もう…シ「おい」…はいはい分かったわよ。」
俺の事をシロウと呼ぼうとしたイリヤを黙らせる…今言ってもややこしくなるだけだ(まぁ、さっきイリヤが既に口に出してるから今更でも有るが…)混乱した中、分かる様に具体的に説明するのもハッキリ言って時間の無駄だしな。つか、純粋そうなガキを揶揄う義姉と言う構図はあまり精神衛生上宜しくない…ましてや、コイツは色々擦れていた俺や他の衛宮士郎と違って…何処となく初心にも見えるから尚更絵面が悪い…この女は顔もスタイルも良いから余計にな。
「悪かったな、話を進めるぞ…先ずは確認だ、つまりお前は…現状自分がまともに使えるのは強化魔術だけだって…そう思ってんだな?」
「そうだけど…」
「成程…切嗣は余程お前を守りたかったんだろうな。」
「?…それってどう言う…」
「お前が本当に得意なのは強化魔術じゃない…ま、使い慣れているって意味ではそれで合ってるかも知れないが…アーチャーに言われたんだろ?お前に出来るのは模倣と創る事、だってな。」
「そう言われたけど…俺には全く意味が「本当に鈍いな、強化魔術が使えるなら…全く魔術について教わらなかった訳じゃねぇだろ?最低限身を守る術の一つとして強化を習ったんだろうが…それなら他の基本的な魔術についてだってあまり使いこなせなかったとしても、一応ある程度は聞いてはいるだろ?」そりゃあまぁ…」
「模倣、それから創る事…この二つの言葉が示す魔術が、何か思い浮かばねぇか?」
「…もしかして、投影か?」
「正解だ…でだ、お前はさっき普通に納得したが…ほれこの状況、何か可笑しいと思わねぇか?」
俺はさっき出した宝具…干将・莫耶を再び投影した。
「!…人間が宝具を!?」
…改めて考えたら今頃違和感に気付く辺り、本当に鈍いな…一体どんな生き方して来たらこんなに呑気に育つんだが…ま、その分コイツが今までそれだけ平穏に生きて来た証拠でも有るのは分かる…少々複雑にも感じるが。
「さすがにもう分かっただろう?コイツは投影品だ…そして、これは本来お前にも出来る事だぜ?」
まぁ、それ相応に努力は必要になるが…自分の投影の可能性に気付いてない辺り…コイツはきっと当時の俺以上に不完全な投影しか出来ないんだろうな…
「!…そんな、俺にそんな事出来る訳が「基本的な魔術は習ってるんなら投影をやった事は有るんだろ?その投影で出したもんは今どうなってる?」それは…今も土蔵に…」
一応、そこまでは行ってる訳ね…成程、こりゃかえって厄介だな…
「…ハァ…ホント、マジでそっちの切嗣は何も教えてねぇんだな…万が一の可能性考えたらヤバさについては伝えるべきだろ…」
「いや、でも…いっそ何も知らない方がシロウが面倒事に巻き込まれる事はなくなるんじゃない?」
「アホか?…結果としてコイツは聖杯戦争に巻き込まれてるし、何も知らない為にろくに対処の仕方も分からない上…その癖、事態は悪化する一方…コイツ、このままだと普通に死ぬぜ?つか、良くこんな状態でここまで生きて来られたもんだ…運は良いんだろうけどな。」
「そんなに、俺の状況はヤバいのか?」
「…ハァ…ちと話は変わるが…先ずお前、セイバーとちゃんと話し合ってるか?」
「…それは、あんまり「どうせ助けられた事について礼もろくに言えてないとかじゃねぇのか?」…言ってないかも…」
「…それも問題だが、セイバーの願いは聞いたか?」
「…願い?」
正直こんだけのほほんとしたコイツなら、聞いても忘れてそうな気がしてならねぇ…
「聖杯戦争に勝利したマスターは何でも願いを叶えられる…そう言う触れ込みなのはさすがにもう知ってるだろ?」
「ああ、それは聞いた「それ、マスターだけに適用されると思うのか?」となると…サーヴァントも叶うのか?」
「一応、そう言う謳い文句になってるな…ま、実際の所は異なるが。」
「?…異なるって?」
「通常聖杯戦争に参加したマスターの願いは根源に到達する事「根源って、何だ?」…そこからかぁ…説明が難しいけど、この世の外側に有って…万物の成り立ちにして終焉と呼ばれる場所…まぁ、要するに魔術師が求める全てがそこには有るの…聖杯戦争参加者に限らず、ほとんどの魔術師は皆そこに至る事が生涯懸けての目標になるの…それこそどんな手を使っても…何なら、自分が到達出来なくても自分の子孫がそこに至れたらそれで良いと考える程に…ま、今言った通り一番簡単なのは聖杯を使う事…尤も、その為には脱落したサーヴァント七人の魂で満たされた聖杯が必要になる…」
「!…と言う事は…」
「最後に残ったマスターは自分のサーヴァントを裏切り、自害させる…これによって聖杯戦争は完了し、根源に渡る準備が整う訳だ…つまり、サーヴァントの願いはそもそも最初から叶えられねぇのさ…多くの召喚に応じたサーヴァントにはこの事がそもそも伝えられてねぇ。…ここまで言えば分かるよな?万が一その事実に気付かれたら、サーヴァントは真っ先にマスターを殺しに掛かる可能性が有るってこったよ…だから話し合えと言ってる…お前、ずっとどっちつかずでここまでやって来たんだよな?例えば…それが頼りないとかセイバーに思われたらどうするんだ?」
「…セイバーが、俺を裏切る…?」
「仮にお前より物知りで、高い能力を持つマスターに出会えたら…セイバーはお前を切り捨てるかもな…ま、そう高い可能性じゃないが。」
些か不可解な話だが、俺には"観えて"いる…守護者エミヤに至るどころか、その生涯を全うせず…と言うか、普通に聖杯戦争中に命を落とした衛宮士郎たちの記憶が…その中には、明らかにセイバーとの意思疎通がろくに取れてない事が間接的な原因になったり…そもそも裏切ったセイバーに殺されたなんて俺ですら衝撃的なものも有った…加えて、今この場に居るイリヤに魂を人形に移し替えられて一生玩具にされるなんてとんでもないものも有る…ま、とにかく…こんな状態のコイツがここまで生き残って来たのはマジもんの奇跡としか言い様が無いのだ…
ま、こうして平行世界にやって来て…この俺に出会うなんてのも万に一つ…いや、億が一有るか無いかのレベルって所だ…本当にコイツは運が良い…ただ、運だけでどうにかなるのはさすがにここまでだろう…切り札になり得る投影をろくに使いこなせて無い以上、コイツがバーサーカーに勝つ道理は無い…裏切る可能性大のアーチャーに頼り切るのは論外だ、加えて…アーチャーが裏切らない展開で有ればどれだけ運が良くても間違い無くコイツはすぐに死ぬ…そこに到達するかどうかは半ば確率に寄るものとも言えるが、一応そうならない様に布石を打つ事は可能だ…が、何も知らないコイツはこのままだと流されるだけ…かと言って、半端に助言をしても無駄だ…ある意味で、コイツは既に詰んでいる…仮に俺がコイツの状況だったら初日で多分死んでるだろう…案外コイツは衛宮士郎の中でも世にも珍しい幸運値EXかもな…何とも羨ましい事だ…
「ま、裏切られるのが嫌なら良く話し合え…とは言え、"戦う"と言う事についてろくに分からず…何の信念も無いお前の言葉は届かねぇだろうけどな。」
「じゃあ…どうしたら「お前に足りねぇのは、知識と自信だ」…力じゃないのか?」
「…チカラ、ね…確かに一理は有るな…じゃ、お前ちょっとコイツを投影してみろ。」
「……」
アイツの手の中に干将莫耶が現れる…言われてすぐに出来るか…やっばコイツも衛宮士郎だな…とは言え…
「…駄目だな。」
奴の手の中の剣はすぐに崩れ始め、空気に溶ける様にして消えた…ま、これもまた予想通りか。
「お前、解析は苦手か?」
「その、一応やったんだけど…何か上手く読み取れなくて…」
まぁ、昔の俺も解析は苦手だったな…だから原因も何となく分かる。
「お前は集中力が足りねぇんだよ。」
「そんな事言われても…くそっ…!」
理由はさすがに違うんだろうが、恐らくコイツも…昔の俺と同じでアーチャーの様に頭の中を上手くクリアに出来ないんだろう…どうしても思考にノイズが混じる…負けず嫌いなのか再びやり出したが、やはり出した端からアイツの剣は消えて行く。
「もう一度言うぞ?お前に必要なのは知識と自信…要はソレは何も分からないままで出来る事じゃねぇんだよ…時間の無駄だ。」
「だって…俺はコレが出来無いとヤバいんだろ!?」
危機感が芽生えたのは良いが遅過ぎる…本来それは、聖杯戦争が始まる前に持っているべきものだった…今更そうなったところで、もうどうにもならない…おっと。
「残念だが…そろそろ時間みてぇだな。」
「!…どう言う「自分の身体を良く見てみろ」!…身体が…!?」
アイツの身体が少しずつ崩れ、薄くなって行く…向こうに帰るんだろうな…さて、このまま帰したら恐らくコイツは死ぬ…それも結局コイツの運命なのだとも思うが、正直寝覚めが悪い…だから俺は、そのクソみたいな摂理に抗う事にする…俺は目を閉じ、意識を集中する…あの世界の記憶は俺の中に有る…あの世界には厳密には"アイツ"自身は関わってないが、衛宮士郎はあそこにも居た…その為か、俺の中にはあの魔術礼装ついての具体的な知識が有る…つまり、俺はこの場で"アレ"を投影する事が出来る。
「餞別だ、受け取れ。」
もう消える寸前の奴に向かってそれを投げた…フッ、ナイスキャッチ…ま、さすがにそれくらいは出来無いと困るけどな…
『…何だよコレ、カード…?』
「もしもの時はソレを使え…ただし、あまり多用しない事をオススメするがな…」
『!…だから、何だよコレは!?』
「使い方は…ソイツが教えてくれるさ。」
アイツがこの先生き残るには…もう普通の方法じゃ無理だ…アレを下手に使えばその先は文字通りの地獄だろうが…それでも、確実に寿命は伸びる筈だ…人では無くなっちまうだろうがな…ま、完全に化け物になっちまった俺よりはマシだろう…
「…死ぬんじゃねぇぞ?仮にどんな手を使っても、どれだけみっともなくても…生きて生きて、ギリギリまで生き抜け。」
『!…ちょっと待っ…!』
空気に溶ける様にアイツの姿は消えた…ッ!頭痛が…やっぱりアレの投影は不味かったか!?まぁ、聖剣もどきを投影するよりはマシだと思うが…
「シロウ!大丈夫!?」
「…ああ…大丈夫だ…」
ちと寿命が縮んだかも知んねぇがな…ま、最早誤差だ、誤差。
「…えっと…結局、向こうのシロウに何を渡したの?」
「…アレか?アレはな…」
それはこことも、さっきまでここに居たアイツの世界とも違う世界で行われた特殊な聖杯戦争…その際に使われたのがさっきアイツに渡した魔術礼装…その名は…
「アレはクラスカードってんだ…魔術師が使うと英霊の力をその身に宿す事が出来るのさ…」
「!…そんな事、出来る訳が…!」
「ま、確かにここじゃ無理だろうな?…何せ、本来あのカードを作れる魔術師はこの世界だと影も形も無いだろうからな…」
俺は嘗て世界中を回ったが、平行世界であのカードを作ったエインズワース家についてはこちらでは存在を全く確認出来無かった…まぁ、恐らく本当に無いんだろう…つまり、この世界でアレを作れるのは平行世界の記憶を持った俺だけになる訳だ…
「じゃあ平行世界で使われたって事…?」
「ああ、あちらの聖杯戦争では魔術師自身が英霊の力をその身に宿して戦ったんだ……こっちに負けず劣らずの激戦だったぜ?」
尤もベースはあくまで人間で、そもそもあのカードでは本来英霊が持つ力全てを引き出す事は無い…それ以前に、引き出せる力をセーブしないと宿主が死にかねない…ま、使い方を間違えたら結構ヤバい代物だ…仮にアイツと同じ立場でも、俺だったら絶対使わねぇな…と言うか、俺もさっきのアイツも…一番使いこなせるのは当然奴のカードだけだろう…カードと宿主には相性が有る…ま、そうであったとしても奴のカード以外…多分衛宮士郎には使えない…もちろん、アイツにもエミヤアーチャーのカードを渡してある…アレが最良だったのは確かだ…ただ…
「恐らくアイツは…身体がだんだんエミヤの物に置き変わっちまうだろうな、そう言う副作用が有るんだ…」
「!…何でそんな危険な物を…!?」
「何も知らないアイツに、俺がしてやれるのはこれしかなかった…ま、戻ってすぐ死ぬよりはマシだ…つか、そもそも全てはアイツ次第だ…一応あのカードを使わないって言う選択肢も有るんだからな。」
…ま、だがアイツも結局衛宮士郎だ…使うだろう、不思議とそんな確信が有る。
「頻繁に使わなければ副作用の影響も少ない…上手く使えば、ちゃんと人間のまま生き残れるさ…」
「そうだと良いけど…」
生きている世界が違う…俺は平行世界の出来事を観る事が出来ても向こうに行く事は出来無い…結局その身を案じてやる事しか、俺には出来ねえ…ハァ…たくっ…ま、仮に行けても今の俺じゃ足手まといだろうけどな…