馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

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[2]4月1週:阪神:大阪杯(GⅡ)

 三女神の彫刻がある中庭。芦毛のウマ娘、ゴールドシップが所持するルービックキューブが宙に放り投げられる。

 それは綺麗な放物線を画いた後、それはベンチに座る鹿毛のウマ娘の手に収まった。なにかを言う訳でもなく、チャチャッとルービックキューブの面を軽快に回転させると十秒にも満たない時間でゴールドシップに投げ返す。そのルービックキューブは全ての面が揃っていた。ムキになったゴールドシップは手元に戻ったガチャガチャとルービックキューブの面を崩して、鹿毛のウマ娘に放り投げて、それをまた十秒未満の時間で面を揃えてから投げ返す。

 途中で1辺が4マスや6マスのルービックキューブを交えたりと、そんなやりとりが何度か繰り返した後、二個のルービックキューブを片手に一個ずつで同時に解かれたところでゴールドシップの方が先に音を上げた。

 

「お前、ルービックキューブ星からやって来たルービックキューブ星人かよ……」

 

 そんな言葉に鹿毛のウマ娘がコテンと首を傾げる。

 彼女の名前はガチャガチャ。競走馬ガチャガチャはブランディッシュが3歳の時、既に7歳の古兵だった。3歳の時には、既にクラシック3冠と有馬記念を走っており、4歳以降は古馬王道の常連馬だ。優勝するのは年に一度か二度と少ないが、馬券に絡む事が多く、馬券を買う者にとっては親しみ深い競走馬であった。とはいえだ、6歳の秋で既に衰えが見えており、7歳に入る時にはもう彼に期待するファンは少なかった。

 歳を重ねて、レースに合わせて調整するのも難しくなってきても、なお出走させ続けるのは彼の血統に理由がある。

 

 父はスズパレード。ソルティンゴの血を引いた実力馬である。

 彼が産まれた年にスズパレードが種牡馬として引退した為、現存する競走馬の中で唯一、ソルティンゴの血を引いた種牡馬候補であった。その血を残す為、ガチャガチャ陣営は躍起になって、GⅠ勝利という結果を残そうとしていた。

 ちなみに母父はドクタースパートであり、これまた古い血を引いている。

 

 

「ガチャガチャ復活! 老いてなお盛ん、大阪杯はガチャガチャの1着です!」

 

 4月1週、晴れ渡るような青空に場内実況の声が響き渡る。

 阪神競馬場、大阪杯を制したのは今年で7歳になるガチャガチャ。乗り替わりの多い彼の鞍上の騎手は、握り締めた拳を頭上高くに突き上げた。今年、この時はまだGⅡだった本レース。それでも昨年のステイヤーズSで10着。有馬記念で12着と大敗を喫した後の勝利は格別であり、ガチャガチャ陣営は勿論、競馬ファンをも大いに賑わせた。

 この時点で35戦7勝、内重賞32戦6勝。GⅠには15戦を走ってきた。GⅠレースの勝ち鞍には恵まれなかったが、3歳の時からクラシック3冠を走り抜いて、重賞路線の掲示板に顔を出して来た彼には、コアで根強い競馬ファンを中心に人気があった。

 彼が持つマイナーな血統もまた、彼が愛される要因のひとつになっている。

 

 彼には3年連続で春秋天皇賞の連続出走記録を保持していた。

 大阪杯に勝利した事もあり、今年もまた春の天皇賞に出走してくれることを誰もが期待した。

 彼はステイヤーズSに優勝した経験を持っており、昨年の春の天皇賞では2着だった。

 

 しかし、コアな競馬ファンには分かっていた。

 3月に出走したレースが日経賞でもなく、阪神大章典でもない。

 春の天皇賞のトライアルレースから外れた大阪杯にあえて出走したその意味が分かっている。

 分かっていても、期待せずにはいられなかった。

 

 昨年、ステイヤーズSでは10着、有馬記念では12着。

 引退すると思われていた彼の現役続行が発表されて、大阪杯での優勝。これで春の天皇賞を目指して欲しい、と願わない方がおかしいのだ。

 だが、ガチャガチャ陣営はインタビュアーを前に予定を明かした。

 

「次走は鳴尾記念です。私達は宝塚記念を目指します、私達は本気でGⅠを取りに行きます」

 

 翌々月、ガチャガチャは鳴尾記念で2着になる。

 3200mを走るスタミナは失われたが、その力はまだ衰えてはいなかった。

 

 

 昼下がりのデパートにて、ガチャガチャは小銭を片手にガチャポンコーナーに足を運んでいた。

 鼻歌混じりでコインを投入し、取っ手を回す。中身を確認した後、それを二度、三度……五度、六度と躊躇なく繰り返し、計十個の景品を確認したところで手を止める。中身が空になったカプセルを所定のカプセル置き場に放り投げて、また別のガチャポンの期待で同じことを繰り返す。

 彼女のガチャポン好きは世間にも広く知れ渡っていた。

 

 何故ならば、学寮の机に所狭しと並べられたガチャポンの景品を撮った写真が、何度もSNSに上げられている為である。

 

 ホクホク顔となった彼女は、デパートを後にして、学寮の近くにある賃貸ガレージに足を運んだ。

 真っすぐと自分のガレージに足を運んでシャッターを開ける。そこには多くのガラスケースの棚が並んでおり、棚には多種多様のプラモデルやロボットの玩具、また怪獣フィギュア等が置かれており、中にはジオラマとして完成させたものまであった。ガレージの奥には作業用の机が置いてあり、その上にビニール袋を置いて、ガチャポンの景品を残して中身を広げる。袋に入っていたのは、フィギュアを造形する為の小道具の数々であった。

 彼女はロボットが好きだ、特に合体ロボットが大好きである。

 最近はグリッドマンのアニメを見て嵌り、一夜で一気に見てしまう程に好きになり、その影響を受けて、彼女は怪獣フィギュア造りに手を染めるようになってしまった。彼女には不満があったのだ。商用の怪獣玩具はやられ役には向かない。必殺技を受けて、悲鳴を上げた表情やポーズを取ることができない。だったら自分で作れば良いじゃないか。新条アカネがそうしたように*1! という訳で、彼女が作る怪獣フィギュアは主役ロボットのやられ役として洗練されていた。

 余談だが、プラモデルを改造して、やられ役用の敵ロボットを作る事もある。

 

 そんな彼女の腕前は雑誌のコンテストで受賞する程であり、ペンネームも使わないのでガチャガチャの名前はジオラマやプラモデル、フィギュアといった業界でもよく知られている。

 

 普段は針金やアルミホイルでの大まかな形を作り、紙粘土で肉付けをする。

 彼女はフィギュア造りに掛ける情熱は凄まじい。幸いにも彼女にはレースで稼いだ賞金があった、最初は安価で済ませていた道具も直ぐに高価なものへと買い換えて、今ではン万円もするプロ仕様の道具を数多く揃えている。資料用に撮ってきた動物などの写真と見比べて、腕を組んで悩み、ちょっとずつ細部に手を加える。それがひと段落すれば、ウンと両腕を伸ばして、全身の筋肉を解したりもする。

 彼女はロボットが好きだ。フィギュアを造り、ジオラマを作成するのも好きだった。

 

 その趣味の一環で、人型の造形をすることもある。

 最初は友人の趣味を見て、なんとなしに作ってみようと思っただけだ。とある秘蔵映像を何度も見て、実際に自分が走って来たレース、そしてウイニングライブの数々を脳裏に浮かべた。

 筋肉の躍動、全身に浴びる熱気の奔流。数多の激情の中を、全力全開の尊みを漲らせる。

 

 今日は、それら全てを表現しようと一欠片のスカルピー*2を捏ねる。

 既に大まかなポーズは決めている。最初は頭から胴体、筋肉の付き方までを意識して、その肉体美に酔いしれる。先ずは裸体、少しずつ粘度を厚く盛っていき、何度もスマホの映像資料を見比べた。トレセン学園の指定に首に巻いたタオル、額に大きなリボンを付けて、両手の指に挟んだ計8本のペンライト。長髪ツインテイルが躍動する。何度も、何度も調整を繰り返し、細部の小道具は先に焼いてから取り付ける手間もあった。彼女は空間を認識する能力に優れており、見ただけで、それがどのような構造になっているのか三次元的に掌握することができた。

 そうして、出来上がった代物を塗装前の段階でウマスタグラムとウマッターに写真で投稿する。

 

 ジャンル違いのオタク仲間であるアグネスデジタルは、勝手にモデルとして使われた自分の姿に昇天する。

 それはとあるウマ娘のライブ映像、その観客席を映した時の自分の姿。

 いや、なんで、それを持っているんですか? と薄れゆく意識の中でアグネスデジタルは思った。

 

 ガチャガチャ曰く、これは習作との話。

 これの完成品はガチャガチャの賃貸ガレージの特に目立つ場所に飾られていると云う。

 後に二頭身のアグネスデジタルも造形された。

 制作理由はSNSの反応が、思ったよりも良かった為である。

*1
新条アカネのスタンスは、本当の主役は怪獣。である為、ガチャガチャとはスタンスが異なっている。

*2
オーブンで焼いて固める造形用プラスチック。




馬名:ガチャガチャ 性別:牡 毛色:鹿毛
年齢:7歳(+4)
父:スズパレード 母父:ドクタースパート

 スズパレードの父であるソルティンゴは、シリーンから続く6代連続の英愛リーディングサイアーに輝いたペティンション系の血を引くペティンゴを父に持つ超エリートな血統の競走馬であった。

 今や日本には一頭だけしか種牡馬のいないペティンション系の血を途絶えさせない為、躍起になっていた事もあり、本作でのスズパレードは正史よりも種牡馬として活動していた期間が数年だけ延びている。

 しかしGⅠ勝利が1度だけであり、目覚ましい活躍をした訳でもないスズパレードでは、他の有力な種牡馬のように良い繁殖牝馬に恵まれず、辛うじて集めることができた繁殖牝馬の内一頭が父にドクタースパートを持つ牝馬であった。

 勿論、その産駒が期待なんてされているはずもなかった。

 とはいえ、実際に走らせてみると地味な活躍が続いており、本格化をした4歳後半からは重賞勝利にも手が届くようになった。馬券や掲示板に絡むことも多く、目にする機会も多い事もあってか根強いファンが多いのもこの競走馬の特徴である。

 ペティンション系の種牡馬であるスズパレードは、ガチャガチャが生まれた年に種牡馬を引退している。
 その為、日本に現存する唯一のペティンション系の血を引いた種牡馬候補であるガチャガチャは、少しでも種牡馬としての価値を高める為にGⅠレースに出走させ続けている。
 GⅠでの2着は1回、3着は3回と惜しい結果は残している。

戦績36戦7勝(7-7-7-15)
▽2歳(月/週)
11/1:東京:3着:3歳新馬戦(芝1600m)
11/4:東京:2着:未勝利(芝1600m)
12/4:中山:1着:未勝利(芝1800m)
▽3歳(月/週)
 2/1:東京:4着:共同通信杯(芝1800m)
 3/1:中山:3着:弥生賞(芝2000m)
 4/3:中山:4着:皐月賞(芝2000m)
 5/4:東京:5着:東京優駿(芝2400m)
 6/4:福島:1着:ラジオNIKKEI賞(芝1800m)
 9/3:中山:3着:セントライト記念(芝2200m)
10/3:京都:3着:菊花賞(芝3000m)
12/4:中山:7着:有馬記念(芝2400m)
▽4歳(月/週)
 3/4:中山:3着:日経賞(芝2500m)
 4/4:京都:5着:天皇賞・春(芝3200m)
 5/4:東京:2着:目黒記念(芝2500m)
 6/4:阪神:6着:宝塚記念(芝2200m)
 8/4:札幌:1着:札幌記念(芝2000m)
10/4:東京:5着:天皇賞:秋(芝2000m)
12/1:東京:1着:ステイヤーズS(芝3600m)
▽5歳(月/週)
 3/4:中山:2着:日経賞(芝2500m)
 4/4:京都:2着:天皇賞・春(芝3200m)
 5/4:東京:1着:目黒記念(芝2500m)
 6/4:阪神:3着:宝塚記念(芝2200m)
 9/4:中山:2着:オールカマ―(芝2200m)
10/4:東京:3着:天皇賞:秋(芝2000m)
11/4:東京:5着:ジャパンカップ(芝2400m)
12/4:中山:9着:有馬記念(芝2500m)
▽6歳(月/週)
 3/4:中山:6着:日経賞(芝2500m)
 4/4:京都:5着:天皇賞・春(芝3200m)
 5/4:東京:7着:目黒記念(芝2500m)
 8/4:札幌:2着:札幌記念(芝2000m)
 9/4:中山:1着:オールカマ―(芝2200m)
10/4:東京:4着:天皇賞:秋(芝2000m)
12/1:東京:10着:ステイヤーズS(芝3600m)
12/4:中山:12着:有馬記念(芝2500m)
▽7歳(月/週)
 4/1:阪神:1着:大阪杯(芝2000m)
 6/1:阪神:2着:鳴尾記念(芝2000m)

※2年以上出走している競走馬は次回以降、戦績簡略化。

次回、皐月賞。
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