馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

2 / 11
サブタイトルの[]内の数字は、年を表しています。
ブランディッシュが2歳になった時が基準です。
具体的に西暦何年か、は決めていなかったりします。


[1]11月1週:名古屋:ゴールドウィング賞(SPⅠ)

 本日、地方から新しいウマ娘が転校するという話を聞いた。

 今は生徒会に所属するトウカイテイオーが地方のレースを観戦しに行った時、ビビッと来たというウマ娘を中央に勧誘したとのことだ。単身で地方から中央に殴り込みを掛けてくるウマ娘の存在に、ほんのりピリリとした空気を感じ取る。

 今日も今日とて、早朝にメインコースの芝を張り替えた俺は、ぐったりと疲れた体を引きずっていた。

 

 半ば仮眠室と化している用務員室に向かう道すがら、見慣れない小柄なウマ娘が頭を抱えているのに出くわした。

 もう授業も始まっている時間帯である。どうしたのか、親切心から話しかけると「道に迷った~!」と涙目ながらに声を上げる。中央トレセン学園は広い、兎にも角にも広すぎる。2キロメートルを超えるトラックコースを幾つも敷設しており、合計で2000人程度のウマ娘を抱えているのだから当然といえば当然の話ではある。その為、中央トレセン学園に初めて足を運んだ時、道に迷う者が続出する。

 こうやって道を教えるのも一度や二度じゃなかった。

 

「おじさん、ありがとう! それじゃ、ボク、急いでいかなきゃ!」

 

 そう言うと彼女は大きく手を振って、駆け出してしまった。

 校内は走るの禁止、と止める間もなく姿を消す。相変わらず、ウマ娘というのは脚が早い。

 元が馬ということを考えれば、当然といえば当然の話。

 

 それよりも彼女が例の転校してきたウマ娘のようだ。

 トウカイテイオーに似た姿だが、後ろ髪はまとめておらず、額の星は満月のようにまん丸であった。

 どちらかといえば、小柄な身体付きは母父の影響から来ているようだ。

 

 恐らくだが、彼女の名前はハマノロマンス。

 父トウカイテイオー、母父タマモクロス。パーソロンのS3×M5のクロス。牡馬だ。

 笠松競馬から中央に殴り込んできた地方の刺客。

 

 トレードマークの額の満月から、お月見さん、の愛称で知られている。

 彼が競馬場に姿を現した時、今日も額の月が綺麗ですね。とSNSなんかでコメントを打つのがファンの間ではお決まりだった。

 ブランディッシュと共に混迷を極めた競馬界を盛り立てた一頭である。

 

 

「パーソロンです」

 

 これは回顧録に記載されていた話になる。

 某大手牧場による国産血統の保護プロジェクトの煽りを受けた中堅牧場に所属する若手の一人が声高に告げた。

 

「日本の競馬界を救うのはパーソロンだっていう事は、アイルランドでも常識なんですよ」

 

 彼の目は正気を失っていた。

 その有無を言わせぬ力強い発言に「パーソロンかあ……」と牧場主が声を漏らす。

 確かに彼の馬が偉大な種牡馬であることは認める。

 

 しかし、サンデーサイレンスにトニービン、ブライアンズタイムが蔓延る今の競馬界に喧嘩を挑むには、いまいちパンチ力が足りない気もする。

 

 だが牧場主もまた競馬の浪漫を理解する側の人間だった。

「まあ、やってみるかあ!」と軽い調子で声を上げる。これには某大手牧場からの要請もあり、国産血統に配慮した配合を推進した場合はサンデーサイレンスを始めとした有力な種牡馬を優先的に種付けできるように配慮するといった裏事情もあったし、例年に比べて国産の種牡馬は種付け料が半額となっていた。

 ともあれ、その牧場主の鶴の一声も決め手となり、手元にあったタマモクロス産駒の繁殖牝馬にトウカイテイオーを付けることになった。

 

 そうして生まれたのが後にハマノロマンスと名付けられる競走馬である。

 皇帝や帝王と同じ鹿毛であり、額にまん丸の星が刻まれていた。その為、幼い頃はオツキミと呼ばれる。

 しかし脚が長く、華奢な身体付きをしている。

 その見栄えの悪さが祟ってか、なかなか買い手が付かなかった。

 

 そもそもの話、なんでパーソロンでインブリードしちゃったんだよ。というツッコミもあった。

 

 元より浪漫を追求した結果だ。

 牧場主は大して気に留めず、収支をゼロに持って行くことができれば十分だと考えており、知人の馬主に格安で譲り渡す。馬主もまた期待していなかった為、中央には登録せずに近場の笠松に送り込んだ。

 こうしてハマノロマンスの競馬生活は地方から始まることになった。

 

 しかし実際にレースで走らせてみると意外や意外、これがよく走るものである。

 7月の新馬戦には悠々と勝利したのを皮切りに幾つかのレースを挟んで、9月には笠松競馬場の準重賞の秋風ジュニアに。10月には名古屋競馬場の中京盃。そして今、ゴールドウィング賞に出走する。

 ここまで無敗の5戦5勝であり、同世代では敵なしの風格を漂わせていた。

 

 担当調教師には、夢があった。

 東海ダービー、強いては東海3冠の制覇である。

 ハマノロマンスであれば、それを達成する事は難しい事ではない。

 

 しかし、ハマノロマンスにとって地方は、余りにも狭すぎた。

 

 最早、地方では弱い者虐めになっている現状、ハマノロマンスはゴールドウィング賞で4バ身の差を付けて勝利する。

 ゴールした後も疲れた様子は見せず、彼が退屈そうに欠伸をしてみせたのを見て、担当調教師は愛馬を手放す決意を固めた。

 これにより前々より話題にだけは上がっていたハマノロマンスの中央入りが決定する。

 

 その時、担当調教師は競馬雑誌の隅っこに乗せられたインタビューで次のように述べている。

 

「もっと大きな舞台で(ハマノロマンスの)走る姿が見てみたくなったんですよ」

 

 これと同時に「子離れをした時よりも辛い」と、涙交じりの言葉を残していたが、

 当時の雑誌には掲載されず、後に彼自身の口から語られることになる。

 

 

 ウマ娘ハマノロマンスの目標は、無敗の東海3冠であった。

 笠松トレセン学園でお世話になったトレーナーへの恩返しの意味もあり、彼が夢見た東海ダービーの制覇。そこに駿蹄賞と岐阜金賞を加えただけの話だ。

 そして、その目標は走る前に半ば達成してしまっている。

 

 地方所属にしては圧倒的過ぎる力は他者との軋轢を生んだ。

 同世代に敵はおらず、他の地方からも遠征してくるゴールドウィング賞でも敵になる相手はいなかった。

 正直、レースで走ることに退屈している。

 

 いまいちモチベーションを保てず、トレーニングにも身の入らない日々を送る。

 転機は訪れる。公園で、はちみつ多めのタピオカドリンクを啜っている時のことだった。

 

「随分とつまらなさそうにしているね」

 

 不意に声を掛けたのがトウカイテイオーだ。

 彼女は、ひと目見た時からハマノロマンスの素質を見抜いていた。

 地方に燻らせておくにはもったいない、と近付いて接触を図ったのだ。

 

 ハマノロマンスには夢がある事を知っていた。

 無敗の東海3冠。それは度々地方紙のインタビューでも彼女が言っている事だった。

 トウカイテイオー自身、夢にかける想いは理解できているつもりだ。

 

 それが本心であれば、中央に来るのはクラシックの時期を終えた後でもよかった。

 なんなら地方に所属したままでも構わない。

 中央という大きな舞台で走る彼女が、どうしても見てみたいと思ったのだ。

 

 しかし今、彼女は退屈し切っている。

 だから手を差し伸べる。

 無邪気に、無責任に、彼女は提案する。

 

「中央には、君では勝てないようなウマ娘がごまんといるよ?」

 

 その言葉は、呪いのようにハマノロマンスの心にこびりついた。

 

 翌年、彼女は全てを投げ捨てて中央に移籍する。

 ハマノロマンスの特筆すべきは、その闘争心にある。トウカイテイオー、タマモクロスの両者が持つ最も強い部分を、彼女は継承していた。




馬名:ハマノロマンス 性別:牡 毛並:鹿毛
父:トウカイテイオー 母父:タマモクロス。
クロス:パーソロンの3×5、ノーザンダンサーの5×5

 ハマノロマンスの母は、父タマモクロス、父母ノーザンテースト。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。