馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

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[2]3月3週:中山:スプリングS(GⅡ)

 中央トレセン学園でも一際に目立つ芦毛のウマ娘、ブランディッシュ。

 大食いで有名な彼女ではあるが、芦毛の怪物とは少しばかり嗜好が違っている。オグリキャップが御飯ものを好むのに対し、ブランディッシュはデザートをよく好んだ。胃袋は頑丈であり、御飯を食べた直後にトレーニングをしても吐き戻すことは一切ない。それどころかデザートを食べなければ、簡単にバテて満足にトレーニングもできなくなるので禁止する訳にもいかなかった。

 メジロ家の面々に見守られて、口元を痙攣らせる横でデザートをパクパクと平らげる。

 

 どういう訳か、彼女はメジロ家の面々と仲が良かった。

 前の世界を知っている自分からすれば、当然といえば当然の話。積み重ねられる皿の数に、天然気味のメジロアルダンは微笑ましく見守っており、名優様は目元をピキピキと痙攣させながら砂糖抜きを啜っている。程々に膨れ上がったお腹を見せつけるように撫でるブランディッシュにメジロライアンとメジロドーベルが若干、引いている。

 そこに偶々、通り掛かったオグリキャップが一言告げる。

 

「デザートばかりだと力がでないだろう、もっと御飯を食べるべきだ」

「はい、オグリ御姉様! 気を付けますわ!」

 

 親愛する師匠を見て、パァッと笑顔を輝かせる。

 その隣でタマモクロスは、実にツッコミを入れたそうな顔で二人の眺めていた。

 そんな光景が日常化した食堂の片隅でライスシャワーが幸せそうに山盛りの御飯を頬張っている。

 なんとも長閑な一日のワンシーンであり、アグネスデジタルもにっこりだ。

 

「次のスプリングステークス、期待している」

 

 その偉大なる先輩の端的な激励に、ブランディッシュは佇まいを直し、しっかりとオグリキャップの瞳を見て告げる。

 

「ええ、御期待に添えますわ」

 

 名優2世。前の世界では、まだブランディッシュの名は知られていない。

 しかしこのウマ娘世界においては、中央トレセン学園に所属する誰もが注目するウマ娘であった。

 

 

 3月第3週、中山競馬場。スプリングS。芝1800m。

 この世代を代表する競走馬が、次々と皐月賞の優先出走権を得ている中、芦毛の競走馬がパドックを闊歩する。

 名優と呼ばれた偉大な父に瓜2つの馬体、TM対決を知る者は父の生き写しだとも言っていた。

 

 対抗は、ツインターボ産駒のアクセルターボ。

 今日もまた擬態を行っているようで、小柄な身体は実物以上に小さく感じさせる。

 そして、もう一頭、セイウンスカイ産駒のライウン。

 

 人気ではライウンが1番人気をとっており、ブランディッシュが3番人気。アクセルターボは4番人気だった。

 勿論、俺はアクセルターボの一択だ。中山競馬場の非根幹距離と云えば、ツインターボのオールカマ―。あの時のような大番狂わせを期待して、彼の番号の馬券を握り締めている。今年の赤字を今日で精算し、黒字転換する予定だ。

 14頭立てのゲートに入る時、ブランディッシュがややゲートを嫌う一面もあり、少し遅れた出走となった。

 

 鉄扉が開いて、出遅れたのは三頭。その内の一頭に芦毛の姿があった。

 先頭を取ったのはライウン、少し離れた位置に先団。4番手にアクセルターボ、ブランディッシュは後方から3番手の位置だ。序盤から中盤に掛けてのペースは早かった。ライウンが逃げて、3馬身の差があって2番手。アクセルターボが5番手、6番手とゆるゆると後退し、何時の間にか馬群の丁度、真ん中まで落ちてしまっている。逆にブランディッシュはペースを早めており、向かい正面から第3コーナーに突入する時点で、アクセルターボのすぐ後ろに付けている。

 最終コーナー、先行していた競走馬が大きく外に寄れていった。

 ライウンだけが最内を走っており、開いた内側にアクセルターボが突っ込んだ。それを追いかけるようにブランディッシュがアクセルターボの直ぐ後ろを駆け上がる。

 

 最後の直線、先頭をライウン。

 3馬身差でアクセルターボ、更に1馬身後方をブランディッシュ。アクセルターボがスパートを仕掛けた時、ほぼ同時にブランディッシュも加速する。しかしブランディッシュが伸びたのは一瞬だけだった。今日のレース展開はハイペース、アクセルターボ以外の競走馬のスタミナは尽きていた。序盤から中盤、更に終盤に差し掛かるまで、常に順位を上げ続けたブランディッシュには、もうスタミナが残されているはずもない。

 迫るアクセルターボ、逃げるライウン。アクセルターボか、ライウンか。徐々に先頭との差が詰まりつつあった。

 

 しかし、ライウンには親譲りのスタミナがあった。

 アクセルターボの末脚には、一瞬で抜き去れるような切れ味がない。じわりじわりと詰め寄り、差が残り1馬身になった時、差の詰まり方が極端に遅くなる。ライウンの粘りに、アクセルターボは懸命に追いすがるしかない。差は詰まっている、ライウンは苦しんでいた。あと半馬身、あと四半分馬身。クビ差、アタマ差。ゆっくりと、ゆっくりと追い詰めつつ合った。

 だが中山競馬場はアクセルターボに不利な小回りで、短めの直線。

 アクセルターボはコーナリングが苦手ではない。しかし速度が乗るまで時間がかかるアクセルターボは、最高速に入るまでが長く、小回りの最終コーナーでは加速するにも一苦労である。

 あと一歩、あと一歩まで追い詰める。抜き去った、抜き去る前にゴール板を横切った。

 ゴールする一秒まではライウン先行、ゴールした一秒後にはアクセルターボ先行。結果はアタマ差、ライウン1着、アクセルターボの2着だ。大きく遅れて、ブランディッシュが3着に入る。

 序盤、中盤、終盤とハイペースな展開に持ち込んで、追随するアクセルターボ以外の競走馬全てをスタミナ切れに追い込んだ。

 スプリングSは、ライウンの作戦勝ちである。

 

 

 目測を見誤った、とアクセルターボは自責する。

 道中をあのハイペースで走っていたのだ。最後の直線では、もっと速度が落ちると思っていた。最後の最後で再度、スパートを仕掛けられる体力なんて残ってないと高を括ってしまった。

 結果、2着。ライウンが持つ無尽蔵のスタミナを軽く見積もっていたという事に他ならない。

 

 ライウンは、2着のアクセルターボを見て、挑発的に笑ってみせる。

 他のウマ娘は自分の策に嵌っていた。もっと楽に勝てると思ったレースで、アクセルターボはしっかりと脚を残していた。全体的なペースはハイペース。1ハロンを12秒前半のタイプから、きっかり0.2秒ずつ早めていった。最後はスタミナ勝負、そう思っていた中でアクセルターボだけがペースに釣られずに脚を残していた。今回、自分が勝てたのは作戦じゃない。相手が私の実力を見誤ってくれていたおかげだ。

 皐月賞では、修正してくるはずだ。同じ作戦を使う事は出来ない。

 

 先頭二人がバチバチと火花を散らす様子を芦毛のウマ娘が睨みつける。

 二人は今、自分の事を眼中にも入れていない。それが悔しくて、自分が今、酸欠状態なのも忘れて、唇を噛み締めた。実力で二人に負けているとは思えない。結果、終わってみれば、終始のハイペース。何故、負けたのかも彼女は理解できていなかった。

 ……次だ次、次が本番だ。次は絶対に勝ってやる。

 

 このレースを三人はビデオテープで再確認した時、ブランディッシュはライウンが自分を罠に嵌めたことを知った。

 ライウンはアクセルターボへの警戒をより高める。

 アクセルターボは、皐月賞の勝利の鍵を握るのはゴーマイウェイにあると確信する。




馬名:ブランディッシュ 性別:牡 毛色:葦毛
年齢:3歳(±0)
父:メジロマックイーン 母父:オグリキャップ
戦績2戦1勝
▽3歳(月/週)
2/1:東京:1着:新馬戦(芝1600m)
3/3:中山:3着:スプリングS(芝1800m)
次走予定:皐月賞

馬名:アクセルターボ 性別:牡 毛並:鹿毛
年齢:3歳(±0)
父:ツインターボ 母父:マチカネタンホイザ
戦績4戦3勝
▽2歳(月/週)
10/4:東京:1着:新馬戦(芝1600m)
11/4:東京:1着:1勝クラス(芝1600m)
▽3歳(月/週)
1/3:中山:1着:京成杯(芝1600m)
3/3:中山:2着:スプリングS(芝1800m)
次走予定:皐月賞

馬名:ライウン 性別:牡 毛色:葦毛
年齢:3歳(±0)
父:セイウンスカイ 母父:アイネスフウジン
戦績3戦3勝
▽3歳(月/週)
1/1:中山:1着:新馬戦(芝1600m)
2/3:東京:1着:共同通信杯(芝1800m)
3/3:中山:1着:スプリングS(芝1800m)
次走予定:皐月賞

次回、大阪杯。
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