「ジジイ、桜の代わりに僕がマスターをやろう。……ああ、何も魔術師じゃない僕がまともに戦えるなんて思ってないさ。言わば僕は囮だよ。」
精一杯に卑屈さを出しつつ抜け目ない所もアピールしてやる。どうせ目の前の妖怪ジジイはこうでも言わなきゃ桜の戦闘放棄を承諾しない。……まあこいつからしたら聖杯さえ手に入れば後はどうでもいいんだろうけどな。
「ふん、良いだろう。」
そうして蟲たちの凌辱から解放されぐったりする桜。
僕は桜に近付くと抱き起こした。
「……桜、大丈夫か?」
「はい…あの…兄さん…」
「取り敢えず部屋に戻ろう。ライダー、着いてきてくれ。」
僕が桜を抱き、歩き始めると無言で着いてくるサーヴァント……不気味だな。こいつとコミュニケーションを取らなきゃならないのか……ちょっと後悔してきた。
「慎二。」
「……何だよ。」
「儂が何も気付いていないと思っとるのか?」
「……」
僕は何も答えられなかった。
桜の部屋に入り下着とパジャマを出し着替えさせる。
……手慣れてしまったな。
「……」
僕は桜の頭を撫でる。
「兄さん…」
「……何だ?」
「ごめんなさい…私のせいで兄さんが…」
「気にするな、僕は何も別にお前の為だけで偽のマスターの役目を引き受けた訳じゃない。」
「兄さんは、先輩と…」
「……あいつも魔術師なのは気付いていた。包帯で隠してるが多分令呪も現れてる。」
「……」
「桜、何もこれは自己犠牲とかじゃない。僕はあいつが大嫌いなんだ。一度あいつを思いっきりぶん殴ってやりたいと思っていた。ただ、それだけさ。何れやろうと思ってたのが今このタイミングで抜群の状況でチャンスが巡って来た。ただそれだけなんだよ…」
桜を不安がらせてはいけない。僕は嗤う。声を上げて……
「嘘が下手ですね、兄さんは…」
「馬鹿な事言ってないでさっさと寝ろ。怪しまれないためには僕たちは学校に行く必要がある。……何れ行く必要も無くなるかもしれないが今行かなくなるのは不味いからな。」
先程より優しく桜の頭を撫でる。やがて桜は眠りに落ちた。
「さて、ライダー?話があるんだけど?」
「……何でしょうか?」
「ここは不味い…部屋を出よう。」
僕は部屋を出るとそのまま家からも出る。
「……」
庭の方に回ってみる……ジジイは居ないようだ。
「ここで良いか…本題の前にお前に聞きたい。お前、僕の事嫌いだろ?」
「……そんな事は…」
「取り繕う必要は無いよ。何となく分かるから。……僕の事は別に嫌いで良いんだ。でも桜の為にお前に一つ協力して貰いたい。……頼みを聞いてくれるか…?」
「何でしょうか?」
「……全部ぶち壊してやりたいのさ。こんな下らない戦争もこの家も何もかもな。」
「何故、そんな事を?」
「桜はそもそもこの家の子供じゃない。養子だ。……この家にやって来た桜はその日のうちにあの蟲蔵に放り込まれた。」
「……」
「僕はその頃この家には居なかった。そもそも僕には魔術師としての才能は無い。だから僕は見放されていた。」
「桜はそれからもずっと蟲に凌辱され続けた。しばらくして桜がされた事を僕が知った時は色々取り返しがつかなくなっていたよ…」
「僕はジジイに詰め寄った…これは何なのかってな。」
「……そこで僕は告げられた。僕はそもそも魔術師として全く期待されていない事、これは才能溢れる桜の為にやっている事。」
「まぁ桜の為と言っていたあのジジイはさっきのように喜色満面の笑みをしていたけどね。」
「その時はまだ僕は自分は魔術師になると信じて疑わなかった。……始めからなる選択肢が無いなんて思ってなかった。……結局ジジイの挑発に乗り蟲蔵に身を委ねる事も出来ず、行き場の無い怒りを桜にぶつけてしまった……」
「……」
「いや。はっきり言おうか。……僕は桜を犯したんだよ…それ迄は多少歪でも慈しんでいた筈の義妹をさ……」
「……」
「これは贖罪じゃない。単なる自己満足だ。僕はこの戦争をぶち壊してこの家もぶっ壊して桜を解放し、元の家に返す。……桜の本当の姉妹である姉は優秀な魔術師だ、既に普通の身体じゃなくなってる桜を救えるかもしれない。」
「シンジ、貴方は…」
「ライダー…僕はクズだ。それは分かってる。でも、桜の為に僕の自己満足に付き合ってくれないか…?」