馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

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[2]1月3週:中山:京成杯(GⅢ)

 チームカノープスに新たなウマ娘が加入したと云う。

 その名はアクセルターボ、世にも珍しいツインターボ産駒のウマ娘だ。

 今はカノープスの一員として、トレーニングに打ち込んでいる姿を見ることができる。

 これはまあ、トレセン学園に所属する者の特権な訳だが。

 

 父はツインターボ、母父にマチカネタンホイザ。

 母はノーザンダンサーの奇跡の血量を達成する為かリファールの血が入っており、

 その血統はノーザンダンサーの4×4×5、リファールの3×4のクロスとなっている。

 この良血の繁殖牝馬を、どうしてツインターボと付けたのか……

 リファールの奇跡の血量になっているのは、おそらく、そこを狙ったのだと考えられる。

 それ以外に考えれない。

 翌年キングヘイローを付けていた辺り、代替品だったのかも知れない。

 ちなみに、その産駒は活躍しなかった。

 

 さておき、

 色々な意味でお騒がせな二頭を両親に持っている事もあり、

 彼の競走馬は様々な意味で期待されていたが、

 多種多様な意味合いで期待外れな競走馬だったと後世では評価されている。

 

 ウマ娘としての彼女は、おっとりとした雰囲気を持っている。

 性格的には父ツインターボよりも母父マチカネタンホイザに似ているのかも知れない。

 とはいえタンホイザのように何処か、大人びている訳でもなかった。

 

 見た目はツインターボのように小柄であり、食もあまり進まない様子だ。

 体質的には、ツインターボに似ていたのかも知れない。

 

 これを前情報なしに話を聞いていれば、個性派としては物足りない。と思われるかもしれないが、そんなことはない。彼女がチームカノープスに所属している事から分かるように、彼らに負けず劣らずの個性派の一頭である。

 

 そんなアクセルターボが世間的に知られるようになったのは、

 1月第3週の中山競馬場。

 3歳最初の重賞レース、京成杯(GⅢ)であった。

 

 

 アクセルターボは、父のツインターボとは違ってゲートを苦にしなかった。

 速度が乗るまでに時間が掛かるところは父に似ていたが、彼が父と似ていなかった点は度胸の強さにある。

 

 彼が2歳の時、10月に開催された新馬戦。

 綺麗にスタートを切ったアクセルターボ、ハナを切って先頭に立った。

 そんな彼の姿にツインターボを幻視しない競馬ファンはいなかったはずだ。

 しかしアクセルターボは、ゆるゆると速度を落として中団の位置まで下がってしまった。

 

 まあ、如何に彼の直仔とはいえ、あのような玉砕戦法を取れる競走馬なんてそうそういない。 

 ツインターボは、あの走りしか出来なかったからツインターボなのであり、本気で勝利したい競走馬に大逃げなんてさせるはずがなかった。

 それでも、それが正しいと分かっていても、握り締めた単勝100円の馬券に溜息を零す。

 

 ツインターボ産駒の競走馬が走るという話を聞いたこともないし、常識的に考えてツインターボの産駒が走るとは思えない。

 精々、記念に馬券100円分を購入するのが関の山だ。いつものように本命のSS産駒の馬券を購入していたのだが、第3コーナーに入った時、アクセルターボの姿を見失ったんだ。おそらく馬群に囲まれて、すっぽりと隠れてしまったんだ。これがツインターボだったらもう走る気をなくして、ずるずると後退していくしかない。しかし最後の直線に入った後、するりと馬群をすり抜けて先頭に立ったんだよ。

 あとで動画を見直してみると、まるでアメフトのように左右に身体を振って、前を走る大柄な競走馬を躱しながら先頭に出たんだ。

 

 マチカネタンホイザは、パドック映えをする身体付きをしていたと云う。

 アクセルターボのパドックは、全然、見栄えがしないんだよ。小さな体をより小さく見せるように体を縮こませるんだ。

 でも、最後の直線に差し掛かった後、アクセルターボの馬体は輝きを放つんだ。

 

 なんというか、こう……ピカッとね。これはもう実際に彼の走りを見ないと分からないと思う。

 

 それは、その後のレースでも変わらない。

 新馬戦は1馬身差の勝利、アクセルターボの陣営も彼の実力を信じられなかったんだろうな。

 続く条件戦でも、彼はパドックでは見すぼらしかったし、最後の直線でピカッと輝いたかと思えば、するりと先頭に抜け出すんだ。

 先頭に立った後は、力を抜いちゃう癖があったようで突き放す真似をせず、1馬身で勝利する。

 彼は、あまり評判は良くなかった。フロックだとも言われていた。

 

 朝日杯FSには回避し、京成杯(GⅢ)に出走登録をされていた。

 

 人気は新馬戦で5番人気、条件戦では7番人気。京成杯でも6番人気と奮わなかったね。

 でも、これはしめたって思ったよ。きっと、それまでの彼のレースを実際に見てきた奴は皆、同じことを思ったんじゃないかな。

 俺はアクセルターボの単勝に3000円をぶち込んでやったよ。

 

 いつものようにパドックでは見すぼらしい見た目、でも俺達は分かっていたからね。

 あれは擬態だってね。アクセルターボは期待外れなんだよ。ツインターボ産駒に期待していた全てを裏切り、パドックでも周囲にパッとしないと思わせておいて馬券おじさんを幾度と泣かせてきた。実際、3歳までのアクセルターボが1番人気になった事なんて一度もなかった。

 みんなの期待を外し、京成杯でもまた同じ勝ち方をしちゃうんだよ。それはもうあっさりとね。

 

 あいつは父ツインターボとは違って、頭が良いんだ。

 ツインターボ産駒っていうだけで良い騎手が見つからなかったんだろうね。鞍上はまだ結果も出していないような新米の騎手だったんだけど──五年も経つと騎手リーディングで上位に入るようになるんだけどさ。でも当時は酷いもんさ、アクセルターボにしがみついているだけで鞭なんて打ちゃしない。アクセルターボが仕掛けたタイミングで必死になって追っていたから、まるっきり荷物って訳でもなかったんだろうけどさ。レースはアクセルターボが自分で作っていたっていう話だよ。

 ただな、レースに勝つと騎手の方から売り込みを掛けてくるもんだ。俺の方がもっと上手く乗りこなせるってね。

 

 でもアクセルターボの鞍上は、その競馬生活において一度も騎手を替えたことがないんだよ。

 ああ、そうだよ。アクセルターボも例にもれず、癖馬だったってことだ。担当の厩務員や調教助手が乗る時は嫌がったりしないんだけどさ、他の騎手がアクセルターボに乗ろうとすると嫌がるし、わざと振り落としたり、盛大に斜交してみせたり、すんなりと入っていたゲートにすら入らなくなっちゃうんだよ。元々、調子が悪い時は調教時にいくら追っても軽く流しちゃうような奴だったらしいんだけどさ。

 賢い奴だったのさ。昔、シンボリルドルフがレースを教えてくれたっていう騎手が居たけどさ。

 あれみたいなもんだったんだろうな。

 

 若手じゃなくて、もっと勝てる騎手を乗せろ。と、周りからの批判も大きかったけどさ。

 クラシック3冠が終わる頃には、なかなかのコンビになっていたよ。

 ああでも、その騎手はアクセルターボのインタビューで不思議な事を言っていたな。

 

 あれは間違いなくツインターボの息子です、ってさ。

 

 全然、タイプ違うのにさ。不思議だろ?

 

 

 アクセルターボはトラックコースの上に仰向けに倒れ込んでしまっていた。

 目はグルグルと回しており、口からは泡を吹いてしまっている。しかしチームカノープスの面々は慌てる様子はなく、ツインターボがペットボトルに入れた水を舎弟の顔にぶちまけた。がぼがぼっと声を漏らして、器用に水を飲み込んだ。

 少しすると、むくりと体を起こす。

 

「師匠、ありがと……」

「えっと、そろそろ休憩した方が良いんじゃない?」

「もうちょっとだけ」

「……あ、ターボも一緒に走る!」

 

 手で目元を拭い取った後、休憩も程々にトラックコースを走り始めた。

 それも全力で、体力なんて気にせず、しかし、疲弊していても綺麗な走行フォームを保っている。

 アクセルターボは放っておくと、何時までも走り続けるウマ娘であった。

 

 それも体力が底を尽きるまで、誰に言われるまでもなく、自らにハードトレーニングを課し続ける。

 

 トラックコースを走らせると最初から最後まで全力疾走、そのトレーニングに付いて行けるのはツインターボだけだった。

 アクセルターボとツインターボが併走すると最後は決まって根性勝負になり、二人共にゴールを抜ける頃には精も根も尽き果てるのだ。

 しかし、少し休憩をした後、アクセルターボは再び同じことを繰り返す。

 そんな彼女にツインターボは二度か、三度に一度、付き合うのが精いっぱいだった。

 

 坂路だって全力であり、彼女がトレーニングで手を抜くことは一度だってない。

 

 彼女は自覚していた。自分には、周りがいう程の才能はない事を。

 それを補う為には過酷なトレーニングが必要であり、周りと同じことをしていては勝てない事も自覚していた。

 だから彼女は誰に言われるまでもなく、常軌を逸したトレーニングを自らに課し続けた。

 

「張り切るのは良いんだけどさ、怪我をしたら元も子もないよね?」

「ええ、ですから、フォームが崩れるようになったら無理やりにでも止めましょう」

「マッサージも念入りにしてあげないとね……ったく、周りに迷惑を掛けるのは師弟で変わらないね~」

 

 くいっと眼鏡を上げるイクノディクタスに溜息を零すナイスネイチャ、マチカネタンホイザはアクセルターボの様子をハラハラと見守っている。

 

 これはレースでは絶対に見せない姿だ。

 過酷なトレーニングを積んでいるせいか、練習時のタイムが伸びる事はほとんどない。

 トレーニングを緩める時はレースが間近に迫った時、調整の期間に入る時だけだった。

 

 ナイスネイチャは語る。ハングリー精神ってあの子の為にある言葉だよね、と。

 

 彼女はレースに勝利をする為に、何が必要なのか考え続けた。

 小賢しい、という批判の声に背を向けて、その瞳は勝利だけを見つめ続けている。

 その勝利に全力疾走する不器用な姿は、確かにツインターボとよく似ていた。

 

 

 




馬名:アクセルターボ 性別:牡 毛並:鹿毛
父:ツインターボ 母父:マチカネタンホイザ
クロス:ノーザンダンサーの4×4×5、リファールの3×4

 アクセルターボの母は、父マチカネタンホイザ、母父リイフォー。
 キングヘイローと種付けする予定があったが、諸事情で種付けすることができなくなってしまった。種付けシーズンも終わり際の話であり、慌てた牧場長は他に声を掛けたが、何処も種付けを締め切ってしまっている。
 そうしている内に種付けシーズンも終えてしまったのだ。

 遊ばせていくのも勿体ない。という事で暇をしていたツインターボと種付けした。

 これは当初の種付け方針にあった、リファールの奇跡の血量。というだけで選ばれている。
 牧場長としてもツインターボは好きな競走馬だ。
 金が関わる話なので、積極的に種付けをしようとは思わないが。
 仮にもリファールなので、そこに一縷の望みを託し、期待しない程度に期待することにした。

 実際に産まれてきた仔はツインターボと同じ体質を持っていた。
 食が細くて非常に小柄、しかし非常に強いバネを持っている。気質はマチカネタンホイザに似ていたのか、他馬が周りにいても動じる事はなかった。
 それでいて少し惚けた一面もあったという。

 調教時はレース同然の全力疾走を繰り返す為、彼の調教は抑え込むので精一杯だったという話がある。

 彼の活躍によってツインターボ産駒は少しだけ増えたが、彼以外に活躍した産駒はいない。
 ツインターボの後継種牡馬というパワーワードが生まれもしたが、アクセルターボ産駒で活躍した競走馬はなかった。
 結局、彼は血統や才能に頼らず、努力によって成り上がった競走馬だったという事が後世の見解にある。

 それでもまあ、ツインターボとマチカネタンホイザという色眼鏡を外せば、なかなかの良血な訳だが。
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