「ああ、安心してくれて良いぞ?その泥はほぼ無害だ…最も…もし飲み込まれた場合、命の保証はしないがな…」
奴の世界の仕組みを知り、コントロールを奪った…が、魔力は枯渇しかけ、もう何時終わっても可笑しくない今の俺に出来るのはここまでだ…本来はサーヴァントに効果的なこの泥の力は発揮出来ない…だが…
「…所詮、蟲を使ってしか魔術を行使出来ない魔術師擬きと片腕を失ったサーヴァントにはこれで十分だろう…?」
「…チッ…気付いていたのか…」
「魔術回路の備わっていないお前がこの短時間にいきなりサーヴァントと契約出来るような真面な魔術師になれるドーピングは他には無いだろう?」
この大規模魔術…使っているのはアーチャーだが肝心の魔力の供給は契約者の慎二から行われている…蟲を使っての魔術行使が何時まで出来るのかは分からんが限界はある。少なくとも何度もこんな規模のデカい魔術は使えない筈だ。ましてや…
「にしても、お前がそこまでのリスクを冒すなんて考えもしなかったよ…何時までもつんだその身体?どうせ永くは無いんだろう?そこまでして俺を殺したいのか?」
髪は真っ白に染まり、片目は白く濁り、半身の痙攣の始まってる慎二…馬鹿じゃないのかこいつ?
「俺を殺してそれからどうする?もうお前には先が無い。」
「知らないよ、後の事なんて。元々の目的は既に果たしてるしね…今の僕は…ただ、お前を殺したいだけだ。…大体僕を心配してる場合なのか?お前だって…!チッ!」
俺は距離を詰め奴に向かって投影した剣を振り下ろした…!
「…マスター、人に散々忠告をした癖に自分が油断するとは感心せんな。」
アーチャーが横から割って入り俺の剣を投影した剣で受け止めた…
「これは余裕さ…お前がいるんだからな。」
アーチャーの蹴りを咄嗟に剣を捨て両腕で受け止めたが勢いを殺しきれず下がる…くそっ…自分の世界とは言え厄介だな…!泥に足を取られて思ったより動きにくい…!何とか奴を攻略しなければ…これでは慎二に近付くことすら出来ない…!
「お前と俺はやっぱり別人だ…お前の目的は察してるよ…絶望したか?後悔してるのか?正義の味方を志した事を?」
アーチャーを煽って隙を作る…こいつのやってる事は単なる八つ当たりだ…それを自覚させる…!
「さぁな…だがはっきり言えることもある…」
「何だよ?」
「…今この場にいる私は復讐の為にここに立っている訳では無い。…もう分かっている、俺は例え過去の自分を殺しても人には戻れない。これは俺の罪の証…そうでなくても貴様は別人…だが、衛宮士郎…ここでお前を殺さない理由にはならない。」
「何でだ?」
「お前は危険だ。嘗て正義を謳った者…いや、抑止の使者としてこの場でお前を止める…!」
「捻り出した理由がそれか?ならば俺より先に止めなきゃならないものがあるだろう?」
「彼女たちが居れば大聖杯は破壊出来る。私の今の役目はもう一つの脅威である貴様の排除だ…!」
「…慎二、そう言えばまだお前から答えを聞いてないな?何故そんなになってまで俺を殺したい?気付いてるんだろう?お前が何もしなくてもどうせもう俺は終わる…」
「だから知らないよ。後の事なんて…お前が放っておいたら何時死ぬかなんてどうでもいい…待ってらんないんだよ…!どうしても僕はお前を、僕のこの手で殺したいんだよ!」
片目は白く濁り、残った目は完全に血走り、片頬が引きつった顔で慎二が叫ぶ…ああ…つまらない。
「お前はもっと面白いと思ってたんだけどな…今のお前はとてつもなくつまらないな…」
俺は溜息を吐いた
今、こいつは何て言った?…つまらないだって…?
「…ふざけるな…お前のせいだよ…!お前のせいで僕はこうなった…!お前が僕を変えた…!なのに何なんだよ、その態度…!…じゃあ聞いてやるよ…何でお前は僕を犯した!?それだけならまだ良い…犬に噛まれたと思って忘れたって良い…!認めるのは業腹だけど!お前といるのは楽しかった…!初めて本当の友だちを手に入れたと思ってた…!お前のおかげで桜とも和解出来たしな…」
口が止まらない…!何もかも喋って仕舞いたくなる…!
「桜は…あいつはお前を慕ってた…!でもお前は僕を選んだ…!魔が差したとか言うなよ…!?あの日、お前は桜を家に帰した…桜だけを、だ…そしてお前は…!」
「お前の身体の感触は悪くなかった…今まで食ったどんな男より…いや、女より上かもしれないな?」
「…僕を犯したのは今更良い…でも分からない…!何でお前はあんな事言ったんだ!?」
「……」
「お前に犯されて息も絶え絶えになり、友人に裏切られた事にショックを受ける僕に向かってお前はこう言ったんだ…『愛してる』…何でなんだ?その言葉が今も僕の耳から離れない…!答えろ衛宮!?何で僕なんだ!?何で桜じゃなく…僕だったんだ…!?」
そう言うと衛宮の顔が変わった…その人を嘲弄した様な笑みが消える…
「…ちょっと優しくしたら俺に懐き、依存する…そんなあいつが邪魔だった…だから桜を選ばなかった…お前は俺を避けていた…お前は気付いてたんだろう…?俺が本当は空っぽだって?誰にでも笑みを見せる俺の本性がこんなだって…だからさ。最初に気付いてくれたお前に惹かれた。壊してしまいたいと思った…感情を無くした筈の俺の何処かに火が灯った。…あれに嘘偽りは無い…俺はお前を心から愛している…お前が俺を理解してくれた様にお前の理解者は俺だけだ…ああ…俺は…慎二慎二慎二慎二慎二…!」
虚ろな目をして唾を飛ばしながら壊れたラジオの様に僕の名前を連呼する衛宮…ふん。
「それも演技だろ?」
「しん…やっぱ分かるか…?本当にお前は凄いな…惜しいな、こんな身体じゃなきゃ今直ぐご褒美をくれてやるのに。」
この期に及んでまだそれか…
「…止めろよ。僕たちはもう元には戻らない。壊れた生物は治らない。さっさと終わらせよう、衛宮…僕はお前が大嫌いだ…もう一秒だってその顔を見ていたくない…!」
僕はまだ動く左腕を持ち上げ、トンファーを向ける…足が使えなくなったら終わりだ…!動けなくなる前に決着を着ける…!
「…慎二、俺はお前を心から愛してる…さぁ、早くお前を壊させてくれ…!」
衛宮が僕に向かって剣を投げ付けて来た…!